ウィルの大義2A〜宣戦布告の時

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月09日

リプレイ公開日:2010年01月26日

●オープニング

●国王の死?
 カオスに蹂躙されるハンの国。祖国を国難より救うべく、ハン国王カンハラーム・ヘイットは固き決意を胸に、自らフロートシップに乗りウィルの国を目指した。
 だが、これをみすみす見逃すカオス勢力ではない。国王を乗せた船はウィルとの国境にたどり着く以前に、カオス勢力の猛攻を受けた。
 急ぎ駆けつけた冒険者達の活躍で、船の乗組員は大勢が救出された。しかし脱出したハン国王が搭乗するグライダーは墜落し、墜落現場には国王のものと思しき亡骸と、国王自らが携えてきた国書が残されていた。

「お父様‥‥! そこまで決意されていたのですね」
 ハン国王の息女、ミレム姫の目に大粒の涙が浮かぶ。ウィル国王の王弟ルーベン・セクテ公は、読み上げたばかりの国書を閉じると姫の肩を優しく抱いた。
 国書にはハン国王の遺志が書き綴られていた。国の惨状を憂い民の苦難を嘆き、祖国を救うにはもはや大国ウィルの力に頼るしかないと決した国王は、その国書においてセクテ公とミレム姫の結婚を認めたのである。
 この結婚によってウィルとハンの両国は同盟関係で結ばれた。セクテ公にとってもハン国王の死は悲痛な出来事だったが、ハンの国の行く末に一筋の光明を見出した思いだった。
 これでハンの民を救うことが出来る。
「姫、陛下の元に参りましょう」
 セクテ公はミレム姫を、ハン国王の亡骸のもとへと誘う。ハン国王の遺体は安らかな死に顔で横たわっていた。ところが姫はその顔をまじまじと見つめ、怪訝そうな顔をしている。
「どうかなさいましたか?」
「違うような気がするのです‥‥。似ているけれど‥‥」

●御前会議
 ハンの宮廷からの耳を疑うような知らせがもたらされたのは、急ぎ開かれた御前会議の席上だった。あろうことか、ハン国王の残した真の国書なるものが、ハンの宮廷で発見されたというのだ。即ちウィルに届けられた国書は偽物で、真の国書なるものはハンの国難の全てをウィルの陰謀に帰し、声高にウィルを非難するものだったという。
 情報をもたらしたのは、ウィルの軍事を統括するロッド・グロウリング伯。ウィル国王ジーザムが誰何する。
「それは真か」
「はい。ハン宮廷に潜ませた密偵の情報によれば、カンハラーム陛下亡き後のハン国内で、反ウィル派が王妃ミレニアナ陛下を中心に結束。ウィルがハン領内に侵攻するなら全面戦争も辞さず、国を挙げてウィルの侵略軍を迎え撃つとの宣告が為されたとのこと。既にハンの友好国であるエの国、ラオの国が義勇軍を送ったとの情報も届いております。そしてつい今しがた──」
 届いたばかりの伝書をロッドはジーザムに差し出す。それはハンの宮廷よりジーザムの元へ使者を使わすという知らせ。一読したジーザムの表情が険しくなる。
「とても友好の使者とは思えぬな」
「この使者の携える知らせはセクテ公とミレム姫の婚約破棄、そしてウィルに対する最終通告、これ以外に考えられません。使者が陛下の御前にて新たな国書を読み上げしその時が即ち、開戦を告げるトランペットの鳴る時となるはず」
 ロッドの回答を聞き、ジーザムは宣告する。
「皆の者、覚悟の程はよいか!? 次なる戦いは大戦争となろうぞ!」

●恐るべき未来
「話してくれるか、真実を?」
 セクテ公が問い詰める。ここは特別あつらえの病室。向かい合う相手の男は、ハンの船から救出されたハン国王の随行者だ。
「人払いを頼む」
 セクテ公と二人きりになると、男は話し始めた。
「俺はウィルの冒険者に命を救われた。だからセクテ公の誠意を信じ、真実を話そう。発見された陛下の亡骸は実は影武者。カオスの目をくらますためのおとりだ。本物の陛下は目立たぬ別ルートから船を脱出し、今は安全な場所に避難されている」
「その場所とは?」
「ウス分国の奥地にある、精霊によって守られた土地だ。このことは俺のような陛下の腹心をはじめ、ごく僅かな者しか知らぬことだ」
 その言葉を聞き、セクテ公は闇の中に一条の光を見出した心地がした。ハン国王が生きて戻るなら国書の真偽も明らかになる。大戦争を回避することが出来るのだ。
「精霊の守る土地といえば‥‥」
 以前に読んだ冒険者ギルドの報告書にそのような記録があったはず。もう一度、報告書を読み直そうとセクテ公がギルドへ足を運ぶと、そこに顔なじみの地球人冒険者の姿があった。
「ゲリーにエブリー、ここにいたか」
「セクテ公、ちょうど良かった。お話があります」
「聞こう」
「私はフォーノリッジの魔法を使い、未来を垣間見ました」
「何が見えたのだ?」
「ジーザム陛下、そして居並ぶ各国大使の面前で、ハンの国の使者を斬り殺すロッド・グロウリング伯の姿が」
「!?」
 セクテ公の驚きも醒めやらぬ間に、冒険者は続ける。
「それと、紹介したい人がいます」
 冒険者が1人の娘を手招きする。一見すると、彼女がアトランティス各地を旅して回るジプシーの娘に見えたが。
「ルーベン閣下‥‥」
 緊張の面持ちで、娘は書状を差し出した。セクテ公が読んでみると、それはホープ村に住むレーガー卿のもの。
「なるほど、身元は確かなようだ」
「‥‥夢を見ました。‥‥予知夢です」
 娘は怯えたようにおずおずと話し始める。娘は預言者、夢を通して未来を垣間見る能力を持つ者だったのだ。
「空で戦いが起きるのです。大小のフロートシップが入り乱れて。ドラグーン同士が戦っている姿も見えました。とても巨大なフロートシップが燃えながら町に墜落し、大勢の人達が炎に焼かれて死んでいく‥‥恐ろしい夢でした」
「その夢は来るべき大戦争の夢だ。だが我々の努力が実るなら、その夢は現実とはならず夢のままで終わる」
 セクテ公は言い切った。予知夢とはそういうものだ。
「セクテ公はこれからどうされます?」
 冒険者が尋ねる。
「私はハンに向かう。ウスの都の占領後はその地の総督となる予定なのだ。私がそこにいることで、少しでも混乱を鎮めたい」
「私も参ります!」
 凛とした声に振り返れば、そこにはミレム姫の姿。
「姫、いつの間に!?」
「じっとしていられなくて。でも、私がセクテ公と共にいるならば、ウィルを憎む我が国の者達の怒りも少しは柔らぐかもしれません」
「あそこは危険な土地だが姫のご決意は尊重しよう。だがその前に一つ、やらねばならない仕事がある」
 それはロッド伯による使者の殺害を阻止することだ。

●懸念
「敵はロッド伯、守るは使者の命。しかし厄介な敵だ」
 セクテ公とロッド伯はしばしば国政を巡って意見を対立させる仲である。しかし2人は共にウィルを支える重臣。ロッド伯とてモンスターやカオスではないのだから、剣で斬り捨てるわけにはいかない。
「何か上手い方法を考えてロッド伯の使者殺害を阻止せねば」
 恐らく使者はジーザム王の御前で、ウィルを侮蔑する許しがたき発言をするのだろう。それに激昂したロッドが怒りに任せて使者を斬り捨てる。その行為は反ウィル同盟の怒りに油を注ぎ戦争を激化させる。誰かが阻止行動を起こさぬ限り、未来はそのように流れていく。
「私も何か出来ることを」
 ミレム姫が言う。
「いや、お気持ちは嬉しいのだが‥‥」
 セクテ公は迷った。ハンの反ウィル派にとってミレム姫はウィルに捕らえられた人質のようなもの。彼女が表舞台に立つことで、みすみす拉致される危険を招くかもしれない。あるいはカオス勢力による姫の暗殺が企まれるかもしれないのだ。

●今回の参加者

 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●許可下りず
「ロッド伯閣下が激昂ですか。他の皆様も怒らないといいのですが」
 雀尾煉淡(ec0844)がそう心配するのは無理もない。怒りはさらなる怒りを呼ぶ。ハンの国の使者が携えた国書を読み上げるその場には、ウィルに駐在する各国大使も列席するはずなのだ。例え使者の読み上げるそれが宣戦布告であれ何であれ、大使達は国と国との間で取り決め事が為されたことの立会人としてそれを見届ける。
 よもやその重大な場で、ロッド伯が使者を斬殺する暴挙に出たらどうなる?
「もはやウィルに騎士道なし!」
「使者への礼節を踏みにじり、あろうことか使者を斬り捨てたウィルは、カオスに堕ちたも同然だ!」
 想像しただけで、各国大使の憤怒の声が聞こえてくるようだ。その報告が届けば、ことにウィルへの強い警戒感を持つエの国やラオの国の宮廷は、激烈な反応を示すはずだ。
 そして怒りは諸国の民へも伝播し、ウィルへの憎しみを募らせる。その結果、来るべき戦争の炎にどっさりと油が注がれることになるのだ。
 そんな事態は絶対に阻止しなければならない。
「ロッド伯をコアギュレイトの魔法で拘束する許可を願えませんか?」
 セクテ公との対面が叶うと、煉淡はそう願った。
「許可だと!?」
 途端、セクテ公は声を荒げて聞き返してきた。
 セクテ公にしてみれば状況を理解していないように感じたのだろう。それにウィルの国運が自身にかかっているという重圧で、セクテ公もピリピリしている。
 しかし、やはりここは冷静にならねばと思ったか、セクテ公は静かな声でこう続けた。
「君は政治の絡んだこの手の依頼には馴れていないようだな。敵となるロッド伯はモンスターや盗賊と違う。れっきとしたウィルの重臣だ。だから私からそのような許可を出すことは出来ない。もしもそうする事が必要なのだと君が判断したのなら、君の責任でそうするがいい。当然、行動の責任は君が負うことになる。‥‥だが、もしも私が君の立場だったら、間違いなく魔法を使ってロッド伯を阻止するだろう。その代わり、後でロッド伯と命がけで決闘する羽目になるだろうな」

●留学生の正体
 加藤瑠璃(eb4288)に対するハン使節団の信頼は厚かった。何しろ彼女はドラグーンを駆り、墜落寸前だったハン国王の船を救った恩人なのだ。だから瑠璃はミレム姫の身近に護衛として侍り、姫とセクテ公へ直々に願う機会を得られた。
「実は内密にお二人に会って欲しい人が居るんです。その人はエの国からの留学生で、エとウィルが戦争にならないよう、これから和平の使者としてエの王子に会いに行くんです。その前にお二人の真摯な言葉をその人に託せば、エのショノア王子も思いとどまってくれると思います」
「信用できる人物なのだな?」
「はい」
 瑠璃を信じたセクテ公はミレム姫を伴い、かの留学生と対面した。
「初めまして‥‥名はショーナと言います。貴族女学院でウィルの文化を学んでいます」
 ドレス姿でおずおずと自己紹介する女子留学生。その右隣には貴族女学院の女学生セーラ、左隣には別依頼参加中の冒険者が座している。
 ふと、セクテ公は奇妙な印象を覚えて尋ねる。
「失礼だが貴女はナーカウ王家のご縁者であろうか? エの国の大使館に飾ってあった第ニ王子殿下と御顔の雰囲気が似ている」
「そういえば‥‥」
 と、ミレム姫も。
「昔、親善舞踏会で一緒に踊ったショーン王子様に似ているような‥‥」
「実は‥‥僕がそのショーンなんです!」
 意を決してショーナが叫ぶ。正体はショーン王子だ。
「しかし君は女では‥‥」
「冒険者に頂いた指輪の力です」
 瑠璃から貰った『禁断の指輪』をショーンが示す。
「要らぬ騒ぎにならぬよう、ショーン王子には女になって頂きました」
 と、瑠璃。セクテ公は驚きを隠さない。
「噂には聞いていたが、やはりあの噂は本当だったのか‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 じっと見詰め合う2人。そのまま時は流れていき‥‥。
「あの、あまり2人っきりで見詰め合ってばかりでも」
 セーラの言葉で2人は我に返る。
「ああ、そうだな」
 と、セクテ公。
「今のシーン、すごくキマってました。怖いくらいに」
 と、セーラ。
「と、そちらの話はそのくらいにして」
 王子の左隣に座す冒険者が、セクテ公に言葉を向ける。
「エの国の大型戦艦バスターの件はご存知ですね?」
「情報は届いている。乗っているのはエの国の第一王子ショノア、ウィルに真っ向から戦いを挑むつもりだ」
「そのショノア王子の大義名分は『ウィルからハンとミレム姫を守ること』。しかし実際は、『ハンの王が自国領内を治めることができず、ウィルに助けを求めた』のです。たとえウィルの人間の言葉では信用できずとも、ショーン王子を介して姫の言葉をショノア王子に伝えれば、ショノア王子にとって最も説得力のある言葉となりましょう」
「私の言葉をショーン様に託せばいいのですね?」
 ミレム姫は察し、続いて瑠璃も言い添える。
「セクテ公の分も。ミレム姫との結婚に託した思い、そして結婚やハンの国を救う決意も伝えた方がいいと思うの」
「分かった、すぐに書こう」
 2人の直筆の手紙は、程なく用意された。

●コールドウォー
 そこはトルク城内の寒々とした部屋。ウィル空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)が待ち続けていると、ロッド伯が現れた。
 シャルロットとの面談に応じたのだ。
「用件は3分で済む。まずは剣を置いて貰おう。激情に任せて斬り殺されては敵わないからな」
「良かろう」
 ロッドは剣を置く。シャルロットは剣を預かると、ロッドに一枚の文書を渡す。
「これを読んで欲しい。王都の貴族子女間で出回っていたという問題文書だ」
 上質の羊皮紙に優雅な字体で書かれた書面。それにロッドが見入っている間に、シャルロットはロッドの剣をすり替える。それが作戦だ。
 一読してロッドは尋ねる。
「これは何のつもりだ?」
「読んでの通りだ」
 その内容は、さる国の切れ者伯爵が敵国の王子を囲い愛でるという、今流行りらしいボーイズラブ的な話。
「くだらん」
 書状を突っ返してきたロッドに、シャルロットは一言。
「贈り物に毎日ドレスを贈っているそうだな」
 何? ロッドの眼差しが険しくなる。
 これはロッドへの当てこすり。その事にロッドが気付かぬ訳がない。
「‥‥‥」
 シャルロットは無言で、ただ冷たい目線のみを送る。
「‥‥‥」
 ロッドもまた、威圧感を放つ冷たい目線を向けている。
 冷たい目線と目線がぶつかり合い、凍れる火花を散らし合い。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
「‥‥‥」
 その時間は永遠に続くかと思われたが‥‥。
 言葉の沈黙を最初に破ったのはシャルロット。
「意中の人という噂は聞いていたが」
「‥‥?」
「ロッド伯、別に貴殿が美少年好きであろうと女装嗜好癖があろうと口出しする気はないが。ただ、相手は選べ。主戦派の宰相が反ウィル盟主の王子に血道をとか、大戦争は痴情の縺れが原因だと噂にでも出た日には、ウィル末代までの恥だ」
 ロッドはシャルロットをじっと睨んでいる。氷の仮面のような表情で、威圧感だけがびしびし伝わってくる。その腰に剣をまだ帯びていたなら、眉一つ動かさずにシャルロットの胴体を一刀両断していても不思議はないと思えてくる程に。
「ははははは!」
 いきなりロッドは大声で笑い出した。
「礼を言うぞ、空戦騎士団長。面白い話を聞かせてもらい、退屈しのぎになった」
「ともあれ、ハンの国の使者がもたらす話が何であれ、踏み外した行動は自重願う。話はこれまで。そろそろ式典の時間だ」
 そう言いつつ、ロッドにすり替えた剣を手渡したシャルロットだが。
「ほう、剣をすり替えたな?」
 流石はロッド。剣を受け取るなりその違いに気付いた。
「だか小細工など無用。俺はその気になれば、刃のない儀礼用の剣でも敵を切り殺せる」
「本当に?」
「いずれ分かる」
 ロッドは去る。不気味な笑みをシャルロットに見せつけて。
 去り行くその背中を見つめてシャルロットは呟く。
「全くやり過ぎなのだ。貴公は何事も」

●宣戦布告
 トルク城は緊張感に満ちていた。謁見の間、大ウィル国王ジーザム・トルクの座す王座の前に居並ぶ臣下達は、誰もがピリピリしている。
 ロッド伯はジーザムの左隣に立っている。その顔からは何の感情も読み取れない。だが鍛え抜かれたその体から放つのは、殺気にも似た威圧感だ。その彼に離れた場所から目を光らせるのは煉淡。ロッドがひとたび暴挙に出れば、すぐに呪縛の魔法を投げつける用意は出来ている。だが警戒の対象はロッドだけではない。どさくさに紛れたカオスの襲撃に備え、煉淡は探知魔法による警戒を怠らずにいた。
 壁寄りの場所には各国大使が列席する。果たしてハン王宮より遣わされた使者が、如何なるメッセージをウィルの王に伝えるか、それを見届ける為だ。
 だが、使者の携える国書の中味が不穏なものであろうことは、大使達も十分承知している。誰もが固唾を呑んで見守る中、ハンの国の大使が謁見の間に姿を現した。
「ハンの国の使者よ、よくぞ参られた」
 王座より歓迎の言葉をかけるトルクの王。だが使者は返事もなく、戦いを挑むような足取りでジーザム王の前に歩み寄ると、携えてきた国書の封印を切り、威圧せんとするかのように大声で読み上げ始めた。
「大ウィルの王座に居座る極悪人、忌むべきカオスと結託せし大罪人ジーザム・トルクに宣告する!」
 謁見の間にざわめきが起こる。怒りの声、憎しみの声、やはりそうかという覚悟を込めた囁き声。だがその中にあって、煉淡はしっかりと捉えていた。魔物の気配だ。近くに魔物が潜んでいる。
 使者は国書を読み上げ続ける。
「大罪人ジーザムの犯したる大罪は斯くの如し! 祖国ハンを疫病で汚せし大罪! ハン国王カンハラーム・ヘイット陛下を亡き者とせし大罪! 偽の国書をもってハンに攻め入る口実を作りたる大罪! その他数限りなき汚辱に満ちたるその悪行は今や糞土の大山の如く、竜と精霊の御前に積もりに積もりたり! ことに許し難きは、いとも尊きミレム姫殿下を人質と為し、犬の子にも劣る卑しき私生児ルーベンをけしかけて、由緒正しきハン王家の血を汚さんとする大罪なり!」
 ロッドが使者の前に歩み寄り、自らの腰の刀に手をかけた。
「その先を続ければ命はないと思え」
 使者は一段と声を大にする。
「よってハン国王妃ミレニアナ・ヘイットは亡き国王陛下に代わり、極悪非道なる侵略者にしてカオスに組する悪の巣窟ウィルに宣戦を布告する!」
 言い終わるや、使者はロッドを睨みつける。
「殺すなら殺せ、覚悟は出来ている。‥‥おっと、一つ言い忘れていた」
 使者はトルクの王を指差した。
「極悪非道なるジーザム! 貴様の犯した大罪の中の大罪、貴様が隠し続けてきた秘密を我らは知っているぞ! 聖山シーハリオンの異変の真実、血塗られし聖竜の羽根が降り注いだその元凶をな! 貴様こそがルナーヒュージドラゴンの命を奪った極悪人! いや貴様はもはや人に非ず、貴様はカオスそのものだ! 竜殺しのトルクめ!」
 稲妻の如くロッドが動いた。
 同時に煉淡も魔法を放つ。だが魔法抵抗された。
 ロッドは剣を引き抜き、あっという間に使者の首を刎ねた──はずだった。
 だが、使者の首の代わりに宙に舞ったのは花吹雪。
 ロッドが引き抜いた剣は、抜けば花が出る大道仕掛けの小道具だったのだ。
「シャルロットめ!」
 花束に化けた剣を見つめて歯噛みするロッド。そこへ剣をすり替えた張本人、空戦騎士団長シャルロットが、皆の頭上から現れた。魔法のスタッフに封じたリトルフライの力を使い、宙を飛んで使者の前にすとんと舞い降りる。
「さて使者殿、ウィルもまた花を愛で平和を愛する国。ここまで育てた友愛の花、無下に摘むのは忍びない。至らぬ誤解あれば‥‥」
 使者の頭に花冠を載せ、振り向いたその先にはセクテ公とミレム姫の姿。
「先程の暴言に関しての御返答は、御本人達からさせて頂きましょう」
 公と姫は使者の前に進み出ようとしたが、煉淡に止められる。
「その前に露払いを。近くに魔物が潜んでいます。それも大物が」
 言うや、煉淡はホーリーの呪文を放った。
「ぐっ! ぐあああっ!!」
 来賓の中に紛れ込んでいたそいつが正体を現した。
 火を吐く黒馬に跨った魔物騎士だ。魔物が2人に迫り、黒馬が炎を浴びせる。魔物騎士が剣で切りつける。
 だが、煉淡の張ったホーリーフィールドに2人は守られていた。
「魔物の勝手にはさせない!」
 瑠璃がクルセイダーソードで斬り込んだ。信じられないその速さはオーラマックス魔法の為せる技。血を噴出して黒馬が倒れ、魔物騎士は煉淡の放つホーリーに焼かれて叫ぶ。
 止めを刺したのはセクテ公。2匹の魔物は灰のように崩れ、消滅した。
「大丈夫か?」
 オーラマックスの反動でぐったりした瑠璃をセクテ公が気遣う。
「大丈夫です、これがあるから」
 手持ちのチーズ・ブランシュを腹に収めると、瑠璃の体に活力が甦る。
「さあ、参りましょう」
 煉淡と瑠璃の2人に導かれ、ミレム姫はジーザム王の座す王座の前へと歩み始めた。

●姫と王の言葉
「姫‥‥」
 ミレム姫の顔はすぐ目の前。あまりの急展開に使者は言葉を失っている。
「母上にお伝え下さい。私は自分の意思でウィルに留まると」
「しかし‥‥」
「不信で人を引き裂き、憎しみの炎に油を注ぎ、人同士を争わせるのがカオスのやり方です。母上のご心配は分かります。でも、私はウィルを支える人々の中に信義を見出したのです。私達がこの信義を裏切るなら、それはカオスの付け入る隙になります。真なる敵はカオス、その事を忘れないで下さい」
 姫の言葉に使者だけでなく、ジーザム王の臣下や各国大使も聞き入っている。
 そしてミレム姫は、一段と声を大にして訴えた。
「人と人、国と国との争いは竜と精霊の望むところではありません! 一刻も早くハンの国に平和を!」
 これを受けてウィル国王ジーザムもその王座から高々と宣言した。
「ハン宮廷よりの宣戦布告、しかと聞き届けた。我、ウィル国王ジーザム・トルクはこれに応じ、ハンとの戦端を開く。だがハンの使者よ心せよ。我らが真なる敵はカオス。ウィルの進軍の根拠はハン国王より託されし国書にあり。願わくば国書の真偽明らかなりし時は、ウィルとハン双方が手を携え共にカオスへの戦いを挑まんことを」

●使者に花冠を
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 花冠を頭に載せた使者は完全に固まっている。
「お元気で」
 シャルロットの別れの挨拶に一言も言葉を返さず、そのままくるりと向きを変えて謁見の間から出て行った。
 場収めの演出は大成功。かくして最悪の危機は回避されたのである。