●リプレイ本文
●風雲? 以心城?
「皆! 自警団員になりたいかぁ〜!」
「お〜っ!」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)の言葉に島に上陸した、百人近い志望者が声をあげる。
ともあれ、ヴラド少年の出で立ちはヴァイキングヘルムに、見事なグレートマスカレード、派手派手しいローブに、両手で持たなければならない程の巨大なサイズ。
それを振り上げ、次の掴みを放り出す。
「罰ゲームは怖くないかぁ〜!」
「お〜〜?」
尻下がりにトーンが下がっていく、志願者の声に委細構わず。
「勇士諸君、あれが最初の関門、子の守護者なのだ!」
と、サイズで示した先には恐縮しきった体の以心伝助(ea4744)が座布団の上でちょこんと正座していた。
「どうも、お目汚ししやしやす。ジャパンの以心伝助でやんす」
紅毛碧眼というジャパン人らしからぬ、風体の彼がぺぺんと頭を扇子で叩きながら、自分の試験内容を説明する。
「ええ、ルールでやんすけど、『壊してはいけない』盗品を泥棒ごと素早く確保することでしてね。制限時間は12分間。開始6分後と終了時にジェンナーロさんに鐘を鳴らして貰いやす。本当は5分としたかったんでやんすけど、10分間の砂時計で半分落ちきった時間というのはちょっと目では判りにくいざんしょ?」
ここで、脱力感まじりの爆笑が受験者からわき上がる。
「まあ、そういう訳で、6分間という呪文で計りやすい所で、時間を切る事にしやした。で、失格条件でやすけどね、時間切れはチーム全員でやすね。あと、打ち所が悪くて、あっしに倒されたり、他にも色々と何らかの理由で行動不能になったら該当者のみ、失格とさせていただきやす。うらまないくだせえ」
と、試験場に向かう振りをして、唐突にきびすを返す伝助。
「おっと、忘れてやした。20チームを分けるのは、くじ引きでやんす。ヴラドの若旦那、くじ引きを」
「頼まれたのだ。諸君、この箱の中の石には1から20までの数字が書かれた石が入っているのだ。試験は石の番号が同じ面子と即席でパーティーを組んで受験して貰うのだ。では、並ぶのだ」
即座に箱の前に100人近い列が出来た。
「こらこら、諸君慌てるな、なのだ」
その列の中に紛れて、竹刀と楯を持ったカイザード・フォーリア(ea3693)もいた。ドレスタットに響き渡る名声を持つ彼を見て、大半の人間が自分の勝率が2割下がった事を思い知るのだった。
「怪しいな、抜き打ち試験じゃないか」
「でも、地図屋ではトラの試験はジャイアントの様に大きいって言ってたから、違うだろう? どう見たって、ジャイアントというには頭ひとつ以上小さいぞ」
「それも──そうだな‥‥あれがライバルじゃ、勝ち目はないな。しかし、騎士が自警団員になるとは‥‥な」
「自由騎士ってやつだろう?」
「侍や志士だっているし、騎士だって他に居ない訳じゃないしな」
等々の風評を聞きながら、左右で色の違う双眸で見下ろしつつ、カイザードは自分の流した情報に多少の問題がある事を感づき始めた。
(いかん、これではアルフレッドが悪人になってしまう)
この島の地図を売りさばいているシフールの少年、アルフレッド・アーツ(ea2100)が、地図を買った客にだけ教えた情報として、教えたトラの試験の試験官役の体格に関する情報は、いざ実際にカイザードがジャイアントなどとならぶと、如何にも見劣りする身長が仇となっていた。
「まいったな、これじゃ僕が地図を買ったお客さんに、わざわざ嘘を教えた事になってしまう。これで試験が台無しになったら、どうしよう」
しかし、組分けの石は確実に減り続け、幾つか余った段階で列は途切れた。
当然、幾組か人数が5人に満たないパーティーが成立したが、運も実力の内という事で、ここは泣いて貰う事にした。
「遅い、遅いでやんす、それでは自警団員はむりでやんす」
全身をバードのムーンアローで傷だらけにされながらも、志願者に夾撃を誘わせたがる、複雑な岩場を走り抜けようとするが、シフール等の偵察陣と地図による的確な指示があったチームは無事勝利した。
「遠距離走でも覚えておくべきだったやんすね──参りやした〜‥‥でも、一人だけで勝ったのでは無い事を忘れないでくださいね」
勝者にかける声に余裕が感じられる伝助の声。
だが、当然、そんな教科書に書いたようなチームではなく、ジャイアントを前面に押し立てて、兜を割りに来る脳みそが筋肉で出来たようなチームも存在する。大半が武器の重さに振り回され、追いつけなかったが、中にはジャパンの侍らしく、ピンクのオーラを吹き出し、オーラマックスを全開で突撃してくる面子もいた。
無論、そんな突出してくる相手に伝助は小柄を同時投げして、動きを鈍らせる。それでも肉薄してくる執拗な相手には容赦なく、左右同時に手刀を急所に打ち込み、失神させようとするが、相手のジャイアントの筋力と精神力でしのがれ、嫌な音と共にネズミの兜を叩き割られてしまった。
「討ち取ったり!」
誇らしげに叫んだ後、オーラマックスの反動で吐血するジャイアント。
「ほらほら、無理はよくないっしょ『窮鼠猫を噛む』とも申します。追い詰めても油断大敵っす。自分の敵は自分っすよ。でも、これはイエローカードっす。今度、重要な宝物を奪還するような事件が自警団で持ち込まれた時は、良く考えて行動してくださいっす。次はないものと考えてくださいよ」
しかし、重傷を受けた反動か、ジャイアントの目はイッていた。
「運ぶのを手伝うのだ」
時間の合図の鐘を鳴らしていたジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)などが総掛かりで、そのジャイアントを運び出す。
「やれやれ、30人しか減らせなかったすか、これは似たような試験は、兜の破壊は絶対却下にしないと、後のグループ程有利になりやすね」
減った30人は冥途神社へと歩いていく。
カイザードは順番上、戦わずに済んだ事を安堵しつつ、ヴラドの案内するウシの試練へと向かう。
●〜の旅の一里塚
「く、またこの爺さんか!」
挑戦者の顔を見るや、一方を指差して見せるジョウ・エル(ea6151)。だが、それに従って進めば断崖絶壁に出たり、元来た場所に戻ってしまったり。要するに適当なのだ。怒り狂って攻撃に出た者は、それがアッシュエージェンシーによって作られたものだと気付く。
「ああ、やっちゃったか。残念ながら失格だ」
なんだと!? といきり立つ志願者を軽く撫でて大人しくなってもらうと、アルス・マグナ(ea1736)は伸びた彼を担いで冥途神社に向かう。散策気分で島を巡り、あちこちでぶっ倒れている者、未練たっぷりの脱落者を見つけては神社に連れて行く。神社は早くも脱落したダメでいっぱいだった。
「人生終わったわけじゃないんだからぁ、元気だしてぇん」
振る舞いの食事を準備しながら、脱落者達を慰めるエリー・エル(ea5970)。怪我人には御蔵忠司(ea0901)が応急手当も行っている。至れり尽くせりだが、彼らはすっかり落ち込んで、神社の周辺は心なしか、空気が淀んで見えた。
「さて、そろそろ迎えの船が着く頃ですか。失格した方はこちらへどうぞ」
あくまで穏やかに促した忠司だったが、失格という言葉が彼らのプライドを甚く傷つけてしまった様だ。
「もう帰れだと!? 俺達はこの珍妙な建物を見物しに来た訳じゃないぞ、ふざけるな! こんな試験で何が分かるものか、見てろ、実戦で俺達の実力を見せてやる!」
そうだそうだ! と同調する者が現れて、境内は騒然とした空気になった。
「(この神社が珍妙という点に関しては、同意しないでもない‥‥)」
黙々とエリーを手伝いながら、関係ないところで同意する円巴(ea3738)。
「そうなりゃ、まずは腹ごしらえだ!」
「そんな物騒なこと言わずに、しっかり食べて気を落ち着けてくださいよぉん」
騒ぎはともかく、用意した食事に人が群がってエリーはご満悦だ。その様子を木陰からそっと見守り、花嫁修業とは感心な、と思わず目頭を押さえるジョウ。ただ、足りない水をピュアリファイした海水で補った彼女の料理は、凄まじくしょっぱ苦かった。濃厚なにがり成分の成せる業か、心なしかお腹の方にも影響が。冥府に落ちた人間は死者の世界の食べ物を口にする事で、現世に戻れぬ体になる‥‥。そんな故郷の神話を、巴は思い出した。
「く、くそ、毒を盛りやがったな!?」
「私のお料理が、毒!? ひどい‥‥」
竹刀の当て身を食らってぶっ倒れる男。更に、怒りの表情でロッドを握り締めたジョウが、彼らの背後に。鈍い音が辺りに響く。
「運も、実力も、用心深さも足りなかったという事だ。今日は大人しく帰れ」
巴に諭されて、彼らはがっくりと肩を落とした。
「人の成長に挫折は不可欠、か」
のんびりと釣り糸を垂れながら、可笑しげに彼らを見遣るアルス。
冥途に落ちた者、現状で30と余名。
●迷える猛牛
鳥居に猛牛をあしらったデザインをくぐると、名誉ある任務に誇り高げなファング・ダイモス(ea7482)の巨体が現れる。
「では、ここではファング殿に試験の説明をして貰うのだ」
ヴラドが下がると、ファングが朗々たる声で、一同に試験の説明を始める。
「試験は、5人までの班制、制限時間を日が沈むまでとしての攻防戦」
と、なるとトラの試験は夜間になるのか? と受験者はざわめき出す。
「なお、この試験会場はふたつに区切って、自分のいる方を試験官サイド、皆さんのいる方を志願者サイドとします。
日没までの時間をどう使うかは皆さんの自由です。
しかし──『仲間に無茶な突撃を敢行させての、騙し討ちや、捨石』『無謀な突撃、抜け駆けによる、班全体への損害』『船酔いなどの体質的不利』は減点有りを、考えています。
時間は、砂時計と魔法による先程の会場の鐘の音で計り、1度目の音が鳴ったら途中で切り上げ休憩し、試験に備えます。
志願者のエリアでは、仲間が一人でも失格に為ったら、全員失格。 試験官エリアでは、仲間が倒されても全員失格には為らない。
制限時間終了か、急所に染料を着けられたら失格。
合格は、試験官エリアの真鍮の鎧を置いてある場所より先に到達か、試験官の急所に染料を着ける事」
以上を宣告すると、ファングは試験官側エリアに入り、複雑な岩模様に姿を隠す振りをして、いつでも迎撃できるポジションに立つ。
しかし、飛んでいくシフール達が羽根をはためかせながら、ふたつのエリアの間境を超えていく。
アルフレッドは彼らの上空で旋回し、同時に幾色もの淡い光が受験者側のエリアで、発生するのを確認する。
しかし、こうした駆け引きでやはり強かったのはシフールであった。地図と照合しつつ、以前と違う場所を洗い出しつつ、会場中央付近で、ムーンアローを発動させ、兜の場所を洗い出すと、そこへ向かって一直線に突き進む。
シフールの飛行速度には、ファングでも追いつけない。その一方で、後方を扼する様に、志願者サイドから5人ひと組のチームが姿をちらつかせる。
ひとりのハーフエルフのファイターがこの戦いの高揚に身を任せて狂化した。
戦闘マシーンと化し、真っ直ぐファング目がけて突き進む。
地形故、全員同時に相手にするという訳には行かなくなったが、実戦ならともかく、ファングの動きを『試験』でなら封じるのは、それで十分だった。
10人を切って落とす。カイザードも本気で、竹刀を交えなければ‥‥と向き合おうとした瞬間。
ファングの隠した兜をシフール達が持ち上げて、勝利の証とする。
「シフール相手の戦術も練っておいた方が良いって、皆に伝えておかないと」
アルフレッドが呟いた。
スネアも壁もシフール達の前では無力に等しい。
迷宮を十全に生かし切れなかった痛みがファングを襲う。
●夜は終わった
「勇士諸君! 犯人を捕まえるのだ、自警団の名に懸けて!」
ヴラドの声が高々と響き渡った後、トラの試験は始まった。
そして、試験は終わった。
合格者はゼロである。
トラの試験官カイザードの不意打ちによる攻撃の数々は夜の闇と相まった事と、ジョウの傀儡を破壊しても不合格などの条件など、あまりにも試験が難解過ぎたのだ。
試験前に志願者達に前提条件として与えられた情報と規則は、以下の通り。
犯人役の試験官は既に島内に入り込んでいる。
鎧と兜は付けていない。
規則:
試験官以外の人を打ったら反則として失格。
試験官に打たれたら、死亡と看做して失格。
死亡した人間から情報を聞きだすのは失格。
試験終了時刻に、各人が試験会場内にいる誰が試験官かを推測し、当っていなければ失格。当れば合格。
トラの兜確保で、失格になっていない志願者全員が合格。
試験官以外を打った場合の失格理由は「誤認による殺傷」
試験官の攻撃は一撃で倒せるものとしておく。
試験官カイザードは般若の面を着け、フード付きマントを着込み、同じ風体の暁の騎士、アレクシアス・フェザント(ea1565)と入れ替わり立ち替わり襲撃をかけ、触れただけで死亡扱いになる竹刀を縦横に振るった。シフール達も機動性を活かす機会よりも、試験終了後の試験官当てでの合格にかけたが、最初にカイザードがジャイアント並の体格でない=犯人ではないという前提が組まれていた。
更にルール破りで、兜は冥途神社に置かれていた。ルールの上では試験場内に置かれていなければならない筈である。
中には当たる事を期待して、ムーンアローで兜を狙った者もいたが、冥途神社という範囲外にある為、跳ね返ってきた。
全てはカイザードが試験終了で公開した兜の位置で、周囲の失格者から一斉にブーイングが上がった事から始まった。
島から帰り、自警団長は、事の顛末を聞くと、出題自体が不適切であるとした上で、このトラの試験そのものを無効とし、残っていた志願者全員を合格とした。更に今回の試験が職務を全うしていないとして、給料の支払いを拒否。
「せめて、最後の試験なら話し合いの余地もあったのですが‥‥」
こうして、合格者は47人となった。次のタツ、ミ、ウの試験に挑むのはこの面々である。
自警団の募集枠は5人であった。