みっしょん四 桂花
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:11人
サポート参加人数:5人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2007年01月20日
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●オープニング
「最近、願掛けで黒と白のヤギを模した幸運の置物を持ち歩いているのだが‥‥」
人騒がせな志士として知られる青年がファンシーな置物を手で弄びながら言った。
「他にも招き猫とか、幸運を招く物は沢山あるよな。そういう幸運の神と友達になることはできないだろうか?」
冗談のような事を、この青年は真面目な顔で言う。
「おかしな事をいうね」
それは依頼の合間の雑談。冒険者達は縁起を担ぐ者が多い、青年の仲間達は口々に言い始める。
「幸運の神様というと、七福神かしら?」
「いや縁起物の実物と解釈すべきではないかな。そうだな、招き猫と友達になりたいなら猫にそれらしく芸を仕込めば良いと思うがどうだ」
「見世物小屋の大いたちみたいなんは浪漫が無いと違う?」
「本当に幸運の神様と友達になれるなら栄華は思いのまま、戦えば無敵でしょうね」
「鳥よ、何を願掛けしているのだね?」
「それは勘弁してくれ。願掛けの内容は人に話さぬ方がいいと言うじゃないか」
「ははぁ、さては可愛い女の子の話だな」
「‥‥」
使いの男は、他愛の無い彼らの話を、何も言わずに最後まで聞いていた。
それから約二ヶ月後。
神聖暦一千一年十二月、ジャパン、京の都。
長州反乱の余韻も未だ冷めやらぬまま師走になり、数日が過ぎた。
使いの男は再び現れる。
「私は、不可能を行う者を待っている。成功も賞賛も期待できない仕事だが、依頼を完遂できる者を探している。冒険者ならば、それに値する者が居るかもしれない」
男はこれまで三度現れた。
冒険者ギルドには頼まず、これと思った冒険者に直接声をかけるのだ。
男は冒険者ギルドにかからなかった依頼を専門に扱う冒険者を求めている。
くだらな過ぎる依頼、実現不可能な依頼、或いはギルドの性質上受けられない依頼などなど。
「それで、今度は幸運の神様探しか?」
「古き神々を追うには力が足りぬ。別の仕事をやってもらおう」
男は前回、別の冒険者が言った話を持ち出した。
「越後屋のペット?」
最近、冒険者の間で広まっている越後屋のペット。そのペットの仕入れ先を探る話だ。
「‥‥さ、さすがに無茶だろ」
命知らずの冒険者が激しく動揺する。
越後屋のペットは犬猫に留まらず魔獣、妖怪から精霊、埴輪まで世界各地の珍獣・珍品が溢れている。その品揃えは人間の技とは思えず、まさに神魔の域だ。興味は尽きないが、探れば命は無いだろう。万が一成功しても、越後屋を敵に回しては冒険者稼業は続けられない。
「‥‥」
使いの男は淡々と用件を終えて踵を返した。
「もしやる気になったら、明後日の晩、京のはずれの炭焼き小屋に集ってくれ」
不可能依頼はギルドの仕事ではない。
危険な橋を渡る関係上か、使いの男は必要以上の事は何も話さなかった。
受けるか受けないか、それは自由である。
なお、この依頼を受けてあなたが捕まっても殺されても恥かしい目に遭っても当局は一切関知しないのでそのつもりで。
●リプレイ本文
虎、熊、モア、チーター、フロストウルフ‥‥。
グリフォン、鬼火、ロック鳥、塗坊、クロコダイル、風精龍、埴輪‥‥。
事情を知らずに迷いこめば、そこはモンスターの大見本市。
もとい、冒険者街。
越後屋の福袋に多種多様のペットが現れるようになってから早いもので約1年。もし今、1年ぶりに冒険者長屋を訪れる者が居れば、その変貌ぶりに目を丸くするかもしれない。
恐るべきは越後屋。
最近では、戦の趨勢でさえ、兵の多寡や将の能力ではなく、ペットや魔法のアイテムなど越後屋の商品をどれだけ多く揃えているかで決まるとまでも言う者もいる。
今回は、そんな無敵の越後屋に正面から闘いを挑んだ帰らざる11名の記録である。
●序の序
長州の反乱以後、京都市中の見回りは強化されていた。
新撰組などは徹底した長州狩りを行っているとの噂だが、先の乱の勝者が誰れかは判断の分かれる所であり、必ずしも都は平穏とは言い難い。
「参ったな、どうも‥‥」
京都見廻組の隊服を着た若い武士は、巡回中に越後屋の暖簾の奥を眺めて溜息をつく。
「何かあったか?」
一緒に見回りに出た同僚に問われて、青年武士は、何でも無いと、何でも無い事は無さそうな顔で答えた。
同僚は視線の先に気付いて、咎めるような視線を青年に向ける。
「おぬし、良くない考えを起こしておるのではあるまいな?」
越後屋は、見廻組やあの新撰組といえど迂闊には手が出せない。元は単なる呉服屋だったというが、今は月道貿易の老舗として、世界各国に支店を持つ巨大企業だ。まさに月道貿易時代の寵児と言えよう。当然、各国政府とも結びつきは強いし、下手に手を出せば国際問題に発展する。
「‥‥福袋などという手段で、みだらに刀剣武具や危険な獣、妖怪共まで野に放つ‥‥それが有用でもあるが、おかげで俺達の仕事も増えてる。しかし、あれほどになれば、たかが商人という訳にもな」
階級社会のジャパンでは商人の地位は高くないが、大商人の威勢は相当なものだ。
「分かっています」
青年はまだ不満そうだが、声は落ち着いていた。
「うん」
同僚は頷いた。乱は終わっても彼らの仕事は減らない。何も好き好んで自ら揉め事を増やす事は無い。同僚の後を歩く青年は振り返り、もう一度じっと越後屋を眺めた。
●序
京都の外れの炭焼き小屋に不可能依頼を受けた11人が集っていた。
高名な冒険者デュラン・ハイアット氏とは別人のデュラン様、人騒がせな鳥、妄想シフールのメイフライ、子供巫女、万屋の算盤、浪人の椿、教師の桂花、ジャイアントのコーラル、地獄帰りの出歯亀の9人は以前にも見た顔だ。
新顔が2人。
「‥‥岡山という。よしなに頼む」
「あ、私は、わんこと言います。えっと、理由は私が凄くわんこ好きだから」
黒小頭巾で顔を隠した浪人の岡山と、銀髪の女戦士のわんこ。
「誰も由来までは聞いてないが‥‥宜しく頼むぜ」
この場にいる全員が偽名を使っている。と言っても、彼らは殆どが名うての冒険者なのでお互いの素性は大体分かっているのだが、この場では暗号名で呼び合う決まりだった。約一名、意味がないのが混じっているが。
「これで全員か? ‥‥しかし、今回は妙な話になったものだな」
楽しげに言ったのは、デュラン様。今回はいつもの派手派手装束ではなく、地味なローブ姿である。
「わたくしのせいでしょうか? 申し訳ありません‥‥わんこさんの輸入経路が気になっていただけなのですが‥‥まさかこんな事になるなんて」
困った桂花は苦笑を浮かべる。この仕事は彼女の疑問を発端としている。依頼人は別だが、冒険者達はあった事は無い。ただいつも使いの男がやってきて、ギルドにかからない内容の仕事を依頼する。
「そんな顔するなよー。マジで嫌だったら、誰もこんなトコに来たりしないでしょ。みんな、好きでやってんだからサ♪」
その言葉通り、出歯亀は無邪気に笑っていた。彼は一度惨たらしい死を味わっているのだが、ナニは死んでも治らないとは、けだし名言である。
「せやね、ほんまどうなってるんやろか楽しみやわぁ〜」
算盤は夢見る乙女の顔で言う。暗号名からも分かるが、算盤も商売人。越後屋の秘密と聞いただけで、飯が三杯はいける。
「うふふ‥‥にゃはははは」
つい妄想が外に飛び出る。
「お仕合わせですね」
メイフライの声に算盤は我に返った。
「いいんです。たまには我を忘れるのも楽しいですよね」
俄かに信じ難いが、このシフールの本業は心理カウンセラーらしい。
「しかし、相手はあの越後屋だ。容易くはいかぬぞ」
表情を引き締めて鳥が言った。
「あの笑顔の裏にどれだけの智謀、策謀を巡らせているか、俺も想像がつかない。気を引き締めてかからねばな」
そう、問題はどうやって調査を行うかだ。先に降参したのは椿。
「ん〜、こういう調査系って私、苦手なのよね‥とんでもない敵とやりあう方がやりやすいわ」
とんでもない敵と戦えば高い確率で死ぬと思うが、それを望む彼女は生粋の戦士か。冒険者には似たり寄ったりな思考を持つ者は多い。次に発言したコーラルもその一人だ。
「えーい、ここで考えてても埒があかないよ! 無理を通せば道理が引っ込む! 多少強引にでも調査して、真実に迫ってみたいなぁ〜! そうやろ、みんなぁ?」
「どうする気だ?」
仲間の顔を見回してコーラルはニヤリと笑う。
「要はエチゴヤはんの蔵をな、こそっと見てくれば一番早いやろ。ゴリっと行くでゴリっとなぁ」
「そっかー。何で気付かなかったんだろ♪」
純粋に感心する出歯亀。呆れるその他9名。
「‥‥正気かね?」
デュラン様は笑みを浮かべたままだ。珍しく変装までしたデュラン様は、越後屋に手を出す気は微塵も無かった。素っ頓狂に見えるが、彼は保身を忘れない男だ。
「実は凄腕の忍者だったとかいうオチか?」
「ないない、そら無いわ。あー、うちがもし死んだら。南浜町参拾番の棲家の床下を漁って金貨持ってってぇな。死体が見つかったら寺院に運び込んで貰えたら、ごっつう感謝やで」
言葉は適当だが、コーラルは本気に見えた。
「そんな問題ではないな。失敗すれば、越後屋は背後を探るぞ。死体になっても喋らされるのだ。逃れる術は無いのだが、それでもやるのかね?」
デュラン様は微笑するが、碧色の眼は笑っていない。返答次第ではここで殺して埋めようという目だ。
「そんな妙な顔すんなて〜! 冗談、冗談の話やがなぁ」
「‥‥だろうな。今回ばかりは迂闊な事は出来んぞ。だが心配するな、この私の話を聞け。「嘘から出たマコト」作戦。まあ、要するにでっち上げなんだがな。それも遠回しにやる」
デュラン様の説明を、コーラルは半分聞いていなかった。
●序の二
「寿命とは抗えぬもの。無常の殺鬼は逃れても敵わず。2倍はともかく寿命の3倍を生きるものはそう居ませんし育てられませぬが‥‥ご存知か?
大和の弾正殿、よほど生くる研究に御執心と見えて、良き餌と環境を、重圧の掛からぬ敵の居らぬを重ね、松虫を常の5倍生かしたそうです。
かような方とご縁があまたありますれば、新しき魔獣に秘境にすまう妖精の類揃えられましょう」
子供巫女の言葉は託宣のようだ。深い意味がありそうで、また妄言のようでもある。聞いた側の心得次第というところか。
越後屋の商い、まるで天狗の如く。
そう称したのも子供巫女であった。
「そういえば、越後屋の方々は総じて赤ら顔の大男だとか‥‥いえ、なんでもありません。これが彼らの正体よと暴く必要などないのですから、薮はつつかぬようにしましょう」
子供巫女は、桂花に呼ばれていた。埴輪と柴犬を連れていく。
陰陽師の桂花はテレパシーを使い、ペット達の越後屋以前の記憶を探ろうというのだ。柴犬はともかく、埴輪の記憶とはどんなものか。古代の話など聞けたら素敵だろうと、そんな事を考えつつ待ち合わせ場所につくと、メイフライと算盤が先に来ていた。
更に炭焼き小屋では会わなかった人物が2人居た。挨拶すると、出てきた名前は「ヤブ」と「きたきつね」。4人とも、各々のペットを連れているから集ると騒がしい。
「あまり恥かしいことは聞かんといてや。なんか仕事せず一緒に旅行ばっかり行ってる飼い主やとか言われそうやね」
照れつつ算盤が言うので桂花は頷く。彼女の魔法は言葉が通じない者とも会話出来るが、伝えられる情報は知能に左右されるから犬猫に複雑な事は聞けない。その意味では、昔の事を質問するのは、正直無理がある。魔力も無限ではないから、依頼期間を全て使う事になるかもしれない。
(「とりあえず、数をこなせば‥‥奇跡的に覚えているペットさんがいるかもしれませんし‥‥」)
桂花が期待をかけたのは、埴輪だ。埴輪は遺跡から出土する。もし発見された時の記憶を覚えていれば、かなり有力な情報となる。
これは失敗した。埴輪とは会話出来なかった。
「埴輪は何も考えて無いのでしょうか」
「見た目通りなら、そうだろう」
他のペットも予想通り会話は難航した。比較的スムーズだったのは忍犬の桃と熊犬の小丸。その二匹に絞って調べるが‥‥結局、今回の調査では越後屋以前と思える言葉は出てこず。
やはり、一筋縄ではいかないのか。
●破
「下手に身辺を探ったり、店に出入りする業者を調べるのは逆に危険が大きい。ここは、正面から堂々といこう」
鳥は越後屋に行き、奥の部屋で話したいと言った。
「大きな商談がある」
鳥は、名の売れた冒険者である。そして越後屋の得意客。通された部屋で鳥はこう切り出した。
「まず言っておきたい。俺は現在、若いロック鳥を3羽飼育している。前に、こちらの店での買取って貰う場合の額を聞いたところ、一羽で315両との評価だった。買取の額から考えると、900両で買い手が付く当てがあるのだろうな。まあ、ここまでは確認だ」
鳥は話を続ける。
「本題に移ろう。俺を越後屋の商売の取引先に加えて欲しい。そうすれば、育てた若いロック鳥を定期的に卸そう。経験上、十中八九、卵から若いロック鳥を育て上げる方法も知っている。だが、問題がある。育てる雛を得るための卵の確保の方法だ。俺に、そちらの卵の仕入先を紹介して欲しい。見込める生産や売り上げの数字を明確にするために、そこから卵の入手法、成鳥の繁殖行動などについて学ばせてもらいたい」
断られた。
世界中の越後屋支店が共有する秘密を語らせるには、商談の額が低すぎる。
「ならば、どうすれば商売相手として信頼して貰えるのか」
越後屋は言った。越後屋で仕入れられない商品を用意できるなら、是非とも商いをさせて欲しいと。
算盤、椿、わんこ、出歯亀の4人も越後屋に出向いた。
算盤と椿は犬の仕入先を直接尋ねた。
「うちは忍犬牧場を作ろうとしてるトレーナーなんやけどな。柴犬の数が欲しいんやけどどこで仕入れてるんや? 育てた忍犬はあんさん所に卸すのが条件で教えてくれへん?」
店員はこの犬はどこどこの生まれだと言った事は話してくれた。しかし、詳しい仕入先や飼育の方法については教えてくれない。
わんこは、何故かペットでなくまるごとわんこの事を尋ねる。
「以前にこちらの福袋でまるごとわんこが当たって、それ以来愛用しているのですが、いつもは何故売ってないのでしょう?」
「仕入れの難しい品物でして」
「まあ、ふふ‥‥まさか、本物のわんこさんを‥‥されて作っておられるんじゃないですよね?」
冗談交じりに聞くわんこの目が少し恐い。来る前にその事を想像して彼女は興奮していた。もしこれで店員が躊躇したり返答に窮したなら、実力行使のつもりで。
「‥‥」
「‥‥え?」
わんこは無意識に長剣に手を伸ばす。ちなみに彼女はハーフエルフ。怒るととても危険。殺気を感知した店員が否定したのでその場は事無きを得た。
「ねーねー越後屋のアニキ! よく俺、脳味噌も筋肉で出来てるってバカにされるんだよ!」
一触即発だったわんこには気付かず、出歯亀は店員を口説くのに夢中だ。
「今までは「武道家なんだから脳味噌筋肉だって誇らしい!」って思ってたんだけどサ。でもやっぱ、これからは手に職の時代だよね! 実は俺、アニキのその知性に溢れたところに惚れちゃったんだ! 下働きでもなんでもするし、タダ働きでいいから、是非アニキのもとで勉強させてほしいんだ!」
「駄目だ」
出歯亀がアニキと呼んだ店員は即答。
「お願いだよアニキ、後生だから俺を男にしておくれよー!」
あの乱の直後とあって越後屋も雇用には慎重だ。そうでなくても、出歯亀は店員向きとは言い難い。懇願したが無駄だった。
一方、メイフライはひとり停車場に来ていた。
京都に入る越後屋の荷物を確かめる魂胆だ。怪しまれないよう上空から眺めるが、どれが何の荷か分からない。仕方なく近くで働いている人に聞く。そして彼女は驚くべき結論を得た。
「‥‥つまり、エチゴヤの正体はジ・アース地下に存在する巨大な地下国家だったんだよ!」
おいおい。
シフールは満足して、その場を立ち去った。
●急
見廻組の青年武士は再び越後屋に来ていた。
「ジャイアントの女武道家とロシア生まれの女戦士なんだが、心当たりは無いか?」
武士は先日から行方が分からない2人の冒険者を探していた。
コーラルとフィーナである。おそらく2人は昨晩、越後屋に忍び込んだと思われるのだが、翌日になっても姿が無い。それから数日間2人の居所は杳として知れなかった。危険を感じた仲間達は一時的に都を離れる。
「おそらく既に‥‥貴殿らの尊い犠牲は忘れない」
判明したのは依頼の最終日。
朱雀大路で倒れている2人が発見された。死んでいると思ったが、気絶しているだけで命に別状は無かった。見廻組の詰め所で武士は2人に事情を聴く。
しかし、2人はこの数日間の事を何も覚えていなかった。
○登場人物紹介(超極秘事項)
デュラン様‥‥デュラン・ハイアット(ea0042)
鳥‥‥天城烈閃(ea0629)
メイフライ‥‥レディス・フォレストロード(ea5794)
子供巫女‥‥円周(eb0132)
算盤‥‥将門雅(eb1645)
椿‥‥南雲紫(eb2483)
わんこ‥‥フィーナ・グリーン(eb2535)
桂花‥‥所所楽柚(eb2886)
コーラル‥‥紅珊瑚(eb3448)
出歯亀‥‥鳳翼狼(eb3609)
岡山‥‥備前響耶(eb3824)