かうんたーあたっく・八 押し込み強盗

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月20日〜04月25日

リプレイ公開日:2005年04月29日

●オープニング

 浪人達の口から、麻布の商人屋敷襲撃の事を聞いてから一月以上が過ぎた。
 焦れる冒険者達に繋ぎがつけられたのは、つい先日だ。
「準備が整った。お頭に合わせるから付いて来い」
「今直ぐか?」
「ああ、イヤだって言うならこの話は無しだ」
 冒険者に下手に時間を与えればどうなるか、山賊達は良く知っている。人を信用できない、裏稼業に身を置く者の習性と言ってしまえばそれまでだが。

「‥‥おぬしか、久しいな」
 案内されたアバラ家に山賊団の頭目、蛟の庚兵衛が居た。逃亡生活で幾らか痩せたが、剣気は衰えるどころか増して見えた。
「仕事をしたいそうだな。フン、宗旨変えか?」
 冒険者の二足の草鞋は珍しくはない。専業冒険者の方が少ないと云えるし、中にはギルドに隠れて殺し屋や盗賊を副業にする者もいた。庚兵衛は詮索はせず、手下の盗賊が計画を話した。
「時間と場所は当日連絡するぜ。それまで芝の河野屋って宿屋に泊まってな」
 河野屋というのは盗人宿なのだろう。皆までは言わないが、監視はされるだろうし、何か異変があれば計画は中止されるに違いない。
「分け前は働き次第だがな、おめぇらの実力ならギルドの仕事とは比べられねえ儲けになる。気張りな」
 説明はそれだけだった。
 山賊団の現在の規模は分からない。惣雲坊一派とは袂を分かったままのようだ。奇蔵の事を聞くと、盗賊は首を傾げたあと、既に目的の商家に入っていると答えた。
 さて、どうするか。

「お前達はやはり悪党だな。俺はそう確信したぞ」
 山賊団の調査を依頼していたパラ侍、戸川月斎は冒険者達に会うなり、そう断言した。
「言い訳はするな、見苦しいからな」
 戸川は以前に山賊団に入ろうとした事もあれば、潜入した事もある。しかし、商家に強盗に入るのは許せないらしい。
「それがお前達のやり方なら、好きにしろ。俺は止めん」
 町奉行所に届け出るのは、待ってやると戸川は言った。

「何か、ありましたか?」
 ギルドに顔を出すと、手代が声をかけてきた。ギルドは冒険者の仕事を斡旋するのみで、それ以外で冒険者が何をしていようが勝手だが、名の売れてきた冒険者の身辺が気にならないと言えば嘘になる。
「所で、惣雲坊が京都に行ったらしいですよ」
「本当か?」
「京行きの船で似た男を見たという人が居まして‥‥他人の空似かもしれませんが」
 ともあれ、京都の事は江戸ギルドがどうこう出来る話ではない。
「最近、京都へ行く冒険者が増えましてね‥‥ギルドが増えること自体は歓迎ですが」

●今回の参加者

 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3055 アーク・ウイング(22歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5943 鬼子母神 豪(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●虎穴
 河野屋に冒険者が集まるとすぐに、山賊団の使いの盗賊が現れた。男は険しい顔で冒険者達を見つめる。
「ひぃふぅ‥‥この前より人数がすくねえが。仲間を隠して俺達を出し抜こうったって、無駄だぜ?」
「堕ちても拙者は武士、そんな姑息な真似は致さぬ」
 浪人の鬼子母神豪(ea5943)が答えると、盗賊の男は頷いて冒険者達に自己紹介をさせた。
「心配は要らねえ。ここに居るのは仲間だ」
 他の客も全て手下なのか。河野屋は表向きは安宿だが、盗人宿としては比較的長いらしい。よく奉行所に見つからないなと聞くと、十手持ちに鼻薬を利かせているとか。江戸の街には、そんな折り合いの付け方があちこちに在る。
「漸皇燕(ea0416)だ。俺の事は、知っている奴にでも聞いてくれ」
 やる気が無さそうに皇燕は言うと、さっさと用意された床に転がった。傍若無人な振る舞いに盗賊達は何も言わないので、その程度でいいのだと判断できた。順番に自己紹介を続ける。
「あたいは御藤美衣(ea1151)。女だからってヤルときゃヤルから、甘く見たら痛い目見せるよ」
 美衣に続いて先程の豪が挨拶をした。
「拙者は‥‥」
「そっちの姉ちゃんの尻に敷かれた浪人さんだろ。知ってるぜ」
 盗賊の一部から笑いが起こった。
「‥‥でござる」
 豪と美衣は山賊団とは何度かやり合った仲だ。戦闘中に豪が散々喧伝しているので、二人の仲は彼らには既知の事だった。
「クリス・ウェルロッド(ea5708)、愛の狩人です」
 クリスの挨拶は淡々としていた。彼は今回の一件は罠では無いかと色々と警戒しているのだが、何気なく自己主張はしていた。
「‥‥」
 続く夜十字信人(ea3094)は無言。
「兄さんの番だぜ」
「‥‥下種に名乗る舌は持たん」
 その呟きにザワっと場の空気が変わる。
「信人さんっ!」
 クリスの声に夜十字は我に返った。山賊団の面々に囲まれて、つい己の思考に落ち込んでしまっていた。
「‥‥夜十字信人、浪人だ。宜しく頼む」
「まあな。色々とあったが、仲間に出来るなら心強いってもんだ。頼りにさせてもらうぜ」
 盗賊達はそれで納得したのか、緊張した空気は解けていた。
「アーク・ウイング(ea3055)、本業は学者なんだけど‥‥今受けてる依頼の都合で今回のお仕事に参加する事になりました。よろしく」
 まだ少年と言って良いアークは自分の参加を不審がられると思ったが、盗賊達は特に気にする風も無かった。子供の頃から裏稼業に手を染める者は居ない訳で無し、冒険者としてのアークの名声は高い。
「荒神紗之(ea4660)、酒さえ飲ませてくれたら三人分は働くよ」
 志士という立場だが酒と博打が好きな博徒の荒神は山賊団に馴染みそうだった。実際、彼女は依頼期間の大半を盗賊達と昼夜問わず賽を転がして過ごした。
「僕で最後か‥‥雨宮零(ea9527)、用心棒を生業にしています。若輩者ですが、腕は信用して下さい」
 他の面子はどこかで接点があったが、雨宮零は今回が初めて。盗賊達も売り出し中の冒険者くらいの知識しかない。
「腕に自信ありか。見せて貰っても、構わないかな?」
「見世物にするのは好きではありませんが、どうしてもと言われるなら‥‥」
 浪人の一人が立ち上がると、仕切り役の盗賊が舌を鳴らした。
「仕事の前だぜ? ‥‥顔合わせは済んだな、お前達も休んでくれ」
 河野屋には最初の日から四日間、滞在した。
 最初はぎこちないが、四日も一緒に居れば表面上は馴染む。皇燕や信人のように寝て過ごす者もいれば、美衣や豪、アークのように積極的に盗賊達に話しかける者もいた。

 冒険者達の関心は襲撃する場所と山賊団の人数、構成だ。河野屋には浪人が5人、猟師が2人、盗賊や博徒が8人いたが仲間は他にも居るらしかった。それを裏付けるように首領の庚兵衛や忍者の奇蔵は一度も姿を見せず、襲撃場所の事も知らない様子だった。
 不安を抱えながら、時間だけが過ぎていく。

●造反有理
「仕事は今晩だ。狙うは材木問屋の志摩屋」
 五日目に待ちに待った襲撃の知らせが届く。
「やっとかい。暇で暇で、死ぬかと思ったよっ」
 紗之はほくほくと笑みを浮かべた。盗賊達は博打に強く、意外に楽しめたようだ。
「‥‥とうとう来たか」
 盗賊と冒険者達の顔に一様に緊張が走る。
 深夜に河野屋を出た山賊団と冒険者達は少人数に分かれて、夜の道を襲撃場所に急いだ。
 志摩屋の寮で合流した時には山賊団は20人強に増えていた。
「屋敷内の人の数と配置を探りたいので魔法を使ってもいいですか?」
 アークはブレスセンサーの使用を求めた。許しを得て魔法を唱える。近くに30人前後の呼吸があり、寮にも10人前後の呼吸があった。その中に盗賊がいるかどうか、また配置までは分からない。
「どうだ?」
 聞かれたのでそのまま告げる。
「そいつは使用人と用心棒だな。予定通りの数だ」
 暫く待つと、数人の手下と庚兵衛がやってきた。
「頭、揃いました」
「‥‥よし」
 黒装束の庚兵衛が短く頷き、合図を出す。山賊団が一斉に商家の寮に押し入ろうとした瞬間。
「うぐぁっ!」
 悲鳴が上がった。皇燕が目の前にいた盗賊を不意に殴り倒していた。
「て、てめぇ‥‥裏切りか!」
「フン‥‥お前達だって俺たちのことは信用してはいなかっただろう?」
 皇燕の側にいた他の7人も戦闘体勢をとる。8人は全員、襲撃直前での造反を最初から決めていたようだ。
「馬鹿め‥‥」
 吐き捨てるように言って、庚兵衛は下がる。
「庚兵衛、貴様が相手ならば部の悪い賭けは重々承知! だがな、俺も詰まらぬ意地を持っている。‥‥一戦付き合ってもらおうか!!」
 信人がクレイモアを取り出して宿敵を睨む。信人の側には長弓を手にしたクリスが立った。
「少しはアテにしておいてやる。‥‥逝くぞ、相棒!!」
「何とも、褒めるのが下手だね。貴方も、私より先に楽園などに行って楽はしないでくれよ」
 山賊団と冒険者はそれまで一塊になっていたから、武器を抜いた冒険者に対して、まず盗賊達は距離を取った。また一部は寮の中に入る。寮の門を内側から開けた女が、走り寄って来る。
「いけないっ!」
 クリスの勘が危険を訴えて、背中から抜き取った矢を弓に番える。狙いもそこそこに女を撃った。
「‥‥っ」
 女は矢を受けて仰け反るが、手を前方にかざす。煙が起こった。
 眠気を誘う香りが辺りに立ち込める。
「う、あ‥‥」
 アークは真っ先に眠りに落ちた。彼は忍法に弱い。距離を取るべきだが、周りに盗賊が居てこの位置では後退もままならない。
「くっ‥‥奇蔵‥‥」
 信人の背に手をかけて、クリスも倒れる。皇燕、信人、紗之、零は耐えるが、美衣と豪も気を失う。
 冒険者達はいきなり窮地に立った。

●真夜中の激戦
「と、賊が‥‥盗賊だー!」
 山賊団と冒険者の耳に、塀越しに声が届く。寮の住人が黒装束の集団を発見したようだ。すぐに用心棒達が出てくるだろう。
「起きろっ! 立って武器を取れ!」
 紗之は倒れた美衣と豪の頬を平手で滅多打ちにした。
「急げ!」
 零は刀を振り回して仲間に盗賊を近づけない。春花の術は冒険者だけでなく、周りの盗賊も眠らせていたが盗賊は倒れた仲間を踏み越えて攻めてきた。
「闇路の片道‥‥覚悟はできているか」
 零は前に出てきた盗賊の一人を斬り捨てる。ちなみに結局、待機中に零は腕試しを受けていた。信人に次ぐ剣技を持つ彼を、盗賊達も警戒した。
 だが多勢に無勢だ。

 ごろっ

「クリスっ!」
 庚兵衛と対峙した信人は、クリスの首が血を吹いて転がるのを見る。浪人達の刃は、起き上がろうとしたアークをも襲った。
「クリス、アークっ!」
 美衣達を守っていた紗之が叫ぶ。周囲を見回すが、誰も援護にいけない。雨宮は浪人三人を相手に苦戦し、漸は少し離れた位置で盗賊に囲まれている。夜十字は頭目を相手にしている。
「あ‥あー‥‥っ」
 アークの視界が血に染まる。信人が庚兵衛に向うのが見えた。
(「ひとりじゃ、駄目だ。僕が‥‥誰か、援護、を‥‥」)
 少年の意識が途絶える。冒険者達が乱戦を選んだ時点で、防御力に劣る二人の犠牲は暗示されていたかもしれぬ。しかし、今は考える時ではない。全員が生死の境に居た。
「‥‥逃げたか」
 皇燕は春花の術を使った女を探したが、暗闇で人物の判別が難しい。仲間は特徴的な姿をしているので辛うじて判別できるが、それは山賊団も同士討ちを気にしなくて良いという事でもある。
(「潮時か‥‥」)
 視界の悪さ、一対多の状況、勝てる要素が見当たらない。一縷の望みがあるとすれば、それは‥‥。

「黄泉路への旅立ちをご案内仕る!!」
「聞き飽きたぞ、小僧っ」
 夜十字は庚兵衛と一騎討ちに持ち込んでいた。他の盗賊は手を出さない。長さ2mの大剣を振り回す夜十字に容易に近づけないのか、それとも頭目を信用しているのか。
「チェーッ!」
 これまで渾身の力で踏み込んでいた夜十字だが、今回は一撃必殺を捨てた。相手の動きを見ながら攻撃を重ねていく。
「‥‥ふん」
 庚兵衛は夜十字の大剣が体捌きだけでは躱せないと見るや、左右に足を使った。しかし、回避に専念する庚兵衛は自慢の双小太刀を使えない。
(「‥‥いけるっ」)
 夜十字はきっと腕が折れようと当たるまで攻撃し続けただろう。
(「俺はずっとアンタに対する畏怖と敬意を拭いきれなかった。けれど、今は‥‥俺は負けないっ」)
「貴様、つまらなくなったな」
 不意に庚兵衛の顔が近くに見えた。装備の違いが大きいが、庚兵衛は夜十字より速い。大剣の攻撃の合間を見つけて、小太刀がするりと信人の身体に伸びた。
「うわっ」
 反射的にクレイモアを引いて受ける。
 それが主導権を取られる切っ掛けだった。手数の多さは決定的な差ではない。しかし、相手の攻撃に合わせて戦うなら、夜十字の力より庚兵衛の経験が幾分か勝る。
「まだまだっ‥‥俺は、負けない!」
 劣勢を覆そうと夜十字は懐の人形を掴んだ。身代わり人形だ、叩き壊そうと人形を高く掲げる。
「馬鹿め」
 その隙を見逃さず、二刀小太刀が風を切った。

●終焉
 人形が砕け散った。
「‥‥ふぅ、良い物を持っているな」
 傷を回復させた庚兵衛は地に伏した夜十字を一瞥した。
「う‥」
「まだ息があるか。死んでおれ」
 小太刀で赤髪の浪人の首を掻っ切る。
「‥‥お頭」
 先刻寮の扉を開け、春花の術を使った女が庚兵衛の前に立つ。
「奇蔵か。おぬしの方はどうだ?」
「‥‥用心棒達は始末を」
 忍者は冒険者に術を放ったあと、寮に取って返し、屋敷から出てきた用心棒を眠らせていた。冒険者同様、仲間を眠らされて足並みの崩れた用心棒達は山賊団に蹂躙される。
「ご苦労」
 庚兵衛は寮の倉から千両箱を運び出し、急いで撤収した。

「次は拙者が相手でござる!」
 夜十字が倒された後、駆け出そうとした豪の身体を美衣が必死に掴んだ。
「だめ‥‥」
 止めなければ豪が戻ってこない気がした。
「趨勢は決したな。逃げるぞ」
 退路を定めていた皇燕が生き残りの仲間達を呼ぶ。
「だが!」
「迷うな。お前が死ぬのは構わないが、仲間を巻き込むな」
 冒険者達は血路を開き、後も見ずに逃げた。
 近隣の侍達が寮に駆けつけたのはそれから暫く経ったあとだ。庚兵衛達の姿はなく、先頭に立って誘導してきた冒険者達は荷車を引いていた。
「急げ!」
「落ちた首も忘れるな!」
 荷車に三人の死体を載せると、冒険者達はまっしぐらに江戸一番の寺院を目指した。
「‥‥このような夜更けに、埋葬ですか?」
「冗談を言っている場合ではない! この三人を、生き返らせるんだ!」
 紗之達は寺院に蘇生を依頼した。蘇生とは回復魔法の極致、人の身でこの奇跡の技を使える者は非常に希な高等魔術だ。
「‥‥しかし」
「あたいみたいな悪党じゃない。山賊団から町を守ろうとして命を落とした勇者だよ。救えないって道理は無いだろ!」
「死を受け容れてあげることは、故人の為でもあるのですよ」
「お金が足りないというなら、僕の金も使って下さい」
 仲間達の説得も空しく、腐る前にと遺体を入れる桶の手配までされた。その後、寮を襲われた志摩屋が冒険者の活躍を聞いて多額のお布施を出した。冒険者達の抗戦のお蔭か、倉の金が少しは残っていたらしい。寺院も不憫に思い、格段の配慮と僅かな布施で三人は蘇生された。
「俺は‥‥」
 甦った夜十字は床の上で静かに涙を流した。

おわり