波乱万丈若妻2〜新たなる命と共に

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2010年01月11日

●オープニング

 これは河賊の娘リリーン・ミスカとして育てられながら、冒険者出身の新ルーケイ伯との運命的な出会いを遂げ、ついには結ばれてその妻となった旧ルーケイ伯爵の娘、セリーズ・ルーケイのその後の物語である。

●カオスの罠
 大国ウィルの北方には、商業で栄えたハンの国がある。だがそのハンの国は今、国難の最中にあった。ハン南部における疫病の蔓延、怪しげな宗教の広まり、そして跳梁跋扈するカオス勢力。
 ハン国王カンハラーム・ヘイットは、ハンの国を救う決意を胸に自らフロートシップに乗り、ウィルの国を目指した。だが国王を待っていたのはカオス勢力による襲撃だった。
 駆けつけた冒険者の尽力により、襲撃された船の乗組員は大勢が命を助けられた。だが船を脱出した国王のグライダーは墜落し、国王のものと思しき亡骸が発見され、後には国王自らが携えた国書が残された。その国書の内容は、カオス勢力に蹂躙される祖国ハンを救うべくウィルと同盟を結び、ウィル軍によるカオス討伐を求めるものだった。
「そうか、やはり国王陛下は決意されていたのか」
 麗しきルーケイ伯爵夫人セリーズ、報告書を読みながらハン国王の胸中に思いを寄せる。だがその時。
「失礼!」
 慌しく部屋に入ってきたのは、腹心の部下ベージー・ビコ。
「どうした?」
「まったくとんでもない話だ。実は‥‥」
 ベージーはリリーンの耳に囁いた。とてつもなく悪い知らせだ。
「ハンの国からの情報です。カンハラーム陛下亡き後のハン国内で、反ウィル派が王妃ミレニアナ陛下を中心に結束。ウィルがハン領内に侵攻するなら全面戦争も辞さず、国を挙げてウィルの侵略軍を迎え撃つと」
「バカな! ハン国王がその国書においてウィルとの同盟を認めたではないか!」
「ところがその国書は偽物、その後に本物の国書が発見されたというのです。その国書はハンの国難をウィルの陰謀のせいだとし、ウィルに対する徹底抗戦を呼びかけるものでした」
「カオスの罠だ」
 そうとしか考えられない。混乱続くハン国内で大戦争が起きれば一番得をするのはカオス。そしてさらなる辛苦を味わうのは名もなき民だ。

●命の金勘定
 ここは大河の港。停泊するオニキス号の豪華な船室で、ハンの国の商人レミンハールがほくそえむ。
「大戦争が近いようだな」
 彼の部下の方は気が気ではない。
「もはや我らは敵国人も同然、早く国に帰った方が良いのでは?」
 だがレミンハールは悠然としたもの。
「君は反ウィルの王妃派かね? だが私は国王派、ウィルの進軍は大歓迎だ」
「このままウィルに留まられるのですか?」
「下手に国に帰るよりもその方が安全だろう? ウィル進軍の暁には盛大な晩餐会を開いて祝おうではないか。そう言えば以前にこの船で会った冒険者の女医殿、何か近況を聞いたかね?」
「話によれば小さいながらも領地を与えられ、今も相変わらず仕事熱心だとか」
「それは結構」
 レミンハールは冒険者達との取引を思い出す。
「大戦争で手足を失う兵士が何百何千人と生まれれば、麻酔の麻薬も飛ぶように売れる。大儲けのチャンスだよ。両軍のゴーレムには派手に暴れてもらおう」

●魔物の宝箱
「レミンハールの秘密の宝物?」
「はい。ホープ村の領主様と話した時に思い出したのだけど、セリーズ様にもお聞かせしようと思って」
 その情報をもって来たのは悪名高いイクラ三姉妹。
「あの男から聞いた話だけど、レミンハールは大精霊『富貴の王』と契約を結び、魔法の品を頂いたと。その力を使えば一瞬のうちにして『富貴の王』の宮殿の中に移動できるのだとか。でもその力を使うためには人間の命を捧げなければならないというの。詳しい使い方はレミンハールが知っているはずだわ」
 その大精霊の正体、カオスの魔物の方が似つかわしいとセリーズは思った。もしかすると『富貴の王』は、ウィルとハンを包み込む暗雲のど真ん中にいる大物かもしれない。
「その話が真実だとして、どうやってあの男から聞きだした?」
「ベクトの町のお屋敷に住んでいた頃、色仕掛けを使ってベッドに誘って‥‥」
「分かった。それで魔物の品はどこにあるのだ?」
「宝箱の中に大事にしまってあって、それはレミンハールの手の届く場所に置いてあると思うわ」

●魔物の巣
 ここは悪代官ラーベ・アドラの支配する北クィース。大勢の人で賑わう町にはラーベの住む巨大な領主館がでんとそびえ、高く張り巡らされた石垣の横を旅芸人のシフールが飛んでいく。そのシフールの正体は潜入調査中の冒険者。手にするマジックアイテムには絶えず気をつかう。
「!」
 マジックアイテムに反応あり。そう遠くない場所に魔物がいることを告げている。
「もしや領主館の中にカオスの魔物が‥‥」
 突然、声をかけられた。
「おい、こんなところで何をしている? ほう、面白い品を持っているな」
 見れば、町で世話になった芸人だ。だがその眼光がやけに鋭い。
「別に‥‥」
「でしゃばるんじゃねぇぞ、新入りのくせにあちこちふらふらしやがって」
 乱暴な口調でシフール冒険者に近づいたその男、声を潜めて耳に囁いた。
「空を飛んでるカラスに気をつけろ。おっと、派手な動きはするな。あくまでも普通を装うんだ」
 そっと上目遣いに空を見れば、領主館から飛び立っていくカラスが2羽。その姿が空の彼方に消えると、マジックアイテムの反応が止んだ。
「魔物ですか?」
「そうだ、この領主館は魔物の巣だ。ここだけじゃない。魔物どもはあちこちで目を光らせてやがる。特にルーケイの虜囚達が捕らえられた場所ではな」
「貴方は‥‥?」
 男が只者ではないことに気付き、冒険者は声を尋ねてみる。
「そいつはまだ話せない。だがおまえ達の味方だ。そういうおまえさん、そんな品を持っているところを見るとギルドの冒険者だな?」
 男はニヤリと笑った。その言葉から察するに、男はルーケイ遺臣の筋の者だろうか。
「俺はこの土地から離れられないが、近いうちに別の場所で会って話そう。待ち合わせ場所は町の娼館の入り口だ。言い忘れたが俺の名は流し目のミード、よろしくな」

●新たなる命
 時は矢のように過ぎる。夏が終わり秋を迎え、そして冬が訪れる。
 寒いその日、セリーズの実弟マーレンが彼女を訪ね、来る戦いに備えた軍議を行った。
「幸運なことにルーケイの秋の実りは大豊作。我らの戦いにとってと強力な追い風です」
 食料は武器だ。この点に着目して作戦を立案した冒険者は慧眼というべきか。今、その作戦はマーレンの元で、着々と実行に向けた準備が進められている。
 ふと、マーレンはセリーズのお腹に目を留めた。
「それにしても、大きくお育ちになられましたね」
 夫たるルーケイ伯の子を身篭ったセリーズ。すくすく育ったお腹の子は、あと日を指折り数えるほどで生まれんばかりだ。
「ここまで育っては私が戦場に出向くのは無理だ。年が明けた頃に生まれるだろうか?」
 マーレンは暖かく微笑んだ。
「戦いは私の務め。姉上はどうかお体をお大事に。大切な命です」

●今回の参加者

 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec0199 長渡 昴(32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●太った豚へのお仕置き
 新年が訪れて間もない冬の夜。大河に浮かぶ船の中で作戦会議は続く。
「戦いの時は近い‥‥多くの民が、犠牲になろうとしている。その犠牲を可能な限り零に近づける為に、私達は居るのだ」
 暫し、民の行く末に思いを馳せていたクレア・クリストファ(ea0941)は、再び広げられた北クィースの地図に目を向ける。
「続きを始めましょう。ブクブクと太った豚に、きつ〜い仕置をする為にも‥‥準備は深く静かに、ね」
「ルーケイ、ホープ村、フオロ東部諸領地での去年の収量から概算しましたが──」
 信者福袋(eb4064)が報告する。
「去年は豊作でしたので、平時であれば王都の民全てを養って余りある量です。しかし北クィースの食料庫が焼き払われたり、ハンに進出したウィル軍の糧食が戦災で失われた場合、北クィースの民や兵士の分も補わねばならないので食料が不足します。戦争が長引けば食料不足も深刻になるでしょう。非常用の食料はある程度確保しましたが」
「食料は生命線だからね。念には念をいれなければ」
 北クィースの食料庫の所在は多くが不明だ。それを1つ1つ突き止めねば。戦いの最中に焼かれる訳にはいかない。
 ルーケイ伯も交えての会議では次の基本方針が定まった。

 1.北クィース制圧戦は表向き『ハン戦争の為』として準備を進める。
 2.ハン出兵の名目で少しずつ気取られぬように戦力を投入。
 3.戦闘部隊のほぼ全戦力を穀物倉・隠し食物庫・隠し畑の確保、並びに虜囚・一般領民の保護に充てる。
 4.ラーベ捕縛は少数精鋭の部隊が担う。
 5.以上の情報共有は機密保持のため、行動を起こすまでは信頼のおける最低限度の者に限る。

 放火対策の為、移動や野営の際には消火用水を確保することも忘れてはならない。

●誕生
「無事に子を産んでくれ」
 ベッドのセリーズを見舞い、そっと接吻。そして寝室を出ようとしたアレクシアス・フェザント(ea1565)をセリーズが呼び止めた。
「アレク、帰って来た時にはあなたの子が待ってるわ。あなたは父親になるの」
 セリーズは微笑んでいた。枕元には「雛人形のお守り」。
 アレクシアスは北クィースへ発ち、セリーズの身辺警護はクレアとチカ・ニシムラ(ea1128)が担う。魔物への警戒は怠りなく。
「さあ、始めるわよ」
「セリーズお姉ちゃんは今が大事な時期だし、なんとしても守らないとにゃっ」
 定時の点検。壁・床・天井、ベッドの隙間から家具の裏側に至るまで調べ尽くし、虫や小動物に化けた魔物が潜んでいないことを確認。続いてチカはお屋敷の外を見回り。
「怪しい人はいないかにゃ?」
 特に異常なし。さて次は。
「何でも言ってにゃ♪ 出来ることは手伝うのにゃ♪」
「暖炉にくべる薪を用意して。今夜は冷え込みそうよ」
 やがて冷え冷えとした夜が訪れた。辺りはしんと静まり、暖炉でパチパチと薪のはぜる音ばかりが静まる。不意にベッドのセリーズが声を上げた。
「‥‥産まれるわ」
 陣痛が来たのだ。
「早く皆を呼んで! お湯の準備、出来てるわね!」
 助産婦が呼ばれ、屋敷の者達が慌しく動き始める。セリーズの呻きが次第に激しくなる。その手にクレアは幸運のわらしべを握らせて励ました。
「もう少しよ。頑張って‥‥私がついているわ」
 突然、遠方で人の叫びが響いた。
「ば、化け物だぁーっ!! ぎゃああああーっ!!」
「現れたにゃ!?」
 部屋から飛び出しかけたチカの足が止まる。
「みんなその場から離れないで! 静かに!」
 皆を制したクレアがベッドに赤の聖水を撒き、 素早くホーリーキャンドルに火を点す。さらに聖なる釘をベッドに打つ。
「よりによってこんな時に‥‥。我が友、そしてその子達に! 指一本、触れさせやしないわよ!」
 魔物が近づいてくる気配がする。姿は見えない。だが足音と荒い息のような物音が。
 聞こえてくるのはベッドのすぐ近くだ。
「そこか!」
 クレアがブラックホーリーを放つ。透明化していたそいつが姿を現した。
 犬だ。背中に翼を生やしたジャイアントサイズの黒犬。
「ぐぅふふふ」
 そいつがクレアを睨んで笑った。
「大物がやって来たわね」
 クレアはさらなるブラックホーリーが放つがダメージにならない。魔物は笑い続け、キャンドルの結界を破ろうとする。
「にゃ、こっちには近づけさせないのにゃー!」
 チカがウィンドスラッシュを飛ばした。1発、2発、3発、立て続けの連続攻撃。
「ぎああっ!!」
 魔物が絶叫する。大きなダメージを受け、真空刃で切り刻まれた体から血が噴出す。その姿がベッドから離れ、次第に薄まっていく。
「逃しはしない!!」
 クレアが走る。渾身の力でもって、アレクシアスから託されたクイーンズソードの刃先を魔物の体に突き立てる。再び魔物が叫ぶ。とどめを刺さんとさらにもう一撃。魔物の傷口から噴出した鮮血がクレアの顔を染める。
 魔物は床に倒れ動かなくなった。灰の塊が崩れるように、その体が消えてなくなっていく。魔物の最期だ。クレアの顔に、もう魔物の血の跡は残っていない。
「あー、あー」
「あー、あー」
 いつから泣いていたのだろう。産まれたばかりの赤子の声がする。それも2つ。
「産まれたにゃ! 双子の赤ちゃんだにゃ」
「良かった」
 守りきれた安堵がクレアの顔を微笑ませる。その目の端にちらりと見えた。産湯につかって産声を上げる、愛らしい2つの小さな姿が。

●ベッドの上で
 ルーケイ伯の紋章旗を掲げたフロートシップが北クィースに到着した。
「いよいよルーケイ伯のお出ましかよ」
「戦争が近いってことさ」
「おっ、いい男じゃねぇの?」
「俺もあんな風に成り上がりてぇぜ」
 町のあちこちにたむろする傭兵達も口々に噂し合う。もちろん代官ラーベをはじめ領主館の主だった者は、ルーケイ伯の歓迎にかかりきりだ。
 実はこの訪問、北クィースで潜入調査する冒険者の為に、アレクシアスが仕組んだものだった。今ならラーべの注意も町の隅々にまでは行き届かない。
「なんだおめぇ、またこんな所に突っ立ってやがって」
 新入りの傭兵に古参が声をかける。
「そんなに馬車ばっかり見てておもしれぇのか?」
「ああ、自分も戦争に行くかも知れないし、馬車の通り道とか覚えておいた方がいいだろ?」
 その答に呆れたように笑い立ち去る古参傭兵。残された新入りの正体は長渡泰斗(ea1984)。ずっと領内で傭兵や馬車の動きを追い、傭兵の詰め所や食料庫の位置そしてその警備状況を確かめていたのだ。
「さて、そろそろ娼館へ行くか」
 娼館の入り口では流し目のミードが待っていた。
「よう新入りの旦那、いい女をお探しかい?」
「俺には指名したい相手がいるんだが‥‥」
「いいから俺に任せときな、とびっきりの上玉を紹介してやるぜ。オレはそっち方面にも顔がきくんだ」
「分かってると思うが‥‥」
「分かってるって」
 前もって知らせたサインを見せ合い、2人は客と客引きよろしく娼館の中へ。
 薄暗い部屋へ入ると、薄物を着た娘がベッドに座って待っていた。
「うふふ、いらっしゃい」
「やあルーリン、今夜は3人で楽しもうぜ」
 ミードは服を脱ぎ、ベッドに寝っ転がる。
「おい、ミード」
「いいから旦那も早く、早く」
 ミードは泰斗を招きよせて囁く。
「これもカモフラージュさ」
 3人はベッドに横になって毛布をかぶり、ギシギシとベッドを揺らしながら、互いの体を密着させて囁き合う。外から見るとまるで‥‥。
「俺には操を立てる相手が既に居るんだ。あまりこういうのは‥‥」
「興奮し過ぎて肝心の話を聞き漏らさないようにね」
 泰斗にそう囁いた後のルーリンの声はさらに低くなり、ギシギシいうベッドの音ばかりが高まっていき。
 やがてベッドの音が止んだ。
「楽しかったわ、また来てね」
 部屋から出ていく2人をにこにこ笑って見送るルーリン。
 でも大丈夫。泰斗の操は守られた。
 王都に戻った泰斗は、ベッドの上でルーリンに渡された物品を確認する。
「何だこれは?」
 遊戯に使うカードのようだ。
「いや待て」
 カードを順番に並べてみる。するとそれは1枚の大きな地図になった。北クィースの地図だ。そこには隠し倉庫や隠し畑の位置が網羅されていた。さらにはルーケイの虜囚が住まわされている場所も。

●作戦決行近し
「ミードもルーリンも旧ルーケイ伯に連なる者達だった。2人は密偵として北クィースに探りを入れ続けていたんだ」
 ベッドの上での囁きとして、2人から聞いた話を泰斗はアレクシアス以下の仲間に報告する。ミードは芸人として町の人々と接触、ルーリンは春をひさぐ女として傭兵達と接触、そうやって隠された情報を次々と手に入れていったのだ。
「これで作戦は大きく進む。働きに深く感謝する」
 アレクシアスが感謝の言葉を述べた時、部屋に1人の少女が入ってきた。浅黒い肌をした少女、かつてシャミラの配下だった地球人だ。
 少女はアレクシアスの前に進み出て自己紹介する。
「カーラと言います。シャミラさんに呼ばれました。私のプットアウトの力がお役に立てるのなら‥‥」
「その力で大勢の民を救うことができる。心強い限りだ」

●相談
 今はルーケイ伯の家臣となっているスレナスに長渡昴(ec0199)が会いに行ったのは、ビザンツボウを本来の主へ返すため。
「スレナス殿のお父上、ムンド様から使いこなしてみせろと託されましたが‥‥私では力不足だった様で」
 形見としてビザンツへ届けて欲しい──スレナスの戦友でノルマンに住むジャンからそのように頼まれて弓矢を預かった経緯も語って聞かせた。
「そうか‥‥貴方がそう望むのなら」
 スレナスは昴の意志を尊重して弓を受け取った。
 その後、昴はルーケイ水上兵団の者達と会う。オニキス号への潜入方法について相談するためだ。
「まずは参考までに過去の報告書を漁ってみるか」
 ベージーに連れられて冒険者ギルドへ。2人で前回の報告書を読み直していると、ベージーが報告書のとある一文を見つけてにやりと笑った。
「なるほどね〜」
「何か分かったんですか?」
「お宝の在り処さ」

●商談
「何卒『合法的な取引』となる様、御裁可とご意見ご助言を賜りたくお願い申し上げます」
 医療用麻薬の取引について晃塁郁(ec4371)が医師グリーフに願った途端、グリーフは厳しい目でじろりと睨んだ。
「おまえ、同じことをエーロン陛下やマリーネ姫殿下にも聞くつもりか!?」
 明らかに質問の仕方が不味かった。職人気質なグリーフだけに癇に障ったのだ。
「誰かに聞けばいいという心構えで、危険な麻薬を扱う治療院の仕事が勤まるか。だが今回は時間がない。レミンハールとの交渉には俺も立ち合わせてもらう」
 こうしてグリーフも冒険者と共にオニキス号へ乗り込み、レミンハールとの交渉が始まった。
「今回は副院長ゾーラク殿の代理として参りました」
 事前に作成した取引文書を見せ、塁郁が最初に自己紹介。続いて信者福袋が細かな数字を並べての交渉に入る。
「こちらが医療的見地から算出した麻薬の適正量です。次に適正価格についてですが、なにぶん麻薬を合法的に国が取り扱うケースといったものは稀なので、生産費用・人件費・輸送費などから割り出して利益が出るように算出したのが、こちらの数字です」
「これは細かく計算されていますな」
 自慢の営業トークを効かせた説明にレミンハールも乗ってきた。塁郁も前もってスクロールに記録してきた数字をチェックし始めていたが。
「そんなものは仕舞え、相手から目を離すな」
 グリーフが塁郁をたしなめ、商人2人の話に割り込んできた。
「この取引については次の条件を出させていただく」
 そう言って並べ立てたのが以下の項目。

 1.麻薬の取引相手となる人物とその所在。
 2.麻薬の医術における使用量と患者の予後。
 3.麻薬の流通に関わる人物・輸送機関・保管場所。
 4.麻薬の紛失・盗難が万が一発生した場合、その詳細な状況と経過の報告。

「以上を余すところなく記録に残し、責任の所在を明らかにさせていただく」
 レミンハールが鼻白んだ顔つきになった。
「一体、貴方は何の権限があって‥‥」
「治療院副院長殿がこの場にいたら同じ要求をしたはずだ。まかり間違えば人の人生を破滅させる危険物を扱う商売なのだからな。言っておくがこれは最低条件、まだまだ付け加えることはあるぞ」

●船上の夜会
 その後も商談は長く続いたがグリーフは途中で下船。夕暮れ時になると船上で夜会が始まる。燭台の光に照らされたテーブルに料理が並び、楽の音響き踊り子が優雅に舞う船内宴会場に、福袋と塁郁は招かれた。
「お招きに預かり光栄です。こんなにも素晴らしい夜会に」
 ナンパの手練手管で塁郁がレミンハールに秋波を送る。情報収集のためである。
「私も貴女のような淑女と同席できてとても嬉しい」
 レミンハールも塁郁に気のある素振り。テーブルでの話が進むと、塁郁は話題をハンに連れ去られた虜囚のことに持っていった。
「彼らを助けるために私は力を尽くしたいんです」
「お気持ちはよく分かります。私も手を尽くしましょう。ところで貴女にお見せしたいものがある」
 レミンハールが従者を呼ぶ。美しいドレスを携えて従者が現れた。
「まあ、素敵」
「ご試着してみませんか? 更衣室まで案内させましょう」
 従者に案内され席を立つ塁郁。
「いや〜、レミンハール殿は商売が上手い」
 感服したように声を上げる福袋。
「はは。商人同士、気が合いますな。あの邪魔者のグリーフもここにはいない。いい気分です」
「グリーフ殿には参りましたねぇ」
 福袋も調子を合わせ、商人2人の会話は弾む。
「ともあれ、この共同事業の滑り出しは順調。これで上手くWinWinの関係になれるといいんですが」
「それは私も望むところです」
 話に興じるうちに時間は過ぎ、やがて夜会はお開きとなる。
「では次回の商談もよろしく」
「商売繁盛を祈ってますよ」
 レミンハールと別れの言葉を交わし、福袋と塁郁が冒険者ギルドに戻ると、オニキス号への潜入を果たしてきた昴が待っていた。2人に小さな宝箱を示す。
「見つけましたよ、これがレミンハールの宝箱です。隠し金庫の中に隠されてました」

●我が子へ
 アレクシアスが北クィース訪問から戻った。妻セリーズの様子を見ようとベッドに歩んだ彼が見たものは、セリーズの傍らで安らかに眠る小さな2つの命。
「産まれたわ。双子よ」
 双子の1人は男の子、もう1人は女の子。
 この時のために用意した2つの名、アレクシアスはそのそれぞれを産まれたばかりの2人の我が子へつけてやった。
「おまえの名はパーヴェル、おまえの名はミュネ」
 ふと心配になり、セリーズに尋ねてみる。
「ちゃんと2人に聞こえたかな?」
 セリーズは微笑み答える。
「聞いてるわ、父さんの言葉ですもの」
 ちなみにパーヴェルの名は、アレクシアスの親友ユパウルに因む。