希望の村7〜歌うたい村長の失踪
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2009年04月12日
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●オープニング
●ワザン男爵との交渉
今は冒険者の領主が治めるホープ村も、かつては貧民村と呼ばれる村だった。そもそもこの村はラウス男爵領の端っこにある村だったが、先のウィル国王エーガンの暴政下で男爵家は貴族の身分を失い、家族は散り散りに。以後、旧男爵領は周辺の領主に3分割され、それぞれワザン男爵領、シェレン男爵領、王領バクルに収まった。
このうち旧ラウス男爵領の主要部を獲得した王領バクルだが、王領の支配者たる悪代官シャギーラはハンの悪徳商人とのあくどい取引に血道を上げるばかりで、旧ラウス男爵領の経営には無関心。ために旧ラウス男爵領の主要部は長らく放置され、荒廃を極めた。
一方、ワザン男爵領に組み込まれた旧ラウス男爵領西部だが、その後の紆余曲折を経た末に、小さな村を含むその北側が志ある冒険者に割譲された。そうして生まれたのが今のホープ村だ。
このホープ村とワザン男爵領との境には森があって、2つの領地の区切りとなっているが、明確な境界線が引かれているわけではない。そこで先月の話になるが、ホープ村の領主はこの境界線を明確に定めることを望み、隣領に赴いてワザン男爵と交渉した。
「そうか話は分かった。しかし今のままでも問題はないのではないかね? 明確な境界を引かずとも、これまで特に問題はなかったのだ」
「ですが森も大事な領地だし、折角だから有効利用しないと。ホープ村に接する旧ラウス男爵領西部の南半分については、条件付での買取を行うことも視野に入れています」
「ふむ」
ワザン男爵はしばし考え込む仕草を見せ、その後に尋ねる。
「時にホープ村領主殿。貴殿は村の東に広がる土地、今は王領バクルに組み込まれている旧ラウス男爵領の復興にも、熱意をもって取り組んでいると聞いている。もしやホープ村周辺の森の木々を、一本残らず切り倒して東へ運ぼうという計画でもおありかな?」
「いいえ、まだそこまでは‥‥」
森の利用といえば、薪を拾ったり、肥料とする落ち葉を集めたり、春の野イチゴ摘みや秋のキノコ狩り、それに豚の放牧といったところ。材木の入手なら、王都の材木商から購入した方が手間もかからない。
「森の現状に大きな変化がないのであれば、無理に境界を厳密に定める必要はない。ホープ村にとっても森は大切な財産、大事に使いたまえ」
ワザン男爵はそう言った。つまるところ男爵の立場は、明確な利害を伴わない限りは現状維持。下手に境界を定めて、後で自分の損になるような面倒ごとが起きては困るのだ。
●視察
春うらら。冬枯れしていた野原にも緑が甦り始める。でもよく見れば、草陰には石がごろごろ。かつてここに建っていた屋敷の土台石だ。
「すっかり忘れられ去られた土地だな」
馬上から廃墟を見やり、呟いたのはルーケイ伯爵夫人セリーズ。悪代官シャギーラ討伐の立役者であり、今は王領バクルの実質的な統治者だ。今日は今後の復興計画に備え、領内視察で旧ラウス男爵領に赴いたのだが。かつての領主館は焼け落ち、周辺にあったはずの村々も、今では見る影もない。それでも領主館の近くには小川が流れ、放置されている井戸も幾つもある。水利の点ではホープ村よりも恵まれていそうだ。
「手間はかかるが、復興なれば1千人を養える村として甦るやも知れぬな」
●失踪
ホープ村には3人の村長がいる。その3人とは老村長ジェフ・ゼーロ、女村長マリジア・カルル、バードの歌うたい村長のキラルだ。
でも人間の娘リーサとの恋仲を取り沙汰されて以来、キラルはずっと悩み続けている。
「判っておるじゃろう。異なる種族同士で結婚は許されんのじゃ」
老村長ジェフに言い聞かされたその言葉が、何度も何度もキラルの胸中に甦る。アトランティスには異種族間結婚に対するタブーがある。だからキラルとリーサは許されぬ仲なのだ。
「キラル‥‥」
声をかけられ、振り向けばリーサがいた。
「リーサ‥‥」
差し伸べたその手の動きが止まる。見回せば子ども達の視線。村の大人達も遠巻きにして、2人を見つめている。
愛する者同士で抱き合いたい、キスを交わしたい。でも、それは出来ない。
「ちょっといいかい?」
キラルはリーサの耳元で何事かを囁く。
「‥‥え!?」
リーサは驚きの表情。
「いいね」
「‥‥ええ」
短い言葉を交わし、2人は何事もなかったかのように別れた。
だがその晩、村長の家で。
「た、大変だよ!」
「どうしたね、マリジアや?」
「玄関口にこんな物が!」
血相変えて駆け込んできたマリジアが、ジェフに差し出したのは置き手紙。
『しばらくリーサと一緒に2人だけで旅に出ます。探さないで下さい。必ず戻ります』
キラルの置き手紙だった。
離れた家ではリーサの幼い弟達が、いつも親しくしているルシーナにすがりついて泣きじゃくっていた。
「お姉ちゃん、戻ってくるよね‥‥」
「大丈夫よ。戻ってくるって約束したんだから」
そう言葉をかけてはみても、ルシーナの胸中から不安は消えない。
●放火
去年から始まった風車小屋の建設も順調に進んでいる。大型を1基、小型を3基という計画だったが、ホープ村を臨む丘の上には既に小型の風車3つが出来上がり、大型の1基も本体はおおかた仕上がった。
「後は肝心の羽根車を取り付け、調整を加えるだけじゃな」
工事を取り仕切る親方は満足顔。完成すれば、後払いで約束した建設費の半分が懐に入ってくる。
ところがある晩、事件は起きた。風車建設の資材置き場から火の手が上がったのだ。
「見ろ! 火事だっ!!」
真っ先に気づいたのは、隣領ワザン男爵領から出向する村の警備兵達。
「一大事だ、急げ!!」
村の主だった者達も叩き起こされ、大急ぎで現場へ駆けつける。だが近くに水場はない。消火作業に手間取り、資材の材木の大半を焼失してしまった。
現場を調べてみると油の撒かれた跡がある。
「これは間違いなく放火だぞ!」
「さては領主様に怨みを持つヤツの仕業か!?」
「となれば犯人は、領主様にこっぴどくやられたベクトの町の悪代官の残党かもな」
「いや、お祭り荒らしダラーノの仕返しじゃないか?」
「あの悪賢いモラン商会の嫌がらせかもよ」
皆は口々に噂するも、これが犯人という決め手に欠ける。
「人気はあれど、あくどい連中の怨みを色々と買ってる領主様だからなぁ」
●どうなるお祭?
「こんな時にキラルがいてくれたらねぇ‥‥」
ついつい愚痴ってしまう女村長マリジア。
「必ず戻って来ると書き残しておるのじゃ。気長に待つしかあるまい」
そう言う老村長ジェフも思案顔。
それにしてもホープ村の人口、なんと増えたことだろう。今日も新参者の一団が20人ばかり、ぞろぞろとやって来た。またしても、魔物に襲われた村から逃げて来た村人達だ。村のあちこちにたむろする新入りを見ていると、マリジアは心配になる。
「まさかあの中に、放火犯がいたりしないだろうねぇ」
そうでなくともこんなにも急に新住民が増えれば、いざこざの種も増える。
「疑ってばかりでは、ますます村がぎすぎすしてしまうぞ。さて、恒例のアレじゃが‥‥」
ジェフが言う。そう、いつものお祭りだ。3月といえば陽光の恵みを祝う『陽霊祭』の月。祭をやれば、新旧の村の住民が打ち解けあう良い機会にもなる。もっともこの不穏な情勢下で、果たして領主様や冒険者達が祭を許可するかどうかは微妙だ。
「じゃが、とりあえず準備だけはしておくかの」
●リプレイ本文
●領主の怒り
放火事件を知り、ホープ村領主クレア・クリストファ(ea0941)は歯噛みした。
「これまで悪党共に温情かけ過ぎたわ」
風車小屋をはじめ村の各所に防火槽の設置を指示し、犯人探しの号令をかける。
「放火犯を捕らえたら全財産を身包み残さず没収、顔面両手両足に焼印を押して強制労働刑、再び領地内に姿を見せれば次は問答無用で磔よ。我が領民や領土に仇を成せばどんな地獄を見るか知らしめてあげるわ。我が前に立ち塞がるのなら、何処までも追い詰め‥‥無に還すのみ」
この言葉を聞いて村人達は震え上がった。こんなに怒った領主をこれまで見たことがない。
でもユラヴィカ・クドゥス(ea1704)は、そんなクレアの言動が危うく思える。
「あまり肝が小さいのもどうかと思うがのう。何もかも自分のコントロールの下になどできるものではなかろうに」
「いや領主様のお怒りも分かるがなぁ‥‥」
そこに居合わせた老村長ジェフが、領主の身を案じるように言った。
「しかし心配なのは、お怒りのあまり我を忘れ、勇み足を踏み過ぎて窮地に陥ってしまうことじゃ。‥‥おっと、わしが言ったことは領主様には内緒じゃぞ」
「いや遠慮はいらぬじゃろう。むやみな厳罰主義もそうなのじゃが‥‥」
話すうちにユラヴィカの口から不満がぼろぼろと。ジェフは怪訝な顔になる。
「一体、何があったのじゃな?」
「実はのぅ‥‥」
話を聞くうちにジェフも納得。
「いやそうか、原因はペットのことで。まあその‥‥村としても何とかせねばいかんのぅ」
「それはそれとして歌うたい村長殿のことじゃがの。万が一の時の為に居場所程度は把握しておく方がよかろうの」
ユラヴィカはサンワードの魔法を使い、失踪したキラルとリーサの行方を探ってみる。ホープ村から2人の居場所までの距離と方角はすぐに特定できた。後で地図で確かめてみると、そこは王領ラシェットの領内。
「比較的、治安の良い場所におるようじゃ。無事でいればいいのじゃが」
●村のお仕事
「あの子達は必ず戻ってくる、私はこの言葉を信じるわ。2人が戻るまでこのことは外には伏せておいて」
キラルの置き手紙について、クレアはそう言う。ソード・エアシールド(eb3838)も、残されたリーサの弟達を励ました。
「戻ってくるって書いていたんだから、姉さんの事を信じてあげろ」
ルシーナとキャロリーナにも2人の世話を宜しくと頼み、しかしソードはその後で呟いた。
「‥‥両親が捨てた子供を置いていくとは‥‥2人の仲を反対したくなってきたんだが」
ともあれ村でやるべき仕事は色々ある。放火対策で防火槽や水桶の設置を済ませると、ソードはフィラ・ボロゴース(ea9535)の進める見張り櫓の建設を手伝う。
「見張り櫓、あと幾つ作るんだ?」
「あと3つは作りたいな」
「貯蔵庫建設まで手が回りそうか?」
「うーん、あたい達だけじゃ辛いな。村の人達にも、あたいたちがいない間でも作業ができるように教えとかないと」
2つ目の見張り櫓の建設が一段落すると、村の若い衆がフィラの周りに集まってきた。
「姐様! 訓練の方は如何致しやす?」
共にずっと訓練に励んできた若い衆である。
「よし、今日も訓練するぞー! 皆、キツいだろうが放火の件もあるし、自分達の村をちゃんと守れるように確りと力をつけないとな!」
たちまち威勢のいい声が返ってくる。
「そうこなくっちゃ!」
「放火魔なんぞひっ捕らえて磔だ!」
●放火犯
ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)とディアッカ・ディアボロス(ea5597)は放火事件の調査に乗り出し、放火の現場に探りを入れる。事件の日からまだ1週間と経っていない。
「放火の時刻は恐らく‥‥夜11時から翌朝2時の間でしょうね」
「時間の特定が微妙ですから、手分けして確かめましょう」
2人ともパーストの魔法の使い手である事が幸いし、そこで何が起きたのかを突き止めることが出来た。
人の寝静まった真夜中、やって来たのは黒装束の男。風のように素早い動きで資材置き場にやって来ると、隠し持ってきた油をぶちまけて火を放ち、再び風のように素早く立ち去った。
その顔は覆面の下に隠れ、確かめられない。
「用意周到さといい、無駄のない動きといい、その筋のプロの仕業のようです」
パーストの魔法で見た放火犯の姿を、ゾーラクとディアッカはファンタズムの魔法で映像化して、仲間や村人達に示す。
「こりゃ、ただのゴロツキには見えねぇな」
誰もが口々にそう言った。
さらに2人は放火犯の足取りを追跡し、放火犯は王都から村へやって来て火を放ち、その後また王都に戻ったことを知る。その宿泊場所は下町の安宿。放火犯は行商人を装って宿泊していた。覆面を取った人相もパーストの魔法で確認できた。頬のこけた鷲鼻の男だ。さらに魔法でその足取りを追うと、男が王都から北へと伸びる街道へ向かったことが分かった。
●衛生指導と菜園
ゾーラクは衛生知識の普及指導にも力を尽くしている。
・生ゴミと食材を近くに置かない
・台所のごみは細めに片付け煮沸した湯で置き場所を消毒
・細目に窓を開け換気する
・外から帰ったら手洗いうがいは忘れずに
・豚肉は十分加熱したものを摂取する
・日々の食事を疎かにせず栄養は細めにとる
・寝台のシーツや毛布は細めに洗濯し天日干しして使用する
「ん〜〜〜?」
村長の家の壁に張り出された一覧表をじっと見つめて唸っているのは新参の村人だ。彼は字が読めない。
でも大丈夫。ゾーラクはファンタズムの魔法で映像化。きちんと教えてやる。
「外から帰ったらまず手洗い、そしてうがいです」
「それが村の決まりですか? 分かりました」
他にもゾーラクは本格的な家庭菜園を作ろうと、農業指南役のレーガー卿に持ちかけたり。
「各家庭に家庭菜園の設置を目指したいのです」
「いや見ての通り、場所の狭い家や日当たりの悪い家もある。むしろ村の外に共同の菜園を設けてはどうだね?」
これでフィラの仕事がまた増えた。
「忙しいところ悪いのだけれど」
「任せておきなって! 菜園なら貯蔵庫よりも作るのが簡単だしな!」
村の者達も手伝ってくれて、やがて小さな菜園が出来上がった。
ちなみに前回、炉の灰を肥料代りにまいた場所では、作物が順調に育っている。
●隣領の復興計画
隣領の旧ラウス男爵領復興計画を本格始動させた領主クレアは、土地の権利を持つセリーズを村に招待。2人して話し合いを進める。
「井戸復活の為、ドワーフ井戸職人の手配。それとゴーレム工房には開墾チャリオットの使用要請を。それに忘れてならないのは‥‥」
クレアは元領主の娘キャロリーナを近くに呼び寄せる。
「貴女の故郷だからね、一緒に立て直しましょ?」
「はい」
こうして領主館跡を中心に、農業拠点となる新村を設ける計画がまとまると、クレアは村人達を広場に集めて協力を要請する。
「今の暮らしにだけ満足していては、いずれ限界が訪れてしまう。そうならない為にも更なる手間と努力が必要よ。成功した者は皆、己が手で努力してきた‥‥力を貸して」
最初は顔を見合わせる村人達。でも1人また1人と、返事が返ってくる。
「領主様の仰せとあらば」
「領主様に従います」
セリーズがクレアに促す。
「これから村人も連れて現地の下見に行かないか? 天気もいいしピクニック日和だ」
さて旧ラウス領へ行ってみると、そこには見事な春の野原が広がっている。赤や白や黄色の花があちこちに咲いている。
「ちょうど良かったわ。今度のお祭りは花で盛大に飾ろうって、皆で相談してたところなの」
セリーズとて、嫌と言う訳がない。
「ならばこの土地の花を摘むことを許可しよう」
下見にはゼーロとカルルの両村長も同行していたので、ソードは2人に伝える。
「今の村の住人には、ホープ村残留かこの復興地に行くかを選んでもらうことになるだろう。考えてくれるか?」
「はい」
「もちろんです」
両村長は快く同意した。これまで村人達をひっぱり、まとめてきた領主と冒険者達だ。これからもきっと上手くやることだろう。
●お料理と養蜂
今日も村の炊事場には、ソードが手土産に持ってきた魚がどっさり。
「毎度毎度、ソード様には感謝して致します」
村人は深々と頭を下げ、ついでに一言。
「しかしソード様、よっぽど釣りがお好きなのですねぇ」
さて炊事場の主、龍麗蘭(ea4441)は前回作ったシュークリームモドキを手土産に、レーガー卿の所へやって来た。
「やっほー、レーガー卿。何してるの?」
「見ての通り、菜園の手入れだ」
「この前話してた蜂蜜作りの事、詳しい話を聞かせてくれないかしら?」
「いいだろう」
「あ、これお土産。良かったらお茶請けにどうぞ」
「これはありがたい」
ハーブ茶とシュークリームモドキを楽しみつつ、麗蘭とレーガー卿は話し合う。
「‥‥で、養蜂を行うことを近隣の領主たちに伝えた方が良いかしら?」
「それは見通しが立ってからでいいだろう」
「それで、肝心の蜂をどうやって連れてきたらいいのかな?」
「そうだな‥‥。もしかしたら新参の村人の中に、養蜂の経験者がいるかもしれないぞ」
早速、新参の村人に当たってみると、いたいた。魔物に村を滅ぼされる前に、家族で養蜂を営んでいた養蜂経験者のおじさんが。
「ミツバチの事に詳しいのよね? ちょっと手伝って欲しいことがあるの」
早速、おじさんを連れて隣の旧ラウス男爵領へ。
「そうですな、今の時節ですと‥‥」
おじさんと一緒に野原や林の中をあちこち歩き回って探すと、あったあった。日当たりのいい林の木陰にミツバチの巣が。暖かくなってミツバチは活動を始めたばかり。その近くには花咲く春の野原が広がっている。
「この辺りはミツバチの好みそうな場所です。もっと花を育ててもっとミツバチを増やせば‥‥」
ふと男は遠い目になる。
「故郷の村に残してきたミツバチたちは、今頃どうしていることやら」
その言葉を聞いて、麗蘭とレーガー卿は顔を見合わせた。
「そのミツバチ、村に持ってこれるかな?」
「一度、その村へ行ってみるか? 魔物に食われていなければ、まだミツバチも残っているだろう」
村へ戻ってくると、麗蘭はお祭りの料理作りに取り掛かる。
「はぁい、春なので今回は私の故郷で縁起物として作られる桃包‥‥桃饅を作ってみました〜」
材料は小麦粉、水、塩、そして果物で作った天然酵母。それらを混ぜて良く練った生地に色々な果物で作ったアンを作り、それを包んで蒸して作ったミニ桃饅をデカイ桃饅で包んだ特製品だ。村人を集めて試食してもらうと、皆が満足。
「普通に食べても良いんだけど、こうしてデカイ桃饅のなかに小さな桃饅を入れて作ったのは縁起物とされててね、主に子宝や富の象徴とされてるのよ」
●子供達と
お祭の準備だ。フィラは張り切っている。
「いなくなったキラル達が心配だが‥‥こんな時だからこそ明るくいかなくちゃな!」
今度のお祭りは花祭り。フィラは丸太で竜の形を作り、その上に花やら草やらついでに布でデッカイ花を作ったりして、竜の上に飾り付ける。
「陽の恵みの竜、花竜っていう感じかな?」
村には新参の村人も増え、新しい子供達も入ってきた。
チカ・ニシムラ(ea1128)はそういう子ども達も、祭りの準備に誘う。
「花をイメージだけど‥‥服はお願いするとして僕たちも頭に被る冠くらいは作るのにゃ♪ 花の冠を♪」
隣領の野原に出かけて花をいっぱい摘んで、自分たちが被る花の冠を幾つも幾つも作る。
「わーい! 出来た出来た!」
はしゃぐ子供達。別グループの子供達は、フィラの指導で布製の大きな花飾りを作り上げた。
「でっかい花がで〜きた!」
「花のおばけだぁ〜!」
「たべちゃうぞ〜!」
花の冠をかぶって駆け回ったり、ふざけっこしたり。
「こらこらー♪ お祭りの本番まで大切に取っておくにゃ♪」
もちろん今度のお祭りでも歌を歌う。
「今回は僕たちも歌を披露しようにゃ♪ 皆で一緒に♪」
歌の練習が終わると見回りの時間。
「僕たちも一緒にいくよ!」
子供達もぞろぞろついていき、村の周りや風車の丘を見回り。
「放火魔はやっつけろー♪」
「放火魔はハリツケだー♪」
子供達と声を出して歩き回り、村へ戻ると勉強の時間。キャロリーナにも手伝って貰い、読み書き計算の教室を開く。でも見てみると、ほんとに子ども達が増えたものだ。
「うにー、今はこんなお外でもいいけど人が増えてきたら学校を作らないと駄目かにゃー? でも、今はまだいいかにゃ。余裕もないだろうし。それより教える人がもう少しほしいにゃねー‥‥」
●お祭りの日
お祭りの日がやって来ると、村はいよいよ賑やかになる。
「お祭りだ! お祭りだ!」
元気に騒ぐ村の子供達。その頭上を沢山のシフール達が舞い、楽しく騒いでいる。
「お祭りだぞー! 楽しいぞー!」
しふ学校のシフール達だ。お祭りはかきいれ時ということで、ディアッカに誘われてやって来たのだ。ユラヴィカも本業の占い稼業と、陽精霊への奉納舞で参加中。
「楽しく騒ぐのは良いが呑み過ぎない様にな。喧嘩は両成敗だぞー」
フィラは村人達に念を押して回っていたが、やがて今日も真面目に警備に就くソードに気がついた。
「少しくらい気晴らしもいいんじゃないか?」
「いや、今は気を抜きたくないのでな」
ソードは祭に参加せず、そのまま村と風車付近の警戒を続けた。
ところがお祭りが終わりに近づいた頃、事件は起きた。
●放火
「おい、あれを見ろ!」
最初に異変に気づいたのはソード。
「森に火の手だ!」
「放火か!」
「こりゃ大変だ!」
冒険者と村人達は現場に駆けつける。ディアッカも、しふ学校のシフール達を連れて速攻で駆けつける。
現場は領地境の森のワザン男爵領寄りの場所。一行が到着した時には、先に着いたワザン男爵の警備兵の手で森火事は鎮火されていた。
「もしかすると‥‥」
ゾーラクが魔法で確かめる。
「間違いありません、覆面をしたあの男です」
「つまりホープ村の警戒が厳重なので、ここに火をつけたってわけか。で、そいつは今どこに?」
ゾーラクはさらに魔法で確認。
「‥‥ここです。ここから馬に乗って街道を北へ」
「追いかけましょう! シフールの羽なら間に合うはずです!」
率先して追跡を始めるディアッカ。しふ学校のシフール達も後に続く。
程なくシフール達は、街道を逃げて行く放火犯に追いついた。
「魔法で足止めを!」
シャドウバインディングの魔法を放つディアッカ。馬の足が封じられ、勢い余って放火犯が地面に投げ出される。それでも放火犯は走りながら逃走。再び魔法を放とうとしたディアッカの耳に、仲間の叫びが飛び込んだ。
「うあっ! やられた!」
見れば仄かな光の矢が、幾度も仲間の体を貫く。光の矢は近くの森から放たれている。
「これはムーンアロー!?」
放火犯の追跡と捕縛を阻んだのは、思わぬ敵勢力の妨害だった。