死人を操る侍2
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月20日
リプレイ公開日:2005年02月04日
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●オープニング
年が明けて神聖暦千年。
死人を操る当麻直重の噂は、冒険者ギルドにも届いていた。
曰く、山野を彷徨う当麻が死人を率いて村々を襲った。
曰く、街道で待ち伏せて商人を殺し、その荷駄を強奪した。
その間、奉行所の討伐隊と当麻は幾度か接近し、両者の距離は確実に狭まっていた。
今日明日にも事件解決かに見えたこの時、しかし、一方の当事者である冒険者ギルドは江戸を動かず、ただ市中の噂話に耳を傾けていた。
昨年末の依頼の後、依頼人の芳野が滞在していた宿から居なくなった。奉行所の捜査がギルドにまで及び、当麻と芳野の素性を洗い始めた為に追求を避けて姿を消したものと思われる。
同時に、奉行所からこの一件に手出しをしないよう通達があった。討伐の際、ギルドの冒険者との足並みが揃わなかった事を問題にしたのだ。ギルド側には、依頼人を守る為とは言えそれまで嘘の理由を述べていた負い目もあるので断れない。
それぞれの思いで事件の推移を眺めていた冒険者達が呼ばれたのは一月も半ばが過ぎようとした或る日。
「三日前のことです」
ギルドの手代は煙管を吸いながら、集まった冒険者達に話を始めた。
「街道を渡っていた駕籠が襲われる事件がありまして、駕篭かきの1人が生き延びたのですが」
自慢の足で逃げ延びた駕篭かきの証言に、死人が出てくる。
京見物に行く商家のご隠居をのせたその駕籠は、街道で荷車と遭遇したそうだ。車輪を雪と泥濘に取られて難儀している様子を見て、ご隠居が駕籠を止めて助けようと声をかけたのが仇となる。
ご隠居に言われて駕篭かきが荷車を押すのを手伝った。この荷車の持主は築地の商人で、魚をこの先の宿場まで運ぶ所らしかった。所が一緒に荷車を押している者達の様子がおかしい。そこで不運な事に駕籠かき達はそれが生きた人間では無いと気づいてしまった。
「‥‥運のない人達だ」
それまでご隠居と談笑していた商家の番頭風の格好をした荷車の持主が何事か呟き、荷車を押していた死人が駕篭かき達に襲いかかった。駕篭かきの相棒とご隠居は殺され、足に自信のあった1人だけが逃げ延びた。
「その荷車に出遭った場所が、当麻の潜伏場所の近くなのです」
依頼が禁じられたあとも手代は当麻の噂と奉行所の動きに注意を向けていた。そこで日付から逆算して、当麻の足取りを予想していた時に荷車の話を聞き、冒険者を集めたのだ。
「もう一度、行って頂けますか?」
殺されたご隠居の家には話を通してあった。依頼人は隠居の息子である。仕事は荷車を押していた者達を探し出して仇を取ること。直接当麻と関係はしないが、接近する可能性は十分にある。
また奉行所の手勢は現在、当麻の居場所をほぼ特定して周辺の村や小屋を順番に捜索している。おそらく冒険者が仕事を受ければ彼らとも再び出会う事になるだろう。
さて、どうするか。
●リプレイ本文
●接触
「この前はすまなかった。まさかあそこで逃げられるとは面目次第もない」
不動金剛斎(ea5999)は街道沿いの宿場でこの間の同心達を見つけた。
「貴公は冒険者ギルドの‥‥」
同心達が警戒心を抱くのを、気づかぬ風に金剛斎は相好を崩して歩み寄る。
「いやいや、お怒りはごもっとも。なれど、この俺の話も聞いて貰いたい。なに、手間は取らせない」
巨漢の志士は人懐こい笑みを浮かべ、懐から酒を取り出した。
それを離れた場所から天城烈閃(ea0629)が見ている。
(「‥‥いいのかな、あんなに気安く近づいて」)
天城は松の木に体を寄せて、不動と同心達のやり取りを眺める。彼の位置からでは会話は聞こえないが、大体は想像がついた。監視に徹する天城は姿を隠してその場を動かない。
「あの様子だと、連中はまだ当麻を見つけてないのかねぇ」
天城の側で同じように隠れている馬籠瑰琿(ea4352)が言う。
「おそらくはね」
馬籠らと不動は奉行所の動きを監視する為に他の仲間と別行動を取っていた。
「出来れば役人と事を構えるツモリは無いけど、‥‥どうかねぇ」
「‥‥」
馬籠の呟きに天城は無言。嫌な予感はあったが、それはいつものコトだ。
「さてと、アレだけってのも不自然だろうし、あたしも行くかな。見張りよろしく」
天城を残して、瑰琿は同心と話す不動に近づいた。天城ほど隠行の術に長けていない彼女はその方が良いと考えたのだろう。
「おや奇遇だねぇ。生憎とあたし達は今回は別件だから力は貸せないけどさ」
「そう、荷車を引いた死人使いを追っているのだが知らないか?」
同心達は顔を見合わせる。
「‥‥その話、少し聞かせて貰えないか?」
三人が奉行所の手勢と接触した頃、残る六人の冒険者は後方にいた。なお依頼を受けた時は10人だったが、例によって一人は欠員である。
「その商家の番頭風の男の顔を良く思い出して下さい」
闇目幻十郎(ea0548)は一人、江戸に残った。生き残りの駕篭かきから下手人の人相を聞く所までは他の冒険者も一緒だったが、闇目の目的は人相だけではない。
「当麻とは別人ですね‥‥」
駕篭かきの証言から作った似顔絵を奉行所の手配書と比べた。実際に当麻を見た冒険者も別人と断言した。もっとも世の中には変身の術があるので絶対とは言えないが。
「当麻は忍者か僧兵か、もし違うなら‥‥この人達は果たして誰なのか‥‥」
闇目はじっと二枚の人相書きを見つめた。
彼の探索については後で触れるとして、そろそろ冒険者本隊に視線を移そう。
「金を出したって?」
佐上瑞紀(ea2001)は一瞬目を細めたが、口元を緩めて息を吐きだした。
「うむ、わしの独断で出立前に話をつけておいた。依頼人とあの駕篭かきの事は安心して良い」
マグナ・アドミラル(ea4868)が言った。マグナはギルドの手代に10両を渡して依頼人達の警護を頼んでいた。商売っ気のない男だ。
「わしらが今追っている者は影に隠れ非道を行う凶者。姿を見た者を放ってはおかぬ」
確信を持って話す。荷車の者達は、死を撒き散らす毒蛾か。犠牲者が増える前に一刻も早く追いつきたかった。その為にマグナたち5人は当麻の事を天城達に任せて、消えた荷車の行方を追跡していた。
「四、五日ほど前に、六人ほどの荷車を押している一行を見なかったか?」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)は月代憐慈(ea2630)、マグナらと手分けして宿場に着く度に聞き込みをした。
「さあ、覚えがありません」
似顔絵を見せるリーゼに宿場の人達は首を振る。
「この宿場には入ってないようだね。元々、そのつもりが無かったか、駕篭かきに見られたから変更したのかは分からないけれど」
憐慈は言った。彼らは最初、駕篭かきが襲われた場所を探したが荷車の痕跡は分からなかった。轍のあとは残っていたが、猟師のアイーダ・ノースフィールド(ea6264)の目にもどれが問題の荷車か判別できない。
「見当違いのところを探している可能性もあるか。しかし、今更戻る訳にもいくまい」
リーゼは淡々と答える。追跡の失敗は想定の範囲内だが、万全の手を打つのは難しい。これ以上捜索の手を広げて人数を割けば、いざ遭遇した時に満足に戦えない。
「そうねえ。手掛かりと言えば当麻だけだし、こうして聞込みしながら足跡を辿るしかないでしょうね」
アイーダは肩をすくめる。
「もう彼らは奉行所の人達と出合った頃かな」
憐慈の言う彼らとは先行する不動達の事だ。当麻の足取りを追う事になるなら、分かれず一緒に行動すれば良かったと思わなくもなかったが、死人使いの行動に確証が持てないからにはそれも早計か。
「俺達は一連の事件は当麻の仕業ではなく、死人使いは別にいると思ってる。だけど、それを奉行所の同心達に信じさせるには証拠が要るしね」
別々の思惑で動く両者が共に行動しても良い結果は得られない。それは先日の一件の教訓だった。あの時、冒険者と同心達が互いを牽制しあっていたのは事実だ。
「上手くやってるかな‥‥」
天城達に追いつくにはまだ時間がかかった。その間に事態が悪化しない事を祈る。
●死人使い
「それは事実か?」
不動と馬籠が駕篭かきの事件を話すのを、同心達は真剣に聞いた。ここ数日の彼らは当麻の追跡で忙しく、町奉行所には戻っていない。駕篭かきの事件についても殆ど知らなかった。街道の噂は彼らの耳にも入るので、半日ほどの違いだったろうが、或いは彼らが来なければ知らずに当麻捕縛に赴いていたかもしれない。
「荷車と死人か‥‥」
「何か心当たりがあるのなら、お互いに情報交換と行きたいんだけどねぇ?」
馬籠は同心達の反応を探るように言った。彼女は出立前に武家屋敷で仇討ち関連の噂を探ったが、時間が無かった事もあるだろうが目ぼしい話は聞けなかった。情報が不足しているのは否めない。
「そうだ、お互いまた失敗では立つ瀬が無い。武士は相身互い、この場のみ協力関係があっても良いと思うが?」
不動も身を乗り出す。彼は少々酒が入っていた。まだ酔うほどでは無いが、素面より舌は滑る。
「一理あるな。では話すが、その前に聞いておく事がある。お主たち、何名だ? まさか死人退治を二人という事はあるまい」
不動は一瞬難しい顔を見せたが、指を一つ曲げて両手を見せた。下手な嘘はすぐばれる。同心は頷き、幾分口調を和らげて話し出した。
「我らも死人がどこから現れるのか疑問を持っていた。死体がどこにでも転がっている道理は無い」
言うまでもない事だが動く死人――死人憑きは元は死体である。野ざらしの死体は皆無でないが頻繁にあるものではない。当麻が死人使いとしても、彼の周りに死人が常に在るのは不自然だった。
「死人使いは別に居ると考える方が自然なのだ」
だが当麻の近くで死人が出るのは事実。当麻自身が死人使いの疑いが全く無い訳でも無い。奉行所としては当麻捕縛を優先せざるを得ない。また同心達は先日の一件で冒険者の一人が黒魔法と思しき攻撃を喰らった事も知らない。
「それならば、一緒に死人使いを捕まえないか? いや、貴殿たちのお役目は承知しているつもりだが、ぬ‥‥難しいだろうか?」
不動はストレートな物言いをした。元々てらいの無い男だが、少々酔ったようだ。
「それは出来ぬ相談だな。ここで当麻を取り逃す訳には参らぬ」
同心は言った。冒険者達が推測したように、彼らは当麻をあと一歩と言う所に追い詰めていた。ここで捕縛の手を緩めれば、また逃してしまう。
「どうして急ぐ? 当麻は西国の武士という噂だけど、その事と何か関わりがあるのかね?」
「関係のない話だ」
探りを入れる馬籠に同心は素っ気無く返した。深く突っ込むほど情報がないので馬籠は黙り、目は不動を見た。この場でもう動きが無いなら、仲間に同心達の話を知らせたい。
しかし‥‥と考える。今から馬籠が仲間を呼びに行っても、恐らく着いた頃には当麻は捕縛された後だろう。どうすれば良いか考える。
一方、江戸に残った闇目は死人事件のことを調べて回っていた。周辺の襲われた村まではさすがに一人では手に余るので、噂の出所を調べたり、行商人から話を聞く。闇目は幸運な事に、寺で傷の回復をしていた生き残りと話が出来た。
「その侍が死人を率いていたのですか?」
「へ? 率いたちゅうのは何だね。あのお侍が来て、その夜に死人が出たんだよ」
「‥‥当麻が死人を操っていた所は見なかったと?」
「見るも何もこっちも夢中だ。そんな暇はあるけえ」
道理である。突然村が死人に襲われたとして、誰が死人を操っているかなど冷静に見れるものではない。真に死人を操る姿を見るには酷く限定した条件が必要だ。
「つまり、この侍が村に来て、その夜に突然死人が村を襲った‥‥それは事実なのですね?」
「くどい兄ちゃんだな。そうだよ」
奉行所の手配書を見せる闇目に、村人は当惑ぎみに答えた。この村人も噂の根元の一つである。証言に嘘は見られない。闇目は誰かが故意に噂を流した事を推測していたが、或いは死人を操る侍の噂とはこのようなものなのだろうか。
「それなら、奉行所の人達も当麻をまず捕まえようとするでしょうね」
闇目は噂を聞いた人達に、もう一方の似顔絵も見せたが、「商家の番頭風」の男の事を知る者はいなかった。今回の調査はここまでだ。
●当麻
「当麻直重! 隠れている事は分かっている。神妙に縛につけ、申し開きがあればお白洲で聞こう!」
奉行所の手勢は潜伏する当麻の小屋を取り囲んでいた。不動には先日の一件を思い出す光景だ。違うのは彼が同心達の隣にいて、仲間の姿が無い事だろう。馬籠は仲間に報せに行ったが間に合わなかった。手出しはしないと武士の約束をして、不動は同席を許された。
「‥‥答えがありませんな。また死人が来る前に踏み込みましょう」
「仕方あるまい」
「むむ」
同心達の会話に割り込みたいが、不動はこの場でどうするべきか迷っていた。奉行所に味方して、ひとまず当麻は捕縛した方が良いように思えるが、割り切れない。そんな不動の心境をはかったように、同心の一人が声をかけた。
「ご助勢願えるならば、我らの後ろを守って頂きたい」
「‥‥心得た」
野太刀を取り出す。今回は使わずに済むならそれに越した事は無いと思っていた。
「我が名は鬼道衆十七席『朧月』リーゼ・ヴォルケイトス。塵と化し天に帰れ!」
リーゼはオーラを纏った霞刀を握り、死人の列に飛び込んでいた。
「この死人ども、どこから?」
馬籠から連絡を受けた5人は不動達と合流しようとした。まるでそれを阻むように、死人憑きが現れる。
「相手にしてられないわ、一気に突破するわよ!」
瑞紀はとりあえず前方の死人に爆空波を放つが、その目は死人以外の者を探していた。
「月代っ、死人使いはどこだ?」
迫る死人達を見回してマグナが背後の月代憐慈を見た。憐慈は死人に気づいてすぐ呪文を唱えている。死人は呼吸をしない。だから彼らの周囲にブレスセンサーの反応があればそれが死人使いだ。
「‥‥見つけた、かな」
ブレスセンサーは精度が低い。若干の不安はあるが、息吹を感じた方向に月代は走る。月代に近づく死人をアイーダの矢が打ち抜いた。
「援護は任せて」
死人はタフなので、アイーダは二本ずつ矢をつがえた。矢代を思ってつい顔を顰めるが、月代の道を開く。
「くっ‥‥」
黒い外套を纏った男は真っ直ぐ自分めがけて走る志士の姿に戦慄し、踵を返した。男は軽装で、憐慈一人なら逃げられたかもしれない。
「っ!」
不意に黒い巨漢が男の斜め前から出てきた。無言で長巻を振るうマグナ。だが僅かに間合いが遠かったか、方向転換した男に届かない。しかし、そこまでだった。足がもつれて転がった男の首筋にマグナは長巻を突きつける。
「ま、待てっ」
「寝ていろ」
暗殺剣士は長巻の峰を返して男の後頭部を思い切り叩いた。一言呻いて、男は気絶する。
一方、小屋に突入した奉行所の面々は。
「小宮様! 小屋は、もぬけのからです!」
「何!?」
当麻を逃していた。
あらかじめ小屋の周囲に岡引を張り付かせていたのだが、その一人が昏倒している。突然矢を撃たれて、動顛したところを背後から殴り倒されていた。
「当麻にまだ仲間がいたのか?」
死人が弓矢を使うことはまず無い。不動はある人物が頭に浮かんでいたが、口は出さなかった。
「どうして俺を助けた?」
さて、当麻が奉行所の囲みを破るのに協力した天城は二人で小屋から離れていた。
「俺はただ真実が知りたいだけだ。死人を操っているのはお前ではないようなのでな、お前と、噂の死人達にどんな関係があるか、教えてはくれないか?」
「‥‥それを聞いて、どうするつもりだ」
「悪いようにはしたくないが、聞いたあとに考えるよ」
疑いの目を向ける当麻に、天城は率直に答えた。
「俺は死人に呪われておるのだ‥‥縁があればまた会おう」
当麻が立ち去るのを天城は追わない。もう一人の人物に、彼は気づいていた。背後で人影が動くのを、つがえる手も見せぬ早業で梓弓の矢を放つ。矢は走り出そうとした人影の目前の木に突き立った。
「‥‥何故邪魔をするのです」
「真実が見えるまで、奴にはもう少し頑張ってもらいたいんだ。あなたがそれを教えてくれるというなら、話は別だけど」
烈閃はいつでも矢を放てる距離で人影――芳野を見つめた。
「私の真実は一つだけ、お話しすることはありません」
芳野は姿を消した。後ろから奉行所の手勢が近づいてくるのを感じて、天城も逃げる。
「気がついたかい?」
目を覚ました時、黒衣の男は縄で体を縛られていた。ご丁寧に印を結べぬよう両手はがんじがらめにされている。
「とりあえず目的と後ろ立てがいるならそれが誰なのかを白状してもらおうか?」
何気ない口調で憐慈が尋問する。捕まえた男は似顔絵の番頭風の人物とは別人だったが、それで無関係と思うほど人は良くない。
「‥‥」
黙り込む相手の喉を憐慈は締め上げた。
「言っとくが、知らないで許される事なんざありえないからな?」
つづく