若葉屋日記・一 営業再開?
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月21日〜10月26日
リプレイ公開日:2004年11月02日
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●オープニング
「お前は若いんだ。こいつに懲りたら、二度とヤクザな商売に手染めるような真似するんじゃねえぜ?」
岡引の又五郎は、そう言って奉行所から出る若い男を諭した。
「へぇ‥‥」
若者は名を文吉という。田舎から一旗揚げようと江戸に出てきた若者がやろうとしたのは、なんと古下着屋だった。
「‥‥」
常軌を逸したその発想の元は、月道の先にあるイギリスやノルマンの褌の高騰だった。雑巾くらいしか使い道がない古褌がイギリスでは金貨に化けると聞いて、文吉にとって褌は月道の先に己を連れていってくれる特別なものになった‥‥のかもしれない。
「おい、ちゃんと聞いてんのか。俺はお前を心配して言ってやってるんだぜ。その如何にも腹に一物あるような面はなんだ? お前まさか褌屋に未練があるってんじゃねえだろうな」
「と、とんでもねぇ。お奉行所でキツイお叱りを頂いたのに、逆らおうなんて了見はこれっぽちもございません」
この少し前、文吉は冒険者の協力を得て外国人相手の古下着屋をオープンした。
わずかな準備期間で冒険者達は奮闘し、文吉の店『若葉屋』は驚く程の店になった。張り褌の広告、褌を締めたジプシー少女が街を練り歩き、店先には褌招き猫。肌を露出した際どい姿の店員が客引きをして、決して広くはない店内は、古褌がズラリと並べられた。
ところが。
「若い女性に褌を締めさせ、肌も露な姿で客引きを行うとは持っての他、江戸の良俗を破る由々しき悪行であるぞ」
奉行所の役人が飛んできて、若葉屋は娼館紛いの営業をしているとして文吉は奉行所に引っ張られた。取り調べの同心からは随分とお叱りを受けた。当然の如く、わずか一日で若葉屋は営業停止。
「金輪際、馬鹿な真似は致しません」
文吉は岡引に深く頭を下げて、とぼとぼと歩き出す。
さすがに熱血漢の若者も取調べを受けたばかりで本当に懲りていた。このままどこかの安酒場に入っていれば、酒と一緒に褌屋の事も綺麗さっぱりと忘れていた事だろう。しかし。
「こいつは?」
「何を云っているんですか。もちろん、売り上げですヨ」
彼が出てくるのを待っていたように冒険者の一人が現れて、文吉に若葉屋の売り上げだと言って金を渡した。それは思いもかけない大金だった。
「好評でしたヨ。この資金を元に、ぜひ若葉屋の営業を再開してくださいネ」
「‥‥」
渡された金を眺めてちびちびと酒を飲むうちに、文吉の胸にむくむくと再び闘志が湧き起こるのであった。
それから暫く時が経った。
「又五郎、お前に頼みたいことがある」
「へい、なんでございましょう?」
岡引の又五郎は、彼の上司である奉行所同心の桜木に呼び出された。
「若葉屋文吉が店を再開させて欲しいと願い出ている事は知っているか?」
「何ですって?」
又五郎は目を丸くし、顔を引き攣らせた。無論、文吉に対する怒りを感じているのだが、桜木の前で悪態をつく訳にもいかずに身体を僅かに振るわせる。
「あまりに熱心に頼むので、担当の者が困っておる。お前も知っての通り、奉行所は暇では無いでな」
「存じておりやす。任せてください、あっしが文吉にきちっと因果含めて参ります」
江戸は急造の大都市だ。近年は月道貿易も始まった為に町奉行所の忙しさは大変なものだ。たびたび冒険者ギルドに奉行所から依頼が来るのも、仕方の無い事だった。
「いや、お前はそれとなく文吉を見張るだけで良い。手を出してはならんぞ」
「へ、へい」
そして文吉から、再び冒険者ギルドに依頼が来た。
「もう一押しで営業再開の許可が貰えそうなんだ。頼む、力を貸してくれ」
依頼内容は若葉屋のイメージアップ作戦を展開して、奉行所の心証をよくする事だ。
数日前から岡引の又五郎の姿が若葉屋の近くで目撃されている。下手な事は出来ないが、文吉も引き下がるつもりは無いようだ。
「弱りましたねぇ」
年配の手代は溜息をついた。若葉屋の騒動では彼も奉行所に呼び出されて事情説明をさせられていた。奉行所に目をつけられるのはギルドとしては大いに困るのだが‥‥結局は文吉の依頼を預かった。
「さて、どうしたものか‥‥」
●リプレイ本文
●若葉屋、再始動
褌が欧州に進出して半世紀以上が経とうとしていた。
人々は褌と共に生き、子を産み、そして死んでいった‥‥。
神聖暦0999、欧州から最も離れた国、ジャパンの又吉は若葉屋を名乗り、褌業界に宣戦布告した。
わずか1日の営業は、江戸に多大な利益と迷惑をもたらした。
人は、自らの行いに恐怖した‥‥。
「‥‥暮空さん、誰に話しているのぉ?」
蒼月惠(ea4233)は上から、往来の真ん中で寝転がるパラ侍を覗き込んだ。
「おお、惠殿か。いやいや、歌の文句を考えておったら、つい集中してしまったでござるよ」
暮空銅鑼衛門(ea1467)は伸びをして起き上がると、はげ頭を撫でて何か口ずさみ、懐から取り出した筆で今思いついた句をさらさらと書き留めた。
「よし、では行くでござるか」
「はぁい」
蒼月は無邪気に笑い、暮空について若葉屋へ向う。
「なんでおとこのひとははいてもいいのに、おんなのこははいちゃダメなの?」
パラの少女、ジュディス・ティラナ(ea4475)はシフールのレディス・フォレストロード(ea5794)を相手に、自分の疑問をぶつけていた。ジュディスは以前、上半身ジプシー衣装で下は褌一丁の姿でチンドン屋の真似をしたのだが、それが公序良俗に反すると言われて落ち込んでいた。
「それは褌を穿いたことではなく、褌しか穿いていなかったことが問題だったのではないでしょうか?」
「どこがちがうの?」
少女は首を傾げる。さて江戸の大道芸人が殆ど褌一枚の姿で芸をする様は珍しくない。またジャパンの長着は激しい運動には不向きだから、着物の裾をはしょって帯に引っかけ、褌丸出しの姿で走る男を見かける事も屡だ。ならば自分だけがダメだしされるのは納得のいかないジュディスだった。
「それはですね‥」
レディスは考えつつ、丁寧に説明したがジュディスが納得したかは分からない。教えるレディスの方も、ノルマンからジャパンに渡って日が浅く、ジャパン文化に精通はしていない。その好奇心が、レディスを若葉屋に向わせたのだろうか。
「しばらくだったな、文吉」
若葉屋文吉の前に不敵な笑みを浮かべた巴渓(ea0167)が立つ。
「必ず復活すると俺は信じてたぜ。困ってるんだってな?」
「あ、あんたは‥」
棚の片づけをしていた文吉の手から六尺褌がばらばらと零れ落ちた。
「ギルドの冒険者ってな、またあんた達なのか?」
文吉の表情には若干の怯えが見えた。
「おう。と言っても暗黒大魔道の旦那と褌医者は今回来れなくて、人数も少ねぇけどな‥‥ま、俺が何とかすっから心配すんな」
文吉の脳裏に、冒険者達に任せて奉行所送りになった過去が走馬灯のように甦る。
「そんな顔するなよ。前回はまずったが褌屋そのものが悪いといわれた訳じゃねえ、まだ望みはあるさ!」
ともあれ五人の冒険者が到着し、若葉屋は営業再開に向けて動き出した。
●褌職人
「いい情報があるんだ」
巴渓は昨今の褌の隆盛の影には、褌職人達の功績があるという情報を掴んでいた。若葉屋の成功に、腕の良い職人の存在は欠かせないと考えた巴は暮空と共に褌職人探しを始めた。
「こんな山の中に褌職人が住んでおるのでござるか?」
獣道をかき分けて山を登る暮空の頬を大粒の汗が流れ落ちる。さっきから越後屋の手拭いを取り出して、しきりに汗をふいている。
「旦那は荷物が多すぎるんだよ。もうすぐだから、頑張れ」
先を歩く巴は引き返してきて暮空の背中を押した。
「こらこら、ミーは一人で歩けるでござるよ」
「日が暮れる」
「帰ってくれ」
苦労して探し当てた織物職人は、訪ねてきた二人を相手にしない。
「なにとぞ、現在の褌界の危機的状況を打破し、褌補完計画の大儀の為、貴殿のご協力を頂きたい!」
「訳の分からねぇ御託を並べるんじゃねぇ。うちの品物を納める店は決まってるんだ。そんな聞いた事もねぇ店に卸す物はねぇよ」
商売はまず信頼関係だ。その点では開店一日目で営業停止をくらった若葉屋は最悪、先に訪れた町の職人達の大半にはにべもなく断られていた。
「いい布だぜ」
巴は職人の織った布を取り上げて、その触り心地に惚れ惚れした。褌は下着だから、触感は重要だ。ただ良い布は当然高いので、若葉屋の商品として考えると疑問も無くはないが。
「まこと、これはいいモノでござる。これがあれば若葉屋はあと10年は戦える!」
一体何と戦うのか?
昨今の褌人気で江戸にも○○な人達が現れるようになったから、ソレと戦うのか。そう言えば噂では褌ヒーローなんてキワモノも居るらしい。
「何度も来ても同じだ、帰ってくれ」
二人は職人の家に日参したが、職人の態度は変わらない。今時三顧の礼くらいではどこの営業も仕事を取ってはこれない。半年、一年と続けるなら心も動くかもだが、何か工夫が必要だろう。
●幕間 若葉屋CMそんぐ
♪褌 欲しけりゃ 若葉屋行こう
お下がり でもいい 今すぐはきたい
軒並み在庫が切れてゆく くたびれてすそがほつれてく
漢の秩序を乱す奴らさ Break Out!
(作詞・作曲:暮空銅鑼衛門 歌:若葉屋後援会)
●仕入れ
「こんかいもおてらにいってふんどしもらいにいくわねっ☆」
ジュディス・ティラナは蒼月惠と一緒に江戸市中のお寺を回り、古褌の回収を行った。
何故に寺で褌なのか、お坊さんの匂いが好きだというが‥‥少女の思考は謎ばかり。
「譲っていただきありがとうでしたぁ〜」
寺男から古褌を受取り、蒼月は頭を下げる。
「うむ、気をつけて帰りなさい」
断られる事の方が多かったが、中には親切に褌をくれる者もいた。この日は予定通りに褌が集まったので二人は上機嫌で店に戻る。
「みんなにはいてもらうために、ごしごしあらっておてんきのいいひにほすのよっ☆」
「ちょっと待ちな」
帰り道、呼び止められて二人が一緒に振り返ると籠を背負った男。凄い形相でティラナ達を睨んでいる。
「ここいらは俺の縄張りなんだぜ。勝手に商売しやがって、どんな了見だ?」
二人は顔を見合わせた。男はくず屋らしい。
「なわでしばり?」
「縄張りだ!」
男は生活が掛っているから真剣だ。大都市江戸には彼のように屑を扱うリサイクル業者は沢山いるが、地域に密着した仕事だから不文律で境界は決まっている。新参者が入れば、何かと揉め事が起きた。
「褌だけだからぁ、見逃してくれませんかぁ?」
蒼月が事情を説明するものの、男は承知しない。
「そんな甘い言葉に騙されるか! 最初は褌だけなんて言って、しまいには縄張りを奪う気だろう」
二人にその気が無くても、やっている事は同じだから強ち杞憂でもない。
「おいおい、揉め事か?」
言い争う三人に気づいたのか、一人の岡引が近づいてくる。
若葉屋は営業停止中だけに奉行所は拙い。
「えっとぉ、どうしましょぉ?」
その場は解決策が浮かばず、蒼月たちは逃げてきた。
「そうですね。何も私達はお金に困っている訳ではないですから何とか出来なくもないですが‥‥」
相談されて、レディスは思案する。力づく、或いは金に物を言わせる事は出来なくも無いが、若葉屋の今後を考えるならどちらも得策とは言えない。いや最終的にはそれらの方法で解決するとしても、仕入れの問題はもっと長期的な視野で考えるべき問題だ。巴達が当たっている良質の褌の事とも繋がってくる。
「お店の方向性を決める大事な事ですからね」
●幕間弐 古褌洗濯そんぐ
♪ふんどし ほしけりゃ わかばやいこう
おさがり でもいい いますぐはきたい
のきなみざいこがきれてゆく くたびれてすそがほつれてく
おとこのめんつをけがすやつらだ オーマイガッ!
わかばやのふんどしどうぞ あいこんたいこく ジャパン
わかばやのふんどしどうぞ
ジャパニーズ フンドーシ ジアースをめぐる!!!
いきにはきこめ ぎゅっとしめるぜ ジャパンだましい
おんなこどもも しめる!しめる!
わかばやのふんどしをどうぞ
(作詞・作曲・歌:ジュディス・ティラナ)
●奉行所
連日、レディスは文吉について町奉行所へ通っていた。
若葉屋の営業再開を認めてもらうためだ。
「捨てられる褌を有効利用して、町の人々の役に立つお店です」
とレディスは奉行所の役人に若葉屋の健全性を説明した。
「しかし、使用人が裸同然の格好で客引きを行うような商いはな‥‥」
役人の態度は辛い。最近の江戸の風俗の乱れは奉行所も対応に苦慮しているようで、過敏になっている。
試しにレディスが奉行所に陳情にやってきた人々から話を聞くと‥‥中には冒険者達の関与が疑われる事件も少なくなかった。それを役人から指摘されると。
「私達は揉め事を解決するのが商売ですから、人の目には誤解されて映る事もございます」
「‥‥左様か」
「待たれよ、ガトー。今はまだ、時期ではござらん! 褌補完の大儀の為に、今は耐えるのでござる! 今も心に響く祖国の為に‥‥ジーク褌!!」
暮空は酔っていた。虚空を睨み、何やら意味不明な叫びをあげる。
「盛り上がってんなぁ。おっとジュディや蒼月は甘酒で我慢しなよ? 食い物は何でも好きなものを食べていいぜ」
この日は巴が皆を誘って酒宴を開いた。勘定はすべて巴持ち。
若葉屋の営業許可が下りた事を祝ってのことだ。
「文吉、飲んでるか? これから忙しくなるぜ!」
「ああ、ここまで来たら俺も覚悟を決めた。若葉屋を江戸一の店にしなくちゃな」
徐々にではあるが、文吉も商売の仕方を覚えていた。存外に頭の回転は早い方だったので、じきに巴が意見する事も無くなるかもしれない。
しかし、全てが順風満帆とは言い難い。
「‥‥次はいつ開催してくれるのかな?」
若葉屋を伺う影は濃い。
●幕間三 若葉屋CMそんぐB
♪こんな褌いいなっ 穿けたらいいなっ
あんな生地こんな生地いっぱいあるけど〜〜
みんなみんなみんな かなえてくれるっ
格安価格でかなえてく〜れ〜る〜
(作詞・作曲:暮空銅鑼衛門 歌:若葉屋後援会)
‥‥次回に続く。