バカくさ物語1〜困った時の冒険者頼み

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月05日〜08月10日

リプレイ公開日:2008年08月14日

●オープニング

●ルキナス大いに困る
 ウィンターフォルセの築城軍師、ルキナスは困り果てていた。
「どうして次から次へと、こんなに仕事が増えるんだぁ〜!!」
「それは、あなたの自業自得じゃないの」
 突っ込み入れたのは冒険者ギルド所属、鎧騎士見習いのシェーリン・ラシェット。過去に色々あって、ルキナスとは腐れ縁の仲。じと目でルキナスをじぃ〜っと見つめたその後で、ぐるりと周りを見回すと、周りは女の子だらけ。下は8歳から上は18歳まで、よりどりみどり。
 そう、軍師ルキナスは希代のナンパ男として超有名な男なのだ。そもそもルキナスが彼女たちに声をかけなければ、彼女たちがこんな所に居るわけがない。
「仕事を山ほど抱え込んだ上に、女の子までこんなに抱えこんじゃって。しかも、婚約者のお腹の中にはもう赤ちゃんが‥‥」
「うわシェーリン! 声がでかい!」
 慌てて口に指を当て、口を閉ざすよう素振りで示したけれど、もう後の祭り。
「ルキナス様、やっぱり噂は本当だったのね?」
「ルキナス様、信じてたのに‥‥」
「男なら責任取るわよね」
 ルキナスは慌てた。
「みんな、頼む! 誤解しないでくれ!」
 またしてもシェーリンが突っ込む。
「結婚式の前に赤ちゃん作っちゃったことの、どこが誤解なのよ?」
「だからそれは‥‥ああああああああああ!」
 シェーリンと女の子達の視線に囲まれてルキナスは頭を抱え、そしてすがるような目で1人1人の名前を呼びながら言い訳する。
「シェーリン、シルリーナ、エルリーネ、アンジェ、セリーシア‥‥俺にとっては君達の1人1人が大切なんだ。君達の人生を弄んでるつもりなんか少しもない。俺にとっては君達は‥‥そうだな、例えて言うなら、実の姉妹のようなものなんだ」
 実はその場にはもう1人、男がいた。冒険者ギルドの連絡係、知多真人である。それまで黙って傍観者を決め込んでいた真人だが、ルキナスの言葉を聞いて何気なく言った。
「そういえば地球には若草物語っていうのがあるんです。四人の仲良し姉妹達が力を合わせて人生を切り開いて感動の名作なんですけど、なんだかこの雰囲気って若草物語に似てませんか?」
 それを聞いて、思わずシェーリンは一言。
「バカくさ〜!」

●発端
 話を過去に戻そう。そもそもの発端は、冒険者ギルド所属の地球人・知多真人が、王領ラントの代官グーレング・ドルゴの前で口にした一言だった。
「地球の戦闘訓練はすごいですよ。訓練のために町一つ作って、そこでドンパチやるんですから」
「その町について、詳しく話してもらえるかね?」
「ええと‥‥正確には都市型戦闘訓練施設って言います。そこには本物そっくりの町並みがあって、射撃の標的になる敵の人形と、撃ってはいけない一般人の人形とが置かれているんです。まあ、町自体はハリボテみたいな模造品ですけど、訓練を受ける側にとっては本物の町で戦闘する時の感覚がはっきりつかめて、群衆の中にいる敵や人質を取った敵を倒す訓練にとても役立つんです」
「それだ!」
 真人の言葉で、グーレングの着想は一気にまとまった。グーレングは王都の東側に広がる王領ラシェットの地図を広げ、その一ヶ所に×印を付けた。
「ここに君の言う訓練のための町を造るのだ。資力豊かな王領代官の私だからこそ出来る救国の事業だ」
 この町こそが即ちフェイクシティ。
「最初はハリボテでもいいから、王都を模した町をこの土地に造るのだ。この町は元領主の子弟達の教育の場であり、職人を育て上げる場でもあり、かつカオス勢力に対する戦闘訓練の場ともなる」
 話はトントン拍子で進み、計画に賛同する者達が集まった。元々はラシェット領の領主令嬢だったシェーリン・ラシェットに、ウィンターフォルセの築城軍師ルキナス、そしてウィンターフォルセ領主のプリンセスを始めとする冒険者達。そして王領ラシェットの南にある大河沿いの土地で、町の建設が始まった。
 ウィルはこのような町を必要としていたのだ。
 町の目的は大まかに分けて2つある。
 1つ目は教育の場として。この町は先のウィル国王にして希代の悪王エーガンの暴政下で、王の不興を買い放逐された貴族や騎士の子弟に教育の場を授けるための町であり、また悪王の暴政下で荒廃した農村を立て直すべく、農村を支える職人を養成するための町でもある。
 2つ目は訓練の場として。王都を模して建設される予定のこの町は、市街地におけるゴーレム戦の訓練の場となり、日々強まりゆくカオスの脅威に対抗するための対カオス戦闘訓練の場ともなるのだ。
 計画が始まるや、ルキナスは町の建設主任の仕事を果たすと共に、元領主の令嬢達の1人1人に声をかけて呼び集めた。建設中の町を見学させるという名目で、親睦を深めるために。

 そして、計画のスタートから早くも約半年が過ぎたわけだが──。

●教会建設命令
「‥‥は!? 来月か、再来月の始めまでにフェイクシティに教会を建てろと!?」
「じょせいをきずものにしたいじょう、せきにんはとってもらうのー。あまりひをあけすぎると、たいけいにあうどれすがないし、しきのあいだずっとたたせておくのも、おなかのこどもにわるいのー。しんろうのとうぼうはげんきんなのー」
 婚約者を妊娠させた責任を取れとばかり、主人であるウィンターフォルセ領主からルキナスに、教会建設命令が下ったのがついこの前のこと。
「ルキナス、怪我しないで帰ってきて‥‥あなたはもう一人じゃないんだから」
 婚約者の冒険者は優しくルキナスに言葉をかけ、抱きついてキスして仕事場に送り出すけれど、ルキナスは教会建設のことで頭がいっぱいで。
「来月中に教会をって、もうすぐ8月じゃないか! どうすりゃいいんだ!?」
 悩んでいるうちに閃いた。
「なんだ、冒険者に頼めばいいことじゃないか」
 早速、ルキナスは冒険者ギルドに依頼を出した。

『教会建設を手伝ってくれる冒険者求む! 初心者大歓迎! 女性でも安心! 経験豊かな築城軍師が懇切丁寧にアドバイスします!』

●お仕事色々
「‥‥で、実は仕事はそれだけじゃないのよね」
 元男爵令嬢セリーシア・レビンが、簡潔に纏めた書類を示す。冒険者のやるべき仕事は次の通り。

・教会関係者との折衝
 王都の教会の司祭は、ルキナスと婚約者の挙式を認め、準備中。

・フェイクシティの指導役職の推挙
 セリーシアは冒険者との協議の結果、ラーキス・ロウズを推挙し、既に当人に根回し済み。王領代官グーレングの認可が必要となるので、冒険者を交えた代官殿との面談を実施。

・ゲリー氏とエブリー氏との協議
 戦闘訓練の指導者として冒険者から希望の出た両氏は、フェイクシティでの指導を行うことを了承。

・鎧騎士としての訓練
 鎧騎士を目指すシェーリンとアンジェに対する訓練。アンジェは前回の訓練で失敗をしでかしたので、落ち込み中。

・キーダちゃん対策
 ルキナスを凶器で刺し、負傷させたキーダちゃんの再教育と更生。

「さすがですね」
 その手際の良さに真人が感心すると、セリーシアが言う。
「伊達に代書屋はやっていないわ。あと冒険者との打ち合わせをよろしくね。ルキナスに任せると、まとまる話もまとまらなくなりそうだから」

●今回の参加者

 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●王都の教会で
 ここは王都ウィルの教会。
「いい子にしててね〜」
 連れてきたペットの犬2匹を外で待たせると、シフールのクレリックであるギルス・シャハウ(ea5876)は教会の扉をくぐる。
 中では既に、ギルスの呼び集めた者達が待っていた。教会の主である司祭に、この教会の建設に携わった者達、そして築城軍師ルキナスとその婚約者の麻津名ゆかり(eb3770)。彼らを呼び集めたのは、フェイクシティに建設する教会についての打ち合わせをするためだ。
「‥‥と、これが新しく建てる教会の図面だ」
 ルキナスは一同の前で、手ずから描いた設計図を示す。
「大きさは王都の教会とほぼ同じだ。鐘突き塔の付いた2階建てで、主な建材は木材と石と煉瓦。プリンセスから言い渡された完成の期限は今月8月末日だが、後から色々な施設を増設することも出来る。だが出来る限り、今月中に完成できる箇所は完成させてしまいたい」
「この設計図通りに完成すれば、さぞや立派な教会になることでしょう」
 と司祭は言い、そしてさらに付け加える。
「ですが大切なのは入れ物よりも中味。この教会が大勢の人達にとって、正しき道を歩むための道標となりますよう」
 ここでギルスが意見を出す。
「冒険者の関わった依頼では以前、『ぷれはぶ』という地球の手法が採られた例があるようです」
 これはエーロン王の庶子、エーザン殿下による館建設依頼を指す。
「それを参考に、必要資材の事前調達と全てを同時に現地へ搬入する手法を真似てはどうでしょうか? 設計図完成から資材調達までの時差を無駄にしないよう、設計図を即座に現地に送って段取りを取っておくこともできます。こうすれば、事前の基礎工事から資材搬入後直ちに建設作業に掛れますし」
 現場の作業員については、現地の人々にも協力してもらう。ついでに教会そのものについても意見を一つ。
「個人的な希望として、シフールたちが神様の彫刻とかに腰掛けたりしないように、止まり木みたいなものでも作って頂きましょうか」
 そして、ゆかりからも。
「基本的には丈夫で綺麗な教会ならばそれだけでも嬉しいですが、段差はなるべく無くし、手すりをつけて誰もが歩き易くして欲しいです。老人や女子供、妊婦さんの為の座り易い席を作るとか、体が不自由なヒトにも利用し易い内装を考えて欲しいです。高い場所にはしふしふ用の席や落下防止の柵も。防犯や安全対策も考えて欲しいです。それから教会にペットを連れる方の事を考えた施設など何かあると嬉しいですね」
「止まり木、妊婦さんの席、しふしふ用の席、それに‥‥」
 ルキナスはそれぞれの発言を真剣にメモっている。
「設計図に付け加える箇所が色々増えたな」
「そろそろお茶にしませんか?」
 ここで一息ついてもいい頃合いだ。ゆかりが席から立ち上がって、お茶の準備に取りかかる。
「ゆかり、あまり無理するなよ」
 ルキナスが心配そうに声をかけるが、その目は自然とゆかりのお腹に向けられる。
「大丈夫。重労働するわけじゃないし、心配はいらないから」
 すると、教会の司祭が2人に声をかける。
「ルキナスさんとゆかりさんは、協議の後も残ってください。私から話して聞かせることがあります」

●お説教
 で、協議が終わった後もルキナスとゆかりの2人は、教会に残されて司祭のお説教を聞く羽目になった。
「結婚式、本来であれば喜ばしい話です。ですが、婚前交渉はいただけません」
 2人の例の話は司祭にまで伝わっていたのだ。あれだけ話が広まれば無理もないが。
「でも‥‥」
「いいですか、婚前交渉は罪ですよ」
 司祭はきっぱりと言い放った。
「あの‥‥」
「まさか‥‥」
 心配そうにルキナスとゆかりは顔を見合わせ、司祭の次の言葉を待つ。まさかここまで来て、結婚式は認めませんなどと言われはしないだろうか?
 でも心配無用、司祭はにっこり笑ってこう言った。
「罪を犯してしまったのならそれを認め、罪を償うことです。私は教会の司祭として、あなた方に罪の償いを課します」
「それで‥‥」
「罪の償いとは‥‥」
「結婚式に先立ち、良き夫そして良き妻としての心得をしっかりと学んで頂きます。そして結婚式の後、然るべき奉仕活動に従事していただきます。罪を償うと約束していただけますね?」
 もちろんルキナスもゆかりも、いいえとは言えない。
「はい」
「罪を償います」
 答を聞いて司祭はにっこり笑った。
「では予定通り、新しい町の新しい教会でお二人の結婚式を執り行うとしましょう」

●出航
 その翌日。冒険者一同を乗せたフロートシップが王都から発つ。
 最初の目的地はフェイクシティ。そこに冒険者達を降ろした後、船は次の目的地である王領ラントに向かう。
「資材と職人を手っ取り早く調達するなら、スポンサーのお膝元が一番だからな」
 そんな事を言いつつ、ルキナスは船の中でも設計図にかかりきり。ゆかりはルキナスに付きっきりだ。
「ルキナス、あなたが設計した教会で式を挙げられるのはとても嬉しいわ。焦らないでいいから頑張って」
 にこっと微笑むゆかりを、ルキナスはチラリと見て、
「焦ってはいないけれどプリンセスとの約束があるからな。今月中に立派な教会を建ててみせるさ。‥‥どうした?」
「んっ、おなかの子、動いたみたい」
「本当か?」
 ルキナスはゆかりの少し膨らんだお腹に耳を当て、じっと耳をすます。
「‥‥ん? 何か聞こえるぞ」
 呼吸の音に心臓の音。でも、これって赤ちゃんの音だろうか?
「‥‥おっと、それよりも仕事だ仕事だ」
 ルキナス、やる事が山ほどある。

●船の中で
 船にはルキナスの呼び集めた見学者の令嬢達も乗っている。ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は鎧騎士を目指すアンジェ様の部屋を訪ねてみた。
「アンジェ様、少し御時間を頂いても宜しいでしょうか」
 この前の事件のことで落ち込んでいるかと思ったら、やっぱり落ち込んでいるようで。
「アンジェ様が短期間でゴーレムをほぼ思い通りに動かす事が出来る様になられたのは、素晴らしい才能だと思いますよ」
「‥‥そうなの?」
「ですが、ゴーレムはアンジェ様自身と比べて凄く力が強くて重いのですから、自分と相手だけではなく周囲への配慮も忘れてはいけませんよ」
「‥‥うん」
 言葉少ないアンジェを撫でながら、ジャクリーンは微笑んでやる。
「大丈夫、アンジェ様ならきっと出来る様になりますわ」
 一方、ヴェガ・キュアノス(ea7463)は船の中でキーダの姿を探していた。傷害事件を起こしたキーダはルキナス預かりで奉仕活動中の身だから、一緒に船に乗っているはずなのだが。
「こらっ、やめなさい! やめなさいよ!」
 ドタドタドタ!
 船の食堂から騒ぎが聞こえる。何かと思って行ってみると、そこにシェーリンとキーダがいた。派手に取っ組み合った様子で、周りには物が散らばり、キーダはシェーリンに組み伏せられている。
「一体、何事じゃ?」
「キーダに掃除を頼んだら余計に汚すし、それを注意したら怒って突っかかってきたのよ。こら、暴れるな!」
 キーダはじたばたしていたが、やがてヴェガの姿に気づく。
「ごきげんよう、元気にしていたかえ?」
「‥‥‥‥」
「少し話しをせぬか?」
 ウェガはキーダを自分の船室に連れてきた。
「この前会った時から、どのように過ごしていたかの?」
「仕事して‥‥食べて‥‥仕事して‥‥眠って‥‥起きて‥‥仕事して‥‥」
 答えるキーダの声には感情がなくて。ヴェガの連れてきた柴犬のゴンスケが、その身を案ずるように近づくと、キーダはゴンスケを抱き締めて放さない。
「さて、これからの事を考えねばの」
「‥‥これからの事?」
「もしもその気があるなら学校に行き、治療院で働けるじゃろう? その時のために、学校や治療院についてどういう場所なのか、聞くだけでも聞いてみぬか?」
 幼いキーダにも理解できるよう、ヴェガは噛み砕いた言葉で教えてやった。学校は学ぶ所であり、治療院は病気や怪我を治すところだと。
 しばらくするとシェーリンがやって来て、ヴェガの話をじっと聞いているキーダを見て意外そうな顔をした。
「あら、ヴェガと一緒だと大人しいのね」

●建設始まる
「なんだ、みんな顔見知りばかりじゃないか」
 船が目的地に到着し、ぞろぞろと下りてきた冒険者達を見てルキナスが呟く。
「いや待て、1人だけ新顔がいるじゃないか」
 しかもその冒険者、女性である。
「あ、そこの君‥‥」
 ルキナスが声をかけるや、その女冒険者はサッと一礼した。
「軍師殿、初にお目にかかる。私はルエラ・ファールヴァルト、カーロン党員にしてネバーランド総監だ」
「あ‥‥あのルエラ‥‥」
 ルキナス、名前を聞いて唖然。ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)と言えば、ウィルにその名を轟かせた冒険者じゃないか。もっとも顔を見るのは初めてだけど。
「今回は王弟カーロン陛下の許可を頂き、バガン2体を携えてきた」
 船から降ろされるバガンを見ながら、ルキナスは呟く。
「俺の周りの女冒険者って、どうしてこうも勇ましいのばっかりなんだ?」
 教会の建設作業に携わるバガンは4体。アンジェとシェーリンにとっては、ゴーレムの訓練も兼ねている。もちろんゴーレムだけでなく、生身の人間達も建設作業に加わるが。
 フェイクシティの教会建設予定地に着くと、ジャクリーンはバガンに乗って指導を開始した。
「良いですか? 武器を振うだけでなく、こういう事もゴーレムを動かす感覚を養うには良い経験になるのです。漠然と作業してはいけませんよ。立派な教会を作ってルキナス様とゆかり様が素敵な式を挙げられる様頑張りましょう」
「はい!」
 バガンの中からアンジェの返事が、大きな声で返って来た。
 同じくバガンに乗るルエラは、教会の建設に専念する。建設資材のうち王都で準備できる物は、船に乗せられるだけ乗せてきた。
 ギルスが勧めて回ったこともあって、現場には近くの土地に住む者達が幾人も手伝いに来ているが、大仕事はゴーレムがやってくれるから、彼らの仕事の多くは荷運びなど補助的な作業になる。ギルスは人々の間を飛び回り、仕事の指図をしている。
「女性や年少者の方には荷解きに清掃、食事の準備をお願いしますねー。仕事は色々ありますよー」
 工事の最初は地縄張りだ。実際の建物が設計図の形と等しくなるよう、その目安として地面に杭を打ち縄を張る。続いて根切り。建物の基盤を作るため、地面の土を掘る。そして土台を据える。
 ルエラには木工の心得があり、ゴーレム操縦にかけては相当に腕が立つ。大きな杭はバガンの力でぐさっぐさっと地面に突き刺して歩き、ぐるっと縄を巻いていく。
 仕事が一段落すると、ルエラは休憩を呼びかける。
「一休みしよう」
 ちょうど食事時だ。ルエラは休憩を呼びかけてバガンを降り、自ら率先して昼食の支度を始めた。
「張り切ってますねー」
 シフールのギルスは辺りを飛び回りながら、ルエラの仕事ぶりを眺めていたが、『調理器具セット』に加え『鉄人の大包丁』や『ゴールデンカッティングボード』を持ち込んだり、飲み物を『魔法瓶』に入れて持ってきたりで用意がいい。
「これも務めと心得ますので」
 手伝いの者達は料理よりも、ルエラの持ち込んだアイテムにばかり目が行っているようだ。
「最近は色々と、便利な天界の品が出回ったな」
 昼ご飯が終わるとルエラはペットのペガサスに乗り、空から仕事の出来映えを確かめる。
「割と上手くいったようだ」
 手元の設計図と比べて見ても、眼下に見える地縄張りの形に大きな狂いは無い。
 その後の地面を掘る仕事も順調に進んだが、やがてルエラは眠気を感じてきた。ゴーレムの限界時間が近づいてきたようだ。
 シェーリンやアンジェを見れば、とっくにゴーレムから降りている。
「ここから先は人力で行おう」
 ルエラもバガンから降り、他の働き手と混じって仕事を続ける。生身の体の感覚は重たいけれど、どこか開放感めいたものを感じる。

●一仕事終えて
 仕事が終わった後の夕食は賑わっている。
「疲れてるけど、何だか気持ちがいいの」
 と、アンジェが語ると、ギルスがにっこり笑って相づちを打つ。
「それがきっと、物を作る喜びなんですよー」
「物を作る喜び?」
「お陰で仕事は、はかどりました。教会の完成までもうすぐですよー」
「でも‥‥よかった」
「え?」
「ゴーレムを動かす間、働いている他の人にぶつけなくて」
 隣で食べていたシェーリンが言う。
「そりゃ、アンジェは気をつけてやったものね」
 ギルスはシェーリンにも話を向ける。
「仕事が増えて地元の人にお金が入れば、街自体も賑やかになると思うんです。領地の人は領地内でお金を使いますので、金銭の流出も防げますし」
「お金か‥‥」
 しばし遠い目をしていたシェーリンだが、
「そうよね! 先立つ物はまずお金! 明日も頑張らなくちゃ!」
 そこへ、ゆかりがキーダの手を引いてやって来た。
「あら、2人とも何処へ行ってたの?」
 シェーリンが尋ねる。
「キーダちゃんを連れて治療院の見学に」
「でも、ここの治療院って出張所だし。お医者さんは常駐じゃないわよ」
「だったわね。でも、どういう所かは実感できるでしょ? さあキーダちゃん、みんなに自己紹介してごらんなさい」
 ゆかりはキーダに促したが、
「名前は‥‥キーダ」
 キーダはそう言ったきり黙ってしまう。
「う〜ん、まだまだ話し馴れしてないのかな?」
「それで、アンジェちゃん達に頼みがあるの。キーダちゃんの友達になってあげて欲しいの」
 と、ゆかり。
「うん、判ったわ」
 アンジェはキーダに微笑む。
「私はアンジェ、よろしくね」
 キーダの返事はたった一言。
「‥‥よろしく」

●教会の完成近し
 王領ラントに出向いていたルキナスが戻ってきた。フロートシップに資材と職人達を乗せて。
「やっぱり細かい所はゴーレム任せじゃなく、職人の手を借りなきゃな。だがこれで教会も、あと1週間もあれば完成だ!」
 ところが、ルキナスに続いて降りてきた人物を見て、冒険者達は目を見張る。なんと王領代官グーレングも一緒だったのだ。
「話を聞いてやって来た。建設の様子をしかと見せてもらおう」
 代官、何か企んでるぞ。

●懸念
 対カオス活動に携わる地球人、ゲリーとエブリーも現地に来ていた。ヴェガは2人と打ち合わせを行い、これまで確認された魔物の情報とその戦闘記録を渡した。今後の戦闘訓練に役立てるためだ。
「さて、指導のやり方について確認したいのじゃが」
「それは町の建設の進展具合にも寄るが、使える施設は全て使いたい」
 と、ゲリー。
「それと、キーダの話を聞いたのだけど。会わせてくれるかしら?」
 エブリーに求められ、ヴェガはキーダを引き合わせる。実際にキーダと会ってその様子を確かめたエブリーは、とてもシリアスな表情になる。
「あの子、虐待のトラウマを背負ってるわ」