ぶれいくびーと 蜥蜴の壱
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 16 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月13日〜05月19日
リプレイ公開日:2005年05月23日
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●オープニング
これから始まるのは博徒の物語。
ロクでもない連中のロクでもない話に間違い無い。
現に、少し前に江戸から歩いて二日の小さな宿場で博徒同士の争いが起きたが、誰も望まない喧嘩が最後は野原での大決闘となり、多数の死傷者を出していた。
「――だがよ、アレはおめぇ、雇われた冒険者が喧嘩を煽ったって話しだぜ?」
酒場で旅人同士の会話に入った若衆は事情通ぶって話した。
「冒険者が煽ったとは、どんな訳です?」
「決まってるじゃねえか。冒険者って野郎は騒動を飯の種にしてる厄介者だぁ。宿場に悪い噂を流したり、敵対組織の連中を闇討ちしたり、‥‥そりゃ酷かったってことだぜ」
若衆は冒険者が嫌いらしい。旅人の方も感心して言った。
「金のためならヤクザ者の手下にもなりなさる。それならヤクザの方がまだましだ、冒険者というのは人として下の方に居るらしいですな」
「そうそう、全くだぜ」
若衆は何度も頷いた。
旅人達は酒場を出ると江戸への街道を歩いた。
「‥‥先ほどは随分ですな」
暫くして旅人の片割れが、渋い表情で言った。若衆と意気投合していた旅人の片割れはその声に振り返る。
「あながち間違いでも無いでしょうよ。‥‥それでなくてはギルドは務まらんのでは無いかな?」
「‥‥」
依頼人の言葉に、ギルドの手代は無言で応じた。
●蜥蜴一家
江戸から歩いて二日程の宿場に、蜥蜴一家という博徒の一家がある。
親分はこの辺りでは古株の蜥蜴の伊三郎。血と抗争で一家を築いた男で、味方からはそれなりに慕われ、敵からは蛇蝎の如く嫌われている。
「それで、銀次が親分の命を狙ってるのは確かなんだな?」
「確かも何も、あっちの宿じゃその話で持ちきりですよ。野郎はこの宿に乗り込んでくるつもりでさあ」
敵対関係にある黒蛇一家が抗争の末に隣の宿場を手に入れた話は蜥蜴一家にも聞こえていた。しかし、その為に役人に睨まれているとも聞いていた。暫くはほとぼりの冷めるのを待つだろうと予想していたのだが。
「銀次か‥‥見所のある男だったが、若いのはどうも血の気が多くていけないね」
旅支度をした伊三郎が役所に呼ばれていたギルドの手代に会いに行ったのはその日のうちのことだ。
伊三郎は一年以上前、当時、隣町で銀次の親分だった天神の熊五郎が死んだ時に、その縄張りを狙った事があった。それは血で血を洗う抗争にまで発展し、半年前にようやく天神一家と手打ちが済んだばかりだったが、伊三郎を仇と狙う銀次が天神一家を手中にした事で話は分からなくなった。
●依頼
「‥‥護衛か?」
「はい。依頼人は伊三郎さん。蜥蜴の伊三郎と呼ばれるヤクザの親分さんです」
ギルドの手代は集めた冒険者に仕事の説明をする。
黒蛇の銀次に命を狙われる伊三郎から、冒険者の護衛を欲しいと依頼を受けたのだ。
「‥‥また、誰かが泣く事になるのか?」
先の黒蛇一家と天神一家の抗争では双方に冒険者が加担していた。仕事と割り切った者もいたが、歯切れの悪さを感じた者も少なくない。
「命を守って欲しいと仰る人を、見捨ててもおけません」
「しかし」
係わり合いにならない事が一番なのか。手代は何も言わず、受けるか否かを聞いた。
●リプレイ本文
「物騒なのが四人、久野米に入っていったぜ」
旅人が噂する冒険者。
事件の影に冒険者ありと言われ、それでも首を突っ込んだは豪傑無双か神算鬼謀。
「まさか、あのまま呑まれるとは‥‥不甲斐ないにも程があるぞ」
闇に浮かんだ影は黒髪に白磁の肌の忍び、氷雨雹刃(ea7901)。
「まさか‥‥無策ではあるまい?」
今の天神一家と蜥蜴一家を比べるなら、戦力の衰えた天神より伊三郎が一段は上に居る。奉行所に睨まれた天神一家に無茶が出来るとも思えないが、理屈で動く博徒なら苦労はしない。
「‥‥一泡吹かせるか? 鬼の首を獲った気でいるあの銀次にな‥‥」
「まだ着いてない? はぁ‥‥いいえ、確かに四人。もうだいぶ前に江戸は出発した筈なのですが‥‥」
用事で江戸に来た蜥蜴一家の若い衆が、冒険者ギルドに冒険者が来ていないと文句を行っていた。
「じゃあ何か、この俺が嘘を言ってるってのか? ‥‥しかも四人てな何だ? ちいと数が少なくはねえか、おい。天神の連中には散々肩入れして、うちの親分の仕事はまともに受けられねえってのかぁ?」
ガラの悪い子分の悪態を、手代は頬を流れる汗を吹き吹き丁重に受け答えする。
近頃は京都に冒険者が流れて人数が足りない、依頼を受けたのは江戸に名前の知れ渡る腕っこきだから心配ない、着いてない筈は無いからきっと今頃は宿場で親分を守っている筈だ‥‥。
子分が帰ると、手代は台帳をめくった。
依頼を受けたのは氷雨雹刃、用心棒の秋村朱漸(ea3513)、渡世人の千手寿王丸(ea8979)、代書人の黒畑丈治(eb0160)。
この中で素直に久野米の宿場の蜥蜴一家に顔を出したのは黒畑ひとり。
「ひとこと、先に言っておきますが」
僧衣に身を包み、頭から上は鬼面、武者兜の傾いた姿で蜥蜴一家に現れた黒畑丈治は、到着するや気の抜ける口上を並べ立てたそうだ。
「私は無益な殺生は好みません。だが、無益な殺生をする者には容赦しない!」
「‥‥はぁぁ?」
「私は、御仏にお仕えする身です。ですが悪を滅ぼす事しかできません。悪を改心させる方法を知らないのです」
「おい兄ちゃん、来る所を間違えたんじゃねえのかい?」
「受けた仕事は果たします。しかし私はあくまでも護衛です。相手を攻めるのには付き合いませんよ」
それまでに天神一家と黒蛇一家の抗争での冒険者の働きは噂に色々と聞いていた蜥蜴一家の人間が、想像を膨らませてギルドに人をやったのも無理からぬ所だろう。
丈治は多くの依頼をこなし、知る人ぞ知ると言われる冒険者なのだが。
「しかし、残る三人はどうしたのか。氷雨さんや秋村さんはともかく、千手さんはそんなことをするとは思えないですが‥‥」
千手寿王丸は華国出身のハーフエルフだ。渡世人を生業するこの青年が、渡世の義理を欠くのは不可解。
手代が首を捻ったその頃、千手は久野米の隣の数早の宿場にいた。
(「こんな作法から外れたことは好きやせんが‥‥」)
「ごめんなすって」
千手は天神一家にかつての依頼人、黒蛇の銀次を訪れた。
「おお、上がってくんな」
顔見知りの若衆は千手が天神一家の仕事を請けたものと早合点したが、先に天神側の冒険者は到着していたので銀次が姿を現した時には様子が違っていた。
「折角訪ねてくれて嬉しいが、何の用だい?」
銀次に促されて、千手は用件を話した。
「銀次の親分さんに言っておきてぇことがありやす。今更、蜥蜴の親分さんを狙ったところで、銀次の親分さんにどれだけの得がありやしょう」
「‥‥」
「親分が無理を通せば、あちらさんにつくモンが増える。冒険者の手を借りて仕切を得た銀次の親分さんにゃあ、従わねぇもんまでまとめるだけの器はまだねぇ。身内の空気を読めなくなるほど、目がくもっちまったと言うんですかい。随分と嘆かわしいことで」
言いたい放題。
「耳汚しな戯れ言と、忘れねぇで貰いてぇ。事情を噛んじまったもんとして、伊三郎の親分さんを護らせていただきやす。理由なく寝返るわけじゃあござんせん。これ以上、無益な血を流しても一家を大きくすることはできねぇ」
銀次と藍、それに天神の若衆の注視の中で吐露した千手は冷や汗が吹き出た。恐れ知らずの千手に恐い物があるとすればこの場で己が狂化してしまう事だったろう。
「そうか、よく分かったぜ。好きにしな」
銀次があっさりと言ったので、寿王丸は殺気から解放されてその場を後にした。そのまま蜥蜴一家に草鞋を脱いだ千手と黒畑と一緒に伊三郎の警護につく。
さて影で動いた雹刃は他の冒険者達の前にも姿を見せず、そのため記録に残らないので割愛するが、残るは享楽浪人、秋村朱漸。秋村は千手より一足先に数早の宿場に到着していたが、天神一家には向わず、赤鬼の冶衛門の戸を叩いていた。
「ハァッ!? テメェが赤鬼だァ? どんなヤツかと思って来たら‥‥冗談キツイぜオイ!?」
見るからに病みついた姿の冶衛門に、朱漸は大いに失望した。これがもし演技なら、役者になった方が良さそうだ。
「先生、あんたは伊三郎親分に雇われたんじゃねえのかい?」
「ア? だからわざわざ来てやったんじゃねえか。青鬼よか、断然こっちの方がアブねぇって」
朱漸は自分で依頼を意訳したようだ。
「ま、安心しろや‥‥この俺サマが来てやったんだ。枕高くしてよ‥棺箱に足突っ込んでな」
楽しげにゲラゲラ笑った朱漸は不眠不休の番をすると思いきや、冶衛門の子分を捕まえてサイコロを壷を握らせた。
「振れるんだろ? 俺がな‥‥サクラんなって一丁盛り上げてやんからよ、そっちの方宜しく頼むぜ?」
傍若無人さに子分が困惑すると、浪人は子分の首に腕を回して剣呑な顔を見せた。
「アアン? こっちはちゃーんと大親分から許しを貰ってるんだぜ。逆らうなら一人二人斬ってもお咎め無しだってなぁ」
嘘だが。笑みを浮かべると、震える子分に見せるように刀の鯉口を緩めた。
「ひとつ言っとくがな‥‥ヘマすんなよ? 気持ちよく行こうぜ‥‥」
「ひぃぃ」
あとで秋村が冶衛門の所に転がり込んだと聞いた伊三郎は「好きにさせなさい」と言ったらしい。
「オイオイオーーイッ!! ちょっ待てやコラァーーッ!!??」
千手の讒言が聞いたのか、この時は結局、秋村は毎日遊んでいた。
予想に反して天神と蜥蜴の衝突はなく、冒険者達は数日焦れて過ごしただけで江戸に戻ることになった。
「オイッ!? まさか、これで終いじゃねえだろーな!」
「何事も無いのが一番じゃないですか」
暴れる秋村を、丈治が窘める。
「馬鹿野郎! ‥‥平穏無事はケッコウだが、ミンナそんなイイ子ちゃんか? そんじゃ俺の楽しみがねぇだろうがよ!」
「無茶苦茶な‥‥ですが、根拠はありませんが私も抗争をあおり立てようとする第三者が出るような気がしてなりません」
不完全燃焼のまま帰路につく冒険者たち。
二つの町の対立する二つの一家、行き着く先は平和か抗争か?
次は、それが冒険者の前に現れる。
つづく