ぶれいくびーと 蜥蜴の参
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 13 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月21日〜07月26日
リプレイ公開日:2005年08月02日
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●オープニング
●蜥蜴一家
「親分! 俺はもう我慢する気はねえ。銀次の野郎がそんなに死にてぇってなら俺がこの手で殺してやる」
目の前で巨人と見紛う大男が激昂するのを、蜥蜴の伊三郎は静かに聞いていた。
「長佐、てめぇ親分になんて口を聞きやがる」
脇に控えていた幹部は巨漢を睨みつけるが、青鬼の長佐は鼻で笑った。
「黙ってろ、俺はいま親分と話してるんだぜ」
「黙るのはお前だ、長佐。俺の顔に泥を塗る気か?」
「うっ」
伊三郎に見据えられて長佐は冷や汗を噴出した。長佐は豪気な男だが伊三郎とは年季が違う。それに兄貴分だった赤鬼の冶衛門の死により、数早の宿場で長佐は孤立していた。伊三郎を怒らせる真似は出来ない。
「銀次のことは私も黙っている気はない。なに、悪いようにはならないように出来ている」
伊三郎はこの時、江戸の大親分、新門の辰五郎に仲介の話を持ち込んでいた。
●天神一家
先代熊五郎と親交のあった親分が数早の宿を訪れたのは、それから間も無くの事だ。
世間話をしている時に、ふと表情を変えて話が切り出された。
「ところで会津に私が世話になった親分がいるんだが立派な人物でね。それに若い者を育てるのが趣味みたいな人なんだが、どうだろう。銀次さんを預けてみては」
「小父さん、それはっ」
天神の藍は顔色を変える。
「悪い話じゃないと思うが。銀次は若い、他所でみっちり修行するのも必要だ」
言葉は丁寧だが、そんな馬鹿な話は無い。天神一家の最高幹部が、どうして修行に出る必要があるのか。事実上の所払いだ。
「藍親分、良く考えて答えるんだ。この話は私だけじゃない、新門の親分からも頼まれた話なんだよ」
もしこの話を断れば江戸の大親分を敵に回すという事だ。
そして一応は流血を望まない調停案ではあった。蜥蜴一家も会津までは銀次を殺しにはいけないし、そんな事をして新門を怒らせては元も子も無い。
「‥‥」
●冒険者ギルド
「伊三郎親分から、また護衛の依頼です」
ギルドの年配の手代は集めた冒険者に仕事を説明する。
仕事内容は、伊三郎の警護だ。
伊三郎の策によって、ほぼ抗争は終息の兆しを見せているが安心は出来ない。二つの宿場にはまだ危険な空気が漂っていたし、伊三郎を不満に思う輩が暴発しないとも限らない。
「もうすぐ天神一家から返事が来ると思いますので、それまで伊三郎親分の警護をお願いしたいそうです」
●リプレイ本文
●鬱屈する感情
(「ジョ冗談じゃねえぞ‥‥」)
どこから見ても不逞浪士といった凶悪な面相で秋村朱漸(ea3513)は、久野米の宿場に着いた。不機嫌な秋村は蜥蜴一家に立ち寄ると、用心棒部屋にゴロリと寝転がった。
(「俺等ァ一体‥なんだってんだ? アア? 伊達かァ‥? お飾りかァ‥‥」)
鬱屈した思いを言葉には出さず、秋村はまさに不貞腐れていた。
触らぬ神になんとらで誰も近寄らないのだが、ふと寝ている浪人に黒い影が差した。
「この真っ昼間から酒か。相変わらずの腑抜けっぷりよの‥‥」
板敷に転がる酒瓶を一瞥して氷雨雹刃(ea7901)は無表情に言う。その声に、半ば目を瞑っていた秋村の頭がカチリと音を立てて覚醒する。
「兄ぃ‥‥か?」
「ふん、‥‥秋村。面を貸せ」
終末は突然にやってくる。
しかし、理由無き現実は無い。ただ理解出来ない事が多いだけだ。
「おたくの作戦勝ちなのだが」
自称真実を追究する探偵、今はただの通訳のゲレイ・メージ(ea6177)は伊三郎を前に滔々と語っていた。
「追いつめられた銀次が、おたくを殺そうとするかもしれんでしょう。勿論、ヤケの突撃くらい防げるに違いないだろうけど、忍者とか裏からブスッとはね、在り得ることだ」
「こんな稼業してましたら、その覚悟くらいはいつでもありますが。それで何か策が?」
畳の上で死ねるとは思わない。達観は無理でも、死は隣り合わせに常に在る。
「策というほどの話でなくて‥‥仮に今、おたくが死んだら銀次がやらせたのだと、皆思うからなぁ。この機会を狙う輩が居るような気がする。おたくも油断しないで欲しいと」
ゲレイが言い終わると、伊三郎は苦笑いを浮かべた。
「その為に、お前さん達を雇ったんじゃねえんですか?」
伊三郎に油断は無い。完璧などある筈も無いが、今回はゲレイの言うように伊三郎の作戦勝ちと見る向きが支配的だ。何より、それで宿場が形だけでも平和になるならと、皆に思わせている所が強みである。
「‥‥蜥蜴の伊三郎、恐ろしい男だが私好みのやり口だ」
デュラン・ハイアット(ea0042)は挨拶もそこそこに宿場を出た。
「とは言え‥‥このまま事が済んでは面白くも無い」
数早の宿に向ったデュランは蜥蜴の使いと言って青鬼の長佐の元を訪れた。
「何の用だ‥‥?」
「急くな。親分の策が実れば銀次は去り、蜥蜴一家に脅威は無くなる。そして、数早に睨みを利かせる為に重宝されたお前の立場も弱くなる。それはわかっているだろうな?」
長佐はデュランを殺しそうな程睨みつけるが、手は出さない。
「しかし、このままで終わるまいよ。我々がいる。必ずや争う羽目になる筈だ。お前の役割は大きいぞ、抗争の備えは十分にしておけよ、以上だ」
煽るだけ煽って、デュランは長佐の所を出た。
「あとは適当に時間を潰さねばな。さて、これも伊三郎の想定内かな?」
ヤクザだって冒険者ほど悪くはない、と誰かが答えた気がした。
「仕事は仕事、額面通りにきっちりこなすのが筋ってもんじゃないか?」
氷川玲(ea2988)は溜息を一つついた。親分の警備そっちのけで動いている仲間のことだ。
「喧嘩屋を名乗る御仁の言葉とも思えないが」
答えたのは西中島導仁(ea2741)。二人は伊三郎の警護に腐心し、夜は伊三郎に押入れに入って寝るよう頼むなど護衛体制の強化に努めていた。今は短い休憩中だ。
「俺は筋は通してるつもりさ。見境無しじゃねえ。‥‥正直他の面子がキレやしないかと心配なんだ」
面白くない仕事でも筋の通った話を掻き回すのは玲の性に合わない。が、冒険者には違う人間もいる。暴走、享楽は日常だ。目くじら立てていたら身がもたないが、残念な事に玲は苦労性だった。
「‥‥諦めろ」
西中島は護衛中、秋村が裏口から嬉々として出て行くのを目撃していた。賭場に行ったのかと思ったが、それを賭場見学に行った緋邑嵐天丸(ea0861)に聞くと緋邑は見なかったと答えた。
「秋村が‥‥数早に?」
「もし天神がこの案を受け入れなかったらどうなる?」
緋邑嵐天丸は伊三郎の警護に付いていた。宿場に一番乗りして賭場で散財した後、真面目に護衛の仕事をしている。
「仏の顔も三度と言うでしょう。私はそれほど人が出来ちゃいない。穏便に解決する話を蹴るなら、土の下で後悔させるしかありませんな」
新門辰五郎が取り持ちの調停案に否と言えば天神につく博徒はいないし、伊三郎は天神を潰す大義を得る。どう転んでも損はしない。
「決闘かー。そうなったら、俺を絶対呼んでくれよ。こっちの方じゃ、大概の奴には負けねえぜ」
嵐天丸は自分の腕をぴしゃりと叩いた。背も低く歳も若いが、この少年は強い。
「そんな事にならないのが、一番いいんだが‥‥」
世間では冷酷非道と言われる男の言葉を、嵐天丸は不思議そうに聞いていた。
●沸き起こる騒擾
「待ちな」
高村綺羅にとって意外だったのは、蜥蜴側の冒険者がちゃんと仕事をしていた事だろう(実に失礼な話である)。
「‥‥ッ」
蜥蜴一家に忍び込んできた忍びを、氷川玲は伊三郎の部屋で待ち伏せていた。
(「一人かよ‥‥あちらさんのやる事も分からんな」)
玲は油断なく短刀を構えた。
「待って! 私は、伊三郎と話をしに来ただけなの」
「‥‥それなら昼間に玄関から入るんだったな」
玲は高村の懐に入り、短刀の柄で彼女の鳩尾を突いた。仲間が居ない事を確認し、気絶した女忍者の武装を解いてから玲は押入れの伊三郎に声をかけた。
「もう出てきても大丈夫だ。‥‥見た所、天神の冒険者のようだが」
始末するか。
「何の目的で来たのか、答えて貰いましょう」
「そうだな」
高村を起こして話を聞く。
「う‥うぅ」
「おいあんた、誰の差し金何の目的でこの屋敷に入った? 正直に答えりゃ命が助かるかもしれん、隠し立ては為にならんぜ」
短刀をピタリと首筋に押し当てられて、逃げ場の無い女忍者は状況を理解すると目をパチパチさせた。
「‥私は、自分の答えを伊三郎に会って確かめたかっただけ。誰の差し金でも無いよ」
女の言葉に玲は鼻白む。高村は天神に雇われた冒険者だろう。彼女の言っている事が本当なら単独行動で伊三郎の真意を質す為だけに敵陣潜入した事になる。
「何を確かめるというんだい?」
「‥‥伊三郎は熊五郎の残した宿場を守ろうと思っている。だから天神を攻め潰すつもりはない。天神の息子を殺した事は、むしろ天神を守る為に已むを得ずにしたことじゃないかって」
物事には本音と建前がある。だが建前は嘘とは限らない。時には、建前が本音以上に本心に近い事もある。人の気持ちは複雑だ。高村は伊三郎の本心を聞いた。答える義理は無い。
「あの娘、逃して良かったのか?」
「鼠一匹どうなるもんでもありません。あなたも、同じ冒険者を始末するのは寝覚めが悪いでしょう」
伊三郎は高村を帰した。殺さずとも捕まえたまま利用する手も無くは無い筈だが、面倒を嫌ったのか。
「敵が来てたってな。どうして俺を起こしてくれねぇ?」
昨夜の一件を又聞きして嵐天丸が不平を漏らす。
「それも逃したって言うじゃねえか。なんでだ、奉行所に突き出せば向こうの仕業ってはっきりするだろ」
「折角ここまで段取りしたんだから、奉行所に出てこられたくは無いんだよ。おたくの出番が無いのが一番良いんだ」
ペットの猫の頭を撫でながらゲレイが言う。ゲレイも嵐天丸同様に暴れられ無かった事を残念に思っている口だが、表には出さない。
「しかし、これでこっちが油断してないってことは向こうも理解しただろう」
「素直に諦めてくれればいいが‥‥」
導仁、嵐天丸、玲、ゲレイの四人は二交代で昼夜を問わずの警護をした。
が、次に騒ぎが起きたのは数早の宿場だった。
「なんでぇなんでぇ? 門前払いかァ?」
久野米を出た朱漸は天神一家に足を向けていた。
「アアン? こっちゃあ仲良くやろうってぇのによぉ‥‥随分とまたケツの穴の細ぇやっちゃな、オイ?」
「友好を口になさるなら、礼儀を守ってからにして頂きましょう」
メイドの久凪薙耶が不良浪人を制止する。
「悪ぃがこいつは地なんだよ、テメェじゃ話になんねぇ綺羅出せや綺羅オイ!」
「綺羅‥?」
ごねた朱漸は天神の屋敷に上がりこむと、天神を挑発する。抜かせる気満々で、いつ斬られるかと内心はヒヤヒヤだ。
「!」
氷雨雹刃は天神屋敷に忍びこんだ所までは良かったが、目的の場所の前で薙耶の歓迎を受ける。薙刀の一閃を肩に受けて、大きく跳び退った。
「‥‥貴方は。‥‥今度は逃しはしません」
黒装束を身に着けているから雹刃とは分からない。正体は察しても不思議は無いが、わざわざ教える気もない雹刃は無言で後退した。術を使う暇を与えてくれそうも無かったし、人知れず始末するには手強い相手だ。
「くっ」
疾走の術によって移動力を倍化していた雹刃は他の者が来る前に薙耶を振り切って逃走した。
蜥蜴一家の冒険者達の挑発に、天神一家の我慢も限界だった。
緊張が膨らむ最中、引退した五人衆が何者かに暗殺される事件が起きる。
つづく