ぶれいくびーと 蜥蜴の弐

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月15日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月29日

●オープニング

●天神一家
 江戸から歩いて二日の数早の宿では、この町を縄張りとする天神一家で若い女親分と幹部が話していた。
「宿場の争いを鎮めるのが、私らの仕事じゃないのか?」
「親分の仰る通り、喧嘩なんざくだらねぇ。出来る事なら血を見ずに済ませてぇ、こればっかりは出来ねぇ話なんです」
 親分の藍はまだ少女で実権が無い。後見同然だった古い幹部衆が先の喧嘩で引退すると、代わりに入った黒蛇の銀次の抑えがきかなかった。
 銀次は冒険者を雇って宿場内の敵対勢力と戦おうとしたが、前回は様子見で終わった。冒険者の数が揃わなかった事もある。またギルドの冒険者は血を好むと世間で言われたのが影響したのか、冒険者達は銀次に慎重論を唱えるのだった。
 厳しい情勢から考えを改めたのか銀次は攻撃目標としていた赤鬼の冶衛門と青鬼の長佐に和解の条件を突きつける。
「伊三郎と縁を切れば、今後は同じ宿場の人間として共に手を合わせていこう」
 仇と狙う蜥蜴一家の身内が同じ宿場にいる事は、いわば喉元の短剣のようなものだ。話は内々に進めようとしたが。

「長佐の兄貴はいらっしゃいますか」
 使いに走った若衆が青鬼の家を叩くと、そこに蜥蜴一家の男が居合わせていた。
「兄貴の何の用だ?」
「へい。天神の親分の使いで、兄貴に折り入ってお話が‥」
 この若衆は昔から長佐と親しかったので、この状況下で警戒心が薄かった。危険な役目も自分ならと引き受けたのだが、運が無い。
「そうかい。そいつを聞いちゃあ、黙ってる訳にはいかねえや」
 蜥蜴一家の男は使いの若衆を捕まえると、持っていた書付も奪った。この男、元は商家の生まれでチンピラに珍しく、何と字が読める。その場で謀事は露見した。


●蜥蜴一家
 数早の隣、久野米の宿場を縄張りにする蜥蜴一家は隣接する天神一家との関係に手を焼いていた。
 元は蜥蜴の伊三郎から仕掛けた喧嘩だが、一度は手打ちをして和解がなっている。
「天神の若いのにも困ったもんだ」
 敵視する銀次に対して、伊三郎は被害者面をした。
 護衛に雇った冒険者がなかなか面白い面子だったせいもあるのか、渦中の一方である割には動静を見守る態だ。尤も、赤鬼青鬼の二人を橋頭堡に持っている事から伊三郎の真意は明らかで、内心では天神一家の激発を待っているのだという者も少なくない。真意はどうでも良い。
 青鬼に送られた書付を見ると。
「見なかったら、放ってもおけたが。さて‥‥」
 おっつけ冶衛門からも知らせが来るだろうと伊三郎は待ったが、来ない。蜥蜴一家で兄貴分弟分の関係だった冶衛門に限ってよもやは無いと思ったが、朝になって知らせが届いた。
 病に伏していた冶衛門はその晩に息を引き取っていたという。
「‥‥すまねぇな、兄弟‥‥」

 伊三郎は葬儀の為に数早の宿場に行く。
 今回は、そこから始まる。


●依頼
「伊三郎親分から、護衛の依頼です」
 ギルドの年配の手代は集めた冒険者に仕事を説明する。
 仕事内容は、伊三郎が数早の宿場にいる間の護衛だ。
 宿場の人間は伊三郎の滞在中に何かが起こると、固唾をのんで見守っている。
「そこまで注目されては、かえって何も起こらないだろう。確かに楽では無いが、荒事はなさそうだな」
 さて、どうだろう。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ 黒畑 丈治(eb0160)/ 雪続 高明(eb1834

●リプレイ本文

 街道で噂を聞いた。
 凄腕の冒険者が10人、蜥蜴の伊三郎に雇われて数早の宿場に乗り込むと。
「こうなっちゃ正面対決か」
「赤鬼の冶衛門を卑怯な手段で黒蛇の銀次がやったもんだから、伊三郎親分も重い腰をあげなすったのさ」
「冶衛門は病で死んだって聞いたが?」
「今日明日にも抗争かって時期に病なんぞで死ぬものけぇ。殺されたんだよ」
 人の口に戸は立てられないとは良く言ったもので、どこから流れた話だか分からない流言は数早と久野米の間で子供でも知る程に広まった。

「藍親分に会いたいんだが‥」
 忍者のように大凧を飛ばして一足先に数早の宿場についた久留間兵庫(ea8257)は、天神一家を訪ねた。
「喧嘩なら俺が相手になるが、詫びならこのまま帰ってくれ」
 天神の若衆は取り次ぐ事もしなかった。兵庫が蜥蜴に雇われたと知っている口ぶりだ。
「話が早いが、俺はただ金を返したいだけでね」
 以前の抗争において久留間は天神側について戦ったが黒蛇側に負けた。詫びとかでなく、その時の依頼料を返すだけが訪問の理由だった。
「‥‥そうか。なら仕方ない、これを親分に渡してくれないか」
 通す気の無い子分に、兵庫は金の入った巾着を預けて立ち去った。

「あの時は完敗でしたね」
 宿場へ向う道をクリス・ウェルロッド(ea5708)とルミリア・ザナックス(ea5298)が並んで進む。
「‥‥」
 二人とも馬上の人で、クリスはしきりにルミリアに話しかけるが、ルミリアの方は真っ直ぐ前を向いたままだ。レンジャーに比べて女騎士が馬を操るのに余裕が無い事もあるし、ルミリアは先を急いでいた。
「貴女の活躍、あとから聞いて敬服しました。まさかポーションをあんなに用意するなんて‥‥」
 クリスは構わず話した。女性が居れば話しかけるのが礼儀と考えている。それは良いが、相手が喜ぶと信じて疑わない所がクリスという人物だ。
「それが今は同じ陣営で力を合わせることになるとは‥‥」
「アレはなんだ?」
 ルミリアは空中の大凧を見あげていた。つられてクリスも目を向けた。二人とも並の人間よりは目が良い。凧に乗った人物が見える。
「おそらく冒険者の‥‥何かあったか?」
 もしかしたら何か異変が起きたのか、胸騒ぎがしたルミリアは乗っていた馬から下りて韋駄天の草履を使った。
「あれ、撃ち落したら面白いかな? 仲間かもしれないし、やらないけど」
 クリスは微笑み、駿馬を急かしてルミリアを追った。クリスはロングボウの使い手として戦場に出れば英雄にもなれる男だが、今は個人的興味でこの依頼を受けていた。

「天神にゃ人に化ける忍びが居るって話だ。身内に化けてこねえとも限らねえんで、本物の目印に右の二の腕に墨で鬼と入れるのはどうでぇ?」
 そう考えて秋村朱漸(ea3513)は江戸を出る前にシフール便を伊三郎宛に頼んだ。宿場に入る前から勝負は始まっている。
 冒険者対冒険者という図式だから、先の先を読もうと皆必死である。
「お前さんもかい?」
「‥‥ここまで使って、俺をただの子飼い扱いでは器が知れるぞ、蜥蜴の‥‥」
 氷雨雹刃(ea7901)は伊三郎に真意を問う。
「俺の腹を気にするあたりはまだ可愛いが‥‥昔話をしてやろう」
 20年程前はこの界隈は闇雲雀の源三という親分が仕切っていた。伊三郎はその若衆で、順当に行けば次の跡目と思われていたが激動の時代だ。江戸が出来て、人がどっと増えると揉め事も多くなる。その中で上方から流れてきた天神の熊五郎がめきめきと頭角を現し、ついに源三の跡を継いだ。
「‥‥熊五郎に奪われた縄張りを取り戻そうと考えているのか?」
「俺は熊五郎の事は嫌いじゃなかった。銀次の野郎も。若い頃の熊五郎にそっくりだぜ」
 だからなんだ、とは伊三郎は口にしない。
 しかしヤクザである。敵と公言する銀次を伊三郎は許さないし、同じ道を行く限りは天神一家もただではおかない。

 蜥蜴の伊三郎は護衛の冒険者を連れて数早の宿場に向った。
 その間、久野米の宿場には秋村とゲレイ・メージ(ea6177)の二人が留守番として残る。
「いいか‥‥親分の居ない今が天神の奴らにとっちゃ絶好の機会なんだ。絶対仕掛けてくるに違いねえ、怪しい奴が宿場をうろついてたら問答無用でふん縛れ」
 秋村は蜥蜴の若衆十数名に宿場の見回りをさせた。一緒に外に出るゲレイは玄関で振り返る。
「おたくは出ないのかね?」
「俺はこの屋敷の守りよ」
 朱漸は笑みを浮かべた。また博打三昧の予定である。
「宜しい、秋村君はここの人達と好きに親睦を深めていたまえ。私は外で聞き込みをしよう」
「あん?」
 秋村に睨まれつつゲレイは外へ出た。
「大体の事は二人から聞いたが‥‥町の人の声を聞く事から始めよう。何かが起こる前に、防げたらいいが」

 デュラン・ハイアット(ea0042)、氷川玲(ea2988)、緋邑嵐天丸(ea0861)、山本建一(ea3891)、それに大凧で急ぎ久野米に来た兵庫の五人が伊三郎と一緒に数早の宿場に入った。ここで先に数早に着いていたルミリア、クリスとも合流する。
「騒がしい宿場だな」
 デュランは周囲を見回して言ったが、反対に静かな宿場入りだった。抗争の噂は広まっているから、宿場の者は誰も伊三郎達に近づこうとしない。通りも閑散として人影もなかった。
「嫌な雰囲気だ。天神側は仕掛けてきますかね?」
 建一は同行する蜥蜴の子分達に話しかける。
「いくら黒蛇でも、まさか葬式に来た人間を襲うことはしねえだろう」
 渡世人の仁義にもとる行為だ。破れかぶれならやるかもしれないが、伊三郎の側は冒険者も連れて警備も硬い。まず襲撃は無いと皆思っていた。
「そうですね。今回はお葬式ですし、馬鹿なことは起こらなければいい」
「全くだな。それにしても」
 デュランは首をひねった。
「私達のような危険人物が宿場に入ったのに役人の挨拶も無しか」
 冗談めかして言ったが、事態は簡単な話しではなかった。
 京都の亡者討伐に摂政として源徳家康が参加している。遠征軍の増援派遣、遠く離れた京都への物資の輸送、諸国への対応など、役人達は通常の数倍の仕事に忙殺され、関東の治安能力は一時的に低下していた。
 これが普段の事なら、伊三郎達は宿場に入る前に止められて不思議は無いが、現実には役人の顔を一度も見ることなく赤鬼の家に着いた。
「お待ちしてましたぜ。親分が来てくれたら千人力だ」
 知らせを聞いた青鬼の長佐が先に来ていて、伊三郎達を出迎える。冶衛門の家はこの大勢で寝泊りできるほど大きく無いので、宿泊は長佐が近所の家を二、三借りる話をつけていた。

「しかし親分。なんで冒険者なんぞを雇ったんですかい? 俺達じゃあ、親分を守れねえとでも言うんですかい」
 長佐は伊三郎に冒険者の不満を言った。この場にいる冒険者のうち、嵐天丸、ルミリア、クリス、兵庫の四人は以前の抗争で天神や黒蛇に雇われていた経緯がある。金次第、気分次第で転ぶ輩に親分の警護を任せるのは不安だと、率直に口にした。
「もっともな心配だが、俺達も信用商売だ。依頼人を裏切ることはせぬよ」
 兵庫が言う。伊三郎は他の三人を見た。
「折角ですし、こちらも命を預けてるんだ。腹を割って思うところを一つ聞かせて貰いましょう」
 そう誘われて、まず嵐天丸が口を開いた。
「俺は、天神側にいる時は黒蛇を倒せるように動いてたつもりだ。それが今になって蛇の頭に使われたくねえし」
 天神に雇われていた時はその卓抜した剣技で少年は活躍した。五間以上の間合いから相手を昏倒させる夢想流の衝撃波は敵陣営に恐れられた。刀要らずの達人だ。
 次に言ったのはクリス。
「前の抗争の時は、最後の決戦で天神側に付かせてもらっていたけどね、今回は天神のトップ、藍嬢を違う視点から見てみたくなってね。あ、個人的な話は別だから、仕事は真面目にしますから」
 素直に話した。変に理由をつけるよりはこの方が何かとやりやすい。変人とは思われるけれど。最後はルミリア。
「確かに我は銀次殿に雇われていたが、報酬以上の働きはしたゆえ貸しはあっても借りは無しだ。久留間殿も言われたが、ギルドの一員として信義に賭けて尽力致す所存」
 ルミリアは先の天神・黒蛇抗争の勝敗を分けた働きをしたとされる。他の冒険者の働きが彼女に比べて少なかったという事は無いが、ルミリアの働きは分かりやすかった。武闘大会で武勇を知られた女騎士でもあり、天神一家にとっては要注意人物だ。
「それじゃあ、うまくやってくださいよ」
 伊三郎が言うので、長佐は渋々と冒険者の事を認めた。

「料理だったら、俺に手伝わせてくれないか?」
 嵐天丸は伊三郎の護衛の隙間に台所に顔を出した。
「邪魔だよ」
 台所に立っていた長佐の女房が素っ気無く答える。台所には他に長佐の妹と子分達の女衆が忙しそうに働いている。確かに、一見して嵐天丸の出る幕は無い。
「そう言わずにさ、邪魔はしないよ。心得は無いけど、料理とか好きなんだ」
 歳は若いがこの緋邑、剣に生きて殺伐とした毎日を送っている。台所に来たのも護衛の一環だ。
「高い御足をふんだくってるんだろう、飯炊きなんてさせられる訳ないじゃないかい?」
「だから毒見。これも仕事ってことさ」
 女房達は嫌な顔をしたが、嵐天丸は居座った。
「どこにいるかと思ったら、こんな所で遊んでいたか」
 デュランは女房達と世間話をしている嵐天丸を見つけると、葬儀の後の酒席の料理の事などを細々と伝えた。予想通りに天神一家も出席するらしいが、他の親分さんも来るので即襲撃の線は薄い。
「仕掛けてくるかな」
「どうかな、何とも言えんが‥‥」
 伊三郎が来る前に宿場の旅籠には何通か脅迫状が届いたらしい。イタズラとしても、騒ぎを助長する者の存在は疎かには出来ない。留守番をしたゲレイも出発前に言っていた。
「天神側の冒険者にその気がなくても、誰かが、何か起こすだろうな」
 多かれ少なかれ、それは冒険者の共通認識だった。

「あんた、国はどこだい?」
 氷川玲は長佐の見張りをしていた。無論、本人には言わない。ただ話しかけたり、偶然近くにいる風を装った。
「甲州武川だ。おいてめぇ、俺と話してる暇があったら親分の側でお守りしな」
「それもそうだが、俺は新参者だからな。色々と分からないこともある。あんたはこの宿場には詳しそうだ」
「まあな。で、何が聞きてぇ?」
 長佐は元は天神一家だったがその頃から冶衛門と親しく、虎五郎が死んだ後に起きた一年ほど前の抗争では蜥蜴側に寝返った経歴を持つ。宿場に詳しいといえば、詳しい。
「それじゃ、まず天神一家で腕の立つ奴を教えてくれ」
 玲は当たり障りの無い話をした。目的は長佐の監視だから適当に話が出来る関係になればそれで良かった。
「長佐殿」
 氷川が二、三長佐に質問をした所でルミリアがやってきた。
「捕まえた銀次殿の子分はどこか?」
「あん? ああ、そんなら半殺しにしてとっくに放り出したぜ」
 書付を持ってきた銀次の子分の事を知った長佐は烈火の如く怒り、男をボコボコに殴りつけて放り出したらしい。殺せば後戻りが出来ないし、捕まえたままでは面倒だ。
 殴って返答としたという事だろう。ちなみに書付を奪った子分は、元々伊三郎の子分であり、今回は留守番で宿場には来ていない。ルミリアはその子分の命が狙われるのではと危惧していたが、久野米には朱漸とゲレイがいる。ここで心配しても仕方無い。
「長佐殿、模擬戦の相手をお願いできませぬか?」
「なに?」
「共に戦う者として、我の腕前を見て頂きたい」
 先にも言ったがルミリアは武闘大会の常連である。巨人族でコナン流の達人、江戸でも指折りの猛者だ。勝負は始める前から知れていたが長佐も血の気が多い。受けた。
(「ヤクザにしてはやる方だな‥‥」)
 思わず二人の模擬戦を見物する事になった玲は、長佐が武士並に戦えることに感心した。試合ならルミリアや彼の敵では無いが、毎日剣の鍛錬を怠らない専業戦士の目から見ても使えるレベルだ。
「俺達相手に言うだけのことはあるか」
 長佐は蜥蜴一家の武闘派の要である。いざ抗争となれば腕が立つ浪人や侠客を束ねて天神一家に殴りこむ切込み隊長の役目を負う。話した感じでは本人もそう自覚しているように思えた。

 様々な思惑が絡んだ冶衛門の葬儀は、少々の揉め事はあったが概ね滞りなく済んだ。
 冒険者を連れて天神の藍と黒蛇の銀次が現れた時はさすがに場の空気がひやりとしたが、弔いの席で血の流れることは無かった。
「御悔み申し上げます。冶衛門おじさんには先代の頃からお世話になりました」
 藍には熊五郎存命の平和な頃は冶衛門に遊んで貰った覚えもある。
「有難うございます。今日は故人を偲んでゆっくりとしていって下さい」
 周囲の緊張をよそに、表面上は慎み深く葬礼は行われているように見えた。

「ほぅ‥‥で、酒飲んで談笑して終りかい? そいつは何ともかんとも」
 留守番役の朱漸は、若衆から葬儀の話を聞いて微妙な笑顔をした。
 何か起きるとふんでいたが、また空振りか。しかし、相変らず誰かが蠢動しているのか宿場の噂話だけは大げさに高まっていた。久野米の蜥蜴一家にも今度の喧嘩では伊三郎親分の所で働かせて欲しいと、侠客が何人もやってきていた。
「いま生憎と親分は留守なんでナァ‥‥ま、遊んでいってくれや」
 朱漸はやってきた浪人や侠客を博打と酒で持て成して、自分の派を作る勢いである。
「氷雨の兄ぃはまた居ねぇし‥‥俺も待ち疲れてきたぜ」

 無事に葬儀を終えて、
 蜥蜴一家の冒険者達はひとまず江戸に戻った。


つづく