12の関門最終章〜目指す依頼の正否は?

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月22日

リプレイ公開日:2005年10月23日

●オープニング

「次回は戌と亥の試験の二本立てでお願いします」
 自警団団長は慇懃無礼な口調で冒険者ギルドの受付に切り出した。
「さすがに今まで冒険者の皆さんの持ち出しが多かったとはいえ、こちらで船を仕立てるなどで、こちらの出費も莫迦にならないものがあります。そこで今度の依頼でまとめて試験を処理していただきたいと思いまして」
「出来ますかね?」
 受付は切り返すが、それをいなす自警団団長。
「彼らに出来なければ、出来るものはない、と私は信じております」
「そこまで信頼して頂けるとは幸いです」
「とにかく5名に絞り込んで頂きたい。それが至上の命題です。100名近くから12名までに絞り込んでもらったのですから、そこまでの出費を考えて絞り込んで頂きたい、自警団の束ねとして、試験官に徹底してもらいたいのはその一点です」
 そこで自警団団長は一呼吸置き。
「最終試験なのですから、まかり間違っても、『ただ居るだけ』で『何の義務も果たそうとしない』冒険者を試験官として登用したくはないものです。場合によっては違約金を頂きますぞ」
「そこはそれ、参加する冒険者の心映え次第でしょう。あくまで冒険者ギルドは仲介の立場に過ぎませんから」
 受付もそれとなく、責任を冒険者に転化する。
「では、『義務と責任の意味を理解した』冒険者の手配をよろしくお願いします」
 言って、自警団長は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●遠景
「島が見えてきたぞーっ」
 叫びかわす船員の声。
(「とうとう五人が決まるんだな」)
 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)が船上で水平線にへばりつく様にして見えてくる島を眺める。
(「そう言えば、最後まで名前が無かったな。まあ、いい。亥の試験が終わったら、もうここに来る事はないだろう」)
 まあ、自分は海賊を自称しているし、自警団と衝突でもしたら、ここに監禁という憂き目があるかもしれない。とはいえ、そんな事はないだろう、ジェンナーロは堅くそう思うのであった。

●冥途の前
 冥途神社の前をファング・ダイモス(ea7482)が、天下無双の腕前で整地し、塗り分けられた六本の棒で試験場の間仕切りを明確にする。
「やあ、何とか時間までに仕上がりましたよ」
 爽やかな汗を拭いつつ、ファングは白い歯を光らせる。
 以心伝助(ea4744)はその岩の片付けに回っている。
「いやぁ、この見事な壊しっぷり、大黒さんも真っ青っすね」
 言いながら、草煉瓦を会場に敷き詰めていく作業のリーダーシップを取る。
 これが戦いの舞台となるのだ。
「また、地図を作り直しですね」
 冷や汗を流しながら、シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)が眼下の光景が凄まじい勢いで変化していくのを見つめていた。
 しかし、その場で行われた戌の試験は大波乱に終わる事となる。ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)がエリー・エル(ea5970)に髪を高めのツインテールに結われ、フリフリでミニスカートのファッションで現れる。裏地が黄色の黒い上着を羽織っていた。白黒横縞の太股までのタイツを履いており、時折悪戯な風が越中褌のチラリズムを喚起させる。
(「うう、歳に限度を感じるのだ」)
 それでもこの格好をすると異様にハイになって──。
「みんなー! 元気なのだー!」
「おーっ」×9(純以外のパラは沈黙)。
「ついに最後なのだ! 自由の女神の加護により、12人の勇者がここまでたどり着いたのだ! さあ、自由の女神は果たして誰に向かって微笑むのか。最終2試験のはじまりはじまり〜。で、戌の試験、今回はふたり一組での戦いなのだ。3本勝負して、2回勝ち抜いたら、そこで合格なのだ。ではペアと対戦表を作るべく、籤を引くのだ、どんな組み合わせになっても恨みっこなしなのだ
 尚、今までの課題と同様に、相手を死亡させる攻撃等の使用は禁止。でも、魔法は解禁。負傷は重傷まで、ストーンは禁止──と言っても使える人は居ないはずなのだが、教会に行かないと元に戻せないので使用不可なのだ。以上、説明終わりなのだ」
 こうして、数奇な運命により組み合わされた6組のペアにより、戦いが始められた。
 だが、戦いは意外な方向へと進んだ。

●十二人の困惑する候補者──戌の試験
 皆の期待を一心に集めたイスカンダル・ガルベラと組んだ、シャレット・ハイアーはレジストマジックを唱えたガルベラを中心に、接敵した相手全てにファイヤーボムを雨あられの様に降らせて、重傷にまで相手を持っていくという作戦を打ち出した。
 しかし、1回戦のみならそれで良かったのだが、3番勝負となると魔力は簡単に尽きる。その為、シャレットを空中に置き、イスカンダルがひとりで戦う事となり、手数の差で負けて敗退。勝てたのは多田河死竜達だけであった。

 多田河死竜と氷河白鳥のコンビは、白鳥がアイスブリザードで先制。死竜が無手の手数に物を言わせて、確実に打撃を入れ。そこへ白鳥がアイスコフィンで詰めに追い込む。
 勝てなかったのは、レジストマジックと遠距離攻撃主体のイスカンダル達だけであった。しかし、精神的に持ち直し、以後の勝負は負け無し。

 パンツァー・フォーとアルフリート・ヤングのシフールコンビであったが、金震電と、マウス・サンクのコンビと初戦で余りの相性の悪さに敗北。アルフリートのオーラソードは震電のレジストオーラで攻撃を防がれ、パンツァーのムーンアローの攻撃はやはり震電のオーラボディとマウスの体力で弾かれる。アルフリートはマスク・ド・フンドーシ(eb1259)が持ち込んでいた卓袱台での、マウスのオーラパワー付きスマッシュが浴びせられ、一発KO。
 距離を取ったパンツァーも、震電のオーラショットの前に闘気の脆さを見せる、負けじと高速詠唱の撃ち合いにもつれ込むが、威力負けで降伏する。更に続く試合では魔力切れを見せ、不戦敗。

 刃桃太と火炎のコンビは四季桜一騎と純相手のジャパン勝負になっていた。
 純と炎の長いリーチの得物での勝負は炎に軍配が上がるかに見えたが、負けに転じた瞬間。炎に一騎のイリュージョンが炸裂! 五感を奪われた炎は、一転して大ピンチに、しかし、桃太が迫る。一騎は詠唱の間もなく、オーラソードの前に倒れ伏すが、純が切り札、ライトニングボディ+鉄鎖を炸裂。逆転勝ち。桃太は精霊魔法への弱さを露呈した。
 後にふたりとも白鳥のアイスコフィン漬けになる。

 震電とマウスのコンビは、死竜と白鳥と正対する。互いに前に出ての、総力戦となった。クーリングハンドとオーラパワーの蹴りが激突し、スマッシュとストライキングの荒れ狂う激しい戦いとなる。しかし、震電の魔力も底を突き、長期戦となった段階で魔法に直接頼らない、死竜が優勢に立つ。そこへ白鳥の零距離アイスコフィンが炸裂し、長丁場で疲労していたマウスの体が封印され、最終的には時間切れとなり、死竜、白鳥の優勢勝ちが戌の試験官、七刻双武(ea3866)により、宣された。

●勝利者リスト
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・四季桜一騎(パラ)勝ち抜け
 陰陽師。肉弾戦に長ける。イリュージョンとスクロールを使ったストームの使い手。実力は本物である。相性の問題もあるが。

・四季桜純(パラ)勝ち抜け
 志士。ライトニングアーマーを使い、二本の手首に結わえた鉄鎖を自在に振るう。惰弱という評判は本当である。

・金震電(人間) 勝ち抜け
 華国の武闘家。足技主体の攻撃とオーラ魔法をまんべんなく使いこなす。

・マウス・サンク(ジャイアント)勝ち抜け
 イギリスのファイター。戦闘時は鎧を着けず、上半身裸で戦う。この戦闘スタイルは彼の先祖――ケルト人の風習らしく、武勇を示すそうだ。ひたすら重たい大剣の一撃に懸ける男。
 最近では重ければいいのか、卓袱台を使ったりもするが。

・多田河死竜(パラ)勝ち抜け
 浪人。陸奥流の使い手で、ストライクを良くする。

・氷河白鳥(パラ)勝ち抜け
 志士。
 アイスコフィン、アイスブリザード、クーリングの使い手。主に肉弾戦を好む。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●明日の為に──
「しかし、吹っかけられたものだ。出航前に急ぎ材料を集めるとなると」
 円巴(ea3738)は勝者、敗者ともに様々なチーズを切り分け、干し肉のシチュー仕立てと、自分の知っている魚の煮込みをノルマン風にアレンジしたものを振る舞った。
 更には樽単位での様々なワインを手酌させる。これだけの人数を相手にするとなると、相応の金額がかかる。
 蓋を開けてみれば、巴の予定していた予算の倍は吹っ飛んだ。
「しかし、冥途神社ともこれでお別れか──」
 巴がしみじみとするなか、思い詰めたアマツ・オオトリ(ea1842)の気分を盛り上げようと、マスクが何かと話しかけるが、アマツは何ら反応した様子を見せない。
「‥‥‥‥」
 それを遠くから見守る双武。

●風の行方
「残念な結果になりやしたが、それだけの力があれば沢山の道がある筈です。
‥‥その力を誤った方向に使わないように気をつけてくださいやし」
 伝助が、まずは脱落した6人に良くやった、と声をかける。
 有象無象の百名の中から、十二名にまで頭角を現したのだ。才能は十二分にある筈である。運命の悪戯にあったにしろ。
 その運命の悪戯で、本当に悪の道に走った者もいるという情報が伝助の情報屋としての閻魔帳にはある。試練に磨かれた力を悪の力に使われてはたまらない。
 それは伝助、心底からの願いであった。

●兄妹
 一方、そろそろ百七十九才になる、マギー・フランシスカ(ea5985)は兄弟のように懇意にしているジョウ・エル(ea6151)が、義理の娘がやるお嬢様役用のドレスを突貫工事で縫っているお針子を更に急かしているのを見て──。
(「まったく義娘離れが出来ておらんのう」)
──と苦笑する。
 ドレスの相場は確かに金貨20枚からであるが、通常の礼装以上のものを要求すればオーダーメイドになる。
 オーダーメイドのものが早朝に注文して、朝に出来るという離れ業はそうそうできない。
 そこで船内で作業を敢行。そのお針子の派遣手数料もオーダー料に含まれ、計金貨50枚がジョウの懐から飛んだ。
 片やマギーは。
「ドレスタットで入手できない、ソルフの実やヒーリングポーションを含めてエチゴヤ価格の半額で販売。試験中だけの事ではなく、実際に所有権を譲渡」
 という『実話』を情報屋たる伝助を介して、流そうとしたが、そこで伝助の常識人っぷりが生きてくる。
「それは商業ギルドの裏付けなしに、物を売ろうっていう事っすよね?」
「まあ、言われてみればそうなるのう」
 マギーの言葉に伝助のオーバージェスチャー。
「商業ギルドからは、何を言われるか判らないし。ギルドの裏付け無しの、何が入っているか判らないものを、ここまで来た6人が手を出すか‥‥。しかも、わざわざ、試練の最中っすよ」
「だから、やるんじゃろうが。アイテムに目をくれて、お嬢様の護衛から手を引くような奴は脱落して当然じゃ」
「ギルドの動きの忠告を、忘れないでくださいでやすよ‥‥」
 この情報が流れると一部で憤慨が上がった。
「どうして、戌の試験でやってくれなかったんだ」
 魔力不足でリタイアした一同である。
 一応、情報の糸口となった伝助はマギーが黒幕というソースを明かさずに──。
「それぞれの試験の内容は試験官に任されてやす。あくまで戦闘力を見るのが、戌の試験の目的で、購買力を見る訳ではないでやすからね」
 手八丁口八丁で、やり過ごしながらも、伝助はまあ普通の食い詰め者ならこういう反応をするだろうな、と苦笑いするのであった。

●放浪の女神──亥の試験
 ジョウのオーダーした、お嬢様のドレスも突貫作業で縫製は終わり、黄金のティアラと相まって、お姫様さながらであった。とってもファンタジック──実年齢も。
「よくぞ勝ち残った我が精鋭よ、なのだ!」
 ヴラドが昨日と相変わらずの格好で解説をする。もうすぐ、屋外では足が寒かろうに‥‥。
「これから最終試験、亥の試験を始めるのだ。まず‥‥」
「マリーです。お嬢さんと呼んでね♪」
 エリーが長い裾をジョウに持たせながら、堂々と現れる。元々の美貌にお化粧の魔法。清楚で美しい17才の少女に化けていた。以後若い娘に変身した彼女をマリーと呼ばねばならない。名前を間違えれば、記憶力と礼儀作法で足らぬところありとされる。
「では、踊り子さんには手を触れないように、なのだ。試験内容は島を一週しての、姫の護衛なのだ。
 数々のトラブルが待っている筈なのだ。それに対応できて、尚かつ姫の心証を傷つけない事」
「落ちちゃった人のためにもぉ、しっかり選ばないとねぇん」
 エリーの変身したマリー姫の意気込みは判ったとしても、無数の疑問符が6人の頭の上を浮かび巡る。
「自警団が要人を護衛することもあり、機嫌を損ねて、国家間の問題に発展することがないようにと考えた試験なのねん」
 白鳥が質問する。
「国家間の要人ともなれば、それは自警団ではなく、騎士団などの管轄では?」
 マリーの顔の化粧に罅が入り、
「とにかく、これが亥の試験なの──ヴラド!」
 思わず、幾つもの世の荒波を潜ってきた本人の地が出る。
「おっほん、今から最終試験開始なのだ」
 そこで早速、裾をたなびかせながら、愛馬にマリーは搭乗しようとする。
 ジョウは自分を踏み台にさせ、あぶみに足を入れさせようとするが、純が進み出て──。
「御み足を失礼します」
 と、ジョウの上方で、マリーの足に手をかけ、あぶみにつま先を通させ、死竜がマリーを横座りさせる。
「おーおーおー、爺は爺は悲しいでござる」
 ジョウがオーバーアクションをして、一同に更なる混乱をもたらそうとするが、震電が彼を立たせ。
「では、全能の賢者殿我々を先導してくだされ」
「うむ、では潮風を体に感じながら、時計回りに回りましょうぞ」
 と、ファングの破壊し損なっていた岩山を目指して進路を定める。と、マウスが手綱をとって馬を進ませる。
 その行程はゆっくりしたものであり、如何にも上流子女の動きに相応しいものであった。
「もっと、早く」
 マリーはマウスに苦情を言うが、そこへ飛び出す影。
『お嬢様』に腐った卵を投げつけようとしたアルフレッド少年であった。
(「エリーさん試験の為とはいえ、ごめんなさい」)
 だが、一瞬の強風が少年を弾き飛ばす。
「腐った卵の匂いくらい、知覚と知力を極めようとする精霊魔法使いにはお見通しだ」
 離れて行動していた一騎であった。あわれ、アルフレッドくんは腐った卵塗れになってしまう。
「匂いが臭いわね」
 マリーがそういえば、白鳥がアイスコフィンでアルフレッドごと氷棺に封じる。そして、岩山付近でマリーは唐突に、
「歩いてみたいわね」
 と、言いだし岩山に向かおうとする。だが、純がさり気なく足を押さえ。
「おみ足が汚れます。お嬢様」
 と流す。
 すると、岩山の裏側から、ジェンナーロが姿を現す。
 ジェンナーロが凶悪そうな笑みを浮かべて口上を述べる。
「おぅおぅ! ここぁ通りたかったらよぉ、有金置いてってくんねぇかな?」
 それを聞くや否や、マウスはウォークライを挙げつつ、ジェンナーロに突撃をしかける! 卓袱台での一撃は決まれば、ジェンナーロでも壊滅だろう。その決死の攻撃をあっさりと避けるジェンナーロ。そのままマウスは卓袱台を岩山に叩きつける。震電がマウスに代わって手綱を取り、馬の鼻を巡らす。
「お嬢様、申し訳ない」
「きゃー、何するの、前進前進、前進あるのみよ」
 抗議するマリーの叫びとは別に、ライトニングアーマーを発動させた純はジェンナーロに迫るが、ジェンナーロも魔法の怖さは判っている。
 しかし、その隙に白鳥がアイスコフィンでジェンナーロを封印。
「さあ、進もう」
 一方、その攻防の裏をかいて、ファングという破城鎚にも似た存在が一同に迫る。
 しかし、後背に金色の光を感じたとき、ファングの五感はブラックアウトしていた。
「パラはどの国でも隠密に長けている。足音を忍ばせた所でジャイアントの巨体はパラの聡い目には映る──もっとも、もう何も聞こえていないだろうがな」
 ファングは同じ手に2度も引っかかった事に屈辱と、候補者が育っているという安堵感に囚われていた。一輝はそれでも安心せずにファングの得物で蛸殴りにして、動きを落とす。
「俺は群れるのが嫌いだ」
 そんな山賊の襲撃から島を半周ほどした所で、ミニスカルックのヴラドと、人遁の術で金髪碧眼巨乳縦ロールという完璧無比なお嬢様に変貌した伝助が待ちかまえていた。
 途中に怪しい、謎の声音で男の声を誤魔化す伝助、
「ヴラ子ちゃん、知っています?」
 それに両拳を唇に当て、ヴラドは返す。
「マリーさんね、ドレスタット始まって以来のお嬢様らしくないお嬢様だって、ね? 伝子」
「おお、お嬢様、聞いてはなりませぬ、聞けば耳の汚れですぞ〜」
 狼狽したジョウが一同の正式な判断力を奪わせようと躍起になる。
「半分もお嬢様らしくもないじゃなくて、倍もお嬢様らしくないって歳‥‥」
 そこまで禁句を言った所で氷河がアイスコフィンで伝助を封印。
「まー悔しー!」
 と、マリーがハンカチの角を咥えて引きちぎると。ヴラドは向き直って。
「さすがに凄いお連れの方ですわね‥‥そこまで従者が凄いと、使えている方はきっともの凄く強いのでしょうけれど‥‥私なんか甲斐性がなくて‥‥」
 そこまでいってヴラドは凍り付いた。またもや白鳥である。
「行きましょうお嬢様」
 そして、船の待つ、到着点に戻ってきた。
 2時間後。
「結果発表なのだ。マウス殿‥‥‥‥残念だが、自警団入りは次のチャンスを待って欲しいのだ。さすがにあの突撃は不味いだろうという事なのだ。白鳥が少々バイオレンスだったり、一騎が単独行動をしていたりと色々動いていたが、成果を出した、という一点ではマウス殿は及ばなかったのだ。
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 四季桜一騎
 四季桜純
 金震電
 多田河死竜
 氷河白鳥
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 この5名が自警団のメンバーとして正式に採用される事となった。
 船乗り達も集めた輪の中心に位置した彼らに惜しみない拍手が浴びせかけられる。
「これぞ黄金の熱き血の五人なのだ」
 ヴラドは熱く断言した。
 そこで巴が船から引っ張り出してきた大鍋で残った材料を放り込み、雑多な煮物を作っている。
「さあ、みんな受かった者も、落ちた者も、構わず飲め。船のみんなも、ギルドのみんなも思う存分食え。さようなら冥途神社──いつか、また巡り会うその日まで‥‥」
 巴は遙かな遠景に思いを馳せる。
 一方で船上ではアマツが自問自答する。
(「‥‥…私は、どうして斯様に弱くなってしまったのだろう?」)
 そして、感情の迸りがまともな思考を押し流す程、物狂おしく加速する。何人ものアマツが顕れて、解けない謎を問いかける。その混乱と悲しさと切なさともどかしさと恥ずかしさの中で、アマツの唇は余人には意味不明な言葉を紡ぎだした。
「私は、私は‥‥何故、貴様と出会ってしまったんだ七刻! 双武!!! 私が貴様にさえ出会わなければ、私が貴様を愛さなければ‥‥こんな、こんな想いは抱かなかったものを! ‥‥お願いだ‥‥私を‥‥斬ってくれ‥‥貴方の手で‥‥!」
「それでは困る。このオイボレを好いてくれた者など久しくいなかったのでな」
「双武様。指輪はお返し申す。その上で斬り捨てて亡骸を海にでも放り去ってくれ」
 言ってアマツは指輪を外し、双武の元へと歩み寄る。
 そこへ唐突な船揺れが起き、海へと指輪はこぼれ落ちる。
「ふ、天はそれすら許さぬとは‥‥ならば、せめて、なぶり殺しでも、斬首でも思う存分に私を手折ってくれ」
「それでは困る。『めおと』の契りを交わす相手がいなくなってはこちらが困る」
「いい──これ以上、心を弄ばないでくれ」
 そこへ抱擁。
「1年半の長き旅路、色々有り申したが、全てのしがらみを水に流そう。如何に無様な呼び名であろうと甘んじて受けて立て、半分はオイボレが受け持とう。だから、アマツ、認めろ、惚れているとな」
「いいのか? 本当にこの破廉恥と」
「七刻双武はアマツ殿と愛を誓い、新たな旅立ちと新天地を目指す事に致す。この誓いは決して違えはせぬぞ」
「おお、おお」
 こうして、ふたりは結ばれた。
 そして、船はドレスタットに戻った。
 水平線の向こうに消えゆく島を黙ってみていく冒険者一同。

 港で出迎えた自警団長はしょぼくれる一同に紹介状を書き、新人にこの自警団の流儀を叩き込む準備を始める所であった。
 そこでアルフレッド・アーツは今までの試験の経緯と、変貌していった島の地図を持参して彼の元に訪れた。
「やれやれ、次の募集はいつになるでしょうか? でも、良くできていますね。まるで島の変遷が手に取れるようですよ」
 そこで少年は満面の笑みを浮かべる。
「これが‥‥僕の今の精一杯ですから‥‥」
 こうして自警団は新体制を擁立した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ヤングヴラド・ツェペシュ
 アマツ・オオトリ
 アルフレッド・アーツ
 円巴
 七刻双武
 以心伝助
 エリー・エル
 マギー・フランシスカ
 ジョウ・エル
 ジェンナーロ・ガットゥーゾ
 ファング・ダイモス
 マスク・ド・フンドーシ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 彼ら十二人の熱き魂を持った審判者の為である。
 依頼人である自警団の未来は明るいであろう。