新若葉屋日記・壱 君に届け我が想い

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2006年08月28日

●オープニング

 神聖暦一千一年八月。
 復興祭の賑わいを残した江戸の町に、1人の男が舞い戻っていた。
 深編み笠で顔を隠したその男は久方ぶりの江戸の姿をその目で見ようと、市中を歩いた。すっかり立ち直った表通りの喧騒と、いまだ大火の傷跡が残る路地裏を渡り歩いた。
「大禍の傷を覆い隠して、更なる戦火のために復興を騙るか‥‥度し難いものよ。いっそ燃えてしまえば良かろうか‥‥」
 剣呑な事を呟いて、その男は街角に消えた。
 復興を喜ぶ笑顔のすぐ横で、破壊を望む怨嗟の声を聞く。果たして何故か。


●新若葉屋日記・壱 君に届け我が想い
 相州に向った1人の青年が消息を絶ってから半年あまりが過ぎようとしていた。そんな些細な事件はおかまいなしに日々は平穏に過ぎていく。
 連綿とつづく人々の営みは変わらない。どこぞで戦が起きていたり、新しい月道が開通したり、いつも新しいニュースには事欠かないが、人間の暮らしそのものは太古の昔から揺らぐことなく今に至る。

「‥‥おかしな話があるもんだねぇ」
 冒険者ギルドの手代が、行きつけの茶屋で妙な噂を聞いたのは七月も末のことだ。
「だが本当か、話を作ってるんじゃないかえ?」
「嘘じゃねえや。そいつが褌をかぶっててなぁ‥‥」
「‥‥褌?」
 耳に飛び込んできた単語が、手代の脳裏に忌まわしい記憶を呼び起こした。冒険者稼業は常軌を逸した言動に遭う機会が多い。ギルドの手代ともなれば、変態の5人や6人は付き合いがあるものだ。
「‥‥」
 しかし、プライベートでまで関わりたいとは思わない。
 褌をかぶった奇人が若葉屋という古着屋の近くに現れるという噂に、手代は手で耳を塞ぐようにして茶屋から立ち去った。いずれ冒険者の耳に入るとしても、せめて幾日かの猶予は得られるはずだった。

「え?」
 ギルドに戻った手代は、あの店の名前を聞いて驚きの表情を浮かべる。
「お前さんも承知の若葉屋のことなんだがね、何か聞いてないかい?」
 そう番頭に問われても、手代は間抜け面を曝しただけだった。あの古着屋とは若葉屋文吉が居なくなってから関わっていない。何故今更という感が強い。
 若葉屋は江戸で一旗あげようとした文吉が冒険者と一緒に作った店だ。古下着屋という奇抜な発想が禍いしたのか事件続きで、手代にとっては苦い思い出の一つである。店主が居なくなってからも、しばらくは冒険者が出入りしていたらしいが、最近はそんな話も聞かなくなっていた。
「世間では若葉屋のことをギルドの支店のように思っている人も居るらしい。‥‥まったく困ったことだが、妙な噂が立つようでは困るからね」
 番頭は溜息混じりにそんな事を口にした。なるほど若葉屋の設立にはギルドが深く関わっているから、そのような見方もあるのだろう。番頭は商人同士の寄り合いで、顔見知りの薬問屋の隠居に若葉屋の事を尋ねられたのだという。
「考えてみれば、あの店はギルドの物と言ってもいいかもしれませんよ」
 少しの間、思案顔だった番頭は奇妙な事を言いだした。
「お前さん、ちょっと人をやって調べてくれないかい。使えるようなら、何か使ってみようじゃないか」
 手代は呆気に取られたが、番頭は本気で考えていた。
 戻る気配の無い文吉の代わりに、冒険者を使って若葉屋を再生させる計画を。


さて、どうしたものか‥‥

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea4233 蒼月 惠(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea6333 鹿角 椛(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)

●サポート参加者

アリエス・アリア(ea0210)/ ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)/ 黒 者栗鼠(ea5931)/ ミィナ・コヅツミ(ea9128)/ サントス・ティラナ(eb0764)/ 景山 清久(eb1803)/ ミア・シールリッヒ(eb3386

●リプレイ本文

 若葉屋再生計画、その手始めに10人の冒険者が集められた。
「はじめまして!」
 女騎士ジャンヌ・バルザック(eb3346)は精一杯に胸を張り、顔をあげた。そうしなければパラの彼女には仲間達の顔が見えない。
「私はノルマンの騎士、バルザック家のジャンヌだよ。よろしくね!」
「よろしくぅ♪ あたしはパラーリアだよぉ」
「はぁいっ☆ わかばやさんのかんばんむすめのジュディスよっ。ようこそ若葉屋へっ☆」
 軽業師のパラーリア・ゲラー(eb2257)と大道芸人のジュディス・ティラナ(ea4475)が同じ目線でジャンヌに挨拶した。二人ともジャンヌと同じパラだ。今回は陽気な小人族が4人も揃った。
「‥‥ふー」
 彼女らを送り出す冒険者ギルドの手代の表情は冴えない。不安なのだ。荒事には滅法強いが冒険者はトラブルも引起す。
「人生は諦めが肝心デスョ」
 渋面を作る手代の後ろ、死神の如き凶相の魔術師が立っていた。
「手代さん‥今サラ、他人のフリとはツレないデスねェ。まったく、アナタはもう思いっきり関係者デスョ」
 親しみをこめた邪笑を浮かべるのはクロウ・ブラッキーノ(ea0176)。手代とは馴染みである。
「&%$*!ッ」
 言葉にならぬ悲鳴を手代はぐっと堪える。
「おや? フフ‥‥まあいいでしょう。とりあえず、私はまにあな方々と旧交を温めるとしまショウ‥‥」
 クロウは店の事は仲間達に任せて、別行動をとった。

「ふはははははは!ついに動いたか!伝説の店が!」
 江戸の町を見渡す高台に、重装備に身を固め、駿馬に跨った少年騎士の姿があった。
 竜頭兜に蝶型のアイマスク、龍の紋章入りの板金鎧、夏だというのに分厚い皮マントを羽織り、手には大鎌と黄金獅子の楯を装備。
「ふははははははは!」
 暑さと重量の為に少年は昏倒した。
「ありゃあ、生き倒れだべ」
「この陽気じゃもの、おかしなのも増えるべさ」
 付近の村人が農作業の帰り道で倒れているヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)を見つけた。ツェペシュは運がいい、野盗に見つかっていたら殴殺されて身ぐるみ剥がされる所だ。
「まだ若いのに、可哀想によ」
 村人は人を呼び、荷車を持ってきてツェペシュを載せると、江戸のギルドまで運んだ。ギルドの高名推して知るべしだ。予想外に早い冒険者の帰還に、出迎えた手代が絶句したのは言うまでもない。


 再建計画の中身はともかく、暫く放置されていたのだから、まずは大掃除だ。動き易い格好に着替えた冒険者らは手に手に道具を持って若葉屋に集合する。
「若葉屋か‥‥懐かしいものだ」
 ジャイアントの女騎士ルミリア・ザナックス(ea5298)は懐かしそうに呟いた。店主の事も気になるが、それは仲間に任せるとしてルミリアは馬から掃除道具を下ろすと、女騎士は険しい顔つきで左手に箒、右手にメイスを装備する。
「たかが掃除に、物々しいな。それほどのものか」
 手伝いに来た女志士の鹿角椛(ea6333)は息を呑む。
「気を付けねば店を壊してしまうのだ」
 ルミリアは真面目な顔で答え、右手のメイスを振るった。Gに天罰を加えてきたGパニッシャー。木造の店内で振り回せばどうなるか。ルミリアほどの膂力と技があっても気を抜ける仕事ではない。‥‥少なくとも本人は真剣だ。
「そ、そうか。大変だな。修繕の手配もしなきゃいけないし、噂通り怪しい者が出入りしてるならその対策も‥‥」
 ルミリアが破壊する前にと鹿角は慌てて店の中に入った。
「流石に荒れてるな。ちょっと手間そう‥‥」
 蜘蛛の巣を注意深くはらう。柱に置いた手に何かが触れた。ゆっくり首を回すと、大きな黒い虫が左手の甲に乗っていた。まさしくG。
「‥ひょっ」
 途端に鹿角は色を失う。化物相手ならどこまでも勇敢な女志士が、虫は全く駄目だ。右手が無意識に得物をまさぐった。数秒の間があればGごと左手を叩き潰していたが、殺気を感じ取ったのかGは剣士にしては細い鹿角の腕を伝い、彼女の顔面に迫った。
「!? ‥‥ぎ、ぎゃあああああああ!!」
「な、なんだ?」
 悲鳴を聞き、表で見張っていた三笠明信(ea1628)はすわ店の中に曲者がと思いきや、血相を変えた鹿角が飛び出してくる。
「くっ」
 混乱した鹿角が身体ごとジャイアントにぶつかるのを、咄嗟に三笠は躱せず、腕で払い除ける。
「ごめんッ」
 転び倒れた女志士に詫びつつ、三笠は新藤五国光の鯉口を切った。
「ルミリアさん、今助けに行きます!」
 想い人の名を呼びつつ、突入する三笠。
「何かあったの?」
 奥で人形の在庫を調べていたジュディスとパラーリアも顔を出す。ルミリアが三笠に何か言ったが、三笠はメイスで脆くなった床を踏み抜いていた。
「‥‥‥」
 かつての若葉屋店員、蒼月惠(ea4233)はこの騒ぎに少しも慌てず、無言で人形を作り続けた。
 一部の冒険者達に人気の、通称「ちま」人形。パラーリアの提案で、店の宣伝と営業を兼ねた人形劇を行う予定だ。準備が僅か三日しか無いから、結構焦っている。
「なんだなんだ?」
「おい、若葉屋にまた冒険者が来てるぜ」
 騒ぎを聞いて近所の人達が表に出てくる。野次馬の中に、町奉行所の岡引の姿もあった。
「またお前らかい?」
 この周辺を縄張りにする岡引の又五郎は、店内を見回した。
 まるで押し込み強盗の現場のようだ、岡引の眉間に深い皺が刻まれる。
「本来なら番所で話聞く所だがな、文吉はいねぇし‥‥俺もそんな暇じゃねえ。分かるかい?」
「面倒をかけて相済まない。斯様なことは二度と致さぬ、どうかこの通りだ」
 ルミリアが頭を下げると、岡引は頷いた。
「物分りがいいな。いつもそうなら助かるぜ。武士に二言はねえな?」
「当然のこと、懸念は無用です」
 三笠が武士として答えたが、結局ルミリアは岡引と町奉行所に赴いた。最初から町奉行所には若葉屋の営業再開の挨拶に行くつもりだった。掃除では役に立たずの鹿角もルミリアに同行する。

「飛空箒は普通の箒として使えるのでおじゃろうか?」
 フライングプルームを手に、妙な疑問を口にするパラ侍、暮空銅鑼衛門(ea1467)。
 少し遅れてきた暮空が若葉屋へ着いたのは、ルミリア達が出かけた後だった。
「パパぁ〜っ、会いたかったわ〜っ!」
 久しぶりに再会した銅鑼衛門に抱きつくジュディス。感動の再会と思いきや、暮空は顔を歪めてしがみつく少女を引き剥がした。
「人違いでおじゃるよ。ま、麿は暮空氏ではおじゃらん」
「パパ、どうしたの?」
 ジュディスは一瞬複雑な表情をみせた。
「暮空氏は急にお腹が痛くなったそうで、急遽麿と交替したでおじゃる。麿はただのヨントスでおじゃる。それ以上でもそれ以下でもないでおじゃる」
 どこから見ても銅鑼衛門だが、不安そうだったジュディスの表情は晴れる。
「まぁ、ヨントスパパなのねっ☆ いつこっちに来たの?」
「秘密でおじゃるよ。それよりジュディちゃん、若葉屋の宣伝のことでおじゃるが‥‥」
 ヨントスの話を聞いたジュディスは目を輝かせ、再び彼に抱きついた。今度はヨントスも少女の好きにさせる。
「ジュディちゃんと一緒にまた仕事ができるとは‥‥楽しくなりそうでおじゃるな」


「店主が居らぬのに店を開こうとは如何なる目的あってのことか?」
 町奉行所の係りの者はすんなりとは営業再開を承知してくれなかった。何度か騒動も起したから無理も無いが、ルミリアと鹿角も引き下がれない。
「その店主を迎えるに、店が無くては立ち行きませぬ」
「ならば聞くが、若葉屋は古着屋。それが此度は人形屋と届けられておる。いかにも不審であろう」
「誤解だ」
 係りの武士の追及に、鹿角が口を開いた。
「手前どもは古着を加工して売る商い。以前は褌だったが、そのう‥‥何かと悶着が起きるので、同じ古布・ハギレを今度は人形作りに変えた次第。これなら、騒動の心配も無く安心して商売が出来る」
「ほぅ、左様な理由が」
 さらにルミリアが酒を土産に地元の親分、顔役衆を回って口添えを頼んでいた事が功を奏し、数日で町奉行所より営業再開の許しが出た。
「鹿角のおかげだ」
 ルミリアは鹿角に礼を言う。鹿角の交渉術が無ければ話は拗れていたろう。
「なあに、いいってことよ。掃除は俺手伝えないし、適材適所だろ」
 鹿角の生業は故買屋。志士が盗品商売というのもとんでもない話だが、この手の交渉には都合が良い人材と言える。商いに通じた人間が居ると居ないでは天と地で、今回全般的に鹿角は役に立った。
「ただ、責任者は決めとかないと拙いな。いなくなっちまった店主が見つかればいいが、店主代理くらいはすぐ必要になるぜ」
 店の再生とは別に、若葉屋文吉探しも冒険者達の目的だ。ルミリアと鹿角も探索費用を負担したが、そっちの責任者はヤングヴラドだ。人手を使って、文吉の行方を調べると言っていた。
「店主代理か‥‥」

「ただいまでおじゃる」
 若葉屋の前にヨントスの飛空箒が降りた。ヨントスは後ろにジュディスを乗せて、二人で空から若葉屋の宣伝を行った。
「空からたっぷりお知らせしたから、これで文吉さん、すぐ帰ってきてくれるわっ☆」
 早速宣伝効果があり、以前に若葉屋を知っていた客はここ数日で大分戻ってきた。おかげで警護の三笠とジャンヌは大忙しだ。
「褌狂い‥‥話には聞いていましたが、まさかあれほどとは。ルミリアさん達の苦労が、少しだけ分かった気がします」
 三笠はかなり疲れていた。一人一人は大した事が無い。だが武器を持たない大人数を相手にするのは、三笠のような達人でも手こずった。いっそドスでも振り回してくれた方が楽な程だ。
「でも斬ったら駄目なんだよね」
 ロングソードを触りながらジャンヌが言う。
 実際、彼らが褌を売らないと言うと少数だが暴力に訴えた者もいた。また若葉屋に寝泊りして夜番をしたジャンヌも何度か不審者と遭遇しているが、剣は抜かなかった。
 正当防衛でも、営業再開の最中に刃傷沙汰は風聞が悪い。
「でも、ああいうのは一度懲らしめないと何度でも来ると思うよ」
 ジャンヌの警句に、何人かは以前の褌狂いとの戦いを思い出す。いわばこれは若葉屋の負の遺産だ。
「ククク‥‥押さえるつもりが、すっかり目覚めさせてしまったようデスネ。まぁ、半年以上も禁欲生活を送っていた彼らには刺激が強すぎマシタか」
 物陰でクロウは忍び笑いを漏らした。空から褌救世主が現れ、闇の遣いが囁けば、当然の結果と思わなくも無い。
「私がここに居る限り、不審者は店内に一歩も入れませんから」
 硬い決意で三笠が宣言する。だが迎撃するだけでは。ジャンヌの感じたように根本的解決策も考えるべきか。
「そういえば、私がジャパンに来たばかりの頃小耳に挟んだ、正義の屋台とか、自警団とかやってた人達ってあの後どうなったのかな?」
 江戸は急激な人口増加に治安組織が追いついていない。民間で度々自警組織が作られては消えている。或いは冒険者ギルドが江戸の最大自警組織なのかもしれない。


●人形劇「日照り神と豊穣の秋」
 ちっちゃなクマが、往来で人々の足を止めた。
「えっ‥‥くま?」
「わぁーっ クマが二本足で歩いてるよ」
 真夏だというのに、まるごとクマさんを着込んだパラーリアは、人形劇の客集めにコミカルな動きで通行人の興味をひいた。
「これからここで、若葉屋さんの人形劇をやるんだよ♪ 観た人たちがと〜っても幸せになる劇なんだぁ♪ 最後まで観てくれた子にはこの飴をあげる、君もちま人形で幸せをゲットだよぉ♪」
 この日の為に、店員達は開店準備の終わった後も人形作りと練習で夜中まで残っていた。売り物の人形も揃えようと、蒼月惠は一言も喋らなかった。
 その甲斐あって若葉屋の店先には、ハギレで作られた小さな人形が並んでいる。
「変わった褌じゃのぅ」
「‥‥‥‥っ」
 人形を股間につける客を蒼月は睨み付ける。今日は三笠もルミリアも人形劇に出払っていて、残る店員は蒼月とジャンヌだけだ。
「平和を守るのが騎士の本分だよ!」
 ジャンヌは剣を抜かず褌狂い達と対峙し、挫けそうになる気持ちを魔法で鼓舞した。離れた場所で人形劇が始まっていた。

「今は昔、豊穣の女神稲穂姫の祈りにより繁栄していた国がありました‥‥」
 パラーリアの口上に続いて、ジュディスのお姫さまちまが登場する。出来は、素人にしてはなかなかだ。
 続いてサントスの日照り神ちまが登場。
「きゃー、まぶしーっ☆」
 ジュディスはライトを唱え、光球で日照り神ちまとサントスの禿頭を照らし出した。観客からドッと笑いが起こる。
「ところが、隣の国からきた日照り神は姫ばかりちやほやされるのをみて意地悪をしたくなり、純真な姫をだましてさらってしまいました‥‥」
 お姫さまを攫って逃げる日照り神。ここで場面が変わり、荒れた土地の絵が出る。
「土地は乾き、水は枯れ、人々は大変困りました。困った大王は、ちま隊に姫の救出を命じました」
 三笠が大王ちまとちま隊ちま壱を一人二役。ルミリアのちま隊弐も登場。ここで三笠が共演であがったのか、大王の命令でちま隊を動かす所を、大王ちま自身がお姫さま救出に駆け出していく。大王の後を、慌ててちま隊が追いかけた。
「ちま隊は、日照り神のピカッ攻撃に苦しみましたが、『若葉屋印の蜂蜜飴』を食べて勇気と元気が百倍っ♪」
 クライマックスの戦いは練習不足が響き、混沌とした有様だった。
「日照り神を懲らしめ、姫を取り戻し、こうして大地には実りの秋を迎えたのです」
 何とかおしまいまで漕ぎ付けた時には、お姫さまの代わりに大王さまが助け出されていた。
「めでたしめでたし」

 人形劇は好評だったそうだ。着ぐるみで頑張ったパラーリアが倒れたが三笠が担いで寺院に駆け込み、命に別状は無かった。戻ってきた仲間に、店番をしていた蒼月とジャンヌは作った人形は全て売れたと報告した。
「だけどこれ商売になるのかな?」
 ジャンヌが鹿角に聞く。以前、ちま人形依頼に参加した事があるというジャンヌは、利益面で懐疑的だった。人形は高級な嗜好品だ。高い金を出して、ハギレで素人が作った人形を買うのは冒険者だけでは無かろうか。
「それに若葉屋さんは乗り気じゃなかったみたいだしさ」
「うーん。難しいところだぜ? 今はこの店の再建は俺達に任されてるしな」
 人形屋を本職とするなら、今の半ば冒険者達がボランティアな体制では駄目だろう。一般人に売る事を考えると、色々と課題もあるのは事実だ。褌狂いの事も心配であり、問題は山積みと言えた。
「そういえば、やつは?」

 仲間達が若葉屋再開の最初の一歩を踏み出した頃、ヤングヴラド・ツェペシュは人を雇い、文吉捜索の予備調査を始めていた。
「城は築かれ、兵は隊列を組み方陣を成し、武具は磨かれておる。後は何が必要か? そうだそうなのだそうだとも、戦を統帥せる大将(店主)こそがパズルの最後のピースなのだ!」
 方々に向わせた調査員の報告が届く頃、次の依頼が起こる。