フェイクシティ11〜恐い秘密がバレる時

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2010年08月30日

●オープニング

●国王の死
 カオスに蹂躙されるハンの国。祖国を国難より救うべく、ハン国王カンハラーム・ヘイットは固き決意を胸に、自らフロートシップに乗りウィルの国を目指した。
 だが、これをみすみす見逃すカオス勢力ではない。国王を乗せた船はウィルとの国境にたどり着く以前に、カオス勢力の猛攻を受けた。
 急ぎ駆けつけた冒険者達の活躍で、船の乗組員は大勢が救出された。しかし脱出したハン国王が搭乗するグライダーは墜落し、墜落現場には国王のものと思しき亡骸と、国王自らが携えてきた国書が残されていた。
 国書にはハン国王の遺志が書き綴られていた。国の惨状を憂い民の苦難を嘆き、祖国を救うにはもはや大国ウィルの力に頼るしかないと決した国王は、その国書においてセクテ公とミレム姫の結婚を認めたのである。
 この結婚はウィルとハンの両国が同盟関係で結ばれることを意味し、ウィルがハンの国へ進軍する正等な根拠となる。だがしかし‥‥。

●御前会議
 ハンの宮廷からの耳を疑うような知らせがもたらされたのは、急ぎ開かれた御前会議の席上だった。あろうことか、ハン国王の残した真の国書なるものが、ハンの宮廷で発見されたというのだ。即ちウィルに届けられた国書は偽物で、真の国書なるものはハンの国難の全てをウィルの陰謀に帰し、声高にウィルを非難するものだったという。
 情報をもたらしたのは、ウィルの軍事を統括するロッド・グロウリング伯。ウィル国王ジーザムが誰何する。
「それは真か」
「はい。ハン宮廷に潜ませた密偵の情報によれば、カンハラーム陛下亡き後のハン国内で、反ウィル派が王妃ミレニアナ陛下を中心に結束。ウィルがハン領内に侵攻するなら全面戦争も辞さず、国を挙げてウィルの侵略軍を迎え撃つとの宣告が為されたとのこと。既にハンの友好国であるエの国、ラオの国が義勇軍を送ったとの情報も届いております。そしてつい今しがた──」
 届いたばかりの伝書をロッドはジーザムに差し出す。それはハンの宮廷よりジーザムの元へ使者を使わすという知らせ。一読したジーザムの表情が険しくなる。
「とても友好の使者とは思えぬな」
「この使者の携える知らせはセクテ公とミレム姫の婚約破棄、そしてウィルに対する最終通告、これ以外に考えられません。使者が陛下の御前にて新たな国書を読み上げしその時が即ち、開戦を告げるトランペットの鳴る時となるはず」
 ロッドの回答を聞き、ジーザムは宣告する。
「皆の者、覚悟の程はよいか!? 次なる戦いは大戦争となろうぞ!」

●甦った女性
 ハンへの進撃準備で多忙なロッド伯だが、ふと気になることがあり、冒険者ギルドの管理する警戒厳重な倉庫へ足を踏み入れた。
 倉庫の一角には石像が安置されていた。フェイクシティの西、役立たずの沼地で発見された女性像。その像の正面には冒険者ギルド総監のカインが立っていた。
「ロッド殿もこの像が気になると見えますね」
「この像、元々は人間なのだろう?」
「恐らくは石化された人間かと。身にまとう衣装からするに、この像の正体は古代の巫女ではないかと察します」
「報告書によれば石像は2体あって、そちらは石化解除されたはずだな?」
「はい。どうやら今の時代のアトランティス人のようですが、甦った本人が口をつぐんでいるので‥‥」
「俺は忙しい。帰るぞ」
 ロッド伯と別れると、カインは別棟の建物に向かう。
 そこには石化解除された女性が保護されていた。
「どうです、何か話す気になりましたか?」
 優しく言葉をかけるカイン。今日こそは何か話してくれるだろうか?
「‥‥カイン様」
 ようやく決心がついたのだろう。
「私をお許しください」
 女性は全てを語り始めた。

●進撃の準備
「ルキナス、貴殿には感服する。まさしくプロの仕事だ」
 フェイクシティのスポンサー、王領代官グーレング・ドルゴはいやに上機嫌だ。全ての計画が目論見通りに進んでいるからだ。
「貴殿の手がけたユニット方式による教会建設だが、このやり方を来るハン戦争においても役立てて欲しい」
「戦場に教会を作るのですか?」
「教会ではなく補給基地だ。兵員宿所に食料庫など必要な施設の建設を全て任せる。ハン進撃の時は近い。我らにとっても名を上げるチャンス、ことにラシェット家にとってはお家再興のための大きなチャンスだ。戦場で世話になるドーン伯爵家にも、私の方から根回しをしておいたので、当主殿にあったらよろしく言っておいてくれ」
「仰せのままに」
 とは答えたものの、軍師ルキナスには心に引っかかるものがある。代官と別れた後であれこれ思い悩む。
「これでいいのか?」
「悩んでいるようだな?」
 声をかけられた。元テロリストのシャミラだった。
「元気がないのなら、景気付けに教えてやる。代官の身辺を徹底的に洗って、ようやく仕入れた極秘情報だ」
 シャミラはルキナスの耳元でひそひそ。
「な・ん・だ・っ・て・ぇ〜!?」
 ルキナスの頭に一気に血が昇った。
 シャミラの話によると‥‥。

 代官の周辺では貧しい少女が幾人も行方不明になっている。
 王領ラントにある代官の屋敷へ奉公に行き、それっきり消息を絶っているのだ。
 屋敷の地下室では何か怪しいことが行われているようだが。
 その事を外に漏らした使用人の男も行方不明になっているとか。

「王領ラントの代官の屋敷、その地下室に忍び込めば面白いものが見られそうだ。この情報は使い方次第で代官に対する最高の切り札になる。好きなように使え」
 シャミラは立ち去る。ルキナスは思わず叫んだ。
「あの野郎だけは絶対に許せねぇーっ!!」

●暴かれた秘密
 ここはゴーレムの戦闘訓練所。
「腕を上げたわね、アンジェ」
「シェーリンさんも、ね」
 訓練を終えたシェーリンとアンジェ、ゴーレムから下りて語り合っていたが。
「シェーリン、何か心配なの?」
「あたしも‥‥ハンへ行くべきなのかな?」
「行けばいいじゃない。行ってゴーレムで戦えば。‥‥あ、そうか。ネルダーさんとフィオリーナさんの事があるから‥‥。ごめんなさい、言いすぎちゃった」
「いいのよ」
 シェーリンの悩みの種は、彼女の出自であるラシェット家の家庭の事情。
 勝手に家を飛び出したシェーリンに見切りをつけ、ラシェット家の当主とその妻は良くできた弟のネルダーと妹のフィオリーナに家を継がせるつもりなのだ。王領代官もその線で話を進めている。
 来るハン戦争はラシェット家の名声を高めるチャンス。まだ幼さの残るネルダーもフィオリーナも、ラシェット家を代表する形で参戦予定だ。参戦とはいっても補給基地の警備など、後方支援が主な任務になる。
 聞いた話だと戦場で2人のサポートに回るのは、フオロの有力貴族であるドーン伯爵家の騎士団だとか。
 冒険者達はこれまでのシェーリンの努力を認めさせようと懸命だが、成果は今ひとつ。
「シェーリン、ここにいましたか」
 声をかけられた。いつの間にかギルド総監のカインがそばにいた。
「貴方にも教えておかねばなりません。石化状態から甦った女性ですが、正体はドーン家当主の愛人でした。その彼女が語ったのですが、ドーン家当主はカオスに与する人間で‥‥話せば長くなますが、簡単に言うとドーン家の騎士団はカオスに操られているのです。今は味方のふりをしていても、その時が来れば‥‥」
「本当なの!?」
 ここにシェーリンの決意は定まった。
「あたしもハンに行くわ!」

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1388 服部 肝臓(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●策略
「しょーこさがしなの。しっかりみつけてへんたいさんをとっちめるのー」
 レン・ウィンドフェザー(ea4509)が宣告し、冒険者達の作戦は実行に移された。まずはフォルセ領主レンとシグ領主・時雨蒼威(eb4097)の名義で代官グーレングに会談を申し込む。名目上はフェイクシティの今後の展望を話し合うため。ただしその真の目的は代官の目を屋敷の中から逸らすため。
 蒼威の思惑通り、代官は話に乗ってきた。館で晩餐会を開き、その席上で話し合いたいと使者を通じて伝えてきた。
「これで屋敷は手薄になる。ただし、その日までに証拠物件が移されていなければいいが‥‥」
 続いて蒼威はシャミラに依頼。この手の仕事は彼女に頼むに限る。
「シャミラ、金は100‥‥いや300出す、奴好みの女を用意できるか? 地球製の酒も用意した。奴とその部下が酔い潰れている間に証拠を掴み総監と王に提出する。既に総監にも話を通してある」
「心得た。奴好みの衣装もおまけに付けよう」
 そして会談の日が到来。屋敷に到着したレンと蒼威は、代官の待つ大広間に導かれた。代官を取り囲んでいるのは年端も行かない大勢の娘達。ニコニコ顔で一行を出迎えた彼女達の衣装は定番とも言うべきメイド服プラスねこ耳以下略、シャミラがかき集め、代官の元に送り込んだ娘達だった。
(これが300Gの威力か)
 蒼威は内心呆れる。
 幼い娘達に囲まれてご満悦な代官の目が、レンに引き寄せられる。同い年くらいに見える娘達が大勢いる中でも、レンの姿はひときわ光を放って見える。
「フォルセ領主様! 並びにシグ領主殿! 我が館へようこそ!」
 2人を歓迎する代官。その視線が蒼威と合った時、代官の顔に意味ありげな笑みが浮かぶ。
 どうやら代官に気に入られたようだ。
「来る戦争に備え、兵達のゴーレム訓練地にフェイクシティを、俺から王に持ちかけたい」
 豪勢な料理の並ぶ歓談の席で、乾杯を交わし美酒を飲み干すと蒼威は切り出した。
「ラシェットについてもフィオリーナの相続には賛成だ。だがシェーリンに相応の待遇を設け、双方が妥協する事を提案したい」
 色々あってシェーリンとの関係は自然消滅。今では蒼威も代官と同意見だから嘘ではない。代官がこれに気をよくしない訳はない。
「して、フォルセ領主殿のご意見は?」
「きほんてきに、さんせいなのー」
 その言葉に代官は満面の笑みを浮かべた。
「では、これで決まったも同然ですな」
 レンと蒼威は代官に笑顔を向けつつ、さりげなく周囲を観察する。代官配下の警備兵は宴会場を中心に守りを固めている。皆、賓客の2人を守ることに集中している。その分、屋敷の奥の守りは手薄になっているはず。

●証拠発見!
 屋敷の中庭、月に照らされた木の陰から服部肝臓(eb1388)とゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が姿を現す。ムーンシャドウの魔法を使い、誰にも気付かれず屋敷の敷地内に潜入できた。
「では拙者が先に」
 肝臓が先行して屋敷の中へ。しばらく歩くと巡回の警備兵に出くわした。肝臓は廊下の影に身を潜める。警備兵は気付かない。肝臓は音なき稲妻のように動き、警備兵の頭に素手の一撃を見舞わせて失神させた。
 ものの5分もしないうちに、肝臓はゾーラクの待つ中庭に戻ってきた。
「屋敷の戸締りは固く、月光の差し込む場所はござらぬ」
「そうですか」
 ムーンシャドウの魔法は使えない。
「だが邪魔者は拙者が眠らせておいた」
 レンと蒼威の策は侵入の大きな助けとなり、肝臓が途中で出会った警備兵の数は僅か。そして肝臓は秘密が隠されていると思しき部屋を発見して戻ってきたのだ。
 肝臓はゾーラクを件の部屋へ案内する。部屋の前には人相の悪い男が一人、椅子に座って番をしている。そいつも眠らせようと肝臓が動きだそうとした時、ゾーラクが身振りで制し、番人に向かってスリープの魔法を放った。番人は椅子に座ったまま眠りに落ちた。
 部屋の扉は重厚で意匠が凝らされており、いかにも大切な物が保管されていそうだ。
「では拙者が開錠の術で‥‥」
 早速、忍法を使って開錠を試みる肝臓だが、扉は開かない。今の肝臓の技能では太刀打ちできないのだ。一瞬、途方にくれたが。
「もしや‥‥」
 眠りこける番人のポケットをまさぐると鍵があった。2人がその鍵で扉を開いて部屋に踏み入るや、その表情が凍りつく。
「‥‥!」
 ドアの向こう側には2人を待ち受けるように、絶叫する男の彫像が置かれていた。いやよく見ると、単なる彫像にしてはあまりにも見た目が生々しすぎる。まるで生身の人間が恐怖の叫びを上げたまま、石と化したかのよう。
 男の像の後ろ側には5つの小さな人影が並んでいた。いずれも幼い娘の像だ。何も知らぬ者がこれを見たなら、生身の人間に生き写しの傑作と評したろう。だが、眠りこけた番人の記憶をリシーブメモリーの魔法で読み取り、真実を知ったゾーラクは愕然とした。
「なんということを‥‥!」
 少女の石人形は、かつては生身の人間だったのだ。いずれも貧しい家の娘だが美貌の持ち主で、その姿を代官に気に入られて屋敷の奉公人となった。その娘達を代官は石に変えた。時を止め、花のごとく移ろいやすき少女の姿を変わることなく愛で続けるために。
 部屋の隅では何かが動いている。足首を鎖で繋がれたそれは魔獣コカトリス。触れたものを石に変えるその嘴の魔力により、少女達を石に変える道具に使われたのだ。
 石と化した男はコカトリスの飼育係。悪事に耐えかね秘密を外に漏らそうとした事から代官の怒りに触れ、石に変えられたのだ。
「早く証拠物件を外に運ばねば」
「大仕事になるわ」
「拙者にお任せあれ」
 まさか証拠物件が6体の石人形とは。だが忍者の肝臓は仕事をやってのけた。先にゾーラクを行かせると、自分は6体の石人形を月明かりの届くところまで運び出す。そしてゾーラクの魔法で人形を屋敷の外へと瞬間移動させた。
 大広間ではまだ宴会が続いている。代官は屋敷の中で起きたことをまだ知らない。

●出立
 まだ幼い愛娘を戦場へ連れては行けない。だから麻津名ゆかり(eb3770)と夫のルキナスは、キリカをウィンターフォルセに預けておくことにした。
「何があってもキリカちゃんは守るわ」
 マリスの采配で、信頼できる子守り役が雇われた。
「すぐに帰ってきますからいい子で待っててね」
 ゆかりは我が子を抱いたり頬擦りしたり。別れの前の過剰なくらいのスキンシップの時間。それは、ルキナスも同じで。
「お土産は何がいいかな〜?」
 戦場へ行くというのに妙に明るく振舞い、キリカを抱いて話して聞かせているのは、心中の緊張を和らげるためだろう。
 ハンへ向かうフロートシップの中で、ゆかりはシェーリンを励ましてやった。色々あったから気落ちし過ぎぬように。
「男は彼だけじゃないんだし、家の再興は彼も協力してくれると思いますよ」
「ごめん‥‥色々心配かけちゃったみたい」
 シェーリンは気恥ずかしそう。
「もしも思いっきり泣きたいなら、私の胸で泣いてもいいですよ」
「‥‥え!?」
 ゆかりの言葉にシェーリンはきょとんとし、すぐに笑い出した。
「もう! 冗談はよしてよ!」
「冗談ではなく本気のつもりなんですけど」
 二人のやりとりを聞いて、一緒にいたアンジェもつられて笑い出す。
 やがて船は目的地に到着した。シェーリンが言う。
「さあ、ここからは気を引き締めて。敵はいつ仕掛けてくるか分からないんだから」

●駐屯地
 ペガサスが舞い降りる。ここはハン領内のウィル軍駐屯地。偵察飛行を終えたジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は、ウィルから届いたばかりのストーンゴーレム・ノルンを点検する。ジャクリーンが手配した機体だ。
(過日を思い出しますね)
 冒険者として初めて乗ったゴーレムがノルンの試作機だっただけに、ノルンを見るとあの頃の自分を思い出す。
 ラシェット家の期待を背負う若きネルダーとフィオリーナには2人の冒険者、導蛍石(eb9949)とオルステッド・ブライオン(ea2449)が護衛についていた。
「さあ、訓練の時間です」
 戦闘指南役となったジャクリーンは、シェーリンとアンジェと共にゴーレムを操り、ネルダーとフィオリーナはゴーレムの動きに合わせて進撃と退避を繰り返す。
「くれぐれもゴーレムに踏み潰されないように。ここは遮蔽物が多いですから、それを自分の身を守る盾にすると同時に、遮蔽物の向こう側に潜んでいるかもしれない敵に注意してください」
 戦闘訓練が終わりに近づくと、ルキナスの快活な声が響く。
「さあみんな、スキンシップの時間だぞ〜」
「もう! あなたったら!」
 ゆかりがすかさず釘を刺す。
「あ、だからこれも訓練だって」
 言いながらルキナスは、皆と一緒に導蛍石(eb9949)をぐるりと取り囲む。蛍石は呪文を唱える振りをしながら、そこにいる全員に次々とタッチしていく。レジストデビルの魔法を付与する訓練だ。訓練を繰り返せば、いざという時に皆が迷わず体を動かせる。
「実戦では何が起こるか分りませんが、訓練して来た事を忘れず頑張って下さいね」
 訓練はジャクリーンのその言葉で締めくくられ、皆は一息つく。だがその中にあって、オルステッドだけは緊張を解くことなく、周囲の警戒を続けている。
「オルステッド様、いつも厳しい御顔ですのね」
 フィオリーナがオルステッドの顔を見て言った。
「ここはいつ戦場になるか‥‥分からぬからな‥‥」
 そう答えたオルステッドだが、彼は駐屯地でのドーン騎士団の動きを観察し続けていた。だがラシェットの兄妹には、ドーン伯爵の裏切りのことは伏せてある。彼らが決起する時まで黙っている腹積もりだった。その代わり、オルステッドはドーン騎士団の者達と努めて交わり、友好的な関係を心がけ、ついには少なからぬ騎士や兵士達と酒を酌み交わす仲になった。
 騎士団の中には気になる一団がある。ドーン伯爵の腹心にして騎士団の最高指揮官サーシェル・ゾラスと、彼を常に取り巻いている数名の男達だ。
「あの男達は‥‥何者なのだ?」
 酒の席で騎士団の者達に尋ねると、口々にこんな答が返ってくる。
「我らが領主殿に雇われた密偵だろうな。秘密厳守の仕事らしく、俺達にも詳しいことは知らされていないんだが‥‥」
 だがオルステッドはその正体に薄々気がつき、監視を続行した。

●暴露
 紋章旗を掲げた早馬が駐屯地に駆けつける。戦況が急変したことを告げる伝令だ。
 ショノア王子の戦艦バスターとウィル軍がにらみ合う中、ウスの都周辺に潜むカオス勢力が一斉に蜂起したのだ。
「ついに戦いの時が来たか」
 騎士団の猛者達が色めくが、ゾラスは岩のごとく動じぬ様子を見せない。
「ラシェット家の姉妹は何処におられる?」
「目下、訓練中です」
「至急、お連れしろ。我々がその安全を守る」
 命令を受けた者達が離れようとするや、不意に現れたオルステッドが行く手を阻んだ。
「誰もそこを動くな」
 その手には剣。抗う者は斬り捨てる構えだ。
「オルステッド、乱心したか?」
 冷酷にゾラスが言い放つ。オルステッドが大股でゾラスに歩み寄り、やにわに彼の傍に立つ男に切りつけた。轟く叫び。鮮血がほとばしる。
「取り押さえろ!」
 だがゾラスの言葉に答える者はいない。斬り付けられたその者は異形の魔物に姿を変え、絶命するや見る間にその姿が崩れて消滅した。
「カオスだ‥‥!」
「味方の中にカオスが入り込んでいた‥‥!」
 動揺する兵士達。オルステッドは剣の切っ先をゾラスに向け、言い放つ。
「俺はお前達をずっと監視してきた。誰が正体を隠したカオスで、誰がそうでないかも分かっている」
 再びオルステッドは別の男に切りつける。そいつもまた魔物の正体を現し消滅する。
「オルステッド! そこに直れ!」
 叫ぶが早いかゾラスが剣を引き抜き、両者は殺気をぶつけ合う。
「俺は主人を守ってみせる。たとえカオスに魂を売り渡してでもな!」
 その後は稲妻のぶつかり合い。決着がつくまでの僅かな時間は、オルステッドにとってとても長く感じられた。繰り出される剣がオルステッドの体に一つまた一つと傷をつける。オルステッドも確実に相手にダメージを与えていく。繰り出されたソニックブームの技が、ゾラスを転倒させる。
「ぬああっ!!」
 一瞬にしてゾラスは起き上がり剣を繰り出す。だがオルステッドもまた剣を繰り出していた。
 カウンターだ。ゾラスの剣は急所を外し、オルステッドの剣は敵の心臓近くを貫いていた。
 倒れたゾラスにオルステッドは話しかける。
「貴殿を逮捕する。全てを話せ、今なら命は助かる」
「主人の秘密は漏らさぬ」
 ゾラスは自らの短剣で素早く喉を貫く。あっという間の出来事、覚悟の自害だった。
「敵ながらあっぱれ‥‥というべきか」
 暫し立ち尽くしていたオルステッドは、今は骸と化したゾラスの目を閉じてやった。

●決戦
 駐屯地に潜んでいた魔物どもが一斉に暴れ始めていた。空飛ぶ小鬼、魔犬、獣の首を持つ人間、オーガのごとき巨体のもの。怒号と絶叫の飛び交う混乱の最中、ジャクリーンは自らのゴーレムへと急ぎ、コクピットに飛び乗るや機体に語りかけた。
「いい子ね、限界まで無理をさせてしまうかも知れないけど私に力を貸して頂戴」
 蛍石はホーリーフィールドを張り巡らし、ラシェットの姉妹を守るように戦っている。やにわに剣を構えたネルダーが結界の外に飛び出した。
「ネルダー様!」
「私は次期当主です! 武勲を立てねばなりません!」
 逸り過ぎだ。巨体の魔物がネルダーに気付き、覆い被さろうとする。その体を遠方より飛来した巨大な矢が弾き飛ばした。ジャクリーンのノルンが援護射撃したのだ。
 シェーリンとアンジェもゴーレムで奮戦。その奮闘の甲斐あってか、戦闘は短い時間で片付いた。だが蛍石には次の仕事が待っている。彼女は愛馬のペガサスを呼び寄せた。
「これから負傷者の救出に向かいます。力を貸してください」

●甦りし巫女
 蒼威がコカトリスの瞳を用いると、石の肌に人の血色が甦る。
 沼地から発見された石像は、蒼威の手で石化解除された。
 甦った女性の神秘的な顔立ちは石像の時と変わらない。
 その表情は、あたかも長い夢から覚めたかのよう。
「私は‥‥貴方様に助けられたのですか?」
 それが第一声。
「俺の名は時蒼威雨。何と言ったら言いか‥‥石像だというのに、俺は君を見て心を奪われた‥‥気がする。俺は君の事が知りたい‥‥教えてくれる、かな?」
 それはプロポーズの言葉。
「私の名はリュネフィス。竜と精霊とに仕える巫女です」
「で、まずは食事でもしないか? 長いこと何も食べないでいて空腹だろう? 話はそれからゆっくり聞こう」
 漂ってくる美味しそうな匂いは、蒼威の用意した手料理。
「はい」
 リュネフィスは頷く。その頬が微かに朱に染まっていた。