希望の村8〜新村にはペットとミツバチ
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月24日〜05月27日
リプレイ公開日:2009年06月09日
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●オープニング
●放火と逃走
時は4月の初め。ホープ村が祭りで賑わう最中、隣領ワザン男爵領との境にある森に火を放った者がいた。風車小屋建設の資材置き場への放火に続く、2度目の放火だ。首尾よく火は消し止められたが、放火犯は逃走。
「追いかけましょう! シフールの羽なら間に合うはずです!」
率先して追跡を始めるシフール冒険者。祭りに呼ばれたしふ学校のシフール達も、ぞろぞろと後に続く。
程なくシフール達は、馬に乗って街道を逃げて行く放火犯に追いついた。
「魔法で足止めを!」
シャドウバインディングの魔法が放たれる。馬の足が封じられ、勢い余って放火犯が地面に投げ出される。それでも放火犯は走りながら逃走。再び魔法を放とうとしたシフール冒険者の耳に、仲間の叫びが飛び込んだ。
「うあっ! やられた!」
見れば、仄かな光の矢が幾度も仲間の体を貫く。光の矢は近くの森から放たれている。
「これはムーンアロー!?」
思わぬ敵勢力の妨害だ。ムーンアローに続き、数多の矢が森の中から放たれる。
「早く安全圏へ!」
矢の届かぬ所まで引き下がったシフール達は、森の中から飛び出してきた馬車を見た。
再び追跡が始まる。追って来るシフールに矢を放ちつつ、馬車は街道を北上して王都の門の中へと消える。後を追って門をくぐろうとしたシフール達を門番が阻んだ。
「こらお前ら! なんだその騒々しい真似は!? ここは王都の門だぞ!」
「先ほど門をくぐった馬車の中に放火犯が!」
「何だと!? よし、ここは我らに任せておけ!」
やがて王都の警備兵に連絡が行き、馬車の所在が確認された。
「調べによればあの馬車は、シスイ男爵の所有する馬車だ。だが我らの調べでは、中に怪しい人物は乗っていなかった」
調査から戻った警備隊長が、シフール達にそう告げ知らせる。
「まさか、そんな!」
警備隊長は困った顔になって言葉を続けた。
「放火事件の現場は王都の外であるが故に、我らの管轄ではないのだ。領地境の森への放火なれば、まずはワザン男爵とホープ村領主とが共同で解明に乗り出すのが筋。シスイ男爵の関与を疑うのであれば領主同士で対策を講じ、しかるべき決着をつけるがよい」
ちなみにシスイ男爵は、王都の近くに領地を持つ名門貴族。‥‥といってもそれは昔の話で、先王エーガンの治世下では金に困って窮乏生活を送っていた事実が、冒険者ギルドの報告書にはしっかり書いてある。国王が替わってからの暮らしぶりは、まあまあ持ち直したらしいが。
●小麦とハチミツ
「バードと弓兵の伏兵か。これは明らかに組織的な犯行、ケチな盗っ人や小悪党の犯行ではなさそうだ。かといって、これまで特に縁もなかったシスイ男爵が、わざわざ自らホープ村領主に敵対行動を取るとは考えられない。恐らくは背後に黒幕がいるはず」
これはホープ村の農業指南役、レーガー卿の見立てである。
そのレーガー卿は今、王領バクル内の旧ラウス男爵領にいる。この地を管理するルーケイ伯爵夫人セリーズとホープ村領主との間で、復興に向けた計画が進められている土地だ。
すぐ目の前には焼け落ちた領主館の跡。往時の名残である館の土台石は、伸び放題の草の陰に隠れんばかり。その有様を悲しげに見つめている娘がいる。
この地を治めていた元領主の忘れ形見、キャロリーナだ。今はホープ村領主の世話になっている。
「すっかり、消えてなくなってしまったのね‥‥」
「焼け落ちた館は、また建て直せばいい。土地を耕し種を撒き、実りを刈り取る者がいる限り、この地が滅びることはない」
レーガー卿は指し示す。焼け落ちた領主館の周りの土地を。そこにはこの春に撒かれた小麦がすくすく育っている。ホープ村領主が新村建設の号令を発して以来、レーガー卿はキャロリーナや村長そして大勢の村人達の協力のもと、領主が留守の間もずっと仕事の指揮を続け、領主が借り受けたチャリオットの力をも利用して土地を耕し種を撒き、放置され荒れ果てていた耕地を再び小麦畑に変えたのだ。
「そうそう。冒険者達が来たら、あれの回収を頼まないとな」
「あれって‥‥」
「住処の村を魔物に襲われ、ホープ村に避難してきた村人の中に、養蜂をやっていた者がいた。話によれば蜂の巣箱が今も村に置き去りにされているという。もったいない話だから、それを回収してもらうのだ」
レーガー卿の話を聞いて、キャロリーナはうっとりした目になる。
「ハチミツなんて、もう長いこと食べてなかった‥‥」
●ペット預かります
「この辺りで如何です?」
「成る程、広さは十分だな」
「新村の建設予定地に近く、ホープ村からも日帰りで来れます」
野原のど真ん中に立って話をしているのは、ルーケイ伯爵夫人セリーズと王領バクルの警備責任者。先の依頼で冒険者のペットのことで問題が出たので、話を聞いたセリーズはポープ村の近場にペットの一時預かり所を設けることに決めたのだ。
「よし、ここの土地に決まりだ。まずは餌場と整備、それに見張りの兵を数名ほど手配してくれ」
ペットの逃走防止のため見張りが付けられるが、飼い主と十分な絆のあるペットなら1日1回、この野原で飼い主が1〜2時間ほどペットの相手をしてやれば大丈夫だろう。本来の依頼の合間で、時間のある時にでも来ればいい。
ただし絆の低いペットだと、暴れだして見張りの手に手に負えなくなる危険もある。そういう場合は出来るだけ長い時間、飼い主が一緒にいてやらなければならなくなる。
●今は我慢?
「625人? 間違いはないのかね?」
「何度も数を数えたけれど間違いないわ。小さな子供や赤ちゃんも入れて625人よ」
「これはずいぶんと増えたもんじゃなぁ‥‥」
老村長ジェフ・ゼーロはキャロリーナの答を聞いて、はあっとため息1つ。読み書き計算な得意な彼女にホープ村の人口を数えさせたら、なんと625人もいたのだ。
「300人から600人になるまであっと言う間じゃないか。それだけ魔物に襲われる村が増えてるっとことだよ」
女村長マリジア・カルルも呆れたような困ったような顔。
「ま、これから新村も出来ることじゃし。625人を2つの村に分ければちょうどいい具合じゃろう」
「で、あっちの方はどうするのさ? 風車小屋も完成したんだし」
「そうじゃなあ‥‥」
老村長は再び思案顔になる。実は去年からずっと建設工事の進んでいた風車小屋が、ついにこの5月に完成しのだ。本来なら祭りの1つでも開いて祝うべきところ。5月はちょうど、大地の恵みを祝う『地霊祭』が行われる月でもある。
しかし相次ぐ放火事件に、未だ戻らない歌うたい村長キラル、それに新村建設のためにやるべき沢山の仕事のことを考えると‥‥。
「祭りはもうしばらく、先延ばしにした方がいいかのぅ?」
翌月の6月は『夏祭り』の月でもあり、またアトランティス世界では重要な祭りである『シーハリオン祭』が行われる月でもある。お楽しみは後々まで取っておいた方がいいかもしれない。
●リプレイ本文
●領主の仕事
完成した風車小屋の建設費は4000G。ホープ村の領主クレア・クリストファ(ea0941)は、建設費のうち後払いに回した1000Gに、火事による手間賃と迷惑料の200Gを加算して、大工の親方に支払った。
「また何かあれば宜しくお願いするわね」
「こちらこそ、仕事があれば是非ともお願いします」
大工にとっても美味しい仕事。気前のいい領主はお得意様だ。
さて、今回新しく村にやって来た冒険者の中には土御門焔(ec4427)がいる。彼女は陰陽師であり、陽と月の精霊魔法の使い手だ。占い師としてカウンセリングにも長じており、村人達の不安が和らぐよう相談相手になり、また領主クレアのためにフォーノリッヂのスクロール魔法を使って、数々の懸念事項について未来を予知してみた。
まず『ホープ村』。
「夜中に大騒ぎが起きています。何か事件が起きたようで、何かが燃えているのが見えます」
次に『シスイ男爵』。
「一人で部屋にこもっています。何かを恐れているようです」
続いて『ワザン男爵』。
「とても難しい顔をしています。困難に直面しているようです」
そして『キラル村長』。
「ホープ村で村人達と口論しています。リーサも一緒です」
「つまり、キラルはやがてホープ村へ戻ってくるというわけね?」
「恐らくは‥‥」
クレアは報告を受けたものの、これだけでは情報があまりにも少なすぎる。
「ともかく、今は出来ることから手をつけなければ」
領主として衛生知識を村に普及させることに力を尽くしてきたが、今回さらに『赤き愛の石』を村に置くことにした。マリジアとルシーナを呼び、クレアは石を示して告げる。
「これは病人が1日でも早く良くなるように。病人が出たら、重い病人から順番に抱かせなさい」
鷹栖冴子(ec5196)も初めてホープ村に来た冒険者だ。
「いや〜メイで手伝える仕事がなくなっちまってねぇ。こっちに来たら、たまたまあたいが手伝える仕事があって良かったよ! あたいのことは『おタカ』って呼んどくれ」
彼女はフィラ・ボロゴース(ea9535)の下で働くことになった。
「新顔だけど、よろしく頼むよ村の衆!!」
「それじゃおタカには、建設途中の櫓を担当してもらおうか。あたいの方は家屋と家畜小屋の増設をやっておくから」
冴子は自分の荷物から皮兜を取り出し、手伝ってくれる村人達に手渡す。
「みんなこいつを被りな」
「これから戦にでも行くんですかい?」
「そうじゃなくて。仕事中に怪我しないようにだよ! 事故防止は現場の基本!! 安全確認、無事故で守る明るい家庭ってもんさ!」
夕方になると、放火事件の調査に当たる2人の仲間が、王都の街角や貴族のサロンで仕入れた情報を持ってきた。事件への関与が疑われるシスイ男爵についての情報だ。
「レオナにヒール、感謝するわ」
●懸念
「良い仕事をしてくれたわ、私も確りやらないとね」
レーガー卿に感謝の言葉を告げると、クレアは協議に入る。
「懸念すべきは小麦を狙った妨害行為。今後は見回り態勢の強化も考えないと」
「村には警備兵がいるし、格闘訓練を積んだ村人達も増えている。ケチな盗賊やゴロツキが相手ならそれで十分。だが、真夜中にグライダーで侵入してくる賊に、虫や動物に姿を変える魔物、それに隠密行動に長けたプロの仕事人や、魔法の使い手が相手となると‥‥」
クレアとレーガー卿、2人して開け放たれた窓の外に目をやる。時は既に夜中。1匹の蛾が明かりに引き寄せられ、ひらひらと飛んで来た。
「まさかとは思うけど‥‥」
魔法で確かめるクレア。蛾は魔物ではなくただの虫だった。
「疑えばきりがないわね。今後は頭数を増やすだけでなく、質的な強化も必要ということかしら?」
「せめて魔法の使い手が1人でも村に居てくれればいいが‥‥人材の確保が難しいな」
●シスイ男爵
翌日。クレアは本格的に放火事件の解明に乗り出した。
まずは焔と共に南の隣領に向かい、ワザン男爵と対談。
「仲間達が集めた情報によれば、最近のシスイ男爵は随分と羽振りがよさそうね。それというのも王領代官ラーベから資金援助を受けているお陰」
ラーベは黒い噂の絶えぬ悪代官。クレアと親しいルーケイ伯爵夫人セリーズにとっては、ルーケイの民を虜にしている宿敵でもある。
「その話なら私も聞いている」
と、ワザン男爵。
「ラーベが事件の黒幕という可能性も十分にあるわ」
「可能性を否定はしないが証拠がない」
「証拠を集めるのはこれから。私はこれからシスイ男爵の元へ向かいます」
「健闘を祈る」
対談を終えると、クレアと焔は王都の貴族街にあるシスイ男爵の館へ向かう。
「これはこれはホープ村の領主殿。我が館へようこそ」
シスイ男爵はにこやかな笑顔で出迎え、2人を客間に通す。
情報によればシスイ男爵は相当な見栄っ張り。出された飲み物はジェトの国から取り寄せた高級品の紅茶だ。
「今日ここに来た理由は放火事件の調査のため。賊を乗せたはずの馬車について、明確な説明を求めます」
クレアが要件を切り出した途端、男爵の顔から笑みが消える。
「その件については警備隊から説明があったはず」
「それに納得できないからここに来ているの」
2人の会話は次第に刺々しくなっていく。頃合を見計らい、焔は席を立つ。
「こういう問題について私は素人ですので席を外しますね。どうぞ領主のお二方でお話を進めて下さい。何かございましたらお呼び下さい」
そう言って廊下に出て、周囲に誰もいないのを確かめると、焔はエックスレイビジョンの魔法を唱えた。壁越しにシスイ男爵の姿を確認すると、続いてリシーブメモリーの魔法を唱える。
男爵の記憶が読めた。
『男爵はラーベの差し金で動いている。男爵はラーベの要請で、ラーベの部下達に自分の馬車を提供した』
テレパシーの会話でその情報をクレアに送っていると、通りかかった召使が廊下にいる焔の姿を見て訊いてきた。
「如何なされましたか?」
「領主同士の立ち入った話なので、私は席を外しています」
部屋の中ではクレアとシスイ男爵の話が続いている。
「問題を抱えているのなら解決に協力しましょう。ですが誘惑に負けて私利私欲に流されたのであれば、フオロ分国の復興事業を妨害する明確な『敵』として、エーロン陛下に伝えます。素直に誰に頼まれたか言えば、まだ酌量の余地はありますよ。教えて。私の前に立つ敵は、誰?」
「失礼千万にも程がある! もう沢山だ!」
シスイ男爵は怒りを露にする。
「どうやらこれ以上の話し合いは無駄なようね」
クレアは席を立ち、焔と共に館を後にする。男爵からの見送りは無かった。
●巣箱回収作戦
さて、ホープ村では。
「いたいた、おじさ〜ん」
ミツバチおじさんのところに、龍麗蘭(ea4441)がやって来た。
「前に話してくれた蜂の巣箱を回収に行くんだけど、やっぱり専門家が居てくれると心強くてね」
「わしもあの村に行くのか? 魔物だらけのあの村にか?」
「魔物からは私達が絶対に守るから、できれば一緒に来て欲しいんだけど‥‥」
「仕方ない。大事なミツバチのためじゃからな」
出発前に、チカ・ニシムラ(ea1128)は村のみんなを呼び集めて言い聞かせる。
「そういうわけであたしはお出かけしちゃうので、今回は皆、ルシーナお姉ちゃんの言うこと聞いてちゃんとやるのにゃよ♪ いい子にしてたらお土産が‥‥あるかもしれないにゃ♪」
「出来れば何人か手伝いが欲しいんだけど」
麗蘭が呼びかけると、真っ先にレーガー卿がやって来た。
「レーガー卿、貴方が?」
「最初に言い出した以上は責任を果たさねばな」
魔物に襲われて捨てられたその村は、王都と地方を結ぶフロートシップの航路近くにある。近場で船を下りた一行のうち、雀尾煉淡(ec0844)はペットのペガサスに乗り、他の者達は軍馬2頭の引く馬車に乗って村に向かう。
崩れかけた家々の立ち並ぶ村が見えてきた。
「まだ魔物が徘徊してるかもしれないから、私たちが様子を見てくるわ」
麗蘭とチカが先に馬車を降りて、村へ踏み込む。
「息をしてる生き物はいないようだにゃ♪」
チカのブレスセンサーに反応なし。
だが廃屋の一軒に踏み込むと、そこに魔物が住み着いていた。ずるずる動き回る腐りかけの死体だ。
「いたいた、それじゃ邪魔者にはご退場願いますか」
麗蘭がオーラパワーをぶち込む。魔物は苦悶するようにびくびく震え、今度こそ本物の死体に変わる。
廃屋に潜んでいた5匹ばかりの魔物を、そうやって片っ端から片付けると、空から煉淡の乗ったペガサスが舞い降りる。
「村に居座っていた魔物は全滅だ。だが、上空からデティクトアンデットで調べてみたら、村の近くの森の中にまだ30体ばかり隠れている」
と、煉淡。それを聞いてミツバチおじさんが怖そうに肩をすくめる。
「魔物どもは昼間は森の中に隠れておるが、夜になるとぞろぞろ出てきおるぞ〜」
でも辺りを見回してみると、村の回りには花咲く野原が広がり、そのところどころに放置された巣箱が見える。ミツバチ達は花と花との間を飛び回ってせっせと蜜を集めている。一見すると、それはとても平和な光景だ。
●魔物襲来
やがて夜が訪れた。昼間は忙しく飛び回っていたミツバチ達も、今は巣箱に戻って寝静まっている。
「おじさん、まずはどうすれば良いの?」
「そおっと巣箱に近づき、用意した袋をすっぽり被せるのじゃ」
「それじゃあ回収は任せてあたしは付近の警戒をするにゃね♪ 暗いし何が潜んでるかわからないしにゃー」
「じゃあ、そろそろ行くわね」
離れた場所に待機していた冒険者達は、チカだけをその場に残してじりじりと巣箱に近づき、1つまた1つと用意した袋を巣箱に被せていく。
「おじさん、次は?」
「ミツバチを驚かさぬよう、そおっと持ち上げて馬車まで移動じゃ」
「そーっと‥‥そーっと‥‥」
巣箱の1つを馬車まで運び終えた時。
「魔物が出たにゃ!」
チカが叫んで森の方を指差す。そこに魔物の群れがいた。
動き回る死体どもだ。元は盗賊だったらしく、錆びてボロボロの剣を手にした者が20体ばかり。そして動く犬の死体が12体。そいつらが月精霊の光の下、じりじりと近づいてくる。昼間、村に潜んでいた魔物よりもずっと手強そうだ。
「皆、俺の近くに!」
煉淡が仲間達を呼び集め、レジストデビルを付与。巣箱が被害に遭わないよう、煉淡がホーリーフィールドで守る。皆は麗蘭のリードで魔物との距離を縮めていく。
「ここなら良いかな? それじゃ行くわよ!!」
麗蘭、左翼から攻撃。次いで煉淡が右翼から。そしてチカがウィンドスラッシュを放つ。
「マジカル♪チカが悪い子達にお仕置きなのにゃ! マジカル♪スラッシュ!」
真空刃が魔物どもを切り裂く。麗蘭と煉淡が魔物の前進を押し止め、魔物どもは横一列に並んだ。それをチカは見逃さず。
「一直線に‥‥もらったのにゃ! マジカル♪サンダー!」
魔物の列の先頭に移動し、ぶちかますライトニングサンダーボルト。腐った肉が焦げる臭気を放ち、魔物どもが1匹また1匹とくずおれる。
戦闘は冒険者側の圧倒的有利で進み、最後に図体のでかい魔物が1匹残った。そいつはかつての盗賊の頭。
「あががあ!!」
錆びた剣を振り上げ、体をぐらつかせながら突進をかける。
だが、その背後からペガサスの蹴り。倒れたところへ麗蘭がオーラパワー、煉淡がホーリーをぶちかます。
魔物は倒れた。もはや動くことはない。
「さあ、巣箱を運びましょう」
皆は仕事の続きに取り掛かり、全ての巣箱を馬車に運び込む。
「もう魔物はいないかにゃ? また襲われても困るしさっさと撤退にゃー。明るくなって蜂さんが起きてもまた面倒だしにゃ」
村を離れる冒険者達。作戦は成功した。
●新村建設
ここはホープ村の東の地。新村の建設は始まったばかり。新村担当のファル・ディア(ea7935)が、召集された村人を前にして訓示する。
「焼け出された人々は救いの手を求めています。1人でも多く、その手を差し伸べられる様に、皆で努力を致しましょう」
元領主の娘キャロリーナも、ファルに同伴するようクレアから伝えられた。
「辛いかもしれないけど‥‥大丈夫?」
「大丈夫です。がんばります」
村人を率いて現場に到着したファルが最初に行ったのは、焼け落ちた領主館や倒壊した家屋など、あちこちに残る残骸の撤去だ。
「怪我のないよう慎重に」
現場の様子や、人々の作業の習熟度を見極め、ファルは作業を監督する。大きな事故もなく作業は進んだ。
住居の設計もファルは平行して進める。最初に建てるのは当座を凌げる簡易な造りのものだが、後から冬も越せるよう暖炉の設置場所も設けておく。
少しでも時間が余ると、ファルは村人の希望者を集めて、文字の読み書きや簡単な算術を指導。すると幾人かの村人がファルに問う。
「領主館はいつ再建されるんでしょうか?」
「それは皆の住処が完成してからにしようかと」
すると村人達は困惑顔になる。
「でも領主館のない村なんて落ち着かないですよ」
「なんだか村の真ん中にぽっかり穴が開いてるようで」
「せめて形だけでもねぇ」
●ホープ村にて
冴子が頑張った甲斐があって、ホープ村に4つの櫓が建った。
「短い期間だけど何とか間に合って良かったよ」
「こっちの仕事も進んだしな」
フィラの方も、人家と家畜小屋の増設を進めておいた。ただし将来は家畜が増えるとしても、現状では他所から流れてくる人々の方が多いので、空いている家畜小屋には人を住まわせている。
「考えてみると、これだけ人が集まったから仕事もはかどるんだよな」
人手が多いし、新参の村人の中には大工の経験者もいる。力仕事をするには大助かりだ。悩みの種は食料だが。
夕方になると、フィラが新村へ行かせた若い衆達が帰ってきた。
「お疲れ様! あっちの仕事はどうだった!?」
「いや〜、たっぷり筋力がついたよ」
若い衆達は元気そうに笑って答える。重労働もトレーニングのうち。
「よっし! これから組み手の練習をしないか?」
「いや、今日はもう‥‥」
辞退する者もいたけれど。
「せっかくだからお願いします」
疲れを押して練習に励もうとする者もいる。
村の周りでは村人達が巡回し、不審者がいないかどうか見て回っている。大人達だけではなく子ども達も。子ども達を率いるのはルシーナとキャロリーナだ。
「チカお姉ちゃん達が戻ってきたよ〜!」
遠くから近づいてくる馬車を見て、子どもが叫ぶ。
ミツバチ回収作戦に向かった一行が、村へ戻ってきたのだ。
「ルシーナお姉ちゃんにキャロリーナちゃん、村は大丈夫だったかにゃ?」
チカに問われた2人は、にっこり笑って答える。
「ええ、子ども達が頑張ってくれたから」
「おかげで村はずっと平和だったわ」