死人を操る侍

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 63 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月26日〜01月01日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

 江戸から徒歩2日のとある山村に死人憑きが現れた。
 目撃者の話では、死人を操っているのは1人の侍。
 俄かに信じ難い話である。
 だが死人退治に向った町奉行所の手勢は恐るべき強さの侍に撃退された。
 威信を傷つけられた町奉行所は精鋭をもって再度の討伐を準備している。

 同じ頃、冒険者ギルドにも侍退治の依頼が届けられる。
 集められた冒険者を前に――依頼人の女性は話し始めた。
「私は芳野と申します。故あって家名を明かすことは出来ませんが、死人を操る侍とは我が仇敵、当麻直重に間違いありません」
 芳野は仇の当麻を奉行所の手で討たせたくは無いと、冒険者達に仇討ちの助勢を頼んだ。
「そいつが、確かにあんたの仇だって証拠はあるのかい? 俺たちは人殺しの片棒を担ぐのは御免だぜ?」
 敵討ちは半ば公然と行われる武家の慣習だが、厳密に言えば、お上が認めている訳ではない。吟味の上で正当性があれば罪に問われないが、仇を討って牢獄に繋がれるケースも少なくない。
「ございます」
 芳野は某藩の有力者の添え状を持っていた。冒険者達には見せられないというのでギルドの番頭が目を通した。それによれば、芳野が当麻直重を仇としているのは間違いなく、また奉行所から回ってきた手配書の人相とも一致した。しかし、藩の名前は出せないので町奉行所に訴え出る事は叶わないのだという。
「当麻は音に聞こえし豪の者にございます。どうかご助勢お願い致します」
 敵討ちとして正当性があるとしても、奉行所の獲物を横取りする事になれば、あまり良い仕事ではない。
 芳野の話では、逃走した当麻は現在山小屋に潜伏しているらしい。町奉行所が発見するのは時間の問題のようだ。
 さて、どうなる‥‥

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4352 馬籠 瑰琿(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

アルマ・カサンドラ(ea4762

●リプレイ本文

●出発
 江戸を出るまで、道々で声をかけられた。
「おっ、旦那方。揃ってお出かけとは今度はどんな大仕事でやすか?」
「鬼か山賊か、旦那たちに目をつけられるとは運がねえや」
 それもそのはず。集合に来ない者がいて9人、それに芳野を加えて10人の出発になったが、まず江戸冒険者ギルドの精鋭と呼べるメンバーが揃っていた。
 その名声がジャパンに知れ渡る天螺月律吏(ea0085)を筆頭に、神楽舞の月代憐慈(ea2630)、教師の山本建一(ea3891)、そして“江戸霜月祭武神”マグナ・アドミラル(ea4868)‥‥いずれ劣らぬ猛者達だ。
(「名が売れるというのも‥‥良し悪しだが」)
 ことに一月前、武神祭優勝の栄誉を得たマグナは有名人だった。暗殺剣士を生業を考えると嬉しいばかりではなさそうだが。
「俺の名は呼ばれぬな‥‥」
 志士の不動金剛斎(ea5999)は少し複雑な気持ちだった。数々の依頼をこなし、実力でも仲間達に見劣りはしない彼だが、まだ知る人ぞ知るという評価に留まっている。
「まあまあ‥‥おそらく一番気に入らないのは前を行く人々だろうねぇ」
 不動を宥めて言った月代憐慈の視線の先には、騎馬と徒歩の集団がいた。
 奉行所の同心6人と、その配下の者達だ。
 彼らが同じ道を行くのには、出発前に短いやり取りがあった。
「決して我らの邪魔は致さぬというなら、村の者に証しの品物一つ取る事を許可しよう」
 マグナと金剛斎が奉行所に掛け合い、芳野の仇討ちの事は伏せて、壊滅した村からの依頼と届け出て死人侍討伐に同道する許可を取ることができた。
「噂に聞く冒険者が我らの後ろとは心強いです」
 同心の中にはギルドに好意的な者もいたが、ほとんどは対抗意識を露にした。今回は奉行所から仕事が来た訳ではないのにしゃしゃり出ているのだから無理もない。
「奉行所の連中、全員弓を背負っているわね」
 佐上瑞紀(ea2001)は同心達の装備が気になった。
「あれって最初から殺す気って事よね。ほんとに遺留品だけ引き取る羽目になったらどうしよう?」
「ほぅ、まるで奉行所の敗退を祈るように聞こえるが?」
 ウェス・コラド(ea2331)が云う。瑞紀は首を振った。
「まさか‥‥私達はやれる事をするだけよ」
 瑞紀の言葉に嘘は無いのだろう。コラドは聞こえぬほどの小声で呟いた。
「私は祈っているのだがね」

 これから彼らが討ちに行く当麻直重について、分かっている事は少ない。
 律吏と夜枝月奏(ea4319)は出発前の短い時間を使って調べたが、僅かに西国の武士ではという話が聞けたのみだ。
「どこで話を聞けば詳しいことが分かりますか?」
「知らねえな。祭り見物に来た備中の侍が名前を口にしたのを聞いただけだからよ。何でも新当流の達人だとかなんとか言ってたなぁ」
「そうですか‥‥」
 西国諸藩の武士なら源徳とは微妙な関係だ。芳野が藩の名は明かせないと云ったのも筋は通る。
 もっと直接的に、芳野に問質した者もいた。
「死人を操る侍なんてこの国では聞いた事がないぞ!」
 直談判の口火を切ったのは金剛斎だ。彼の疑問がある意味全てと言って良い。有り得ない存在。その捉え方一つで、この道行きは変わる。
「仔細はお話できないと申したはずです」
 芳野は志士の顔を正面から見返し、そうはっきりと答えた。
(「何か隠している‥‥かなぁ」)
 扇子で顔を隠した憐慈は、依頼人の気丈な横顔をじっと眺めた。覚悟を決めた相手に、押して聞いた所で良い結果は得られそうもない。
「当麻の目的は一体なんなのか‥‥なぜ君が彼を追うのか聞いてはいけないようだが、一つだけ‥‥死人を操れる事や今回村を襲った事が『それ』と関係あるのか?」
 ウェスは謎解きのヒントを問う。芳野の答えは簡潔だ。
「分かりません」
「それは知らないと解釈して良いのかな?」
 顎に手をあてて沈黙したコラドに変わって、今度は瑞紀が聞いた。
「話せないことはいいけど、情報は少しでも多い方が良いからね。特に戦法はそうそう変えられるものじゃないし何でも良いから情報が欲しいの」
 芳野が言葉を選んで語った所によれば、当麻は小兵だが力が強く刀も弓も自在であったらしい。流派が新当流と聞いて、律吏と奏の目線が交差した。
「ありがとう、参考になったわ」

「イギリスのキャメロットで受けた仕事が、ちょうど同じような事件でした」
 1日目は何事もなく、冒険者と侍たちは夕方に近くの宿場に泊まった。そこで奏は以前死人使いと戦った時の話を皆に聞かせた。死人を相手にする際の注意点などを語る。
「自分の役目は心得ているつもりだよ。明日は私が露払い役を務めて、皆の為に道を作ろう」
 云ったのは騎士のリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。リーゼは今回のメンバーで唯一、オーラパワーを使う。この魔法は特にアンデッドには強力だから、いわばリーゼが要のポジションだった。
「‥‥突入はやはり奉行所の後か?」
 律吏が聞いた。不動とマグナが頷く。他の者も大半がその心積もりだ。
「明日は当麻の隠れ家に着く。芳野には奉行所は必ず退くと言ってある。我らは、まず同心達を当麻にぶつけて彼奴の実力を探るのだ」
 非情の策である。が、それを間違っていると言える者もその場にはいなかった。

●死人を操る侍
「もはや逃げ隠れは出来ぬぞ。神妙に縛につけ!」
 馬を下りた同心達は武器を手に小屋を包囲した。冒険者と配下の者達、それにここまで彼らを案内してきた猟師たちを後ろに下げて、彼らは小屋に突入するつもりだった。
「行くぞ」
 マグナ達は奉行所の者達を残して小屋に近づいた。背後から、戻ってこいと声を掛けられるが無視する。冒険者達にしてみれば、戦いが見えない位置では何の為に来たのか分からない。
「始まったようだな」
 怒号が聞こえ、律吏は目を細めて前方を見た。まだ距離はあるが、同心達が矢を射掛けているのが分かる。
「ここからでは良く見えないな」
 ウェスはプラントコントロールを使った。枝を操り、木の上に登る。
「ん‥‥あれか?」
 小屋の付近では、今しも中に踏み込もうとした同心があらぬ方向を凝視して叫んでいる。視線の先に、黒い影が見えた。
「死人が出たぞ」
「こっちもだ!」
 金剛斎の声に、ウェスは眼下に目を移した。冒険者達を囲むように死人が現れる。
「5‥7体‥‥どこから出た?」
 小屋の周りは相当な数の死者が囲んでいた。もっと上に登って確認しようとしたウェスを黒い光が撃ち抜く。
「何っ!?」
 バランスを崩して枝から落ちた。
「大丈夫ですか?」
 芳野がウェスに駆け寄る。二人を守るように冒険者達は円陣を組んだ。
「リーゼ殿、私に魔法を」
 山本建一は目を近づく死人達に向けたまま、日本刀をナイトに差し出す。
「どうせ問答無用だろうし、やるか」
 日本刀と小柄を構えた律吏は山本を挟んでリーゼと反対側につく。
「死人の相手をする間に逃げられたら話にならない。行こう」
 憐慈はマグナに言った。
「ここは俺たちに任せろ! てめーらは当麻をやれ!」
 バーニングソードをかけて好戦的になった夜枝月に促され、マグナと憐慈、それに不動の三人が飛び出した。しかし、三人の前にも死人が立ちはだかる。
「まずはこれね。爆空波!」
 瑞紀は霞刀を大きく振り被り、空を斬った。刀から発せられた衝撃波が三人に迫ろうとした死人の手前で弾ける。文字通り、空が爆ぜて巻き込まれた死人を刻む。

「墓から抜け出たにしては、いいものを着ているじゃないか」
 律吏は対峙した死人をよく観察した。目前の死者はまだ死んでから幾日も経ていない。外見から素性を判断すれば鎧を着ているから武士か。顔に無惨な傷跡があり、それがこの者にとって致命傷だったと分かる。
(「‥‥もし死ねば、私も同じように」)
 生々しい死者の姿に一瞬己を投影した律吏は雑念を振り払うと二刀を鞘に収めた。代わりに握ったのは、ほのかに光るオーラの刃。
「この死人、容易ならざる相手ですよ」
 魔法を付与されて前に出た山本が下がってきた。死人に一撃は与えたが反撃を脇腹に受けて額から汗が滲む。
 建一以上に苦戦したのは奏だ。
「貴様ぁ、死体が鎧なんか着るなんて卑怯だぞ!」
 奏の武器は小太刀。死人の鎧付きは大きなハンデになった。リーゼの魔法があれば話も違うのだが、リーゼが自分と建一の分をかけた所で死人が近づきすぎていた。
「ここは私が通しませんよ」
 代わりにリーゼは死人を圧倒した。彼女が霞刀を振り抜く度に、動く死体が解体されていく。最初こそ奏たちは劣勢だったが、数分で形勢は逆転する。ポーションで回復しながら戦う彼らに対して、いくらタフでも回復手段を持たない死人は倒されていく。
「悪く思うなよ」
 奏は修羅の鬼相を浮かべて、倒れてなお動く死人に止めを差していった。

 一方、マグナ達は死人と戦う同心達には目もくれず、小屋から出てきた当麻らしき男を追いかけていた。
「貴様らは何者だ! 何故俺に構う?」
 逃げる当麻は、武士には見えないマグナを見て叫ぶ。
「ジャパンの赤鬼にして、暗殺剣士推参、当麻覚悟!」
「うむむ」
 覚悟したのか当麻は杉の大木を背にして立つと、弓を引き絞った。
「わしの後ろに」
 手盾を構えて先頭に立つマグナ。矢が盾に突き立つ。
「ちっ」
 舌打ちして、当麻は弓を捨て刀を抜いた。
「行くわよ」
 それを待っていた瑞紀は盾の蔭から出て爆空波を放つ。衝撃波が当麻を襲う。憐慈も呪文の詠唱に入った。二人の援護を受け、マグナと不動は当麻に肉薄する。
「仮にも武士が死人を操り、村を襲うか、許せん」
「俺は‥襲ってなどおらん!」
 マグナの放った長巻の連続突きを当麻は刀で弾いた。続く不動は当麻が達人と見て太刀筋に変化をつけた。
「‥‥ぐふっ」
 金剛斎の野太刀が当麻を打った刹那、志士の体に深々と当麻の刀がめり込んでいた。
 憐慈のウインドスラッシュが当麻の旅装束を切り裂く。味方が密着して爆空波を放てない瑞紀が当麻に斬りこんだ。同時にマグナは己から視線が外された隙に当麻の背後を取る。
「我が剣で闇へと還れ」
 長巻を振り上げた瞬間、当麻の体が反転した。振り向きざまの胴払い。手盾で一撃を防ぐが、更に二回。マグナの体を薙ぎ払った。
 暗殺剣士の体が崩れる。
「私のことを忘れてない?」
 瑞紀の霞刀が当麻を切る。だが浅い。
「頑丈ね」
 瑞紀の一刀は軽くはないはずだが紙一重で急所に入らない。仲間達がやられていくのを憐慈は遠巻きに見ているが、手が出せない。己の周りに罠を張るのが精一杯だ。
「‥‥予想通りの強さってとこかね?」
 死人を倒したリーゼらと同心達が追いついて来た時も、憐慈は同じ場所に立っていた。瑞紀も倒した当麻は憐慈が自分から来ないと分かると刀を納めて逃げ去った。
「死人を操れるほど頭が良さそうには見えなかったね」
 憐慈は死人を操るのはスクロールかと推理していた。しかし、疑念が湧く。

 傷ついた同心達は体制を立て直すために一時帰還した。冒険者達も単独で山狩りは困難だったから江戸に戻ることにした。
「旦那方、今回の首尾はどうでやした‥‥うひゃぁ、くせぇ!」
 冒険者達の帰りを待っていた江戸の町人たちは彼らの体臭に負けて全く近寄ってこなかった。
「夏の百鬼夜行に比べれば随分マシだが‥‥やはり好きになれるものじゃあないな、この匂いは」
 ウェスは淡々と言う。冒険者達は戻る前に二度と使われないよう死体を破壊した。
 その匂いは、しばらく取れなかった。

●ピンナップ

山本 建一(ea3891


PCシングルピンナップ
Illusted by 由岐シュウカ