12の関門1〜空高く掲げよ〜

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月07日〜04月12日

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

 ドレスタットの荒くれ者どもは常に向上心が熱血していた。
 その為、とある自警団から新規募集が出た時、100名に近い、大人数が集まったのは無理もない。
 しかし、そこで困ったのは自警団である。何しろ募集人員は5名だったのだから。
 おまけにファイターなどだけが来るだろうとたかを括っていたら、武闘家に吟遊詩人と、様々なバラエティ溢れる面々が自警団長の家の前で列を作る。事実上、冒険者ギルドで見られる全てのクラスが揃ったのだ。
 ここで自警団長の英断で、冒険者ギルドに選抜を依頼した。
「で、どうやって選抜するんだい」
 冒険者ギルドのいかついオヤジが、その自警団長に尋ねる。
 荒くれ者を束ねる割には、自警団長は丁寧な物腰である。
「は、潮次第ですが、ドレスタットから1日いった小島が使えますので、そこを舞台にして、弱い候補生を振るい落としていただければ‥‥罠などは何を用いても構いませんが、人死にが出ない様に注意を払って頂きたい。刃のついた得物は遠慮して頂きたく──武具はこちらで準備しますので、クラブ類からお好きなものを」
「罠なども良いなら、毒とかは?」
「‥‥いきなり、殺す様な毒は控えて頂きたい。コボルトの毒の様に、威力を上げるような毒ならば、結構です。しかし、できれば麻痺毒程度で止めて頂きたい」
「で、舞台の広さはどれくらい何だい? まさか、100メートル四方なんて言わないよな?」
「500メートル四方といった所でしょう。それは、その時に、舞台を維持しておられる方に、全ての裁量を任せます。とりあえず、1日に選抜を3回程度行います」
「えらくハードスケジュールだな。で、肝心な事を聞いていないような気がするが、振るい落としの基準はどうするんだ? 全部の舞台で、全員を相手にするのか、まさかな?」
「いえ、ジャパンの──正確には華国かららしいですが、伝わった『干支』という12の獣を使った伝承がありますので、それを模した頭飾りをつけて頂き、それを選抜者に取られる、あるいは破壊された段階で、その選抜は終わりという事にします」
「十二支か、聞いた事があるな、じゃあ、最初の舞台はネズミとウシとトラか」
「その通りでございます」
 選抜の幕は切って落とされた。
 自警団より、試験官の正式な衣装が渡された。真鍮箔を張って伸ばされ、一見すると黄金の様に見えなくもないレザーアーマーの貸与だ。シフールからジャイアントまで幅広い体格のものが自警団の倉庫には埃を積もって着用者を待っていた。
 かくして、真鍮の魂を持った熱き兄弟達の戦いが始まる。
 だが、今回の島への渡航は、自警団の希望者の振るい落としの準備の為となる。
 戦いは更に次の渡航の時となるのだ

●今回の参加者

 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ルメリア・アドミナル(ea8594)/ オイゲン・シュタイン(eb0029

●リプレイ本文

●台風未発
「それはどうですかな?」
 リセット・マーベリック(ea7400)が打ち出した案──
「露天商さんとかを巻き込んでしまっていいですか?」
 との言葉に、自警団団長は些か含みのある言葉を返した。
「試験に悪影響が出ない範囲で稼いでもらっても、どこにも悪影響は出ないと思うのですよ」
「ええ、それは正論です。ですから、反対はしません。ただし、露天商の方々がどう思うか、それが大事でしょう」
「まあ、そうでしょう」
「話し合うのは反対はしませんから、話をしてきてはどうでしょうか?」
「異存が無ければ、そういう事で」
 荒っぽい雰囲気のするドレスタットにふさわしく、露天の客寄せの声も荒々しい。
 彼らから口づてに束ね役の所在を知ったリセットは、如何にも声の大きそうな大男の所に辿り着いた。早速話を切り出す。
「自警団の新人募集を知っていますか? そうすると説明の手間が少し省けます──」
 と切り出したリセットであったが、何とか束ね役を自警団の団長の所に向かわせるまでに、交渉を破綻無く進めた。
 だが、自警団団長との対話は上手く行かなかった。対談の後。束ね役がリセットに筋を通しに来た。
「すまんな、リセットさん、あんたの話はメリットがなさそうだ」
「え、でも100人もの客が見込めるのですよ」
「そういう見方だけじゃないっていう事だ。船の経費はこちらが出さなければ行けない。懐に余裕のある面子なら露天商などやっていないよ。次に、試験をやる度に試験を受ける人間が減っていくのだろう? これじゃ儲けは先細りするばかりだ。増えていくなら話は逆だが。それに島に水がない。これじゃ、持って行くものも増えるばかりで、余計に金がかかる」
「え、そうだったのですか?」
「あんたも聞いていないのかい? まあ、縁が無かったと思って諦めてくれ」
 遠ざかる後ろ姿に、ため息をリセットはついた。
「世の中、金銭が必要な場合な事もあるのですよ。申し訳ありませんが、諦めてください。100人を超えた人数を運ぶ船を仕立てるだけで、こちらも精一杯ですので」
 団長は静かに宣告した。
「大変そうですね。ファング・ダイモスです。自警団の試験官とは光栄です、宜しくお願いします」
 そこへ声をかける巨体。
 自称通り、ジャイアントのファング・ダイモス(ea7482)であった。
「1日目の試験とは、光栄だな、自警団の名を広める、驚くような試験を作ってみせる」

●ひき肌竹刀
 ドレスタットに住むジャパン人の名士・桃山殿の元には、『ひき肌竹刀』と呼ばれる優れた模擬刀があるという。そのことをカイザード・フォーリア(ea3693)が知ったのは、過去に桃山殿の依頼を受けた冒険者を通じてだった。話を聞くうちに、カイザートはひき肌竹刀が欲しくなり、それを借り受けられないものかと以心伝助(ea4744)に相談した。
「いや我が殴ると、ロッドでも怪我するであろうし。白粉を付けることで失格判定するなら、逆に頭とかを叩ける武器が良いのだよ」
 伝助にはかつての依頼で桃山殿と面識がある。早速、ドレスタットの屋敷に出向き、ひき肌竹刀の借り受けを願ったところ、桃山殿は快く了承した。事のついでにひき肌竹刀の実物を見せてもらった。柳の枝を束ねて布で幾重にも巻き、皮袋に詰めて作成した竹刀である。当たると痛いが、刀身がしなやかに曲がるから大怪我の心配はない。選抜試験に用いるには恰好の武具である。
「ところで、返し技が得意なカイザードさんと聞きますが、打ち分けが出来るなんて、さすがですね、あっしには真似できませんよ」
「!‥‥」
 伝助の言葉にカイザードは沈黙した。ややあって口を開く。
「自警団に必要なのは過剰な武力ではなく、付近住民との人付き合いや、情報収集をこなせる社交力。後は情報を纏める事の出来る能力と、何より大切なのは単独行動に走らず互いの弱い所を補い長所を伸ばすチームワークかね。不思議と冒険者にも当て嵌まるな」
「いやぁ、見事な見識で。で、それとひき肌竹刀がどう結びつくのかご教授頂けると嬉しいですが」
「ロッドではどんなサイズでも、確実に受験者を傷つけてしまう。それを使わないのは過剰な武力は不要という精神に通じる、と思ってくれ。トラの試練で自分が出すのは謎の探索と、そこから導き出される身内に潜む犯人の推理という所を考えている。皆に情報の出し役をやってもらってだな。試験会場は伝助とファングの作った舞台をそのまま使うがな。で、伝助はどんなネズミで試験をするつもりだ?」
「5人ひと組で、複雑な地形を使った時間制限ありの追いかけっこでして、カイザード殿の様な、知謀の限りを使うようなものではありませんで」
「? ひとつ聞きたいが、兜を壊されるなり、奪われた時点で、残りの受験者は合格となるのであろう? 壊された時点で試験は終了となるのではないか?」
「運も実力の内でしょうかねえ? ともあれ、鳴子を巡らすロープ代で散財しましたわ。まあ、旦那の仰る事にも一理ありで、あっしは少し考えを変えた方がいいでしょうかね?」
「それは伝助の考え一つだろう」
 カイザートも自分の失念に些か打ちのめされていた。
 更にルメリアに、歪んだジャパン風味、趣味、あるいは『エキゾチック』なデザイン満載の自分のデザインした、試験官の小屋のデザインを渡してプライドの回復を図ろうとした。
 流石に貴族としての嗜みを十分以上に持つためデザインの方向性はどうあれ、完成度そのものは高かったが、渡されたルメリアは尋ねた。
「島で作るものの地図を、ドレスタットに残る者に渡してどうしろ、というのでしょうか?」
 その言葉が如何なる威力を示したのかは、余りのことなので特に秘す。

●正月や(以下略)
 円巴(ea3738)は自分の作る『冥途神社』の為の木材や日干し煉瓦が順調に自警団の船に運び込まれるのを見ながら、ルメリアから聞いたカイザードの間違っているジャパン観に少々頭を痛めていた。
(まったく、ビザンチンではジャパンをどういう国だと思っているのだ)
 ビザンチンとは月道や直接の交易が無い為、文化交流が疎遠なのは仕方がないのだろう。しかし、自分達の様な、歴としたジャパン人を見て、その様なデザインをされるのは癪である。
「正しいジャパン観を教育する必要があるな」
 エリー・エル(ea5970)の作ったメイド服を着込んだ巴は、腕を組みながら、決意するのであった。
 一方、エリーはというと。
「エリーよ、どこでほっつき歩いているのじゃ。結婚はしたのか?」
「あぁん、お父さん、うるさいよぉん。私もぉ、積極的にアピールしてるんだからぁん」
 老いて尚、全能の賢者とも評されたジョウ・エル(ea6151)は久々に言葉を交わした、養女であるエリーに傷つけられながらも、自警団の施設に趣き、試練はまだかと、詰め寄る受験者が混乱しないように、看板造りに精を出すのであった。知られている各国語で誘導する看板であったが、経費は出ない為、自腹を切る事となる。
 もっとも世間一般の識字率が高くない上、試験を受ける人間は程度の差はあれゲルマン語が喋れるので、あまり報われない仕事であるのだが。

●島
 リセットがスクロールで陽精霊に伺いを立てた通り、出航当日は問題なく出航できる天候であった。しかも潮の流れに上手く乗る事が出来て、道程を大幅に短縮でき、1日も掛からずに島にたどり着いた。
 純粋なジャパン人ではない志士、御蔵忠司(ea0901)はその広さと不毛さに思わず目を細めた。だが複雑に入り組んだ岩々、これは自分の試練に役に立つかも知れないと思い直す。
 一方。
「これでは薬草は採れそうにない‥‥」
 ジョウはエリーからの依頼を果たせそうにないのを知って、80近くに見える厳格な顔を失望に歪める。
 食料がないので、自警団から食料を分けて貰えないか交渉した所、スクロール1本と交換という甚だ屈辱的な条件を呑まされ、意気消沈していた所へ追い打ちである。
「よし、行くぞ」
 アレクシアス・フェザント(ea1565)は船が安定し、ボートを下ろす段階になると俄然とやる気を見せて、島に一番乗りを果たす。そのままの勢いで、島の地勢を見て取り、一同の建造物に適した地形を確認に走る。生水が無い以上、普通の生物の襲撃という心配はなく、比較的安心して動き回れる。
 続くはアルス・マグナ(ea1736)、薬草などを探すが見つからず、殆ど岩だらけの複雑に入り組んだ迷宮とも呼べるような場所である。そして、今回の最も重大な大仕事。アレクシアスらが次々と生乾きの日干し煉瓦を積み上げて、建物の形状を作る端から、ストーンの魔法で石化させて、確固たる建造物へと変えていく。アルスの魔力が尽きるまで。
「はぁ〜、かったるいな〜」
 トレードマークの決めぜりふだが、今回ばかりは掛け値無し。
(「ここは地獄だ‥‥」)
 というのが本音であった。
「まぁ、次回以降用に下見して資料でも残しておくか。それなら疲労しきっていても出来る」
 と、重い腰を上げた。見ると、シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)も地図を作ろうと準備している。
「少年。また地図を作るのか?」
「うん、空中と地上の両方から見た地図を。まあ、売れるとは思えないけどね」
「地上の地図はこちらに任せて、空中からの地図に専念しないか?」
「‥‥その方が効率よさそうだね。他にも罠作りの手伝いとかもあるから、よろしく頼むね」
 その前にとアルスは名簿を調べた。バードとレンジャーが、参加者の中ではかなり多く感じられる。
「遠距離戦は少々危険かもしれないな」

 その傍らで、冥途神社やそれぞれの試験場の入口を飾る鳥居が組み上げられていく。
「伝助さん、壁の位置はこんなもんかな?」
 伝助の舞台の設営を手伝うジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)が伝助に尋ねる。
「あ、それで上等でやす。後はくじ引き用の石をお願いします。あっしはロープと鳴子張りに回るんで」
「なるほど」
 と、ナイフでくじ引き用の、1から20までの番号を掘った石を5組彫り上げようとるジェンナーロ。最初は鼻歌交じりでやっていたが、鳴子が何度か鳴る度に焦りが少しづつ大きくなっていく。
「むむむっ‥‥後いくつ作らなきゃいけないんだ。燃えろおいらのオーラ‥‥騎士でも武闘家でも侍でもないから、無理か。とにかく、燃えろ、おいらの何とか!」
 伝助が最後に見た時にはジェンナーロは真っ白に燃え尽きていた。
 さようならジェンナーロ、君の事は忘れない。さようなら、そしてありがとう(嘘)。
 尚、受験者待機スペースと治療スペースはまんま船の中である。居住性は最悪であるが、100人もの人間を収納できる建物を一朝一夕に建てられるものではない。

●罠
「良し」
 ファングは自分の担当するウシの鳥居が、猛々しい物となっているのを見て満足した。
 自分の設営したスペースは半分は受験者が罠をしかける側、逆に残り半分はファングが罠をしかける方とした。
 だが、そこで自警団の方から、待ったが入った。
 ファングの試験の内容は、班制、制限時間有りの攻防戦。短時間クリアを目指す為に、強行突破を図るか、必勝を期す為に誘い込みを図るといった戦略を講じる試験だ。
 受験者側のエリアでは、試験官の攻撃で仲間が一人でも失格に為ったら、連帯責任で全員失格。試験官エリアでは、仲間が倒されても失格には為らないが、減点有り。その減点というのがひとつのポイントになった。
 この試験の問題は試験官が兜を維持できるか否か、その一点に集約されており、減点などというものに何の意味があるのか? 他の試験にも持ち越すのなら、自警団を含む全員が納得したポイント制にしなければならない。その為、減点というルールは明確なものを打ち出す様、ファングは釘を差される。加えて、ファング自身の猟師としての技量が未熟な為、罠の大半が易々と看破されるレベルである事を指摘された。
「まだまだだな」
「いや、ファイターなら仕方ないのでは?」
 アルフレッドも手伝いたいのは山々だが、いかんせんシフールで年少という悪条件故、、ロープを張る事すら困難であった。罠を張るポイントなどの技術指導に留まったが、肝心のファングが素人に毛の生えたレベルであり、思うようには出来なかったのだ。
 行きの船の中で、装備すると動けなくなる真鍮の鎧はどうにかならないものかと交渉に臨んだ彼であったが、鎧は試験官の識別のためであり、試験場に置いてあれば良いと言う所で落ち着いた。同じ心配をしていたジョウは、後に話を聞かされ安堵したという。
 逆に、ダーツの使用には難を示され、スリングの石を貸すからそれでどうにかしてくれ、という方向性で落ち着く。
 一行はリセットのスクロールで天候を読み、ギリギリまで粘って舞台の設営を完了し、ドレスタットに帰還した。

●真鍮鎧
 自警団の詰め所に戻ると一同の装備する十二の真鍮箔の鎧がお披露目された。
 小声で──。
「あの真鍮剥がしたいでやすね」
 とは伝助の弁。
 喜んで、文字通り飛びつき、タツの鎧から兜を取り上げ、被ったアルフレッドは満面の笑みを浮かべ名乗りを上げる。
「辰の番人、アルフレッド・アーツ見参! とかね」
 と、そこで空中でポーズを決めた所で、バランスを崩して頭から兜を落としてしまった。
「わーっ、わーっ、ご免なさい」
 見事に髭の取れた兜だが、まあ本番までには修理は出来るであろう。
 些かの波乱は含んでいるものの試験への準備はこうして整えられた。次は試験本番である。