殺し屋稼業外伝

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 19 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2005年06月23日

●オープニング

 六月に入った或る日、冒険者ギルドに野村助右衛門の妻、お勢が一人娘を伴って訪れた。
 二人は旅姿で、これから江戸を発つ様子だった。
「‥‥その節は大変お世話になりました」
 手代がどこへ行くのか尋ねると、郷里に戻るのだという。親娘の表情は明るいとは言えず、ことに娘の方は暗い顔をしていた。
「‥‥」
 お勢は手代に何か言いたげだったが、言わずに挨拶だけで去った。
「ふぅ」
 二人が去ってから、台帳を開いた手代は息を吐いた。助右衛門の事件は未解決のまま闇に埋れた。それに呼応するように関係者達が江戸を離れる。薬売りの重蔵は京都へ旅立ち、久地藤十郎は北陸の某藩に仕官が決まり、商人殺しの犯人と目されていた菅谷左近も姿を消したままだ。恐らくもう江戸には居まい。
「‥‥」
 江戸に残っているのは依頼を受けた冒険者達と元岡引の千造くらい。あとは関係者と言っても、野村事件に関わりのない者達ばかりだ。
「もう、おしまいですかね」
 仕事になりそうなら無理矢理でも依頼をこじつける手代も、関係者の殆どが江戸を離れた今となっては、この先に何かがあるとは思えない。

 そう思っていた矢先である。
「仕事を頼みてぇ」
 人相の良くないチンピラ風の男がギルドにやってきた。
「はいはい、どのような仕事でございましょう」
 営業スマイルで応対した手代に、男は周りを憚る低い声で言った。
「殺しだ」
「‥‥」
 手代の脳内を既視感が襲った。最近こんな輩ばかりだ、そう思うのは疲れているのか。しかし、噂ではギルドの係員の中にも裏で如何わしい仕事を斡旋している者もいるとか居ないとか。
「本当は鴫の伝八に頼むはずの仕事なんだが、野郎が江戸を離れたもんだから代わりを探してるのよ」
 チンピラは勝手に話し出している。手代は伝八の名前が出た事に少し興味がわいた。
「鶸だか天狗だかって駆け出しもんがいるらしいが、そんな三一に務まる仕事じゃねえのさ。何しろ相手は侍だ、それも音に聞こえた剣の達人となりゃあ、伝八くらいの男が要る」
「ほほぅ‥‥」
 いたずら心が生じた。詳しい話を聞く。
 殺しの標的は、町奉行所の同心だった。名前は小宮久三郎、新陰流の皆伝だとか。
「何故、この侍を?」
「おっと、理由はきかねえ方がいいぜ。おめえさんだって、枕を高くして眠りたいだろ? 何も知らずに金だけ受け取るのが利口ってもんだ」
 手代は深くは追求しなかった。後で調べれば済むことだ。
 男は依頼料の事や繋ぎの付け方を言付けると、手代が承知したものと思ってギルドを出た。
「さて、どうしたものですか‥‥」
 町奉行所に届け出るのが一番手間がかからない。本来はそうすべきだが、野村兄弟の事を考えていたばかりだったので、違う気持ちもあった。

「小宮様という同心は、少し前まで街道の死人事件を追っていた方です。それが解決されて江戸に戻っておいでですが、何が原因で命が狙われているのか‥‥」
 手代は冒険者達を集めて依頼を説明した。
「まさかと思うが、俺達に人殺しをやれって言うんじゃねえだろうな?」
 手代は殺人依頼を受けた振りをしたと言った。
 あくまで振りである。
「探って、誰が何の為に依頼した事なのかを突き止めた上で、殺人を未然に防いで頂きたいですな」
 依頼人の男には仕事が終わるまで繋ぎは取れない。冒険者達は独自に調べるより無い。
 手代の調査では小宮は忙しい同心で、複数の犯罪事件を同時に担当しているらしい。そのどれかが命を狙われる事と関係があるのだろうが、何の事件を追いかけているかは不明だ。聞いても答えはしないだろう。
 少し気になったのは、例の首実検に関わった岸田湖平が何度か小宮の屋敷を訪れていた。岸田は侍ながら学者肌で、体制批判を憚らない男だ。最近は冒険者の危険性を訴えているというから、その件か。
「そうそう、話は変わりますが、千造さんが皆さんを探していましたよ。まあ、伝八の事件の愚痴を聞かされるだけだと思いますが、一応伝えましたから」
 手代は今回、野村事件に関わりのある冒険者をまず呼んだ。直接の関係は無いと思えるが、事件の類似性を気にしたのだろうか。
 さて、どうするか。

●今回の参加者

 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1636 大神 総一郎(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

片桐 惣助(ea6649)/ 黒畑 丈治(eb0160

●リプレイ本文

「今日は一段と景気の悪い面してるじゃないか?」
 冒険者街近くの安酒場でフレーヤ・ザドペック(ea1160)は千造を見つけた。
 酒で濁った目をした千造はフレーヤの登場に舌打ちする。
「おめぇも大概に趣味が悪いぜ。またこの俺を嬲ろうってのか?」
「そいつは自意識過剰だな。ま、旦那の腕をこのまま腐らせるのは勿体無いと思っているのは事実だが‥‥話ぐらいは聞けよ?」
 フレーヤがギルドに持ち込まれた依頼について話すのを、千造は詰まらなさそうに耳を傾ける。
「俺は殺しの依頼はフェイクだと思ってる。深く関われば大怪我だが‥‥」
 千造は話しているフレーヤの肩を掴んだ。
「おい、おめぇ‥‥俺は十手を頂いていた男だぜ。分かって喋ってるんだろうな」
「そのつもりだ」

 能役者の大神総一郎(ea1636)が飲み屋を見つけたのは、フレーヤより一刻ほど遅かった。
「‥‥失礼、ここに千造親分がいると聞いたのだが?」
「千造ならさっき、冒険者の女が来て一緒に出て行きましたぜ」
 総一郎は店主に二人がどこへ行ったのかを聞いたが、飲み屋の店主は首を振る。
「ふうむ、出遅れたか。しかし、目的は同じはず‥‥先に同心と話してみるか」
 総一郎は千造の代わりに彼の仲間の二人から聞き込みで得た情報を元に、殺しの対象とされている小宮久三郎に直接会いに行った。

 ギルドのそば、小料理屋の奥。
「仕事を請け負っても良いが‥‥」
 気難しい顔で、侍の結城友矩(ea2046)は依頼人であるチンピラ風の男を見据えた。
「へえ‥‥」
 チンピラの目は結城と、その横の浪人、秋村朱漸(ea3513)の姿を交互に見ている。
「小宮の腕は皆伝だとか。しかも切れ者と評判だ‥‥提示された金額では明らかに不足だ。せめて倍の金額がほしい」
「へ‥‥なんだとぉ?」
 結城が真顔で倍額を所望するのに、チンピラは青筋を立てて侍を睨み付けた。
「おいおい、冗談じゃねえぜ? あんな端た金じゃあ、とてもじゃねぇがワリに合わねぇんだよ」
 朱漸は刀の鍔に手をかけて凄む。
「結城の旦那も倍額なんて勘弁してくれよ。今日は二人で百は貰うつもりで来てるんだぜ」
「調子に乗るんじゃねえや、どサンピンが」
 チンピラは鼻で笑って片膝を立てた。
「どこの世界に倍だ、百だと言われてハイそうですかと言う奴がいるかよ。話にならねえ、くだらねえ与太飛ばしやがると、ただじゃ済まさねえぞ」
 二人の武士はチンピラの返答に一瞬、顔を見合わせる。
「前金15両、後金で35両だ。今すぐは無理だろうから二日後に改めて返事を聞かせてもらおう」
 友矩はチンピラの発言を聞いていなかったかのように淡々と条件を提示した。
「‥‥おいこら、人の話聞いてねえのか」
「アァーーーーーン!!?」
 息巻くチンピラに、朱漸が半身を抜いて威嚇する。その声に驚いたものか、廊下を通っていた女中が何かを落す音が聞こえた。朱漸は舌を鳴らした。
「チッ‥‥おい、俺等にゃお前さんがどんなヤツかはどうでも良いんだ‥‥金さえくれりゃあな。だがよ、相手がアレだろ? 今すぐに正味の返事は出来ねぇし、仕事料も安すぎるんだよ」
 二日時間をくれと朱漸は言った。チンピラは考える風な顔をしたが、下卑た笑い顔を浮かべて言う。
「するってえと、俺の金額じゃ受けられないってことだな。いいぜ、だったらこの話は無しだ」
 ジャキッ
 立ち上がって出て行こうとしたチンピラの首筋と股の間に、友矩と朱漸の刀が当てられる。
「今更、無かった事にはさせぬ。どうしてもと言うなら、小宮の代わりにお前を死体に変えてやろう」
「ま、待てっ! 早まるんじゃねえ‥‥俺をやったら、二度と仕事は出来なくなるぜ」
「知るかよ。どの道、金は入らねえーんだろ。だったら、お前の懐の銭で我慢するしかねーじゃねえか、アア?」
 朱漸は首筋にあてた霞刀に少し力を入れた。押し付けられた刃の冷たさと死の予感にチンピラの声は上ずった。
「わ、わかった‥‥金は、何とかする」
「最初からそう言やいいのさ」
 イヤらしい笑みを張り付かせて、朱漸は刀をひいた。
(「まるでゴロツキのやり方だが‥‥」)
 小料理屋の庭に隠れていた氷雨雹刃(ea7901)は、二人と別れたチンピラ風の男の後を尾行した。

「結局、何も分からないまま終わってしまったな‥‥」
「感傷かな。物思いに耽るのも結構だが、今が依頼の最中だという事を忘れてはいかんよ」
 ゲレイ・メージ(ea6177)は愛用のパイプをふかせつつ、思案顔の飛鳥祐之心(ea4492)に近づいた。
「俺達がもっと上手くやっていたら、今頃事件は解決していたかもしれない‥‥ゲレイ君はそうは思わないか?」
「思わないな」
 名探偵気取りのゲレイは横を向いて紫煙を吐き出し、言った。
「オタクの事は分からないが、私は常に真実を探求している者だ。事に当たってはいつも細心の注意を払い、何事も見逃すまいと用心しているが、それでも真実にはなお遠い。だが」
 ゲレイは祐之心を見上げて言葉を続けた。
「諦めた事は無い。今回の黒幕は、野村助右衛門殺しもやらせたかもしれん‥‥勿論違うかもしれんが、私にとって事件はまだ途中だ」
 このウィザードの青年は本人の自覚ほどには探偵として優秀ではないかもしれないが、闘志は持っている。
「そうだな、君の言う通りだ」
 祐之心とゲレイは山本建一(ea3891)の助力を得て、三人で岸田湖平の事を調べた。
 岸田の家は番町の屋敷街にある。一応は侍の身分だが、家を見る限り裕福な方では無い。
 湖平は結構な年齢だが独身で、近所でも変わり者で通っている。
「して、岸田殿にどのようなご用件かな?」
「私は日本の勉強をしております。それで彼が高名な学者だと聞いたものですから是非一度お会いしてみたいと思った次第です」
 ゲレイは流暢な日本語で話した。岸田への聞き込みは周りが同輩の武家屋敷ばかりなので捗らない。建一と祐之心は別の方向から調べた。
「ギルドの記録を調べても、岸田の記述はありませんね」
 山本建一はまず冒険者ギルドの書庫を探したが、自分達が関係したあの依頼を除けば、岸田が冒険者と関係した記録は残っていない。
「だけど、岸田は冒険者批判を行っているのですよね。そんなに首実検が気に入らなかったのでしょうか?」
「覚えていますか、あの後にバードが1人殺されたのを。天誅という名目で‥‥私達は事件を解決しようとしていますが、私達が事件を引き起こすこともあるでしょうね」
 祐之心は建一に町奉行所に付き合って欲しいと言った。
「いいですよ。今回私は貴方とゲレイさんのお手伝いですから」
 建一は快く承諾する。彼は飛鳥やメージよりも年上であり、腕も名声も二人より高い実力者だが少しも驕る所が無い。数多くの依頼をこなすベテランらしい余裕があった。

「探したぞ」
 野乃宮霞月(ea6388)がフレーヤと千造を探した時には、二人が酒場を出てから一日以上が経っていた。
「おや、野乃宮。何か用か?」
 フレーヤの素っ気無い返答に、霞月は息を吐く。
「珍しい老酒が入ったので、千造の旦那と一緒に飲もうかと思ったんだが‥‥それはまたの機会にしよう。話はフレーヤから聞いているかね?」
 霞月は二人を探す間に色々と推理していた。千造の目が濁ってないのを見て、前置きは省いて本題に入る。
「いぎりすの吟遊詩人殺し? 下手人はまだ捕まっちゃいねえが、ありゃあ伝八の仕業じゃねえな。手口が違う」
 千造は聞きかじりでバード殺人の事を教えた。
「下手人は武芸者だな。バードを一撃で気絶させたあと、首を掻っ切った‥‥その時には俺はそれ所じゃなかったが、俺が担当してりゃあ一発で解決したのにな」
 ちょうど首実検のあとで千造は十手を奪われて飲んだくれていた時期だ。
「旦那は何か知っているのか?」
「知っちゃいねえが単純な事件だ。いぎりす渡りの詩人なら容疑者は絞られてくらあ。下手人は冒険者か仏の関係した仕事の関係者に間違いねえだろう。適当なのを牢に入れて石でも抱かせりゃあいい」
 千造は意地の悪い笑みを浮かべた。一瞬、霞月にはその意味が分からなかった。逆を言えば、バード殺人事件を調べた者はそれをしなかったと言いたいのだろう。それは何故か。
「岸田湖平ならこう言うだろう、それは冒険者だからだとな」
 言ったのはフレーヤ。冒険者の中には名の売れた武士や僧侶、外国の騎士もいて、一方で正体の分からない忍者や殺し屋、渡世人など、危険度の高い有象無象が集まっている。最近は江戸の妖狐退治、那須の騒動、京都の亡者など大事件に冒険者が関わる事も多くなった。表立っては言わなくても町奉行所には冒険者相手の事件は敬遠する向きもあるという話だ。
「きな臭いな。どうあっても冒険者を殺し屋にしたいようだ」

 少し前、フレーヤと千造は番町の岸田家を張り込んでいた。関係者との接触を期待したが。
「それがしに何用でござるかな?」
 岸田の方から声をかけられた。フレーヤの風貌は目立つし、千造の顔は岸田が覚えていたから仕方がない。
「実は、小宮様が命を狙われておりやす。あっしらはそいつを食い止めてぇ」
 フレーヤが何か言う前に千造が喋っていた。元岡引の千造、軽口で知られた男である。
「なに!? 戯言であれば只ではおかぬぞ」
 岸田の驚きは、フレーヤの見るところでは本物に思えたが。

(「どうして、こんな事になるのだろう‥‥」)
 祐之心は岸田家の座敷に正座させられて、自問自答した。祐之心と建一、ゲレイは町奉行を訪ねる所だったが、その直前に湖平に捕まり、彼の家まで連行された。
「おぬしら、それがしのことを調べて回ったそうだな」
 岸田は長屋で祐之心達が聞き込みをした事を問質した。
「愚物が! それがしを知りたければ、真っ先に此処へ来るのが筋である。影でこそこそと嗅ぎ回るのは邪な考えあるに違いあるまい」
 同じ部屋にフレーヤと千造もいて、同じように座らせられている。察するにこの二人から今回の一件をもう岸田は聞いているようだった。
「調べていたことは弁解しない。だがそれも事件捜査のため、ご容赦願いたい」
 祐之心は落ち着いた口調で言った。何を聞かれても捜査上の秘密で通すつもりだった。
「‥‥出て行け!」
「ちょっと待った」
 このまま放り出されたのでは出番が無くなる。ゲレイは手をあげた。
「悪いけど、おたくは怪しい。ここで追い出しても、私達はまた調べるよ。それより身の潔白を証明したらいいんじゃないか」
 言っては見たものの、岸田に何をどう聞くかは考えていないゲレイである。
 その頃、岸田家を射程に入れて物陰でバード殺しの犯人を指定してムーンアローを唱えた霞月は自分で矢を受けて小さな声をあげた。ついでに助右衛門殺しと牢獄殺人もやってみるが結果は同じ。
「イタタ‥‥仕方ない、乗り込んでみるかね」
 フレーヤから岸田の事を聞いていた霞月は、自分が「首実検の実行は俺だ」と言えばどんな顔をするか興味があった。実行した。
「きーさまかぁぁっぁっ!!」
 湖平は霞月が名乗るや否や踊りかかり、長身の霞月の首を力一杯締めた。すぐ近くにいた仲間たちの助けが無ければ、絞め殺されていたかもしれない。

「なんじゃ、そりゃ?」
 秋村は祐之心から岸田家の話を聞いて、膝を叩いて笑い転げた。
「そんなに面白いですか」
「面白かネェ‥‥大の男が雁首揃えて何やってんだと俺は嘆いてるぜ」
「‥‥」
 秋村と結城は再び依頼人に会う為に小料理屋に来ていた。飛鳥は助っ人だが、話を聞いて気色ばむ。
「そこまで脅したなら、その男、もう姿を見せないんじゃないか?」
「来なかったら人を殺さなくて済む。来たら俺の懐が膨らむ、そんだけの事だぁな」
 朱漸にとってはどちらでも良い。
「小宮という男‥‥直接あってはいないが悪い男では無いようだ。同門の誼もあれば、斬らせる訳にもいくまい」
 結城は仲間達の調査で得られた情報から、小宮が少なくとも悪徳同心ではない事に納得していた。
「大神さんが調べてくれた話では、優秀な同心のようだ」
 大神総一郎は町奉行所に小宮を訪ねて本人と会った。
「実直で疑り深く、さりとて人当たりは悪くない。優秀な人物と思えましたが」
 刑事事件を扱う同心だけに、誰に恨みを買っているかは分からない。まさか本人に直接聞く訳にもいかなかったと大神は言ったが、岸田から小宮に事件の事が露見するのは明らかだった。
「岸田は何の為に小宮を訪ねてたんだ?」
「友達だそうですよ」
 小宮が冒険者に関わる事件を受け持ったというので岸田は話を聞きにいったらしい。小宮に確認した訳では無いので裏は取れていないが。
 話しているうちに依頼人が現れた。
「てめぇら、仕事はちゃんとやるんだろうな?」
 疑いの目を向ける男に、結城と秋村は顔を見合わせる。
「ああ、決めたぜ。じゃ‥‥まずは出すモン出して貰おうか?」
「へ‥‥」
 座ろうとした男の足を友矩が太刀で払った。横倒しになった男の呆気に取られた顔を朱漸が蹴りつける。
「ぐふっ」
「言ったろうが? 金さえ貰やぁどうだって良いんだよ‥オマェなんかなァ」
 仰向けになった男の腹に朱漸は刀の先を叩き込んだ。
 懐をまさぐって金袋を取り出した朱漸はニヤリと笑い、昏倒した男を蹴る。
「あとは任せるぜ」
 結城と飛鳥は男を奉行所に突き出した。
 今頃は依頼人は己が殺そうとした小宮同心に尋問されている事だろう。