妖怪荘・参 怪しい隣人

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月12日〜07月17日

リプレイ公開日:2005年07月22日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。

「捜査は進んでいるか」
 或る日、冒険者ギルドに役所の人間が訪ねてきた。
「妖怪荘の中に足懸かりを作りましたので、これから色々と情報が入ります」
「それは重畳――本来なら我々が行うべきことなれど、妖怪は専門外」
 かといって初めから検非違使や新撰組、見廻組などに頼めば人死にが出るのは確実、洛中での騒ぎは役人の望む所では無い。
「貴族の某が関わっておると噂する者もいてな。根も葉も無きことながら、一応は調べておかんとな」
 危険な盗賊や妖怪の巣窟と判明したなら、治安組織に鎮圧を頼む事になる。
 次の調査で中間報告をしてほしいと役人は言った。盗賊や妖怪の影があれば、その時点で調査を終了して検非違使なりに話を通す気のようだ。
「まだ調査は途中ですが」
「隅々まで調べる必要もあるまい。いずれ悪の巣窟ならば、処断は早い方が良い」
 状況によっては検非違使や新撰組などと協力して、冒険者に引き続き仕事を頼むことも在り得ると役人は言った。その時の依頼内容は調査ではなくなるが。

「7人か8人」
 一方、妖怪荘『壱の門』では住人が一度に居なくなった。珍しい事では無い。部屋が4つ空き、それを見越したように数人、新たな住人もやってきた。
 浪人風の江川次郎三郎とその妻子、同じく浪人の内倉兵庫、遊び人の金次、薬売りの右之助がそれぞれ入居を希望している。さて冒険者の部屋は今のところ一つだが、前回は10人ほどだったので一部屋では狭いと文句が出ていた。空き部屋を借りるなら、新たな住人希望者と話し合いが必要だが。
 手代から中間報告の話も聞いた。調査方法を一任されている冒険者としては、思案のしどころである。

●今回の参加者

 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1516 片桐 弥助(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ティアナ・クレイン(ea8333)/ 物部 兼護(eb2038

●リプレイ本文

●親睦会
 妖怪荘『壱の門』に新しい入居希望者が集まった。
 目の前には素麺と酒。

「そうめんぱーてぃを行おうと思うんです。新しく入った者同士、昔からの住人の皆さんとで親交を深める良い機会になりますよ」
 楠木麻(ea8087)が自腹を切って企画した。
 腹が膨れて酒も入れば口も軽くなるだろうと思って開いた親睦会。

「こっちとら、か弱い乙女なんだよ?」
 いま話しているのは小柄な少女。新しく妖怪荘に入った御藤美衣(ea1151)。
 腰には大小二本差し、年齢は17と若いが場数を踏んだ女渡世人である。
「ろくでもないのと相部屋なんて御免だよ、あたいには一人部屋をくれ」
 美衣は空いた部屋を優先的に回せとごねた。
 冒険者のうち、御堂鼎(ea2454)・八幡伊佐治(ea2614)・楠木麻(ea8087)の三人は誤解から家族者として扱われ、三人で一部屋を既に使っている。
 部屋が無く、美衣と同じ立場なのは志士の物部義護(ea1966)、女騎士のウィルマ・ハートマン(ea8545)、代書人の片桐弥助(eb1516)、それに冒険者以外の四組の新参者。計八組に対して空き部屋は四つ。
「まあ、部屋数が足りないのなら、俺は相部屋でも構わないのだがな」
 物部義護は薬売りの右之助と内倉兵庫に相部屋を提案した。
「それは願っても無い話です。お武家様と同部屋ならこんなに安心なことはありません」
 右之助は義護の話に飛びついた。
「では宜しく頼む。そうだ、俺は寝起きが良くない質でな、覚えておいてくれ」
 まず一部屋は確定。
「ふむ、私はここで人探しが出来れば部屋になど拘泥する気は無い。他の者の好きにすればよかろう」
 ウィルマ・ハートマンはあっさりと引く。
「じゃ、ウィルマさんは要らないのね‥‥あとは」
 美衣は片桐弥助を見た。弥助も辞退すれば一人部屋に近づくと淡い期待を抱いたが。
「俺も相部屋でいいぜ。金次さん、あんた俺と一緒にどうだい?」
「気持ち悪いこと言う野郎だな。ま、部屋なんざ寝に戻るだけだし。構わねえよ」
 遊び人の金次が弥助の申し出を入れて、決まりがある訳ではないがこれで二部屋目もほぼ決まった。残る空き部屋は二つ。残ったのは江川親子と内倉、それに美衣。
「うー、部屋くれないなら腕づくだ」
 自称か弱い乙女は鯉口に手をかけた。麻と鼎が差し入れた酒を飲んで、少し酔っている。
「某は別の場所をあたるといたそう」
 揉める前に内倉兵庫が部屋を諦めた。美衣はこの浪人に見覚えがあったが、思い出さなかった。
「内倉、‥どこかで聞いた」
 八幡伊佐治は出て行こうとする内倉に声をかけた。
 ともあれ、これで残りの二部屋は江川次郎三郎の家族と御藤美衣に。ひとまず部屋割り問題は決着した。ちなみに一人部屋に気を良くした美衣はあとで携行品が少なくなっている事に気付くが、それは余談だ。
「晴れて部屋も決まって‥‥ヌシに挨拶なんて面倒くさいね。それより酒っ」
 ほろ酔いの美衣は辺りを見回して、鼎の姿が無い事に気付いた。凶状持ちの彼女を妖怪荘の入口に連れてきたのは鼎だ。この後にも出来れば同行を頼もうと思っていたが。
「そろそろかな‥‥」
 酔いも回った頃合に、数人の冒険者が軽く目配せした。

「酒は呑めないんだろう? ならメシ奢らしてもらったって罰はあたらないだろ」
 鼎は見知った水干姿の少年を発見して、席まで引っ張ってきた。麻が張り込んだので、酒の肴も良い物が並んでいる。天ぷらを美味しそうに食べる少年の顔を眺めていた鼎は不意に聞いた。
「うちが侍だと何か好都合だったりするのかい?」
「われは腕の立つ人を探しております。侍でありましたら、お頼みしたき儀がございます」
「‥‥」
 鼎は返答しなかった。鼎はこう見えても武士だが、正確には侍で無い。
「‥ところで旦那も新しい女見つけたようだし、弐の門で部屋捜しでもしようと思ってるだけど、鬼について教えてもらってもいいかい?」
 鼎の旦那(偽)はそうめんぱーてぃの席をこっそり離れ、物陰で巻物を広げていた。桶に手をかざすと驚いた事に水が湧き出して、あっという間に桶を満たす。
「さて、お次は‥‥」
 伊佐治は別の巻物を取り出して広げる。桶に張った水に手を付けて念を込めると、伊佐治の体が青く光り、彼の手が触れた所から冷気が流れ出て桶の水を凍らせていく。
「こんなものじゃろう」
 凍らせた桶の氷は砕いて素麺に使う。真夏の京都に氷は貴重だ。勘繰られるかもしれないが、何もしないのも面白くない。
「あとは任せて、そろそろ抜け出すかの。蜻蛉ちゃん待っててくれるかのう」


●夏の肝試し
「弐の門の入り方を教えては戴けまいか?」
 義護は酒を手土産に、赤泥に逢いに来た。
「門の主が真実、帝釈天であるならば‥‥帝釈天と言えば、数ある諸天の中でも相当の武神。その様な方に一目会う事が出来るだけでも損はなかろうよ」
「あ? おかしな事を聞く奴だ。入りたければ己で門を通れ、壁を乗り越えろ。入り方などあるものか」
「おい‥‥?」
 あかどろは馬鹿馬鹿しいとばかりに義護に背を向けた。ちゃっかり酒は奪っている。
 煩そうに追い払われた義護は、門に肝試しに向う酔っ払い達に遭遇する。
 先頭は弥助とウィルマで、それに美衣、鼎、麻と右之助、金次が続く。
「このまま弐の門へ行って、門に行ったという証拠をとってこようぜ!」
 酔った勢いで弥助が言い出した。
「まぁ、脅されれば余計に首を突っ込みたくなるのが人情というものだ」
 ウィルマが真っ先に乗り、それがこんな大人数になった。おっかなびっくりで酒も手伝い、陽気に話しながら『壱の門』の前に着く。大仰な門の向う側は弐の門だ。
「さあ行くぞ」
 さすがに緊張してゴクリと唾を飲み込み、弥助は門を押した。開かない。
 内側から閂がかけられている。
「こらー、開けろー」
 美衣は門の中に向けて大声で呼ばわった。弥助とウィルマは実は一滴も飲んでいないが美衣は酔っ払いだ。
「あれぐらいの酒で酔っちまったのかい? だらしが無いねぇ」
 鼎は他の者の三倍は飲んでいたが、顔色は変わらない。周囲に気を向けるだけの余裕があった。周りの住人は何が始まるのかとこちらを注目している。ふと伊佐治の姿が視界に入った。
「蜻蛉ちゃん、ここは危ない。別の場所に行こう」
「はい」
 伊佐治は蜻蛉の腰に手を回し、回れ右をして門から離れていく。
「どうしましょう‥ね」
 麻は伊佐治には気付かず、門をよじ登ろうとする弥助達を見ていた。ホスト役の麻も酒は飲んでいない。肝試しの為にパーティがお開きになったのでここまで付いてきたが、弥助達だけに弐の門に行かせるのは不安だった。
 これだけ大っぴらに近づけば反応があるかと期待していたが‥。
「何が出るか分からぬ場所だ。全員で行く事もあるまい。ここは後詰を頼むぞ」
 ウィルマが麻にそっと耳打ちした。
「分かりました。ですが気を付けて」
「なに、心配は無用だ。行けるなら参の門まで見届けてこよう」
 塀を乗り越えて、弥助の姿が麻達から消えた。美衣、義護、ウィルマが続く。

 雲が頭上の月を隠した。
 弥助は闇の中で忍者刀を抜いていた。仕事柄、完全な闇で無ければ少しは暗闇の中でも目が効く。
「この気配は‥‥」
 殺気を感じて、反射的に弥助は壁際まで跳び退った。
「楠木! 明りをっ」
 門の向うから緊迫した声が聞こえて、冒険者達に緊張が走る。ウィルマが短弓に矢を番えると、火のついた松明が弐の門に投げ込まれた。
 明りに照らされて、人影が浮かび上がる。
 黒装束の者達が弥助らを囲んでいた。
「ここの住人か? 俺達は怪しい者では無い」
 義護が言ったが説得力は無い。それ所か、弥助は既に殺気を感じ取っている。明りに反応して、黒装束の者達は一斉に侵入者に襲い掛かった。
「ぼやぼやしてると死ぬよっ」
 義護を狙った一人の背後に回りこんだ美衣は二刀で相手に切りつける。
「御藤殿、忝い‥‥っ!」
 義護は美衣の攻撃でつんのめった相手に仕込杖を浴びせる。だが、相手は倒れず短刀を突き出してきた。間一髪で弾くが、その攻撃の重さと相手の姿に義護は驚いて一歩下がった。
「こやつ‥‥人間では無い」
 切り裂かれた装束から覗く顔や体には生気が無く、装いは違うが義護達はつい最近に同じ者と戦った事があった。
「‥‥ふんっ」
 ウィルマは黒装束に短弓を連射した。
「断っておくが悪意は無い。私の国では挨拶代わりだ、抜き身で近づく相手にはな」
 しかし、相手はにひるまず女騎士に肉薄する。
「この野郎っ」
 横合いから弥助が忍者刀を叩き付けた。覆面が剥がれて、至近距離でウィルマは襲撃者の素顔を直視する。
「ズゥンビとはな。やれやれ、これでは幾ら私でも友好的に話をするのは無理か」
 ウィルマは後退した。死人憑き相手に短弓では分が悪い。しかも奴らの馬鹿力は厄介だ。
「弐の門は死人の国かっ‥‥ギャップがありすぎだろっ」
 弥助はウィルマを逃そうと夢中で忍者刀を振る。
「ハートマン殿、閂をっ」
 義護は美衣と並んで死人憑きを抑えながら、ウィルマに壱の門を開けるよう言った。
「‥‥分かった」
 ウィルマは門に辿り着いて舌打ちする。閂は荒縄で縛られていた。
 義護と美衣にはまだ余裕があるが、接近戦が得意でない弥助は命が危うい。忍者刀を弾き飛ばされ、今にもやられそうだ。
「どいて!」
 門の向うから麻の声がした。仲間の窮地を知った楠木は呪文を詠唱する。
 黒い衝撃波が地を走り、壱の門を叩いた。だが門は開かない。
「‥‥無理か」
「いや、十分だよ」
 野太刀をふりかぶった鼎が、グラビティーキャノンで開いた僅かな隙間に渾身の一撃を叩き込む。
 壱の門が開いた。
「さあ早く!」
「助かったっ」
 落ちていた刀を拾って防戦していた弥助は門の中に逃げ込む。仲間達も後退し、大急ぎで門を閉じた。
 死人達は追いかけてはこない。
「なんなんだ、まったく‥‥」
 これだけの騒ぎに関わらず、妖怪荘の住人たちは門の様子を眺めるだけ。
 冒険者達はひとまずギルドに帰還した。