フェイクシティ10〜領主の道への第1歩?
|
■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月26日
リプレイ公開日:2009年06月03日
|
●オープニング
●お目通り
ここは王領ラシェットの領主館。小さいけれど小奇麗な町に面した、とても立派なお屋敷だ。
「いや、懐かしい‥‥」
と、お屋敷に足を踏み入れて呟きを漏らしたのは、かつてこの館の主人だった男。ベルナード・ラシェット元子爵である。思えば過日、悪王エーガンの暴政下で貴族の身分を奪われて屋敷を追い出されて以来、ずっと忍耐の日々を送ってきた。だが王領ラントの代官グーレング・ドルゴという支援者を得て以来、ラシェット家にも運が向いてきて、ようやく懐かしき領主館にも足を運ぶことが出来るようになったのだが。
「懐かしがってばかりもいられませんわ」
妻のアイオリーンが露骨に嫌な顔をする。
「そんな嫌な顔をするな」
「だって、これから会うのは‥‥」
「気持ちは分かるが、これもお家再興のためだ」
ベルナードは、ラシェット家の希望の星である幼い2人、息子ネルダーと娘フィオリーナにも言い聞かせる。
「マリーネ姫の前では明るく堂々と振る舞うんだぞ」
「はい」
「はい」
2人の返事を聞き届けると、ベルナードは彼らをここに招いたグーレングに一言。
「では、姫の元に参りますか」
今の館の主はマリーネ姫。かつてはエーガン王の寵姫としてわがまま一杯に生きていた姫だが、さまざまな冒険者との出会いによって正しき道を歩むようになり、今では王領ラシェットの領主代行として、この館から復興の采配を取っているのだ。
もちろん、グーレングがスポンサーとなって進めるフェイクシティの建設事業も、マリーネ姫の管轄である。そういう訳で、代官と元子爵一家は姫にお目通りする為に、わざわざやって来たのだ。
ちなみにマリーネ姫の出自であるアネット家は、ラシェット家とは長きに渡って険悪な仲だった。だが過去の遺恨を今さら持ち出しても始まらない。
「ネルダーとフィオリーナを何とぞ宜しくお願いします」
元子爵は自慢の息子と娘をマリーネ姫に紹介。ネルダーとフィオリーナも恭しく姫に一礼。2人の姿は姫の目に、幼いながらも凛々しく映った。
「日々、努力を惜しまず、ラシェット家再興の為に励んでください」
激励の言葉を贈った後、姫はグーレングを手招きして尋ねる。
「冒険者とは上手くいっているのですか?」
「かの軍師殿を巡るトラブルも一段落し、今では計画も順調に進行中です」
「それは良かったわ。あの役立たずの沼地の干拓計画は?」
「ウィンターフォルセのプリンセスをはじめ、冒険者達はことのほか熱心でして。近々、大規模な工事が始まる予定です」
「期待しているわ」
こうしてお目通りは無事に終わり、グーレングはほくそえむ。計画の進み具合は順調、後は果実が美味しく熟するのを気長に待てばいい。
──ちょっと待て、何かが抜け落ちてないか? そう。お目通りの最中、シェーリンの名前は一回も出て来なかったのだ。
●参謀団結成
ここは冒険者ギルドの一室。ここに3人の地球人が集まった。その3人とは合衆国軍人ゲリー・ブラウン、そのパートナーのエブリー・クラスト、そして元テロリストのシャミラだ。3人はいずれもフェイクシティの現状を打開するため、さる冒険者の呼びかけで結集した者達だ。これ以上、代官の好き勝手にさせるものか──ということで3人の意見は一致している。
「ではここに、『対カオス傭兵隊』改め『対カオス義勇兵団ドラゴンガード』に所属する我ら3人を中核とする、『フェイクシティ影の参謀団』の設立を宣言する。参謀団の目的は、スポンサーたる王領代官の専横で迷走するフェイクシティ計画を、本来あるべき姿に戻すこと。即ち、対カオス戦闘訓練の場となり、かつフオロ東部復興のための人材を養成するための都市型訓練施設を実現することだ」
ゲリーが宣告し、エブリーが備え付けの黒板を使って、フェイクシティ計画の要点をまとめる。
《フェイクシティの現状》
☆戦闘訓練施設
軍師ルキナスの設計により、邸宅型訓練施設と宿所が完成。王都を模した野外戦闘訓練場も整備中。
☆職能者の養成
代官が独断で計画を進めており、冒険者は関与せず。
☆統治体制
代官は元領主であるラシェット元子爵家に影響力を行使し、ネルダーとフィオリーナを傀儡の統治者に仕立て上げようと目論む。
☆町の政治
住民と代官との間に正式な政治協定は結ばれていない。元領主一族のラーキスは町内会会長に立候補する意思あり。
☆子どものためのセーフハウス
ルキナスは建設を約束しているが、何かと忙しいせいか特に進展はない。
☆西の沼地の開拓
ウィンターフォルセのプリンセスが開拓に乗り出し、代官はプリンセスの取り込みを画策。
☆出版事業
ホルレー男爵と交渉中も、男爵は代官との取引を所望。
☆結婚相談所
ロウズ翁の猛反対により前途多難。
☆軍師ルキナスの女性問題
新妻との間に女児が誕生して以来、小康状態を保つ。
☆シェーリン問題
沼地干拓にやる気を見せるも、人望はまだ薄い。
「ざっと、こんなところかしら?」
シャミラが発言する。
「ハン国王のフロートシップがカオス勢力に撃墜され、国王が行方不明になるなど事態は急迫している。先日のマリーネ姫襲撃事件に見られるように、敵はゴーレム技術を手中に収め、テロ戦術に利用している。だが、騎士学院と貴族女学院をフェイクシティに引き込むなら、この事態を利用しない手はない」
それを聞いてゲリーが言った。
「ハン国王の襲撃では、カオスゴーレムを搭載したフロートシップが使われた。マリーネ姫を襲撃したのは魔物を乗せたグライダーだ。騎士学院と貴族女学院を引っ張り込んで、そういった戦法に対抗する為の訓練をやるか?」
「ゴーレム工房に掛け合えば、訓練に使う船やグライダーを貸してくれるでしょう。ウィルの大義のためなら代官も嫌とは言えないはずよ」
と、エブリー。最後にシャミラが言った。
「あとは冒険者のやる気次第だな」
●沼地干拓計画
ここはフェイクシティの西に広がる役立たずの沼地。
腐った水の発する嫌な臭いが漂う岸辺で、仲良く測量のを仕事している2人がいる。1人はひげもじゃのドワーフ娘で、彼女は沼地干拓に協力すべくやって来たドワーフ職人の娘だ。
もう1人は軍師ルキナスである。
「わざわざ手伝ってくれてありがとう」
「だって、これが俺の仕事だからな」
「‥‥どうしたの? そんなに私の顔ばかり見て?」
「だって、君のおひげがとってもチャーミングだからさ」
女でもひげもじゃなのはドワーフの種族的特徴なのだけれど。
ごほん。ルキナスの背後で咳払いの音がした。振り返ると、娘の父親がせっせと地図を描いている。
「ああ、そんな所にいたんですか、お父さん」
ドワーフ親爺はルキナスの目の前に、書きかけの地図をぬうっと突き出した。
「これは?」
「分かるじゃろう! ざっと調べてまとめた沼地の地図じゃ! 見ての通り、沼地には水の湧き出す場所が数多く、また精霊力の乱れをもたらす遺跡もあちこちに沈んでおる。だから沼地を干拓するには、湧水点を結ぶ水路を掘って湧き水を大河へ導き、遺跡は全て取り除くことが必要なのじゃ。この仕事、お主に任せられるかな?」
「勿論ですお父さん! 娘さんの為にも必ずや‥‥」
「本当かね?」
ドワーフ親爺がじろりとにらむ。
「どうしてそんな疑いの目で俺を見るんだ!? 俺は必ずやり遂げてやるぞ!」
ルキナス、気合いだけはやたらと入っていて結構なのだけれど‥‥。
●リプレイ本文
●最後通告
「何これ?」
時雨蒼威(eb4097)から渡された鎧騎士叙勲証を見て、シェーリンは怪訝な顔になる。
「見ての通り、鎧騎士の叙勲を認める推薦状だ。早い話が転職アイテムだ」
「でもあたし、転職ならもう済ませちゃってるわよ。まだ見習いだけど、世間からすれば鎧騎士なんだし。それともこれを持っていれば、どっかの貴族があたしを鎧騎士として雇ってくれるってわけ?」
「いらないならそれでもいい」
蒼威は叙勲証を懐に仕舞い、
「後はもう知らん、自分で決めろ」
突き放すように言い放つと、さっさと立ち去った。
「え‥‥?」
シェーリン、蒼威が居なくなってからやっと、自分の置かれた状況に気付く。
「つまり、あたしは見捨てられたってわけ!?」
いじいじいじいじ‥‥いじけることかれこれ数十分。
ふと気づくと、傍らでセオドラフ・ラングルス(eb4139)が画材を取り出して、シェーリンの姿を絵に描いている。
「何でそんなことしてるの? ‥‥って、あなた絵が描けたの?」
「これも鎧騎士の嗜みでして」
セオドラフの横合いから、麻津名ゆかり(eb3770)が顔を見せた。
「あたしが頼んで描いてもらいました」
「下絵はこんなもので」
描きかけの絵を見せるセオドラフ。いじけているシェーリンが一点の美化もなく、ありのままの姿で描かれていた。ひざを抱えてうなだれて宙を見つめて歯軋りして‥‥。
「何なのよこれっ!?」
ゆかりが言う。
「シェーリンさん、これが今のあなたです。絶対に二度とこうなりたくないならダメだと感じる度に、これを真正面から見てこうならぬ為に知恵を絞って下さい。──ギルスさん?」
「はいは〜い」
呼ばれてやって来たギルス・シャハウ(ea5876)が、聖書の一節を読み上げた。
「一番上になりたい者は、皆の僕になりなさい」
「領主とは生涯を捧げても務らめれるかわからぬ厳しい立場かと、弱音を吐くなら諦めるべきです。でもその気があるなら、最初は例えばマリーネ姫様の親衛隊入りを狙う道などもありかと」
と、ゆかり。
「ですが今の貴女には親衛隊入りは難関ですな。本気で領主を目指すなら、死ぬ気で顔と名を売ってきなさい。私からは以上です」
そう言ってセオドラフは立ち去ろうとする。
「ちょっと待って‥‥!」
シェーリンに呼び止められ、セオドラフは足を止めて振り返った。
「お望みとあらば、今日1日だけでも貴族の礼法を指導致しましょう」
「よろしくお願いね」
「まずはその言葉遣いから正さないといけませんな。たとえ中味がなくとも立ち振る舞いが立派であれば、人は軽々しく見下したりはしないものです」
「よろしく‥‥お願いします」
「もっと背筋を伸ばし、正面から堂々と相手の目を見て」
「‥‥こう?」
「さあ、もう一度。声にはもっと落ち着きを持たせて」
こうしてみっちりと礼儀作法の訓練を施した後、セオドラフは最後に一言。
「そうそう、あと1つアドバイスを。信頼できる吟遊詩人を雇い、貴女の『冒険』を広めるのも良いでしょう。世人は我々冒険者とは違い、冒険者ギルドの報告書を読む機会など無きに等しいのですからな」
「考えておきます」
続いてやって来たのが信者福袋(eb4064)。
「本気で領主として立つおつもりですか? ふざけた気持ちでなく?」
「あたしは‥‥! ふざけてなんかいません真面目です」
「ではでは、遅ればせながら社会人としての新人研修を‥‥!」
にやりとほくそえむ福袋。
「なぁに、死にやしませんよ。営業活動、プレゼンテーション、経理、企画立案、契約書書き取り‥‥経済活動の基礎から仕込みましょう!」
「あの‥‥貴方の話、良く分からない言葉が多いんですけど‥‥」
「ではこれから覚えて下さい。食事風呂睡眠以外は勉強です! 24時間戦えますかッー!」
「死ぬ覚悟があれば!」
「では、行きますよーッ!」
そして24時間が経過した。
「気分はどうですかーッ!?」
シェーリンはふらふら。でも歯を食いしばって答える。
「あたしは‥‥まだ戦えますっ! これがあたしの戦場ですっ!」
「では、座学はこれにて終了。8時間の休憩後、関係者を一回りしますよ」
「関係者って‥‥」
「まずはマリーネ姫殿下に親衛隊員各位。続いてゲリー殿にエブリー殿にシャミラ殿。ビジネスマナーは実践で体に覚えるのが一番ですよ」
●お目通り
「それで話とは?」
「これです」
領主館にマリーネ姫を訪ねたゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は、冒険者ギルドの報告書の写しをテーブルの上に広げる。
報告書は、悪代官フレーデン討伐に関するものだ。囮となってフレーデンの注意を引きつけ戦いを有利に導いた、シェーリンの果たした役割がしっかり書かれている。
報告書の写しには冒険者ギルド総監カインの署名もあり、記述内容に偽りはないことを保証していた。
「同じラシェット領復興に携わった一冒険者として、復興に尽力されたシェーリン様の現状は目に余ります」
討伐戦におけるシェーリンの功績を証し立てる証人になってくれるよう、ゾーラクがマリーネ姫に嘆願すると、姫は同行するシェーリンに目を向けた。
「貴女のことは覚えています。思えばこの館も、貴女と蒼威が悪代官の前で打った大芝居があったからこそ、今こうして私の住まいとなっているのです」
「微力ながら勝利に貢献できたことは、あたしの‥‥私の誇りでもあります」
言葉にぎこちなさは残るけれど、シェーリンは礼儀作法にかなった立ち振る舞いで堂々と答えた。それを受けて姫も答える。
「喜んで証人になりましょう。それが王族たる私の務めです」
●家庭の事情
ここは王都の貴族街にある、王領代官グーレングの館。
蒼威は客人としてここに来ていた。
「フィオリーナ嬢も一度、ラシェット領の視察でもいかがかな? 我が山茶花で空からご案内しましょう」
「父上と母上のお許しがあれば必ず。だって、私の懐かしい故郷ですもの」
客間でフィオリーナと話していると、やがてグーレングが元子爵夫妻を伴って現れた。
「シェーリンの婚約者殿か。話があるそうだな?」
(「ははは代官よ、フィオリーナはやらん」)
という内心の思いはおくびにも出さず。
最初は無難な話から蒼威は入っていく。
「シェーリンも色々とありましたが、結婚を嫌がり家出したのも良かったではないですか」
「と言うと?」
「場合によっては貴方達も討伐の対象になっていたやも」
その言葉にベルナードとアイオリーンの顔が引きつる。だって、悪代官フレーデンの財産目当てにシェーリンを押し付けようとしていたのは、この両親なのだ。
「ところでベルナード殿は、討伐戦の時はどちらの戦場に?」
「ああ、その‥‥私は王都で代書人の仕事を‥‥」
「おや? シェーリンは代官殿より直々に招かれたが」
と、グーレングに目線を向ける。
あの依頼に参加した冒険者なら誰でも知っているが、ベルナードもアイオリーンも初耳だったようで、互いに顔を見合わせて。その場の空気がだんだん気まずくなってくる。
続いて蒼威は、部屋に飾られている絵に目を向けて言った、
「浮かれ気味とはいえ彼女に発破をかける為にこんな絵を注文するとは‥‥ははは、代官も人が悪い。代官殿は姉上が一人前になったら隣にもう一枚飾るつもりなのですよ、フィオリーナ(‥‥まあつまりだ、そういう言う事にしとけと)」
じっと代官を見つめるフィオリーナ。その顔がにっこりと笑う。
「ああ、そういうことだったのですね。グーレング様」
とっても愛くるしい笑顔。でも代官はそっちに顔を向けようともせず、ただ目を泳がせている。だけどやがて目の焦点は定まった。
「ああ、つまりはそういうことだ。‥‥はっはっは!」
代官はいかにも余裕たっぷりに笑って見せたが、そこへシェーリンと冒険者仲間がやって来た。
「蒼威! どうしてあなたがここにいるの!?」
「気にするな。自分の用事があるんだろう?」
真っ先に代官の前へ進み出たのはゾーラク。
「我々はシェーリンに対するラシェット家の誤解を解き、その不当な扱いを取り止めさせるために参りました」
ゾーラクはその手にする報告書の写しを読み上げ、代官と元子爵夫妻に問う。
「この書面の内容はカイン総監も偽りなしと署名され、マリーネ姫様も証人となられる事を了承されています。それでも尚疑われますか?」
アイオリーンは顔を強張らせた。
「何がお望みなのかしら?」
「それは私がお答えするっ!!」
シェーリン、いきなり声を大にして言い放つ。
「我らが望むは王国の栄えと民の安寧っ!! このウィルの大義に寄与すべくっ!! フェィクシティが正しき発展を遂げることっ!! この目的の為に!! 我らはフェイクシティ事業への騎士学院の参入を求めっ!! また冒険者諸氏はもとより見識ある者から幅広い意見を取り入れることを望むものなりっ!! それは今は亡き賢王レズナー陛下がかくあれかしと歩みし王道に沿うものなりぃぃぃーっ!!」
これには代官も元子爵夫妻も口をあんぐり。シェーリン、声の調子を落して言葉を締めくくる。
「以上はマリーネ姫殿下、ゲリー閣下、並びにフェイクシティ建設に関わる関係者の総意です。そして我が血を分けたる弟と妹にも、よき相談役を」
そう言ってシェーリンはヴェガ・キュアノス(ea7463)に目線を送る。
「ああ‥‥ヴェガ殿か、高名な冒険者との話は聞いておる」
代官がやっと口を開いた。
「ご異存は?」
問われて代官は首を振った。
ヴェガはネルダーとフィオリーナに、にっこり微笑む。
「わしらで良ければいつでも相談に応じるぞえ」
2人も礼儀正しく笑顔で答えた。
「ご好意に感謝します」
「よろしくお願いします」
その有様をじっと横から見つめる代官。これは厄介なことになったぞというその胸中を、その目が物語っている。
●助言
この後、セオドラフと福袋は騎士学院を訪ねた。フェイクシティの宣伝をするためだ。
ラシェット領に戻ると、セオドラフはラーキスに会いに行く。
「実は王都で色々ありましてね」
代官との会見のことを告げると、ラーキスは驚いた。
「あのシェーリンが? どうして僕も一緒に僕も連れてってくれなかったんですか?」
「その気があるなら、まずは顔と名前を売り込みなさい」
セオドラフは微笑み、シェーリンに言ったのと同じ言葉を繰り返した。
「騎士は領主に、貴族は王に仕える者です。身分を取り戻すなら、自らの仕える主を探す時期では? また、未来の主に認められるよう、実績を積み重ねる事も必要でしょう」
●干拓計画
「さてさて、いよいよ本格的な干拓工事の始まりですね〜」
ギルスが沼地の地図を広げ、仲間達との討議に入る。
「水抜き後の土地利用としましては、農耕地を提案します。沼地ということで地盤もあまり安定していなさそうですしね〜」
この地に城を造るのは無理でも、農耕地なら十分にいけると考えた。牧畜の盛んなフォルセと組み合わせれば、産物を互いに補える。
「戦闘訓練施設が主体で生産性の少ないフェイクシティで、せめて食料自給率を高めるためにも、訓練生に農作業をやってもらえれば、基礎体力訓練にもなりますし。単に消費するだけだった貴族的立場では知ることのできない庶民の苦労も分かるでしょうし」
「で、干拓後に何を栽培するかですが‥‥」
と、福袋。
「湿地ですから米‥‥こちらではオリザでしたか。ルーケイでの栽培が成功していますから、ここはルーケイからの輸入ルートを確保といきますか」
実際の工事は仲間達に任せ、福袋はギルスと共に南ルーケイに出かけた。
「騎士の卵に畑仕事をやらせるってかい?」
ギルスの話を聞き、現地家臣のムルーガは呆れたが、オリザの栽培については前向きな姿勢を見せた。
「儲け話なら一枚でも二枚でも噛ませてもらおうじゃないか」
「問題は、収穫物の管理権や徴税権などを代官に取り上げられないようにする事ですね」
と、ギルス。
「そりゃそうだ、王領代官なんてものは礼服着た大盗賊みたいなものさ。油断してたら全部、分捕られちまう」
そう言って、ムルーガはオリザの栽培地を案内する。湿地帯を利用した水田では、オリザがすくすく育っていた。
「見ての通り、ここはオリザの栽培に適した地だ。だけどその干拓地でも上手くいくかどうか、見極めるには何年もかかるだろうね。干拓地の整備が済んだら、様子を見に行くとしようかい」
●石化解除
沼地の干拓、まずは東西に水路を掘ることになったが、最初の仕事は沼地に沈む石像の引き揚げだ。
「まずは沼地での動きに馴れてください」
率先して作業を行うのは、ストーンゴーレム・バガンに乗ったジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)で、沼地に腰までつかりながらも動きは滑らかだ。
だが、これも訓練になるからと連れてきたアンジェの方は、まだ経験が足りないせいで、バガンの動きがぎこちない。
「あっ!」
どばしゃっ!! 泥の飛沫を派手に上げて、アンジェのバガンがひっくり返った。
ジャクリーンは手を差し伸べ、アンジェのバガンを起こしてやる。
「足場が沼地で動く時のコツは、なるべく重心を低くすること。もっとひざを曲げ、腰を落して歩くのです」
「はい」
手探りで石像を拾い上げていくが、以前に引き揚げたものも含め、石像はどれも破損してバラバラになったものばかり。
だがその中に2体だけ、原型を留めているものがあった。
どちらも女性の像だ。いや、正確に言えばそれは石像ではなく、石化させられた人間である可能性が非常に高いのだ。蒼威の持つ『天使の万能薬』か、ヴェガのニュートラルマジックの魔法で、元の姿に戻せるかもしれない。
「こうして見ると、一方は古びていて、もう一方はずいぶんと新しいな」
石像表面の痛み具合から察するに、1体は長いこと沼地に埋もれ、もう1体はつい最近になって沼地に投棄されたかのようだ。
「俺の嫁候補としては、だな」
2体の石像をじっくり検分する蒼威。
「新しい方はトウがたってるな。子どもの1人か2人は生んでそうだ。古びた方は‥‥」
蒼威の目が古びた石像に吸い寄せられる。
それは見るからに若々しい乙女。だいぶ傷んでいるけれど、どこか神秘的な雰囲気がある。
「美しい‥‥」
彼女に決めた! 思わず『天使の万能薬』をその口に注ぎ入れようとした蒼威だが。
「これこれ若者よ、そんなに軽々しく結婚相手を決めるでない。こういうことは腰を据えてじっくり考えてから決めるものじゃ」
話を聞いてやって来たドワーフ親爺が割り込み、娘の石像を背負って去って行った。
「おい、勝手に持って行くなよ! おあずけはないだろっ!」
さて、残された新しい方の石像だが。
「石化が呪いによるものでなければ、石化は解除できるはずじゃ」
ヴェガがニュートラルマジックの魔法で、石化の解除を試みる。
魔法は成就した。石像は見る間に生身の人間の姿に変わっていく‥‥。