【小さな学園2】学園再建と別れと‥‥

■シリーズシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜12月02日

リプレイ公開日:2005年12月04日

●オープニング

 ケンブリッジの片隅にある小さな学園『レイズウッド学園』。この学び舎で、一つの悲しい出来事が起きた。
「今日はみなさんに、残念なお知らせがあります」
 校長兼教師のリズ・レイズウッドは、教卓の前に立つと生徒達を見渡した。生徒達が何事かと彼女を見つめる中、微笑みながらも少し悲しげな表情で告げる。
「今月終わりに、アルト君が別の学園に転校することになりました‥‥」
「ええ!?」
 突然のことに、生徒達は驚いた様子で一人の少年に視線を向ける。
「本当かアルト!」
「嘘だよね、アル〜」
「う、うん、実は‥‥お父さんに言われて‥‥あはは」
 アルトと呼ばれた少年は、皆の視線に困ったように笑いながら頷く。生徒達は、悲しそうに肩を落としてため息をついた。
「私も、みなさんと同じように残念な気持ちでいっぱいです。でも、転校先も同じケンブリッジの中です、遠く離れ離れになるわけではありません。学園が変わってもお友達であることは変わりませんよ。さぁ、今月の間は皆さんと同じ学園の生徒です。最後まで仲良くして、笑顔で送ってあげましょう」
 ニッコリと笑顔で締めて、リズ先生は授業を始める。しかし、その日の授業はとても静かで寂しさに満ちていた。

「アル〜、ほんとに行っちゃうの‥‥? 行っちゃやだよ〜」
「う、うん、ごめん。お父さんが決めたことだから‥‥はは‥‥」
 授業が終わり、学園を後にした帰り道。シフールの少女レフティは、アルトの目の前を飛びながら、寂しそうな表情で彼を見つめた。アルトは、その日何度も繰り返した答えを返し、困ったように微笑んでいる。
「アルトは‥‥レイズウッド学園‥‥嫌い?」
「そんな、嫌いじゃないよ。でもお父さんが‥‥」
「‥‥‥」
 アルトの隣を歩いていたエルフの少女シアも、俯いたまま小さな声で問いかける。しかし、首を振ったアルトは結局同じ答えを返す。
「僕もずっとみんなと一緒にいたいけど‥‥僕はお父さんが決めたことに逆らえないから‥‥あはは」
 落ちかけた夕日の影で、肩を落として諦めきったような表情で微笑むアルト。二人の少女は、その笑みを悲しげに見つめるのであった。

「みんな居なくなっちゃうね‥‥」
「しかたないだろ‥‥。俺だって、金があればもっと大きな学園で勉強したい」
「そっか‥‥私は、いつまでもみんなと一緒にリズ先生の下で‥‥」
「‥‥‥」
 アルト達と別れた後、リアンとユーリは言葉少なげに帰り道を歩いていく。リアンの呟きに、ぶっきらぼうに答えるユーリ。リアンが俯いて続けた言葉は、冷たい秋風の中に消えていった。

「ええと‥‥学園の知名度を上げるために、一般の皆さんに良く知っていただけるような、体験授業を企画‥‥と」
 生徒を帰した後、リズ先生は非常勤の教師と共に考えた企画案をまとめていた。学園が人気が無いのは、まず知名度の低さが原因の一つと考え、一般の人を集めての体験授業を企画することになったのだ。
「でも体験授業といっても、どういったことをすればいいのかしら。いつもどおりの授業? それともなにか面白い授業を考えた方がいいかしら?」
 リズ先生は、一人首を傾げて考えるが良い案は浮かばないようだ。ほかにも、どうやって体験授業に人を集めるかなど、宣伝の面でも問題が残っている。
「できれば、アルト君が転校してしまう前に行いたいのだけれど。あと、アルト君のお別れ会もしましょう。‥‥はぁ」
 大きくため息をつくリズ先生。また一人の生徒が自分の下を去っていく。何度経験しても、慣れるようなものではなかった。学園の再建、生徒との別れ、リズ先生は二つの大きな問題で悩むのであった。
 その日、日が暮れ暗くなっても、小さな学園の明かりは消えることはなかった‥‥。

●今回の参加者

 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

「体験授業といっても、普段通りの授業をされたほうがよろしいかと思いますわ」
 数日後に行われることになった体験授業。その内容について、職員会議の場でエステラ・ナルセス(ea2387)が発言する。
「普段通りですか。私、こういったことは初めてですので、みなさんの意見を尊重しますわ」
「私も、この学園を知ってもらうということであれば、普段通りの授業風景を知ってもらった方が良いと思うな」
 学長のリズ・レイズウッドが、他の教師に意見を求め。エルネスト・ナルセス(ea6004)が同意して頷いた。ちなみに、エステラとエルネストはパラの夫婦である。
「私も特に異論はないのであるが、貴殿らは体験授業もその格好で?」
「はい、なにか問題でもございますか?」
「うふふ、きっと子供たちに大人気ですわね」
 シフールのメアリー・ペドリング(eb3630)も二人の意見に同意するが、少し困った表情を浮かべてナルセス夫妻の姿を確かめる。というのも、エステラはネズミの格好、エルネストはウサギの格好をしているからだった。生徒たちから『鼠先生』『兎先生』と愛称を付けられて呼ばれている。リズはそんな二人が可愛らしいと、満面の笑みを浮かべるのであった。
「授業の内容はそれでいいとして、宣伝はどうする? 開催したが誰も知らなかったでは、話にならないからな。それと多少なりとも、校舎を綺麗にしておきたいな」
「そうですわねぇ、少しなら羊皮紙代をお出しして告知の張り紙もできますが‥‥」
 エルネストの言葉に、リズが困ったように頬に手を添えて首をかしげる。羊皮紙は高価なため、金銭的余裕のない学園では財政を圧迫することになる。
「やはり、地道に声をかけての宣伝をするしかないだろうな」
「そうですわね、教会や食堂など人の集まる場所で声をかけてみましょう」
 エルネストとエステラの意見に、一同は頷いて体験授業の準備をすることになった。

「ねえ、ちょっと待ちなさいよ。何故そんなにハーフエルフを嫌うのよ」
「‥‥リアンから聞いてるだろ」
「私は、あなたに聞いてるの。あなたの考えを、あなたの口から聞きたいのよ。さんざん人のことを蔑んでくれてるんだから、理由ぐらいちゃんと言いなさい」
 ユーリが一人のときを捕まえてエリザベート・ロッズ(eb3350)は問いただした。勝手な思い込みで嫌われていては面白くないためだ。
「ふん‥‥俺の父親がハーフエルフだってのは聞いたんだろ。俺と母さんは人間なのに、あいつがハーフエルフだったから村を追い出された。しかも、あいつはそんな俺たちを捨ててどこかへ行ってしまったんだ。これが俺がハーフエルフを憎む理由だよ」
「だってそれは‥‥ハーフエルフが悪いんじゃなくて、妻子を捨てたあなたの父親が悪いんじゃない。それで、ハーフエルフ全部が悪いなんて‥‥」
「違うな。禁忌であるハーフエルフは、そいつに関わったやつまで不幸にする。そういう存在なんだよ!」
「もっと大人な考えをしなさいよ。一が悪いからって、全が悪いわけじゃないでしょ。あんまり侮辱すると、私だって怒るわよ」
「怒ればいいじゃないか。はっ! 怒って狂って、本性を現せよ化物!」
「なっ‥‥!」
 冷静に諭そうとしたエリザベートだったが、ユーリの言葉にプチンと理性の糸が切れる。エリザベートは怒りに我を忘れ、髪は逆立ち、瞳が赤くなるそのとき‥‥。
「ユーリ! いいかげんにして!」
「なんだリアン、いつからそこに‥‥っ!?」
 パン! 乾いた音が響く。いつから聞いていたのか、突然リアンが二人の間に割って入り、ユーリの頬を平手で叩いたのだ。ユーリは呆気に取られ、エリザベートも毒気を抜かれたように元の姿に戻る。
「エリザベートさんは、優しくて良い人じゃない! それを、ハーフエルフだからって嫌って。それじゃ、ユーリたちを追い出した村の人たちと一緒じゃない!」
「リアン‥‥くっ! だったらなんだ! 追い出した人間を恨めばいいのかよ! 居場所を追い出された俺の気持ちもわかりもしないで!」
 リアンの言葉に、憎々しげに顔を歪ませて、ユーリは走ってその場から去っていった。リアンは、追いかけるでもなくユーリの背中を見送った。
「エリザベートさん、ごめんなさい。ユーリも、どうしたらいいのかわからないんだと思います。どうかわかってあげてください」
「うん‥‥それはわかるけどね‥‥」
 ペコリと頭を下げるリアンに、エリザベートは大きくため息をついた。

「はい、授業に参加される方はこちらである」
 体験授業当日。受付を買って出たメアリーは、参加者に授業の案内をすることになった。元々学問に興味のある場所柄のため、宣伝活動が功を奏してそこそこの参加者が集まったようだ。メアリーの案内で参加者たちは、エルネストたちが掃除や多少の修繕をして準備した教室へと入っていく。
「リズ先生の親父さんには色々お世話になったからね」
 前学長のリズ先生の父親に世話になったという人達も、今回のことを聞きつけて子供をつれてやってきていた。
「みんなこんな所でお勉強してるんだ、いいなぁ〜」
 また、エステラの提案で、教会などに引き取られた身寄りのない子供たちなども招待している。
「当学園では、一般教養を主に、色々な知識を教えています。皆さんには、日々当学園が行っている授業風景を体験していただき、学問への興味と、当学園のことを少しでも知っていただければと思います」
 リズ先生の前口上が終わると、さっそく授業が始まった。体験授業は、いつも通りのアットホームな雰囲気で行われ、学問に対する堅苦しさを感じさせない所が良い評判を得ることとなる。
「わ〜、ネズミさん可愛い!」
「ウサギさんもいるよ〜」
 特に子供たちに評判だったのが、エステラとエルネストの二人だった。全身ネズミとウサギの姿は、パラの体型も相まってとても可愛らしく、子供たちから黄色い声があがる。
「あらあら、おしゃべりが過ぎますわよ。みなさんお静かにね」
「国語と歴史を担当する、エルネストとエステラだ。そこ、兎先生とか言わないように」
 二人は真面目に授業するのだが、残念なことに受ける側は姿の愛らしさに気を取られてあまり聞いていないようであった。とにかくも人気を博したのは確かだろう。
「え〜、次は私の地理である。その、なんだ‥‥、声が小さくて聞き取りにくかったら、何度でも質問して欲しいのである」
 メアリーは照れ屋であったため、大勢の視線にさらされると少し気後れしてしまったが、熱心で真剣な授業を行って、参加者に感心されることになった。
 このようにして、体験授業は一応の成功という結果を残した。すぐに入学を希望するといったことはないが、今回のことが評判となって学園のことを多くの人に知ってもらえたことだろう。

「というわけで体験授業の成功のお祝いと、アルト君のお別れ会を行いたいと思います」
 授業の片付けと同時に行った、パーティの準備がされた教室。慎ましやかで質素な飾りつけ、豪華とはいえない料理。それでも、大事な家族を送り出す精一杯の皆の想いが詰まっていた。
「アル〜、アルと学校が離れちゃうのは寂しいけど、あたしがまんするよ。だからまた一緒に遊ぼうね」
「そうよ、いつでも遊びに来ていいからね」
 一番にアルトに飛びついたレフティは、泣きそうな顔を無理に笑顔にした表情を浮かべ。リズ先生は優しく微笑んで声をかける。
「せっかくでかい所に行くんだから、しっかり勉強しろよな。俺もがんばって、負けないくらい出世するからさ」
「向こうの学校でも、友達ができるといいわね。できたら是非紹介してね?」
 ユーリが、気さくに声をかけて肩を叩き。リアンはこれからも関係は変わらないよとニッコリと微笑んだ。
「‥‥‥アルト君」
 シアは一言彼の名を呼ぶと、その手を両手で握り締めて、しばらく顔を見つめるとゆっくりと手を離した。彼女の声なき声は伝わっただろうか。
「僕‥‥本当は‥‥。ううん、皆ありがとう。この学園のことはずっと忘れません」
 友人達の挨拶が終わると、アルトは少し寂しげな笑みを浮かべて礼を述べ、大きく頭を下げた。
 パーティは別れの雰囲気を吹き飛ばそうと、賑やかに行われた。料理を囲んで談笑し、エステラたちは自分たちの冒険の話をして場を盛り上げた。
「どうだいアルト君。この飾りつけは妻のエステラが作ったんだよ、綺麗なもんだろ」
「あらあら、旦那様ったらもう酔ってらっしゃるの?」
 エルネストは、アルトに妻のエステラを自慢をしながらポンと肩を叩く。
「そうだ、君にこれをあげよう。これを履けば長距離を早く移動できる。皆に会いに行くのに役立つだろう」
「い、いえ、そんな高価なものいただけませんよ〜。靴がなくても皆には会いに行きますから、あはは」
 気分良くエルネストは、アルトに靴を差し出すが。アルトは、困ったように首を振った。
「新しい学校はどういった所なのかしら?」
「お父さんの話では、商業を教えてくれるそうです。お父さんは、商人の家を継いで欲しいようですから‥‥」
 エステラが、転校先を聞けば。アルトは笑みを浮かべて答えるが、どこか気乗りしないようだ。
「なにを辛気臭い顔をしておる。ほれ、元気をだしなさい。大丈夫、何事も為せば為る」
「そうよ、気持ちをしっかり持ちなさい。結局あなたの気持ち次第なんだから」
「うん、僕は大丈夫です‥‥」
 メアリーとエリザベートが、アルトを励ますように声をかける。自分をしっかり持つ、それが彼に今一番必要な物だったのかもしれない。
「さて、パーティもそろそろお開きですね。最後にアルト君を笑顔で送り出しましょう!」
 パーティも終わりを告げ、学園の皆はアルトに最後の送る言葉をかける。その中で、アルトは‥‥。
「ありがとう! さようならみんな!」
 涙に崩れそうな笑顔で別れを告げるのであった。