ぶれいくびーと 最終章の参
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 84 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月01日〜02月09日
リプレイ公開日:2006年02月09日
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●オープニング
めでたく新年が明けたというのに世の中は騒がしい。
上州藤岡で上杉氏の本拠、平井城が新田氏に陥落したという知らせが江戸に届いたのは1月下旬の事だ。新田の本拠、金山城が反乱軍に陥落したという情報もあり、その直後に九尾の狐が天下大乱の計略を行おうとしているという噂も飛び込んできた。
前年が江戸にとっては厳しい一年だったが、今年も一月から不吉の風が吹いている。
だが考えようによっては、戦乱と混迷の世の始まりを歓迎する者もいるかもしれない‥‥そんな言葉を漏らす者達もいた。まるで世間が平和で何事も無ければ、必要とされないように。
●新門一家
「蜥蜴の跡目。ありゃあ、そろそろ決めてくれないか?」
新門辰五郎は久野米の宿場から羽角の直次郎を呼んで、直にそう頼んだ。
「へい、あっしらもそのつもりでござんすが、何かあるんですかい?」
「実はな、近々に大きな仕事がありそうなんだ」
本決まりではないが、いざその時となったら辰五郎は蜥蜴一家の事に関わっていられなくなるし、出来るなら蜥蜴一家にも仕事を手伝って貰える方が良い。
「分かりやした。この足でギルドに行って参ります」
直次郎はギルドに仕事を頼みに行こうと座を浮かせかけた。
「ああ、それで‥‥蜥蜴の事だから俺が口出しする気は無いが、どんな風に選ぶつもりだ?」
「へい」
直次郎はそれについては色々と悩んだが、一番簡単な方法で決める事にしたという。話を聞いて辰五郎は頷いた。
「親分てのはそれだけじゃねえんだが‥‥ま、決めるのはお前達だ」
●冒険者ギルド
そんなこんなで一月下旬、蜥蜴一家の幹部、羽角の直次郎は江戸の冒険者ギルドを訪れた。
「そうですか。お決めになりますか‥‥してどのような方法で?」
親分試験に乗り気でなかった手代も些かの興味を禁じえない様子だ。
「入れ札で決めやす」
「入れ札?」
「へい。あっしを含めて蜥蜴一家に縁のある一人一人が、誰が親分に相応しいか書いた札を入れて、一番多く名前が書かれてた冒険者に親分になって貰おうと」
分かり易い。親は選べないと良く言うが、親分は子分が選ぶものだ。多数決というのは無難に思える。もっとも、明確故に禍根を残す事も多いのだが、今回は曲がりなりにも新門一家の目があるからおかしな事にはなりにくい。
ちなみに現在の蜥蜴一家の若衆は現在三十名強という話だ。この人数には宿場の関係者、食客や一家を出た者、牢に入っている者などは入ってない。参考までにライバル組織の天神一家の人数は二十数名だという。
「なるほど。でも、それなら冒険者は居なくても良いのでは?」
まだ決めかねている子分も多いので、宿場に来て貰いたいと直次郎が言うので、手代は承知した。帰ろうとしてふと何かを思い出した直次郎が言う。
「そう言や、いまそこで富士山が噴火するかもしれねえって話を聞きましたが‥‥江戸は大丈夫なんでござんすか?」
「さあ?」
問われた手代があまりに自然に笑ったので、直次郎は毒気を抜かれて苦笑いする。
「それではお頼み申します。失礼さんでござんす」
さて、どうなる?
●リプレイ本文
「直次郎さん、ごめん。あんな事を言っておきながら、また来てしまって」
久野米の宿。蜥蜴一家の門前で銀髪のエルフの青年は申し訳無さそうに頭を下げた、
「頭を上げておくなせえ。何か不義理をした訳じゃなし、その反対だ。こっちは大歓迎でさあ」
下げたまま頭を上げないファラ・ルシェイメア(ea4112)に、羽角の直次郎は恐縮した。
気のすむまで居て欲しいという言葉に甘えて、ファラは蜥蜴一家に草鞋を脱ぐ。既に親分試験を辞退した彼を直次郎は客人として扱った。
「僕を除くから、来たのは5人?」
「いや、3人になりやした。あと二人ファラさんと同じようなもんでさ」
結果が出るまであと数日、やる事の無いファラは直次郎を相手によく話した。
「誰が親分になっても良さそうなものだけど‥‥いっそ、直次郎さんが跡目継いで藍さん養女に迎えるとかどうかな?」
ファラに何気ない口調で言われて直次郎はむせた。何度も咳払いする。
「‥‥そんなに変なこと言ったかな」
「あっしにそれだけの器量があれば冒険者を親分にしようてえ話も無かったでしょう」
二代続いた天神と蜥蜴の禍根の解消。血の気の多い博徒達も抗争だけを望む訳ではないから全く考えないと言えば嘘になるが、下手な交渉は新たな抗争の元でもある。
「少し前、クリスさんもあっしに同じような事を言いやした。冒険者の方々はあっしらとは頭の出来が違うんでござんすねぇ」
弓使いのイギリス人、クリス・ウェルロッド(ea5708)は直次郎に大言を吐いた。
「私の目標は、天神のトップである藍嬢を、蜥蜴の幹部に据えることです」
「うん、天神とは仲良くしないと。所で、来る前に富士山が爆発するって聞いたけど本当?」
ファラは世間話のように聞いたが、もう少し話は複雑だろう。
「これは、蜥蜴にこそ、プラスに働く。
敵対していた組の頭を、自分の組の幹部に据える。これが意味する事は『蜥蜴は、抗争に敗れた組にも等しく扱ってくれる』『この組になら、負けても人として暮らせる』という錯覚を、他組に見せられる。こうなれば、戦わずして士気を失い、内部分解するキッカケを自然に作る事さえ望める。並の組で終わりたくないのであれば、この程度のリスクを背負う器量は見せて欲しいけど?」
クリスの話を聞いた冒険者達の反応はまちまちだった。
「ほう‥‥」
デュラン・ハイアット(ea0042)は愉しげに笑みを浮かべるのみ。ファラの隣には氷雨雹刃(ea7901)が居たが、氷雨は無反応だった。緋邑嵐天丸(ea0861)は少年らしく、最初に疑問を口にする。
「それって天神に蜥蜴の下に入れってことか? 悪ぃけど、全然実感わかねえんだけど?」
緋邑も平和は好きだが、藍が承知する筈が無いという事も分かる。
「天神を攻めようってなら‥‥」
「うひゃひゃッ」
緋邑の台詞を、秋村朱漸(ea3513)が遮った。
「いーんじゃねえの。伊三郎もやれなかった事だぜ。それを今すぐ出来るってんなら、こいつは文句無しだ。俺は当たらず触らずが利口だと思うが‥‥止めやしねえよ」
行かせてやれと直次郎に言う秋村に、クリスは目を丸くする。秋村には反対されると思っていた。
「私はあなたを誤解していました」
「うるせぇ。その代わり失敗すんじゃねえぞ? ま‥‥どうせ駄目だろうけどな」
覚悟を決めてクリスは宿場を出た。天神一家の数早の宿まで行き、更に江戸まで足を伸ばすので入れ札の日にはクリスは不在となる。
「‥‥秋村、万に一つ、奴が成功したらどうする気だ?」
「んなもん反故に決まってんだろ。‥‥無駄なんだよ、俺が全てなんだからなァ?」
秋村は己の勝利を確信していた。唯一気にしていた兄貴分の雹刃には頭を下げて今回の入れ札の協力を取り付けている。
(「‥‥万が一、跡目に名が挙がったらどうするつもりかだと? 馬鹿馬鹿しい‥‥だが、所詮奴に分かる筈が無いのか‥‥」)
雹刃は胸中に鬱屈したものを溜めながら、秋村と一緒に街道のごろつき狩りに同行した。
「なんでもよ、天神は周りの野良犬どもを一通り片付けたってぇじゃねぇか? 俺らもやんにゃ、お笑い草ってモンだぜ?」
秋村にはクリスが自分から外へ出たのは好都合だった。その間に子分達に因果を含めて、入れ札に勝てば良い。万が一などあってはならない。
「いいかテメェら!? 俺ゃあな‥‥腹括ったんだ。今日からこの道一本よ!」
仮に負けたら、力で取り返せば良いとさえ思った。
「ジャパンの雪は相当なものだな」
外から戻ったデュランは防寒着の雪を払って、火桶の側に座って暖を取る。ふと縁側に嵐天丸が座っているのを見た彼は声をかけた。
「‥‥寒くないのか?」
「鍛えてるからな」
実の無い返答にデュランは側に来いと呼んだ。
「何だよ、話か?」
「緋邑、ここの者達に色々と聞いているようだが、予想を聞かせろ」
嵐天丸はファラと同じく宿場に着いた早々に試験の見届けに来たと宣言し、候補を辞退していた。
「話す義理はねえよな」
「ふん、貴様はただの野次馬か? せめて私の役に立て。それが皆の利益になる」
デュランは嵐天丸と違い、まめまめしく入れ札に備えていた。
その方法は動の秋村とは正反対だ。
「直次郎。少し下っ端連中に聞いてみたのだが、『デュ』の発音を正確にしている者は少ないな」
「へい。でぇのおとが?」
「でらんで良い」
デュランは自分の名前はヤクザの若衆には難しいからと己の名札を『でらん』と仮名で書いて蜥蜴の一門に配った。緋邑もそれを若衆から見せて貰い、外国人と思えぬその筆使いに関心した。
実は、この面子でデュランは一番ジャパン語に長じている。デュランの狙いが、自分の名前も書けるか怪しいヤクザ達に己の名を売る事だと少年が気付いたのは入れ札の後である。
「もし、あんたが親分になったら‥‥天神のことはどうするのさ?」
「全て良くなる。天神の藍も知らぬ仲ではないからな。そうでなければ、この私がやる意味が無いだろう」
自信に満ちている。朱漸もクリスもそんな顔をしていたと嵐天丸は思い出す。しかし、親分になれるのは1人だけだ。少年は無意識に懐の小柄を弄っていた。
「誰に入れるか決めたのかよ?」
緋邑は蜥蜴一家の全員に同じ質問をした。
‥‥耳長のあんちゃん3名。玲5名。赤十字1名。黒い魔法使い2名。俺4名。秋村12名。でらん9名。くりりん5名。未定11名。
「あのよ、俺は辞退したんだけど」
「仕事を請けといて、そいつは通らねえな」
嵐天丸に入れると答えた若衆が数人居た。
「茶化すなよ。いや本気なら止めとけ」
少年の聞き込みでは一番多く名前が挙がったのは秋村、二番手はデュランだ。しかし、本心を答えたかは分からないし、決めてないと答えた者も多い。結果は流動的だが。
「もし朱漸サンが‥‥」
緋邑は、陸奥流の用心棒の剣を思い出す。地力では緋邑より上か。
「そんな事にならなきゃ、一番良いんだけどな」
「‥‥」
氷雨雹刃は蜥蜴の若衆は秋村に任せて、1人で街道の裏筋や郊外の偵察に出た。単独なら忍びの技を思う存分に揮える。鬱屈した感情からも解放された。
「くだらん感傷など、俺らしくもない‥‥」
伊三郎が死に、銀次の命も取れず、誰が跡目を継ごうと雹刃には関心が無い。一家を盛り立てて繁栄を築くといった事には興味を覚えない男だ。
あの抗争は何だったのか。明確な勝者は居ない。天神と蜥蜴も一様に傷つき、何人もの命を失った。平和主義者の言を借りれば、無意味な争いであり、回避されていれば欠けたものが今も共存していた。冒険者が関わらなければ、違う結果になっていたのか。答えを知っていると思った者は土の下だ。
「‥‥」
雹刃は街道で旅人を襲っていた盗賊を倒して、江戸に戻った。震える手で短刀を向けた俄か盗賊を、小太刀の峰打ちで気絶させて木に縛りつけ、秋村達を呼ぶ。
「仕事はしてやったぞ、秋村親分‥‥後は好きにしろ」
「おう、ご苦労サン。テメェ、俺のシマで強盗なんざやりやがって、死ぬかコラ?」
数早の宿場、天神一家。
「天神の待遇は保障する。嘘ではありません。大親分が居る手前、嘘など付ける筈無いでしょう?」
クリスは天神の藍に、蜥蜴一家に幹部として入るよう説得した。
「つくづく、馬鹿だね」
藍はじっとクリスの表情を見た。自分でも無茶だとは思っているが、クリスは顔に出さないよう気を引き締めた。
「断ります」
「即答? もっとじっくり考えて欲しい。天神にとっても大事なことじゃないか」
「よく考えて欲しいのはこっち。デュランも蜥蜴の入れ札に顔を出せと言ってきたけど、おかしな事に巻き込まれるのは真っ平」
藍も半年以上の付き合いで冒険者の事は分かっている。クリスとデュランの話、それに秋村達の風聞から、今久野米に行けば天神一家は渦中に飲み込まれるのは明らかだ。蜥蜴との決着、望む声も無くは無いが去年から抗争続きの天神一家は喧嘩に厭いて居る。また天神内部ではあの抗争は天神側の勝利と見る向きもあり、蜥蜴に膝を屈する気も無い。そして一番大きいな理由は、クリスを信じて命を預ける気にならない。
「ひ、ひどい」
妥当な分析と思わなくも無い。デュランやクリスの相棒が同行していれば一発逆転もあったかもだが、彼一人で肯定的な言を貰うには目標が無謀すぎた。
「話がそれだけなら帰んな。これでも、あたしも忙しい身なんだ」
この一件で藍は久野米には行かない事を決め、結果としてクリスはデュランの策を一つ潰した。クリスは最後の望みをかけて江戸に向うが、時既に遅し。
蜥蜴一家の入れ札は秋村が勝った。
「‥‥と、当然だゼェ!」
江戸に名を知られた不良浪人は、蜥蜴一家二代目に就く。一家の基本的な所は直次郎が代わりをするので冒険者稼業に支障は無いという話だが、秋村はこれで冒険者を引退するつもりらしい。
「いいかテメェら! 俺の狙いはな‥‥天下だッ! 今の時勢‥‥お上もクソもありゃしねぇ、なぁ? だからよぉ! テメェの力で掴むんだッ! 分かったら黙って‥俺について来いやッ! 極上の夢、見させてやんよッ!」
終‥‥?