ぶれいくびーと 最終章の弐【大火の爪痕】

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月01日〜12月08日

リプレイ公開日:2005年12月15日

●オープニング

 火の消えたような、という表現がある。
 大火の後、江戸の町はまさしくそのような状態にあった。悪い冗談のようだ。
 たった一夜で江戸の何割かに相当する家々が焼けて、同じだけの人々がこの世を去った。
 ジャパン一の大都市の栄華はかくも脆い。
 生き残った事が罪悪に感じられる悲哀。立ち上がれない絶望。それでも日々は回る。


●新門一家
「蜥蜴の跡目だぁ‥‥こっちはおめぇ、それ所の騒ぎじゃねえんだぞ」
 新門辰五郎のもとに久野米の蜥蜴一家から二代目試験の連絡が来たのは、そんな江戸が酷い事になっている11月中旬のこと。これから冬になるというのに家屋敷を失った人々は十万を超えると言われ、第二の大災を引き起こさない為に江戸の親分も大変忙しい。
「よし、こうしろ。親分てのはいざって時の働きがものを言うんだ。お前達も、人斬りしか知らない大馬鹿野郎を親に担ごうって訳じゃねえはずだな」
 辰五郎は、蜥蜴一家に江戸復興の仕事を手伝わせる事にした。
「へ、あっしらは宿場の事は良く知ってますが、江戸の事はとんと不得手で‥‥」
「そのために冒険者が居るじゃねえか。親分候補なら、いい予行練習だ」
 どんな仕事をするかは親分候補が決める。
「親分候補っても、まだ始めたばっかりですから十人以上居ますぜ。人物も分かっちゃいやせんし‥」
「お前達、伊三郎がいないと何も決められねえのか? お前らを使いこなせねえなら、親分とは言えねえ。お前達は話を幡随院のとこへ持っていけばいい。それで何も出なけりゃ、蜥蜴もそれまでだ」
 冒険者を親に持つと決めたのなら、黙って張れと辰五郎は突き放した。

●天神一家
 天神の藍が釈放されたのは11月半ばの事だ。
 博徒の親分といっても十五の少女、奉行所も不憫に思ったのか罪は軽かった。黒蛇の銀次は未だ牢の中だ。出せば騒動は目に見えているので、どうやらこのまま年を越させる腹積もりらしい。牢屋敷で凍死でもしてくれたら助かると思っている節があり、このあたりは酷薄である。
「親分、お帰りなさいまし」
 やや痩せた藍を、天神一家の若衆が総出で迎える。
「みんな、変わりはないかい」
「へい」
 この事が蜥蜴の試験にどんな影響を及ぼすかはまだ分からない。

●冒険者ギルド
 そんなこんなで蜥蜴一家の幹部、羽角の直次郎が江戸のギルドを訪れたのは11月も終りが近づいた頃。
「復興のお手伝いでしたら、それは大歓迎」
 手代は満面の笑みで依頼を受ける。
 人斬り包丁片手に騒動を混ぜ返して楽しんでいるようなろくでなしにも、使い道がある筈である。日頃人様に迷惑をかけているヤクザ者も、斯様なときには一肌脱ぐべきだ。通りの隅に焼死体が山と積まれて放置された光景が珍しくもない、そんな時だ。
「御代は要りません、どんな下働きでも結構ですから」
「あ、親分候補にそんな事はさせられねえ」
「とんでもない」
 江戸復興の仕事は冒険者が江戸で単独で行っても良いし、久野米に行って蜥蜴の若衆を説得し、一緒に行っても良い。どんな事を行うかは冒険者の自由だが、金のかかる事は自腹となる。

 さて、どうしよう。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ミネア・ウェルロッド(ea4591)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490

●リプレイ本文

「‥‥復興か」
 夜十字信人(ea3094)は荒廃した江戸の風景に、先日の出来事を二重写しで見ていた。
(「あの時、俺が太刀を当てていたならば、あるいは結果は違ったかもしれぬ」)
 大火の折りに現れた炎の妖犬との戦い‥‥物思いに耽る信人の頭を、相棒のクリス・ウェルロッド(ea5708)は後ろから叩いた。
「‥‥何をする?」
「いや‥‥蚊がね、いたんだよ」
 真冬に藪蚊も無いものだが、憮然とした顔で信人はクリスを見据えた。
「おい、俺はお前が慈善事業をすると言うからわざわざ付いてきたが‥‥、こんな所まで連れてきて一体何をする気だ?」
 二人は江戸からどんどん離れていた。大火の災害復興を手伝うのでは無かったのかと信人は怪訝な顔だ。
「勿論、分かってるよ。その為に来たのに、何度も説明しないと分からない?」
 肩をすくめるクリスに殺意が芽生える信人。
(「くっ‥‥我慢だ。もしこいつが組長になったら、その時は‥‥」)
 信人は目的を思い出して怒りに耐えた。
「立ち位置を利用して右腕だとか言い張れば‥‥全く事態に関係の無い俺でも、幹部くらいにはするっと入り込めるかも知れぬ。‥‥もしくは、護衛の、俗に言う「先生」に‥‥悪くない」
 ぶつぶつと呟き顔を緩ませる青年。夜十字信人はジャパンで最強クラスの浪人の筈だが、やや志が低い。いやここは少年のような心を持ち続けているとでも言うべきだろうか。
「着きましたよ」
 二人が辿り着いたのは蜥蜴一家の仇敵が居る、数早の宿場。
「蜥蜴一家の方がうちに来るのは、協定違反ではありませんか?」
「‥‥えっと、帰ってたんだね。うん、それは良かった」
 天神の藍が戻っていると知らなかったクリスは少し狼狽したが、即座に笑顔を浮かべて続ける。
「喧嘩しに来たんじゃないから、問題は無いと思うよ。それより私の話を聞いてほしい」
 クリスが藍と話す間、遠巻きに二人に囲む天神の若い衆は敵意剥き出しだった。
 それもその筈で、クリスと天神一家の関わりには複雑な経緯がある。冒険者多しと言えど、彼はこの天神一家の敷居が一番高い方の人間なのだ。新門一家との取り決めが無ければ、門を超えた途端に半殺しでも不思議ではない。高まる不穏な空気に、藍は一応は客として屋敷の中へ通した。
「単刀直入に言います。このままでは、内部崩壊するのは薄々感付いているでしょう? 部下を連れて、蜥蜴‥‥いや、私の元に来て欲しい」
 女親分の側で話を聞くヤクザ達の目の色が瞬時に変わった。藍が制止しなければ、二人に跳びかかっている。信人も殺気に反応して危うく得物に手をかける所だった。
「随分な話ですね」
「大戦で部下を殺された恨みがあるのは分かる。でも、今残された部下達を一人でも多く救いたいのなら、私に付いてきてくれないか? 私は、貴方達を救いたい」
 真顔で言った。今回の仕事で無謀大賞を選ぶとしたら文句なしにクリスだろう。裏打ちの無い自信と危険度外視の行動は受験者中抜群だ。
「夢を見るのは結構だけど、ただの阿呆に付いていく人は天神には居ないよ。そこまで言うからには、何か証しを立てられるのだろうね?」
「出来る事なら、ここで私の心を貴女に見せてあげたいけど‥‥信じて欲しい。私の言葉が信じられないって言うなら煮るなり焼くなり好きにしていい」
 首と胴が離れた経験もあるクリス、堂に入った台詞である。
「ほう、面白い。ジャパンの釜茹でか、是非とも見てみたいものだな」
 襖が開いて、派手なマントを纏った魔術師が隣の部屋から姿を見せた。
「デュラン!? 何でお前が」
「ふっ、遅かったな諸君」


●江戸
「すまねぇ親分、手伝いに来るのが遅れた。直に取り掛かるわ」
 氷川玲(ea2988)は真っ先に新門の辰五郎に挨拶に出向き、親分から江戸の復興の様子を手短に聞いた。
「早い遅いは終わった後だ。おめぇには平河町の方を頼むぜ。あっちはお侍が多いからな」
 辰五郎の方では氷川達を員数外の応援としてそれなりに頼りにしている。それに乗れば新門一家に使われる形だが、独りでやるのに比べれば段取りは全然違う。
「親分、俺はこうしたいんだが」
 と話せば辰五郎は頷いて氷川の言を検討し、彼に助言と、どこそこに行けば良いと指針をくれる。辰五郎は氷川のような男を使うのに慣れていて、氷川もこうした環境で働く事は嫌いではなかった。
 早速辰五郎に場所を聞いた氷川は被災者がたむろっている所に姿を現して、大声で呼びかけた。
「俺ぁ氷川玲! おめーらに仕事持ってきたぞ! 乗る奴ぁちとこっちこいやー!」
「‥仕事だって?」
「どこの仕事だ、金は幾らだ?」
「週に一両出すぜ。新門の大親分の仕切りだから心配は要らねえ」
「そうかい、新門一家の仕事なら安心だな」
 筋道のはっきりした話だから、被災者達もすんなりと受け止めた。氷川は自分で全てまとめようとはせず人に任せて、復興作業は拍子抜けするほど順調に進んだ。
「玲、商人が直に話したいというのだが」
 女騎士リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が作業現場にやってきた。
「資材や工具を求めている。かなりの量が必要なのだが、売って頂けないだろうか?」
 リーゼは玲に頼まれた資材を集める為に大工や問屋を回ったが、はかばかしくは無かった。
「急に言われても‥‥無理な話だ。ですが、一体どこのどなたが必要としているので?」
「氷川玲という私の友人だ。江戸の大難は見過ごせぬゆえ、微力ながら復興の力になりたいと思っている」
 彼女の話を聞いた商人は、この実直そうな女騎士の力になってやりたいと思ったが、資材や道具は大量生産するものでは無いし、時期的にも余剰は無い。まとめて話をした方が早そうだと、商人はリーゼに案内を頼み、氷川に会いに来た。
「俺がしたいのは、この寒空で家の無い連中を救おうって、救い小屋作りに励んでる大工の仕事を少しでもやりやすくしようって事なんだ。その為にはこの瓦礫をどかさなくちゃならねえ」
「そうですか、良く分かりました」
 支払いは辰五郎という事で、商人は大八車や資材を持ってきた。
 江戸に雪の降る寒い日が続いた。氷川は焦ったが手持ちの資金は尽きてリーゼにも頼んで増員したが、これ以上は増やせない。そこに、蜥蜴一家の面々がやってきた。

「家は燃えても生きていけますが、食べるものが無ければどーにもこーにも‥‥」
 クロウ・ブラッキーノ(ea0176)の災害復興はシンプルだった。
 彼は最初に百両を出して食糧を買った。今の江戸は食糧品の値段が高騰し、少ない食べ物を高値で奪い合っているが、腐ってもクロウは商人の端くれ。
「‥‥サア、優しいオジサンの心付けですョ。この食糧をくれた蜥蜴一家の人に感謝して食べて下さいネ♪」
 何とか大量の食糧を手に入れたクロウは、まるごと猫かぶりを着て奉行所の炊き出しの横で集めた食糧をタダで配った。
「この御時世に慈悲深い御仁だねぇ。ありがたやありがたや‥‥」
「おや残念デスが、アナタは対象外ですョ」
 クロウは渡す相手を身寄りを無くした子供達と決めていた。
「な、なんでだ?」
「大人は自分で稼げばいいじゃアリマセンカ?」
 着ぐるみ姿の強面魔術師に凄まれて、大人は奉行所の炊き出しに並び直す。食べ物をくれる黒猫おじさんの噂が広まると大勢の子供が集った。
「おじさん、何で食べ物くれるんだ?」
「ウフ、はっぴ〜とぅげざ〜ですョ」
「意味わかんねー」
 クロウは興味を示した子供や美少年に目を付け、良い働き口があると甘い言葉を囁いた。


●数早の宿
 大凧に乗ったデュラン・ハイアット(ea0042)は誰より先に、数早の宿場に着いていた。
 試験をそっちのけで、デュランは伝馬町の牢屋から釈放された天神の藍に会いに来たのだ。
「来る頃とは思っていたけど、何の用だい?」
「うむ。用件という程の事はないのだが、ただ‥‥ここらで天神一家の健在を示しておくべきと思ってな」
 デュランはニヤリと笑い、藍に提案した。
 まず宿場の旅籠を住む所の無い江戸市民に解放する。その上で天神の若い衆は江戸へ往来する旅人の道中警護、並びにこの大災害で急増した犯罪者の取締りに協力する、と言った内容だ。
 率直に言って魅力的な提案とは言い難い。また天神一家はこの時、実は別口の災害復興事業に参加する準備をしていた。
 が、藍はこの話を受ける気になった。
「あたしがうんと言ったら、ホラ吹きデュランにも仕事をして貰うが承知だろうね」
「構わんよ」
 思い通りに事が進んだのでデュランは藍の条件を受け入れた。
 天神一家の活動がしやすいように江戸で宣伝をしてきたデュランが数早に戻ると、そこにクリス達が居たという訳である。
「クリスさん、この天神を欲しいというなら体で示して貰います」
「え、体で?」
 この近くでも、大火で生きる場所を失った者がヤクザや野盗紛いの乱行をおこなう姿が増えている。藍はクリスと信人に取締りに協力して欲しいと言った。
「待て。俺達には似合いの仕事だが、それは奉行所の役目では無いのか」
「幾ら衰退しても、この天神一家は縄張りの治安も守れないほど落ちぶれてはいません」
「なるほどな」
 信人は納得し、二人は盗賊狩りに日数を過ごした。


●久野米の宿
 久野米の宿場の蜥蜴一家に手紙が届いた。
 若い衆からそれを受け取った羽角の直次郎は太い眉を持ち上げて、うーむと息を漏らした。
「‥どうしやしょう?」
「兄ぃの言葉だ、行かない訳にはいきませんぜ」
 若い衆が口々に意見を言うのを聞いていた直次郎は短く答えた。
「てめぇらの好きにしな」
 幹部にそう言われて、何人かの若い衆が駆け出した。慌しく旅支度をしている間に、更に人数が膨れて、二十名ほどが宿場を大急ぎで出かけていった。蜥蜴一家の面々は依頼の話を聞いてからと言うもの、今か今かと待ち侘びていたので便り一つでこの事態だ。
「皆さん、これから江戸ですか?」
 街道でファラ・ルシェイメア(ea4112)はこの若い衆達と遭遇する。見知った顔を見つけて声をかけたファラに、若い衆の何人かが頭を下げる。
「へい、朱漸の兄ぃからすぐに来いと手紙が参りやしてね」
「そうですか。僕も、皆さんに色々と話があるんだけど」
「それでしたら羽角の兄貴が宿場に居りますから、兄貴に話したらどうですか」
「直次郎さんが残ってるなら、その方が都合がいいかな。有難う」
 ファラと別れた蜥蜴一家の面々は江戸の前で待ち伏せていた秋村朱漸(ea3513)と出会った。
「おう! わざわざご苦労だったなァ‥‥それにしても、すげぇ人数じゃねえか、おい」
「皆兄貴の言葉だってんで喜んで出て来たんでさあ」
 朱漸とは馴染みの若い衆が調子のいい事を言った。言われた朱漸も蜥蜴の半分以上の若い衆を引き連れて悪い気はしない。もう二代目は貰った気分にもなる。若い衆を手下のように連れた朱漸は新門と話をつけ、氷川の集めた人足が作業する現場に助っ人として現れた。

 伝馬町の牢屋にはなおも蜥蜴、天神の幹部が繋がれている。青鬼の長佐や黒蛇の銀次‥‥先の抗争で主役的役割を演じた者達だ。暖を取る事も出来ない牢獄は冬になれば病死、凍死が珍しくない。壁と塀を隔てて、最早娑婆へ戻る望みも薄い地獄である。
「‥‥このまま此処でくたばるつもりか?」
 この場所で氷雨雹刃(ea7901)は牢内の黒蛇の銀次に問いかけていた。
「‥‥」
 銀次は雹刃を無視して、壁を見つめていた。
「生きて出て来い。俺が‥殺してやる」
 牢屋を出た雹刃は、蜥蜴の若い衆を連れて来た秋村を手伝った。朱漸は雹刃を片腕のように使って現場を任せると、新門の辰五郎に会いに行く。
「仕事の方はどうだ?」
「順調だ。そりゃそうと‥‥火事だろうがなんだろうが、取りっぱぐれちゃあヤクザたァ言えねぇ。そうじゃねぇすか? 親分さん?」
「何が言いてえんだ」
 朱漸は大火で焦げ付いた借金の取立てを引き受けたいと辰五郎に申し出た。辰五郎は金貸しはしていないが、知り合いの金貸しに朱漸を紹介した。
「外道な事はするんじゃねえぜ?」
「勿論でさぁ、ちゃんと分かってますぜ」
 朱漸は頑張った。慈善活動で大きく足を出したが。

「天神一家はやると言ったんだ。まさか、蜥蜴一家に同じ事が出来ないわけはあるまい」
 デュランは久野米に行き、直次郎にも藍にした話を切り出した。
 だが既に秋村達の為に若い衆が江戸に発った後であり、直次郎もデュランの話には難色を示した。天神一家と天秤にかけたデュランの物言いが気に障ったのかもしれない。それでも数早は隣の宿場だから何もしない訳にも行かず、デュランは天神と蜥蜴の為に二つの町の間を往復した。
「デュランさんもこっちだったんだ」
「ファラか‥‥他の者は江戸だというのに今頃なんだ?」
「うん、ちょっと直次郎さんと話をね」
 ファラは復興に何が出来るかを調べていた。
 大きな視野で色々と考えたが都市開発レベルの話は一冒険者には荷の重い。数万、数十万両といった巨額を必要とするし、大きな権力も不可欠だ。
「火事に強い煉瓦作りの家はどうかなと思ったんだけど、誰も煉瓦を知らないんだ」
「だろうな」
 木造建築の発達したジャパンでは煉瓦で造った家がある事を知らない人の方が圧倒的に多い。一から教えて煉瓦職人を育てるとなると、気の長い話だ。逆に言えばファラもデュランも最初ジャパンに来た時は木で作られた家屋に驚いたものだ。
「これからは商売だと思うよ。脅して奪うのは古い。もっと生産性のある事しないと、後で必ず行き詰ると思うんだ。その為の元手が必要なら、僕が出してもいい」
 ファラは直次郎に金袋を預けた。
「これは?」
「ある人を助けようと思ったんだけど。金じゃ無理みたいだから‥‥」
 ファラは幾つか禁則を話した上で、五百両の大金を蜥蜴一家に渡す。
「それから、僕はこの試験を辞退する」
 蜥蜴一家の親分試験は波乱を含みつつ、次回へ。


つづく