くろすかうんたー・五【上州騒乱】牢屋
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 48 C
参加人数:12人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月27日〜01月03日
リプレイ公開日:2006年01月07日
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●オープニング
神聖暦一千年師走。
ジャパン一と謳われた江戸の繁栄も、泡沫のゆめのよう。
大火の復興費用は軽く数百万両とも言われ、江戸城の金蔵を空にしても、とても賄いきれるものではないと噂されている。
近頃、江戸の冒険者の間では上州の反乱や九尾の妖狐の陰謀が取り沙汰されたりしているが、上も下もそれどころではない現状がある。生に汲々とする凡百の生命に世界の大事は分からない。彼らにすれば大妖の企ても君主の野望も勇者の懊悩も、くだらぬ与太と変わらなかった。
「‥‥与太かね?」
「そりゃそうさ。誰が殿様になろうが、よしんばこの世が明日終わるとしたって、俺やお前に何が出来る? 俺達にはせいぜい酒食らって寝ちまって、明日のおまんまの事を考えるだけのお頭しか無いんだぜ」
「みもふたもねえな。それで、何だってんだ?」
「いよいよ俺は明後日、この世とおさらばするらしい。坊主に縁は無かった筈だが、いざとなると世の無常ってやつが胸をしめつけやがるんだ。全く、くだらねぇ‥‥今度生まれ変わる時は人間にだけはなりたくねえなぁ」
上州宮城村出身、無宿人の英五郎は伝馬町の牢屋敷から漆黒の空を見上げて呟いた。
英五郎の話を聞かされた同室の囚人は、顔色を消して息が当たるほど英五郎に近づいた。
「‥‥明後日、明け六つ」
「なんだと?」
「兄さんの話は退屈だって言ったのさ。まあ死人の愚痴は聞いてやるのが情けだが、俄か覚者気取りは鼻持ちならねえ」
口入屋の助五郎は、英五郎から離れるとそれきり彼と口を聞かなかった。
その日の午後に釈放された助五郎は冒険者の寄り付きそうな酒場を探した。
●開拓村
現在の江戸は復興に莫大な労働力を必要とする反面、関東一の人口を養い切れないという二律背反な状態にあった。江戸を離れる人々も少なくは無いが、行くあての無い者達は更に悲惨な運命を辿った。
「無ければ自分達で作れば良い。どうだ、俺と一緒に上州へ来ないか?」
大刀を担いだ浪人城村倉之助は、行き場の無い被災者達に上州行きを勧誘した。
「上州と言やあ、今戦争やってる所じゃないか? 冗談じゃねえや、俺達ぁ刀なんか持ったこと無いぜ?」
「勘違いするな。お前達の仕事は、新しい村を作ることだ」
城村は義勇兵として新田軍に参加し、武功を立てていた。彼の話は、新田家が上杉から奪って新しく手に入れた新田荘の北側に開拓村を作り、江戸の罹災者を受け入れようというものだった。
「だが楽では無いぞ。村を作るとは言ってもわずかな援助しか出来ぬ。正直な所、途中でどれだけが死ぬか分からぬ困難な事業だ。このまま江戸に留まる方が利口かもしれぬが、上野でやり直さぬか?」
世の中美味い話は無いが、困難だからと諦めるばかりでも無い。上州へ行く事を決める者も居て、この事が町奉行所の耳にも入った。
「ふーむ」
反乱を起した新田家は源徳家康の敵である。国抜けだけでも面白くないのに、それが新田荘へ流れるのでは楽しかろう筈も無い。だが開拓村を作ろうという民に罪があるか。
「小宮、少し様子を見たい。内々にて調べてくれるか?」
「はっ」
与力から上州開拓村の事を託された同心小宮は冒険者ギルドへ依頼する事を考える。今の上州は源徳の侍が行き来できる場所ではなかった。しかし、冒険者も面が割れている可能性はある。
●依頼
「冒険者を伝馬町の牢屋に入れようと思う」
「‥‥はぁ?」
ギルドの手代は耳が遠くなかったかと思った。手代の間の抜けた声を聞き流して、小宮は平静な顔で説明を続けた。
「上州内偵の偽装だ。罪をかぶって江戸所払いとすれば、まさか奉行所の密偵とは思われまい」
牢屋に入るのは一日で、二日目の昼には釈放される。そのあと冒険者達は城村を頼って民と一緒に上州に入り、開拓村の事を探って欲しいと小宮は言った。手のこんだ話である。
「では頼むぞ。‥‥所で」
小宮は最後に、英五郎が近々死刑になる事を告げた。
「英五郎に牢破りをさせるんだ」
同じ頃、助五郎は酒場で冒険者達に仕事を依頼していた。
「どうやって牢に入る?」
「ここで俺を突き飛ばしな。二三発は憂さ晴らしも構わねえぜ。そうすりゃあ、後ろで出番を待ってる岡引がてめぇ達を英五郎の所に入れてくれるって寸法だ」
牢破りの刻限は明後日の明け六つ、その時間に牢屋敷の扉の一つを開けておくと助五郎は言った。
さて、どうなるか。
●リプレイ本文
神聖暦一千年師走、江戸伝馬町の牢屋敷。
窓の外では音もなく深々と雪が降り積もっていた。
「年の末に牢の中‥‥ねぇ」
クリス・ウェルロッド(ea5708)は深々と溜息をつく。
「しかも、お、男だけの空間で夜を明かすなんて‥‥お!おぞましい!! 男色は、神の禁じたもうた最大の禁忌!! おぉ神よ! これは、この運命だけは酷過ぎます!!」
「やかましいっ!」
涙目で絶叫する金髪男を正面から、眼帯をつけた2mを超える巨漢が激しく殴った。拳に付いた血を拭き取り、不逞浪人に化けたクルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)はもんどり打って倒れたクリスの胸倉を掴む。
「手前、騒ぐと罪が重たくなるぜ? 大人しく黙るか、それとも口を引き裂く方がいいかねぇ?」
「その辺にしといてやんな。異人さんだ、不見識も大目に見なくちゃな」
部屋の奥に座る牢名主風の大男がそう言うと、クルディアはクリスを解放した。
「何故どうしてこんな目に‥‥」
かすれる意識でクリスは、どこで話が狂ったか思い出そうとした。確か夜十字信人(ea3094)と飲んでいて‥‥。目で探すが彼の相棒、赤髪の浪人はこの場所には居ない。
「拙者は武士でござる。それを斯様な下郎どもと相部屋せよと申されるかっ」
捕まった秋村朱漸(ea3513)は大部屋に抗議をした。不良浪人だ狂犬だと言われる秋村だが、一応は武士である。たかが酒場の喧嘩、大部屋が相当と思った牢役人もごねられて、武士用の牢に替えた。ついでで信人もそちらに入る。
「へっ‥‥助五郎、悪く思うんじゃねえぞ」
「おい、どうなっているんだ?」
部屋に座ってこの後の思案に耽る朱漸に、信人が尋ねる。
「ああン? おめぇ話聞いてなかったのかよ」
「いや英五郎がらみの話だというのは分かるのだが‥‥」
言葉を濁す信人に、朱漸は舌を鳴らした。今回、どういう訳か誰の依頼で来たのか分からない者が何人か混じっていた。元々単純でなかった状況が、更に混沌となる。クリスも本来は牢には入らなかった筈では無かったか。
(「助五郎の仕掛けはいつもこうだぜ‥‥」)
悪い予感がした。
「本当に、おかしな事があるものよ」
大部屋に入ったデュラン・ハイアット(ea0042)も誰の依頼で来たか分からぬ一人だ。同居人達を珍しそうに眺めている。
「大方の察しは付くがな‥‥」
この夜は牢内の住人が常と違う。町のごろつきや盗賊、無宿人に混じった異質な人々。ナンパ師クリス、武芸者クルディア、それに浪人に変装した志士山本建一(ea3891)、風使いファラ・ルシェイメア(ea4112)、魔導オタクのゲレイ・メージ(ea6177)と、見る者が見れば瞠目する顔ぶれだ。
先輩の入牢者達も異様な雰囲気に気付いて冒険者達に声をかける者もいた。
「失礼さんでござんすが、皆様のような凄腕がどうしてこんな場所へ?」
「まさか、この中で仕事を‥‥」
デュランは肩を竦めて、思ってもない事を口にした。
「さあな。偶然だろう」
「私は、ジャパンの法を破るつもりはなかったのだ」
ゲレイ・メージは捕まった原因を、魔法で無関係な者を巻き込んだ為と話した。
「堅気の衆を巻き込んだなら、言い訳はできねえ。ひでぇ御仁だ」
「誰にでも間違いはある。今の私の姿の方が余程ひどいぞ」
両手を縛られたゲレイは恨めしげに話す。片手が自由ならウィザードは刃物を持つも同じなのだから妥当な処置だろう。
「猿ぐつわが無くて良かったな‥‥」
適当に相槌を打つクルディアだが、内心は他の冒険者の存在が気になる。灯りの乏しい牢内、不穏当な面子、顔見知りの居ない彼は重圧を感じていた。隅の方でファラとデュランが若い博徒と顔を付き合わせて何やら話しているのが見えた。
(「何をやってる‥‥?」)
「ごめん、英五郎」
ファラ・ルシェイメアは大部屋に居た英五郎に詫びた。
「何を藪から棒に謝ったりするんで」
驚いた風の英五郎に近づいてファラは頭をたれた。
「まさか死罪になるとは思わなかった。島送りくらいだろうって、思ってた。殺人ではなく、傷害みたいだったから。いつか戻って来れると‥‥甘かった」
なおも謝罪し、ゲレイと同じ様に両手を縛られていたファラはバランスを崩す。
「おっと‥‥」
前に倒れてきたファラを英五郎が支えた。ファラは顔を寄せて彼の耳元に何事か囁く。クルディアの位置からはデュランが壁になって見えない。二人は短い時間だが密着してもみ合った。男同士でまさか抱き合って別れを惜しんでいるのか。
「主よ、悪魔の所業から私をお守り下さい」
乱れた姿で英五郎から離れるファラに、クリスは青い顔で十字を切った。
「ふふん」
全てを見たデュランは口元を歪め、黙して語らない。
「おたく、一体英五郎と何してたんだ?」
ゲレイが聞くと、ファラは息をついた。
「布団に隠して教えられたら、楽だったんだけど‥‥」
疲れた様子でファラは床に横になり、そのまま眠る。布団等無い牢内で、寒さに何度も目が覚めた。
夜中。
「ハッ!」
大部屋から少し離れた武士用の牢で騒ぎが起きる。
「なぁ〜にが志だッ! 人を斬るしか能のねぇうすら馬鹿が何抜かしやがるッ!」
「貴様こそ! 口車に乗せられた結果が是だ! 戦しか頭に無い狂犬が!」
寒さと疲労が限界に来たのか、朱漸と信人が突然喧嘩を始めた。
勿論、刃物は持ち込めない牢内のこと。江戸で指折りの浪人二人が、殴り合いの取っ組み合いである。
「待て待て。貴殿らも武士であろう。牢で殴りあいとは恥かしくないのか!」
牢役人が駆けつけるが、二人とも頭に上って止まらない。
「生憎と浪人生活が長うござるゆえ‥‥そおいや信人。おめぇ、わざわざ京くんだりまで行って、新撰組一番隊の試験落ちたそうじゃねえか? ぶひゃひゃ、恥かしくて往来歩けねえんじゃねえ?」
「‥‥言ったな。そこまで言うからには冥土へ行く覚悟は十分と見た‥‥逝けッ!!」
「ぐほっ」
夜十字の拳を腹に受けて悶絶する朱漸。素手とは言え、二人は本気で戦っていた。その証拠に朱漸の拳も信人を捉えはするが効いていない。
「喧嘩で技使いやがってボケがぁ。こっちも遠慮はしねえぜ」
急所を狙う朱漸。信人の乱打に目が眩むが、斃れる前に鳩尾に手刀が入った。棒立ちになった信人の体を、襟を掴んで投げる。受身を取れず、床に叩きつけられる信人。
「んぐっ、まだまだーっ!」
「くそガキァッ!」
結局、二人は止めに入った役人数名にも怪我をさせた上、倒れるまで喧嘩した。
「ふっ‥‥今回の俺は道化だ。上手くやれよ‥‥」
「馬鹿だろおめぇ」
深夜。
牢屋敷の近くに現れた少年浪士、緋邑嵐天丸(ea0861)も依頼の段取りが怪しい。
「なんか良くわかんねえんだけど。秋村サンはいねぇの?」
「弱りましたね」
頭をかく緋邑に、レヴィン・グリーン(eb0939)の不安は増した。レヴィンは牢の外に残った仲間の中では唯一助五郎の依頼を正確に受けたものである。この仕事では先輩の氷雨雹刃(ea7901)も、今回は誰から依頼を受けたものかあやしい。
「何を悩む。ここまで来た以上はやるしかあるまい」
雹刃が言う。普通に考えれば、誰が本当に自分と同じ依頼を受けた者か分からない以上、中止にするのが当然だ。しかし、レヴィンは氷雨を仲間と思って彼に従うつもりで来た。
「行きましょう」
真冬だというのにレヴィンの頬を汗が流れた。
顔を頭巾で覆って正体を隠し、ブレスセンサーを唱える。レヴィンは屋敷内に沢山の呼吸を感知した。個体識別の精度は無いが、数分は持続するので色々と役立つ。
「‥‥ついて来い」
そろそろ夜が明ける頃だが、雪は止まず、辺りは暗い。夜目の利く氷雨が先導しなくては歩くのも危うい。助五郎の仕事が心配だったが、牢屋敷の門に手を触れると事も無く動いた。
(「外に足跡は無い。助五郎め、内側から開けたか‥‥」)
驚きは無いが、この依頼の裏側は氷雨の興味をひく。それも一瞬の事で、忍びはすぐ思考を切り替えた。レヴィンや嵐天丸との連携で看守を眠らせ、三人は獄舎に近づく。だが、いつ失敗してもおかしくない。
「ドキドキするぜ‥‥」
嵐天丸は己の心臓が飛び出すと思った。彼もレヴィンも忍びの技は無い。雪を踏む音はやけに大きく聞こえ、今にも同心達が現れるのではと恐怖に押し潰された。少年が暴発する前に、外で騒ぎが起こる。
「‥‥杞憂と思ったんだがね」
絵師の鷹見仁(ea0204)は依頼を受ける前に助五郎に言った。
「言っておくが俺はあいつを捕まえた側の人間だ、牢破りに手を貸すつもりはないぜ」
「‥‥おい、聞いたが入らねえなんて御託は通らねえぜ?」
睨みつける助五郎に彼は続ける。
「安心しろ、密告んだり邪魔をしたりはしないって。俺の侍の名に賭けて誓う。それに場合によっては手助けする事もあるかもだ」
「けっ、適当な事をぬかしやがる」
金は受け取らずで助五郎と別れた鷹見仁が、雪が舞い散る牢屋敷の前に一人立っていた。
両手には抜き身の刀を握り、周りを囲む闇の住人達と対峙する。
「実は、自分で言い出した事なんだが、寒くてかなわんと思ってたとこだ。どこの誰かは知らないが、やるなら喜んで相手してやるぜ?」
相手は7、8人か‥‥それとも十人以上か。気配だけでは数ははっきりしない。牢屋敷に冒険者が入った後に現れたそれは、待ち構えていた鷹見と出遭うと殺気を持って囲んだ。
「来ないのか? まさか無関係の散歩でも無いよな」
不意に前後から手裏剣が撃たれ、鷹見の体にささる。
「ぐっ」
止めを差そうと三方から黒尽くめが走り出て、鷹見に殺到した。串刺しになる前に鷹見の体が回転する。二刀が閃いて一人を斬り倒した。残る二人が追いすがり、二刀流の侍に刀を突き立てる。
「‥‥ちっ」
鷹見は避けず、反撃の両刀を打ち込んだ。影が二つ倒れる。
「‥‥っ!!」
瞬く間に三人を倒した鷹見の腕に、周囲の影が動揺した。鷹見も平静を装うが、彼の技でも刺客達の攻撃は威力を殺しきれなかった。運良く今は倒せたが相手は忍者、それも手錬れと見える。搦め手で来られては命は一分ともたない。仁は深く息を吸い込み。
「‥‥た、大変だ! 牢破りだ! ここに賊がいるぞー!!」
大声で叫んだ。
剣戟の音で目を覚ました者も居ただろう。途端に牢屋敷の周辺は騒ぎになる。
「あれだな。牢破りに手を貸すつもりは無いと言ったしな」
邪魔はしてる気もするが只働きと相殺させて貰おうと鷹見は自分で納得する。結果として、騒ぎに乗じたどさくさに氷雨達は英五郎を連れ出し、忍者達も消えたが‥‥結果論である。ちなみに、鷹見が叫んだ時、不安の極にあった緋邑の股間が濡れた事は秘密である。
「何でお前狙われてんだよ?」
「ツキがねえんだ」
逃げながら南に走った英五郎は港で冒険者達の前から忽然と姿を消す。
「な‥に‥‥?」
謎の忍者達が英五郎を牢破りさせた事については、牢に居合わせた冒険者達の関与も疑われたが大事にはならず、皆釈放された。
鬼丸と名乗ったクルディア、ゲレイ、ファラ、それに山下健三こと建一の四人には、仮初の江戸所払いが言い渡される。
「おい、私も連れて行け」
何故かデュランはクルディア達について来た。上州へ行く城村倉之助の居所を聞いた冒険者達は彼に会い、同行を頼んだ。
「新田の殿様の噂は聞いてるぜ。俺はドジを踏んでお江戸に居られない身でね、上州でやり直したいんだ」
「揉め事を起そうというのではあるまいな?」
値踏みするように冒険者達を見つめる城村に、ゲレイが答えた。
「とんでもない。よく誤解されるのだが、私らは本当は揉め事を解決するのが仕事なのだ」
「本当は?」
「‥‥疑うなら、無理には頼まない‥‥他を当たるから」
ファラが去りかけると、城村は制止した。
「いや、済まなかった。志願者は誰でも歓迎する。宜しく頼む」
上州までは歩いて向う。城村の話では全部で数百人はいるとの事だったが、大勢で一度に移動すれば無用な揉め事が起こるから分かれて行くと説明された。冒険者達と一緒だった難民は11人、それに城村が同行した。
「上州は戦だそうだが、ついたらいきなり兵隊に駆り出されるのではあるまいか?」
「我らが向う村は戦場からは離れておる。それに、もうすぐ戦も終わろう」
新田方による上杉氏の居城、平井城攻略戦はこの時には既に開始されていたが、神でない冒険者に分かる筈も無い。しかし、上杉氏を倒せば新田は武蔵の源徳家康と事を構える事にはならないか。風評では既に新田は反源徳の旗頭にもされている。
「殿のお考えは俺のような下っ端には分からぬ。だが上杉の圧政に耐えかねて民の為に立たれたお方だ。お前達を苦しめる真似はなさらぬよ」
戦う意思の無い民を兵に出来ようかと城村は笑った。上州に着いた冒険者達は荒地に鍬を入れる人々の姿を見る。無理矢理働かされてる顔ではない。少なくとも開拓に嘘は無いか。数日逗留して開拓民達の小さな揉め事の仲裁などした彼らは報告の為に戻った。
「上州に行けば飯が食えるって事になりゃあ、新田の殿の風評も上がるかね」
眼帯を外してクルディアは考える。この先にあるものは‥‥。
ひとまず、終。