冗談から駒 みっしょんいんぽっしぶる

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2006年06月05日

●オープニング

「駄目です」
 冒険者ギルドの手代はにべもなく、その依頼を押し返した。
「そんなことおっしゃらずに、どうかお願いします」
「駄目なものは駄目なんですよ」
 店内で手代と依頼人らしき人物が口論する様子に、後ろで見ていた冒険者が声をかける。
「おいおい、仕事なんだろ。受けてあげてもいいじゃねえか?」
 仕事が少なければ、冒険者は干上がってしまう。それがどんな難事件だろうと取るに足らないお使いだろうと、無いよりはマシでは無いか。
「‥‥ほう、それならあなたが個人的に受けますか? それなら手数料は要りませんよ」
 手代は溜息をついて、依頼内容が書かれた書類を冒険者に見せる。

『あたらしい守護職様の○○が気になって夜もねむれません。このままでは死にそうです。
 わたしの代わりにあの方の○○を確かめて来てくれませんか?』

 話は変わるが、最近都では五条の宮様の怪しげな絵が出回っているらしい。依頼人はそれをどこかで入手し、気も狂わんばかりの想いを抱いているのだとか。
「‥‥んーと、ジャパン語は難解すぎて話が見えんのだが」
「簡単に言えば、五条の宮様の性別を『実際に』確かめて欲しいのだそうです」
「つまり、五条様の衣をガバっとやれと」
 歯に衣着せぬ冒険者のぶっちゃけ発言に手代はコクリと頷いた。
 到底ギルドで受けられる依頼ではない。いや、世界中探しても引き受ける所があるかどうか。
「まあ、個人的にやってしまう分には、仕方がありませんけれどね。勿論、私は聞かなかった事にしますし、あなたが捕まっても当局は一切関知しませんが」
 手代は脅すように言った。
 便利屋稼業をしていると、時々こうした無理な注文というのがギルドには舞い込むものらしい。
 くだらな過ぎる依頼や、実現不可能な依頼、或いはギルドの性質上受けられない依頼など。
「ふーん、それじゃ仕方ないな」
 冒険者がそう言うと、依頼人は落胆の表情を浮かべる。
 それだけで終わる筈の話であった。


「不可能依頼‥‥依頼としては成立しないからこそ、そこには世の人々の想いと悲哀が凝縮されている。そうは感じないかね?」
 使いと名乗る男の言葉にあなたは興味を示した。
 冒険者としての暮らしに、何かが足りないと思っていた。
 男は不可能依頼を専門に扱う仕事人を探していると語った。
「もしやる気になったら、明後日の晩、京のはずれの炭焼き小屋に集ってくれ」

 繰り返しになるが、あなたが捕まっても殺されても恥かしい目に遭っても当局は一切関知しないのでそのつもりで。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3609 鳳 翼狼(22歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ サントス・ティラナ(eb0764

●リプレイ本文

 京都のはずれの長い間打ち捨てられたような炭焼き小屋に、命知らずが10人集った。
「揃ったか、ろくでなしども‥‥まずは自己紹介からか。俺の名は「スタリオン」。
 何故か「フラレー」とも呼ばれるかもだ。不可能なんて言われても、ネギリスのカマロットでフライング大根を眺めてきた俺には想像がつかないが、ヨロシク頼む」
 スタリオンはそう云って、右手を差し出した。あどけなさの残る赤い髪の少年、丸太のような太い腕は彼が一流の戦士であると告げているが、こんな世間の隙間に迷い込むからには只者では無いのだろう。
「スタリオンはん、よろしゅう。うちは将門‥」
 名乗りを挙げようとした茶髪の商人娘は、隣にいた軽業師の青年に止められた。
「‥依頼中はコードネームで呼び合うと話したはずだ」
「はぁ、そやった。うちは算盤(そろばん)や。あんじょう頼むで‥‥?」
「俺は鳥(トリ)だ。どんな奴らが仕事を請けたかと思っていたが‥‥宜しく頼む」
 軽業師の青年は微笑した。笑いたくもなるだろう。名乗りは別でも、皆見知った顔なのだから。
「おい私も言わせろ。深緋(こきひ)だ。今回はこれじゃないと返事しないぞ。うん、私の名は白河・深緋で。白と赤でめでたそうじゃないか‥‥‥いや、めでたそうですわ」
 と言ったのは振袖姿の女。目を引くのは右目を覆う眼帯。女性にしてはやや大柄で赤い髪には真珠の簪を差し、手には日除け傘を持って話し方は調子っ外れの慇懃無礼。
「慣れない話し方は止めた方がいいぞ」
「いや、立場上そういう訳にもな‥‥いかないのよ、分かって」
 深緋は正体が露見すると相当拙い。彼女を、次代にまで語り継がれる英雄と呼ぶ人も居る。
「名前も口に出来ないとは、難儀なことだ。いっそ暗殺でも頼まれた方が、よほど面倒が少ないのだがな」
 物騒な事を呟いてロシアの女猟師は微笑んだ。十人張りの強弓を手にする彼女はの名は「弓」。勿論、偽名である。
「だけど宮さまの性別って、どうやって調べるの?」
 リオと名乗るイギリス人の少女が素朴な疑問を口にする。
「見た目では分かり難いかもしれないよねぇ‥‥でももし女の子だったら、私より胸があったら許さん♪」
 拳をグッと握り締めるリオ。刹那、数人の視線が彼女の胸に注がれるが、凹凸に乏しい子供と比べられても、宮様も困るだろう。
「‥‥ともかく、やってみなくちゃ分からないと俺は思うよ。飛ぶ鳥落す勢いの宮様相手に無茶は承知だけど、やらないうちから不可能と決め付けるのも良くない」
 そう言ったのは襤褸をまとった華国人のハーフエルフ。ちなみに暗号名は「出歯亀」、彼はやる気だ。
「頼もしい奴がいるな」
「いやこんな依頼でそんなまともな発言されても‥」
 仕事内容が内容だけに、時折、不意に悲しくなる面々であった。
「五条の宮様を女性だと思いたい殿方の心理も興味深いですが、わざわざ確認の為に策を弄するのも楽しそうですよね♪」
 他人事のように話すシフール一匹。名前はメイフライ、人間観察が趣味らしい。
「あのー、不可能依頼なのですから成功してはいけないのでは無いでしょうか? 依頼に成功してしまうと不可能依頼じゃないですよね」
 仲間達の話を聞いていた建御雷之男神の巫女から問題発言が飛び出した。一瞬、何を言われたか分からず会話が止まる。
「ユニークな考え方をする人だ。ですが、最初から失敗を認めては我々の立場が無い。これだけの面子が揃っているのに何もありませんでしたでは、面白く無いと思いませんか?」
 巫女にそう言ったのはロシア生まれの楽士。コードネームはそれぞれ「天然」「新曲」。
 新曲はニコニコと笑顔で話を続けた。
「騒ぎを大きくしましょう。五条の宮が無視できないほどに」
「どういう事だ?」
「自ら調べるのは得策とは言えません。我々で騒ぎを煽って話が大きくなったら、五条の宮自身が性別を宣言してくれるかもしれませんよ」
 考えてみれば冒険者が盗み見て「こうだった」と言っても信憑性に欠ける所ではある。本人が誓紙など書いて宣言した方がより確実という考えも的外れではないが、鳥が反論する。
「待て。相手は尊ぶべき神皇家の皇子だ。破廉恥な騒ぎを煽るのは承服しかねる」
「ほぅ、鳥は志士のように話すのだな。だが確かに、支配者の悪い噂を流せば不穏分子と見られかねんな。陰陽師の占いもあながち侮れぬし、戦を仕掛けるようなものだ」
 そう話す弓は笑顔だった。
 何が度し難いと言って、誰も「危険だから止めましょう」と言わない所である。五条の宮の性別が男か女かなど分かった所で彼らには直接何の益も無い。そして危険度は最上級の斜め上。たかが○○がついてるついてないだけの話がだ、或いは国家的な問題にさえ発展する恐れがあるというのに緊張の一欠けらも無い面々。
「こうしていると‥‥。なにやら謀反を企てる悪人みたいですねぇ」
 メイフライは粗茶を啜りながら、幸せそうに呟いた。

●命懸けのみっしょん
「私、宮様のファンなんですの!」
 右目を眼帯で隠した深緋は何処に行けば五条の宮に会えるものかと京都市中を尋ね歩いた。宮様を熱烈に信奉者している武家の息女という設定である。
「大内裏に行けば、いらっしゃるのではないかな」
 神皇の住まいである内裏を中心に、諸官庁の立ち並ぶ大内裏。京都政庁の中心だから、当然京都守護職と会える確率も高い。
 無論、用も無いのにファンが中に入れる筈は無いのだが、天然は正攻法でここを攻めた。
「あぁのぉ、五条の宮様にお会いしたいのですが、どうすれば会えますか?」
「神祇官が守護職様に何用ですか?」
 天然の巫女姿に大内裏の衛士は勘違いをした。天然は衛士の勘違いを正し、訳は言えないがどうしても五条の宮様に会いたいのだと話した。
「いや、それではお通しする訳には‥」
「やっぱり」
 天然は何故か満足そうに頷き、礼を述べてその場を離れた。不可思議さに首を捻る衛士の所に、暫くして今度はシフールが飛んできた。
「シフール飛脚です」
「ご苦労様でござる‥‥はて、いつもの者と違うな」
「はい。あの、私は新しく入ったばかりなので。メイ・フライと申します」
 飛脚に化けたメイフライは誤魔化しきれないと知ると理由を付けてとんずらした。怪しいが、羽根妖精とはそうした種族であると衛士は思っているから捨て置かれた。
 役所には、特に御所の中には神皇家の一族である五条の事も良く知っていると思われたが、この方面の調査は骨が折れそうだ。
 大内裏が駄目だとすると、後は街での聞き込み。
 深緋と算盤は宮様ファンを騙り、メイフライは五条の事を知っていそうな屋敷に忍び込み、リオとスタリオンは探偵の如く身辺調査を続けた。

「なあなあ、噂の黒の宮様って街中うろついてるようやけど見たことある?」
「うち宮様ってええなぁ〜って思ってるんよ。あのキリリとした眉‥漆黒の闇のような髪‥ええなぁ〜」
 算盤は商いの傍らで五条の事を聞いて回った。おかげで半月後に将門屋に反乱加担の嫌疑がかかったが、それは余談。多数の供の者を引き連れて牛車で移動する貴人なら、その行動は追い易いのだが五条の宮は神出鬼没であるという。ただ目撃談は少なく無い。その点でも普通の貴人とは違う。京都人でも公卿の顔など一生見ずに過ごすのが当たり前である。
「どこ行けば会えるやろか?」
「御用がおありなら、お屋敷に伺えばあの方なら無碍にはなされないと思うわ」
「恥かしいわぁ。そっと物陰からお見かけしたいんやわ」
 身分が高くても言わば京都警察の長であるから、会おうと思えば方法も無くはない。目的が目的であるから正面きって会うのは憚られる。路上で会うとすればやはり五条の宮の屋敷前であろうが、畏れ多くも親王を相手にそこまでやるファンは居ないので、不審ではある。
「本当に立派よねぇ。あの御歳で京都守護職様だなんて‥‥」
「私も宮様のファンになりましたわ。良かったら宮様の生い立ちなどお聞かせ願えると嬉しいです」
 算盤と同じく熱烈ファンに化けた深緋は、五条の宮の出自を気にした。所がである。彗星の如く現れたこの皇子の事を、京都市民達は殆ど知らないのだった。
「おかしいと思わない? 年齢的には今の神皇が即位した時に神皇候補に名前が挙がっていて良さそうなのに、宮様の名前を聞いたのは皆つい最近なのよ」
 京都の育ちでは無いという噂を聞いた。
「神皇家の一族やのに京都に居なかった?」
「父親の名前も聞かないわ。考えられる事は例えば何か罪を犯しているとか‥」
 源徳家康が実権を握る少し前までは、京都はジャパンの権力の中心地として血生臭い政争が繰り返されていた。家康が摂政の地位を手に入れたのも中央の貴族達が内乱で疲弊したからだと言われている。神皇家の一族も権力闘争に巻き込まれて多くの悲劇を生んだらしい。
「どこの国でも、王族とはそういうものです」
 新曲はシニカルな口調で言う。酒場で彼は五条の宮の性別に関心があるかを聞き回ったが、評判の美丈夫とはいえ、さすが女性かもしれぬと思っている者は居ない。妄想に遊ぶのは一部の暇人だけだ。ましてや命まで賭けるのだから、冒険者とは人離れした奇怪な人種である。
 それまで無品親王だった五条の宮が突如要職に大抜擢された裏には何かがあったと見て良い。だが調べるには京都の闇は深く、町の噂から見通すにはなお暗い。

 鳥は志士として京都守護職に面会を申し出て、許可が下りた。それを知ったスタリオンは自分も同行出来ないかと聞いたが、鳥は固辞した。実は目的が依頼内容と異なるため、イギリス傭兵を連れて行く訳にはいかなかったのである。
「今噂の京都守護職様だけあって、有名の志士や武家とよく会っているらしいな」
「さもあろう」
 血は申し分も無いが京都では新参者だったし、守護職の役割として有力武家との繋がりは重要である。京都見廻組の掌握にも時間を割かねばならぬだろうし、虎長の直属部隊だった黒虎部隊との関係が微妙とも聞いた。神皇の武士として、鳥が会いたいと思ったのもその辺りの理由である。
「新体制を整えるにあたり、五条の宮様には直属部隊設立の考えはおありでしょうか」
「ふん、私兵を持つ気は無い。都の現状を見れば、そのような者どもが互いに牽制しあい、争いの種になっておるではないか」
 京都には複数の警察組織があり、その攻撃性は江戸の町奉行所等とは比べものにならないほど大きいが、治安は良くならない。京都守護職は都の警察権では一番上にあるもので、殊更に直属部隊などを建てて他と競うのは下策であると言った。
「なるほど。時に冒険者の中に魔物を飼っている者が居りますが、五条の宮様は如何思われますか?」
 鳥は自身もロック鳥を二羽飼っている事を話して、魔獣の類が上手く扱えば一軍に変わるほど優秀なものである事を説いた。
「魔物退治を生業とする貴様にすれば、そうであろうな。余は獅子は鎖に繋ぐよりも野にある方が自然の理に合うと見るが」
 庶人にしてみれば、魔物などは近寄りたい存在ではない。それは鳥も承知しているが、自分は慣れているので寂しさを思う。

 弓は他の参加者とは違い、自分からはまったく動く気配が無かった。
 サボるなと言われたが、彼女としてはどうせ面倒が起こるだろうから待機も重要な仕事のうちと見ていた。他の者には言い訳に聞こえたが、残念な事に弓が予想したような事態が起こる。
 粗末なボロを着て顔に泥を塗りたくった出歯亀が五条の宮の屋敷前で生き倒れた。
 名付けて「ハーフエルフな上に異人とのハーフなので、迫害されちゃったかわいそうな俺★」作戦。
(「きっと五条の宮様は、憐れな行き倒れの少年を助けてくれるに違いないよね!」)
 出歯亀は無邪気で天真爛漫な男であった。
 誰もやらないと思える期待通りの行動を、躊躇なくやれる男である。

 経緯は省く。出歯亀は五条の宮に乱暴狼藉を働こうとした不埒者として絶息した。まだ知名度の低い彼は身元を示す物を所持していなかったのでイカレた変質者として扱われ、川に流されたが待機していた弓と数名が骸を拾い、使いの者が彼を蘇生させた。
「‥‥で、見たのか?」
 見えなかったというと無駄な蘇生費用を使った事に皆が脱力した。天然のみは、
「不可能依頼ですからね。つまりは成功ってことですか?うぅん、喜ぶべきですことです」
 と満面の笑顔で喜んだ。


 時に、異説がある。
 半月後に五条の乱が起きた。
 聡明で未来を期待された五条の宮が何故凶行に及んだのかは皆を驚かせたが、この事件での冒険者の乱暴が乱の一因を作ったのではないかという説だ。
 無論、信じるに値する話ではない。


○登場人物紹介(超極秘事項)
スタリオン‥‥ヲーク・シン(ea5984)
算盤‥‥将門雅(eb1645)
鳥‥‥天城烈閃(ea0629)
白河・深緋‥‥天螺月律吏(ea0085)
弓‥‥ウィルマ・ハートマン(ea8545)
リオ‥‥ミネア・ウェルロッド(ea4591)
出歯亀‥‥鳳翼狼(eb3609)
天然‥‥大宗院鳴(ea1569)
新曲‥‥バーゼリオ・バレルスキー(eb0753)
メイフライ‥‥レディス・フォレストロード(ea5794)