新妖怪荘・壱 消えた

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2006年09月11日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。


●あれから
 妖怪荘の立ち退き騒動から、半年以上が過ぎた。
 冒険者達の活躍で妖怪荘は取り壊しを免れ、一人の少年に相続される。
 その、高辻長行という名を貰った少年が、京都の冒険者ギルドをおとずれた。
「こちらは冒険者ギルドでござりましょうか?」
「ええ、そうですよ。‥‥どのようなご用向きでしょう」
 たまたま対応したのは以前の依頼を担当した手代だったが、目の前の少年が話に聞いた水干少年とは気がつかない。だから名前を言った少年の顔を、ついまじまじと見てしまった。
「先だっては大変お世話になりました。貴方様にもお礼を申しあげたいと思っていました」
 子供ながら長行は丁寧に頭を下げたが、手代の方は狼狽した。
「そ、そうですか。えーっと、その話は奥で聞きましょう‥‥」
 先の依頼は役所の手伝いで妖怪荘を内偵するものだった。
 だが、どこをどう間違えたのか騒ぎに騒ぎを重ねる事になり、最後は役所を騙す事までしてしまった。この手代にとっては、思い出したくない依頼として五本の指に入る。

 場所を奥の一室に移し、丁稚に他の人が入らないように言い含めた。ようやく人心地がついた手代は、少年に向き直り、長行に妖怪荘の事を聞いた。
「それでは、今は長行殿が妖怪荘を管理しているのですか?」
 手代は今の妖怪荘のことはよく知らなかった。
 先の依頼では冒険者達は表向きは名乗らなかったが色々とマズイ事もやってしまったので、事件の後は近寄らないよう、触れないようにしていたのだ。元々が閉鎖的な場所でもあり、あまり噂も聞かなかったが、この少年がわざわざ来たという事は、何かあったのだろう。
「我に出来ることではありませぬ。助けて貰っています」
 少年の言葉に手代は頷く。少年は没落した高辻家を相続したが、特に何の力がある訳でもない。
 いわば、ていよく妖怪荘という厄介物を子供に背負わせてしまったのだ。少年の話によれば、妖怪荘の中に少年について働いている者が居るらしい。
「親切な方がいるものですねぇ。いや、没落した高辻家の郎党となっても、得る物はないでしょうに」
 手代は感心したように言ったが、そういう事もあるだろうとは思っていた。なかなか大変そうではあるが、どうやら用件はその事では無いらしい。
「それでは依頼の方は?」
「失せ物を探して欲しいのです」

 昨年のことだ。
 妖怪荘の中に鬼の砦があった。冒険者達が討伐に乗り出すと鬼は火を放ち、火事で妖怪荘の約半分が燃えた。妖怪荘を相続した高辻長行の初仕事は、焼け跡の再生だった。
 さすがに役所も少年一人に重荷を負わせるのを不憫に思ってか幾許かの援助もあり、それに住民達の協力で廃墟を掘り起こすと、色々な物が出てきた。
 妖怪、盗賊の巣と言われた場所である。金品や名状し難い不可解な品物が、瓦礫の下や地中から発見されたらしい。
 それらは一応は妖怪荘の持主である長行の物になる。一部は役所に収めて、残りは後で妖怪荘の為に使おうとひとまとめにして保管していた。それが先日、消えてしまったらしい。
「なるほど、盗まれたんですな」
 無理も無い。隣人は盗賊か妖怪かという場所なのだ。
 これが並の場所なら役人に頼む筋だが、役人も踏み込んで来れない妖怪荘。
 探すも、取り返すも己の力が頼りである。
 この件について、高辻家のにわか郎党達は怒り心頭で、草の根を分けても犯人を見つけ出すと息巻いているが、そんな事になれば住人同士の関係悪化は避けられない。
 悩んだ末に、少年は専門家に頼む事にした。

「‥‥なるほど、分かりました。この依頼お預かりしましょう」
 手代は、意外に真っ当な仕事の依頼だった事に驚きつつ、長行の依頼を受けた。一抹の不安はあったが、前と同じになるとは限らないと自分を慰める。


さて、どうなるか?

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3320 東雲 埜代(35歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

片桐 弥助(eb1516)/ 拍手 阿邪流(eb1798)/ 物部 兼護(eb2038)/ 緋宇美 桜(eb3064)/ レジー・エスペランサ(eb3556

●リプレイ本文

 長屋の屋根を眺めて妖怪荘を一周した占星術師の東雲埜代(eb3320)は唸った。
「‥‥むむ?」
 首をかしげる青年は前方に、大きな人影を見つけた。
 古びた皮鎧を着込んだ褐色の肌の巨人に見覚えがある。確かビザンチン出身の凄腕の女騎士。
「その様子では、貴方もか」
 ミラ・ダイモス(eb2064)は、青年と長屋の壁を交互に見る。
「一体、どうなっているのだここは?」
 たまりかねて東雲が彼女に問うた。
 四方がぐるりと長屋の壁が囲まれていて小路も扉も無い。つまり、出入口が無いのだ。
「隠し扉があると聞きました。知っていれば探せると思ったのですが‥‥大したものだ。まるで、お城ですね」
 中は幾つかの区画に分かれていると言うが、それも城の郭を連想させた。盗賊や鬼が立て篭もっていたというから、当らずとも遠からずであろう。
「ふーん、都の中に妖怪の城か。面白そうじゃないか、けっこう好きな感じだ」
 東雲は興味をひかれた様子だ。仲間が来るとミラが言うので四半時も待つと、能楽師の神楽龍影(ea4236)と大食い屋の太丹(eb0334)が連れ立って現れた。
「入口? それなら、こちらの太殿がご存知であられる」
 鬼面をかぶった神楽が、二人に妖怪荘住人の太を紹介する。
「オス! 自分は『フトシたん』こと太丹(たいたん)っす。よろしくっす」
 太は二人に笑顔を向ける。身長は八尺を超え、同族のミラより頭一つは大きい巨漢。
「少しここで待つっす」
 太が壁際で何やら操作すると、壁の一部が音も無く外れた。屈んで中に消えた太は呆気に取られている仲間達を手招きする。
「出入口は沢山あるらしいっす。自分も全部は知らないっす。さあ中を案内するっすよ」
「まだ全員集っていないようだが?」
 前を歩く太を東雲が止めた。確か依頼仲間は10人。
「私達以外は殆ど妖怪荘を知る人達故、心配無用でしょう」
 答えたのは神楽。今回の仕事内容を考えても、全員が一緒でない方が良いと言われて、東雲は頷いた。

 内部は混沌としていた。
 棟割長屋がひしめきあい、勝手な増改築で二階三階まであったり屋上を板で繋げて空中に道が作られたりと節操が無い。
 街の広さは一辺四十丈(約120メートル)だが、内側の壁で四つに区切られており、冒険者達が入った南東の通称“壱の門”以外に三つの区画がある。北東部が弐の門、北西が三の門、南西が四の門だ。
 昨年まで弐の門は死人の巣窟、三の門は鬼の砦だったが、悉く冒険者達が撃滅した。
「大活躍じゃないか」
 東雲は素直な感想を漏らすが、太は首を振った。
「この中じゃ、冒険者と名乗らない方が良いっす。前も、そうだったす」
 何故と聞くと、巨漢は頭をかいた。
「オヤビンが居れば、自分より上手く説明できるっす」
 喋るとボロが出ると思ったのか、太は先を急いだ。まずは壱の門の水干少年、高辻長行の屋敷を訪れるつもりだ。少年は彼らの依頼人で、妖怪荘の名目上の管理者でもあるから色々と教えてくれるだろう。
「屋敷と言っても長屋っす」
 九尺二間の長屋は、冒険者の住まいよりみすぼらしい。
 表から声をかけると、中から見知った顔が現れた。
「うぬらか。‥どうした? そんな所で間抜け面を曝していないで中へ入ったらどうだ?」

 少年の部屋は、外観よりはずっと立派だった。俄か郎党達がまめまめしく通ってきて調度品を置いたり、掃除しているらしい。
「‥‥ふん」
 むっつりした顔でウィルマ・ハートマン(ea8545)は部屋を見回す。女騎士は暫く憮然とした顔を少年に向けていたが、おもむろに近づくと、無造作に腕を掴んだ。
「‥‥ちと、顔を貸せ」
 言われて少年は立ち上がりかけたが、いきなり両手で顔を鷲掴みにされた。
「あ、何をなさる」
「だから顔を貸せと言った」
 ウィルマは少年の両頬を思い切り摘み、引き伸ばしたり揺さ振るので少年は堪らず声をあげる。ウィルマは手を離すと、一瞬前の乱暴狼藉を忘れた風に首を捻る。
「やはり、触る分には何も分からんな」
 非難を向ける少年に、つまらなそうに話した。
「暫く前、人に化ける兎を見た。少々怪しい噂なら此処にもあるな。お前も、郎党も、お前の追う鬼も、此度の賊も、或いは全て似た類のものではなかろうかと思ってな」
「皆を物の怪とおっしゃるのか。冗談も程々になさりませ」
「縁があればこそ確かめたが、安心しろ。特に皮を剥いでまで調べようとは思わんよ」
 この時、太達が表から声をかけた。現れたウィルマを見て、仲間達は不思議そうな顔をした。
「どうぞお上がり下さい」
 何事も無かったように仲間達を家に入れる少年に、相変らず子供らしさが無いなとウィルマは思った。


「何でもお宝を買い上げたいという商人が来ているらしいですよ」
 水干少年の家を出た後、太に案内されて神楽は妖怪荘見学を続けた。住人達にも挨拶がてら、最近の話題に触れる。
「間抜けなお大尽もいたもんだ。今更来たって、宝はもう盗まれたよ」
「まあ、そうだったのですか‥‥ところで、此方に住める家ってありませんの?」
 収穫は無かったが家探しまで付き合ってくれた太に、神楽は何度もお礼を言った。
「お安いご用っす」
「良い町に御座いますね。何も問われずに済んで‥まことに‥」
 普段から鬼面で顔を隠す神楽はよく好奇の目に曝される。それが此処では全く相手にされなかった。無い筈の入口を通って妖怪荘に来る者は皆ワケ有りだから、詮索しないのが唯一と言って良いこの街のルールなのだ。
「日の浅い私が申すのは恥ずかしゅうございますが、力になれれば‥‥」
 盗賊も妖怪も人殺しも、という考えを全肯定するのは武士である神楽には難しい。ただ必要とする人がいる事は分かる気がした。なればこそ今回の盗難騒ぎを由々しき事態と感じる。

 一方、神楽が噂していた間抜けな旅商人こと天城烈閃(ea0629)は、不逞女浪士の天螺月律吏(ea0085)、水没地蔵の楠木麻(ea8087)と一緒に妖怪荘に入った。不案内な天城と天螺月を、楠木が先導する。
「知り合いが困っているのを見て見ぬ振りは出来ません! さあ我が精鋭達よ、必ずや犯人を突き止めて僕に報告して下さい」
 大威張りで二人を送り出した楠木は、果報は寝て待てとばかりに住処でごろりと横になった。
「見て見ぬふりは出来ないんじゃなかったか?」
「ええ勿論! だから最終決戦に備えて僕は力を温存します! 捜査は任せました!」
 同じ志士として、楠木の考え方に天城は思う所があったが沈黙した。天城は準備した荷を担ぎ、黒皮のマスクをかぶった。
「商人って言うより、まるで盗人だ」
 呆れ半分、感心半分で律吏は感想を漏らす。商いは信用第一というが覆面で素性を隠してはどうにもなるまい。
「仕方ない。俺はここの住人から見れば、敵方の人間なんだから」
「おい私はどうなる。平隊士ったって、一応新撰組の一番隊だぞ?」
 律吏は不逞浪士風に最低限の変装はしていたが、バレない保証は無い。
「お前は豪胆だよ」
 律吏は笑い、そこで別れた。さすがに、飛びぬけて高名な二人がいつまでも同じ場所にいるのは拙いと思ったのだろう。

「保存食や酒の他、珍しい工芸品なんかもありますが、いかがですかね?」
「酒を一つくれ」
 鬼面と同じく、黒皮マスクの怪しい旅商人も住人は然程気にならないようだ。
「そうそう、ここには珍しい品をお持ちの方も多いと聞いてます。お金だけじゃなく、そういう物との交換や引取りもしますよ」
 流した噂の効果もあり、天城が故買屋だと住人達が認識するのに時間はかからなかった。それも、どうやら目当ては高辻長行が盗まれた宝物。無論、火種となる事は覚悟の上だ。天螺月を豪胆と言ったが、烈閃も太い男である。

「左之介さんは、また余計なことに首を突っ込んでいなさるようだ」
 渡世人の堀田左之介(ea5973)が薬売りの右之助を訪ねると、薬売りは既に話を聞いている素振りだった。
「なんでぇ、話が早ぇな」
「さっき物部さんをお見かけしたから、少し聞きました」
 堀田は得心いった様子で薬売りの前に座る。
「こいつばかりは俺の性分だぜ。悪ぃが、ちっと手‥‥いや頭を貸して貰いてぇ。どうだい右之さんの見立てでは玄人仕事と思うかい?」
 勢い込んで尋ねる渡世人に、右之助はまず堀田が知っている話から聞いた。妖怪荘の中は詮索無用の不文律から聞込みがしにくい。情報交換が重要だった。
「盗まれたお宝の目録をよ、貰ったんだよ」
 堀田は高辻長行から聞いた話を筆記した宝物の目録を見せた。
 壷が4つ、仏像3、古刀2、槍1、毛皮1、古書5、指輪8、勾玉5、衣7‥‥まだまだ続く。相当な量で、大雑把に言って荷車二台分という。それに古銭の類がおよそ百両ほど。物品の方は鑑定していないので値打ち物かは分からない。
「あの子の家にそんな大荷物があったとは初耳ですね」
「いや、それがな」
 長屋に置く場所が無いので、三の門で焼け残った小屋に保管していたらしい。
「それだけの物が煙のように消えた訳じゃないでしょう。知恵がいる話でもなさそうだ、調べれば下手人はすぐ見つかりますよ」
 大仕事なら痕跡はなかなか隠せない。ある意味住人全員が容疑者なのは大変だが、地道に捜査すれば確実に成果はあがると思えた。
「それなんだが、俺は間違えちまったかね?」
 堀田は気まずそうだ。少年にも、詫びてきた所だった。
「良かれと思ってやった事だったが悪い事しちまったか? 妖怪荘ってなぁ悪人の巣窟じゃあねぇ、ワケ有りもんの巣窟だと思ったんで残す方法考えたんだけどな。ここんとこ、大きな違いだと思うぜ?」
「こなた様のそのお気持ちで、此処で皆が暮らせておりまする。我には悪く言う理由がありませぬ」
 少年はそう言ったが、渡世人は根が真面目な質だ。薬売りは微笑した。
「余計な事をしていなさるとは思いますがね。答えが出るまで、止めるつもりも無いのでしょう?」
「‥‥ほっとけねぇな」

 壱の門に、ヌシと呼ばれる人物が居る。鉄鼠と呼ばれる偏屈な男で、なりは一応人間だ。
 その小さな祠を訪れたのは、志士の物部義護(ea1966)。
「赤泥殿、久しぶりだな。お元気そうで何よりだ」
 土産の酒を前に置くと赤泥はわずかに目線を動かしたが、祠の中で座したまま動かない。
「虎長公の死や五条の反乱で何かと騒がしい御時世だが、ここもだいぶ変わったようだな」
 不機嫌なヌシにも構わず、物部は勝手に世間話を始める。壱の門は火事の前より活気があるくらいで、新しい冒険者達は空家探しに苦労をしそうだ。代わりに、弐の門や三の門を開発する動きがあるらしい。太丹もフトシ御殿を建てようと三の門へ行ったと聞いた。
「京都は相変らずだが、新しい京都守護職様が決まらないらしいな。前々任者が暗殺され、前任者が謀叛を起したとあっては無理も無いが‥‥」
 物部は山城の豪族として、また志士として京都守護職には多分に関心がある。神皇家を守る志士はすなわち都の護り手。それに虎長亡き後、志士を束ねる頭領が居ない事情も影響していた。
「‥‥物部とは、古い名だ」
 赤泥は唐突に話と関係ない事を言った。
「む、大昔の氏族だ。もっとも、俺の家はそんなに古くは無いが‥‥歴史に興味があるか?」
 前にも似たような事を言われた気がしたが、気のせいだったか。
「旧きものは衰え、皆忘れるが世の定めだ。別の意味を与えられるものもある。諸行無常という」
 赤泥の言うに任せて物部は適当に相槌を打つ。
「大陸より仏教が入ってきた折、それまでの信仰は旧きものとされた。旧きものと新しきものは争うが定めじゃ。お前は旧いものか、新しきものか?」
 物部は答えに躊躇した。彼は強引に言えば旧くて新しい武士だ。物部が去った後、仲間から赤泥の祠を聞いたミラがやってきた。ヌシに、妖怪荘に出入りする商人を聞くためだ。
「何故聞く?」
 赤泥はミラを睨みつけた。
「見ての通りの旅人、こちらで宝物が消えたと聞きましたので、どうなったのか興味がありまして」
「俺が世話好きにでも見えるか」
 窮屈な祠に身を潜めた姿は、煩わしさを嫌う変人に見える。祠から戻ったミラが少年に聞いてみると、妖怪荘に良く出入りする商人は居ないという。住人の中に商人がいたとしても、ワケアリの多い妖怪荘で好んで仕事はしない。
「という事は、盗品の取引は外か?」
 その方が安全だろう。何か事情があれば別だが。
 
「ふんふん、まず土を盛って土台を固めるっす」
 太は三の門の廃墟で土を掘っていた。
 空家が無いなら作れば良いと、フトシ御殿計画を発動したのだ。その近くでは、噂に聞くにわか郎党達が長屋住まいの長行の為に屋敷を建てている。他にも新しく長屋を建てようとする者などが居て、三の門付近は復興ラッシュに湧いていた。
「えっほっほ」
 知った声に太が振り向くと、襤褸の衣を纏った律吏が木材を担いでいた。声をかけようとして、高辻の郎党が近づくのに気付いた太は慌てて口を閉じた。そういえば、高辻の長屋で律吏が郎党達に潜り込んだと聞いていた。
「おい新入り。お前、こっちの方はどうなんだ?」
 先輩の郎党は腰の刀をぽんと叩いた。
「へへ、そう言われてもなぁ‥‥恥ずかしながら、刀は売ってしまった」
 律吏のだらしない愛想笑いに、先輩は嘆息する。
「卑しくも貴公、武士であろう。高辻家の係累を望むなら、刀ぐらいは何とか致さねば」
 三十台と思えるこの浪人は、律吏を心配しているようだ。郎党中には彼のように一家再興にのろうとする者も存在した。尤も、律吏の見る所では大半が胡乱な輩だ。
「何かあったのか」
「うむ。宝を買いたいという故買屋が入り込んでな。宝盗人の一味かもしれぬから、仲間と話して捕えに行くところだ。お前も共に来るか?」
「‥うぐ、突然持病の癪がっ」
 途端に腹を押さえた律吏に浪人は首を振る。郎党が立ち去ったのを見届けた彼女は筆を取り出し、急いで手紙を書いた。それをペットの犬に持たせて放つ。

「怪しい商人め。詮議がある故、大人しく同道致せ」
「何の事です? 私めにはさっぱり‥‥」
 天城を囲んだ郎党は5、6人。背中の弓を掴むと、一人が切り込んできた。
「弓を使う商人がおるか! さてはうぬ、盗人の仲間だな!」
「それは心得違い。商人とて護身の術は持ちまするぞ」
 とは言え状況的に説得は難しい。天城は刃を躱して横に跳ぶと、神速の動きで同時に三本の矢を放った。
「あ、手強いぞ」
 郎党達が一瞬怯んだ隙に天城は駆け出す。そこに律吏の犬の報せを受けた長屋の仲間達が現れた。
「必殺のグラビティーキャノン!」
 出番を待っていた楠木が誰何もなく、魔法をぶちかます。天城を追っていた郎党達が派手に吹き飛んだ。
「むむ、外したか? いや罪を憎んで人を憎まず‥‥達者に暮らせ」
「ボケぇぇ!! 貴様のおかげで賊は逃げたわ!」
 怒る郎党ととぼける冒険者達。
 その場は長行のとりなしで収まったが。

 波乱を含んで、次回へ続く。