【小さな学園】臨時生徒募集中

■シリーズシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月05日〜11月12日

リプレイ公開日:2005年11月13日

●オープニング

 学園都市ケンブリッジ、この街には有名な三大学園以外にも多くの学園がある。様々な分野の学園でひしめき合う街には、一般教養を教える学園も少なからずある。学園の規模も様々で、大きいところでは数百人を超える生徒が学ぶ3階建ての校舎から、果ては5人程度のこじんまりとした小屋の学び舎まである。そして、この話はそのこじんまりとした学び舎の話である。

「みなさんさようなら、また明日ね」
「リズ先生、さようなら!」
 平屋建ての小さな校舎から見送る女性に手を振って元気に校舎を後にする子供達。一見、ケンブリッジではどこででも見られる風景だが。
「ねぇ、これから市場へいきましょ!」
「うん、いいよ〜」
「‥‥‥」
 14、5歳のシフールの少女レフティが、周囲を飛び回る。彼女の誘いに、少しぼ〜っとした同じ年頃の少年アルトがニコニコしながら頷き、前髪を垂らして俯き加減のエルフの少女シアが無言でコクリと頷く。
「ねぇ、ユーリ。貴方はどうするの?」
「俺はこれから図書館で勉強だ」
「じゃあ、私も」
 レフティの誘いに、少し年上で落ち着いた様子の少女リアンが、幼馴染で学園一の秀才の少年ユーリに声をかける。ユーリが市場への誘いを断ると、リアンも彼についていくことにして、レフティ達にゴメンと謝った。
「え〜、つまんないよ〜。一緒に遊ぼう?」
「お前達ももっと勉強した方がいいぞ。いつまで学園にいられるかわからないんだからな」
「ユーリ‥‥それは‥‥」
「むぅ、べんきょうってむずかしいんだもん。いいよ、今日はアルとデートだもん」
「あはは」
「‥‥‥」
 つまらなそうに顔をしかめるレフティに、ユーリが注意する。レフティは、頬を膨らませてアルトの肩に止まり、ニコニコと笑みを浮かべているアルトと共に市場へと向かっていった。シアも、ユーリ達に無言で頭を下げるとアルト達を追いかけていってしまう。
「ねぇ、ユーリ。いまのはちょっといいすぎじゃない?」
「本当のことなんだから仕方ないだろ。こんな状態じゃ、いつまで学園が続けられるかわからない。今のうちに、たくさん勉強をして多くの知識を身につけて、良い仕事に就かないと」
「それは‥‥そうなんだけど」
 リアンは少し悲しそうに俯いた。もう学園には、自分達5人しか生徒はいないのだ。このままでは、いつまでリズ先生のもとにいられるかわからない。リアンは仲間達と別れないために、何かできないだろうかと考えるのだった。

「はぁ、どうしましょう」
 リズ・レイズウッドは困っていた。年の頃は28、清楚な顔つきで、いつも微笑みを絶やさない彼女であったが、今は悲しそうに眉をひそめている。彼女は、このケンブリッジで一般教養を教える小さな学園『レイズウッド学園』を他界した父から受け継いでいたが、現在の生徒数はたったの5人。小さな平屋建ての校舎も、5人では広すぎるくらいである。あまりに少ない生徒数に、教師であり校長である彼女は困っていた。
 開校当時は、生徒も多くいた。それこそ、校舎がいっぱいで入りきらないほどだった。しかし、父が他界し経営者が自分になり、近くに大きい学園ができてから、生徒達はそちらへと流れていった。学園の場所がケンブリッジの隅であり新しく来た者には認知度が低く、建物も古くガタが来ているのも理由であろう。今いる子達は、身寄りが無いなどで多くの授業料は支払えない子達ばかりである。
 生活には困ってはいない。彼女はもともと清貧を美徳とする白のクレリックである、生きるうえで最低限の出費しかないため収入が少なくても平気だ。生徒達に不満があるわけでもない、皆良い子ばかりで嬉しいくらいである。まぁ、彼女にとっては大抵の子は『良い子』なのだが。
 しかし、生徒が少ないのは悲しい。なにが悲しいかといえば、今いる生徒達に友達が少ないのが悲しいのだ。学園が違えば、どうしても交友をする機会も少ない。同じ学園の仲間が少ないことは、生徒達にとって可哀想だと思うのであった。なんとか、生徒を増やして今いる子達と友達になって欲しいのだが。
「そうですわ、あそこにお願いすればなんとかしてくださるかもしれません」
 しばらく考えて、リズ先生は何かを思いついたようにぽんと手を叩いた。

「はぁ!? 生徒の募集がしたい?」
「はい、こちらで当学園の生徒を募集したいのですが」
 リズ先生が向かった場所は、ケンブリッジの何でも斡旋所ことクエストリガーであった。しかし、受付で話を聞いた者は困ったように苦笑いを浮かべる。
「あの、クエストリガーでは、そういった生徒の募集はできないんですよ」
「ええ!? なんでですの?」
「何故といわれましても、ここは学園の様々な問題を小額により請け負い、冒険者の心得のある生徒に解決してもらう施設です」
「私、困っておりますわ。学園に生徒さんが少なくて」
「ですから、そういうことではなく‥‥。だいたい、ここには3大学園の生徒か、すでに生業を得ている冒険者しかいらっしゃいませんよ?」
「でも‥‥とにかく事情だけでも聞いてください」
 受付はハァッと大きくため息をつくが、リズ先生は引き下がる様子は無い。そして、彼女は学園に生徒が少ないこと、その生徒達が可哀想なこと、生徒が増えて賑やかになれば今の生徒達も喜ぶであろうことを説明した。
「‥‥事情はわかりましたが、やはりクエストリガーで生徒を募集するのは筋違いかと」
「臨時生徒として短期間でもいいのです、少しでも人が増えて賑やかになれば、もしかして興味を持った方が入学してくれるかもしれません!」
「ハァ‥‥わかりました。では、学園の再建を目的とした臨時的な生徒の募集ということで依頼を出しておきます」
「はい! ありがとうございます!」
 ついに根負けした受付は、なんとかクエストリガーで取り扱うに見合う依頼の要式で受理することにした。リズ先生が嬉しそうに頭を下げる。
「きっと子供達も、仲間が増えて喜びますわ! さて、新しい生徒を歓迎する準備をしないと」
 リズ先生は満面の笑みで頷いて、期待に胸を膨らませながらクエストリガーを後にした。
「でも、あんなところに学園なんてあったんだ」
 リズ先生を見送ったあと、受付はポツリとつぶやいた。どうやら、学園の認知度はかなり低いようだ。

●今回の参加者

 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●サポート参加者

茉莉花 緋雨(eb3226

●リプレイ本文

 ケンブリッジの片隅にある小さな学園『レイズウッド学園』。全校生徒5人と、少し寂しい学園だが、今日はちょっといつもより騒がしい。
「はい、皆さん。今日は、皆さんの新しいお友達と新しい先生を紹介します。皆さん、仲良くしてくださいね」
 学園の校長兼教師のリズ・レイズウッドは、にっこりと笑みを浮かべて、生徒達に臨時で入学した新しい仲間と教師を紹介した。
「まずは私からですね。私はフィーナ・ウィンスレット(ea5556)です。錬金術と植物や鉱物などの専門知識を教えます。皆さんよろしくお願いしますね」
「ウィンスレット先生は、有名な錬金術師の方ですから、皆さん名前ぐらいは知ってるかもしれませんね。珍しいお話などもしてくださるかもしれません」
「はい! よろしくお願いします、ウィンスレット先生!」
 まず最初に挨拶をするフィーナ。リズ先生が簡単に経歴を補足すると、秀才ユーリが挨拶をしては尊敬の眼差しで見つめる。彼女の高い知識を純粋に尊敬しているようである。
「次は私であるな。え〜、ごほん‥‥お初にお目にかかる、メアリー・ペドリング(eb3630)と申す。国語などを中心に教えていきたいと思う。まだまだ未熟者ゆえ、わかりにくいこともあるかと思うが、その折は、遠慮せずに聞き返してほしい」
「ペドリング先生は、元々通訳として様々な場所を旅をされてきたそうです。彼女の見聞はきっと皆さんのためになると思いますよ」
「先生よろしく〜! 面白い話をいっぱい聞かせてね!」
 教卓の上に上り自己紹介するシフールのメアリー。一番に反応したのは、同じシフールの少女レフティだった。好奇心に目を輝かせて、楽しそうに声を上げる。
「じゃあ、次は僕だね。僕はジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)、これからみんなと一緒に勉強する仲間だよ。ジェシュって呼んでね!」
「私は、エリザベート・ロッズ(eb3350)よ。苗字でわかるかもしれないけど、このちっこいのとは一応兄妹よ。私も、生徒として授業を受けるからよろしくね!」
「いきなりちっこいだなんて、それに一応って酷いよリズ〜」
「あら、本当のことでしょ?」
「あはは、楽しそうな人達だね。よろしく〜」
 続けて挨拶をするロッズ兄妹。エリザベートの挨拶に少し不服そうなジェシュの様子を、ニコニコと笑みを浮かべながら見ているアルトが、パタパタと手を振って挨拶を返した。
「え〜と、最後にもう一人‥‥まだ来てないのかしら?」
「あの‥‥リズ先生後ろ‥‥」
 リズ先生が最後の一人を紹介しようとするが、いまだ姿を見せない生徒に小首をかしげる。そんな彼女に、リアンが困ったような表情で後ろを指差した。
「あら‥‥まぁ‥‥」
「華仙教大国からきた鳳令明(eb3759)じゃあ!! 学校に通うのははじめてじゃ〜! みんなよろしくなんじゃ〜!」
 リズ先生が振り向いてみると、なにやら白い布を被った何かがフワフワと空中を飛んでいた。おそらく、ハロウィンのゴーストなのであろうそれは、やけに元気な声で挨拶をする。そこへ‥‥。
「あくりょうたいさん! れふてぃ〜きっ〜く!」
「ぐぉ! なにするんじゃ〜!」
 突然のレフティの飛び蹴り。それを食らって、鳳ゴーストはあえなく墜落する。
「せいぎはかつ!」
「ぬぉ〜、布が絡み付いて動けぬ〜」
「ふふ、さっそく仲良しさんね」
 勝ち誇るレフティと、布の下でジタバタする鳳。その様子に、嬉しそうに微笑むリズ先生。いや、なにか違うだろうと思うが。
 そんなこんなで、ちょっと騒がしくなった『レイズウッド学園』での学園生活が始まるのであった。

「錬金術の基本は等価交換といって‥‥」
 フィーナは、錬金術に対しての誤った認識がないように、錬金術の基礎を教えているのだが。
「れふてぃ〜き〜っく!」
「ちゅ〜つ〜くあ〜ん!」
「本来の目的は、魂を高めて完全な‥‥」
 授業そっちのけでぶつかり合うレフティと鳳。他人の声も聞かずに空中を飛び回る二人に、他の者達は対処のしようがない。なんとか無視して授業を進めようとするフィーナであったが。
「静かにしなさ〜い! ストーム!!」
「飛ばされる〜! ムギュウ!」
 ついにキレて、突風の魔法を唱えるフィーナ。レフティと鳳は、風に吹き飛ばされて壁に衝突、そのまま気絶する。ようやく静かになった教室であったが、教師というのはなかなか前途多難のようであった。

「‥‥このように、それぞれの地域で風習の違いや、微妙な言語の訛りが出てきたりするのである。というところで時間であるな。今日はここまで!」
「起立! 礼! ありがとうございました!」
 メアリーの授業が終わり、その日の授業が全て終わると。生徒達は、教師に挨拶をして学校をあとにする。
「リズ先生。これからについて少しよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
 学校に残ったフィーナとメアリーは、授業の後片付けをしているリズに話しかけた。
「うむ、これから学園を再建するにあたって、学園の知名度をあげることが重要だとおもうのであるが、いかがかな?」
「ええ、私も同じことを考えておりました。どうやら、このレイズウッド学園はお世辞にも知名度が高いとはいえないようですので、もっと積極的に宣伝や体験入学を考えてもよろしいのではないですか?」
 二人の話は、学園の再建について。生徒を集めるためには、まず学園を知ってもらい知名度をあげることが先決であるということだった。
「はい、お二人の話はよくわかりました。私も、亡くなった父の頃ほど学園が知られていないということは、感じていました。でも、宣伝といってもどうしたらいいのか。どこで頼めばいいのかわからなくて困っているんです」
 二人の話を聞いて頷くリズ先生であったが、困ったように首を傾げてため息をついた。
「やはり、クエストリガーで人を集めて、大通りで声を上げて宣伝するとかであるか‥‥」
「あまりお金の掛かることはちょっと‥‥」
「体験入学のチラシを作って食堂などに貼り付けるなどは」
「う〜ん、そうですねぇ‥‥」
 宣伝について話し合う教師陣。三人寄ればなんとやらと言うが、なかなか具体的な案は決まらないのであった。

 一方、授業が終わった学生達は‥‥。
「シアさんだよね、これからよろしく〜」
「‥‥‥」
 ジェシュは、無口なエルフの少女シアに声をかける。授業の間もほとんど喋らず、前髪で表情を隠すように俯いているシアは、とても影の薄い娘だった。同い年のエルフということで、気さくに声をかけるジェシュであったが。
「あ、あれ‥‥?」
 シアは、逃げるように無言で駆けて行ってしまった。予想外のことに、途方にくれるジェシュ。
「こら、ちんちくりん! 女の子をおどかしてどうするのよ?」
「う、う〜ん、普通に声をかけただけだったんだけどね‥‥」
「ごめんなさい、シアは人見知り激しいから‥‥」
 逃げていくシアを見ていたのか、エリザベートが注意するようにジェシュに声をかける。困ったような表情で頬をかくジェシュに、エリザベートと一緒にいたリアンが申し訳なさそうに謝った。
 エリザベートとリアンは、女の子同士ということで、すぐに仲良くなったようである。
「いいのよ。どうせ、無神経なこと言って怒らせたんでしょ」
「酷いなぁ、そんなことないよ〜」
「ふふ、仲がいいのね。え〜っと、エリザベートさんがお姉さん?」
「一応、こっちが兄。エルフとハーフエルフだから成長がずれてるのよ」
「そう、なんだ‥‥あの、余計なこと聞いてごめんなさい」
「え? ああ、いいのよ、気にしなくて。慣れてるから」
 ロッズ兄妹の様子を見て、楽しそうに笑みを零すリアン。しかし、二人の種族の違いを聞かされると、聞いてはいけないことを聞いてしまったかのように謝った。
「ハーフエルフごときが、勉強してどうすんだよ」
 突然、ユーリがエリザベートを睨みつける。ちょうど話を聞いていたのだろう、彼女に対して、というよりむしろハーフエルフを蔑むような表情を浮かべている。
「ちょ! あなた、人種差別的な発言はやめなさいよ!」
「ゆ、ユーリ‥‥!?」
「お前達は忌み嫌われてるんだから、勉強したって無駄なんだよ」
「僕らの祖国ではそんなことないんだけどなぁ」
 喧嘩を吹っかけてくるような物言いに、ついつい声を荒げてしまうエリザベート。お互い睨みあう二人に、戸惑うリアン。そんな中で、ジェシュは緊張感のない声で呟いた。
「ご、ごめんなさい。ユーリは父親がハーフエルフだったんだけど、母親とユーリを置いて出て行ってしまったの。それから、ユーリはハーフエルフが嫌いになっちゃって‥‥」
「リアン! 余計なこと言ってないで、さっさと行くぞ」
「あ、うん‥‥。エリザベートさん、本当にごめんなさい‥‥」
 エリザベートに、小さい声で事情を説明するリアン。そしてリアンとユーリは、嵐のように去っていった。
「なんか嫌われちゃったわね‥‥」
「あまり気にしない方がいいよ。きっとすぐに和解できるから」
 ため息をつくエリザベートに、ジェシュは慰めるように声をかけて微笑むのだった。

 数日経って‥‥。
「このように単語の組み合わせで別の意味を‥‥」
「れふてぃ〜くろすちょ〜っぷ!」
「れいめい〜しんくうとびひざげり〜!」
「そこのハーフエルフ! 次の問題で勝負だ!」
「だから、その人種差別をやめなさいよ〜!」
「‥‥いいかげんにするのであ〜る! グラビティーキャ‥‥!」
「うわわ! それはまずいよ!!」
 賑やかな授業風景‥‥学園再建は問題山積みのようであった‥‥。

「あら、アルト君のお父様‥‥」
「‥‥というわけで、別の学校に入学させようと思っています」
「そう‥‥ですか、とても残念ですけど、お父様が決めたことではしかたありませんね。アルト君には?」
「これから話します‥‥」
 本当に学園再建は問題山積みである‥‥。