若葉屋日記・二 運命のせんたく

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月16日〜11月21日

リプレイ公開日:2004年11月25日

●オープニング

「又五郎、若葉屋はどうであった?」
 町奉行所同心の桜木は配下の岡引と対座して報告を聞いていた。
「へい」
 古褌屋若葉屋の内偵を進める又五郎は、聞込みで得た情報を桜木に報告する。それによれば、表向きはこれといった異常は無いものの、店の近くで岡引は何度か不審な影を目撃していた。
「ふむ。或いは‥‥闇のおーくしょんと関わりがあるのかもしれぬ」
「闇のおー‥それは何でございます?」

 『闇のおーくしょん』――それは一夜限り開かれた古褌密売の競売。
 ご禁制(?)の珍品褌を、頭から褌をかぶった変○達が競り合ったという世にも恐ろしい狂宴だ。

「あくまで噂だが‥‥もしそのような企てが実在するとすれば、江戸の風紀を預かる奉行所としても放ってはおけぬ。又五郎、若葉屋から目を離すでないぞ」
「承知しやした!」

 その頃の若葉屋。
「褌の褌による褌のために!」
「次のおーくしょん、楽しみにしてるぜ」
「はやく‥‥褌をくれ‥‥褌が切れて‥‥クルシイ」
 古下着屋の営業停止が解かれたことを知ったソノ道の人々がやってきて、早くも危ない雰囲気だった。
 ‥‥。

「若葉屋さん、何も悩むことじゃあないでしょう。アナタは闇競売を開いてくれさえすればいいんですよ」
 慇懃な笑みを浮かべ、大店の手代風の男は文吉に甘い言葉を囁く。
「しかし、奉行所がなんというか‥‥」
「そりゃ用心は必要ですがね。競売を開けばアナタも儲かるし、私達も安心して品物を卸すことが出来る‥‥みんなが幸せになるじゃないですか」
 変○ご用達の様々な褌は公序良俗に反するからと大っぴらに売買できるものではない。あの越後屋が福袋にそっと褌を偲ばせるのも故無き事ではないのだ(嘘です?)。
「まあ、私も今すぐに返事を貰えるとは思っていません。じっくり考えて下さい。ただアナタは褌長者になる人だ、大きくなるには時には手を汚すことも必要じゃないですかねぇ」
 帰り際、闇商人は思い出したように文吉に言った。
「そうそう、若葉屋さんは冒険者ギルドと懇意のようですが、気をつけたがいいですよ。あそこは奉行所の手先みたいなものですからね」

「という訳で、若葉屋さんが無事に営業再開となりました。また手伝いに来て欲しいという事ですよ」
 ギルドの手代は、冒険者達を集めて依頼を説明する。
「今度はしっかりお願いします」
 念を押すのは、以前に冒険者が手伝って一日で営業停止した実績があるからだ。そこまで心配なら依頼を預からなければいいのだが‥‥その選択は少しばかり時期を逸していた。若葉屋とギルドの関わりは既に周知だったから、理由が無ければ後にも退きづらい。
「そうそう、おかしな連中が若葉屋の周りをうろついているそうです。今のところ騒ぎにはなっていませんが‥‥」
 文吉は手代には闇商人の事は話していない。
 若葉屋の最初の岐路として、悩む所があるのだろう。
「さて、どうなるか‥‥」

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3511 柊 小桃(21歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4233 蒼月 惠(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●若葉屋営業再開
「いらっしゃいませ〜〜若葉屋だよ!!」
 広くない店内に、柊小桃(ea3511)の元気な声が響く。
 小桃は六尺褌にサラシ巻きの姿で、物珍しげに商品を見ていた客の前に立つ。10歳の小桃の格好にも驚くが、少女の背中にのった白樺木綿さん(注:妖怪褌です)にも自然と目がいく。
「この褌はどう? お客さんにきっと似合うよ!! ‥‥え、この後ろの? これはダメだよ!!小桃が褌妖怪退治の時にがんばって捕まえた褌なんだから!!」
「へぇ。若ぇのにてぇしたもんだ」
(「‥‥大丈夫そうですね」)
 シフールのレディス・フォレストロード(ea5794)は柊と客の会話を棚上から眺めていた。狭い店内でシフールの彼女は何かと便利だ。
 また客が入ってきた。
「あぁ、褌をはいた私はなんと美しいのだろう」
 今度は虎杖薔薇雄(ea3865)が応対する。
「さあ、キミも褌一つでこんなに美しくなりたくはないかね?」
 褌一丁で艶かしい姿態を見せる男に客はどっぴきだが、薔薇雄は全く気にしない。
「この美しい私に任せたまえ。キミに褌の素晴らしさを教えてあげよう」
 彼が単なる変○なら話はここで終わるのだが、客にあった褌を選ぶ目と着こなし方の知識を持つ薔薇雄は若葉屋にとって得難い人材だった。或いは服飾販売は彼の天職だろう。
「ん? ‥‥やれやれ、また美しくない輩が来たようだね」
 表が騒がしい。用心棒の顔になった薔薇雄は上に一枚羽織って外に出る。本来なら全裸も厭わない薔薇雄ではあるが、今は店の事も気にしていた。

 若葉屋の前では大立ち回りが行われていた。
「うぐぐ、褌を〜〜く〜れ〜」
「見苦しい真似はおよしなさい!」
 金棒を揮い、押し寄せた褌狂いを力の限りに調伏するシャクティ・シッダールタ(ea5989)。
「褌を愛し、真剣に極めようとする方々に比べて、何と軽薄、邪悪な事!! その欲に曇った性根を、この金棒で叩き直して差し上げます!」
 その姿は仏法を守り、煩悩を打払う金剛の化身。と言って堅物かといえば、さに在らず。褌隊の女隊長を敬愛し、薔薇雄を尊敬しているから世の中分からない。
「シャクティ君、キミ一人に任せるのは忍びない。私も加勢させてくれたまえ」
 絶妙の間で姿を見せる薔薇雄。彼女だけでも手強い所に強敵の出現で、褌狂い達はうろたえた。
「‥‥薔薇の人、俺達はただ褌が欲しいだけなんだ。武士の情けをかけてはくれまいか」
「断る」
 シャクティと薔薇雄は褌狂い達を美しく成敗した。

「無益な‥‥だが、若葉屋の発展には致し方なきことでござるか」
 出先から戻った暮空銅鑼衛門(ea1467)は、倒れ伏した者達に憐れみを感じた。
(「変態も凡人も等しく暮らせる褌ユートピアはいまだ遠いでござるな‥‥」)
 物思いにふける暮空の袖を愛娘ジュディス・ティラナ(ea4475)が引っ張る。
「ねぇねぇマフィアってなぁにっ? パパはおいしいものをいっぱいたべてるから、おかしのことならなんでもしってるとおもうのっ☆ あたしもわかばやさんにマフィアをおくのにさんせいよっ☆」
「ジュディス、嬉しいでござるよ」
 銅鑼衛門は少女の頭をなでた。
 2人は暖簾をくぐろうとして、中から出てきた蒼月惠(ea4233)とぶつかる。
「あ、ごめんなさいですぅ」
 惠は大柄な方ではないが、パラの2人は尻餅をついた。
「いやミーも不注意でござった。何かあったでござるか?」
「クロウさんと渓さんがまた〜、それで文吉さんを呼びに行くところなんですぅ」
 若葉屋の主人文吉はこの時、仕入れに関する屑屋との話し合いで美芳野ひなた(ea1856)と外出していた。
「それはいかんでござるな。ミーが話してみるでござる」
「ホントですかぁ、お願いしますぅ」

 現在、若葉屋は重大な岐路にあった。
 それは先刻の褌狂いの発生とも関係のあることで、また根本的な問題でもあるために冒険者達の意見も真っ二つに割れていた。
「長期の展望を考えれば、腕のいい褌職人の信頼や同業者の棲み分け、何よりお上に睨まれず、お天道様の下で商売する事、それが何よりの商いさ!」
 口調こそ荒っぽいが巴渓(ea0167)の主張は清々しい。
 目指すものは地道でも真っ当な商売だ。
「性欲を満たす商売は何時の時代にも存在し求められるモノ。最低限の法さえ守れば奉行所も流すはずですヨ。何も恐れる事はありません」
 渓と正反対の主張はクロウ・ブラッキーノ(ea0176)。共に発足からの常連で、若葉屋の顧問的な存在なだけに2人は今回の意見対立の中心だった。
「うーん」
 間に立つのは文吉。当然ながら、決定権は彼にある。
「私はアナタの夢を叶える魔法使いですョ。文吉サン、アナタは褌を愛しているわけではなく、単に金が欲しいのです。たまたま古褌に目が向いただけですよネ?」
「そう言われると‥‥」
「文吉、俺はお前の根性を見込んで手助けしてるんだ。ひなたやジュディたちに、年端もいかねえあいつらに後ろ指を刺される様なマネをさせちゃあダメだぜ?」
「うっうっ‥‥」
 夢と現実、良心と欲望が文吉を苛む。
「秘策も無く若葉屋を続けても、やがて人々の興味も失せ、独り寂しく大量の古褌にまみれ廃人と化すアナタの姿が見えます。共に伝説になろうじゃありませんか‥‥ウフ」
「目先の儲けなんぞで、身持ちを潰しちゃ馬鹿らしいぜ? 文吉‥‥最後は、お前が自分で決めるんだ。俺たちはお前の決めた事なら反対はしない」
 苦悩する文吉。清廉潔白な巴の意見と、クロウの悪魔の誘惑。
 果して若葉屋は如何なる運命を選ぶのか。

「少し考える時間をくれないか?」

 文吉は回答を保留した。将来を左右する事だけに、それも仕方無しと冒険者達は彼に猶予を与え、二つの方向性を持ったまま若葉屋の営業は再開した。
 ちなみに依頼を受けた10人のうち、この時点で渓の意見を支持したのは小桃とシャクティ、惠。対するクロウの味方は銅鑼衛門とジュディス。残る三人は‥‥。
「え? どちらの味方か、ですか? 私は私の味方です。だって、こんな面白そうな騒動、報告書だけで満足しろだなんて‥‥折角間近に見る機会があったんですし、参加しなきゃ損じゃないですか♪」
 レディスは両派の戦いを横目にお猪口で茶を飲み、手頃な大きさに割った煎餅をぼりぼりと齧った。
「うーん。小桃ちゃんやシャクティさんの言う様に、悪い事には手を染めて欲しくないと思います。けど、クロウおじちゃんや暮空おじちゃんたちの言うことも一理あるかなぁ?」
 ひなたは首を傾け、眉間に皺をよせる。
「えーと、ひなたは文吉さんの決定に従いますね?」
 何故疑問形? ‥‥泰然自若とした薔薇雄も状況を静観する構えで、彼女らは日和見的な中立派と言える。

●幕間 新・若葉屋CMそんぐ『若葉屋乙』
♪空に そびえる 純白の布
 古褌 若葉屋乙
 褌の平和を ぼくらのために
 ジャパンの心を フンドーシ・オン!
 赤が まぶしい! 越中褌!
 今だ するんだ レース付きフンドーシ!
 褌ゴー 褌ゴー
 若葉屋乙!

(作詞・作曲:暮空銅鑼衛門 歌:若葉屋後援会)

●闇と褌
「ではミーは若葉屋再開の挨拶回りに行くでござる」
 暮空はジュディス、小桃を連れて土地の親分衆に挨拶に出かけた。
「ひなたも出かけます。昨日会えなかった屑屋さんに若葉屋のことを説明したいんですけど、誰か一緒に行ってくれませんか?」
「私でよければ、ご一緒しますけど」
 レディスが同行を申し出た。2人は前回もめたクズ屋との交渉に行く。
「薔薇雄様は?」
 シャクティが薔薇雄に聞いた。
「ふっ、私は勿論美しいよ」
 即答する薔薇雄。
「ではわたくしは不穏な動きを見せる褌狂いどもに睨みを利かせていますわ」
「シャクティ君一人に任せるのは忍びないね。私も美しく監視するとしよう」
 彼女らが褌狂いと呼ぶのは、本来は客である。客が客でなく、店が店でない所に現在の若葉屋の難しさがあるのかもしれない。
「‥‥あれ、クロウさんは‥‥?」

 店を出たクロウは闇越しに何者かと会っていた。
「‥‥ほぅ、そうなりましたか。‥‥しかし大丈夫なのですか?」
 薄暗がりの室内で、相手の男が尋ねた。
「万が一、貴方の側が破れるようなことがあっては」
「方向性は決まっているんですヨ」
 褐色の魔法使いは微笑した。
「そろそろ大金を得る快感が恋しくなった頃でショウ」
「ふーむ」
 男は、闇のおーくしょん開催の折は協力するとクロウに約束した。
「‥‥しかし、文吉サン。選択するのはアナタです。私は強制はしませんョ」

●悪い人
 999年、江戸は褌の炎に包まれた!
 越後屋の褌は枯れ、
 福袋には怪しげな褌が混入し、変態が跳梁し、
 人類は死滅したかに見えた
 ‥‥だが、若葉屋は滅びてはいなかった!

 脳内で怪しげなナレーションを流し、銅鑼衛門は親分に熱弁を揮った。
「若葉屋こそはこの世紀末に降臨した世紀末褌救世主でござる! 清く正しく褌の未来を導かねばならぬのでござる!」
 暮空は『本来ならアッチ側のひと』だ。虚妄派の首魁の言葉に、感心するのは娘のジュディスばかり。
「‥‥なるほど、おめぇの言いたいことは、よ〜く分かったぜ」
 最近はすげぇのが野放しになってるなぁと親分さんは心中で思った。
「そっちの方は、おめぇ達に任せて大丈夫だ。俺は何も言わねぇよ」
「かたじけのうござる」
 挨拶回りは事も無く、三人は意気揚々と若葉屋へ帰る。
 その途中。
「おい」
「ミー達のことでござるか?」
 呼ばれて立ち止まる。一人のごろつき風の男が近寄った。
「そうだ。ちょいと聞きてぇことがある」
 ごろつきは腰に差していた物を見せた。男は、岡引の又五郎だ。
「十手持ちが何用だ」
「用無しに声なんざかけねえや。褌屋のことよ」
 息を飲む三人。又五郎は単刀直入に、闇のおーくしょんの事を出した。
「おーくしょんで変態集めて、何を企んでやがる?」
「若葉屋さんは、そんなことしないよっ!!しないったらしないよ!!」
 凄い勢いで小桃が否定した。面食らう又五郎に、ジュディスも追い撃ち。
「ふんどしはみんながはくためにあるんだからっ、ふんどしをつかってわるいことをしたらいけないとおもうのっ!」
 要領を得ない。が、勢いに任せて小桃が泣く。
「ふえ〜〜〜〜〜ん!!このおぢさん小桃をいぢめるよう!!」
「なにぃ!?」
 確かに周りからは又五郎が三人の子供を虐めているとしか見えない。途端に人だかりが出来た。
「ひでぇことをしやがる」
「あの岡引、ガキに褌よこせとか言ってるぜ」
「見下げ果てた○○野郎だな。おい、恥かしくねえのか!」
 動けなくなった又五郎を置き去りに。
「いいもん!いいもん!!そっちがウソついてるって証拠、強い人と見つけて裁判にかけてやるんだから〜〜〜〜!!」
 三人はアレな捨て台詞を残して逃げた。

 一方、その頃。
「今日は一緒に行ってもらえて、助かりました♪」
 ひなたとレディスは三人のすぐ近くを歩いていた。
「どういたしまして」
 茶菓子を手土産にひなた達は屑屋を訪問した。
「ふーん。そういう訳かい」
 小さな2人の営業マンの話を、屑屋の親仁はまともに聞いてくれ、仲間と話して決めると言った。ひなたは上機嫌だ。
「信用は地道な努力の積み重ねだと思います。変態さん相手の一攫千金を狙うのもいいけど、商売として最低限の基礎体力を付けるのが先なんじゃないかなぁ?」
「元から踏み外してましたけどね‥‥どうなるか楽しみですね」
 レディスは笑った。運命の流れるままを愛でよう。どうせ波乱は必至なのだから。

 この時はまだ若葉屋は平和だった。
 冒険者達は無事に依頼を終えてギルドに戻っていく。

 次回、若葉屋日記・三『大川の合戦』