新妖怪荘・参 怒った

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月09日〜11月14日

リプレイ公開日:2006年11月25日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。


●それで
 訳有りに盗人にあやかしがひしめき合う妖怪荘。
 その新たな管理者にされた少年がいる。
 名を高辻長行、妖怪荘の地主で断絶した高辻家の末裔という事になっている。俄か郎党が出来たり、管理していた盗賊の宝物が盗まれたりと大変らしい。
 おかげで冒険者ギルドにも話が持ち込まれるのだが。

「近頃は信玄公が上洛されるとか、再び反乱が起こるかもしれぬとかで京都も騒がしくて。ま、それを商売の種にしている身ながら、やはり平和が一番ですからね」
 手代は再びギルドを訪れた長行少年にお茶を出し、世間話をしている。
「‥‥」
 長行は話にくそうに身動ぎした。手代も戸惑い、つい煙草に手が伸びる。
 彼が依頼した妖怪荘の宝盗人の事件は、芳しくない。犯人が捕まらないのはしょうがないとして、状況は悪化していた。
「魔守華麗奴羽隠具を捕まえて下さい」
「うう。高辻さん、それは難しゅうございますな」
 妖怪荘に現れた覆面故買屋『魔守華麗奴羽隠具(ますかれーどういんぐ)』。
 高辻の宝物の事を探る正体不明の不審人物で、これまで二度も郎党達に捕まりかけたが逃げられている。宝盗人の最有力候補だが、実は‥‥。
「はい、無理な願いでございます」
 覆面故買屋の正体が露見すれば、長行も困った事になるのだった。
 ただ騒動は当初より大きくなり、郎党達と旧住民の間には小さないざこざが絶えなくなっている。程なく人死に沙汰にまで発展するか、或いは役所が乗り込んでくるだろう。
「面倒な事になりましたな。いっそ、両方とも片付けてしまいましょうか」
 役人の目の届かぬ治外法権。凄腕の冒険者を集めて数を繰り出せば、問題も消し飛ぶ。
「手代殿」
「‥‥冗談です」
 ともあれ、このままには捨て置けない。
 手代は長行に頭を下げた。妖怪荘の住民同士の騒乱、冒険者達に解決させると。
「出来まするか?」
「勿論です」

 ギルドから長行が戻ると、タカ派の急先鋒である赤間兵衛が彼を待っていた。
「若様、今日こそ話を聞いて頂きますぞ」
「何の話でしょう?」
 兵衛は一人でなく、彼に賛同する郎党数人も一緒だった。
「不逞の輩どもの事です。彼奴らは高辻家より受けた恩顧を忘れ、我らを追い出す算段をしている様子。この上は若様のお許しを得て、我らお家を守る為、彼奴らと一戦交える覚悟にございます」
「戦は町の為になりますか?」
「勿論です」
「町の為なら、是非も無い」
 その言葉に一同は喜色を浮かべたが、少年は時間を必要とした。
「なれど、われに考えがある。暫し待て」
「「はっ」」
 長行は猶予が無い事を手代に伝えた。
 冒険者達が騒動を収められない時は、血の雨が降るだろう。

 手代は集めた冒険者達に事情を説明した。
「高辻家の郎党達は保管していた宝物を盗んだのをその故買屋と妖怪荘の旧住民と思い込んでいるようです。それに日頃から旧住民の事を盗賊紛いと軽蔑している様子。反対に旧住民は犯人扱いされて頭にきていますし、何かと堅苦しい事を言う郎党達を嫌っている様子。
 難しい状況ですが、何とか激突だけは阻止して下さい」
 手代は念の為と言って、今回は冒険者達が妖怪荘に武器を持ち込むのを禁じた。
「いいですね、話し合いで解決するんですよ」
 冒険者達は顔を見合わせる。皆、難しい顔をしていた。
 郎党と旧住民、両者の対立関係は明白で理由のある争いならば口先だけで直するものかと思ってしまう。
「首の上に乗ってるそれは飾りですか? どんな争いだって、最後は話し合いで解決するもの。何か方法があるはずです」


さて、どうするか?

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

御影 天禅(eb1707

●リプレイ本文

「ふっふっふ‥‥‥」
 長屋の路地の奥、突き当たりの壁を背にして青い外套を羽織った魔人は不敵に笑う。
 もっとも、その表情は怪しげな仮面に遮られて見えはしない。仮面の上に不気味な西洋風の角兜を被り、真っ白な髪を振り乱した怪人物こそは、妖怪荘を騒がせる故買屋魔守華麗奴羽隠具(ますかれーどうぃんぐ)。
「まったく、しつこい奴らだなぁ」
 姿勢を低くした魔守華麗奴は追手を一瞥した後、青い外套を翻して背中の壁に体当たりした。
「なにをっ?」
 魔守華麗奴を追っていた高辻家郎党の一人、女武芸者の天螺月律吏(ea0085)は声をあげた。
「あっ」
 壁の一部が回転し、魔守華麗奴の姿が中に消える。無理な増改築を繰り返した妖怪荘ならではの隠し戸。それを知るとは、噂通り魔人は住人と繋がりがあるのか。
「何をしている、追ええ!」
「ええい、この戸はどうやったら開くのだ」
 慌てる同僚達を尻目に、律吏は左右を見回した。屋根の上に、一瞬青い影が見えた。
「あ、あんなところにっ」
 律吏の指差す先に、屋根の上に魔守華麗奴が立っていた。
「ククク‥‥ハーッハッハッ!! また会おう諸君!」
 マントを翻し、高笑いを残して魔人は闇に消えた。呆然と立ち尽くす追手の中で、律吏の肩は小刻みに震えていた。


 またしても魔守華麗奴を取り逃がした翌日、妖怪荘にジャイアントの太丹(eb0334)がやってきた。このところ三の門にしょっちゅう出入りする青年はもう住人と言って差し支えない。
「ささ、どうぞっす」
 太は一人の女性を伴っていた。同じ巨人族のミラ・ダイモス(eb2064)は、以前に妖怪荘に来た時とは姿が一変していた。豪華な騎士のマントを纏い、耳には金製の羽根飾りのピアス。立派なウォーホースを連れて、どこから見てもナイトの出で立ちである。
「いやー、馬子にも衣装っすね」
 お定まりのボケをかます太に、ミラは穏やかに微笑みかけた。事実、女騎士としてみっちり教育を受けた彼女は必要なら幾らでも貴族として振舞う事が出来る。
 太の案内でミラは高辻長行の屋敷を訪れた。長行少年は少し前まで壱の門の長屋住まいだったが、郎党達の頑張りで三の門の高辻屋敷が半ばまで完成し、先日こちらに移っていた。
「むむ、負けられないっす」
 太御殿建設中の太は高辻屋敷の壁や床を熱心に触った。思ったより作りはしっかりしている。郎党から、大工を呼んでいると聞いて素人大工の太は感心した。
「なるほどー、それで柱が曲がっていないっすね。叩いても大丈夫っす」
 太御殿の完成がかなり心配だが、それは余談。
「故あって家名を名乗る事はできませんが、どうかお許し下さい」
 長行と面会したミラは、家宝を強奪した魔守華麗奴羽隠具を捕まえて欲しいと頼んだ。
「魔守華麗奴羽隠具は由緒正しい名家の武具を盗む盗賊なのです。わたくしは奪われた家宝の剣を取り戻す為に国を出て、方々の噂を辿り、ようやくこの土地でかの盗賊の名を耳にしました」
「異国渡りの怪盗?」
 思いがけず知らされた魔人の正体に、長行の側に控える赤間兵衛は声をあげた。
「それにしては彼奴め、異国訛りがなかったが‥‥」
「お願い致します。家宝の剣を取り戻すのに御力をお貸し下さい」
 ミラは盗賊捕縛に100G(両)の賞金を付けた。大金であり、彼女の話の信憑性を裏付ける。
「兵衛」
「はっ。若様、良き時に良き人が来られましたぞ。ますかれーど捕縛は我らにとっても大事、目的が同じならば力を合わせるのが良策と存じます」
 長行は頷き、魔守華麗奴羽隠具は百両の賞金首になった。思いの外上手く行ったミラは長行の前で平伏する兵衛をじっと見つめた。後はこの男次第か。

「御免」
 山城豪族で妖怪荘住人の物部義護(ea1966)が高辻屋敷を訪れたのはミラの話が終わったすぐ後だった。
「赤間殿は居られるか?」
「いなさるよ。少し待っておれ」
 郎党の律吏がニヤリと笑って下がり、暫くして義護は中に通された。赤間が出てくると、義護は挨拶もそこそこに切り出した。
「この妖怪荘は確かに高辻が領。なれば、此処に住まう者は領民も同じ。領民を弓矢にて追おうとは、貴公らは自分の主を民殺しの、天下の悪君に仕立て上げる気か」
 義護の用件を予想していた赤間はこの暴言に眉を上げただけだった。即座に怒らなかったのは、郎党でも無い義護が此れほど激するのに多少感動したのかもしれない。
「我らとて、領民の仕合わせを思うている。だが、今の高辻荘は‥‥貴公も申したが妖怪荘などと云われる有様だ。住民の暮らし向きは劣悪そのもの、これをどうして見過ごせよう。血を流そうとも改革が必要なのだ」
「そのためには合戦も辞さぬと? この京の街で戦など、後見を申し出た者として看過出来ぬぞ」
 思わず腰に手をやった義護は、丸腰である事に気づいた。今回は争闘無用と手代が冒険者に武器の携帯を禁じている。
「出来ぬならば、何とする?」
「口を出す。明日、住民側の代表を連れてくる故、長行殿にそうお伝え下され。ともかく一度話し合い。何事も、それからにござろう」
 赤間は義護の提案を受け入れた。退席した義護を見て律吏は首尾を聞こうと思ったが、彼の渋い顔を見て止めにした。
「物部殿が来られたのか?」
 顔見知りの郎党が律吏に聞いた。お腹を撫でていた彼女が頷くと郎党は難しい顔をした。
「あの御仁は長行様を利用するつもりなのかもしれぬ‥‥」
 郎党が言うには物部が妖怪荘に現れたのは昨年の事。壱の門のヌシである赤泥の手下という噂があり、妖怪荘の火事の現場にも居たらしい。長行の後見役を嘯いている。
「おー、すこぶる怪しい奴だな」
 律吏は楽しそうに云う。まだ腹の辺りを擦っている。見れば不自然にお腹が膨らんでいた。
「‥‥何か良い事でもあったか?」
「分かるかね。んふふ、外でこんなの売ってるヤツに出くわしたんだ」
 お腹に手を突っ込み、律吏は可愛らしい白ヤギの置物を取り出す。郎党は露骨に嫌な顔をした。
「良いだろう? 新しいお宝にならんかな」
「本気で云うておるのか?」
 胡乱な表情を浮かべる律吏に、郎党は溜息をつく。
「結構な、高かったんだぞ」
「‥‥それで刀は?」
 律吏の目がファンシーな白ヤギに向けられる。郎党はウンザリした顔をした。

「右之さんは、どう思うね」
 義護が長屋に戻ると薬売りの右之助を訪ねて侠客の堀田左之介(ea5973)がやってきていた。左之介が何かと薬売りを頼りにするのは物部も知るところだ。
「左之さんが見た通りでしょう」
「それじゃ分からねぇから聞いてるんだぜ」
 薬売りの男は暫し沈黙し、側の薬箱から薬包を取り出した。
「薬は使い方次第で毒にもなります。役に立たない事も。白黒に拘りすぎやしませんか」
 灰色を白に近いと見るか黒に近いと見るかは人それぞれ。左之介が腕を組んで考え込んだので、側で聞いていた物部が右之助に質問した。
「周りを煽り立てているような輩は居ないだろうか?」
「居ますな。目の前に」
 即答された。詮索嫌いの妖怪荘の住民達の間を周り、騒動を妖怪荘全体の問題として訴えている冒険者達は、扇動者と言えなくも無い。
「これは手厳しい。所で最近内倉殿の姿を見ないが」
「そうですな。今頃はどこの空の下でしょう」
 妖怪荘は出入りの激しい街だ。住人達はまるで旅人のように行き交う。そう思えば問題は多々在るが、ここは冒険者に相応しい街なのかもしれない。

「柱に梁をかけて、屋根を作るっす」
 三の門の建築現場では太が黙々と御殿建設を進めていた。一応、依頼の事も頭の隅っこで考えているので、飯時には近くで作業する住民達の所にうどんを食いに行く。
「角のうどん屋で食べてきたっす! 魔守華麗奴羽隠具って大泥棒らしいっすよ。百両も賞金が掛けられてるらしいっす!」
「ますかれいど? はぁ、最近はおかしな野郎が増えたなぁ」
 大工風の親父が太を見ながら云った。丼を突き出す太にうどんのお代わりを入れてやる。
「卵も欲しいっすね」
 卵など贅沢品だが、親父は篭に手を突っ込んで卵を掴むと太の丼に落とした。
「良い喰いっぷりだね、兄さん」
「オス! 『食のブラックホール』とは自分のことっす」
 現代で云うブラックホールはジ・アースには無い概念だが、何だか恐そうな響きだ。
「食の黒い穴‥‥聞いた事があるぜ」
「わずか3分で12杯の肉うどんを完食したとか」
 かなり無理っぽい。だが人の噂だし、太の喰いっぷりは見事だった。
「ごちそうさまっす」
 うどんをごちになった太は作業に戻りかけて、赤い髪の浪人が小屋に入るのを見た。確か、盗まれた宝物が納められていた場所だ。

「‥‥」
 白ヤギの置物を傍らに置き、律吏は小屋の中を見回した。
 この小屋は楠木達も調べていた。彼女らに発見出来なかったなら、自分が視ても同じだ。小屋の様子にも違和感は無い。宝の保管場所に選ばれたように、焼け残りの他の小屋より一寸まともなだけの、普通の小屋だ。
「或いは」
 地面に両手をついて犬のように這い回った。抜け穴のようなものは無さそうだ。
「無いか」
 立ち上がって女武士は土を払い、今は何も無いガランとした空間に、ここに在った筈の宝物を幻視する。荷車二台分と聞くから、この部屋一杯にあった宝物。
「‥‥一人の仕業ではないな。運び出すのはともかく、外まで運べるとは思えん」
 複数の賊が夜中に蠢いていたと夢想する。だが、郎党や住民達に見咎められず外に出る事が可能か? 魔法か凄腕なら話は別だが、郎党か住民のうちに仲間がいると考える方が自然か。
「両者が協力的なら直ぐ解決しそうな事件だ。‥‥お前はどう思う?」
 人目を忍んで小屋に入りこんだ天城烈閃(ea0629)は無表情。
「分かっている。俺が招いた事でもあるんだ。気は進まぬが、俺がやるしかあるまい‥‥」
「油断するな。私は、本気でやるから」
 烈閃の返答はなく、彼は音もなく小屋を出ていた。
「全く、そんな技を持っているから盗賊と間違えられるんじゃないかね?」


 翌々日。
 高辻屋敷に住民代表として赤泥と左之介、義護の三人が訪れる。無論、偏屈男の赤泥は出るのを嫌がったが義護が赤泥の祠の前で延々と粘り、口説き落とした。客人としてミラが同席した。
「相手はかの大盗、魔守華麗奴羽隠具です。皆様の協力なくばとても太刀打ち出来ますまい。どうかお力添えを」
 ミラは大盗賊と己の関わりを切々と語り、長行と住民代表達に共闘を懇願した。
「‥‥」
 赤泥はミラと以前にも会っているが、一瞥も無かった。郎党側の赤間兵衛が長行の許しを受けてその次に発言する。
 宝を魔守華麗奴羽隠具が盗った確証が無いとしながらも最有力容疑者と認め、また魔人が自由に妖怪荘の中を行き来するのは仲間が居るからに違いないと断じた。そして住人達の非協力さを揶揄した上で、赤泥に捜査に協力するように云った。
「‥‥」
 赤泥は無言。この変人は端から喋る気が無かったと義護は悟る。赤間は目を剥いた。
「何故返答せぬ! 長行様の御前であるぞ!」
「‥‥」
「己、愚弄するか。若様、やはり相違ありませぬ。こやつ等が宝盗人の一味、仲間を匿っておる故、こうして反抗しておるのでござりまするッ」
 堪りかねて左之介が声をあげる。
「ちょいと待っておくんなせえ。この御仁は晴れた日に雨が降ったってだけでヘソを曲げる人でさあ。それは長行様もご承知の筈だ、この俺が代わりに謝りますんで、それだけの事で盗人呼ばわりは止しておくんなさい」
 左之介が頭を下げる。
「ならば其の方に聞く。住人達は我らの捜査に協力するのであろうな?」
 返答に詰まった。ここでハイと答えても、今までと何も変わらない。住人達が捜査に協力する訳が無いからだ。事は、郎党と住民達が同じ方向を向く事でしか解決しないと左之介は思っている。
「貴様‥‥」
 赤間が激発しようとしたその時に、血相を変えた若い郎党が入ってきた。赤い髪の女浪士、律吏である。
「何事だ」
「は、はい。今しがた、魔守華麗奴羽隠具の姿がこの屋敷に入っていくの、を‥‥あ、あそこに」
 律吏が指差すと、庭に不気味な角兜をかぶった覆面男が立っていた。
「魔守華麗奴羽隠具ッ!」
 ミラが男の名を叫ぶ。気配を消して幽鬼の如く佇んでいた魔守華麗奴は仮面の奥でくぐもった笑い声をあげる。
「ククク‥‥罪もない住民達と疑い合い、罵り合うお前達の姿は実に滑稽だったぞ」
「何っ!?」
 頭を下げた姿勢で固まっていた左之介が飛び起きる。
「俺を楽しませてくれた褒美に教えてやろう。そう、故買屋は仮の姿。俺こそは異国より来た大盗賊。そして今は、この妖怪荘に巣食いし魔の王なり。故に、この妖怪荘の全ての宝は俺の物となるのが運命‥‥」
「世迷言を申すな、貴様頭がおかしいのか」
 赤間は長行を守るように立ち、魔人を睨みつける。
「到って正気。その証拠に、お前達は俺に触れる事も出来ぬ」
「おのれ〜〜っ!」
 弾かれたように怒りの声をあげ、丸腰のままの律吏が庭に飛び出した。魔人に掴みかかるが、紙一重で躱される。
「何事でござるかっ!?」
 騒ぎを聞いて数人の郎党達が現れるのを見て、魔人は律吏を突き飛ばして逃げようとした。
「あまいっ!」
 律吏は魔人の体当たりを腕で逸らし、ややカウンター気味に拳を叩き込んだ。
「ちっ」
 声をあげたのは律吏の方だ。彼女の豪腕で殴られれば本来なら仰け反る筈だが、魔人は無傷で間合いを開ける。鉄を叩いたような感触は魔人が強固な防御力を有する証拠。見れば両手には10個の指輪。
「さすがは大盗賊、か」
「ふっ‥‥思ったほど簡単に宝は手に入らないか。だが、それもまた面白い」
 踵を返して魔人は逃げる。その前に律吏が立ちはだかった。
「逃さんぞ」
「フッ‥いい加減に」
「ぐぎゃっ」
 魔守華麗奴は律吏を派手に突き飛ばして逃げた。
 呆然と見送る郎党、そして住民達。


 怪盗の宣戦布告を受けて妖怪荘の混迷は更に深く‥‥次回へ続く。