大江戸物語・二 火の無い所に煙立つ
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 19 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月28日〜10月03日
リプレイ公開日:2005年10月08日
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●オープニング
神聖暦一千年九月ジャパン江戸。
江戸は笑われている。
‥‥いや失礼、狙われている。
「‥‥何に?」
「てゆーか何故?」
少し前なら言葉に詰まった所だが、今はその辺の子供に聞いても答えは明白だ。
草薙の剣を狙う輩に、である。
江戸城のあるじが神剣を持つという噂は瞬く間に日本中を駆け回った。
一報を聞いた京都の平織虎長は激怒し、側近の紅葉は酷い目に遭ったという伝聞もある。
諸侯は江戸に軍の派遣を検討しており、
ジャパン戦国時代の到来さえ噂されている。
だが、そうはさせない。ここに江戸を守る者達が居る。
「‥‥冗談でなく?」
●大江戸防衛隊(仮称)
「やあ、待っていましたよ」
神剣の噂で町中が持ちきりになった頃、ギルドに顔を出した鷹山正之を手代は愛想良く迎えた。
前回はどちらかと言えば嬉しくない依頼のうちに入っていたが、あれから事情は変わった。今は江戸町人の最大の関心事と云っても過言ではない。鷹山に出したお茶のグレードも二回りは違う。
「鷹山様の言葉通り、江戸は狙われているようです。江戸を守るお仕事、結構じゃありませんか」
「少しも結構ではない! 江戸が狙われていない方が良いに決まっているではありませんか!」
「‥‥ごもっともで」
鷹山に怒鳴られて、手代は小さくなる。
「商売病ですな、お恥かしい。ですが鷹山様。やはり、江戸を守る為にお立ちになるのでございましょう?」
「勿論です。私が望んだ事では無いが、急がなくてはなりません」
世を憂う心は人一倍でも浪人の鷹山に力は無い。自然と、冒険者の協力が必要になる。
「何からおやりになります?」
「それが難しいのです。敵は非常の策士です。迂闊に動いては乱を助長する事になるでしょう。しかし、手をこまねいて最悪の結果となってからでは遅い」
決めかねている様子だ。自分が江戸の平和を背負っている気になっている様子が手代にはおかしかった。だが壮士には違いない。何より、今は時勢が求めている。
「所で江戸を守るというくらいですからね、何か名前を付けたらどうです?」
「名前、ですか?」
「ええ、そうです。例えばあの、那須の蒼天十矢隊みたいな格好のつく名前をお決めになれば、覚えも良いし、都合が良いかと思いますよ」
ノリの軽い手代に鷹山は賛成しかねる所があったが、悪い話でも無い。
「それでは考えておきます」
問題は名前より行動だ。
今月末には江戸にジャパンを代表する諸侯が集るとも噂されている。
目も眩むほどの危機が迫っている。
さて、どうなるか。
●リプレイ本文
「馬鹿馬鹿しい」
三味線弾きの小鳥遊美琴(ea0392)は、誰にも言わないがこの事態に呆れていた。
「別に彼はこの騒動を想定してた訳じゃない。根拠無く妄想を並べ立ててたらたまたまそうなっただけの話で、それが一躍時の人になったからって手の平を返したようにちやほやするなんておかしいだろ」
美琴は憤慨し、鷹山邸に姿を現さなかった。
表向きは。
久松町の鷹山邸。
「だけど、およそ身の置き所のなさげな展開になってきたな」
菊川響(ea0639)は頭をかき、鷹山の書斎をぼんやり眺めている。褌まにあとか義侠塾壱号生とか呼ばれるが、菊川は侍だ。
本当なら、今頃はいずれかの陣営に呼応して江戸城地下の神剣争奪戦に参加する也、それでなくとも立ち居地は他に幾らでもあるはず。浪人と密かに江戸を守る企みを行うとは真逆。
「江戸を守る企みとはウマイ事を言いますネ♪」
競売商のクロウ・ブラッキーノ(ea0176)が邪悪そのものの笑みを浮かべる。クロウは奇矯な言動で江戸にその名を知られた変人だ。
「今から私ノ、はっぴ〜クロウ占いをご覧にいれまショウ☆」
クロウは怪しげな呪文を唱え始めた。‥‥しばらく放っておこう。
「家康公にとって、手元にある神剣が偽物だという利点はどこにあると考える?」
響はこの家の主人、鷹山正之と仲間達に話を振った。
「‥‥さあ?」
仲間達は政治に弱かった。
だけど、とシフールのティアラ・クライス(ea6147)が発言した。
「私達、大江戸捜査隊(仮称)は『他人褌相撲殺人事件』の捜査の為に集ったのでは無かったカシラ?」
パタパタ。
「‥‥‥‥他人褌? すまないが全く、身に覚えが無い」
パタパタ。
「そう事件の始まりは、こんな報せからであった。
江戸のとある好事家の老人が死亡したとの報せが役所へ届けられた。死んだ男は無類の異国かぶれで、街外れの森の傍に洋館を建て、‥(中略)‥つまり、この不可解な事態が発覚したのだ」
ずずーっ。
ティアラが熱弁を揮う間に鷹山の内儀が一度お茶を替えた。
「つまりは密室殺人?!」
ティアラが自分で説明して自分で驚愕している。商人ならではの話術、ノルマン人にしてはジャパン語も流暢で聴き応えがある。
「どこかで聞いた話だな‥‥」
「! 思い出した、この前依頼に出てた奴じゃないか」
シフールは小さく舌打ちした。
「あれ、どうなった?」
「たしか‥‥流れたんじゃなかったか」
他所で流れた事件は追えんだろうと皆、興味なさげだ。
「チッ、組織票仕込んどけばよかったかしらネ? まあいいワ、これも‥えーと星銭党の陰謀だもの(ぱたぱた」
シフールは明後日の方角に飛んでいく。
「さっきの話だが‥」
ゲレイ・メージ(ea6177)がシフールの事は忘れて話を変えた。
「平織殿はぜひとも神剣を奪い返したいだろうが、源徳殿と戦争したりすれば、藤豊殿が漁夫の利を得てしまう。
となると、自分がやらせたと判らない形で、江戸に何らかの大事件を起こし、その隙に神剣の在処を調べ、密かに奪取する‥‥
だろうな。
この場合、危機とは放火や暗殺といった破壊行為か?
まあ、突き止めても『部下が勝手にやった事』になるだろうが‥‥」
「それは本物の場合だろう? まだ神剣が本物か偽物か分かってないんだ」
響の反論を聞きながら、ゲレイはパイプを懐から取り出した。火鉢を引き寄せて火を入れる。
「神剣の真贋から議論するのか? 判断材料が少なすぎるぞ」
「ま、俺の考えを聞いてくれ。月道発見の時、一緒に見つかったとして、神剣が京都にないことそのものは問題なんだとしても、無くなったのは何時か分からない、源徳家にお咎めがある筋の話にはならん‥と思う。真贋は別にして、手放さないのは戦の種にしかならない‥‥もうなってるな。だったらこいつは家康公が望んだ戦と仮定して、神皇家に楯突く所業なのか? 神剣は必要なのか? 家康公に一番利となる形は、偽物を偽物と言うことのような気がする‥‥」
「オタクの意見は飛躍が多くて分かり難い。だがまあ、平織殿寄りの思考だな、それは」
ゲレイは紫煙を吐き出した。
「真実は一つだ。火の無い所に煙は立たない、それが陰謀だろうと単なる偶然だろうと、神剣騒動には私達の知らない隠された真実があるのだよ」
得意げに言うが、謎は謎のままだ。それを解く思索が、ゲレイの一番の楽しみである。
「面白いことをしてるな」
考古学者の野乃宮霞月(ea6388)が現れた。
部屋の前で、霞月は人を捜すように首を左右に振る。
「万里はまだか?」
ホッとして息を吐き出した。
「なんだ野乃宮、女から逃げ回っているのか。坊主の風上にも置けんな」
「坊主と坊主で禁断の世界デスカ?」
茶化す仲間達を霞月は睨みつける。
「だから、あれがそういう噂を流しているから俺はな‥‥」
「何のお話ですの?」
背後の声に霞月は一瞬硬直した。振り返ると予想通り、夢見る絵師の万里菊(eb3306)が立っていた。
「いえいえ、万里サンと霞月サンはお似合いと、話してただけデスョ」
ちなみに余談だがこの二人、同い年である。
「まぁまぁまぁ」
頬を赤らめて目を輝かせて、菊は霞月を引き摺るようにして部屋の中に入る。
「まぁいつもながら奥さんのお茶は美味しゅうございますね。私、お煎餅を用意したのですけど、お口に合えば嬉しいですわ、ささ皆さんどうぞっ」
菊は満面の笑顔で皆に煎餅をくばる。依頼中とは思えぬ和やかな空気が漂った。
「そういえば、もう聞きまして? 江戸でまた福袋が販売されるそうですわ。神剣のお話と共に福袋の販売、やはり何かの陰謀を感じますわね」
ぱりぱり。
江戸を守る謀議が、いつのまにか長屋の井戸端会議になった。
いやさっきもそれほど高度なやり取りがあった訳では無いが。
「――しかし。こうして貧乏人同士、だらだら膝つき合わせていても埒があきませんね(煎餅ぽりぽり)」
これまた、いつのまにか来ていたパラ陰陽師の天内加奈(eb3418)が尖兵を食べながら話す。
「立っている物は親の墓でも投げつけろ、と申しますし、今が千載一遇の機会ですよ」
騒動が落ち着いてからでは遅いと、加奈は力説する。
「それは俺達自身が騒動を起すという事か? 悪いが俺は侍だ。そういう企てには乗れんぞ」
「菊川様、人聞きが悪い‥‥ただ私は、江戸を狙う者が本当に居るなら、我々を狙って貰うのが早いと思ったまでのこと」
騒動を憂い、悩み、思索するだけなら江戸中で行われている。座して真実に辿り着くのは神業、場当たりの警戒でどうにかなるなら自分達でなくても事は足りる。
「難しい話をしているな」
教師の江別阿瑚(eb3347)がやってきた。鷹山に物語作りを提案している女だ。小鳥遊とパルシア・プリズム(ea9784)は来ないと言っていたから、一応集った事になる。
「江別様のご意見は?」
「いや、やっぱ江戸は笑われているのかと‥‥」
「‥‥」
「あたしの考えは浅はかだし、草薙だか神の剣だかの事は良く知らないが、狙われてるのはそれであって「江戸」その物ではないと思うのだがな」
「しかし、平織も藤豊も身一つで来た訳では無いぞ。展開次第では江戸が戦場になる恐れもある」
7人はその後も議論を交わしたが、決定的な結論には至らない。
要はどの言を重くみるかだが。
チーん
「‥‥激しくヤバイぜ!大江戸成仏まにあっ」
クロウの占いの結果が出た。
「絶対はっぴ〜!関東三味線衆」
「今だけ失笑!鷹山お富倶楽部」
壊れるまで名前を並べそうだ。クロウを止めて、名前の話をする。
「‥大江戸捜査隊‥(ぱたぱた」
ティアラは一瞬だけ戻ってきて、再び迷飛行の旅に出た。
「大江戸警備隊、それで奉行所が文句を言うなら大江戸自警団でどうだ?」
ゲレイが言う。続いて野乃宮。
「憂国立志隊‥‥苦手なんだよ、こういう名前考えるのは」
「やはり大江戸防衛隊ですの?」
「そうですね。日神(ひのかみ)十二衛士、なんてどうでしょう?
頭に、江戸の、とつけても結構ですわ。
あ、お茶もう一杯下さいます?」
万里、加奈の名前まで聞いて、鷹山はうーむと考え込んだ。
「立志隊‥防衛隊‥大江戸‥十二衛士‥‥名前の事は保留しましょう。私達は売名を目的にしているのでは無いのですから」
ピンと来るものが無かったのだろうか。
そして冒険者達は鷹山低を出ると、思うままの行動を開始した。
●大江戸何とか隊
「見えます。大きな霊力を持った白金が、富士の麓に‥‥」
天内加奈は大和から来た巫女という触れ込みで人の集る辻に立ち、怪しげな占いを行った。
「待て待て待てぇっ」
時勢が時勢だから、加奈はほどなく十手持ちに捕まる。
いずれかの忍者だろうと嫌疑をかけられた。
「うぬは信州素破か、上州乱破か?」
「とんでもない。陰陽師の天内加奈。お疑いなら陰陽寮に問い合わせて下さい」
江戸から京都の陰陽寮に問い合わせるなど手続き込みで一月はかかる筈だが、偶然か必然か陰陽頭の安倍晴明が江戸入りしていた。おかげで加奈は石を抱かずに済む。
ちなみに平織派の動向を探ろうとしたゲレイも、暫く加奈と同部屋で詮議を受けた。
江戸中がその話題を気にしていた時だし、冒険者達は目立つので捕まりやすい。
「さて鷹山殿。
物語を作るには先日の話だけでは足りませぬ」
江別阿瑚は鷹山邸に残っていた。
「あれほどの話であれば夜を明かしてでも一通り聞き取り、書き上げる文章に事細かに目を通して頂き過ちがあれば即座に直し、また早いところ最も効果のあると思われる流布の方法を考えなければ。時が惜しゅうございます。差し出がましい申し出ながら‥‥」
阿瑚は鷹山邸に下宿を頼んだ。浪人の身でも鷹山の家は少々広い。
「良いですよ」
女性を泊める訳にはと固辞されるかと思ったがすんなりと承諾した。
「天下国家の為とあらば、私はどんな協力も惜しみません」
鷹山邸には、菊川や万里もあしげく通った。万里は鷹山の絵を描くつもりらしい。
ちなみに何度か幼馴染といって古着屋の主人が訪ねてきた。
少し毛色の違う所では鷹山自身を調べた者がいる。
「あの情報力、あやかりたいものだな」
霞月は江戸で情報通と思える場所を調べた。寺社、ギルド、町奉行所、などなど。
「鷹山正之‥‥存じませぬが、その方が何を?」
「知りませんか。江戸の危機を予見している御仁です」
鷹山自身の知名度は然程ではない。広く江戸の内外の出来事を知る手が無ければ、いくら妄想でもあれだけの放言は出来ないと思うのだが。
「ゲレイ、書物を読むだけで世の中の事を分かったようになるものかな?」
「それは読み手によるな。分かった気にはなれるだろう」
「何者だっ?」
阿瑚はこの数日、鷹山邸を見張る視線を感じていた。
曲者は彼女よりも手錬れで、確証を持つには時間がかかったが間違いない。菊川に頼んで、二人で待ち伏せる。
「加奈殿の言った通りだったか」
響は短弓を構える。
「‥待てッ」
追い詰められた曲者は両手をあげた。
「拙者貴殿と同じく鷹山に疑念持つ者也。宜しければ情報を交換したく思うが如何」
「鷹山殿に疑惑だと?」
「左様。拙者もまだ正体は掴めて居らぬが、鷹山は町道場で良からぬ輩と密会しておる。ご存知か?」
「町道場?」
「そうだ。確かめて見るが良い。貴殿らと拙者の目的は同じ筈‥‥また会おう」
曲者は一瞬の隙をついて二人の間を走り抜けた。
「‥‥あの手並み、只者じゃないな」
「草薙の剣の一件で江戸が物騒になってきたよね。少なくとも諸侯の実力者の間者が江戸に多数来ているのは確実」
パルシア・プリズムは先日繋ぎをつけておいた元岡引の千造と会っていた。
「情報戦だけなら大したトラブルも無いけど、戦になるとなると、破壊工作とか色々ありそうよね。そういうことで、胡散臭い間者を調べて欲しいの。ただし、漠然とではなく意図的に」
間者狩りは町奉行所も源徳武士もお城の忍者達もしている。
今更冒険者の一人二人が漠然と調べても、反対に間者と疑われるだけだ。
「冒険者として江戸に来ている奴限定でね。江戸の町って、こんな騒ぎしてるのに危険物満載の冒険者が大手を振って歩いてる訳よ。やっぱ、冒険者って危険因子よね」
千造はニヤリと笑い、パルシアの仕事を引き受けた。
結果が出るのは暫く先だ。
「‥‥赤字だけど。そんなに困っていないからね」
雲行きが怪しい。
冒険者達は疑惑を感じている。
天上から下界を覗く者達には、事の虚実は明らかだろうか?
この物語は簡単でも複雑でもない。
つづく