バカくさ物語5〜ナンパ軍師よさらば?

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月06日〜04月11日

リプレイ公開日:2009年04月15日

●オープニング

●キリカとパパ
 精霊暦1042年2月15日、この日はキリカの誕生日。キリカのパパはルキナスで、ママは冒険者。キリカが誕生してからずっと、ルキナスはキリカの世話にかかりっきり。
「おはよう〜、キリカ」
「ママのおっぱいだぞ〜、キリカ」
「おねんねだぞ〜、キリカ」
「お昼だぞ〜、キリカ」
「ママのおっぱいだぞ〜、キリカ」
「お散歩だぞ〜、キリカ」
「夕方だぞ〜、キリカ」
「ママのおっぱいだぞ〜、キリカ」
「おねんねだぞ〜、キリカ」
「夜だぞ〜、キリカ」
「ママのおっぱいだぞ〜、キリカ」
「おやすみ、キリカ」
 キリカを寝かせた後はせっせとお仕事。そのうち夜が深まって眠りについて、時間が経つと次の朝が来る。
「おはよう〜、キリカ」
 生後1ヶ月のキリカ、まだ言葉はしゃべれないけれど、目をぱっちりと見開いて、ルキナスとママの顔を見ては、あははと笑っている。
 お客さんがやって来た。フェイクシティの教会に勤めるピエール神父だ。
「キリカに神の祝福を」
 と、ピエール。
「キリカに竜と精霊のご加護を」
 と、ルキナス。
「あれから様子はどうですか?」
「おかげさまで妻もキリカも元気です」
「それは何より。では祝福の祈りを」
 キリカとその父母のために祝福の祈りを捧げたピエール神父は、帰り際にルキナスに一言。
「今後も良き夫、良き父として歩んでください」
「分かっています。妻と娘の為にも」
 神父が帰ると、ルキナスは閉じた玄関口の裏側で独り言。
「キリカのためにも俺は真面目に生きるぞ。もうナンパ男とは呼ばせない、俺は生まれ変わったんだ」
 だぁがしかし。
「ルキナス!」
「ルキナスったら!」
「いるんでしょ?」
「相談があるの」
「話を聞いてくださらないの?」
 ぞろぞろ現れたのは、ルキナスがナンパのモーションかけて次々と誘い、いつの間にかルキナスの取り巻きになっている令嬢達。セリーシアにアンジェにシルリーナにエルリーネにエリーデ。みんな元領主や元騎士の一族の出で、先のウィル国王エーガンの暴政下では一族もろとも身分剥奪・領地没収の憂き目に遭ったが、今では復権のため彼女たちなりに努力している。
「私達のことも、少しは考えてよ!」
「考えているさ、俺は誰よりもみんなのことを心配してるんだ」
 弁解するルキナスをシルリーナが問い詰める。
「で、ウィンターフォルセのプリンセスが新しい開拓事業を始めたそうよね? 旧男爵家を絶縁されたシェーリンと一緒になって、役立たずの沼地を干拓するんですって?」
「なんだ、もうその話を聞いたのか?」
「それは関心が行くわよ。だって事の成り行きによっては、私達の将来を左右する話ですもの」
 と、セリーシア。
「あ、その話なら安心していて大丈夫だと俺は思う。だってフェイクシティのスポンサー、王領代官グーレング氏も乗り気のようだから」
 そのルキナスの言葉にシルリーナが突っかかる。
「プリンセスも王領代官に気に入られて何よりね。でも心配なのは、あのはねっ返りのシェーリンよ。役立たずの沼地は川を挟んでフェィクシティのすぐ真向かい。せっかくフェイクシティの計画が順調に進んで、本来の領主様であるラシェット旧子爵家の復権もなろうかというこの時になって、それに喧嘩売るみたいにシェーリンがあの沼地なんかに陣取っちゃって。お家騒動でも起こそうっていうの!? そのとばっちりを受けるのはごめんこうむるわ!」
「いや気持ちは分かる。でも俺は‥‥」
 話の途中だったが、エルリーネがルキナスの言葉を遮る。
「寝室でキリカが泣いてるわよ。あまりほったらかしにするから」
「キリカが!? 大変だっ!!」
 ルキナスは慌てて寝室に駆け込み、泣いているキリカを抱いてあやす。
「誤解しないでくれキリカ! パパはね、パパはね、キリカのことがとっても大事なんだ! でもパパにも大事な仕事がたくさんあって‥‥」
 ぱしっ。キリカの小さな手の平が、ルキナスのほっぺたを叩いた。

●シェーリンとルキナス
「ルキナス‥‥最近やつれたわね」
 顔色の悪いルキナスを見て、シェーリンが言う。
「‥‥その、色々あってな。なあシェーリン、役立たずの沼地の干拓のことだけどな‥‥」
「分かってるわよ。取り巻きの令嬢達、色々と言ってるんでしょ?」
「ああ‥‥。だが彼女達が不安がるのも分かるんだ。でもシェーリン、君だって大変なんだし‥‥」
「大丈夫よ、そんなに気をつかってくれなくても」
 シェーリンはにっこり微笑んで言った。その笑顔、ルキナスには無理矢理作った笑顔のように見える。
「シェーリン、助けが必要ならいつでも言ってくれ。俺だけじゃなく、冒険者にも頼りになるヤツはたくさんいるんだから」
「ええ、頼りにしてるわ」

●ウィンターフォルセにて
 ここは王都の門と称せられるウィンターフォルセ領。土地の領主は冒険者ギルドに籍を置き、かつ養子縁組でフオロ王家とも親族関係にある冒険者だが、領地経営は古くから土地に住む臣下達に任されている。その臣下達の代表格がユアンとルーシェだ。
「ナンパ軍師殿からシフール便だ」
 執務中のルーシェに、届いたばかりのシフール便をユアンが示す。手紙の内容は役立たずの沼地の干拓に関する事務連絡だったが、その手紙の最後に書かれた一文を読んでルーシェが噴出した。
「どうした?」
「これを読んでくれ」
 その一文を読み、ユアンも思わず笑いだす。手紙の最後にはこう書いてあった。

『これまでもずっと言われてきたが、ナンパ男の渾名はきっぱりと返上申し上げる。今後、俺は妻と子どもの為にもまっとうな人生を歩み続けるぞ。俺は生まれ変わったんだ、俺はもう昔の俺じゃない。そこんところよろしく』

「果たしてうまく行きますか」
「ルキナス、相変わらずだな。言葉はともかく、中味は昔とちっとも変わらない」

●マリスのファームにて
 所変わって、ここはウィンターフォルセのファーム。
「ごはんの時間ですぅ♪ 残さずに食べてくださぁい♪」
 管理人のマリスが、食事の入ったバケツを差し出す。
「ありがとうよ、マリス様」
 受け取ったのは、お騒がせバードのシュベルグレンバウザー・バーニング、略してシュベル。あのルキナス拉致監禁事件の主犯であり、冒険者に捕らえられて以来ずっとこのファームに収容中。シュベルはそのままバケツに入った食事を手づかみで食べていたが、その手がはたと止まる。
「どうしましたかぁ?」
「マリス様! 折り入って頼みがある!」
 シュベルは深々と頭を下げ、マリスに頼み込んだ。
「あの拉致監禁事件については罪を認める。だが俺も男だ、このままでは引き下がれん。頼むからルキナスと正々堂々の決闘をさせてくれ!」
 シュベルの言葉によれば、かつてシュベルはルキナスと1人の女性を巡って争った仲、つまりは恋敵だ。
「もしも決闘に敗れれば、俺は潔く身を引こう。今後、ルキナスの前に姿を表さぬと誓おう」
「で、もしも決闘に勝ったらどうするのですかぁ?」
「決まっておろう! あのクソなナンパ野郎に残りの全人生をかけさせて、犯した罪の償いをさせてくれるのだ! まずはヤツのお陰で不幸に引きずり込まれた全女性に対する謝罪と賠償! その次のことは後でじっくり考える!」
「一つだけ条件つけてもいいですかぁ?」
「何だ?」
「それは、決闘の方法はこちらで指定するということですぅ」
「うむ、よかろう。この際だ、贅沢は言わん」
「ではしかるべき筋に、話を通しておきますぅ」

●今回の参加者

 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5513 アリシア・ルクレチア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565

●リプレイ本文

●大激怒
 ここは役立たずの沼地。畔に立つ2人の人影は、シュベルと麻津名ゆかり(eb3770)。
「何故に俺をこんな所に連れだすのだ?」
「‥‥あのね、此処に大事な結婚式をブチ壊されかけたり夫を攫われりした妻が居ます」
「それは分かっている。だが悪いのはルキナスだ」
 ゴゴゴゴゴ──シュベルの言葉に、ゆかりは怒りのオーラ全開。視線に殺意を込めて睨みつけ。
「さて妻は犯人の勝手な提案を承諾したり、そもそも犯人の言を信用すると思いますか?」
「気持ちは分かる。だが悪いのはルキナスだ」
「ふ・ざ・け・る・なぁっ!!」
 ゴぉわっ! ゆかりの怒りの鉄拳が大炸裂。
「ぐわあっ!!」
 どばしゃっ!! 泥沼に落っこちたシュベルに、ゆかりはスコップを投げつける。
「あなたのせいで3ヶ月は時間が潰れたのよっ! 勝負うんぬんの前に半年くらいはあたしたちの仕事を手伝いなさいっ!」
 かくしてシュベルはこの日から、役立たずの沼地で強制労働を課せられる身となった。

●沼地の伝承
 さてこの沼地に残る遺跡だが、アリシア・ルクレチア(ea5513)は王都の図書館などに残る文献資料を色々と調べてみたが、遺跡の謎を解く手がかりは見つからない。ただし残された記録からは、この沼地が百年以上も前から領主不在の土地であることが確認できた。
 一方、ギルス・シャハウ(ea5876)は元々この土地に住む人々を訪ね、かの沼地について尋ねてみた。
「実はあの沼地にはな、魔物の呪いがかかっておるのじゃ」
 と、話してくれたのは土地の古老。遥か昔に魔物が封じ込められ、その呪いで土地が荒廃したという。よくありがちな言い伝えとも言えるが。

●ドワーフ様の見立て
 セオドラフ・ラングルス(eb4139)はフェイクシティの宿泊所へ足を運ぶ。ドワーフの井戸掘り職人が、わざわざ自分に会いにやって来たと聞いたからだ。
「おお、そなたがセオドラフ殿か。沼地を干拓する話を小耳に挟んだものでな」
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
 ひげもじゃのドワーフに感謝を述べたその後で、
「実は‥‥」
 セオドラフは沼地の現状を説明する。──元々、かの沼地はカオスの魔物が現れる沼地であった。湿地の排水ができるように水路を整え、役に立つ農地に生まれ変わらせたいのだが、沼地の底に遺物などが埋まっており、現在は干拓を中断しているのだと。
「そういう訳ですので、干拓事業への助言・指導・協力をお願いします」
「では一度、沼地をこの目で見てみるか」
 セオドラフに連れられて沼地までやって来ると、ドワーフは沼地のあちこちをゆっくりと歩き回る。その手には2本の木の枝を握り、それをアンテナにして沼地の発する精霊力を確かめるように。ややあって、その口から呟きが漏れた。
「この土地は泣いておるぞ」
「は?」
 ドワーフは言う。
「今ここにあるのは、この土地が本来あるべき自然な姿ではない。過去に何らかの不自然な改造が行われ、それが土地の精霊力の乱れる原因となっておるのだ。お陰で水の流れは滞り、澱んだ瘴気が溜まる一方。しかも寒暖のバランスが崩れて霧が立ち込めるばかり。これでは草木もろくに育たぬ」
「沼地に作られた遺跡がその原因なのでしょうか?」
「かもしれぬな」

●根回し
 儲け話を聞くとビジネスマンの血が騒ぐというか。信者福袋(eb4064)は沼地の干拓計画を吟味し、それに懸かる費用と最終的な生産量の予測を立てて、レン・ウィンドフェザー(ea4509)に報告する。
「大規模な土木工事は地球ではドル箱ですし、干拓事業だけでもかなりの経済効果を期待できますね。例の沼地については農地以外にも色々な利用方法が考えられます。例えば漁業や養殖の拠点として、また中継貿易の基地として」
 費用については大雑把な見積もりしか出来ないが、王領代官グーレングとウィンターフォルセのプリンセス・レンという2大スポンサーが出資すれば、十分に儲けの出る事業に発展する見込みがある。ただし余計なトラブルを避けるためにも、今のうちからでも周辺の領主などの関係者に話を通し、権利関係について詰めておくべきだろう。
「ぜんはいそげなのー」
 早速、レンは福袋を伴って王領代官グーレングに会いに行き、次のように提案する。即ち、沼地の干拓が終った後の土地の運用を一定期間シェーリンに代行させ、一定の成果が出せればそのまま彼女に任せてみようと。
「話の大筋は理解しました」
 グーレングはにこやかにそう答えながらも、その後で釘を刺した。
「ですがあのシェーリン嬢にその役目を果たすだけの力量があるかどうかは定かに非ず。むしろ失敗に終わる可能性が大と感じますな。ここは彼女に厳しくその成果を問い、見込みなしとなれば速やかに彼女をその役目から解き、別の者を立てるのが賢明かと」
 さて、そんなことを言われているシェーリンの方は、ヴェガ・キュアノス(ea7463)に詰め寄られていた。
「沼地の干拓に何らかの結果を残せればそれで良し、信用も取り戻せよう。じゃが、そうでなければ一切諦めグーレングに委ねるべし」
「あたしもいよいよ正念場ってことね。死ぬ気で頑張るわよ」
 シェーリンの覚悟や良し。
「ではもう一つ」
 お次は改めてラシェット家に、シェーリンが沼地の干拓事業に携わる事への認可を。ヴェガはシェーリンに手紙を書かせ、自らが使者となってその手紙をラシェット家へ届ける。
「また勝手なことを始めて‥‥!」
 シェーリンの母親、アイオリーンは露骨に嫌な顔をする。しかし父親であるベルナードは余裕の構えを見せる。
「絶縁したとはいえ、我が不肖の娘のためにプリンセス・レンを煩わせるのも心苦しい。後ほどプリンセス・レンの元に参り、この件についてじっくりと相談せねばな」
 とはいえラシェット家の当主は表立って反対はしない。恐らくシェーリンの行いについては黙認する心積もりなのだろう。それがラシェット家の利益を侵害せぬ限り。
 ヴェガの仕事はまだまだある。令嬢達に事情の説明をし、シェーリンへの風当たりを和らげることもそうだ。
「沼地の干拓に関してはラシェット家側からも許可が出ておるのじゃ。知っての通り、フォルセのプリンセスもグーレング卿も協力の意志を見せている。成功すればシェーリンの身を立てられるが、例え失敗してもおぬしらに類が及ぶ事はあるまい。おぬしらが彼女に力を貸すも貸さぬも自由じゃ。‥‥が、せめて彼女を静かに見届けてはくれまいかのぅ?」
 令嬢達は顔を見合わせ、やがて次々と返事が返ってくる。
「そういうことなら‥‥」
「しばらく静かに様子を見ようかしら」
「でも何かあったら口を出すわよ」
 そうそう、キーダの様子を見るのも忘れずに。ヴェガがキーダの所に足を運ぶと、
「わーい、ゴンスケだ!」
 すっかり仲良くなったペットの柴犬を見て、キーダが駆けてくる。この様子なら心配はなさそうだが‥‥。

●調査
 沼地での作業再開。
「やらなきゃいけないことがいっぱいでたいへんなのー」
 レンはヴェガと一緒になって、引き上げられた石像の調査を行う。
「古代の遺跡が関係しているのか、それともタダのガラクタの廃棄場所か」
 ヴェガのみたところ、石像の素材に疑問が生じる。
「この辺りにこのような石質の石を産する場所があったかのぅ?」
 見た感じ、レンがよく使うストーンの魔法で石化させられたような。
 美術品の鑑定では達人級のレンも 石像が石から彫刻されたものか、あるいは生きた人間を石化したものかを確かめてみる。
「もともとは、いきたにんげんのようなきがするのー」
 石像にしては造形があまりにも生々しすぎる。
 ともあれ、レンは沼地を徹底的にさらうことに決めた。
「バガンが役に立って何よりです」
 ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)の操縦するバガンを使って沼地の底をさらうと、出るわ出るわ石像がたくさん。でも、そればかりではない。
「何か巨大な物が埋まっているようです」
 アリシアがざっと地図を描いて調べてみる。
「これは水没した遺跡ですか? 一度、沼地の水を抜いてみないと」

●2つの土地
「グーレングもラシェットの方々も、カオスの魔物の脅威に対抗する目的だけで協力してくれているわけではない、というのが夫オルステッドの見立てですわ。『金や人手は出してくれるけど口は出さない』が理想ですけれど、世の中そんなに甘くはないですわ」
 そう考えたからアリシアは提案する。相手はゲリー、エブリー、そしてシャミラの3人。そして今後の訓練計画のプランを練る。
「目的としては第一に騎士学院や有力な騎士団を誘致。ゴーレム戦闘、対デビル・カオスの大規模戦闘が今後の主眼になるでしょうし、ウィルや遠くジ・アースのほうからも訓練のために人手が集まるかもしれません。一度、冒険者を集めて大規模演習を行ってみてもいいかもしれませんね」
 ゲリー達は言う。
「騎士学院を関与させるのはいいかもしれない。中立の立場が確立しているからな」
「でもウィルの国を背負うとなると、責任も大きくなるわよ」
「交渉で発言力を強めて有利に立つには、前もってそれなりの実績を作らねばな」
 そこで重要になってくるのは沼地の干拓だ。
「シェーリンがどれだけ成功するか、上手くいけばいいが」
 フェイクシティに対抗する形になるが、成功すればグーレングやラシェット家に対する発言権も強まろう。
「で、問題はグーレングが如何なる人物かです」
 これにはグーレングに色々と探りを入れてきた福袋が答えた。最も着目すべきはグーレングの、施政者としての信頼性だ。
「横領代官、なんて言われてますが、先王エーガン陛下の先進性に合っていたということは革新的な思想の持ち主かもしれません。フェイクシティに対して血統や家柄を持ち出す、保守的なラシェット旧臣とそりが合わないのも納得かと。でも、ここはお代官様の目標と覚悟を見極めたいですね。『カオスと戦う』『ジ・アースの信仰や地球の技術を広める』という目的を持ったフェイクシティですが、それが代官に必ずしも利益をもたらすとは限りません。そして、冒険者は目的の達成が全てですから、そこにさえ折り合いをつけれられれば争いにはなりません」
「同感だ」
 ゲリー達も福袋の言葉に同意する。
 後日、福袋はグーレングと会食する機会を得た。その際に、福袋は沼地干拓の件を持ち出してグーレングの反応を確かめた。
「目下、私はプリンセス・レンと話し合いながら沼地干拓の計画を進めている。その計画の枠内でなら、冒険者の自由裁量に任せようと考えているところだ」
 と、グーレングは言う。あれ? いつの間にか話がそういうことになっている。まるで自分が計画の主役みたいな物言いで。いや当人はそのつもりなのだろう。
(「警戒すべきは既成事実の積み重ねで、こっちの利権を持っていかれることですかね?」)
 内心、福袋はそう思った。

●ルキナスと
 この前は夫に負担をかけちゃったし‥‥。
 だから、ゆかりはしっかりキリカを世話し、ルキナスの手伝いもやっている。
 産後の体はまだ本調子でないけれど、テレパシーの魔法が使えるから便利だ。
(「キリカは眠ったわよ」)
「そうか。夜も遅いし、俺もそろそろ休むか」
 呼びかけに答え、ルキナスが寝室にやって来た。
「あ〜疲れたよ〜、俺もママのおっぱい飲みたいよ〜」
「いいのよ、飲んでも」
「え?」
 ルキナスは冗談のつもりで言ったのに。
「本当に飲んでいいのか?」
「うん」
 ゆかりは覚悟を決めている。
 ちゅっ。ルキナスの唇がゆかりの体に触れた。くすぐったい。
「あはは‥‥。可愛いのはわかるけど、キリカをあんまり甘やかし過ぎるとわがままな娘になっちゃうわよ」
 それにしても、色々あった。
「脱・ナンパに関しては気持ちは嬉しいけど‥‥無理はしないで」
「ゆかり、俺は‥‥」
「女性に優しくする事自体は間違いじゃないのよ」
「‥‥そうさ、間違いじゃないさ」
 ルキナスの唇が、そっとゆかりの唇に重なった。
 キリカはすやすやと眠っている。

●世話焼き
 翌日。ゆかりとジャクリーンは、令嬢達にこれからの進路希望を聞いた。
「アンジェ様は鎧騎士を目指しておられますので、訓練をされるなら協力は惜しみませんが、他の方々は何か目標はないのでしょうか? ただ、周囲が変えてくれるのを待つだけではなく、自分で目標を持って動かないとなかなか状況は変わらないと思いますよ」
 と、ジャクリーン。
「誰かに変えて貰うにしても、それを結婚相手に求めるのなら結婚相談所の設立に協力する等、やれる事はあると思うのですがね‥‥」
「何よ偉そうに!」
 小声で毒づいたのはシルリーナ。
「何か?」
 問いかけるジャクリーン。シルリーナは黙って顔を背ける。でも、代わりにセリーシアがこう言った。
「そこまで言うからには、きっちりと責任を取ってもらおうじゃない。万が一の時には、貴方にも一族の結婚相手になってもらうわよ。それだけの覚悟はできて?」
 今やゴタゴタの火種になった結婚相談所のことを持ち出したのは不味かったかもしれない。発案者のセオドラフも、一歩退いて様子見の姿勢でいる。その代わりセオドラフは、将来騒動になりそうなラーキス殿とルミーナ嬢の婚約について、ゆかりと共に対策を練っている。
「ルミーナさんを名義だけでも貴族の養子にして頂けるような、信頼できる方を探さないと」
 ゆかりは考える。ルミーナ嬢と養子縁組できそうな名家となると‥‥。
「ロウズ家を警戒させず、不満も抱かせない相手‥‥ロウズ翁の態度を見るとラシェットの元領主・元騎士の家が望ましいですな」
 と、セオドラフ。
「ただし、わたくしが動いていると判ればロウズ翁が態度を硬化させそうなので‥‥」
 今は密かに情報を提供するだけに留めよう。
 やがて、セオドラフは良さそうな相手を見つけた。代々、土地に住んでいた元騎士のラーク家だ。早速、セオドラフはラーク家に足を運んだ。

●決闘はオセロで
「シュなんとかさんも懲りないお方ですね〜。ルキナスさんも仕事に育児に忙しいというのに、困ったもんです」
 ともかくも現時点ではやる事が多過ぎるので、なんとか丸め込んで勝負を引き延ばそうとギルスは提案。皆が同意したのを確認して、さらに言う。
「どうせ決着をつけるなら、万人の目の前で正々堂々とつけましょう。そのうちになんらかの祭りかパーティがありますので、そこで勝負をされてはいかがでしょうか?」
 では何の勝負にする? レンとヴェガも交えて話し合った末に、何とか結論が出た。
 そこでギルスとヴェガの2人で、役立たずの沼地にて強制労働中のシュベルへ告知する。
「ウィンターフォルセ領主のご意思をお伝えします。決闘についてはオセロで、白黒の決着をつけることになりました」
「オセロだとぉ?」
 シュベルにとっては初めて聞く言葉だった。