大江戸物語・一 真夏の危険

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月25日〜08月30日

リプレイ公開日:2005年09月03日

●オープニング

 神聖暦一千年八月ジャパン江戸。

 江戸は狙われている。
 ‥‥唐突だが、江戸は狙われているのである。

「‥‥何に?」
「てゆーか何故?」

 そんな瑣末な事は問題ではない。
 狙われているのだ、今この時も。

 そして、狙われているからには江戸を守らなくてはならない。

「‥‥誰が?」
「てゆーかマジで?」

 それが出来るのは君達しか居ない。
 事態に気付いていない町奉行所も旗本も、物の役に立たない。
 決して町奉行所に直訴して無視されたからではなく‥‥、
 君達は江戸を守る為に選ばれた戦士なのだ。

●みんなで江戸を守ろう
「‥‥あのなぁ、子供の戯言に付き合う“おままごと”なら、他の野郎を当たってくんな」
 話を聞いた冒険者は露骨に嫌な顔をした。
 江戸の何でも屋、冒険者ギルドには毎日様々な仕事が寄せられる。中には子供の遊び相手になって欲しいという仕事もあるにはあるし、ましてや残暑厳しい近頃ならば、子供向け物語のような依頼の一つや二つ、驚きはしないが。
 受けるか否かは別問題である。
「まあまあまあ」
 年配の手代は顔に営業すまいるを貼り付けて誤魔化した。
「少し‥‥変わった依頼ではありますが、これも仕事ですよ。どうか考えてくださいませんか?」
 手代はこの仕事は冒険者向きだと思っている。決して口には出さないが。
「しかしな、江戸は狙われている‥‥それだけで、何をどうしろと言うんだ?」
「うーん、そうですねぇ。それなら直接依頼人から話を聞いてきて下さいませんか」
 依頼人は冒険者長屋もある久松町に居を構える浪人の鷹山正之。

「‥‥江戸は、いやこの日本は今、大変な危険に曝されています!」
 鷹山邸に着くと、開口一番そう切り出された。
 侍でも書物の読めない者は少なくないというのに、鷹山の家には堆く本が積まれていた。
「危険はすぐそこまで迫っています。‥先年江戸を襲った百鬼夜行、那須の岩嶽丸、それに続いた金毛九尾の復活劇。近年の妖怪魑魅魍魎事件の異常な増加、今も京の都を脅かしている飛鳥の亡霊騒ぎ、江戸の結界を破壊せんとする何者かの企み、上州で始まったと噂される戦乱、越後屋で売られる福袋の謎、良識家を悩ませる冒険者の痴態の数々‥‥全てが、江戸が狙われている事を示しているのです」
 鷹山は冒険者達に一緒に戦って欲しいと言った。
「‥何と戦うの?」
「それは分かりません」
 清々しいくらいキッパリとした口調だった。
「私に分かるのは江戸が狙われているという事実のみです。二三の仮説はありますが、迂闊に仮定を積み上げてそれを吹聴すれば世情を混乱させ、引いては敵を利する事になりましょう」
 しかし狙われている事実を知りながら座して時を無駄にすることは出来ない。
 鷹山は立ち上がる事にした。
 馬鹿だ電波だと後ろ指を差されようと、独自に江戸を守る準備を始めようと。
「どうか私と一緒に江戸を守って下さい!」

 さて、この話‥‥本当に続くのか?

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9784 パルシア・プリズム(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3306 万里 菊(38歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3347 江別 阿瑚(39歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3418 天内 加奈(28歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

白井 蓮葉(ea4321)/ 黒畑 丈治(eb0160)/ 黒畑 五郎(eb0937

●リプレイ本文

●集った勇者たち
「いたいいたいいたい」
 何が痛い?
 お腹が痛い、頭が痛い、冒険者が痛い、依頼が痛い。
 数々あれど、痛いのは生きている証拠と良く言う。だから、痛い話にも暫しお付き合い頂きたいと、痛い事を言う。やれやれである。

「最初に見えたのは、寺社仏閣を踏み荒らす、鬼の足跡でした‥‥
 しばらくしたら、川の向こうで踊り狂う、斧を持った物の怪達が‥‥」
 天内加奈(eb3418)はパラの冒険者である。
 江戸に来たのは初めてで、依頼を受けたのもこれが最初だ。
「占いでよくない卦が出まして‥‥江戸って、もっとド田舎かと思っていました」
 言動が不安定なのは生まれつきらしい。
「しふーる、って言うんですか? あの虫。あ、ほらそこにも‥‥江戸が狙われているらしいのです」
「江戸は笑われている?」
 加奈の話を聞いているのは教師を生業とする江別阿瑚(eb3347)。教師、等と言っても冒険者ギルドに歴として登録されている彼女だから、本業は分からない。まあ、ロクなものではない。
「英吉利なんかに笑われた日にゃ国と国との戦いになりそうだ」
「阿瑚さま素晴らしいですわぁ〜♪」
 江別の横で妙なヨイショをするのは万里菊(eb3306)。絵師と名乗っているが袈裟を着ているから僧侶か。この二人の関係は後述する。
 冒険者達が居るのは久松町の鷹山正之邸。酔狂な依頼に冒険者が10人も集ったので居間では狭く、半分ほどは縁側に出ていた。
「ご苦労様です」
 鷹山の妻が冒険者達に茶を出した。大人しい風のまともそうな人である。
「ご主人は?」
 内儀の話では神田の本屋へ出かけているらしい。
「それでは待つ間に、一曲♪」
 小鳥遊美琴(ea0392)が三味線を取り出した。花柄の振袖姿のたおやかな娘が、男である事は仲間内では良く知られている。

 べべんべんべん
 君のお江戸が 君のジャパンが 狙われてるぞ
 障子を開いて空を見ろ 迫る不気味な 星の影
 迎え撃て 鷹山正之 負けるな負けるな 冒険者

「お粗末様でございました」
「星‥‥」
 何人かが複雑な表情を浮かべた。美琴が言う。
「そうそう、星といえば最近の絵師の凋落ぶりと言ったらありません。肌も露な女人や殿方(ぽっ)の絵やら、男女、女人同士、殿方同士で睦み合うような、艶絵の如き絵が数限りなく」
 何か恨みがあるのかプリプリと憤る美琴。
「しかも、皆様そのような絵を棲家に飾って悦にいっているのです」
「危険だわ」
 一匹のシフールが美琴の言を遮った。ティアラ・クライス(ea6147)という名前がある。
「美琴さんと言ったかしら。若い貴方には分からないかもしれないけど、世の中には言ってはいけないことが沢山あるのよ」
 小首を傾げる美琴。
「はい? でも私聞いてしまったんです。星が無い、星を使いすぎたって‥」
「シーっ」
 ティアラは人差し指を口元にあてて「それ以上言うな」と合図した。シフールの険しい表情に、只ならぬものを感じた美琴は巨大な陰謀の存在を確信する。
「冗談は置いといて‥」
 野乃宮霞月(ea6388)は生温かい目でティアラ達を一瞥して言った。
「鷹山とやらがどれだけ本気で江戸の心配をしているかで今後の方向性も決まるというものだが」
 実際には事の真偽など神ならぬ自分達に分かる筈もないが、真実味のある話と病気味の話では対応も違う。霞月以外にも、鷹山の人物を見極めようという思いで足を運んだ人間は少なくは無かった。
 様々に思いを巡らしている間に小半時ほどが過ぎて、この家の主人が戻ってきた。

「アナタが鷹山サンですカ? 何という奇遇でショウ、私も常日頃から江戸を狙う邪悪な気配を感じていたのデス。はっぴ〜えんどに向けてご協力は惜しみませんョ」
 派手なマントを羽織った褐色の怪人が、居間に現れた鷹山正之に握手を求めた。
「親愛の情を込め、鷹山サンの事は鷹ピ〜と呼ばせて頂きますネ」
 クロウ・ブラッキーノ(ea0176)、江戸の闇競売人として知る人ぞ知る変人である。
「私と同じ思いを感じていられたのですか、それは心強い限りだ! 出来れば鷹ぴーは勘弁して下さい」
「ヨロシク、鷹ピ〜」
 怪しい笑顔でクロウは鷹山の手を握った。
「早速だが、本題に入らせてもらおう」
 皆を代表するように菊川響(ea0639)が聞いた。
「江戸は狙われている‥‥正之殿の感じておられる危機と仮説を俺達に聞かせてほしい」
 鷹山は頷き、表情を引き締めて座った。
「尤もな事です。ここに来られた方は大なり小なり、江戸の危機を肌に感じておられる筈。皆様には、私が感じる危険を知って頂きたいと思っています」
「ついに福袋ジャンキーの真実が語られる時が来たわけね」
「星銭党の陰謀ですね!」
 一部の私語は無視して、皆は鷹山の話に注目する。
「実は‥‥」

 ※検閲済み

「‥‥まさか、そんな事が‥‥」
 鷹山が話し終えると、その内容の余りの衝撃に長い沈黙が降りた。冒険者達は驚愕に顔を歪ませ、知らされた真実の重みに耐える。
「しかし、そう考えれば全ての辻褄が合う」
「俺には信じられん。いや信じたく無いのか‥‥」
 磐石と信じていた世界が薄皮一枚で変貌した感覚。常人ならば失禁し、正気を失っても不思議は無い。
「誰か、嘘だと言ってくれ」
「嘘ですよ」
「‥‥」

 ※再び検閲済み

「昨年の百鬼夜行を覚えていますか?」
 顔が変形した鷹山から問われ、冒険者達は頷く。夏祭りに突然起きた妖怪の大襲来。ジャパンにおいてはまだ無名の存在だった冒険者の名を一躍知らしめた事件である。首魁の妖狐阿紫は討たれ、一般には余り知られて居ないが事件は那須にまで飛び火したが、それも全て過去の事だ。
「事件は終わっていません。アレは江戸の風水結界を破壊しようと引き起されたものですが、江戸の風水は完全に破壊されてはいない。現に江戸の町は健在だ、必ずもう一度来ます」
 江戸の風水については何人も調べていたが、全容は良く分かっていない。随分昔に基礎が作られたという噂があるが、何度か江戸の主人が変わるうちに由来は喪われたとされている。
「おたくの言うのは九尾の事か?」
 ゲレイ・メージ(ea6177)が言うと、鷹山は膝を叩いた。
「それもあります。しかし、江戸を狙いそうな妖怪は他にも居る。妖狐は飯綱三郎にも声をかけていたという噂ですし、陸奥の悪路王や越後の茨木童子‥‥数えていけばキリが無い」
「茨木童子、それは京都の妖怪では無かったかね?」
 イギリス人ながらゲレイは魔物の知識にはちとうるさい。
「比叡山ですか? 私も専門家ではないので良く知りませんが、茨木童子は一人では無いのだと思います」
「‥‥ふむ」
 疑問があったが、専門的な話は仲間が退屈すると思いゲレイは口を閉じた。
「今起きている大和の争乱も、背後に九尾が居るという噂もありますね」
「それはただの流言です」
 鷹山は自信に満ちた顔で話を続ける。
「しかし根拠の無い話でもない。江戸は狙われているのですから。妖怪だけではありません。皆さんの事ですから那須や水戸、上州で起きている異変はもうご存知でしょう?」
 蒼天十矢隊の謀反騒ぎや水戸の不穏は冒険者の間に知られつつある。まだ上州で起きた反乱については詳細が伝わって居ないが、どういうツテを持つのか鷹山は少し知っていた。
「源徳から上州を任されている上杉に、新田が蜂起したという話です」
 小領主が林立する上州にあって早くに源徳に臣従した上杉氏と、他の領主との関係は良好ではない。ことに源徳と同じ源氏の一族である新田氏とは緊張状態が続いていた。それでも日の出の勢いである摂政源徳家康が江戸に在る上は、小競り合い以上の騒ぎにはならないと思われていたが。
「源徳を狙う人間は、それこそ妖怪の比ではありませんよ」
 一代で関東の覇者となり、摂政として傀儡神皇を操る家康に敵が居ないと言えば嘘になる。ライバルと言われる平織、藤豊は言うに及ばず、奥羽の藤原氏や信甲の武田氏など虎視眈々と家康の首を狙っているとまことしやかに囁かれている。
「しかし、それを言ったら」
「そう。キリが無い。それに危険分子と見なされて奉行所に捕まりかねません」
 だが鷹山は江戸で新月道が発見され、京都が政情不穏な今こそ、全ての危険は現実の物となる時だと確信していた。
「始まってからでは遅いのです。皆さん、私と共に戦って下さい」
 だから何と?
 それを探すのもまた目的の一部である。

●幕間 大鷹邸にて大江戸情報局(皆様のおはがきが命です)
「今日最初のお手紙は人形町にお住まいの「私の剣は2行半」さんからのタレこみです。えー」
 シフールが手紙を取り出す。
『エチゴヤの兄弟20人、実は全員悪魔憑きで、福袋を販売しつつ冒険者の魂を少しづつかき集めているのです』
『星のコインを666個分集めると中級悪魔に昇格。もう全員が楽勝で昇格ですね、たいへんです』
「‥‥」
 びりばり
「‥‥私は何も見なかったわ」
 ‥‥。

●調査開始
「江戸のっ! 平和はっ! 俺が守るっ!!!」
 菊川は燃えていた。額に必勝鉢巻きなんて締めてる位だから燃えていない訳が無い。
「そうとなれば、善は急げだ! まずは越後屋の福袋生産工場から探すか? 行くぜハチ!」
 適当に辺りをつけて菊川は駆け出した。
 今回福袋関連の疑惑を持った者が多い。何か恨みでもあるのか‥ともあれ、数人の仲間達も勢いで彼についていく。
「どう思うね?」
 走り去る仲間達の背中を見ていたゲレイに、後ろから霞月が声をかける。
「危機を起こそうとしている犯人は、人であれ妖怪であれ、知的な奴のようだ。巧妙な陰謀なので、鷹山さん以外、まだ誰も気付いていないのだろう‥‥私は妖怪が怪しいと思うのだが」
「本気か? 俺は鷹山の話はどうでも良い。奴の言う危険なんて、そんなものは最初から江戸には溢れていた訳だしな」
 達観した風の霞月に、ゲレイは眉根を寄せた。
「おたくの言い方は良くないな。まるで隠者の言だ、まだ老けるには早かろう」
「言い様が悪かったか。要は、俺が思うに江戸で最大の危険は冒険者の存在なんじゃないかね? いつぞやの学者侍にもそう言われたが」
「あの件か? ふむ‥‥しかしな」
 冒険者が危険だからと言って、自身も冒険者である彼らに何ができるか。仕事仲間同士で、疑ったりいがみ合いはしたくない。そも主義主張や正義理念を持ち込めば、仲間とは言ってられない冒険者は腐るほど居る。しかし例え敵同士であろうとも依頼では仲間として信用する、一部には金で信義を売ると揶揄されようとその不文律があるからこそ、冒険者稼業は成立する。
「まぁ、霞月さん。此処にいらしたのですのっ!」
 考え込む霞月に、万里の陽気な声がかけられる。
「ホントに、本日霞月さんにお会いできたは僥倖ですわぁ〜。きっと御仏のお導きです」
 両手を合わせて祈りを捧げる万里。ゲレイは不思議そうに万里と霞月を交互に見る。
「お時間大丈夫ですの? おまんじゅうでも頂きながらゆるりとさせて下さいませ。勿論奢らせていただきますわ♪」
「いやしかし、俺はガラではない。さすがに袈裟姿では拙かろう?」
「とーんでもございませんわ。霞月さん、その格好お似合いです♪ ささ、どうぞ」
 万里は殆ど一人でまくし立て、霞月を攫っていった。
「‥‥ふむ」
 このあと霞月に破戒僧疑惑が持ち上がったが、それは余談。

「盗人の話を聞けば戸締りに用心する、といった事が鷹山殿にもおありかと思いますが。私は危険が在るならそれは遠回しにも民衆に伝えるのが良策と存じます」
 文筆業の端くれと名乗った阿瑚は、鷹山の話を元に物語を書かせてほしいと言った。阿瑚の書いた物語に絵師の万里が挿絵を付けて、それを江戸の人々の目に止まるようにすれば、多少なりとも江戸の危機回避の一助となるだろうというのである。
「物語と言われるが、それは気の長すぎる話ではありませんか?」
 この時代の本作りの基本は写本である。木版技術はまだ拙いもので、紙代の高さや識字率の低さもあり、本自体が貴重品の部類だ。
「最終的には本が出されば我が身の光栄ですが、とりあえず物語がなれば、民衆にそれを知らせるツテはございます」
 異国に吟遊詩人が居るように、ジャパンにも語り部は存在する。芝居という手もある。物語の皮を被せて知らせる方法に、鷹山は興味を示した。

「ウフ」
 クロウは一人で鷹山の身辺調査を行った。
「私のカンでは、江戸を狙っているのは鷹山サン自身ですヨ。負けてイラレマセン」
 鷹山の実家は江戸には無い。同郷の幼馴染が古着屋が営んでいるというので、クロウは話を聞きに訪れた。
「うわぁ!」
 若葉屋文吉はクロウの突然の訪問に飛び上がって驚いたという。
「文吉サンじゃありませんか、ご無沙汰ですネ。ウフ、お元気そうで何ヨリ」
 とある事件で廃人同様になった文吉は療養の結果、今では回復して次の商売の準備をしていた。
「鷹山正之? ああ、彦ちゃんの事か。良く知ってるよ、田舎じゃ一緒に遊んだ仲だ」
 文吉と正之は共に上野のとある村の生まれである。正之の家は郷士だったが、家督は正之の兄が継ぐ事が決まっていたから、文吉の話では正之は若い頃に村を出たという。
「どんな少年でシタカ?」
「頑固で一本気な野郎だったよ」
 クロウの調査では村を出た後江戸に暫く居たようだが、その後回国修行に出て、江戸に戻ってきたのは一年ほど前らしい。
「フーン‥‥」

「探しましたよ」
「ああん?」
 酒場で飲んでいた千造は、声をかけた相手を睨み付けたが覚えが無い。二十歳前後の長い髪の女性だ。顔立ちから西洋人と分かる。腐っても元岡引の千造が見忘れる筈も無いが。
「お目にかかるのは初めてですが、千造さんは江戸の実力者で正義感がある御方と聞いておりますわ」
「おめぇ‥‥ちょっとは物を知ってるようだが、この俺様に一体何の用だ?」
「あなたをスカウトしたい、と思っています。フレーヤの知り合いと言えば、お分かりでしょうか?」
 千造は僅かに目を見開き、鋭い探るような視線を彼女に向けた。
「おめぇ冒険者か? 危ねえ仕事だろう、話ぐらいは聞いてやろうじゃねえか」
 パルシア・プリズム(ea9784)は千造の返答に満足し、微笑を浮かべた。

 冒険者が集った。
 理由も目的も様々な彼ら。
 如何様に物語を動かすのか。


つづく