【探求の獣探索】想いは遥か遠き時の中に

■シリーズシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月02日

リプレイ公開日:2005年12月06日

●オープニング

「神の国アヴァロンか‥‥」
 宮廷図書館長エリファス・ウッドマンより、先の聖人探索の報告を受けたアーサー・ペンドラゴンは、自室で一人ごちた。
 『聖人』が今に伝える聖杯伝承によると、神の国とは『アヴァロン』の事を指していた。
 アヴァロン、それはケルト神話に登場する、イギリスの遙か西、海の彼方にあるといわれている神の国だ。『聖杯』によって見出される神の国への道とは、アヴァロンへ至る道だと推測された。
「‥‥トリスタン・トリストラム、ただいま戻りました」
 そこへ円卓の騎士の一人、トリスタンがやって来る。彼は『聖壁』に描かれていた、聖杯の在処を知るという蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』が封じられている場所を調査してきたのだ。
 その身体には戦いの痕が色濃く残っていた。
「‥‥イブスウィッチに遺跡がありました‥‥ただ」
 ただ、遺跡は『聖杯騎士』と名乗る者達が護っていた。聖杯騎士達はトリスタンに手傷を負わせる程の実力の持ち主のようだ。
「かつてのイギリスの王ペリノアは、アヴァロンを目指してクエスティングビーストを追い続けたといわれている。そして今度は私達が、聖杯の在処を知るというクエスティングビーストを追うというのか‥‥まさに『探求の獣』だな」
 だが、先の聖人探索では、デビルが聖人に成り代わろうとしていたり、聖壁の破壊を目論んでいた報告があった。デビルか、それともその背後にいる者もこの事に気付いているかもしれない。
 そして、アーサー王より、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。

 遺跡の底にある、暗く寒い鍾乳洞。冷たい水の滴り落ちる音だけが響く、自然の作り出した空洞。人の手の加わらぬこの世界に、一つ異質な氷の固まりが存在した。
 それはまるで柩のようで、融けることなく悠久の時を超える。いつか氷が融け、悠久が一瞬になるときが来るのであろうか。守り続けた想いは、いつか解き放たれることがあるのであろうか‥‥。

 アーサー王の号令の下、『聖杯探索』に参加するために集まった冒険者達。ギルドはそんな冒険者達の熱気で溢れていたが、そんな中で一つぽっかりと空いた空間があった。
「うぷ‥‥それで、今回はどういった御用でしょうか。いま、聖杯探索の件で混みあっておりますので、よければ手短に‥‥」
「ああ、その聖杯探索に参加しようと思ってね」
 受付に立つ男からは、異様な空気‥‥というか異臭な空気が流れており、ギルドに来ていた冒険者達はその周囲から離れていた。男の名はラルヒー・スコッティン、アトランティスを研究する学者だ。
 歳は30代で、ボサボサの髪、伸びた無精ひげ、薄汚れてシワシワの衣服。極めつけは、もう何週間洗っていないのか、異臭発する身体。はっきり言って、お近づきになりたくない人ベスト10に入りそうな人物である。
「め、珍しいですね。アトランティス関連以外でギルドを利用されるなんて」
「知り合いの冒険者にトリスというやつがいてな。彼から、今回の聖杯探索はアヴァロンに関係すると聞いたのだよ」
「はぁ‥‥トリス‥‥さまですか?」
「なにか随分とペリノア王のことなど聞いてきたが、私は聖杯などには興味がないからなぁ」
 できる限り息を止めて応対する受付嬢に、まったく意に介してない様子のラルヒー。アトランティス以外のことには(自分の身体でさえ)興味のない彼が、なぜ聖杯探索に参加するのか。
「それはともかくとして、私は以前から、アトランティスとアヴァロンは同一のものではないか、という考えを持っていた」
「そんなことあるわけないじゃないですか」
「‥‥‥」
 酷く疑わしい視線を向けられて言葉に詰まるラルヒー。彼は少し困ったように苦笑いを浮かべると、ボリボリと頭を掻いてフケを落とした。
「あ〜‥‥、ケルトに古くから伝わるアヴァロンは、西の彼方にあると言う。そして、やはり魔法王国アトランティスも遥か西の海にあると言う。それ以外にも類似する部分が多数あり‥‥」
「ありえません」
「‥‥‥」
 ラルヒーの考えは、スッパリ否定された‥‥。一般的に、『神の国アヴァロン』と『魔法王国アトランティス』が同じであるという考えは馬鹿げている事であった。
「と、とにかくだ。アヴァロンも、私の研究材料に入っているので、今回の遺跡探索に参加するわけだよ。あの辺りは洞窟も多いと聞く、なにか珍しい発見もあるかもしれない。といっても、探索は危険も予想されるので。ここで一緒に付いて来てくれる冒険者を募集したい、というわけだ」
「‥‥依頼の方は承知いたしました」
「じゃあ、よろしく頼む」
 受付嬢が依頼内容を書き留めると、ラルヒーは満足したように頷いて立ち去った。
「変な人‥‥げほごほ!」
 受付嬢は、今まで以上に変人を見るような視線で彼を見送り。残っていた異臭に、思わず咳き込んでしまうのであった。

●今回の参加者

 eb0272 ヨシュア・ウリュウ(35歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

「ふぅ、何とか間に合いましたね」
「もう少し遅かったら置いて行かれるところだったね」
 ヨシュア・ウリュウ(eb0272)とカイン・リュシエル(eb3587)が胸を撫で下ろす。聖杯探索のために国が用意した高速馬車に、乗り遅れそうになったのだ。その理由が‥‥。
「うむ、あのようなことに時間をとられてしまうとはな」
 依頼人ラルヒーの準備に手間取ってしまったからであった。というのも、出発前にパーティーメンバーのたっての願いで、沐浴を行ったせいであった。
「まぁ、間に合って良かったですよ。お陰でこれも必要無くなりましたしね」
 メアリ・テューダー(eb2205)がニコリと微笑んで、用意していた鼻栓をしまう。ラルヒーの体臭は、まったく臭わないというわけではないが、あまり気にならない程度にはなってくれたようだ。もしあのまま、馬車に乗っていたら大変なことになっていただろう。
「臭わなくなって良かったねラティ」
 エスナ・ウォルター(eb0752)が愛犬を優しく撫でる。といっても、犬の嗅覚ではまだ結構臭ってるのかもしれない‥‥。
「さて、せっかくだし、移動の間にラルヒーさんにアトランティスとアヴァロンについてのお話を伺ってもよろしいかしら?」
「ああ、構わんよ。私の考えでは‥‥」
 セピア・オーレリィ(eb3797)が話を切り出すと、ほかのメンバーも興味があるように、ラルヒーのアトランティスについての話を聞くのだった。
「なんとも俺には興味の無い話だな‥‥」
 そんな中、クロック・ランベリー(eb3776)は一人つまらなそうに、問答を繰り返す一同を眺めていた。

「‥‥などと伝承の中には、二つの国についていくつかの酷似している点が見受けられる」
「しかしそれは、二つの国の伝承が混線して混ざり合ってしまったとも取れるのでは。私としては、神の国と魔法王国が同じとは思いたくないわ」
「ふむ、所詮は推論、証拠を見つけんことには‥‥」
 セピアの意見に軽く頷き、頭を掻いて苦笑するラルヒー。
「ラルヒー様は元々アトランティス研究をされてるとか。この地にも月道などあったのでしょうか」
「ああ、この島には確かにケルトの遺跡より古い、アトランティス文明の遺跡とされるものがある。これが本当にアトランティスのものならば、古代では月道が開きこの地にもアトランティス人がいたと思われる」
 ヨシュアもアトランティスに興味があるのか、熱心に質問し、その話に耳を傾けていた。古代文明は、学者だけでなく冒険者達にとってもロマンなのであろう。

「ここが、ペリノア王の遺跡だな。我々はこの付近にある洞窟を探索することにする」
「どうして遺跡の内部でなく、洞窟に目を付けられたんですか?」
 カインが不思議そうに問いかける。他の多くの冒険者達は遺跡内部へと向かっていくのに、ラルヒー達は遺跡をさけ、外壁に開いた天然の洞窟へと向かっていたからだ。
「城跡よりも、なぜこの場に居を構えたかといった理由の方が気になるんでね。この地自体を調べるために、洞窟を目指すことにしたんだよ‥‥っと、ふむ、ここから入ってみようか」
 説明しているうちに、ラルヒー達はぽっかりと開いた一つの洞窟を発見した。下へと続く暗い洞窟の漆黒の闇の奥から、冷ややかな風が外へと流れ出ている。
 洞窟は、奥に行くほど広くなり、いつしか全員が横に並んで歩けるほど大きな鍾乳洞へと繋がっていた。天井から落ちる、冷たい水音が響き。ランタンの光に、白い鍾乳石がうすらぼんやりと浮かび上がる。
「暗い所、怖いけど‥‥ラティが一緒なら大丈夫だよ‥‥ラティ?」
「何か居るのかもしれないですわ。皆さん、警戒してください」
 先頭を歩いていたエスナの愛犬が、何かに気付いたように立ち止まり唸り声を上げた。メアリは、その様子になにか思うことがあるのか、一同に警戒を促して、石を拾い上げて奥へと放り投げた。
 カランカラン、石が地面に当たる音が響き渡る。すると、奥からなにか羽ばたくような音が聞こえてきた。犬がその音の主を威嚇するように声を上げて吼える。
「なんだ‥‥? 黒い‥‥コウモリ!!」
 両手で剣を構えていたクロックが見たものは、闇に溶け込むような黒い肌を持つ、大きなコウモリであった。
「ま、周りを見てください!」
「ラージバット! それとローバーです! 気をつけてください、触手には毒があります!」
 コウモリの出現で驚く一同に、エスナが周囲に注意を促す。よく見れば、周りはいつのまにか大きな口を開けた巨大イソギンチャク、ローバーに囲まれていた。ウネウネと触手を伸ばし一行を絡め取ろうとしているようだ。メアリは優れたモンスター知識で、指示を行う。
「炎の力をこれに宿せ。バーニングソード!」
「後方支援よろしく頼む。ソニックブーム!」
 カインの魔法により炎を宿した剣を持ち、クロックはローバーの触手を真空の刃で切り裂きながら、本体を炎の剣で切りかかる。
「武器の扱いは得意ってわけじゃないんだけど!」
 セピアも、近寄る触手をシルバースピアで切り払いながら、本体へと突きかかる。
「ラルヒー様危ない! くぅ!」
「ヨシュア君!」
 ラージバットの急降下に襲われたラルヒーを庇い、ヨシュアが傷を負う。空を飛び素早く動くラージバットには、攻撃が当たらずに苦戦した。
「やっかいですね、なんとか動きを止めないと‥‥。アグラベイション!」
「私の魔法で‥‥撃ちます! アイスブリザード!」
 飛び回るラージバット、その動きを止めようとメアリとエスナの魔法が炸裂。動きが鈍くなった相手に、魔法の吹雪が包み込み、ラージバットは地に落ちる。
「今です! ていやぁ!!」
 その隙を見逃さず、ヨシュアは全力のオーラを込めた剣でラージバットを切り倒した。その後、ローバーたちも排除してなんとかこの場を切り抜けることに成功した。
「ヨシュア君、さきほどは助かった」
「いえ、騎士として当然のことをしたまでです」
「助けてもらった礼というわけではないが、これを持っていたまえ。多少の身の護りになるだろう」
 ラルヒーは、身を守ってくれた礼としてヨシュアに自分が持っていたプロテクションリングを手渡した。ヨシュアは、深々と頭を下げてそれを受け取った。

 その後も、何度か地に住まうモンスターに襲われたが、一行はなんとか戦いを切り抜けていく。
「なんだこれは‥‥氷の中に‥‥」
 先頭を歩いていたクロックが、最初に気付いた。鍾乳洞の奥まった所に、大きな氷の固まりが存在していた。そして、その氷の中には‥‥。
「綺麗な方ですわね‥‥」
「でも、なにか抱きかかえてるような‥‥手!?」
 長く美しいブロンドの髪。身に纏った銀の鎧から伸びる、透き通るほど白い美しい肌。整った容姿は凛々しくも美しい。氷の中には、美しい女性騎士が閉じ込められていた。そして、その腕の中には、あまりにも生々しい褐色の人の腕が抱きかかえられている。その様子に、驚きの声を上げるメアリとセピア。
「まるで、生きているような感じだね」
「あの‥‥もしかして、アイスコフィンでは‥‥」
 カインの呟きに、エスナがハッと気付いたように声を上げる。彼女の習得している魔法アイスコフィンは、生きたまま生物を氷の中に封印することができるのだ。
「ならば、早く助け出しましょう! ラルヒー様?」
「あ‥‥そ、そうだな。もしかすると、彼女は古代より封じられ、その知識を我々にもたらしてくれるかもしれない‥‥」
 ヨシュアに声をかけられ、氷の女性を見つめていたラルヒーは、ハッとなって封印を解くように指示した。
 氷は周囲の気温のために、自然解凍することはない。しかたがないので、カインのバーニングソードで溶かすことにした。
「氷が溶けます‥‥」
 炎の熱によって、溶けていく氷。やがて人の重みに耐え切れなくなった氷の棺は、音を立てて崩れていく。
「うわっとと‥‥!」
 封印が解け、倒れこんでくる女性を抱きとめようとしたラルヒーであったが、勢いに負けてそのまま倒れこむ。
「う‥‥ペリノア‥‥さま‥‥」
「え‥‥」
「ここは‥‥? 私はいったい‥‥?」
「だ、大丈夫か?」
「貴方は‥‥?」
「私はラルヒーというものだが。す、すまんがそろそろどいてくれないかな」
「え‥‥きゃぁ! も、申し訳ありません!」
 すぐに意識を取り戻した女性は、見知らぬ場所を見るように辺りを見回す。下敷きにされたラルヒーに気付くと、慌ててその場を飛び退いた。
「あら、お株を取られちゃったわね。それはともかく、私はセピア。あなたは?」
「え‥‥あ‥‥その‥‥わかりません‥‥」
「はい?」
「申し訳ありません‥‥思い出せないのです‥‥なにも‥‥」
 セピアの問いかけに、顔をしかめて何かを思い出そうとするも、困ったように首を横に振った。
「じゃあ、あなたが大事そうに抱きかかえているそれも?」
「こ、これは‥‥わかりません、でも何かとても大切なもののようで‥‥」
「記憶が無いのか‥‥」
 いまだに彼女が抱えている腕に関しても何も思い出せない様子。彼女は全ての記憶を失っていた。助け出したはいいがどうしたものかと顔を見合わせるクロック達。
「彼女は私が引き取ろう。私に任せてもらえないだろうか?」
「しかし‥‥」
「責任は私が取ろう。彼女の記憶を取り戻すために手は尽くしてみるつもりだよ」
「あ、あの、私もこの方といればなにか思い出せるような気が‥‥」
 ラルヒーの申し出と女性の希望により、女性はラルヒーが引き取り、記憶の回復を待つことになった。
 その後、洞窟を抜け出した一行は、他の冒険者との報告で『腕はクエスティングビーストの一部』ということを知らされた。果たして、そのような大事な物と共に封印されていた彼女はいったい何者なのだろうか‥‥。