ぶれいくびーと 黒天の壱

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月13日〜05月19日

リプレイ公開日:2005年05月23日

●オープニング

 これから始まるのは博徒の物語。
 ロクでもない連中のロクでもない話に間違い無い。
 現に、少し前に江戸から歩いて二日の小さな宿場で博徒同士の争いが起きたが、誰も望まない喧嘩が最後は野原での大決闘となり、多数の死傷者を出していた。

「――だがよ、アレはおめぇ、雇われた冒険者が喧嘩を煽ったって話しだぜ?」
 酒場で旅人同士の会話に入った若衆は事情通ぶって話した。
「冒険者が煽ったとは、どんな訳です?」
「決まってるじゃねえか。冒険者って野郎は騒動を飯の種にしてる厄介者だぁ。宿場に悪い噂を流したり、敵対組織の連中を闇討ちしたり、‥‥そりゃ酷かったってことだぜ」
 若衆は冒険者が嫌いらしい。旅人の方も感心して言った。
「金のためならヤクザ者の手下にもなりなさる。それならヤクザの方がまだましだ、冒険者というのは人として下の方に居るらしいですな」
「そうそう、全くだぜ」
 若衆は何度も頷いた。
 旅人達は酒場を出ると江戸への街道を歩いた。
「‥‥先ほどは随分ですな」
 暫くして旅人の片割れが、渋い表情で言った。若衆と意気投合していた旅人の片割れはその声に振り返る。
「あながち間違いでも無いでしょうよ。‥‥それでなくてはギルドは務まらんのでは無いかな?」
「‥‥」
 依頼人の言葉に、ギルドの手代は無言で応じた。

●黒天一家
 江戸から歩いて二日程の宿場に、天神一家という博徒の一家がある。
 天神の熊五郎という親分が存命中は宿場も平和だったが、一年以上前に熊五郎が死ぬと、それから抗争が続いた。最初は隣町の蜥蜴一家と争い、それが手打ちになったかと思ったら、今度は天神一家を離反した黒蛇の銀次との間で喧嘩になった。
 江戸の冒険者も巻き込んだ天神と黒蛇一家との抗争は黒蛇の勝利に終り、それから約二ヶ月。
「藍親分、決断して下せえ」
 喧嘩ご法度を破った天神と黒蛇の抗争に対して町奉行所は喧嘩両成敗の裁きを下した。黒蛇の銀次は一家を解散、天神一家は幹部の五人衆が引退に追い込まれた。喧嘩に負けた天神一家が黒蛇一家を吸収した形だが、それは表向きの話だ。実質的には、天神が蛇に呑まれていた。
「兄さん達の敵討ちだ。蜥蜴一家を討つのは今を置いて他にありはせんぜ」
 黒蛇の銀次は幹部の居なくなった天神一家を手中にしていた。
「蜥蜴の伊三郎とは手打ちも済んでるんだよ」
 先代の一人娘であり、それまでは幹部衆の支えでどうにか親分をやっていた15歳の藍には銀次に抵抗する力は無い。銀次は同盟者だった野火の源六と組んで着々と蜥蜴攻めの準備を進めていた。

 まずは宿場に残る蜥蜴一家の勢力を一掃することだ。
 赤鬼青鬼と呼ばれる冶衛門と長佐、冶衛門は病みついて最近は床から出られない有様らしいが、青鬼の長佐は銀次が天神一家の実権を握って以来、防御を固めて一触即発の雰囲気だ。

●依頼
「‥‥助っ人か?」
「はい。依頼人は天神一家の銀次さん。黒蛇の銀次と呼んだ方が通りが良いようですが」
 ギルドの手代は集めた冒険者に仕事の説明をする。
 黒蛇の銀次は宿場から蜥蜴勢力を一掃する仕事に、冒険者の協力が欲しいと依頼してきた。
「‥‥また、誰かが泣く事になるのか?」
 先の黒蛇一家と天神一家の抗争では双方に冒険者が加担していた。仕事と割り切った者もいたが、歯切れの悪さを感じた者も少なくない。
「皆さん次第でしょうね」
 手代は冒険者に受けるか否かを聞いた。

●今回の参加者

 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9700 楠木 礼子(40歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9884 紅 閃花(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●裏が表
「‥‥どうして?」
 依頼を受けた冒険者が5人、江戸から宿場までの道行きは沈黙が多かった。
 喧嘩に勝った黒蛇の銀次が一家を畳んで天神一家に戻り、五人衆が引退して今度は藍が実権を持つかと思えば、今は銀次が藍を操っているかのような状態。
 数ヶ月前のあの抗争は何だったのか、それをつい考えてしまうが喉の奥につかえて言葉には出しにくさがあった。
「今度も、あのときのようになるのでしょうか?」
 ふと遊女の紅閃花(ea9884)が声を出す。答えを期待しての問いではない。
「あの時とは何を‥‥そんな事よりも、その姿は何とかなりませんか?」
 浪人の楠木礼子(ea9700)は咎めるように言った。紅は微笑する。彼女は道中から変装していた。仲間にも素顔は見せられないというのか。
「ごめんなさい。これは性分‥‥仕事はもう始まっていますから」
 本当は宿場までの道も別行動を取る気でいたが、単独行動は危険と言われて道連れになった。それを提案したのは和風メイドの久凪薙耶(ea8470)だ。
「‥‥相手は闇討ちも辞さない者達ですから」
 久凪はそれを知っている。忘れ難い恥辱と共に。
 閃花、礼子、薙耶の三人は先の抗争では敵味方に分かれて戦った経験がある。
 礼子と閃花は黒蛇陣営で、銀次の下で働いた。薙耶は天神陣営で藍の身の回りの世話をしていた。その三人がかつての依頼人の元に、今度は仲間として向う。会話が弾む理由がない。
「複雑だよね」
 薬屋の高村綺羅(ea5694)は前の依頼には参加していない。思う所があって、今回ギルドで何となく敬遠されていたこの依頼を受けた一人だ。
「銀次さんはどんな人なのかな?」
「さあ、人柄が分かるほど親しくはしなかったから‥‥恐がらなくてもいいとは思うけど?」
「そうですか‥」
 綺羅は宿場についたら、銀次にあれこれと質問するつもりだ。何が本心か分からなければ、戦えないと思っている。依頼人を信用していないとも取れるが、納得をしたいのかもしれない。
「――わたくしは、ただ皆様がお怪我などなされませんようお見守り致します」
 代書人の望月滴(ea8483)は高村と同様の物好き‥‥ではなく、僧侶でもある望月は宿場の抗争で人々が傷つくことに心を痛めて参加を決めた。
「難しいの承知していますが‥‥わたくしには、争いを見過ごすことはできません」
 争いを憂う滴が、何故やくざの依頼を受けたのか? それはすぐに分かるだろう。
 偶然か女ばかりの5人連れ、ともあれ彼女達が新しい物語の扉を開く。

 数早の宿場に到着した五人は、迷わず天神一家を訪れる。
「‥‥よく来たね」
「お久しぶりで御座います、藍様。今回も引っ掻き回しに参りました」
 出迎えた天神の藍に、薙耶が真顔で冗句を口にした。しかし、心なしか若衆たちの視線が痛い。冒険者達が騒動を拡大させる事を、このヤクザ達は身を持って知っている。
「貴方の配下に雇われて参りました楠木礼子と申します。浅学非才の身ではありますが、全力を尽くす所存」
 冷たい視線には構わず、礼子は恭しく藍に挨拶した。かつての雇い主の銀次の事は努めて無視する。
「ご苦労だね。まず今夜はゆっくり休んで、旅の垢を落としておくれ」
 微妙な空気だが、藍は冒険者達を歓迎して迎え入れたのだった。


●真意と嘘偽
 冒険者達はすぐに藍や銀次と話したかった。だが、天神一家の若い衆の見ている前では突っ込んだ話は切り出し難い。藍も銀次も忙しい身だから、後でゆっくりと思っていたら話す暇も無かった。
(「まずは情報なんだけど‥‥」)
 寛げと言われても高村は落ち着かなかった。
 客分として下に置かない扱いはしてくれるが、若衆達の意味ありげな視線と身の置き場の無さには閉口する。もっとも、所詮は余所者である冒険者の扱いとしては別に珍しくもないのだが、やはりシコリを自分が感じてるのが問題か。
「‥‥」
 立ち上がって部屋を出ると、廊下で若衆と目があった。
「どちらへ?」
「あ、えっと‥‥銀次さんの部屋はどこかな?」
 屋敷の散策と言えば怪しまれる。初志貫徹しようと言葉を選んだ。
「兄貴でしたら親分とご一緒です。何か不都合がありましたら、あっしが承りますが‥」
 見張りか、いや世話係と呼ぶべきか。どう答えようかと高村が逡巡していると中で身動ぎがして楠木が襖を開けた。
「それは好都合。今晩中に親分と仕事の確認をしたいので、あとで時間を貰えるよう伝えて下さいますか?」
「へい。それでは聞いて参りますから、この場で待っていておくんなさい」
 子分が去った後、高村の顔を一瞥して礼子は表情を崩した。
「前はもう少し気楽だったのだけどね、天神一家はこんな感じだったの?」
 質問された薙耶は少し考えてから答えた。
「警戒されてるのでしょう‥‥」
 少しして若衆は戻ってきて、藍が冒険者達に会う事を告げる。その場には銀次もいるとの事だ。
「これからね」

「‥‥なんだと?」
「銀次さんはどうして戦いたいの? 藍親分とはちゃんと話をしたのですか、噂では蜥蜴一家と戦争をしたがってるのは銀次さんだけだと聞きました」
 綺羅は率直に質問した。この明け透けさを冒険者の特徴と言う者もいるが、わずか数日で問題ごとを解決する身では遠慮が少なくなるのは仕方が無い。
「‥」
 礼子は眉を顰めた。綺羅の言葉は続いた。
「殺されたのは藍さんの兄弟だよね? 家族を差し置いて銀次さんが騒ぐのはどんな理由があるのか聞かせてほしいのだけど」
 礼子と薙耶は止めようか躊躇した。子分の手前もあれば、銀次や藍の面子を軽く扱うのは良くない。
「平和だったこの宿場を伊三郎は血で汚したんだ。親分の前ですが、先代や兄さん達には重い恩義があります。そいつを忘れることは出来ねえんで」
 銀次の眼には蜥蜴一家への憎悪があった。
「そうかもしれないけど、やり返したら、今度はこっちが悪者だよ。宿場の人達だって困るし、奉行所だって黙ってない‥‥それでも戦う理由があるの?」
「理屈を言いなさるが、だが伊三郎はまだこの宿場を狙ってる。早いか遅いかの違いなんだ」
「ですが‥」
 銀次と綺羅の話しに、閃花が口を出した。
「今は、向うもこちらが仕掛けるのを待っているでしょう。いずれ喧嘩になるのは避けられませんが、ここは状況を見定めた方が得策と思います」
 前回の教訓が一つあるとすれば、冒険者が関われば必ず話は拗れるという事だと閃花は思っている。それは恐ろしくもあるが、絶好の隙とも云えるのではないか。
「天神一家の評判を落す喧嘩だけはしてはいけないと、‥‥これは釈迦に説法でしょうが」
「私も、彼女の意見に賛成よ。先のことは分からないけど、いきなり流血沙汰なんかしたら奉行所に捕まえて下さいって言ってるようなものだし、最初は平和的に進める案を推すわ」
 閃花に同調したのは礼子。共に銀次の元で戦った仲だが、この二人の意見が合うのは珍しい。
「赤鬼と青鬼を平和的に、か?」
 話しはそのまま作戦会議のようになった。望月滴はそっと席を外した。
「‥‥」
 滴の顔から異常な汗が吹き出ていた。立っていられない。
「大丈夫かい?」
 後ろから声がかかった。藍が立っていた。
「ご心配をかけてすみません、少し眩暈がして‥‥すぐに治りますから」
 滴は貧血でたびたび倒れた。病弱で、医者からは長くは無いと言われている。背中を丸めてうずくまる姿は儚げで、今にも命が失せてしまいそうに思えた。
「無理しないで江戸に‥‥」
「私、お邪魔でしょうか?」
 柱に捕まって滴は体を起こした。
「ですが私、頑固ですから。出ていきませんよ」
 もう大丈夫ですと言って、滴は藍に会釈して再び中に入った。
「‥‥」
 庭を見つめる藍のそばに薙耶が近寄った。
「それにしましても――」
「なに」
「藍様は気苦労の絶えない方だと判断いたします」
「!」
 一瞬表情を強張らせた藍は無言で中に戻った。
「‥‥」
 藍の見ていた庭を一瞥して、薙耶は藍に続く。


●偽りの事実
 冒険者と雇い主の関係は時に剣呑だ。
 今回のところは準備だけに終わる公算が高く、冒険者達は天神一家の守りを固めたり、宿場を巡回して日を過ごした。
 その日、薙耶は銀次の警護についていたが。
「奉行所が目を光らせていなければ、今こそ正に、貴方様の首を狩る絶好の機会なのですが‥‥」
 この娘は真顔で危ない事を言う。歳は藍と同じ15歳、今回も最年少だがメイドとして家事に精通するだけでなく、歴戦の戦士と同等の戦闘力を持つ。
「今は止めときな。まだ死ぬ訳にはいかねえ」
「‥‥貴方様には蜥蜴退治が大事なら、冒険者を引き込むと碌な事にならないと判断いたします」
 冒険者は劇薬だ。使いようで毒にも薬にもなるが、副作用の無い万能薬ではない。
「策はあるのですか? 今すぐ殺れと仰るのならば遠慮無く殺らせて頂きますが‥‥」
 手段を選ばなければ伊三郎を闇討ちするのは不可能ではないが。
「‥‥」

(「どこかに証拠が無いかな?」)
 綺羅は銀次と藍が留守の時に屋敷の守りとして残ると、屋敷内の探索を始めた。宿場で実しやかに話されている蜥蜴一家が殺し屋を雇って藍の兄達を殺したという噂‥‥その真実が知りたかった。
 事件は一年近く前の事で、証拠らしい証拠は残っていない。証人も居なかったが、同じ時期に蜥蜴の伊三郎が殺し屋を雇っていた事と両家が抗争中だった事から、伊三郎の仕業は明らかだった。証拠が無かったから下手人は上がらなかったが、この頃から奉行所の取締りが厳しくなった。
「隠された証文や日誌があれば、それがヒントになるんだけどな‥‥」
 綺羅は箪笥の奥やら葛籠の裏をひっくり返し、人が来れば物陰に隠れてやり過ごした。この娘の本職は忍者だ、悟られぬように次々と部屋を調べていく。若衆の部屋では特に目ぼしいものも無く、幹部の部屋を調べ始めた所で。
「あれ?」
 銀次の使っている部屋で鍵付きの長持を見つけたが上等な代物で、道具も無く、腕も今の綺羅には開けられない。気がそれたのが拙かったのか、背後で誰何の声がした。
「そこで何をしているのですか?」
 声の主が滴と気付いて、綺羅は一瞬止まった息を吐き出した。
「ちょっと調べ物をね」
「高村様の生き方を否定は致しませんが、違うやり方があるのではありませんか? ‥‥もうすぐ銀次さん達が帰られます。この場は私と部屋にお戻りください」
 滴は銀次達の外出に同行していたが、また貧血が出て、一足先に帰ってきた。
「今日は何かあった?」
 宿場の酒場で喧嘩があったが銀次が仲裁し、怪我人は滴の法力で治癒したので後を引くことは無さそうだ。滴の人を見る目は確かだが、銀次をただの粗暴なヤクザとは思えずに意見している。
「銀次さん。人は、相手を味方に付ける事より敵に回す事の方が、ずっと簡単です。簡単な道ばかり選んでしまわないでください。あなたにはもっと違う道があるはずです」
 滴の意見を容れたかは分からないが、今のところ、宿場はまだ平和だった。蜥蜴傘下の赤鬼青鬼に圧力を加えながらも、天神一家から仕掛けはしなかった。口火を切る者がいなければ、或いは悲劇は回避出来るのか。
「宜しいですか?」
 藍が一人の時に礼子は彼女に言った。
「最終的に争乱を収めるために、銀次の首が必要になる可能性は高いです。無礼を承知で申し上げますが、貴方に今必要なのは、天神を担える器になるべく己を鍛えることでしょう」
「本当に、無礼だな」
 ともあれ、危険な雰囲気は孕みつつも抗争か平和か、宿場はその岐路にある。
 冒険者達は不安を残しながら江戸に戻った。


つづく