かうんたーあたっく・七 安い仕事

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

 鬼骨坊騒動に一応の決着がついてから約一月。
 江戸に居た冒険者達はギルドに呼ばれた。
「例の山賊団の事ですが、手下の面体は見れば分かりますか?」
 手代の言葉に、何人かが苦笑いを浮かべる。出会えば即、斬り合いの関係だ。分かるかもしれないが、それほど自信は無い。
「実は戸川様が、ある場所で見かけたと申されまして」
 戸川月斎は山賊団絡みで冒険者が関わったパラ侍だ。先の騒動では敵味方に分かれて戦った。その戦いでの傷も癒えて江戸に遊びに来た月斎が、深川の岡場所で山賊団で見かけた男達とバッタリ出会った。
「見間違いでは無いのか? 他人の空似という事もある」
 山賊団は江戸を離れた筈だ。奉行所の追及を逃れようと思えば、今頃は別の場所で活動している方が自然だ。あれから数ヶ月が経ったが、ほとぼりが冷めたとはまだ言い難い。
「ま、それを確かめて頂こうとお呼びしたのです」
 手代は話しながら、煙管に火をつけた。
「仔細は戸川様から聞いて下さい。仕事料のことも」
 どこか投げ遣りに聞こえた。

「また会ったな、悪党ども」
 月斎は複雑な笑顔でそう言った。無理に笑おうとしたが、違った感情が混じったようだ。
「山賊団の浪人者を岡場所で見かけたと聞いたが」
「いかにも。俺はやつ等に顔を知られてる。そこでお前達だ」
 冒険者達も顔は知れていると思うが、それを言うと月斎は頷いた。
「そこは考えろ。変装するとか、何かあるだろう」
 戸川の話では先日、山賊団の浪人3人を見たらしい。戸川はすぐ姿を隠したので3人の方は戸川には気づかなかったようだ。近くの宿に入る3人の姿を確かめて、その足で戸川はギルドを訪れた。
「下っ端を捕まえても面白く無い。彼奴らの目的を調べて、頭の居場所を突き止めたい。手を貸せ」
 依頼料について聞くと戸川は難しい顔をした。指を一本立てる。
「一人十両とは剛毅な」
「わざと云っているな、全員で一両だ」
 戸川の手持ちは冒険者の予想を大きく下回った。手代が投げ遣りなのも当然。駆けだしでもその値段では雇われない。背後から手代が「断れ」と気を発しているのが分かる。
 さて、どうするか。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1290 狩野 響(43歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea3096 夜十字 琴(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5943 鬼子母神 豪(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

慧斗 萌(eb0139

●リプレイ本文


●見張り
「はぁ‥‥」
 寒い晩が続いた。春はもうすぐそこだが、寒風は身体に凍みる。
 十歳の夜十字琴(ea3096)は寒さと慣れぬ盛り場の空気に戸惑いながら、物陰に蹲って宿屋の二階を見上げる。視線の先には彼女達が監視する浪人者が居る。
(「‥‥お役に立ってみせますの」)
 琴を含め、金にならぬ仕事を請けた冒険者が10人。彼らはこれから何をするのだろうか。
「‥‥おい」
「ひぃやぁぁっ」
 緊張していた琴は背後から小声で話しかけられただけで腰が砕けた。よほど恐かったのか、目には涙が溜まっている。
「私だ。すまない、驚かせたか?」
 侍の天螺月律吏(ea0085)は琴に手を貸す。
「だが、琴殿も軽率だ。このようにあからさまでは、見張っている事を相手に教えているようなものだ」
「そ、そーでしょうか?」
 琴には分からない。だが見張る者が反対に見られていないとは言いきれない。相手に見張られる心当たりがあれば、尚更だ。
「もっと自然にな。ここに遊びに来たと見せるのが一番だが、琴殿にそれはちと酷か」
 律吏は苦笑する。彼女も男装して誤魔化してはいるが、琴には違った言い訳が必要だろう。
「へ、平気です。琴は、見つかっても逃げられますし、その‥‥囮ですから」
 琴の言葉に女侍は眉を顰めた。仲間達から作戦は聞いていたが不安は残る。相手が此方の思惑どおりに動くとは限るまい。しかし、既に動き出していた。
「‥‥だが危なくなったら本気で逃げろ。油断はするなよ」
「はいです」

「あたい達が見張ってるんだから、琴ちゃんには指一本触れさせないよ」
「勿論でござる」
 町娘に変身した御藤美衣(ea1151)と町奴姿の鬼子母神豪(ea5943)は付かず離れずの距離で琴を守っていた。更にその外を交代で三人の冒険者が囲んでいる。ちょっとした包囲網だ。
「所で、お前達はその浪人達を知っているのか?」
 この一件に関わるのは初めての律吏は聞いた。二人は顔を見合わせる。
「あたいは二人は見覚えあるかな。喋った事は無いよ」
「拙者は一人だけでござるな」
 さて、今彼らが監視している浪人だが、戸川月斎の話では蛟の庚兵衛に従った者達らしい。遠目に視認した感じでは、冒険者達の見解も戸川と一致した。名は知らない。
「腕はそこそこ立つよ。一対一ならいいけど、三人同時は辛いかな」
 10人で囲めば別だが今回は本気でチャンバラするほど仕事料が高くない。尤も、冒険者らの選んだ方法も十分におおごとに違いないのだが。
「確かに安い仕事だけど、転びようで我々に美味しい話となってくれたらいいのだがね」
 離れて見張る漸皇燕(ea0416)は小声で呟いた。不謹慎な話だが、厄介事が起これば高報酬の依頼が舞い込んで来るのも事実だ。

「それで何故、お前がここに居る?」
 天城烈閃(ea0629)は小柄に手をかける。
「呼ばれた。もっとも、俺に出来ることは無さそうだが」
 流れ者の戦士は表情を動かさない。この男、ヒース・ダウナーを呼んだのは狩野響(ea1290)だ。響はヒースに確かめたい事があったが、それは一言で否定された。
「念の為だ。奴らに逃げられぬようヒースと俺は後ろで待機だな。尾行ぐらいはと思ったが、俺の姿は隠しようがない。今回は後詰に回らせてもらう」
 響はジャイアントで、しかも江戸野郎浴衣に選ばれた事もある偉丈夫だ。岡場所に入って目立たぬ道理が無い。不向きな依頼と云えるが、仕事は最後まで果たしたいと考えているようだ。
「そういう事ならお任せします。多分大丈夫だと思うけど‥‥その先に何があるか、だね」
 この仕事は短期勝負。それは天城だけでなく全員の感想だ。何日も監視を続けられる面子では無いし、その用意もしてはいない。白黒は簡単につく筈だ。

●接近遭遇
「え‥と‥‥あ、さ山賊団の人ですの! 兄上に言わなくちゃ!!」
 琴の演技は傍目から見ればかなり怪しかった。冷静に考えれば不自然と気づく筈だが、姿を見られた浪人に余裕が無い。追いかけっこは簡単にケリがついた。
「不覚ッ‥‥」
「呆気ないけど、こんなもの?」
 捕縛した浪人を見下ろして、美衣は微笑する。
 浪人が一人になった所を誘き出して捕まえる作戦、ひとまず成功した。と言ってもこれからが本番だが。
「貴様ら‥‥こんな事をして只で済むと思うのか?」
 苦々しい顔で冒険者らを睨む浪人。
「あたいの噂は知ってるでしょ。只で済ませる気なんて無いよ」
「痛い目を見たくなくば、知ってる事を洗いざらい吐いて貰うでござる」
 縛り上げた浪人を前にして、豪は太刀を抜く。無論、今回は強引な真似はすべきではない。浪人を町奉行所に渡す気なら、拷問の痕があっては拙い。
「何を考えてる? 俺を痛めつけて、貴様らに何の得がある?」
「別に。あたい達は山賊団の情報が欲しいんだ。その為には、やりたくない事もしなくちゃね」
 そら寒い台詞に、冷たい汗が出た。

 琴達が浪人を尋問する一方で、他の冒険者達は残る浪人の監視と聞き込みを続けていた。
「一体、彼らは何をしていたのだろうね」
 クリス・ウェルロッド(ea5708)は浪人達の行動を岡場所の女たちに聞いた。ナンパ師として知られた優男だけにこう云った場所では馴染む。
「浪人サンのこと‥‥?」
 声をかけた出居衆の姐さんは年増だが器量良しで、若い頃は吉原で商売していたかもしれない。
「知っていたら教えて下さい」
「付いてきて‥‥」
 遊女とクリスが連れ立って歩いていくのを、同じく聞き込みに動いていた神楽聖歌(ea5062)が見ていた。
(「あれは‥‥」)
 聖歌は聞き込みを終えて、その日の報告に待ち合わせの煮売り屋に入る。荒神紗之(ea4660)が先に来ていた。誘拐の話を知らされる。
「琴たちがやったよ。早晩残りも動くだろうから、出来るならあんたにも手伝って欲しいんだが」
「私は戦いは遠慮いたします」
 聖歌は依頼料の低さに閉口して、参加はしたものの気乗りしない様だった。聞き込みのみと決めている。仕方が無いと荒神は頷き、彼女の話を聞いた。
「浪人の身元は割れたかい?」
「名乗らないようです。何度か出かけていたそうですが、行き先は分かりません」
 朝出かけて夜半に戻ったというから、おそらく近場では無い。ただの浪人なら仕事探しとも取れるが、奉行所に追われる賊がそこまで大胆では無いだろう。
「真面目に動いてるとなると、こりゃ金になる飯の種かね」
 荒神は残りの二人の所に乗り込む腹を決める。ふとこの場に居ない男の事が気になった。
「そう云えば、クリスは?」
「さあ、さっき女の人と一緒でしたけど」
「またか」
 荒神は頭数を数えた。自分と天城、それに天螺月の三人か。これは確保するより、流れに任せる形にするより無いだろうと考える。計画通りという事だ。

「あれ、どこかでお会いした事がありましたか?」
 その頃、クリスは遊女の膝枕でうたた寝をしていた。どことなく既視感を覚えたが理由が分からない。
「嫌なひとだね。どこの女と間違えたのやら」
「まさか。私を覚えていないとは、貴女こそ罪なひとだ」
 女に色々と聞いたが、本当は知らないようだ。遊女に嘘は付き物と納得して外に出る。後ろから声があがった。振り返るとどこかで見た浪人が二人、彼を見つめている。その後方に、見知った仲間の顔。

「うぬはっ!?」
「えっと‥‥」
 浪人と冒険者達が鉢合わせして、双方に緊張が走る。こんな場所で騒動を起こせば、互いに良い事は無い。
「待て」
 浪人の後ろから荒神が声をあげる。クリスからは、烈閃が死角に隠れるのが見えた。
「やり合う気は無いよ。あんたらを探してたんだ、話がしたくてね」
 笑みを浮かべて、荒神は近づく。両手を曝して無防備を見せる。斬るつもりなら斬られるが、先の焦りの表情に無茶はしないと踏んだ。
「‥‥我らを捕まえに来た訳では無いのか?」
「逆。金目の話なら、乗せてもらおうかと思ったんだ」

●始末
「何を企んでいるか知らぬが‥‥無用な殺生は此方も御免だ。話を聞きたくば、明日の晩、来い」
 浪人の言葉に荒神は頷く。クリスもホッと息を吐き出し、浪人達に道を開けた。
 その話を聞いて、夜十字達は反対した。
「罠に決まっています」
「俺も反対だな、安い仕事料で厄介な仕事をする事は無いと思うがね」
 尋問に加わっていた皇燕もそう云った。だが彼は楽しげな顔をしている。
「結論を出すのは天城が戻ってからで良いだろう。案外、早くケリがつくかもしれぬ」
 腕を組んだ響が云った。あのあと姿を隠していた烈閃が浪人達の後を追いかけた。上手くアジトを発見できれば今夜中の襲撃も視野に入るが、冒険者内でも温度差は激しい。聖歌も強攻策には反対している。
「依頼は、奴らが何を考えているか分かればいいのだろ? 力づくは望む所だけど、避けられるものならそれに越した事は無い」
 律吏はしがらみの無い者として冷静に云った。
「‥‥それはイイけどさ、アレはどうするの?」
 美衣が暗い顔で云った。無論、誘拐した浪人の事だ。尋問官達の手で少し傷物にされていたが、報せが早かったので命に別状は無い。
「複雑でござるな」
 豪は他人ごとのように云った。
「仕方ありません。庚兵衛さんに迫る機会がこれだけとしたら、逃したくは無いですの」
 覚悟を決めたように琴が云った。

 結局、人質持参で冒険者達は浪人達と会った。
「貴様ら‥‥」
 山賊団も舌を巻く悪ぶりである。
「さあ、仕事の話をしようか」
 こうして冒険者達は再び山賊団と関わりを持つ事となった。
 浪人達の口から出たのは、麻布の商人屋敷襲撃の計画。
「聞いたからには貴様らも戻れぬぞ」
 はたして、どうなるか。


つづく