ぶれいくびーと 最終章の壱
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:11人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月19日〜10月26日
リプレイ公開日:2005年10月31日
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●オープニング
これから始まるのは博徒の物語。
ロクでもない連中のロクでもない話に間違い無い。
今年の春から夏にかけて街道を騒がせた天神一家と蜥蜴一家の抗争は、黒蛇の銀次が蜥蜴の伊三郎を討ち取ったことで幕を閉じた。
抗争の直後に乗り込んできた江戸の新門辰五郎は「二度と血を流させちゃいけない」と抗争の終了を宣言。
また、それまで騒ぎを静観していた町奉行所は「私闘にて街道を騒がすは許しがたい」と両組織の幹部に出頭を命じ、天神の藍、黒蛇の銀次、青鬼の長佐など、主だった人間は伝馬町の牢屋に繋がれた。
宿場は無風状態となり、久方ぶりの平穏が訪れた。
長い抗争はようやく終わりを告げた、かに見える。
●依頼
「‥‥何ですと?」
冒険者ギルドの手代は、耳を疑った。
手代と話しているのは蜥蜴一家の幹部で羽角の直次郎という男だ。
「そんなにおかしいですかい?」
「それでは、冗談では無いと仰るのですか‥‥いやしかし」
手代は困惑の表情だが、直次郎はしかめ面で手代の返答を待っている。
「この話は新門の大親分にもご了解を頂いておりやす。聞いて貰えねえとなれば、あっしの男が立ちません。何でも、聞いて貰わなくちゃならねえんで」
直次郎は大きな目をぐわっと見開いて手代に詰め寄った。
手代はまだ信じ難い顔だったが、仕方なく依頼を預かる。
「江戸から歩いて二日の久野米という宿場を縄張りとする蜥蜴一家からの依頼です」
直次郎が帰った後、手代は冒険者達に仕事の説明をした。
その顔には、どう説明しようかと、少し戸惑いが見える。
「蜥蜴一家は先日、親分が亡くなって今、跡目の問題を抱えているそうです」
江戸が発展した事で生まれた新しい宿場に、蜥蜴の伊三郎がゼロから一家を作った。ワンマン組織であり、跡目を継ぐに足る人物が育っていなかった。
跡目争いが起きるか、対立組織の介入がありそうな状況だが、先の抗争で町奉行所と新門一家が睨みを利かせているのでそれは無い。しかし、一家としての体裁や抗争後の建て直しの為に、早期に新体制を作る必要があった。
コホン、と咳払いをしてから手代は言った。
「誰か、蜥蜴一家を継いではいただけませんか?」
「‥‥‥‥‥なに?」
「蜥蜴の二代目は、冒険者の誰かにと、たっての依頼がございましてね。‥‥いやなら良いのですよ、断りましょう」
抗争において冒険者の実力をまざまざと見せられた蜥蜴一家で、二代目に冒険者を望む声が上がった‥‥らしい。ギルドに登録している冒険者でも渡世人や博徒を生業にする冒険者は少なくないから、ヤクザの親分に望まれる事自体は奇異ではない。ちょっと信じ難いのは、ギルドの冒険者達は伊三郎の依頼を失敗している事だ。
「まさか親分を殺された腹いせに、旨い話で釣っておいて宿場に着いたらブスリ‥‥というんじゃないだろうな?」
「町奉行所の目もありますから、さすがにそれは無いでしょう‥‥」
手代は複雑な表情だ。どんな事情であれ、冒険者を是非にと望まれるのは悪い話ではない。
直次郎の話では、蜥蜴一家を継いでも良いという親分候補の冒険者を10人ばかり送って欲しいとのこと。
年齢性別国籍経験不問。ともかくやる気が最重要。
ひとまず数日滞在して貰って蜥蜴一家に慣れて貰いたいという。
数回の依頼で人品を測り、親分を決定する意向だとか。
さて、どうしたものか。
●リプレイ本文
●接触
巫女服を着た浅黒い長身の男が蜥蜴一家の門を叩いた。
「コノ度はご愁傷デス、ご一同の皆サンには深クお悔やみを申し上げマス」
クロウ・ブラッキーノ(ea0176)が会釈すると、若い衆も頭を下げた。
「ご丁寧な挨拶、有難うござんす。どうぞ中へ上がっておくんなさい」
羽角の直次郎が奥から出てきてクロウを案内する。冒険者に慣れているのか、特別にクロウを奇異の目で見る者はいない。
「きたねぇ部屋ですが、こちらを使っておくんなさい。何か御用がありましたら遠慮なく」
案内された大部屋には、もう冒険者が集っていた。緋邑嵐天丸(ea0861)、バスカ・テリオス(ea2369)、クリス・ウェルロッド(ea5708)、ファラ・ルシェイメア(ea4112)、秋村朱漸(ea3513)、山本建一(ea3891)‥‥いずれも江戸では名の通った一級の冒険者ばかりだ。
首を回して見知った顔を探したクロウは赤い髪の浪人の側に移動した。
「おい勘苦郎‥‥てめぇも金の匂いに釣られたクチかぁ?」
朱漸はクロウとは腐れ縁らしい。クロウ曰く、お○もだちだとか。
「ウフッ、秘密ですよ。試験と聞いてちょっと不安だったのデスガ、朱漸さん達がイッショなら安心ですネェ‥」
クロウと朱漸の会話を山本建一は部屋の隅で見ていた。
(「これだけそうそうたるメンバーなら、誰が親分になってもおかしくはないですが‥‥一抹の不安が拭えないのは何故でしょうね‥‥」)
建一は親分になるつもりは無いらしい。建一の冒険者としての腕はこの中でも一番上だが。
「ところで‥‥」
ウィザードのファラが直次郎を呼び止める。
「僕は旅籠に泊まろうと思うのですが‥‥」
「お客人、うちでは眠れないと言うんですかい?」
「ではなくて、僕は試験官のお手伝いをしたいので、皆さんと一緒でない方がいいかと」
ファラはエルフの自分には参加資格が無いからと試験官助手を希望した。
「参加資格? そいつは余計な気を回させたようで申し訳ねぇ。鬼だ妖怪だってならともかく、耳の長いの短いのはあっしらの稼業に差し障りはねえんで。どうかゆるりとして下せえ」
蜥蜴一家の幹部にはジャイアントが居る。お世辞にも種族の偏見が無いとは言わないが、実力でどうにかなる社会である。
「‥‥なあなあ、質問があるんだけどよ?」
ファラの背後から浪人風の少年が顔を出した。
「親分って、具体的にどういう風な仕事すりゃ良いんだよ? 冒険者とか今の生業を辞めなくちゃならないのか?」
嵐天丸は少年らしい率直さで具体的説明を求めた。
「辞めることはねえでしょう。面倒くせぇ雑事は全てあっしらがやりますから、親分は江戸でお勤めなさって、時々顔を出して貰えたら十分でさ」
「‥‥わからねえな。伊三郎を守れなかった俺達が、何で親分候補なんだよ?」
「そこでさあ。あっしらは天神一家に負けたなんて思っちゃいねえんで。あの伊三郎親分でさえ冒険者に敵わなかった。それなら冒険者を親分にしようって話になったんでさあ」
博徒らしい大博打とでも言うのだろうか。それとも、そこまで人材不足なのか。
「‥‥」
フリーウィルの戦士バスカは直次郎と緋邑達の会話に耳を傾けていた。いきさつを知らないバスカは、まずは己の肌で情勢を知る事からと考えていた。この仕事は蜥蜴一家と因縁を持つ冒険者が多いが、直次郎達は新参のバスカやファラ達と彼らを区別していないように見える。
(「冒険者の方には色々とあるようですが‥‥」)
依頼を受けて、まだ蜥蜴一家に顔を出していない者が数名いた。
●墓前
子分達に場所を聞いてクリスが伊三郎の墓へ行くと、先客がいた。
「‥‥見殺しにされた気分はどうだ?」
氷雨雹刃(ea7901)は物言わぬ墓の主に語りかけていた。
「‥‥俺は気付いてしまった」
(「あれは氷雨? 何を話してるのだろう?」)
クリスは反射的に身を隠したが、声が聞こえない。雹刃相手に忍び足で近づくのも危険、その場から動けなくなる。
「悪く思うな‥‥運が無かったんだ、お前は‥‥」
立ち去ろうとした雹刃は、物音に気付いた。
「氷雨‥? あ、あの」
墓参りにやってきた高村綺羅(ea5694)は墓の前に立つ雹刃に声をかけた。
「‥‥チッ」
雹刃は舌打ちして姿を消す。綺羅は伊三郎の墓前に野菊を見つけた。それを見た瞬間、色んな想いが少女の胸中に溢れた。
「‥‥伊三郎さん、ごめんなさい。綺羅達、冒険者の都合と勝手な思いで、伊三郎さんが守ろうとした物を全てメチャクチャにしてしまった‥‥綺羅は何もできなかった」
涙を溜めた綺羅は不意に邪気を感じて小柄を藪の中へ投じた。
「うぁっ」
眉間を狙うナイフをクリスは仰け反って避ける。
「クリスさん、どうしてここに?」
「え、私を殺しかけて言うことそれだけ? ‥‥いや、私は乙女の涙に引き寄せられただけだから。他意は無いと思うよ」
体についた草や泥を払って、クリスは立ち上がると小柄を綺羅に返した。
「私もお参りさせてもらっていいかな?」
クリスは持参した薔薇を共に戦った猟師と伊三郎、他にも抗争で命を落とした者達の墓に添えた。
「ようやく抗争が終わったと思ったら、今度は親分の面接‥‥慌しいよね。私に器量があるかは分からないけれど、伊三郎親分の意思を継げたら‥‥」
ガラじゃないけどと続けようとしたが、綺羅は驚いたようにクリスを凝視し、突然走り去ってしまった。
「‥‥何なんだろう?」
以下は墓の余談。
蜥蜴一家の屋敷で伊三郎に焼香したクロウのこと。
「ぐふっくくっ‥‥」
伊三郎の仏前で、下を向いて肩を震わせて泣くクロウの姿は、蜥蜴の若衆達の涙を誘った。側に控えていた直次郎がクロウに尋ねた。
「失礼さんでござんすが‥‥お客人はうちの親分とはどちらでお知り合いに?」
生前の伊三郎の話を聞こうと思ったのだろう。
顔を真っ赤にしたクロウは顔を左右に振って答えない。直次郎が近寄ると、我慢できずにクロウは席を立った。若い衆達は余程の事と思った。ちなみにその直後、厠で邪悪な笑いがこだました。
●融和
「あ、それそれ」
冒険者達が集った晩から、歓迎の宴会が催された。ふってわいた話に、冒険者と博徒の間にわだかまりが無いと言えば嘘になる。酒は潤滑油代わりだった。
「よーし、のってきたぞ」
酒席の中央で、嵐天丸が天晴れ扇子を片手に踊っている。まるでたこ躍りだが、本人はノリノリで、一枚二枚と脱いで越中褌一丁で頑張った。
「現在の組の経営状態はイカガですか?」
直次郎に贈物をしたクロウは彼にべったりである。
「任侠の世界も組として動くならコレが必要ですからネェ。商人の私なら何か力になれるかもしれませんョ‥‥ウフ」
隅の方ではクリスが、これは言うまでもない事だが手伝いに来た女達‥大体が若い衆の身内である‥に片っ端から声をかけていた。
「兄ぃが親分になってくれたら鬼に金棒だ」
「まあな、こんな美味しい仕事を俺が見逃すはずがねえだろ?」
朱漸は抗争の時に一緒に戦った若い衆達と話す事が多かった。蜥蜴の中でも荒事好きの面々だ。
「今に蜥蜴の朱漸といやあ関東一の名前になりますぜ」
「ぷっ‥‥ぶっひゃっひゃっひゃっひゃッ!! 馬鹿言ってんじゃねぇぞこのボケッ」
「いてて、冗談じゃねえんですよ」
若い衆達には、このまま蜥蜴一家が空中分解するのでは無いかという危惧があった。
幹部達はそれぞれ無能ではないが、親分の器ではない。武闘派の長左と直次郎の仲が悪いという噂も聞いた。それほど深刻ではないが、喧嘩が最悪な結果になり、しかも今度は天神一家にこちらから仕掛ける事は絶対と言って良いほど出来ないので、蜥蜴一家は一種の放心状態にあった。
この先、蜥蜴一家がどこへ行くのか?
それが見えない不安を博徒達は感じている。
「いっそ博徒を止めて、傭兵集団になるのはどうかな? 戦いは得意でしょう?」
ファラは何気ない口調で転職を勧める。
「戦かぁ‥‥俺みてぇのでも侍になれやすかね?」
「止めとけ、戦なんて割に合わない商売は他にねえぞ」
「いや伊三郎親分も」
「足軽になって戦場を駆けずり回るのが楽しいか? 死ぬのがおちだ」
反応はまちまちだ。現在、関東で一番のトレンドは戦争だった。博徒が何処かの義勇兵に加わる話も無くは無いが、戦に行きたいかと聞かれたら行きたくないと答える者の方が多いだろう。
「お侍さんは戦には行かねえんですかい?」
暇さえあれば槍の鍛錬をしていたバスカは、良く若い衆からそう聞かれた。
「私は武士では無いので‥‥力を望まれる場所でこの槍を振るうだけです」
ファラが言った傭兵とはバスカの事と言っていい。もし彼が蜥蜴一家を継ぐ事になれば、博徒達は彼と一緒に戦場を巡る事になるかもしれない。
すべては親分しだいである。
●江戸
「親分、あの時は迷惑をかけた。命まで取らんでくれて感謝する」
飛脚の氷川玲(ea2988)は久野米に行く前に江戸で新門辰五郎と会っていた。
「感謝されるような事じゃないが、これからは命を大事にするがいいぜ」
「あと蜥蜴一家。今回頭を選びたいとか言う話をギルドの方に持ってきやがってな。遺憾ながら俺も参加することにした。無駄に騒ぎ起こしそうな奴も参加しててな」
親分には『やめとけ、お前さんには向いてねぇ』とか言われそうだがなぁと玲は苦笑いを浮かべる。
「一つだけ言っとくぜ。お前さん、喧嘩は終わったんだ。そこの所を間違えねえこった」
「ああ、分かってる」
玲が答えると、辰五郎は何とも言えぬ顔をしていた。
一番最後に宿場に入ったのはデュラン・ハイアット(ea0042)だ。
デュランは江戸で一仕事していて、久野米に着いたのは皆が帰ろうかという頃だった。
「相変わらず食えねぇヤツだぜ。今度はなに企んでやがるんだァ?」
朱漸が疑いの目を向けるが、デュランはニヤリと笑う。
「企む? それは堪えられん誤解だな。私はこの国が好きだ。居場所を作りたいと思っているのだよ」
本心は分からない。無論、それは全員に云える事なのだ。
つづく