しかばね・三 隔

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月06日〜01月13日

リプレイ公開日:2006年01月24日

●オープニング

 正戦。
 断罪の鐘鳴らす白烏。
 咎人を誘う幽鬼の声。
 行き行きて、なお屍。


 神聖暦千壱年ジャパン京都。
 正月、災難続きの昨年を振り返り、人々は今年は良い年をと願っていた。

 京都冒険者ギルド。
「熊野は領主が追われて大変なご様子‥‥」
 冒険者ギルドの手代は、冒険者に熊野のそれからの事を話していた。
 熊野領主堀内氏と反乱を起した漁村の争いは昨年11月末、九鬼勢の堀内屋敷襲撃によって幕が下りた。都から派遣された検非違使に九鬼側は堀内氏の非道を訴えた。
 検非違使はこの件を喧嘩両成敗と見た。堀内によって三鬼村が滅ぼされ、今九鬼によって堀内も滅ぼされた。都としてはけじめを取らなくてはならない。領主に対する反乱を是とは出来ない。
 検非違使は反乱の首謀者達を引き渡すよう要求し、村々はこれを拒否した。反乱側にとってこれは自衛の戦いだった。非は全て領主側にあったとして、突っ撥ねた。
「考え直した方がお為ですぞ。反乱は重罪、一族の為に代表者が罪科を受けるは当然の理ではありませぬか‥‥」
「罪無き者を引き渡せとは無法の極み! 我ら一族が死に絶えようとも、我らの答えは変わらぬ」
 検非違使は追い払われるように都へ戻ったが、当然捨ててはおけない。都の威信にも関わることだ。しかしおいそれと反乱討伐に兵を動かせる状況でもない。黄泉人の乱の傷も未だ残っていたし、江戸の大災や先日の御所襲撃などもあり、政治的にも経済的にも微妙な時期だ。しかも季節は冬である。
「という訳で、ギルドにお鉢が回ってきました」
「何?」
 仕事は反乱の指導者達の捕縛。抵抗した場合は殺傷も已む無し。
「しかし、我々だけでは‥‥」
 武装した村人達が守る九鬼村は砦も同じだ。冒険者が10人程度では‥‥不可能とは言わないまでも依頼と呼べる類の話ではない。失敗や全滅の危険の方が高いのだから。
「必要経費として六十両お渡しします。これで助っ人を雇うか武装を整えて下さい」
 難しい仕事である。

 今回の反乱の首謀者とされているのは九鬼村の長、九鬼宗鳴。その子の九鬼宗仁、宗豊の兄弟。並びに一族の津川勝憲、野木原曜雪、八手左門、斯波道武ら。更に三鬼信保、万田高盛など計十七名の豪族、武士達。今回はその中でも特に九鬼親子の捕縛が目的となる。

 復讐するは我にあり。
 ジーザス教の聖典によれば神は復讐を己のものとして、人の子の復讐を禁じられたという。悪に悪で応じるは悪であると。しかし、人の世に戦は絶えない。
 はたして‥‥この物語の結末は。

●今回の参加者

 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2535 フィーナ・グリーン(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

能登 経平(ea9860)/ 花東沖 竜良(eb0971

●リプレイ本文

 始める時刻で少し揉めた。
 いつもの事だ。
 しかし――、結局の所、自分達に時を選ぶ余裕があったか疑問である。
 頭の中はいっぱいいっぱいで、ただ早く終わらせようと、地獄に足を進めた。

●たそがれ
「おい、ちゃんと偵察したのか!?」
 側面から村に近づいた“槍の人鬼”平島仁風(ea0984)は、十文字槍を回転させて降りかかる矢を打ち払った。
「‥‥」
 本職の紅闇幻朧(ea6415)は無言。代わりにティーゲル・スロウ(ea3108)が答える。
「した。黒畑達にも確かめた、問題は無かった」
 と思う。神聖騎士は運が無かっただけと言おうとして、右手に握る小柄が妙に重たく感じた。
「早ぇとこ親玉とっつかまえるしかねえか」
 嘆息して仁風は空を見上げる。雪が降りそうな厚い雲のおかげで星一つ見えない。彼が探したのは一人の陰陽師。

「‥‥寒い」
 横殴りの鋭い風に、法衣の裾が激しく翻った。
 九鬼村の上空に浮かぶ“陰陽の人鬼”黒畑緑太郎(eb1822)は懐から巻物を取り出す。彼をこの場に飛翔させているのもこの巻物の力。そして今から彼は目的を達する所だ。
「ちっ」
 スクロールの発動に失敗した。もし敵に見つかったら、或いは魔法が切れたら命は無い。寒さと緊張で巻物を取り落としそうになるが、気を鎮めて再度試みる。黒畑の体が銀色の光を発する。リトルフライの魔法が掛かったのだ。これで後6分は飛んでいられる。
「さあ始めよう。‥‥手加減は出来ぬぞ」
 陰陽師が見つめる地上は赤く燃えていた。

「堀内氏の滅亡は誠実さを欠いたゆえの自業自得‥‥だが事を収めねばな」
 愛馬ディスティニーを駆るデュランダル・アウローラ(ea8820)は冒険者達に気付いて村から出てきた一団を強襲した。
「この“白髪の人鬼”に出会ってしまった不幸を呪え」
 両手で握る偃月刀は一撃で九鬼側の雇い兵を粉砕する。デュランダルは血で狂化する。覚悟の上での全力攻撃。それ故に味方は連れず単騎である。
「あの様子なら一二回は持ちそうだ。第二射、用意しろ!」
 騎士“弓取りの人鬼”ウィルマ・ハートマン(ea8545)は彼女が指揮する弓隊に火矢の次弾を準備させる。軍資金で20名の弓兵を雇った。内訳は猟師や浪人、チンピラや町人も混じっていたが一応は弓を引ける事は確認済みだ。自前の弓を持たない者には冒険者達がかき集めた弓を渡した。お世辞にも軍隊の相手はさせられない兵達だが。
「攻城戦というには彼我共に陣容がお粗末過ぎる。これなら、いい戦いをするだろうさ」
 火矢はあらぬ方向に飛んでいくが、それでも三度撃つ機会があり、砦は火をあげはじめた。
「やっとか。苦労した甲斐があったかな?」
 弓隊の直衛を引き受けた伊東登志樹(ea4301)は安堵の息を漏らした。射程の自信の無い弓隊を砦に肉薄させる為に伊東は大きな布で弓隊を隠し、まさしく「壁役」の仕事をしていた。
「出てきた連中の相手は俺がする。お前らは怪我しねえように離れてな」
 伊東は最後まで踏ん張るのが仕事だ。彼が崩れない限り、仲間達は退路の不安を抱かなくて済む。無論、まともに戦っては数において不利な冒険者に勝機は無い。更にかき回す為に浪人二人、“血塗れの人鬼”緋室叡璽(ea1289)と幽桜哀音(ea2246)が村に突入する。
「私も前に出る。ここは任せるが構わんか?」
 ウィルマが伊東に尋ねた。思ったより敵が出てこない。村は弓隊を含めて六、七十の兵で囲んでいるが、実は過半数がこけおどしの偽兵である。詰まる所、村を直接攻めているのは10名余りの冒険者だけであり、ウィルマは弓隊のうち精強な一部を率いて応援に行く必要を感じていた。
「構わねえが、御神楽は?」
「見てない‥‥中か外か」
 彼らの味方である志士“寝返りの人鬼”御神楽澄華(ea6526)は火計の成功を確認するや村に進撃していた。気付かぬのも無理はなく、偽兵は法螺貝や太鼓でわざと大きな音を立てており、戦闘の混乱と相まって激しく騒々しい。
「冒険者討ち入り、冒険者討ち入り! 門に火の手が上がったぞー!」
 大声を張り上げた澄華を見つけて、七八人の雇い兵の一団が向ってくる。澄華も名声京に知れ渡る志士。一二名は倒せるが、七八人を一度に相手にして勝ち目は無い。だが両手で太刀を構え、敵の視線と真っ直ぐ対峙した。
「最悪を避けようとした意思は未だここに‥‥成し遂げる」
 何事も真剣に取り組み、責任感の人一倍強い女性である。数ヶ月前の失敗と汚名は鎖のように彼女を呪縛していた。それを乗り越えたように見える仲間を羨ましく思う気持ちも零ではない。だが、それを許せない自分もいる。
「また愚かな選択かも知れませんが‥‥しかし、ならどうすれば良いか、私には」
 何れにしろ、この場から逃げる事は彼女の矜持が許さない。両の足は楔で打ち込まれたように不動。この窮地でなお太刀の峰を返して、女志士は敵を迎え撃った。

「穴掘りと聞いていましたが‥‥堂々とした戦いは僕の望む所です!」
 陽動班が敵を引きつける間に潜入班が村へ侵入し、首謀者を捕獲する。その作戦ではトンネルを掘る筈だった楠木麻(ea8087)は、敵に囲まれてグラビティーキャノンを連射していた。
「邪魔するなら容赦しません!」
 詠唱して放った重力波が敵列に穴を空け、潜入班は村の中心を目指した。
「悪鬼め!」
 重力波で崩れた建物の影から九鬼の雇われ兵が飛び出し、無防備の楠木を槍で突いた。
「くっ」
 咄嗟にハーフエルフのフィーナ・グリーン(eb2535)は楠木の前に飛び出していた。槍を肩に受けるが、長巻を振り下ろして槍兵を叩き潰す。
「有り難うございます! 大丈夫ですか?」
「大丈夫‥‥かすり傷です」
 フィーナは微笑む。実際、両手に10個のリングをはめて、妖精のシャツに鷹の布鎧を装備した彼女は塗り壁並の防御力がある。その上に急所を避けるコナンの技を駆使しているので、並大抵の攻撃では傷つかない。
「ぎるどの冒険者は化物揃いという噂、たかが噂と思っていたがな‥‥」
 九鬼に雇われた戦士達は冒険者達の戦闘力に驚嘆した。数で圧し殺す気になれば片がつく。だが優秀な指揮官が居るか忍者で無ければそう簡単には体が動かぬ。一方、冒険者達も人間である。狂化して前後の見境が無ければ話は別だが、多勢に無勢の重圧は確実に総身を侵す。
「まだか黒畑!」
 ティーゲルは上空に居る筈の陰陽師の名を呼んだ。
「‥‥誤算か」
 緑太郎は攻撃で傷ついていた。己の撃ったムーンアローが返ってきたのだ。焦りつつポーションを飲む。
「このまま目標が誰も居なければ、私は死ぬか?」
 月光矢と言えど、当たり所が悪ければ死ぬ。急所に入れば墜落もある。
 仲間達を残して虚空で独り、自分の術で命を落とす。これほど滑稽な死があるか。射程の短い威力も最低の術に切り替えればまず耐えられるが、高度を下げる危険は大きい。
「それでも、この私が攻撃魔法を躊躇するなどありえないがな」
 陰陽師の口元が歪む。眼下では冒険者と、彼らを仇と狙う少年が出遭っていた。

 ──今思えば、何故鬼と呼んだのかわかる気がした。
 赤い髪の浪人は独白する。
 ───ただ掃討する対象にしか見えなくなった──

「恨むのは構わない‥‥私も罪人なのだから‥‥」
 哀音は霞刀で九鬼の兵と戦っていた。向けられる憎しみの目。一緒にいた弓兵ははぐれ、緋室の姿も側には見えない。
「如何な大義名分あろうとも‥‥罪は罪‥‥。罰は、受けねばならない」
「ほざくか。自ら罪人と名乗る者が、罪を語るとは笑止の極み」
 殺到する敵に、法衣に身を包む軽装の女浪人の戦法は見物だった。戦場にあって彼女の刀は鞘に納まったまま、体術で相手の攻撃を躱し、居合で一人を倒した。
「ここは道場では無いぞ!」
 居合は連続で放てない。攻めたてる敵の刃を躱しながら後退した哀音の背中が、炎上する建物の壁に当たった。
「槍襖にて押し殺せぇ!」
 左右から現れた村人が彼女に槍を突きつける。前と左右を塞がれて背後は壁、哀音は進退窮まった。

 冒険者達が村を偵察した時、運良くそれに気付いた九鬼村の衆はまず気付かれぬように女子供を堅固な土蔵に隠した。この時は、都の兵が攻めて来た時の為に堀内屋敷を砦にしようと村長の九鬼宗鳴と兵の一部が留守だった。村に残る戦力は武装した村人が60名、武士が5名、それに義勇兵や雇われ浪人らが13名。判断に苦慮し、密かに海側から宗鳴に使いを送り出した所に冒険者達の攻撃が始まる。
 宣戦布告もなく、突然の火矢は三鬼村同様にこの村を皆殺しにする意思と受け取られた。偽兵の効果で冒険者側の戦力を百以上と誤認した九鬼勢は平地の集団戦では勝ち目無しと思い、地の利のある村内に誘い込んで戦おうと決死の意思を固める。
 側面から侵入しようとした潜入班5名には浪人4名が村人10名を連れて対応し、主力と思われた陽動班の突撃には待ち構えた武士・浪人10名と村人35名が襲い掛かった。

「鬼め、狼藉はそこまでだ」
 咆哮をあげる白鬼デュランダルの動きが突然止まる。矢も槍も跳ね返す無敵の狂戦士を魔法が呪縛した。九鬼村に味方した旅の僧兵は六尺棒で打ち据える。重装備の騎士を余りに強く叩いたので棒が中程でへし折れた。
「悔い改めい」
 僧兵は足軽から槍を取り、倒れた騎士に向ける。デュランダルは死を覚悟したが、次の瞬間には僧兵の体に何本も矢が突き刺さっていた。
「ぐぉああああ!!」
「やれやれ、元気なことだな。死んでろ」
 必死の形相で振り返った僧兵をウィルマの弓が射抜く。
『‥‥見つけたぞ』
 上空の陰陽師から仲間達の頭の中にテレパシーが届く。
「どこだ!?」
 黒畑は九鬼宗仁の居場所を教える。

「‥‥見えないんだ」
 赤鬼叡璽の前には三人の敵が居た。一人は少年尾上隼太。それに隼太が先生と呼ぶ中年の浪人。そして若い武士は宗仁。だが赤髪の浪人は彼らを知らない。ただ目の前に三人の敵が立っている。
「冒険者よ、貴様に問う。何故都の走狗となり、我らと争う?」
「‥‥」
 宗仁の言葉は叡璽の耳に入らない。いや少しは考慮したのだがここで耳を傾ける事は甘さと振り払った。刀を向ける叡璽を見て、浪人は傍らの少年を促した。
「隼太、仇を討て」
「はい!」
 弾かれたような少年の突撃を叡璽は横跳びに躱し、両手で握った刀を少年に振り下ろした。
「‥‥」
 背後から切りかかった浪人の刀を避け損ない、叡璽は斬られて倒れる。起き上がろうとする所を浪人に蹴り倒された。
「隼太、何をしている。止めを差せ」
 浪人の言葉に血を流して倒れた少年がもがく。叡璽は手加減はしなかったが、致命傷では無かった。刀を杖代わりに立ち上がる。宗仁を狙って冒険者が駆けつけなければ、少年の敵は一人減ったに違い無い。
「まずいな‥‥」
 ティーゲル達に気付いた浪人は、隼太を担いで逃げた。宗仁も引くが黒畑に捕捉された彼は逃げ切れず、冒険者に捕まる。仁風が説得した。
「聞いてくんな。‥‥今俺達を退けても、このまま騒ぎを続けりゃいつかは御上に村ごと潰されちまうのがオチってもんよ。そうなる前に、村の連中を止めてやってくれや」
「何を言っておるか分からぬ。火をかけて攻めてきたはうぬらでは無いか!」
 時間が無い。ティーゲルは魔法で宗仁を呪縛した。
「これ以上は弓隊と伊東達が持たんぞ」
 退路を確認していた幻朧が状況を伝える。
「そう言うことだ。任務は果たした、引く」
 ティーゲルが空の黒畑に目標捕獲を伝えると、黒畑はテレパシーで仲間達に撤退を伝えた。
「撤退なんてとんでもない。僕は退きませんよ。京都へ転進です!」
 魔法を使い果した麻は戦闘馬に飛び乗り、我先に逃げる。既に誰も彼も限界だった。仲間に手を貸し、薬を飲ませ、一斉に後退する冒険者側に、九鬼勢の追撃は無かった。彼らにも、とてもそんな余力は無い。

 弓隊に数名の犠牲者が出たが、今回の戦いは冒険者達の勝利と言えるだろう。
 首謀者の一人が捕らえられ、九鬼衆の勢いを削ぐ事も出来た。
 いずれまた戦いが起こる恐れはあるが、それはまた別の物語である。