新妖怪荘・弐 疑った

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2006年10月14日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。


●それから
 訳有りに盗人にあやかしがひしめき合う妖怪荘。
 その新たな管理者にされた少年がいる。
 名を高辻長行、妖怪荘の地主で断絶した高辻家の末裔という事になっている。俄か郎党が出来たり、管理していた盗賊の宝物が盗まれたりと大変らしい。
 おかげで冒険者ギルドにも話が持ち込まれるのだが。

 何かと京都がきな臭い昨今だが、混沌とした妖怪荘にも騒動が持ち上がっていた。
 高辻家の郎党達と、旧来の住民達が揉めている。
「この街は歴とした高辻家の領地であるに、無断で入り込んだ不逞の輩どもが好き放題ではないか」
「のみならず、高辻家の宝物を盗み出すとは何たる事か。許しがたき忘恩の徒よ」
 郎党の中に赤間兵衛という中年の浪人が居て、この男がタカ派の急先鋒だった。赤間は住人同士の諍いをよく思わない長行に、妖怪荘の風紀を正すべきだと何度も進言していた。
「若様、拙者も争いを好んで申しておるのではございませぬ。街を守り、住民を守り、お家を守る為でござる」
「緩みきった箍を戻すには荒療治も仕方無きこと」
 赤間は住民達への見せしめに盗人を何人か処罰する考えを持ち、長行にしきりと決断を迫っていた。このままでは衝突は避けられないと感じた高辻長行は京都ギルドの冒険者達に協力を依頼する。
「難しい話だな」
「その偉そうな郎党達をボコボコにするのは訳無いが‥‥それじゃ意味が無いよな」
「何とか説得して、住民同士を仲良くさせることが出来ればいいんだけどね」
 道理を説くだけで解決する問題なら最初から冒険者には頼らない。高辻家再興を願う郎党達の考えも分からなくは無いが、住民の意識とは相反するものがある。
「宝盗人探しもまだだしな」
「俺の部屋もまだだ」
「それは依頼とは関係ないが‥‥」


さて、どうするか?

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb3526 アルフレッド・ラグナーソン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5304 黒淵 緑丸(34歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

黒畑 緑太郎(eb1822)/ ディオヘルト・ヴォルガ(eb5611

●リプレイ本文

「近頃は思う存分暴れられる仕事も減りました‥‥それが良い事と素直に言えないのが残念です」
 ジャパン人ながら金髪碧眼の女志士、楠木麻(ea8087)は初めて此処に来た冒険者達を引率した。
 新たに妖怪荘を訪れたのは、河童の泥棒黒淵緑丸(eb5304)、巨人陰陽師宿奈芳純(eb5475)、それにエルフの僧侶アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)の三人。
「あなたが来てくださって、おかげで助かりました」
 アルフレッドが楠木に礼を言う。入口が隠された妖怪荘は住人の先導無くては入るのも難しい。
「冒険者は相身互いですよ」
 麻は笑みを返した。歴戦の勇士だが、少女のように幼く見える。
 妖怪荘の側では大喰い屋のジャイアント、太丹(eb0334)が彼らを待っていた。側に荷車が置かれている。
「自分は『フトシたん』こと太丹(たいたん)っす。よろしくっす」
 挨拶を済ませると、陽気なジャイアントは鼻歌を歌いながらテキパキした動作で駿馬二頭を荷車から外し、車に積んでいた自分の荷物を馬に移し変える。
「皆さんには、これを運ぶのを手伝って貰いたいのですよ」
 麻が言う。荷台に残ったのはほぼ等身大の石像だ。
 スモールストーンゴーレム。それを只の石像として麻は中に入れる気だった。動かぬゴーレムの上げ下ろしは骨が折れた。やっと終わった頃には麻も太も三人もクタクタ。
「ふぅ〜‥‥押し潰されるかと思ったよ。これゴーレムって奴だよね、どうして動かないの?」
 思わぬ重労働で汗だくの河童の緑丸が石像を見上げて首を捻る。
「それはまだ秘密です。君達も、この事は他言無用だよ」
 指を口にあてて念を押す麻に、緑丸は頷いた。何だか分からないが秘密の企みがあるらしい。面白そうだと刹那主義の河童は微笑し、嘴をこする。
「では、ここからは別行動になりましょうか?」
 と言ったのは小面を付けた巨人陰陽師、芳純。石像輸送はかなりきつかった筈だが、面を取らない。烏帽子兜に華国風の衣装を纏い、一見して得体の知れない雰囲気を出している。
「我らが固まって動けば、この擬装も水の泡になりましょう」
 芳純の言う通りだろう。既に潜伏済みの冒険者達がこの場に現れないのもその為だ。
「僕は盗賊退治に」
「へへ、俺は盗賊探しの方だから、あんたに付いてくよ」
 麻を見ながら緑丸が言う。緑丸は忍装束に身を包んだ外見通りの河童忍者だ。
「私は高辻家の皆さんと話してみるつもりです」
 アルフレッドはクレリックとして妖怪荘の争いを止めに来た。強硬論を唱える郎党達を説得するつもりであるらしい。
「アルフレッド殿は、私めと同じ考えのようでございますな。‥‥なれば私は、盗人扱いを受けた住民達より話を聞く事と致しましょう。皆様、くれぐれも依頼の儀が露見せぬようご用心を」
 芳純の言葉に仲間達は頷いた。
 ワケアリ揃いの妖怪荘で正体を明かせば都合が悪い。
 勿論、完全に隠せているかと言えば否だ。
 例えばこの楠木麻。成人しているが幼く見られる為、坊主と浪人夫婦の娘という偽家族を演じている。だが目立つ外見に高い名声、その上何度も精霊魔法をぶちかましているから、知らずとも察しはつきそうなものである。
 今のこの町と冒険者の関係は微妙なバランスの上に成り立っていると言えた。

「こちらは高辻長行様のお住まいでしょうか?」
 アルフレッドに声をかけられて、軒先を掃除していた赤髪の女浪人は顔をあげた。
「ふーん、それを聞くお前様は何者だあね?」
 女浪人は箒を動かす手を止めて、間延びした口調で聞く。アルフレッドが丁寧に用件を話すと、女はニヤニヤと笑い、持っていた箒をアルフレッドに押し付けた。
「門前を綺麗にするのは新参者の役目なのだ。代わりにやっておけ」
 身軽になった女は同僚を呼びに行く。だらしない態度のこの女が、その正体が歴史に名を刻む英雄と謳われるほどの武芸者、天螺月律吏(ea0085)だと誰が信じるだろうか。
「おい掃除はどうした?」
 裏で洗濯していた浪人者は、律吏に顔をしかめた。
「サボりではないぞ。表でな、異国の坊さんが来ているがどうしたものか。兵衛殿にお伝えすべきかな?」
 律吏はこの郎党とは顔見知りである。新参者として色々と教えて貰っている。
「兵衛殿は留守だ。ん‥‥待て、その僧侶は長行様の客では無いのか?」
「それが我らとも話がしたいと申されてな。熱心な事だよ‥‥所で、兵衛殿はよく外出されているな」
「仕方なかろう。長行様はお若い、代わりに高辻家再興に奔走されておるのだ。貴公こそ、よく姿が見えぬではないか」
 郎党に批難の目を向けられ、律吏は頭をかいた。
「面目ないなぁ。刀を買い戻す為に外で日雇いの仕事をしてたんだ」
「‥‥それで刀は?」
「いやあ面目ない」
 曖昧な笑みを浮かべる後輩に、郎党は顔をしかめた。
「緊張感の無い奴だ。まだ聞いてないのか、先日の賊が舞い戻ったらしい」
 親切な郎党の話に律吏は、内心肝を冷やした。

「まあ、簡単には素顔を見せられない立場だからな。いっそ開き直ってみた」
 天城烈閃(ea0629)こと故買屋「魔守華麗奴羽隠具(マスカレードウィング)」は、妖怪荘に再来した。先日訪れた時に宝盗人と疑われたというのに豪胆な男だ。
 だが郎党達は、彼ほど気が太くない。
「貴様はあの時の賊ぅ?!」
 郎党達は烈閃を捕える。これ以上話をややこしくしたくない烈閃は大人しく従った。
 宝盗人が捕まったとの報せに、冒険者達は動揺した。
「天城の正体が、もし連中に知られたら事だぞ」
「奴も一流の冒険者なら、万に一つも依頼人の事をうたう事は無いと思うが‥‥」
「喋らなくても状況証拠だけで十分やばいですよ」
 はてさて、どうなるやら。


 山城豪族の物部義護(ea1966)と侠客の堀田左之介(ea5973)が赤間兵衛と話したのは、覆面故買屋が捕まる少し前の事だ。
「鶏鳴狗盗という事もある。昨今の京都の時勢を思えば、ここで争い招くより、裏道に通じ一芸に長けた者達を側に置くのは御家の為になると存ずるが如何か?」
 義護は華国の故事を持ち出して、住民を締め出すような真似は止めるべきだと説いた。
「悠長な事を申すな。技だけなら何程の事もあらず、されど当家の宝を盗む輩を、置いておく道理が無いではないか」
 兵衛が言うと、脇で聞いていた左之介が膝を立てて口を開いた。
「さて、そこだ。実際に盗ったってえなら、お前さんの言う通りなんだが、住人が盗人だと断定したワケを聞かせてくんねぇか?」
「他におらぬ」
「そんな勢いだけで決め付けんな」
 入口の隠された妖怪荘には余所者は入ってこれない。仮に入っても参の門の小屋から大量の宝物を盗むのは無理。とすれば手馴れた住民の犯行、それも共謀による複数犯の線が濃い。無くも無いと堀田も思う。が、それを言えば郎党も容疑者に入るのだ。
「お前さん達の大事な「若様」をここまで育てたのは誰だか忘れてねぇか? 今のこの町が在るのは、妖怪荘なんてものを作ったのは? それを簡単に盗った盗らねえのと、滅多な事を言うもんじゃないぜ」
「住民にも言い分があると申すならば、我らとてそれを聞かぬでも無い」
「そうだよ。ちゃんと話してだ、双方協力して犯人を見つけようぜ」
 話し合いにより、義護達が住民の代表達を連れてくる事になった。
「代表といやあ、赤泥か‥‥?」
「他に居らぬが‥あの御仁と赤間殿を会わせるのか。ぞっとせぬ話だな」
 赤泥の事は物部に任せ、堀田は馴染みの住民を訪ねる事にした。薬売りの右之助の家に向う途中、堀田は占い師の格好をした芳純と出くわした。
「調子はどうだい」
「‥‥西より禍いが来ます」
 芳純とアルフレッドは郎党と住民の話を聞き、少しずつ和解の道を探していた。だが話すほどに、わだかまりは増すような気がした。旧来の住民達は妖怪荘を普通の町のように管理しようとする郎党達を嫌っていたし、郎党達は脛に傷持つ住民達を軽蔑している。その上に宝盗人の騒動である。もはや敵同士と言ってよい。
「まわりが敵だらけ、というのは気骨の折れることでございましょう。お疲れかと存じます」

 壱の門で緊張が高まる間も、三の門では建設ラッシュが続いていた。
「土台は完成したっす。次は穴掘って柱を建てるっす。柱は四の門から廃材でもあればいいかなっす。ついでに屋根瓦なんかあるっすかね? 瓦のある御殿を目指すっすよ!」
 太丹の工事も進んでいた。
 太御殿の誕生まで、あと何ヶ月。廃材を流用した屋敷である所は妖怪荘の他の建物と変わらないので、やや外見や強度に不安は残るが、着実に完成に近づいている。
「がんばるっすよ」
 仲間達の不安をよそに健康的な汗をかく太。その隣では、高辻屋敷に併設される蔵に麻と緑丸が新しい宝物を納めていた。
「家宝が無いと格好がつかないでしょう」
 楠木は長行少年に剣と茶碗とパンを贈った。またゴーレムを石像として蔵に入れて、滞在期間中はその研究に没頭する。盗賊を誘き寄せる算段だが、故買屋が捕まるニュースを聞いて仰天する。

 烈閃は一つの推理を考えていた。
「ある日、犯人は何らかの偶然で、宝の保管されていた小屋に秘密の空間があることを知ったのではないだろうか?
 妖怪荘は入り口自体が隠されているような場所だ。秘密の抜け道や地下室があったところで不思議はない。そして犯人は一時的に、その場所に宝を盗んで隠すことを思いついたのではないだろうか?
 問題はどう回収するかだが、この一帯は今、復興作業の最中だ。宝を隠した場所の近くに自分の家を建て、その中から宝の隠し場所に通じる道を作れば、誰にも見られることなく宝を自分の物にできる。長い時間を要する計画だが、努力に見合う報酬はある」
 彼は郎党達に話をして誤解を解こうとしたが、盗人猛々しいと聞く耳をもたれない。
「‥‥是非もない」
 土蔵の中で詰問され、覆面と装備を取られそうになり、烈閃は抵抗した。隠し持っていた縄ひょうを撃つ。
「おのれ!」
 郎党の剣が故買屋に向けられる。狭い室内で一度に来られてはさすがの志士も避けきれない。だが腰の定まらぬ一撃は烈閃の体に弾かれた。志士は万が一の用心に強力な守りの装備に身を固めている。
 刀や槍が弾く姿に、心を乱した郎党達の隙をついて烈閃は再び逃げた。
「こっちから逃げろ」
「済まない‥‥」
 郎党に紛れた律吏と仲間達はこっそりと彼の逃走を助けるが、段々盗人らしくなる志士の背中に溜息が漏れた。逃げる時の忍び足などは達人の域である。だが虚仮にされた形の郎党達はおさまらない。
「またしても逃げられたか。この町を狙う曲者‥‥恐ろしき使い手だったが、一体何者であろう」
「こうも度々現れる彼奴の目的。残る宝を狙っておるのでしょうか?」
「それは分からぬが、逃げる時の様子からして住民の誰かが仲間であるとしか考えられぬ。鼠を狩り出さねばなるまい」
 この騒動に、住民と郎党達の話し合いは沙汰止みとなった。

 波乱が争乱を呼び、もはや避けられぬ流血‥‥次回へ続く。