美人はいかが5

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

 冒険者達の起死回生の策は為り、マチルド農園は持ち直した。しかし、これからが本番である。
 恋人であるマレシャルは、海賊退治に成功して一寸した時の人。それなりに名声も上がってきた。父の所領を相続しても、誰も異論は唱えまい。しかしマチルドの立場は不安定である。庶民の出自である彼女には、未だ身分の壁があるのだ。
 タンゴは宣う。
「マチルド様にも名望が必要です。それを得るには二つの手段しかありません。時か? 手柄か?」
 マレシャルは父の年寄り子である。何年も時間を掛けて信頼を築くなど、悠長な事を言っては居られない。ならば道は一つ。
「薬草園を発展させ、資金を創り、その資金で名望を買うのが近道と存じます」
 それにはいくらかかるのか? 100Gや200Gでは済まされまい。時には、博打のような事もしなければ為らないだろう。それらのビジョンを纏める必要がある。

「また、難儀なお仕事ですな」
 ギルドの係員はため息を吐いた。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2955 レニー・アーヤル(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

レイ・マーベリック(ea9794

●リプレイ本文

●農作業
 鈴が鳴る。薬草園を囲む柵の近くまで仔山羊の群が来ているのだ。
「だ‥‥だめだよ。白桜‥‥白菊‥‥白梅‥‥白桃‥‥」
 追いかけっこの声も聞こえる牧場の朝。そんな中、しゅんしゅんと音を立てる様にハーブは葉を茂らせて行く。殊に湿地のウォーターミントの生育は早い。7日ばかりの間に新芽が小さな株になる。
「思ったよりも収穫出来そうですね」
 葉を摘みながらシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)は手伝いの女の子達の籠を見る。みんな若葉で一杯だ。それを午前中に釜に入れ抽出して貰う。
「あまり同じ所で育てても、大地の栄養分を使い切ってしまうので宜しくありませんわ。1年毎に植え替えた方が‥‥」
 意見するシャルロッテにレイ・マーベリックは、
「少なくとも、湿地帯に関しては心配無いと思います。流れ込む水が、外から栄養を運んでくれますよ。元々自生していた物です。環境をきちんと維持する限りは問題ないでしょう」
 より詳しい専門家の見地から応える。自分よりも数段上手の出現に、やりにくいなと思いつつも
「つまり、乱獲しなければ、自生しているハーブについては心配ないのですね?」
 と、確認を取る。自生ハーブだけでは行き詰まると彼女は見ているのだ。レイはこくりと頷いた。
「そうそう。事情が判りました」
 手に持つ塊を水の中で揉んでみせた。
「キノコを栽培した後の泥炭は、余分な物が取れて筋のようなものが残ります。これを山羊や牛は食べれるようですよ」
 何年も風雪に晒された朽ち木のように、ぽろぽろと裂ける繊維のような物。キノコによって毒素や腐敗物が除去されて、最後に残るのがこれである。
「夏には最初の収穫が出来るでしょう。育て方がよいのか、生育が早め目ですよ」

 その頃。レイを呼び寄せたリセット・マーベリック(ea7400)は、タンゴと新規事業に関わる相談をしていた。
「リュシアンと言えば、隊長殿の街に移られた職人さんですね? お話としては伺っておきます。ただ、下手な支援は彼を台無しにしてしまうかも知れませんね」
「‥‥彼に会う際は、私からの紹介とは言わないでくださいね」
「連絡では、妨害が入っているようです。人は自分を物差しに他人を量るのが常ですよん。無欲な事自体が、彼の敵にはしゃくに障るようですね」
「敵って‥‥」
「さぁ‥‥。でも、優れた者には必ず敵が生まれますわよ。好むとこの混ざるに関わらずね。良い物を安く創る。これだけで沢山の敵が生まれますわよん」
 意味ありげにタンゴは話す。
「タンゴさん‥‥」
 何か言いかけてリセットは口を噤んだ。

●スポンサー
 香水エスト・ミニャルディーズの卸し先で意見が二つに割れていた。
 鳳飛牙(ea1544)はセシールを勧め、イリア・アドミナル(ea2564)はジャンを勧めていた。
 共通点は、貴族限定販売という点である。
「口コミで広めてもらって、こっちは仕入れ値をもらう。セシールさんに香水の販売権を譲るということなら、彼女にリスクはないと思うんだよ」
 飛牙は一生懸命説明した。
 それに対しイリアも言う。
「セシールさんを信用してないわけではありませんが、口の堅いジャン様の手助けの元、貴族限定販売としてアレクス卿への口繋ぎにできたほうがより広く売り込めると思いませんか?」
 どちらも譲らない議論に、とうとうタンゴが口を挟んだ。
「セシールのおばさまに『売り渡す』の?」
 どことなく皮肉げな笑みだ。
 飛牙の案に対するタンゴの意見はこうだ。
 セシールのみに卸すということは、彼女に独占販売権が発動し、今後の利益はすべて彼女のものになる。
「200G。いや交渉次第では300G。そのくらいのまとまった一時金は頂けますよん。どうしますか?」
 しかし長い目で見た場合、これはどうなのだろうか。
 もっと良い方法を模索するべきかもしれない。

 その頃マチルドはというと、ジェイラン・マルフィー(ea3000)の指導の下、経営の基礎と計算方法を勉強していた。ジェイランが計算方法の参考にしたのは、タンゴから学んだ、数遊びから発展させた方法である。
「難しく考えないで。すっげぇ簡単なとこから始めるじゃん。まずはこの小石を使って‥‥」
 単純なやりくりでなら、そこそこについていけるようになった頃、香水の今後のこともようやくまとまりを見せた。
 パトロンをジャンに、セシールは優待顧客としてターゲットにしよう、というわけだ。
「あのおばさま、口は最高に上手いからぁ」
 逃す手はないよね、ということである。

●一枚の毛布
「えーと‥‥相談なんだけど‥‥」
 遠慮がちにドアから体半分だけのぞかせ、利賀桐まくる(ea5297)がタンゴに声をかけた。
「えと、染料作りのことなんだけど‥‥ふぁにーれにー姉妹の作るミョウバンのことでね‥‥こちらから‥‥薬草を販売するとかの代わりに‥‥、少々譲って‥‥もらうとか、できます?」
「そんな半分だけ出てないで、こっちにおいでなさいよ」
 タンゴの手招きに、まくるは恐る恐る中に入る。
「あと、そのための羊さんを飼ったり‥‥山羊さんの毛から糸を作れないかな‥‥」
 タンゴはにっこりとして
「全てのことを知っていて、何でも自分だけ出来る人などこの世に居ないわん。だから職業と言う物があるのよ。良い考えよそれ」
「じゃあ‥‥」
「くすっ。物事の交渉は『あなた得する、私得する、両方得する』じゃないと纏まらないわよ。相手が得するだけでは胡散臭いし、自分が得するだけの話に人は乗ってこないわよねぇ。それから、エストさんの立場は? 彼女もなかなかの錬金術師だわよ。商売人には全く向いてませんけど」
 ミョウバンの精製が巧く行かないのは、決してエストが無能なわけではない。ただ、得意なものとそうでないものがあるだけだ。そして、得手に帆を掛け分担し合うのが効率と言うもの。
「羊については、基盤が整ってからの方がいいわねぇ。山羊の抜け毛の権利は、すでに確保してあるわ。手間が掛かるけど毛糸のようなものは出来るわ」
 二人はしばし意見を交わした。
「ありがとう‥‥あのね、これ‥‥お礼です」
 そう言ってまくるは神秘のタロットと天晴れ扇子を差し出した。
「悪いけど、気持ちだけ貰っておくわねん。聞かれたら、マチルド様やあなた方に助言するのも私の仕事の一部だから。でも、聞かれないことまで答える義務は無いわよ」
 そう言えば、以前は誰もタンゴに相談したりしなかったな。と、まくるは自分達の失念を思い起こす。最初から敵、みたいな目で見ている者も居たような気がする。

 それからまくるは山羊や牛の世話を行い、その後はそれらの見張り番を買って出た。
 大切な家畜である。手にダーツを握り、何があっても指一本触れさせない気構えであった。しかし、いつまでもそんな緊張感が続くはずもなく、やがて疲れとなりウトウトとまぶたが重くなってきてしまった。
 ついに見張り椅子の上で寝入ってしまったまくるに、苦笑しながらも愛しむような表情でジェイランが毛布を持ってくる。
 眠っていてもダーツを落とさないあたりは、さすがというべきか。
 その様子を偶然見かけたテュール・ヘインツ(ea1683)は神妙な顔で一人納得する。
「うわぁ。なんかいい感じ。これって妖しの恋ってやつなんだ」
 誰か、まくるは女の子だと教えてやってください。

●お父さんに送る手紙
 マチルドはレニー・アーヤル(ea2955)と外に出て、木の枝で手紙の文例集を声に出して読み、そのまま書き写していた。
「あれはぁ〜、これはぁ〜、それとぉあれはぁ〜、〜と〜、などぉ単語を繋ぐ言葉を加えることでぇ、文章に彩りができていくんですぅ」
 まだまだ頼りない文字を綴るマチルドを、やって来たシャルロッテが覗き込む。
「どうですか? 進んでますか?」
「はい。わかってくるとおもしろいものですね」
 顔を上げて微笑むマチルドを、真顔で見つめるシャルロッテ。
「‥‥どうもわたくしはいまいち信頼を得ていないようですわね」
 やや沈んだ面持ちのシャルロッテに、マチルドは慌てた。
「他の方には貴女の得意なことを話されたようですし‥‥」
「あの、誤解です。シャルロッテさんのこと、とても頼りにしてますし感謝もしているんです。私の態度がそう思わせてしまったのなら謝ります。ですから‥‥」
「えっと‥‥おやつ、どう‥‥?」
 と、ちょうどそこにまくるが試作品のマシュマロを持ってやって来た。おかげで暗くなりかけていた空気が流れていく。
「しゃべりっぱなしで‥‥喉が疲れたでしょう‥‥?」
「マシュマロ‥‥ふわふわしたお菓子ですね。ほんのり甘くて」
「‥‥卵はたんごさんに仕入れをお願いしたの‥‥」
「休憩が終わったら、ご両親に手紙を書きましょぉ」
 レニーの言葉にマチルドはマシュマロを喉に詰まらせそうになる。
「文字が読めるとかぁ読めないとかはぁ、些細な問題ですぅ。愛してる人から便りが届くぅ、嬉しいことですよねぇ。マチルドさんのぉ心が届いてぇ喜ばないご両親ではないでしょう?」
「まだ自信がないようでしたら、わたくしがお教えしますわ」
 二人に説得され、緊張に手を震わせながらマチルドは最初の手紙に挑戦した。
『お父さん、お母さん、ありがとう。頑張ってます。幸せになります。心より。マチルド』

●農業改革
 夜。マチルドとタンゴを前にして、テュール、長渡泰斗(ea1984)・ローシュ・フラーム(ea3446)そしてイリア。主立った者はこの4人。それに新参のリセットと、販売担当者であるジェイラン。
 リセットが口を開いた。
「近所の子供を安く使えないものでしょうか? 技術を要する品種や加工作業はともかく、単純労働については、非熟練労働者を安く使うべきだと思います」
 子供とて立派な働き手、そう簡単には使えない。そのことについてはタンゴが釘を差した。
 テュールが遠慮がちに沈黙を破った。
「マチルドさんに木の板とかお金のかからないものに薬草の世話や家畜の世話のコツを書いてもらって教科書代わりにできないかな」
「それって、知識を売ると言うことですかぁ? いいかもぉ」
 賛意を示すレニー。しかしタンゴが即座に反対意見を述べる。
「今はまだ誰も見向きもしないと思います。それに、今の時点で公にするとマチルドさんの有利な条件が一つ潰れますよ」
「うーん。僕はマチルドさんの代わりに働いてくれる人に教えれるんでいいかもと思ったんだよね」

「良いかの?」
 ローシュが用意の物を取り出した。軽量化された恐ろしく重心のバランスが良いもので、土離れを考えた若干の反りが使用者のことを考え抜いていた。先端に良質の鋼を用いた良好な切れ味。柄がはいるシツはしっかりとして揺るぎ無い。更に鉄のクサビで頑丈に柄を入れてある。刃の長さも普通より長めだ。
「泥炭堀り専用の鍬だ。打ち込んでこじれば、そのままブロックが切り出せるように工夫してある。いずれ金が出来た時に相応の値で買い取ることが条件だが只で貸そう。掘って乾かすだけで立派な燃料となる。夏の間に掘って置き、冬場に売り出すことも考えてくれ」
「なるほど。当面はそれでお借りします。必要な数ですが‥‥」
 タンゴは早速商談体制。ローシュは笑ってこう言った。
「人の為に役立つ道具がつくれること。それこそわしの喜びじゃ」
 後の買取の話も、タンゴに経費計上されぬためかも知れない。
「確かに冬場が高いじゃん。おいらもがんばって売るじゃん」
 ジェイランの販売計画に、ローシュとタンゴが加わる。他の者もそれぞれの立場から意見をぶつけた。泰斗は荒地部分に地力をつけることを提案。
「短期に効果の出るモノでこそ無いが、土地を肥えさせる事自体は何時かはやらねばならぬ事だと思う。これを儲けを出しながらやる方法はないか?」
 マチルドとタンゴを代わる代わる見た。
「豆の栽培が土地を肥やします」
 と、マチルド。土地改良の流れにリセットが一言加えた。
「必要以上の土地改良は危険です」
「では、計画的な開発をしましょう。敲き台ですがこれを」
 イリアがメモを回す。
「勿論、これはとりあえずのものです。マチルドさんだけじゃなく、この先の領民の皆様の生活が懸かった事業なんですから」
 環境保全と開発。難しい課題を抱えつつ、話は如何にして領内を富ますかと言う展開へ。交わす意見の多くは夢であった。しかし現実を見据えた夢。いつかは勝利すべき戦いと、一同は確信した。

●セシール邸にて
 飛牙はエスト・ミニャルディーズの小瓶を手に、セシール邸の門を潜った。普段から良い品に親しんでいる彼女に認めさせる事が出来るのか‥‥ 飛牙は緊張の面持ちで女主人のもとへと向かう。と、思いがけず、屋敷の小間使い達とばったり出くわしてしまった。当然、ルルの姿もある。彼女に駆け寄りたい衝動に駆られたが、彼はぐっと踏み止まった。
『まだ、出せません。出すと心が挫けてしまします』
 マレシャルに手紙を出すよう勧めた彼に、マチルドはそう言った。彼女の気持ちを思えば、自分もルルとの約束を果たすまではと、そう思わずにはいられなかった。
「俺、ちゃんと頑張ってるから。じゃあな」
 それだけ言うとすぐに視線を逸らし、彼はその場を立ち去った。立ち止まって彼女の目を見れば、誓いをあっさりと破ってしまいそうだったから。寂しそうなルルと、強張った表情のミヤが気になったが‥‥。
 セシールとの交渉には気を遣ったが、彼女は香水に興味を持ってくれた様だ。
「ミントね? 鮮烈で爽やかな香り‥‥。良い品だわ」
 匂い紙に染み込ませ、香りを味わう。
「マチルド農園で作った品です。気に入ってもらえたなら今後格安でお分けしますから、その‥‥」
「興味を持つ方がいれば、マチルドの名を伝えておきましょう。それで良いのでしょう?」
 簡単な説明だけで、全て見通し。なんなら万事、私に預けてみない事? と話を振られ、心臓が止まるかと思った。心強くもあるが、この人の前で迂闊な事は言えないと痛感する。彼女は宴の席に、エスト・ミニャルディーズの香りを纏って行った。彼女ならば、元々魅力のある品を誰しもが欲しがる様に仕向けるなど、きっと容易い事だろう。
 話を終える飛牙を、マレシャルが待っていた。
「マチルドはどうしていますか」
 問いかけられ、飛牙は彼女の言葉を伝えた。何か言伝があれば伝えます、と言うとマレシャルは、海戦で使った刀の鍔を飛牙に託した。至るところ傷つき黒く返り血に染まった鍔を。それは彼の戦いの激しさを何よりも物語る品。鍔を握り締めた彼女は泣きそうな顔をしていたが、
「マレシャル様はこんなにも頑張ってらっしゃるのに、私は皆さんに頼ってばかり。もっともっと頑張らなくてはいけなかったんですね‥‥」
 そう言って涙を堪えたのだった。互いに想い合う2人とは、きっとこうしたものなのだろう。