美人はいかが4

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月29日〜06月05日

リプレイ公開日:2005年06月06日

●オープニング

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旦那様へ

 先日までの収支をお伝えいたします。残金は5G83C。別紙の方をご参照ください。
 5Gほど主からの思し召しがありました、ために総額は55Gとなります。ご了承を。
 しかし、皆様、自分の活動にご自身で評価をするのが苦手なように思えます。それでは金を食いつぶしていくのは当然至極。どんなに商人ギルドに掛け合っても、これでは‥‥
 マレシャル様の海賊退治よりもこちらの破産の方が早そうです。
 元より旦那様は私の立場をご存じと思いますが、お家がノアール卿に接近することは私としてはまことに不本意でございます。しかしながら、この有様ではエヴァンゼリン様との縁談の方を、もう一度お勧めした方が宜しいかもしれません。

 それでは、失礼致します。
                                          タンゴ
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 夫から手紙を見せられたマレシャルの母は、ふうっと息を吐きながらひょっとしたら、ひょっとしたら最後になるかも知れない依頼をギルドに伝えた。
「私の見込み違いでしたでしょうか? 農民の出なので、薬草園の経営という課題を与えたのですが‥‥。宝の山を前にして何をやっているのでしょう?」

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2955 レニー・アーヤル(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ ガレット・ヴィルルノワ(ea5804

●リプレイ本文

●マチルドの力
 始めに口を開いたのは鳳飛牙(ea1544)であった。いつになく真剣な眼差しだ。さもあらん、今は自分の恋の成就も懸かっている。
「俺達少し間違っていた。これはマチルドさんの戦いだ。それなのに勝手に進めてごめん。いまさらかも知れないけど、何がやりたいのか教えてくれ。俺、何でもやるよ」
 イリア・アドミナル(ea2564)は
「前回までの失敗申し訳有りません。罪は、あなたをほったらかしにしてやっていた僕たちにあります」
 謝罪に続けて善後策の基盤となるマチルドの得意なものを尋ねる。
「ご実家ではどのような暮らしをしていたのでしょうか‥‥」
 冒険者達がこんなに真剣に自分の意見を聞きに来たことは初めてである。問われるままにマチルドは、自分の事を話し始めた。家畜の世話や野菜の栽培。今まで無学な自分には話す価値など無いと思っていたことまで、聞かれるままに語っていった。
「‥‥ふーっ。私たち、とんだ勘違いをしていたようですね」
 イリアの深いため息。殊に農業牧畜は知識も経験も自分達の比ではない。学問の書は2頁目から始まると言う。1頁目には読者が今まで学んだことが記されていると言う意味だそうだ。
 マチルドに牧畜に関する知識の深さと実戦性を看た長渡泰斗(ea1984)は、
「蓄糞による土地改良を進めている泰斗です。もしかして雌牛の乳の出を良くする方法をご存じですか?」
 マチルドはこくりと頷いた。
「普通に世話をする1割から3割の乳が増える方法を知っていますよ」
 三人は顔を見合わせた。ならば直ぐに金を生み出す事が出来るではないか。そう。仔山羊でやったように乳の出ている雌牛を預かり、増えた乳を売るだけで金になる。持ち主にとって元々存在しなかった物を売っても問題ない。いや、通常分の乳を引き渡し、格安の金を取って世話をすれば逆に喜ばれるだろう。
「それで、どうすれば良いんだ。お金は懸かるのかい?」
 飛牙が抱きつかんばかりの勢いで迫る。マチルドはぽっと頬を染めて‥‥。
「ごめん。俺にはルルが」
 勘違い仕掛けたが恥じらいの意味が少し違った。
「実は‥‥。子供の頃なんですが、近所のいたずらっ子が、干し草におしっこをしていたの。知らずに食べさせた牛の乳の出が増えて、悪戯に気づいて普通の干し草に戻すと乳のでも戻りました。おしっこを使うと不思議なことにお乳の量が増えてくるのです」
 出したばかりの尿に含まれる何物かが、乳の量を増やすらしい。色々試した結果、尿を染み込ませ直ぐ乾燥させないと効果が無かったと言う。

「呼んだかしらん?」
 タンゴに早速手配を頼む。その日のうちに10頭の雌牛を世話料の前払いと共に調達してきた。蓄糞の権利も山羊と同じである。

●タンゴの数遊び
「駄目‥‥ですか‥‥?」
「あ〜ら、それでマチルド様への助け船を出したつもりなのォ? 何か勘違いしてるんじゃないかしらァ?」
 利賀桐まくる(ea5297)が提案したのは、冒険者の報酬を一人頭2Cに押さえるなどして経費を切りつめることだったが、タンゴにその気はさらっさら無い。
「ここで甘い顔見せて助けを差し伸べて、マチルド様は目出度くご結婚。でェ〜その後はァ? 人の善意や手助けに頼る癖がついたら、貴族界の有象無象魑魅魍魎どもにつけ込まれること間違いなしよねェ。1年持たずにお家が没落するかもよォ〜」
 などと人ごとのように言ってのけるが、それに抗すべき言葉がまくるには見つからない。
「うむ。人の好意や善意に頼らせること無く、いかにこの正念場を乗り切らせるか。そのことを手助けする我々は心すべきであろう。しかし‥‥」
 ローシュ・フラーム(ea3446)が意見する。
「今、我々は残金以外の会計状況を全く把握しておらぬ。タンゴ嬢の力量は認めるが、その頭の中味までを我々が直接伺い知ることはできぬ。そこで理解の助けとするため、目に見える形での資料にしてはいかがであろうか?」
「資料ねぇ‥‥」
 気乗りしない様子のタンゴだが、さらにジェイラン・マルフィー(ea3000)が畳みかける。
「今更だけど、タンゴさんが凄腕ってことは認めるしさ。学べるものは学び、盗める技術があるなら盗みたいじゃん。あ、魔法使った小細工は無しってことで‥‥」
 記憶を読むリシーブメモリーのスクロールを目の前に置いて見せ、誠意を示す。
「とにかく、このまま破産だけは絶対に嫌だぜ」
「ふぅん」
 鼻で一声笑った後で、タンゴはマジ顔になった。
「そういうことは、もっと早く聞いて下さっても宜しかったのにィ〜」
 で、案内されたのがタンゴの寝室。簡素な寝台の回りに、遊戯具か占い具としか見えないアイテムが色々置いてある。木製の平らな円盤に、カラット豆をロザリオの珠のように幾つも繋いだ紐、長短さまざまな木の棒、そして小鉢に入った色付きのカラット豆。円盤を見れば、炭の欠片で中心から線を引いたり文字や数字を書いた跡があり、カラット豆の紐の端には文字の書かれた羊皮紙の切れ端、木の棒には等間隔で刻み目が付けられている。
「これは‥‥おお、そういうことか!」
 ローシュはほどなく合点がいった。これらのアイテムは、事業の手順や期間やコストといった会計内容を、円と線とで図式化して計算するためのものだったのだ。
「いくつもの作業を並列させる場合、一番時間がかかる部分が全体予定の要になるわねェ〜。それに収益と費用の関係も、ただ数字を聞いてるだけで理解できるものでもないしィ〜」
 アイテムを様々な組み合わせで動かし、カラット豆の数と置き位置で数字を示し、タンゴは言葉巧みに説明する。
「ほう、このような計算の仕方は、わしには考えもつかんわい」
 感服するローシュ。タンゴはくすっと笑い、
「子どもの頃から夢中だった数遊びが、後でこんなに役に立つんだから、人生って不思議よねェ〜。とにかくさァ〜、儲けが出る前にお金の懸かる新しいことを始めたりィ、わざわざお金と時間のかかるやり方したりィ、そーゆーのばっかりだったんだからァ」
「いや、お見事。ところで、マチルド嬢にもこれを使いこなせるであろうか?」
「何もそっくり真似することはないわよォ。人それぞれのやり方があるんだしィ」
 タンゴのアドバイスを受け、ローシュは今後の方針を定めた。即ち、今後何か行動する際は、必ず主であるマチルド嬢に試算結果を示し、承認を得ること。

●個人教授
 レニー・アーヤル(ea2955)の個人教授の1日目。
「今日はぁ外に出てェ、勉強しましょう☆」
 マチルドを外に連れ出す。まずは家の回りから。
「これは、屋根。これは、壁。これは、煙突」
 一つ一つを指さしながら、木の枝で地面にスペルを書き、丁寧に教えていく。金のかからないやり方だ。
 個人教授の2日目は、薬草園で御勉強。
「ミント、の、草、からは、ミントオイルが、とれます」
 マチルドは一語一語を噛みしめるように、文章を地面に綴っていく。もともとその手の知識が豊富なだけに、上達は目覚ましかった。
「はい、良くできましたぁ。どうですぅ? この薬草園で何か思うところやぁ、改善点があればぁ言ってみてくださいですぅ」
 マチルドはふと薬草園の一角に目をとめる。
「これは‥‥ネトルだわ」
 その一角だけ草の種類が違った。
「春になってくしゃみが治まらない時なんかに、この薬草が効くんです」
 その日のうちにマチルドは近辺でさらに薬草を見つけ、イリアが確認すると正しくそれはフィーバーフューとアイブライトだった。彼女の中で何か引っかかったが、先ずは朗報。

 泰斗は専ら回避術を指南。
「ではもう一度」
 自分が暴漢の役になり、マチルドに掴みかかる演技をする。マチルドは思わず顔を背け、払いのけるように手を付きだした。その手をぎゅっと握って動きを封じる。マチルドに焦りの色が浮かんだ。
「難しく考えるな。コツは至極簡単、『相手の動きから目を離さない事』だ。難しい動きなんて要らない。相手の拳が右から来てるのに、右へ動く人も居ないだろう?」
 練習するうちにマチルドの動きも様になってきた。
「ピンチの時はまず落ち着いて、その後によくものを考える事」
「はい。まず落ち着いて、その後に‥‥」
 泰斗の言葉をマチルドは神妙に繰り返す。

 二人の個人教授はそれなりに新しい成長を引き出していたが、ただ一人外しているのがシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)。心を鍛えるための武術や料理や礼儀作法の指導はともかくとしてだ。
「そろそろ自分自身の剣を持つべきですかしら? この日本刀であれば比較的軽いですし丁度いいでしょうね」
「‥‥受け取れません」
 小声で呟くマチルド。
「今の私のお金では買えません」
「だから、これは‥‥」
 ついに端で様子を見ていたタンゴが口を出した。
「その日本刀、相場は20Gよ。みんなの努力を水の泡にする気?」
 その言葉にきつい視線を返すシャルロッテだが、タンゴの言葉は止まらない。
「マレシャルにスレナス、マチルドにこのタンゴ。これは偶然と思いますか? 領主の嫁が、必要もないのに剣を持って闘う様では、最初から負け戦ね」
 いつになくタンゴの口調はきつい。しかし
「マチルドさん。あなたはあなたの主人です。他人から許可され指示されるものではありませんよ」
 真理である。自身で選び取れなければ領主の妻は務まらないのだ。

●山羊の家
 仕入れた山羊は何十頭という数。飼うには小屋ではなく大型の家畜舎が必要だ。
 そこで安上がりに家畜舎を建てるため、泰斗はエスト・エストリア(ea6855)の魔法に頼ることにした。
 テュール・ヘインツ(ea1683)にも手伝いさせて、まずは試作品を1個。
「土を日干しで乾かしてストーンで固めるって、いつかの模擬戦みたいだ。あの時は負けちゃったけど今度は負けるわけにはいかないね」
 泥炭で横幅2m、縦幅1m、高さ1mの直方体の固まりを作り、エストがストーン魔法をかけると、石切場から切り出したような石になった。
「やったね、大成功!」
「‥‥でも、これじゃ大きすぎませんか?」
 テュールに言われて泰斗もう〜むと唸る。作るのは砦ではなく家畜舎なのだ。
「計画変更だ。もっと軽めでいこう」
 縦幅を短くしてその分高さを増やしたり、壁材と柱材とに分けて作ってみたり、試行錯誤を続けながら家畜舎が形になっていく。
「ストーンって本当に便利だね」
 テュールは無邪気に自分の手を泥炭の壁に押しつけ、手形をぺたり。
「こら、遊ぶなって」
 とりあえず周囲を囲む壁と柱は出来上がった。
「後は屋根を葺くだけだが、安く仕上げるなら廃材を使うか」
 などと泰斗が思案するその横で、テュールは泥炭を薄く薄く押し広げて板の形にする。エストの魔法で薄っぺらい石版1枚出来上がり。
「ついでに屋根も石葺きにしちゃえば?」
「‥‥悪くはないか。泥炭はいくらでもあるしな」

 家畜舎も出来上がり、山羊の本格的な飼育が始まった。
「名前はね‥‥オスの子は一郎‥‥次郎‥‥三郎‥‥四郎‥‥」
 まくるは山羊の一匹一匹に名前をつけて歩く。
「メスの子は‥‥白桜‥‥白菊‥‥白梅‥‥白桃‥‥」
「うわぁ、全部に名前付けたの?」
「とても覚えきれねぇー!」
 そう言うテュールとジェイランにまくるは答える。
「だって‥‥1匹でも‥‥居なくなったら‥‥信用問題‥‥だから‥‥」
 森の中に迷い込まないよう注意を払い、放牧された山羊たちの面倒を見ていると、村の子ども達がやって来た。
「頼まれた物、持ってきたよ。仔山羊の抜け毛に、秘薬の原料。‥‥本当にこれでいいの?」
 仔山羊の産毛はエストの注文品。秘薬の原料とは、子ども達のおしっこである。
 数日後より効果は現れ始め、牛の乳の出が良くなった。

●商品製造
 ミントの成長は早い。根付き葉を延ばす頃には新しい芽が伸びてくる。
「そろそろ間引きの時期ですね」
 収穫した葉はエストの指示で、新葉とその他に分けて処理。テュールがきょとんとして訳を聞くと
「ちょっと試して見たいことが有りますの」
 試みに、エストは新葉だけを原料にミントを釜に入れて見た。泥炭は頻繁に火力を調整してやる必要がないのが有り難い。

 一方、厨房ではイリアとまくるにヴィルルノワ姉妹が新しいアイディアを持って加わり、モーヴを使った新商品を試作中。すりつぶしたネバネバの液を卵白に混ぜて泡立てる。貴重な砂糖も少し加え、飲み薬をふんわりとした菓子のようなものに整えた。
「この形でなら、食べやすいですね」
「う‥‥売れる‥‥かなぁ」
 そこへ様子を見に来た仲間達。
「まくるちゃん。様子を見に来たじゃん」
「キノコの生育が順調なんで任しといてね」
 ジェイランとレニーは和気あいあいとした雰囲気に安堵する。
「味と舌触りがいいですからぁ。これならぁ、小分けにすればぁ薬用食品としてお手軽に買えますわぁ」
 つまみ食いしたレニーの声は明るい。

「バターが出来ました」
 マチルドが笊の上の粒々の塊を持ってくる。
「じゃあ、これにハーブを練り込みましょう。こないだ見つかったフィーバーフューがいいかしら。食べると偏頭痛の、塗ると炎症止めのお薬になるわよ」
 イリアは半干しのハーブを刻みながらバターに混ぜる。色が均一に為るまで丹念に。

 今回は幸運続き。抽出釜の方も順調のようだ。
「弱い火力が幸いしたみたいですね」
 新葉を使ったミント水は清涼感に溢れ上品な仕上がりである。タンゴは手で扇いで香りを試し満身の笑み。
「んーと。これは流行りますねえ。これは良く利きそうですよ。高く売れると思います。商品名はエスト・ミニャルディーズ(可愛いエスト)にしましょう。厨房の方でも沢山のお薬が出来たみたいですよん」
「お薬? お菓子では‥‥」
「薬草園の商品に、他に何か有るとでも? あ、そうそうこれ預かってますよん」
 見ると畳まれた羊皮紙。以下の文字が記されていた。
『‥‥壷のお湯は、一度沸騰させた後、井戸水で冷やした手を主の祈りを一節づつ唱えながら、ゆっくりと三回中でかき回すことができるくらいに冷やして下さい』

●決算
 タンゴの意見を容れて商品全て薬用品。飛牙の芸やジェイランの売り込みの甲斐あって、全て捌けた。純利の1割5分を上納しても結構の儲けだ。さらにイリアの教科書も高値で売れ、既にマチルドの物であったために収入に加えられる。エストからミント水の特許を買い取り、10Gが支払われたかが、差し引き23Gと47Cが残った。
「じぇいらんくん!」
 喜びの余り。まくるは思いっきり抱きついた。