【小さな学園】想いの生む悩みは尽きぬ

■シリーズシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月15日〜12月22日

リプレイ公開日:2005年12月26日

●オープニング

 ケンブリッジの片隅にある小さな学園、レイズウッド学園に今日は珍しく幾人かの来客があった。
「まぁ! それはもちろん。はい、歓迎いたしますわ。では、来月から」
 学園で前に行われた体験授業により、学園を知った、むしろ忘れられていたのを思い出したケンブリッジの住人が、入学を希望してきたのだった。リズ先生は、満面の笑みで新しく入る生徒達を向かいいれることにした。

「みなさん、今日は良いお知らせがあります。来年一月から、新しいお友達が増えますよ!」
「‥‥‥」
「あら? この間の体験授業で、興味を持ってくださった方が、入学を希望されてきたのです。新しい友達とも仲良くしてあげてくださいね」
「‥‥‥」
 朝、授業が始まる前に、生徒達に連絡をしたリズ先生であったが。生徒達はどこか表情が暗く、いつも賑やかなレフティでさえ静かに椅子に座っていた。
 アルトが転校してから、教室の雰囲気は以前の賑やかさを失っていた。リズ先生は、今回の連絡で少しでも生徒達が元気になってくれたらと思っていたが、あまり効果は無かったようだ。アルトのもたらしていた、穏やかさや安心感といったものの喪失はとても大きなものだったようだ。そして理由はもう一つ‥‥。

「ユーリ、新しく入ってくる人達ってどんな人でしょうね?」
「‥‥‥」
 授業が終わった後、幼馴染のリアンとユーリはいつものように一緒に帰路についた。しかし、ユーリは話しかけるリアンから顔を背けるように前を向き、無言で歩き続ける。
「アルトが転校してから、レフティもシアも元気ないわね。早くいつものような賑やかさが戻ってきたらいいのだけど‥‥」
「‥‥‥」
 学園の様子を心配するリアンだが、ユーリは無視しているように何も答えない。そんなユーリを、困ったように見つめるリアン。
「ユーリ‥‥まだ、怒ってるの? だって、あれは‥‥しかたないじゃない。ハーフエルフだって、人間だって色々な人がいるわ。それを種族の違いだけで嫌うなんて‥‥」
「‥‥‥!」
「あ! ユーリ!」
 リアンの話を聞かぬように、突然走り出していってしまうユーリ。リアンはその後姿を、悲しげに見つめ続ける。その生い立ちから、ハーフエルフを嫌うユーリ。そのことで喧嘩をしてしまったリアン。いまだ仲直りできずにいる幼馴染の二人だった。
「なにかハーフエルフを見直すきっかけがないと‥‥。あんなユーリは見たくないよ‥‥」

「シア! アルトに会いに行こう!」
「え‥‥う、うん‥‥」
 数日前‥‥、レフティとシアは、転校したアルトに会いに行くことにした。転校しても、ずっと友達。その想いで、何度も遊びに行ったアルトの家に向かった二人であったが。
「アルト君かい? 昨日引っ越してしまったよ?」
「ええ!?」
「この間、彼のお父さんが来て大きな寮に入るんだって言ってたけど」
「どこ‥‥ですか?」
「う〜ん、このケンブリッジの中だってのは聞いたけど、どこにあるかまでは知らないねぇ」
「そ、そんなぁ‥‥」
 隣の家の人に、アルトは別の寮に引っ越してしまったと聞いて気を落とす二人。同じ街の中とはいえ、会えない寂しさが二人の気持ちを暗くしていくのだった。

「最近、生徒達の間がギクシャクしていますわね。なにか、子供達を元気づける方法はないでしょうか‥‥」
 ふぅと大きくため息をつくリズ先生。学園の再建も重要だが、いまいる生徒達はもっと大事だ。なんとかいつもの明るく元気な皆に戻って欲しい。
「あの子達にも色々と悩みがあるようなのだけれど‥‥。なんとか、相談に乗って悩みを解決してあげられないかしら」
 学園と生徒、リズ先生の悩みは尽きない‥‥。

●今回の参加者

 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

セドリック・ナルセス(ea5278

●リプレイ本文

「シアさん、レフティさん。最近元気がないけれどどうしたの?」
 その日、授業が終わった後エステラ・ナルセス(ea2387)は、元気がないシアとレフティの二人に優しく問いかけた。二人は顔を見合わせ、少し戸惑った後にエステラに事情を話し始めた。
「あのね‥‥レフティ達、アルの家に遊びにいったの」
「‥‥でも、アルト君いなかった‥‥何処かの寮に引っ越しちゃったって」
「学校が変わっても、ずっと友達だって約束したのに‥‥逢いたくてもどこにいるかわからないよ‥‥」
「まぁ、そうだったの。それで落ち込んでいたのね」
 二人の話を聞いたエステラは、頬に手を添えて同情したように頷いた。親しい友人と突然離れ離れになってしまって、どうしたらよいのかわからなくなってしまったうえに、連絡さえ取れなくなってしまったとなれば、二人が落ち込むのも仕方の無いことであった。
「二人とも元気を出して。大丈夫、きっとまたすぐにアルトさんと一緒に遊べますわ。ね?」
 エステラは、二人を励ましつつも、二人を元気にする方法を考えていた。

「歳だー‥‥」
 冷たい冬の風に吹かれながら、エルネスト・ナルセス(ea6004)はなんとなく黄昏れていた。いつのまにかトレードマークになっている、まるごとウサギさん姿の長い耳も、力なく風に流されている。
「あら、旦那様? このように寒い中、立ち止まってなにをされていらっしゃいますの?」
「いや、私も歳だー‥‥と思ってな」
 そこに、妻のエステラが話しかけてくる。今日はトレードマークのまるごとネズミさんを着ていないので、冬の寒さは少し辛いが、タスキ姿でキリッとした感じだ。
「なにを仰ってますの。旦那様はまだまだ十分お若いですわ」
「う、うむ‥‥」
 黄昏れるエルネスト32歳であったが、パラである彼は見た目は人間の子供と変わらない。そんな彼が、歳だと言っても説得力がないのは確かだ。もちろん、エステラも同じだが。
「そんなことをなされてないで、さっさとアルトさんの転校先を見つけてくださいまし。セドリック様もがんばってらっしゃいますわよ」
「そうだな‥‥も、もちろん、サボっていたわけではないぞ」
 二人は、生徒達を元気付けようと、転校したアルトの転校先を探していた。親戚のセドリックにまで手伝ってもらっているのだが、エルネストはついついなんとなく脱線してしまう。不真面目なわけではないが、ずぼらなのだ。楽できるのなら、楽したい。
「まぁ、しかしだ。闇雲に探しても意味がない。彼の報告を待ってからのほうがいいのではないかとおもってな」
「そんなことを言っていたら、いつまでたっても始まりませんわよ。さぁ、生徒さん達のためにもがんばってくださいまし」
 風に吹かれながら黄昏れている自分に、少し酔っていたエルネストだったが、エステラに促されてようやくと動き出す。このような調子で本当に大丈夫なのだろうか‥‥。

 数日後、エルネストは授業が始まる前に、生徒達に声をかけた。
「さて、今日の授業だが課外授業にしようと思う。皆、出かける用意をするように」
「先生よろしいですか? 突然どこに行くんです?」
「ああ、今日は冒険者の体験をしてもらおうと思ってな。人探しをしてもらう‥‥まあ、要するにアルト君に会いに行こう」
 外へと出かけると言うエルネストに、ユーリが生徒を代表してエルネストに問いかける。エルネストの答えに、教室がワッと沸いた。
「ええ! アルに逢えるの!?」
「先生も答えを知らないのでドキドキしているよ」
「先生! そんなことに、貴重な授業の時間を潰していいのですか!」
「勉強は、本を読んだり人の話を聞くだけではないぞ。学園の外にも、多くの学ぶことがある。友情の大切さを確かめる事がこの授業の目的だ」
「‥‥‥」
 強くは反対しなかったが、ユーリは少し不満そうだ。真面目すぎるのも少し考えものだなと思うエルネストだった。
 学園から出たエルネスト達は、学生達が授業に出ていていつもより静かなケンブリッジを歩く。生徒達は、あまり経験のない雰囲気に少し戸惑っているようだ。
「みんないま勉強中だと思うと、少しドキドキするね」
「そうね、道に人が少ないと、少し寂しい雰囲気ね」
 レフティが興味深そうに周囲を見回して緊張したように呟くと、リアンも少し不思議そうに頷く。
「ケンブリッジについて少し話そうか。ケンブリッジが学園都市として賑やかになったのは、ここ数年になってからだ。それまでは、あまり大きな街ではなかった」
「それが何故、様々な学校が集まった学園都市になったんですか?」
「うむ、始まりはあの‥‥」
 ユーリの問いかけに、エルネストは10階建ての建物、マジカルシードの塔を指差した。
「魔法使い養成学校マジカルシードが開校されたことだ。それ以後、多くの学生がケンブリッジに集まることになり、それにあわせてフリーウィルやフォレスト・オブ・ローズなど様々な学園ができることになった」
 エルネストの説明に、興味深そうに聞くユーリとリアン。しかし、レフティとシアはそわそわと落ち着かないようだ。
「先生! アル探しはどうなったの?」
「アルト君‥‥いまは勉強中なのかな‥‥」
「さて、ではアルト君を捜すにあたって、情報を整理しよう。彼はお別れ会のときに何て言っていたか。引越しの話を聞いたときになんて言われたか?」
「商業の学校って言ってたよ」
「引越し先は‥‥大きな寮って言ってました」
 いくつかの情報を元に、エルネスト達はアルトの転校した先を探す。そのうちに、時間は昼時になり、学生達が昼食を取るために外へとでてきたようだ。
「よし、人が出てきたところで、聞き込みをしてみよう。そこの君達、少し聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
「え、なになに? きゃ〜、かっわいい!」
「あはは、ウサギさんだ〜。ふわふわであったか〜い!」
「ちょ、ちょっと、君達‥‥!?」
 エルネストが出てきた女学生達に声をかけると、彼のウサギ姿に歓声をあげた学生達に揉みくちゃにされてしまった。何処かでバキ! と何かが折れる音が聞こえる。
「あら旦那様、楽しそうですわね‥‥」
「あ、鼠先生こんにちは!」
「はい、みなさんこんにちは」
 用事で午前中はいなかったエステラが現れる。女学生に揉みくちゃにされているエルネストを不思議そうに首を傾げつつも、生徒達ににこやかに挨拶をする。‥‥よく見ると、彼女が現れた方向にあった木の看板が、何故か真っ二つに折られているのだが。
「みなさんも、お腹が空いたでしょう。そろそろお昼にしましょうね」
「でもまだアルが‥‥」
「お腹が減ったままだと、アルト君も心配しますよ。さぁ、行きましょうね。旦那様も、いつまでも若い子と遊んでらっしゃらないで、いきますわよ!」
「い、いや、私は! これは不可抗力で‥‥いたた!」
 パンパンと手を叩いて、生徒達を昼食に促したエステラ。彼女は、いまだ解放されていないエルネストの腕をつねって、無理やり引っ張っていくのだった。

 昼食の終えたエルネスト達は、一つの学園へと生徒達を連れてきた。そこは、エステラが事前に確認した、アルトが通っているという商業学校だった。
「ここにアルト君が通ってるんですか?」
「さて、そろそろ時間かな」
 リアンの問いかけに、エルネストは太陽を見上げて時間を確認した。少しして、授業が終わったのか学生達が出てくる。
「あ、アルだ!」
「え? レフティ‥‥どうしてここに?」
 多くの学生から、いち早くアルトを見つけたレフティが、彼の元に飛んでいく。突然飛び込んできたレフティに驚いたアルト。他の子供達も、アルトに駆け寄っていく。
「シア!? それにみんなも‥‥」
「家を引っ越したと聞いて、みんな連絡が取れなくて心配していたのよ」
「あ‥‥すいません‥‥色々忙しくて」
 エステラの説明に、アルトが気付いたように申し訳なさそうに頭を下げた。
「お家にいなくなっちゃってびっくりしたんだよ!」
「ごめんね‥‥一段落付いたら連絡しようと思ってたんだよ。でも会いにきてくれてうれしいな」
 皆に囲まれ、少し恥ずかしがりながらも嬉しそうなアルト。その様子を、エルネストとエステラは優しく微笑みながら見守っていた。
「友達っていいでしょう? 貴方も友達を頼りなさい、痛みが和らぎますわ」
「‥‥‥」
 エステラは、アルト達を眺めながらユーリに優しく声をかける。ユーリは、無言でリアンを見つめるのだった。

「受け持ったのは少しの期間でも、先生は一生みんなの先生だからな。アルト君も、レフティ君も、シア君も、リアン君も、ユーリ君も」
「私も、みなさんと過ごした日々はとても楽しかったです。みんないつまでも仲良くいてくださいね。そして、新しく入る子達にも仲良くしてあげてくださいね」
 臨時講師の最終日、エルネストとエステラは生徒達を前でニッコリと笑った。レフティとシアは、あれからアルトと連絡を取り、前のように明るい関係を気付いているようだ。リアンとユーリは、まだギクシャクしているようだが、リズ先生はゆっくりと解決していきたいと話している。
「先生! ありがとうございました! 短い間ではありましたが、多くのことを教わりました!」
「先生ありがとう! また教えに来てね!」
 生徒達は、拍手でエルネスト達を送る。小さな学園では、これからも色々なことがおきるだろうが、きっと乗り越えていけることだろう。