新若葉屋日記・弐 探し物は何処に

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月29日〜10月05日

リプレイ公開日:2006年10月07日

●オープニング

 神聖暦一千一年九月。ジャパン江戸。
 廃材で建てた裏長屋の片隅で、一人の子供が壁にもたれ掛って座っている。
 胸元に木の十字架を握り締めていた。
「主よ、感謝します」
 鎖国同然だった東方の島国に神の子の教えが届くようになったのはここ最近だ。江戸には幾つか小さな教会が出来た。
 度重なる災厄に、人々は救いを求めていた。


●新若葉屋日記・弐 探し物は何処に
 先日、一人の番頭の思いつきで、古着屋「若葉屋」の再生計画が始まった。
 担当者になった手代は、厄介ごとを押し付けられたとこぼしているが、決まったからには物事は勢いをつけて流れ始める。
 店舗の掃除と開店の手続きは意外にすんなりと片付き、さてこれからどうするかという段になった。
「昔の客が、押し寄せてくるそうですね」
 若葉屋は古褌屋という世界に類を見ない商いをしていたせいで、まにあっくでこあな客層が付いていた。閉店のキッカケになったのも、店主が客に拉致されるという事件だ。
「商いに乱暴はいけません。穏便に解決して貰いたいが、えー例えば説明会を開くとか」
 そんな簡単に解決するなら苦労は無いが。
 その他にも商品の問題や、店主不在の現状で店主代理を置くことなど決めなくてはいけない事は沢山ある。
「ああ、胃の腑が痛い‥‥」
 顔をしかめた手代は薬を探した。先日も岡引がこの件で釘を刺しに来たという事だ。
「そういえば、文吉さんの事ですが」
 薬を飲みながら手代は話題を変えた。
 冒険者達は金と人を使って、若葉屋文吉を探している。その報告があったらしい。

「相州で探したところ、文吉さんらしい人物を見かけたという証言がありましたがかなり前の話です」
 証言は時期的に、江戸を出て相模に行った頃と符号する。相模での仕入れは困難だったらしく、一月程で文吉は相州を出たらしい。相州を出る前に話した商人によれば、文吉は甲府から上州へ回り、それから奥州へ向うような事を言っていたらしい。
「上野?陸奥? ‥‥何故そうなる?」
「さて、何をしでかすか分からない人でしたからね」
 ともあれ範囲が広がったので、これ以上の探索には別の計画が必要だろう。


さて、どうしたものか‥‥

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea4233 蒼月 惠(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)

●サポート参加者

陽 小娘(eb2975

●リプレイ本文


「前にちょっとだけ言ったの覚えてる? 私は、正義の屋台の顛末を追いたいと思ってるの」
 パラの女騎士ジャンヌ・バルザック(eb3346)は別行動を取るつもりだ。
「それで、えーと。それをやろうとしてた‥‥鷹山さんだっけ? その人はいまどうしてるのかな、とかその辺から調べてみるつもり」
「ほぅ、鷹山殿でおじゃるか」
 若葉屋のヨントス・バジーナことパラ侍、暮空銅鑼衛門(ea1467)は聞き覚えのある名前に反応する。
「かの御仁は文吉殿の同郷とか。熱き心の持ち主とも‥‥居所が判明したら、麿も話をしてみたいでおじゃるな」
「任せて」
 とりあえず、ジャンヌは冒険者ギルドで鷹山正之の住所を聞いていた。そこに居ればいいが。
 居場所が分かれば教えるとヨントスに約束して、彼女は若葉屋を出た。その様子を見ていたウィザードのクロウ・ブラッキーノ(ea0176)が楽しげに呟く。
「鷹山サンは、賢明なヒトでしたよ。三界の火宅に救いは宗教しかないと気付きましたからネ。‥‥そろそろ、私の俺様崇拝教も表立った活動に本腰を入れる時期かもしれませんネ‥‥ウフ」
 邪悪そのものの笑みを浮かべたクロウは、誰に挨拶する訳でもなく姿を消した。
 余談だが、この前も今回も仕事らしい事は何もしないで、ふらりと出かけていくクロウの存在はジャンヌには不思議でしょうがない。
 その事を古参の店員に聞くと、蒼月惠(ea4233)はううーんと唸りつつ答えた。
「クロウさんにしか出来ない仕事があってですねぇ‥‥私は良く知らないんですけどぉ、とにかく大変らしいですよ」
「へぇ?」
 確証のある事では無いがクロウ・ブラッキーノは若葉屋の設立に大きく関わる人物らしい。若葉屋三奇人の一角と謳われ、彼無くして現在の若葉屋は無いとも。
「そこまで言っちゃうのは眉唾ですけどぉ。あ、でも、まにあの人達と交渉できるのはクロウさんと暮空さんくらいですね。ここだけの話、ルミリアさんなんかはもう何人かまにあの人達を埋めててですね‥‥勿論冗談ですけど」
 あの人達はこちら側にいるのが不思議なぐらいアッチの人だからと誰かが言っていた。
「ねぇ、今日はどうしてそんなに良く喋るの?」
 前回ジャンヌと一緒に店番していた時、惠は貝のように無口だった。
「あの時はきゃらを作っててぇ‥‥いや自分でも謎なんですけどそんな気分だったんですよ」
 惠はそう言うと喋りすぎたと思ったのか気恥ずかしそうにして店の奥に消える。
 ここは冒険者が作った店だから、とジャンヌは妙な所で納得した。


「文吉殿の捜索には我も協力しよう。文吉殿の行方を掴むのが何より大事‥‥海外まで行ってしまいかねん方だからな」
 ジャイアントの女騎士ルミリア・ザナックス(ea5298)はそう云って、文吉捜索資金をヨントスに預けた。それから、とルミリアは言葉を区切り、看板娘のジュディス・ティラナ(ea4475)の方を向く。
「これはジュディス殿とも話したのだが、店主代理のことだ」
 いつまでも責任者不在では立ち行かないと、ギルドの手代からも言われていた。ルミリアはヨントスを見据えて。
「暮空殿にお願いしようと思う」
 若葉屋関係者の総意とはいかないがここにクロウ、ルミリア、ジュディス、惠、それに暮空が居てギルドの手代が承認するのだから世間的にも問題は無かろう。
 ルミリアの話を聞いていたヨントスは言葉にならぬ呻きを発して立ち上がる。
「むむ〜ついに時が来た‥‥麿の真の姿を現すときがきたでござるな」
 ヨントスは覆面(越後屋手拭い)を剥ぎ取り、皆の前に進み出た。
「ご無礼をお許しいただきたいでござる。ミーは若葉屋のヨントス・バジーナ、かつては暮空銅鑼衛門とも呼ばれていた男でござる! この場を借りて、若葉屋文吉殿の遺志を継ぐ者として語りたいでござる」
 長いので中略。
「‥‥いま、誰もがこの江戸を美しい姿に戻そうとしているでござる!」
 長いのでやっぱり後略。
 演説が終わると、小さな影がヨントス改め暮空に体当たりした。ジュディス・ティラナである。
「パパぁぁぁ!!」
「ジュディちゃん!」
 離れていた義父と娘の感動の再会‥‥以下、略。
「――さて、行ってくるでござる」
 ジュディスを連れて、暮空は町奉行所・ギルド・それに近所や地回りの親分達の所に挨拶に出かける。鷹山の所にも行きたがっていたが、ついでの用件もあったので挨拶回りだけで数日はあっという間に過ぎた。
「もっと早く切り上げるつもりでござったが、ジュディちゃん済まないでござるな。難しい話ばかりで退屈でござろう」
「あら、そんなことないわっ☆」
 まるごと猫かぶりを着たパラの少女は手を大きく広げて笑う。
「いっぱい若葉屋の宣伝が出来たし、あたしは楽しかったわっ☆ 何よりパパが見つかったんだものっ☆」
 お姉ちゃんにも報告できたしとジュディスは笑う。彼女が姉と言ったのは華国のパラで、本当は母親だという話だ。このイスパニア出身の少女は世界各地に両親がいる。


「商売の事だが」
 ルミリアは黙々と人形を作る惠に話しかける。傍らに置かれた出来上がりの人形を見ながらルミリアは話した。
「我も闘技場で1位になった時に、このちま人形の宣伝をしたりはしているものの‥‥商売としてはな」
 苦笑しつつ、女騎士は人形商売は趣味の範囲を超えるものではないと言った。前回、ジャンヌもその事を指摘していた。本職の人形師を雇いでもすれば話は別だが、正直そこまでする気は無い。
「一応、無理のない範囲で人形作りは続けて、変態以外には売りたいと思う。恋愛のお守りや健康を願う品として見るのも良いかもしれぬ」
 問題はそれとは別の、若葉屋の生計を何で立てるかだった。
「我は香道家もやっている故、香木などを仕入れて売るとか、それとも西洋の酒を‥‥」
 商売気のある方ではないルミリアはそこで言葉が止る。そして、じっと惠を見た。
「ふえぇ〜。私はどうも、案が浮かべましぇ〜ん」
 作業していた机に突っ伏して轟沈する惠。手先が器用で人形作りは楽々こなし、店員としてもそつのない娘だが商才はルミリアとどっこいだ。騎士は溜息をつき。
「これはむしろ用心棒の商売でも始める方が楽かもしれぬな‥‥」
 腕っ節なら売るほど持っている。
「弱った。実は、あまりおカネを儲けたいとかいうワケではない‥‥、人形がそこそこ売れて何か人々の為になる事ができれば‥‥とは思うのだがな」
 そっと呟いた。

 後でルミリアは暮空とジュディスにも商売の事を聞いてみた。
「ふんどしを別の形にして売るのはどうかしらっ☆ てるてる坊主にしてパパの顔を書くとかねっ☆」
 天真爛漫な笑顔でジュディスが言う。
「ふむう、さすがジュディちゃんでござるな。ミーの顔を書いても笑いしか取れんでござるが、褌で別の物を作れば、まにあに受けるでござるよ」
「いや暮空殿、まにあはいいのだ‥‥間に合ってるしな」
 ルミリアはジュディスに礼を言うと、パラの少女は先に表に駆け出した。今日も挨拶回りに行く。
「留守を頼むでござる」
 相変らず、若葉屋復活を聞きつけて店を訪れる以前の顧客との確執は続いていた。警備担当のルミリアとしては頭の痛い所だ。
「心得ている。若葉屋を狙う輩は可能な限り、我が叩きのめす」
 噂だが、裏の空き地で夜中に土を掘り返すルミリアの姿を見たとか見ないとか。
「弾圧するだけでは怒りを増幅させてしまうでござるよ。彼らの欲求を充足させる手段も、彼らの気を逸らすために必要でござろう」
「と言われると?」
 一瞬、暮空は躊躇ったがその言葉を口にした。
「闇褌おーくしょんを」
「なんとっ‥」
 ルミリアは息を呑む。それこそ報告書に詳細が記載される事の無かった若葉屋の闇。封印した筈の過去そのもの。
「暮空殿っ、貴方は正気か? 文吉殿の事を忘れてしまったのですか」
「すべては闇の中の事でござる。それより若葉屋に褌狂いが押しかけたままでは、文吉殿をお迎えできないでござるよ」
 苦渋の表情を浮かべる暮空を、ルミリアは驚いたように凝視する。暮空は挨拶回り中にそれとなく闇おーくしょんの開催を匂わせていたが、当局や地回り達の反応は良く無い。
「暮空殿。我は、聞かなかった事に」
 ルミリアは背を向けて表に出た。入れ替わりに暮空を呼びに来たジュディスは、すれ違ったルミリアと暮空の険しい表情に首を傾げる。
「パパ、何かあったの?」
「何でも無いでござるよ。‥‥早く、文吉殿を探し出して、迎えに行きたいでござるな」
「そうね。まぁっ、文吉さんってばどこに行っちゃたのかしらっ?」
 陽魔法を使うジュディスは毎日おてんとさまに文吉の居所を尋ねていた。

 ‥‥サテ、イキマショウ。

「いくら邪魔だと言われても
 いくら罪だと言われても
 決してまにあが滅びる事は無い‥‥
 何故か?
 必要なモノが残り不要なモノは消える、
 これが世界の理だと言うのなら
 まさにアナタタチは必要とされている存在なのデス」
 路地裏の日陰で、暗闇の中で、鼻ほじりつつ闇のおーくしょにあは謳う。


「‥‥ここかなぁ」
 教えられた住所に行くと既に別の人間が住んでいた。
 それでも諦めず、根気良く足跡を追ったジャンヌは、鷹山正之の家を探しあてた。
 そこは寺院で、鷹山は小屋を一つ借りて住んでいた。
「ごめんください」
 現れた細君に用件を伝えると、鷹山は在宅しており会ってくれるという。
「はじめまして。私はノルマンの騎士、バルザック家のジャンヌと申します。よろしくお願いします。
 年明けごろ、ずいぶん人や冒険者を集めて、江戸に平和をもたらそうと活動をされていたって聞いています。それはとっても素晴らしい事だと思います!
 正義の屋台とかもやろうとしておられたみたいですけど、その後どうなりましたか?」
 一気にまくしたてるのを、鷹山は静かに聞いていた。
「裏表の無い御方のようだ。見ず知らずの私に、そのように話されるとは」
 鷹山は微笑む。彼の妻がジャンヌに茶を出した。
「江戸に平和は未だ至らず、むしろ悪化していると私は見ています」
 上州の戦は終わったかに見えるが、問題は先延ばしにされているだけで状況は悪い。最近水戸の荒廃が伝わるようになったが、江戸に詳細が知られぬままに一国が滅びかけていたという事実は重い。
「もうすぐ農閑期です。何れかが動くでしょうね」
「戦争ですか?」
「断言は禁物ですが、武士として覚悟はしておかねばなりません」
 所で正義の屋台組合‥‥冒険者の菊川が発案したこの世迷言は、鷹山によれば実行にうつされたらしい。理想には遥かに遠いが、実際に屋台を引いて夜廻りを始めた同志がいると言った。
「凄い! 実は最近、仲間と若葉屋というお店を再開する依頼を受けたのですけど、その近くで不審な人を見つけた、という話が何度もあったんです」
 ジャンヌは依頼の事を話し、鷹山の正義の活動の方でも警戒を強めて貰えないかと頼んだ。
「お断りします」
「‥え、なんで?」
「あなた方のような屈強な冒険者が付いているのだから、これはあなた達の手で解決すべき問題だ。人を頼るべきではない」
「そんなぁ」
「‥‥しかし、本来もっと有意な事に使うべき想いを浪費する輩は感心しませんね。江戸の危機が少しも分かっていない」
 可能なら連れて来るようにと鷹山は言った。どうするのかと聞くと、説教するのだと言う。
「ところで、店主さんの文吉さんをご存知ありませんか? 同郷と聞いたのですが」
「良く存じています」
 昨年の暮れ頃に文吉が鷹山の所を訪ねてきたらしい。文吉が相州に行ったという話も知っていた。話が早いとジャンヌは文吉捜索の事を話した。
「相州から奥州にご商売に行って行方知れずになってしまったってお話ですが‥」
「無茶な事を」
 鷹山は全国を旅した事があり、奥州にも知人が居るので、手紙で文吉の事を尋ねてくれると言った。
「有り難うございます!」
 鷹山の家を出たジャンヌが若葉屋に戻ると、仲間達は地図を広げて話し合っていた。

「甲斐から陸奥へ向かおうとしたらぁ、必ず通じなければならないのは、やはり、こことここ、上野と岩代の2ヵ国ですっ!」
 惠が地図に描かれた国名をビシッと指差す。
 文吉捜索に、彼女らは手をこまねいていた訳ではない。
 暮空、惠、ジュディス、ルミリアの4人は身銭を切って情報収集に資金を投入していた。
「おてんとさまのおぼしめしーっ☆ 文吉さんは北のかなり遠くにいるわっ☆」
 サンワードの結果をジュディスが報告する。この場合の北は北東や北西も含まれる、要するに地図上で江戸の上側全部である。
「よし。調査員を送るでござる」
 捜索範囲が広いが、百両以上を使って文吉を探す。
 次の依頼は、調査員の報告が届く頃か。


つづく