ぶれいくびーと 黒天の四
|
■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月02日〜09月07日
リプレイ公開日:2005年09月12日
|
●オープニング
●天神一家
「筋の通らねえ外道に、膝を屈する訳にはいきません」
黒蛇の銀次他、天神一家の構成員は死を決した戦いに望む事で意見が一致していた。
仲裁策を出しておきながらのだまし討ち、現役を引退した幹部を皆殺しにする蜥蜴一家の非道に、敵わぬまでも報いなければ、博徒としての天神の看板は地に堕ちる。
「親分、止めても無駄ですぜ」
「止めるもんか。あたしだって、みんなと思いは同じだ。蜥蜴の伊三郎、そして伊三郎に組した冒険者達。決して生かしておくものか」
藍も陣頭に立つ覚悟である。天神一家は、先の抗争以来内部に様々な亀裂を残していたが、奇しくも蜥蜴一家の悪行によって一つにまとまったのである。
●蜥蜴一家
「天神一家の連中、今日明日にも乗り込んできますぜ」
「俺達が闇討ちしたなんて、汚ぇ言い掛かりを付けてきやがって‥‥」
「血迷いやがって、折角の親分の温情を無駄にするたぁ馬鹿な野郎どもだぜ。返り討ちにしてやらぁ」
若い衆は戦う気満々。既に青鬼の長佐は数早から逃げ帰っている。
「‥‥天神が宿場に入ったら容赦するんじゃねえ。皆殺しだ」
蜥蜴の伊三郎は若い衆に号令して宿場の守りを固める。
「宿場の衆に迷惑をかける訳にはいかない。二三日、箱根見物でも行ってもらうがいい」
●新門辰五郎
「数早と久野米の一軒ですが」
「伊三郎も焼きが回ったな。辰五郎親分の顔に泥を塗られてこのままにはしておけねえ」
面子を潰された江戸の大親分は、二百人からの手勢で二つの宿場を制圧するという噂が流れた。
町奉行所にも手を回して、この抗争における裁量を任されたという話である。
●冒険者ギルド
「私が武士なら腹を切ってる所ですがね」
手代と冒険者が話をしている。
数早と久野米の抗争は、先の暴発により極限に至っていた。
天神一家、蜥蜴一家から助っ人の依頼が届いている。
「これが最後となるでしょう」
宿場に血の雨が降る。
それは何のために。
●リプレイ本文
●思い
「‥‥これで良しっと」
高村綺羅(ea5694)は江戸を発つ前に、先日の依頼で行動を共にした冒険者に手紙を出していた。
「あの人、綺羅と同じ匂いがするから‥‥」
綺羅は天神一家に雇われた冒険者だ。
その行動は天神の為を思っている。だが彼女なりの解釈が加わり、余人には分かり難い所がある。
それを証明する一例として、今回天神側の冒険者の要であり、作戦にも影響力を持つ立場の久凪薙耶(ea8470)は、高村の行動には何の言及もしていない。
まるで戦力外なのかと言えば‥‥そうではない。
今回、天神側の依頼を受けたのは五人の女冒険者達。敵である蜥蜴側の冒険者には歴戦のつわものが多いが、天神側では高村と久凪が少々知名度を持つ程度である。
圧倒的な不利の状況にあった。
「お二人が間に合わなければ‥‥正直、勝てる気が致しません。必ず戻って来て下さい」
薙耶は断腸の思いで綺羅と望月滴(ea8483)を見送った。
五人しか居ない助っ人が、この時点で三人に減る。いっそ気絶してしまいたい状況だが考えない事にした。
「夕凪様‥‥ご無理を言ってしまって、申し訳ありません」
「ええ、そう思いでしたら今からでも遅くはありませんよ」
滴は笑みを浮かべたが、薙耶は彼女が折れないだろう事は分かっていた。少々ずれた感性の持主だが、頑固なのだ。
綺羅と滴は討ち入りに向う天神一家とは別行動を取る。
数早と久野米、この戦いの鍵を握る男が居る。
仲裁の立場にあった新門辰五郎だ。
五人衆の暗殺で面子を潰された辰五郎は必ず報復に出る。
それを察した天神と蜥蜴の冒険者はそれぞれ、江戸から宿場に向うまでの間に辰五郎を説得すべく動いていた。
「天神に雇われた冒険者です」
二人は正直に名乗って、江戸を出発する辰五郎の一行に面会を求めた。
「な、なんだとぅ?」
二人とも辰五郎に会える事を確信して疑わなかったが、辰五郎の子分達にとっては殴り込みに等しい衝撃が走った。ただでさえ、天神・蜥蜴と新門一家は緊張状態にある。穏便に会おうとするなら然るべき誰かを仲介に立てるのが筋だろう。騒ぎの元凶とも噂される冒険者が直接来れば、暗殺者と思っても不思議は無い。
事実、蜥蜴側の冒険者の時には大騒動になったのだが。
「さてはてめぇら、天神の殺し屋かぁ!」
「そんな、違います。わたくし達は‥‥あ」
子分に一喝されて滴が貧血で倒れた。
「滴さん!?」
まさかこんな弱っちい刺客は居るまいと思われて、辰五郎に会うことが出来た。
「近頃じゃあ、冒険者といやあ鬼も逃げ出すと聞くがね、噂も信用出来ないものだ」
感心したように辰五郎が言う。
「それで、天神に雇われたお前さん達が、この俺に何の用だい?」
大親分に促されて、先に口を開いたのは綺羅。
「天神の五人衆を殺した犯人は、きっと冒険者です」
「ほぅ」
「蜥蜴一家があの人達を殺しても何の得にもならない事を伊三郎さんは知ってるはず。むしろ自分の立場が悪くなる事ぐらいは判断できる人。‥‥きっと自分が雇った者が事を起こしたのも判ってるかと思います。いま戦う理由としたら面子かもしくは贖罪ではないかと‥‥全部、私の推測だけど」
綺羅は自分の考えを一気にまくし立てた。
「だからなんだね? 俺にその殺した冒険者を懲らしめてくれってのか」
「違う‥‥二つの家の戦いを防いで欲しい。せめて銀次さんと伊三郎さんのサシでの決着をさせて挙げて」
「サシでかい」
辰五郎は少し考える顔をした。
「冒険者の大半が不届き者だと思わないで下さい。そして江戸以外でも多くの災害が起こっています。こんな時期に多くの犠牲者を出したくない。だからどうかお願い致します」
綺羅が言い終わると、側で聞いていた新門一家の男が口を開いた。
「黙って聞いてりゃあお嬢さんよ。親分に向って随分と都合のいい言葉を並べ立てるじゃねえか?」
綺羅の口上は自分勝手で、子供のお強請りと変わらない。何しろ、彼女の言葉を信じるとすれば綺羅は天神一家の名代として来ている訳でもなく、個人的お願いなのだ。
「やはり無理にでも黒蛇さんか、銀次さんをお連れした方が良かったのでしょうか‥‥」
険悪な雰囲気に滴は表情を曇らせる。
「‥‥綺羅の命、懸けてお願い致します」
綺羅は懐に隠していた小柄を抜いて、己の喉を突こうとした。辰五郎の側近の一人が一瞬早く、小柄を叩き落す。
「あっ」
「料簡違いを起こすものじゃない。この辰五郎、命を懸けられたからと曇る目は持ち合わせちゃいないつもりだぜ」
むしろ、辰五郎としては見過ごせない。
雇った冒険者に自害を決意させる程の抗争はどう考えても危険である。綺羅は取り押さえて気絶させた。
「あの‥‥」
滴が何か言いたがっていた。
「心配無用だよ。あの娘さんにはどこか落ち着ける場所で暫く頭を冷やして貰おう」
「辰五郎様はやはり久野米に行かれるおつもりなのですか?」
そのつもりだった。久野米で蜥蜴一家と天神一家がぶつかる情報は辰五郎の耳にも入っている。
辰五郎は滴も抗争を止めて欲しいというのかと思ったが、彼女から出た言葉は予想の斜め上。
「此度の戦い、辰五郎様は加勢しないで頂きたいのです」
「加勢?」
「はい。この戦い、辰五郎様のお力で勝ってしまったら、後々まで辰五郎様に恩が出来てしまいます。天神も「自分の力で諍いを治められない」と言われる事になるでしょう。これを避けるには、辰五郎様なくして戦う事が一番。この場合、勝っても負けても、天神に不利な影響は残りません。最後まで戦った藍様を慕わぬ者はいないでしょう。もし加勢いただくのであれば、天神が優勢となって一撃与える事が出来たあと、収拾をつける為にお出でいただければ、と」
ある意味で、綺羅と滴の行動は良く似ていた。
「噂も馬鹿に出来ないものだ。鬼も逃げ出す気持ちが分かる気がするぜ」
辰五郎には天神一家の加勢に向うつもりは全く無い。
●玉砕
「天神組が好きかー!」
「おおーー!!」
薙耶は武装した若衆らの前に立って声を張り上げている。
「天神組を誇りに思っているかー!」
「天神組を愛しているかー!」
「おおおーーー!!!」
これから突撃である。蜥蜴一家は難敵で、助っ人の冒険者は強力だ。天神一家が一致団結した今でも、勝算は少ない。精神を鼓舞しようと、薙耶は激を飛ばした。
「藍様の事が好きかー!」
「藍様の事を可愛いと思うかー!」
「藍様の事を愛しているかー!」
「勝利の暁には藍様から頬に口付けをして頂けるぞー!」
「おおおおーーーーー!!!?」
かなり悪乗りしていた。
もう天神の若い衆達も半ば命を捨てているので、気がつかない。
引退した五人衆とは衝突もしたが、先代熊五郎の時から天神一家を支えた礎である。兄や父とも慕っていた人々が卑怯な闇討ちにより命を落とした。只一つ、天神一家が蜥蜴を凌駕したのはその怒りだ。
だからこそ薙耶は藍と銀次にこう進言した。
「作戦などございません。全員一丸となって玉砕、これのみです」
策はある。しかし、あくまで賭けだ。作戦と呼べるものではない。
作戦については滴が色々と気にしていた。
一つに冒険者の不利、そこから発生する魔法戦力不足。また広い場所で戦う不安、必ず乱戦とする事、冒険者を蜥蜴の本隊と切り離すこと等々‥‥。
薙耶も考えたが、彼女は頭脳労働は得意でない。いや正確には策を考えるのは好きだが計算は苦手だ。
「私は薙耶さんの作戦に従います。まさかこんな展開になるとは誰も思ってなかったし、ここまで来たのも大したものだと思うし」
楠木礼子(ea9700)はさっぱりとした表情で言った。
黒蛇と天神の戦いの時から参加していた礼子には、銀次がついにここまで来たかという特別な感慨があるらしい。礼子は姿の見えないもう一人も同じ気持ちであろうかと想像する。
「何があろうと退けない戦いよね。ここで調停を受け入れたり腰がひけた態度をみせたりしたら、銀次も天神もこの世界にいられなくなるでしょうから。後は野となれ山となれ。江戸の組織には触れずに蜥蜴と決着をつけましょ」
覚悟は決めている。仲間の了承を取り付けた薙耶は藍と銀次に頼んだ。
「お二方にも無茶をして頂きます。ここが侠義の咲かせ所かと」
「薙耶、有難う」
「‥‥異存はない」
若い衆に作戦を伝える段には、薙耶は土下座した。
つまり、勝てない。
天神の為に死んでくれと。
なけなしの矢と魔法対策に雨戸を背負って現れた天神一家に、宿場の前で待ち構えていた蜥蜴一家からは失笑さえ上がった。
実際、雨戸を持ちながら戦うのには相当に無理があり、もし蜥蜴にストームの使い手がいたら、それだけできりきり舞いしたろう。
慣れない装備にギクシャクしつつ、一丸となって突撃する天神一家は格好の的だった。
「遠慮するこたァねえッ!! 一人残らず‥ブッ殺せッ!!」
朱漸と青鬼の長佐の手勢が動きの悪い天神一家に斬り込んで来る。
「組員や冒険者に構うな! 止まらず進め!」「個で戦うな、面で押し潰せ!」
薙耶は中央にあって、味方を鼓舞した。ヤクザ者に複雑な集団戦は出来る筈が無く、指示自体は全くと言っていいほど意味が無かったが、声は味方に届いた。
薙耶の側には藍と銀次が居たが、何故か喋らない。
実は二人とも替え玉であり、藍は姿を見せない紅閃花(ea9884)の変装だ。
(「‥‥ふふ、最後にふさわしく、派手なお祭りにしたい物ですね」)
姿を消している間に閃花は、五人衆の殺人現場を調べていた。
「腕のいい殺し屋の仕事ですね。残念ですけど、それ以上の事は」
閃花は現場検証が得意な方では無い。別の人間だったら違う結果だったかもしれないが‥。
調査の後、彼女は銀次の影武者を選んで準備した。
忍術で顔や体型は藍そっくりに化けられる。
「声色も出来ますけど、こっちは完璧という訳にはいきません。あとは銀次さんの問題でしょうか」
銀次の偽物は顔はお世辞にも似ていない。
「面白そうだな。そっちは俺が何とかしよう」
野火の源六が偽物銀次のフォローを買って出た。戦場で源六と冒険者達が偽物を本物として扱えば、大分らしさは出る。
「だけど‥‥」
蜥蜴の冒険者には銀次を知る者も居る。所詮は薄氷の上の粗末な策だ。
(「ふふ、意外とバレないですね‥‥」)
偽物藍に扮した閃花は内心ヒヤヒヤだったが、この偽物作戦は予想以上に長くもった。
そして。
勢いで突撃した天神側は乱戦には持ち込んだものの、全体的には明らかに劣勢に進む。
「今がチャンスね」
伊三郎の側に冒険者が居なくなった。それまで藍と銀次をカバーして戦っていた礼子は二人を先導して敵中深くに切り込む。主力を囮にした、僅か三人の奇襲。通常なら玉砕の愚策だ。
「‥‥行って下さい」
幾つかの幸運が味方して、礼子が開いた道を銀次が行く。
「伊三郎、覚悟!」
傍目には天神の若衆の一人が飛び出したようにしか見えない。
「しゃらくせえ!」
蜥蜴の腹心が立ちはだかるが、銀次は腹心を切り倒して伊三郎に迫る。蜥蜴方の冒険者が気付いた時には、斬られた伊三郎が倒れていた。
「‥‥銀次」
伊三郎を討ち取った天神は壊走寸前まで痛めつけられていた。
親分を失って蜥蜴一家が動揺した隙をついて、散り散りに逃げ出す。
蜥蜴の追走は無く、綺羅と滴を連れた辰五郎が到着して抗争は終着する。
それを勝利と呼ぶには、天神一家の傷は余りにも深い。沢山喪った。その中には銀次の盟友だった野火の源六も含まれる。源六は偽物を庇い、首を矢で射抜かれていた。
ひとまず、おわり