殺し屋稼業・八 万華鏡

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月18日

リプレイ公開日:2005年04月23日

●オープニング

「実は私は殺し屋で、これまで殺めた人数は四十八人。法で裁けぬ悪党を、ずっとこの手で始末して参りました」
 薬売りの重蔵が冒険者と話をしている。
「日本橋の信濃屋主人殺し、本所の鶴田五六左衛門殺しは私の仕事です。牢獄で手下、与吉を殺したのもこの私です。与吉には悪い事をしましたが、私の事を喋る寸前でしたので仕方なく」
 重蔵の告白は続く。
「闇商売の私がここまで話したのは左之介さんが只者じゃないと見込んだからだ。実は、名は明かせませんがある人から岸田湖平の始末を頼まれていまして、しかし私は動ける身体じゃありません。どうか代わりに岸田を始末してはくださいませんか?」
「よく話してくれたぜ」
 聞き手の冒険者の顔は笑っていた。

 さて、そんな事があってから一月以上が過ぎた。
 あれから重蔵は冒険者に殺し屋の話をしたのは嘘だったと云わんばかりに普段と変わらず生活し、殺しの話を向けても素知らぬ顔である。
「あの男はそういう男だ」
 一方、首実検を妨害した菅谷左近については、浪人達を率いて野盗団紛いの事をしている所までは判明したが、今は騒ぎの後でほとぼりを冷ましているのか影も見えず、手繰り寄せる事が出来ない。
 そうこうするうちに事件から日が経ち、新しい依頼も出ず、捜査はここまでかと冒険者達も思い始めた頃。


「依頼の話ですよ」
 ギルドに立ち寄った所で、いつもの手代と目があった。手招きされる。
 依頼の説明は外でと言われて、教えられた料理屋に行くと、集まっている顔ぶれは見知った者ばかり。
 否、一番奥に一人見知らぬ女が座っていた。二十歳過ぎの年増で、一見して客商売風である。
「はぁ。どちらさんも立派なお人ばかりだねぇ」
 依頼人の女性は伝八と名乗った。総毛立つ冒険者達を眺めて悠然と微笑む。
「仕事を頼みたいのさ。狙う相手は菅谷左近、野村兄弟殺しの犯人だ。異存は無いだろう?」
 伝八を名乗る女は、冒険者達に喜三郎の兄殺しの犯人は野村兄弟と菅谷だと語った。菅谷はその件で助右衛門を強請って仕事をさせていたが良心の呵責を感じた助右衛門を殺し、また兄殺しを菅谷の仕業と気づいた佐太郎を返り討ちにしたのだという。
「何故、貴様がそんな事を知っている?」
「それはあたしが喜三郎に頼まれた殺し屋だからさ」
 女は冒険者に菅谷を討てと依頼した。自分一人では菅谷を討てそうもない、しかし冒険者達の実力なら隠れ家を強襲すれば勝てるだろうと言った。
「断っておくけど、この事は誰にも言うんじゃないよ? 菅谷の隠れ家はあたししか知らない。ギルドや奉行所に告げ口したら分かるし、その時は菅谷を倒すことは出来なくなるからね」
 冒険者の何人かはこの場で捕えて吐かせれば済む事と思ったが、何の準備もなく来たとは思えず自制した。

 ギルドに戻ると手代が呼び止めた。
「どんな仕事の話でしたか?」
「‥‥小鬼退治だ」
 女から聞いた嘘の依頼だ。
「ふーむ、そうですか。何か訳ありと思ったんですがね」
 さて、どうするか。

●今回の参加者

 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「良いか?」
 身を乗り出して秋村朱漸(ea3513)は念を押した。
「間違っても濡らしたり破いたりすんじゃねぇぞ? 必ず返せよ? 良いな?」
「ああ、間違い無く返すよ。これでもそれの扱いは心得ているからね」
 野乃宮霞月(ea6388)は苦笑して、朱漸から巻物を受け取る。
 それが依頼初日の事である。

●菅谷夜襲
 作戦は単純明快。
「正面は拙者に任せてもらおう。万一奴を取り逃がしそうな場合は頼む」
 純白の武者鎧に身を包んだ結城友矩(ea2046)が先陣を切る。
「では俺達は裏手から忍び足で近づき、結城殿が討ち入って敵が乱れたと同時に斬りこもう」
 飛鳥祐之心(ea4492)が言って、秋村がそれに頷いた。
「正面と後ろか、それで私はどちらに入ればいいかな?」
 ゲレイ・メージ(ea6177)が聞くので、飛鳥のサポートに回って貰う事にした。
「私は結城さんの背中を守って戦いましょう」
 忍び足に自信がなく、結城同様に武者鎧を着込んできた山本建一(ea3891)は正面に加わる。これで正面2:裏手3で合計5人。
「あんたはどうする?」
 依頼人である女伝八は黙ったままの神聖騎士を見た。
「ん‥‥俺は隠密行動は苦手だが、かと言って正面から突撃するほど腕に自信はない。裏手側の二番手にさせて貰おうか」
 ティーゲル・スロウ(ea3108)は言った。
 なお襲撃に伝八は加わらない。暗殺者である自分が力技の夜襲に加わっても痛い目を見るだけだからと言った。冒険者達は不満だったが文句は言えない。彼女は仲間でも同僚でもなく、依頼人なのだから。
 この怪しい依頼を引き受けるまでに、当然悶着があった。

 女伝八と最初にあった後、突然の話に疑心暗鬼の渦に叩き込まれた冒険者達は一旦別れたが、ギルドの一室で落ち合った。
「伝八を名乗る女か。怪しい、怪しすぎる」
 だが、と結城は続けた。
「菅谷へと繋がる糸はこれしかない。あえて火中の栗を拾う、それしかないのだ」
 快刀乱麻の故事もある。一つ一つの謎や疑惑にかかずらうより、ここは実を取り、一刀両断にすべきと結城は意見を述べた。
「だけどよぉ、あの年増‥‥俺達をハメようとしてんじゃねえか?」
 朱漸が言う。
「罠にかけようって相手の策に乗るって事だよな。ラクな話じゃねえぜ?」
 否定的な事を言っているが、朱漸は菅谷襲撃に加わる気でいる。色々と策は巡らすが、座して待つよりは斬り合いが好きな性分だ。
「‥‥俺も、何が真実かはっきりとしないが、菅谷も放っておいて良い相手ではないしな。‥‥ここはあえてあの依頼を受けるしかないだろう」
 祐之心も襲撃に賛成し、積極的な反対も無いのでひとまず依頼は受ける事にした。他に攻撃魔法を使えるからとゲレイと、最初から決めていたような山本が参加した。
「しかし、随分と面白いことを言っていたな。あの女‥‥」
 襲撃には不参加のフレーヤ・ザドペック(ea1160)が言う。
「だが疑問もあったな。事件の関係者には間違いないとして、どの縁だろう?」
 まさか部外者とは考えられないが、背後関係が読めない。
「それは俺も感じた。俺には菅谷が野村兄弟を暗殺で手にかけたとは思い難い。彼ならば刀で斬れば良いのだし‥‥それに堀田さんの話を聞く限りでは、重蔵さんが伝八だと思いますし‥‥」
 祐之心に云われて、堀田左之介(ea5973)は頭をかいた。
「そうだなぁ。異論もあるだろうが、重蔵の事は俺に任せてくれねぇか? あれから何の連絡もねえし、探りを入れて見るからよ。女の方は、良く分からねえから皆に任せてぇ」
 左之介は薬売りの重蔵から聞いた話を仲間達に話していた。
 二人の伝八、共謀しているとは思えないからどちらかが偽物という事になる。
「そうだな、全て嘘だと蹴るには内容が核心に触れすぎている。俺も襲撃からは外させて貰おう。出来る限り、裏は取っておきたい」
 野乃宮はそう云って、その日のうちに秋村からムーンアローの巻物を借りた。気になる事があるからとフレーヤも襲撃組から外れた。
「迷探偵、何かいい知恵は無いかよ?」
 朱漸がゲレイに振る。
「フッフッフッ」
 ウィザードは煙管を吹かせて良い気分で思案する。
「おたくはまだ何も分かっちゃいない。真実は一つです」
「だからそれを聞いてんだろうが」
「だからそれを調べるんでしょーが」
 ゲレイが秋村にボコボコにされたが、それはさて置き、冒険者達はそれぞれに推理はしていたが確証はもてなかった。
「ちょいといいか」
 長屋へ戻る左之介に秋村が声をかけた。ちなみに、その後ろではゲレイの傷を野乃宮が回復させている。
「あの薄ら蜻蛉みてぇなの‥‥そうそう、島田ってヤツには注意しろよ。奴は恐らく、岸田が遺した目付け役だ」
「考えすぎじゃねえのかい」
「マジで言ってんだぜ。それどころか、あん時の意識返しが実はマジだってんなら‥‥」
 島田が殺し屋という可能性も出てくる。
「‥‥殺し屋なんてよ、案外そこら中ゴロゴロしてんのかもな?」

●事の表裏
「‥‥ん?」
 町奉行所の側でフレーヤは顔見知りに声をかけられた。
「こんな所で何してやがるんだ、おい?」
「なんだ、旦那か‥‥」
 それが元岡引の千造と気づいてフレーヤは緊張を解く。職場復帰を目指して活動中なのかと思ったが、少し様子が違う。
「ま、いいや。好都合だぜ、ちょいと付き合いな」
 嫌な予感がした。
「‥‥うっ! 持病の癪が‥‥」
「こりゃいけねえ。おい薬は持ってるのか?」
 フレーヤが無いと答えると千造、駕籠を呼んできてそれに彼女を乗せた。
「‥何を?」
「ちいと揺れるが我慢してくれ。医者はすぐそこだからよ」
「じっとしていれば直に治まるから」
「馬鹿野郎、そういう我慢が一番からだに良くねえんだ」
「‥‥治りました」
 町奉行所の前で、そんな事があった頃、野乃宮は書家の家を訪れていた。筆跡鑑定を行いたいが自分だけでは自信がもてないので意見を聞くためだ。
「どうでしょうか?」
「違いますな」
 持参したのは首実検に遺された書き置き、佐太郎殺しの時の投げ文、それに野乃宮が集めた関係者の筆跡。
「わざと字形を変えている事はありえませんか?」
「それではお手上げです。書風はなかなか変えられぬものですが、短い文では見分けはつきません」
 しかし、首実検の書き置きは達筆で、投げ文の筆は拙い。少なくともこの二つは同一人物では無いだろうと書家は言った。
(「こうなれば巻物に頼るしか無いか。‥‥しかし、やれやれ」)
 霞月は出来ればムーンアローは使いたくないようだった。乱暴な方法である事は間違いないし、首実検で懲りているのかもしれない。

 背後から殺気を浴びせてみたが、反応は無い。苦笑して声をかける。
「おや左之介さん」
「ちょいと話、いいかい?」
 長屋に戻った左之介は、重蔵に接触した。
「重さんが俺をかってくれたのは正直嬉しいぜ。でもな、ひとつだけ俺を侮ってるんじゃねぇかって、な」
「何の話です?」
「とぼけんのは止めようぜ。時間が勿体ねえ‥‥殺しの事だよ」
 左之介は構わず話した。重蔵が玄人の暗殺者であり、自らを見込んで暗殺代行を頼むのなら手順を省いていると。依頼人、殺しの理由、仕事料、それも知らせずに仕事は出来ないと。
「依頼人に面目ないってのも判るが、大事な仕事をただ「やってくれ」で、重さんだったら受けるのか? 納得の上でうけてぇと思うだろ」
「随分と、甘いことを仰いますね」
 重蔵は微笑した。
「左之介さん、私の話を誰かに話しましたね?」
「馬鹿言っちゃいけねえ。俺の口はそんなに軽くはねえよ」
「あなたも大概にろくでなしですね。この稼業は信用が第一です。お気をつけなさい」
 信用とは約束を守る事で培われる。目先の損得で動く者にとって約束は破るものでしかないが、だからこそ守る者に信義が生まれる。それは同時にしがらみも生む事になるが。
「重さん、俺は‥‥」
「責めるつもりで言ってるんじゃないですよ。私もここらが潮時と思っていましてね、足を洗うつもりです」
「おいおい、それじゃ依頼の事は」
「そんなものは無かった、とお思い下さい。私もまた千造親分の鞭を受けるのは御免ですし」
 二の句が告げずにいる堀田だが、顔を歪めて重蔵を見た。
「俺は、状況次第じゃ受けてもいいと思ってたんだぜ。俺が間違ったのかもしれねえが、覚悟も決めてたんだ。今更無しにしてくれじゃ、幾ら何でも見損ない過ぎじゃねえか?」
「そんなに殺し屋になりたいんですか?」
「おおよ」
 重蔵は渋る堀田に名前を贈った。
「ひわの天狗?」
「ええ、伝九では語呂が悪いでしょう。殺しの二つ名を持ったあなたは立派な殺し屋です。世の為人の為に励んで下さい」
 思い切り馬鹿にされている気がしないでもなかったが、取り付く島の無い重蔵の態度に左之介は在り難く名前を受け取った。

「伝八ぃ、御用だっ!」
 フレーヤの襟首を掴み、昔仲間の十手を奪って、千造が長屋に乗り込んだ時には薬売りの重蔵の姿はどこにも無かった。住人の話では兼ねてから話のあった京都行きが漸く決まって、人足違いで旅立った後だった。
「旦那、職場復帰はもう少し先になりそうね」
「畜生ぅ、あの野郎‥‥」
 フレーヤは溜息をついた。何故こんな事になったのかと言うと、野乃宮が左之介から聞いた話を千造に話したからだ。

●始末
「伝八殿、ここだな奴の隠れ家は。拙者は貴殿が何を企もうが関係ない。菅谷を斬る。それだけだ。案内してくれて感謝している」
 結城の言葉に、女伝八は眉を顰めた。結城は本心から感謝しているらしく、それはひどく武士らしい考えだった。女殺し屋とは相容れない感性だ。
「ご武運を、祈ってますよ」
 女はその場を離れ、結城は山本と並んで菅谷の隠れ家に向う。
「俺も、ここまでだ」
 ティーゲルは女伝八を追跡する。
「結局、五人か。楽じゃねえよな、ホントによ」
 朱漸は吐き捨てる。たすきを掛けていた祐之心は朱漸の口元が楽しげに笑っているのを見た。自分も、戦場では同じような顔をするのだろうとふと思いが過ぎる。

 雄叫びをあげて突進した友矩は、あばら家から浪人達が出てくるのにニヤリと笑みを浮かべる。
「はぁぁぁっ!!」
 気合い一閃、近くの立ち木を太刀で圧し折った。
「何の意味があるんです?」
 同行する山本が聞いた。
「景気付けだ!」
 二人は正面から相手を引きつける役割だ。目立つ事は間違いではない。
「出て来い、菅谷! 今日は貴殿のそっ首貰い受けに来た。覚悟するがいい」
 倒れた木を障害として使い、まずは浪人二人を相手にする。山本も二本の刀を構える。
「思えば、いろいろありました。全てを、今この時に‥‥私の一撃、受けてみますか」
 隠れ家の前で戦いが始まると同時に、背後に回っていた朱漸と祐之心、ゲレイの三人が屋敷に飛び込む。
「堪んねぇなぁ‥オイ。もっと‥もっと斬らせろゴラァァーー!!」
「俺ぁ『野盗団』を討ちに来たんでぃ、野村兄弟殺しのこたぁ今は関係ねぇっ!行くぜ、菅谷ぁっ!」
「ウッフッフッ、モンスターに人権なーし!」
 ある意味、裏手側の三人は表の二人よりイッちゃった面子だ。
「愚か者どもが」
 菅谷左近が三人の相手をした。
「貰ったぁ!」
 祐之心は秋村と二人係りで戦えば、十分に勝てると踏んでいた。どんな達人でも、二対一では自ずと勝敗は明確だからだ。菅谷は二人に切りかからず、屋敷の明りを消した。
「私がこの者達の相手をする。その間に皆は逃げよ」
「きたねえぞ!」
 菅谷は目が良かった。それに隠れ家の中の間取りが分からない冒険者達は、三人がかりの有利を失う。
「おぬし達、誰の差し金で参ったのだ?」
「フッフッフッ、問答無用!」
 ゲレイは高速詠唱でアイスブリザードを放った。
「ば、馬鹿か、てめぇ!」
 浪人達と一緒に朱漸と祐之心も吹雪を浴びる。

 乱戦は菅谷側の撤退により、短い間に終わった。逃げる浪人達を追うには冒険者達は人数が不足していた。

「迂闊だったかな」
 女伝八を追いかけたティーゲルは途中で覆面の侍に襲われる。何とか急所は避けたが、腕を切り裂かれた。
「‥‥」
 無言で間合いを詰める相手に、ティーゲルは舌打ちした。神聖騎士として奇跡の力を行使する彼は、格闘戦はそれほど得意ではない。しかも相手はてだれのようだ。
(「こいつは嬉しくない結末になりそうだな‥‥」)
 そう観念した時に、近くであの女の声が聞こえた。不意に眠気が襲ってきた。忍者の術だと気づいた時には意識が混濁していた。
「‥‥殺すな」
「何故だ! ここで始末しておけば‥‥」
「‥‥終りにする‥‥ね」
 気が付いた時には仲間に助けられていた。

 釈然としないまま冒険者達はギルドに戻った。
 冒険者達に気づいた手代が声をかける。
「おやお早いお帰りですね。小鬼退治の仕事はどうでした? 皆さんなら、楽勝だったでしょう?」
「滞りなく、終わったよ」
「そうでしょうな」


とりあえず‥‥終り