ぶれいくびーと 蜥蜴の四

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2005年09月12日

●オープニング

●天神一家
「筋の通らねえ外道に、膝を屈する訳にはいきません」
 黒蛇の銀次他、天神一家の構成員は死を決した戦いに望む事で意見が一致していた。
 仲裁策を出しておきながらのだまし討ち、現役を引退した幹部を皆殺しにする蜥蜴一家の非道に、敵わぬまでも報いなければ、博徒としての天神の看板は地に堕ちる。
「親分、止めても無駄ですぜ」
「止めるもんか。あたしだって、みんなと思いは同じだ。蜥蜴の伊三郎、そして伊三郎に組した冒険者達。決して生かしておくものか」
 藍も陣頭に立つ覚悟である。天神一家は、先の抗争以来内部に様々な亀裂を残していたが、奇しくも蜥蜴一家の悪行によって一つにまとまったのである。

●蜥蜴一家
「天神一家の連中、今日明日にも乗り込んできますぜ」
「俺達が闇討ちしたなんて、汚ぇ言い掛かりを付けてきやがって‥‥」
「血迷いやがって、折角の親分の温情を無駄にするたぁ馬鹿な野郎どもだぜ。返り討ちにしてやらぁ」
 若い衆は戦う気満々。既に青鬼の長佐は数早から逃げ帰っている。
「‥‥天神が宿場に入ったら容赦するんじゃねえ。皆殺しだ」
 蜥蜴の伊三郎は若い衆に号令して宿場の守りを固める。
「宿場の衆に迷惑をかける訳にはいかない。二三日、箱根見物でも行ってもらうがいい」

●新門辰五郎
「数早と久野米の一軒ですが」
「伊三郎も焼きが回ったな。辰五郎親分の顔に泥を塗られてこのままにはしておけねえ」
 面子を潰された江戸の大親分は、二百人からの手勢で二つの宿場を制圧するという噂が流れた。
 町奉行所にも手を回して、この抗争における裁量を任されたという話である。

●冒険者ギルド
「私が武士なら腹を切ってる所ですがね」
 手代と冒険者が話をしている。
 数早と久野米の抗争は、先の暴発により極限に至っていた。
 天神一家、蜥蜴一家から助っ人の依頼が届いている。
「これが最後となるでしょう」

 宿場に血の雨が降る。
 それは何のために。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●戦いの前
 久野米の宿。
「隠居?」
「ああ、そうだ。私が親分の隠居と言う土産で大親分を抑えてこよう。その上で天神側を退けて全てを終わらせる」
 大凧で皆を先行したデュラン・ハイアット(ea0042)は、蜥蜴の伊三郎に会って自分の策を切り出した。
「ふふ‥‥しかし俺が隠居すると言っただけで、辰五郎が引き下がりますかな」
「心配あるまい。跡目の事はあとで考えろ」
 蜥蜴一家は伊三郎が零から作った組織だ。ナンバー2は居るが、それも伊三郎が居てこそ。伊三郎の隠居は別の波紋を引き起こす恐れはあったが。
 デュランが姿を消した後、助っ人の冒険者達が続々と宿場に到着した。
 緋邑嵐天丸(ea0861)、秋村朱漸(ea3513)、山本建一(ea3891)、クリス・ウェルロッド(ea5708)、ゲレイ・メージ(ea6177)、氷雨雹刃(ea7901)、氷川玲(ea2988)‥‥そうそうたる面子が揃っていた。
「あの女、何考えてんだろうな‥‥」
 嵐天丸は伊三郎に愛想を振りまくアルティス・エレン(ea9555)に腑に落ちない物を感じていた。
「んー、何にしたって、負けるワケにはいかねェんだけどな!」
「気合い入ってんじゃねえか、子坊主が」
 後ろから近づいた朱漸が嵐天丸の黒髪を掴んでかき回す。
「な、なんだよ?」
「イイこったぜ。難しいコト考えたって仕方ねえ。初めから決まってんだ‥‥こうなるってなぁ」
 朱漸は上機嫌だった。自ら切り込み隊に志願している。
「心行くまで‥‥イカせて貰おうぜ」
「あれー朱漸じゃん。ねぇ暇なら始まるまであたしと遊ぼうよ?」
 アルティスが近づいて来ると、朱漸は煩そうにその場を離れた。
「‥‥気に入らん」
 決戦を前に意気揚がる蜥蜴一家にあって、玲は沸き起こる不快感に耐えていた。
 喧嘩屋を自認する玲が腹を立てているのは、道に外れた所業を看過出来ない故だ。
(「何より、その外道についてる俺自身を許せねえ‥‥」)
 仲間達が蜥蜴一家の面々と配置を決めている間も玲は一言も発せず、これまでの実績から遊撃に回された。
「弓隊を編成したいのだけれど、出来れば私以外は女性で」
 クリスの要望は無論、却下された。後で弓隊にむくつけき元猟師が3人回されてくると、クリスは深い深い溜息をついた。
「私は見ての通り肉弾戦は嬉しくない方でね、盾代わりの下っ端を手配してくれるかな」
 ゲレイも歯に衣着せぬ物言いで要求したが2人の若い衆を任された。冒険者達の強さはヤクザ達も良く知っていたし、その下で働くのは一種の誉れでもある。
「新門の動きもある‥‥短期決戦だ。どう戦う?」
 雹刃は伊三郎に大まかな作戦を聞いた。
「難しいことは私らには出来ないやな。正面から捻り潰してやりな」
「‥分かった」
 雹刃は奇襲作戦も考えていたが、込み入った作戦は逆効果の怖れもある。拘らずに従った。
 武装した蜥蜴一家は宿場の前に勢揃いして、天神一家を待ち構えた。


●説得
 数早と久野米、この戦いの鍵を握る男が居る。
 仲裁の立場にあった新門辰五郎だ。
 五人衆の暗殺で面子を潰された辰五郎は必ず報復に出る。
 それを察した天神と蜥蜴の冒険者はそれぞれ、江戸から宿場に向うまでの間に辰五郎を説得すべく動いていた。
「江戸は鬼道衆、弐席『喧嘩屋』!氷川玲! 辰五郎親分にお目通り願いたく参上した!!!」
 街道に現れた新門一家と思しき一団に、玲は駆け寄る。
「喧嘩屋の氷川と言やあ、伊三郎に雇われてた筈だ。何の料簡で新門一家の道を塞ぎやがる」
 いろめきだつ新門の子分達に、玲は片足をついて再度声を張り上げる。
「辰五郎親分にお目通り願いたい!!」
「さては親分をここでやろうって腹だな。おい他にも仲間がいるかもしれねぇ、油断するんじゃねえぞっ」
 子分達の警戒は無理もない。武名で知られた冒険者、奇襲は十分に在り得る事だった。
「気味の悪ぃ野郎でさ、親分に会わせろとしか言わねえんで」
 玲が辰五郎の前に引き出されたのは、ボロ雑巾のようにされた後である。
「一本気な野郎は嫌いじゃないが、筋は踏むがいいぜ。それで俺に何の用だい?」
「‥‥」
 意識の朦朧とする玲は呂律の回らない様子だが、何とか口上する。
 要約すればこんな話だ。
 玲は今は蜥蜴一家客分の身だが、仁義も任侠もない蜥蜴一家に愛想を尽かしていた。しかし最後の義理として、玲は辰五郎に天神との喧嘩が終わるまで宿場に入るのを待ってくれと頼みに来たのだと。
「た、ただでとは言わな‥血は俺が流す!」
 早業だった。玲は隠し持っていた短刀を両手で握ると、驚く新門一家の面前で己の両足を傷つけた。
 既に瀕死の体だった玲はそのまま意識を失う。
「‥‥手当てしてやんな」
 辰五郎は気絶した玲に哀しげな目を向けた。
「喧嘩屋と言ってたが、お侍だな‥‥馬鹿なことをしなさる」
「侍ですかい?」
「ああ、建前で物が動くと信じてる。それにだ、まるで切腹じゃないか」

「氷川は失敗したか‥‥やはり、私の出番という訳だな」
 蜥蜴一家の二番手はデュラン。遠目に、荷車に載せられた玲を確認した彼は街道の真ん中に立ち、新門を待ち構えた。
「私はデュラン・ハイアット。伊三郎親分の名代としてやってきた!」
「また来やがったっ」
 前列の子分達は怯えを見せる。いい加減に冒険者の対応に疲れ始めていた。
「どうした? 伊三郎の名代に来たと言っているのだ、さっさと責任者に合わせろ。‥‥それとも、ここの連中は丸腰の男一人を大勢で襲うのかね?」
 不敵に笑みを浮かべるデュラン。
「みんな騙されるな! この野郎はおかしな術を使いやがるぜっ」
 顔が売れるのも考え物である。これは戦うしか無いかとデュランも半ば覚悟した。
「いや手足を縛れば悪さは出来ねえ。おい本当に名代だって言うなら面倒の無いようにして貰うぜ」
「なるほど。さすがに大親分、揃えているのは頭数だけでは無いな。宜しい、平和的に行こうではないか」
 腕を封じられて辰五郎の前に進み出たデュランは、伊三郎の隠居を条件に抗争が終わるまでの静観を要請した。
「おめぇ達、裏で繋がってやがるのか?」
 側で聞いていた幹部から疑いの目を向けられて、デュランは察する。頭の回転は速い男だ。
「ふむ‥‥そうか、いやこれは失礼をした。勿論、結託しているなどという事は無いのだがな」
 これまでの冒険者も異口同音の内容を辰五郎に訴えたのだった。
 冒険者が通じ合って、時間稼ぎをしていると思われても不思議は無い。
「俺が一刻早く着けば、それだけ流す血を少なく出来るんだ。どうしてお前達はぁ、天神と蜥蜴のに血を流させたがる? 話してくんな、こいつはそんなに深ぇ義理のある喧嘩か?」


●抗争のけり
「組員や冒険者に構うな! 止まらず進め!」
 宿場に現れた天神一家は異様な出で立ちだった。半数ほどが雨戸を担いでいる。
 雨戸を前面に立てて、一斉に吶喊する天神一家。
「あれは何かな? 盾‥‥かな?」
 クリスは戸惑った。不恰好で突撃の足並みを揃わぬ様子だが、彼の弓隊に限って言うなら面倒には違いない。それに雨戸が林立するせいで狙うべき天神の幹部達の位置が分からない。
「とりあえず、背後にまわって撃とう」
 弓隊が移動する。
「ブフォァ‥‥なんだ、笑い死にさせる気かよ。ケッ、いいか奴等ァなァ、親分さんの温情を‥‥テメェの身内を殺ってまで蹴った奴等だッ!! 遠慮するこたァねえッ!!一人残らず‥ブッ殺せッ!!」
 切り込み隊の朱漸は腕っ節の強い若衆を連れて天神一家の陣に突撃した。
「冒険者なんかに遅れを取るんじゃねえ!! てめぇら行くぞ!!」
 青鬼の長佐がほぼ同時に突っ込む。
「あらら‥‥魔法を撃つまで待っててと言ったのにな。仕方ない、場所を変えるか」
 ゲレイは頭をかいた。魔法で先制攻撃をするつもりだったが、先に味方が飛び出してしまった。
「戦わずに下がるんですかい?」
「そ、おたくらにも説明しただろう? 私の魔法は吹雪だって」
 乱戦状態では使えないが、集団戦では強力だ。ゲレイは使える時と場所を探した。

「正直な所‥‥気が進みませんが」
 山本建一は朱漸達に続いて、天神の列に接触した。天神のヤクザ達が刀や短刀を突き出してくるが、建一はそれを余裕で避けた。反撃はしない。
「すみませんが、あなた達の相手をする気は無いんですよ」
 乱戦の合間を縫うように進んで、建一は己の相手を探した。
「勝利の暁には藍様から頬に口付けをして頂けるぞー!」
 聞き覚えのある声が聞こえて、そちらに向うと薙刀を振るう久凪薙耶の姿があった。
「山本建一‥‥お相手願います」
 建一に気付いた薙耶は、薙刀を志士に向ける。剣の腕では少女より建一に一日の長があるが、武器の間合いは薙耶が有利。しかも乱戦の最中、敵は眼前だけでは無いのだから気は抜けない。
「行けッ」
 薙耶の声で横合いからヤクザ者が斬りつけて来た。同時に少女も距離を詰める。

「みんな必死じゃん」
 アルティスは伊三郎の側に居た。初めは高見の見物気分だったが長続きせず、伊三郎の近辺も乱戦に飲み込まれる。
「なんでここまで敵が来るのー?」
 アルティスは直接戦わないつもりだったが。
「きゃははは!!」
 極度の緊張の中で狂化する。炎の華が咲き、乱戦を助長した。

「‥‥よっとっ」
 嵐天丸は小柄一本を握り、背中を見せた敵を離れた位置から斬る。ヤクザ者にとっては魔法に等しい不可思議な技に、天神の若い衆は震え上がった。
「‥‥あ、いけね」
 藍の姿を見かけた嵐天丸は慌てて位置を変えた。
「ま、俺が無理する事もねえだろ。やりづらいしな‥‥」
 闇雲な天神勢に対して、強力な冒険者を有する蜥蜴勢は全体では優勢だった。主力を動かしていた薙耶達も山本が封じている。しかし、少年のこの時の判断は後で影響する。

「伊三郎、覚悟!」
 天神の若衆の一人が伊三郎に攻撃した。
「しゃらくせえ!」
 蜥蜴の腹心が立ちはだかるが、若衆は腹心を切り倒して伊三郎に迫る。冒険者が気付いた時には、斬られた伊三郎が倒れていた。
「‥‥銀次」
 変装した黒蛇の銀次が伊三郎を倒す。
「銀次だと‥‥くくくっ」
 疾風の術を使った雹刃は霞小太刀を構えて銀次に迫る。初撃は受け止められたが、雹刃は銀次の退路を塞いだ。
「大したものだが‥‥逃げ場は無いぞ」
 どうやら黒蛇は銀次と藍の影武者を使っていたらしい。それに親分の警護の薄い蜥蜴の虚を突かれた。何の為の戦いとしたか、戦い方の違いが出たと云えるかもしれない。
「冥途の土産に教えてやる‥‥弥太と八郎を殺ったのは‥‥俺だ」
「‥‥」
 雹刃は銀次の隙を伺ったが、横合いから現れた楠木礼子に邪魔された。
「助っ人の相手は助っ人にさせてくださいな」
 二本の刀を構える楠木を厄介な敵と感じた雹刃は無理をせず、引き下がった。銀次一人でも恐らく互角。
「なんだ、兄ィ‥‥逃しちまったのかよ? くくくっ」
「遊び過ぎだぞ。貴様、たっぷり血は吸ったようだな」
 冒険者達に本隊を良い様にやられた天神は伊三郎をやられて蜥蜴が動揺すると、散り散りに逃げ出した。指揮系統を失った蜥蜴は追走はせず、玲とデュランを連れた辰五郎が到着して久野米の抗争は終着する。
 余談だが玲が辰五郎の前で足を切りつけた一幕は人の噂になり、足を無くしても抗争を止めようとしたと評判になった。

「ちっ‥‥逃げられたじゃん」
 アルティスはこの依頼で以前やられたクリスに恨みを返すつもりでいたが、暴走中にうっかり口を滑らせて帰り道ではクリスを見つけられなかった。
「焼き殺してやろうと思ってたのに‥‥運の良い奴じゃん」


ひとまず、おわり