ウィルの大義３Ａ〜最後の敵はカオス
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■シリーズシナリオ担当：内藤明亜 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：2 G 98 C 参加人数：4人 サポート参加人数：-人 冒険期間：01月18日〜01月21日 リプレイ公開日：2010年08月30日 |
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●オープニング
●宣戦布告「竜殺しのトルクめ！」
あろうことかウィル国王ジーザムの御前でハン宮廷からの使者が放った侮蔑の言葉。これに激怒したロッド伯はその場で使者を斬り捨てようとしたが、冒険者の機転で使者殺害は阻止された。ミレム姫を襲撃したカオスの魔物も冒険者に成敗された。
こうしてミレム姫は各国大使居並ぶウィルの宮廷で訴えたのである。
「人と人、国と国との争いは竜と精霊の望むところではありません！ 一刻も早くハンの国に平和を！」
これを受けてウィル国王ジーザムもその王座から高々と宣言した。
「ハン宮廷よりの宣戦布告、しかと聞き届けた。我、ウィル国王ジーザム・トルクはこれに応じ、ハンとの戦端を開く。だがハンの使者よ心せよ。我らが真なる敵はカオス。ウィルの進軍の根拠はハン国王より託されし国書にあり。願わくば国書の真偽明らかなりし時は、ウィルとハン双方が手を携え共にカオスへの戦いを挑まんことを」
●ロッド伯の軍略
ウィル軍の総司令官ロッド伯の前に、ハンの国の地図が広げられている。
ウィル軍を示す駒はハンの南側、ウスの都を中心に配置されている。
対するハンの北側にはハンの国・エの国・ラオの国の正規軍と、各国の志願兵から成る義勇軍の駒がひしめいている。その中でもとりわけ大きく、ウィル軍を狙うように突出しているのが義勇軍の旗艦、エの国のショノア王子が乗船する戦艦バスターだ。
「エの国とラオの国の正規軍は開戦に備えてハンの王都に待機しているが、ミレム姫のウィル擁護発言のこともあり、両国ともウィルに対する宣戦布告を思いとどまっている。臨戦態勢を取っているのはハンの国の正規軍、そしてショノアの乗る大型戦艦バスターと義勇軍だ」
軍議を進めながらロッドは空戦騎士団長の顔を思い出す。彼女の機転がロッドの暴発を抑えなければ、ウィル軍はさらに多くの敵を相手にするところだった。
（今度ばかりは救われたな）
内心そう思うが、そのことは表情には出さない。
「ウスの都のウィル軍が北進すれば、それに対抗して義勇軍が南進する。本来なら激突する両軍だが、激突を回避して両軍の合流を為さしめ、カオス殲滅の連合軍として一気にカオス本拠地に進撃する」
大胆なロッドの軍略を聞かされ、部下が尋ねる。
「出来るのですか？」
「あのショノアの性格なら、明白な証拠を見せればその矛先をウィル軍からカオスへと転じるはずだ」
ロッドの言う明白な証拠の最たるものは、死亡したと思われながらも実は生きていたハン国王。冒険者によって救出されたハン国王は今、秘密の場所で保護されている。
問題はどうやってその証拠をショノア王子に示すかだ。
●敵本拠地の攻略
ここは冒険者ギルドの総監室。この部屋を訪れたロッド伯の目の前には、黄金の輝きを放つ２枚の護符が示されていた。言うまでもなく、護符の１つはウスの都からもたらされたもの。もう１つはハン商人レミンハールが持っていたものだ。
「これが、富貴の王の宮殿への移動を可能にする転移護符というわけだな」
「難点は護符の発動に、人間の命を犠牲にしなければならないことですが」
ウスの都で護符を手に入れた冒険者は、富貴の王を崇める邪教の神官が、実際に護符を使う場面を目撃してもいた。
護符を手にした神官は１人の男の喉を掻き切って殺害し、流れる血を護符に注ぎつつ、その血を自分の額に塗りたくったのだ。傍にいた神官の腹心達もそれに習い、それぞれの額に殺された男の血を塗りたくった。やがて護符は強烈な黄金の光を放ち、神官とその腹心達はその光に飲み込まれて消え失せた。
「発動に使う人間が必要なら俺が手配してやろう。処刑を待つ死刑囚で構わないな？」
まるで傭兵でも調達するような口調でロッドは言ってのける。
「しかし移転する先は敵の本拠地。強力な敵が大勢ひしめいていることでしょう」
カインの言葉を聞いたロッド伯は、我が意を得たりというようにニヤリと笑った。
「俺が冒険者なら次のように作戦を立てる。まずハン北方へ向かうと見せかけたウィル軍を『富貴の王』の宮殿攻略に転じ、敵主力の注意を引き付けたところで、少数精鋭の部隊を転移護符の力で宮殿内に送り込み、敵中枢の混乱を誘発。それに乗じて敵の首魁を一気に叩き潰す」
宮殿の場所を示す地図は、既に冒険者の手で入手済みだ。しかしカインは言う。
「見事な軍略ですが問題があります。リーガという女性の話によると‥‥」
「リーガ？」
「沼地から石像として引き上げられ、冒険者の手によって石化解除された女性です」
「ああ、あの女か」
「カオスと通じるドーン伯爵家当主の愛人だった彼女は、シャルナー・ドーンの身近にいたことから、カオスの秘密を知りすぎました。ために口封じされ石像に変えられたのですが。その彼女の話によれば、富貴の王の宮殿は１年を通じて絶えず深い霧に包まれた谷にあるというのです。その霧の谷にはカオス側のフロートシップも出入りしていますが、小型魔物の霧吐くネズミを案内人にすることで、霧の中でも自由に船を動かすことが出来るのだそうです」
霧吐くネズミは身長１ｍ強のネズミの姿をしたカオスの魔物だ。ジ・アースでクルードと呼ばれていた悪魔によく似ている。ベテラン冒険者にとってはザコだが、霧の中でも視界を得ることのできる魔物なのだ。
ロッドは言う。
「霧か‥‥厄介だな。霧の中を見通せるエックスレイビジョン魔法の使い手を徴募し、配下の軍船に乗せねばなるまい」
●バスターへの使者
「ルーベン様、ウス総督への就任おめでとうございます」
誰もがそう挨拶してくる。城の回廊で行き会う兵士も、ルーベン・セクテ公の顔を見ると誇らしげに敬礼してくる。
ウィル軍がハンへの華々しい進撃を遂げた今、セクテ公そして大ウィルには輝かしい未来が開けていると誰もが思っている。
だがセクテ公の悩みは尽きない。
「ロッド伯の軍略、本当に上手くいくのか？」
ハン国王の生きた姿を見れば、ショノア王子は必ずウィルになびくとロッド伯は踏んでいる。だが何らかの行き違いで戦端が開かれたら？
「ルーベン様はすぐにウスの都へ向かうのですか？」
婚約者のミレム姫が尋ねてきた。
「明日にでも王都を発つ」
「私も一緒に」
「いや、姫には王都に滞在していて欲しい。私の行き先は戦場、何が起きるか分からない危険な場所だ」
セクテ公は自らが最前線に赴くつもりだ。だがミレム姫やハン国王が戦争終結の鍵を握る人物だとしても、国家の重要人物をあの危険な戦場へ連れて行くのには大きな抵抗がある。たとえその周りを重装備の兵で固め、強力な武器を配したとしても、それをバスター側がウィルの侵略的意図と見做して攻撃をかけてきたら？ 砲撃で国王や姫が命を落としたら、取り返しのつかないことになる。
ふと、セクテ公は思い当たった。
「王都にはショーン王子がいたな」
エの国の第２王子ショーンは自分の意思でエの国を離れ、今はお忍びでウィルの貴族女学院（！）に入学中だ。この戦争勃発時もナーガの特使達と冒険者に付き添われて巨大戦艦バスターに接触。兄のショノアに掛け合い、巨大戦艦をハン北部まで引き下がらせた実績がある。
「だが、今度もショーンと冒険者をバスターに向かわせるとして、２回目の説得は上手くだろうか？」
●今回の参加者
eb4219 シャルロット・プラン（28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス）eb4288 加藤 瑠璃（33歳・♀・鎧騎士・人間・天界（地球））
ec5570 ソペリエ・メハイエ（38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国）
ec6589 ヴァジェト・バヌー（37歳・♀・ジプシー・人間・エジプト）
●リプレイ本文
●ハン国王の言葉ショノア王子殿下を最も納得させられる証拠となるのは、秘密の場所で保護されていらっしゃるハン国王殿下の健在を示す事だ。そう考えたヴァジェト・バヌー（ec6589）は、セクテ公から国王に対面する許可を貰い、目的を同じくする加藤瑠璃（eb4288）と共に、保護下にある国王の下へ向かった。
ゴーレム工房の近くに一隻のフロートシップが見える。入り口には『修理中・部外者立ち入り禁止』の看板。そこから加藤瑠璃（eb4288）とヴァジェト・バヌー（ec6589）が中に入ると、快適に保たれた船内にその人がいた。
公式的には死亡したとされるハン国王、カンハラーム・ヘイットだ。
「ロッド伯も考えたわね。船の中に保護すれば、緊急時にはいつでも離陸して危険を避けられるわけね」
そう言うと瑠璃は、ヴァジェトと共に国王に一礼する。
「陛下、ご機嫌は如何ですか？ 不自由な生活で心労多きことを思うと痛み入ります」
「我が民の辛苦を思えば、わしの不自由など苦労のうちにも入らんよ」
国王は静かに答えたが、その顔に刻まれた皺は深さを増したかのようだ。
「今の状況はどうなっているのだね？」
国王のこの問いにヴァジェトが答える。
「セクテ公は平和のために尽力を尽くしています」
これまで集めた情報をヴァジェトが伝えると、国王は感極まって言った。
「感謝に堪えぬ」
瑠璃は来訪の要件を切り出す。
「陛下、今回はご協力をお願いしたく参上しました。ショノア王子を説得するために、陛下がご存命であることを示す証拠の品が必要なのです」
続いてヴァジェトも。
「また、陛下でなければ知りえないお言葉等をショノア王子殿下にお伝えできるなら、殿下の誤解を解く大きな助けとなるかと存じます」
「ショノアか‥‥最後に会ったのは２年前だったが」
ハン国王は記憶の頁を繰り、暫し過去に思いを馳せる。
「王子は幼い頃より度々、ハンの王宮を訪ねて来たものだ。子供の頃から一途な若者でな」
国王は微笑むと、自分の指にはめられた指輪を取って瑠璃に手渡した。
「この指輪のことならショノアも知っていよう」
次に国王はヴァジェトに語りかける。
「そういえば昔、こんな事があった。昔、ショノアがハンの王宮に滞在していた時の出来事だが‥‥」
国王が語り始めたその言葉にヴァジェトはずっと聞き入っていたが、聞き終えると決意の表情で国王に告げる。
「陛下のお言葉、必ず王子殿下にお届け致します」
●青騎士との会話
フロートシップの発着所には戦場に向かう船が並ぶ。バスターと接触すべく出航準備中の船の上空には、飛行中の戦艦イムペットの姿がある。瑠璃はイムペットから飛び立つストームドラグーンを見た。戦いに向けて訓練中なのだ。
彼と話をするには今しかない。長いこと知りたかった謎を解くために。決意を固めた瑠璃は風信器に向かう。話すべき相手はドラグーンを駆る青騎士。幸運にも通話が可能だった。
「あなたがドラグーンでルナードラゴンを殺したというのは本当なんですか？」
開口一番に尋ねる。
「君は誰だ、冒険者か？ 後で面倒な事になるぞ」
青騎士が通話を切る気配。構わず瑠璃は畳み掛ける。
「なぜそんな事を？」
「君はなぜそんな事を訊く？」
「敵がそう言っているのが理由の一つ。ただ、『ルナードラゴン殺害』が原因で『戦争を起こす』っていうのは、間違っていると思うのよ。戦争が長引くほど一般人の被害は大きくなる。他国の民衆を犠牲にして行う正義に意味なんてないわ。カオス勢力を一掃した後にその責を負うべき者と一騎打ちでも何でもすればいいじゃない。まずはカオス勢力の一掃に力を貸して欲しいの」
かなり長い沈黙の後、答があった。
「今は話す時ではない。だが、その時が来たら力を貸そう。君のことは忘れない」
●救援
戦艦バスターへ向かう使者の為にセクテ公が用意したフロートシップは、ウィル軍の標準的な戦闘艦だ。飛行中にエレメンタルキャノンの砲撃も行える。
先に自分が参加した依頼では敵の襲撃があっただけに、ソペリエ・メハイエ（ec5570）はペットのグリフォンを同伴させ、敵襲あらばいつでも飛び出せるように待ち構えていた。
ところが路程は平和そのもの。敵船が姿を見せる気配もない。
「何だか拍子抜けですね」
「ソペリエ殿の参加した前回の依頼では、敵を挑発するためにわざと軽武装の船を使いましたから」
と、同乗の某・重要人物が疑問に答えたが、それが誰であるかは後で明かす。
「今回は乗っている船が軍船だけに、敵も攻撃を手控えているようです」
「手強い相手は襲わないのですか。嫌な奴らですね。残念ですが今回は出番なしですか」
２人が会話する傍で、ヴァジェトはサンワードの魔法を使い、戦艦バスターとショノア王子の居場所を定期的に確かめていた。
「バスターの位置に変化はありません。この様子ならあと１時間程で遭遇するはずです」
ヴァジェトが報告するや、通話管から声が響く。
「緊急事態！ 攻撃され炎上中の船を発見！」
冒険者達は甲板に飛び出し、遠方を見れば墜落して黒煙を上げる船が見える。
「救援に向かわねば！ 指揮は私が取ります！」
某・重要人物が乗船していたことが幸いした。その手馴れた作戦指揮に従い、船が交戦現場に急行。距離が十分に近づきエレメンタルキャノンの援護射撃が開始されるや、ソペリエはグリフォンの背に跨って空へ舞い上がる。その目が巨大な姿を捉えた。船を襲っていたカオスゴーレムだ。巨大な敵は炎上する船から離れ、空へと逃れていく最中だ。
「ラプタス！ 頭を狙え！」
ゴーレムの頭上からグリフォンが急降下。ランスチャージだ。ランスが敵ゴーレムの頭を突く。同時に凄まじい衝撃が走り、それをやり過ごすと敵ゴーレムの巨碗が襲い来る。だが敵ゴーレムは頭部をやられ視力を失い、ソペリエの動きに翻弄されている。やがて敵ゴーレムは攻撃を諦め、遠ざかりつつある自分の船に向かっていく。
「ソペリエ、深追いはしないで。乗組員の救助に向かいましょう」
ムーンドラゴンの背に乗ったヴァジェトがグリフォンに突き出し、今だに炎上する船を指差した。船上には敵船から投下されたと思しき魔物どもの姿。乗組員が必死に戦っている。
ソペリエはグリフォンを降下させ、ランスの攻撃で魔物の数匹を葬ると、船上の者達に呼びかける。
「救援に来ました！ 船に乗り込んでください！」
こうしてウィルの軍船に助けた乗組員だが、その後の調べで彼らはエの国の義勇軍に所属する者達だと分かった。軽武装の船で偵察に出かけたところをカオスの船に襲われ、すんでのところで全滅するところだったのだ。
「ショノア王子には手土産が出来ましたね」
某・重要人物は思わず手にした成果に微笑んだ。
●ハト派強襲
白旗を掲げ戦意なき事を示したウィルの軍船が、戦艦バスターと並び合う。渡り板が渡され、ウィルの冒険者達がバスターに乗り込んできた。救助した船の乗組員も引き連れて。その戦闘に立つのは某・重要人物。対応に出たバスターの者達はかの者の身なりを見て、恐らくは名のある騎士の誰かだろうと察したが、かの者は「王子の前で名乗らせていただきます」と言うばかりで身元を明かさない。仕方なく、そのままショノア王子の前へ通すことになった。
艦内のホールで待つ王子の隣にはウィルの宿敵、吟遊詩人クレアが控える。エの国のドラグーン製造に協力した異端のナーガ達も彼と共にいた。
「義勇軍兵士の救出には感謝する。だが、まずは名乗りを上げて頂こう」
と、ショノア。
「私は一介の空戦騎士。それ以上でも以下でもありません」
と、某・重要人物。
「なぜ敵地にのこのこと飛び込んできた？」
「停戦交渉のために」
「今更の停戦交渉など無駄なこと。速やかにウィルへ帰れ」
「ですが、戦場では行き違いが発生しやすいもの。両者の潤滑油の役目を果たしたく思い、連絡係として居残ることが出来れば」
クレアが王子に耳打ちする。
「これは敵の策略かも」
「では敵の出方が分かるまで軍事行動は中止だ。そして諸君らには人質としてバスターに居残ってもらう」
冒険者達にそう告げると、ショノアは謎の空戦騎士と向き合う。
「私と話をする為に来たのだろう？」
「はい。ウィル軍の布陣について情報をお伝えしたく」
空戦騎士は携えてきた地図を広げ、そこに沢山の駒を並べていく。ウィル軍、ハン軍、ショノアの義勇軍、そしてエとラオの国の正規軍。
「これが現況です。ウィルの敵軍はその戦力全てを合わせれば、ウィルと互角に戦える可能性も無きにしも非ず。ですがミレム王女のウィル擁護発言を受け、エとラオの正規軍が参戦を手控えている現状では、ウィルの敵とすべき戦力は王子殿下率いる義勇軍と、ハン北部に温存されたハンの正規軍のみ。しかもハン正規軍は空戦力に乏しく、開戦となればバスターは三方から攻めるウィル軍を相手にせねばなりません。ウィル軍にとっては一方的な包囲攻撃です。エの国のドラグーンについては戦力未知数ですが‥‥」
やにわに空戦騎士は１枚の羊皮紙を取り出す。
「これがウィルの保有するドラグーンのリストです。この数を相手に戦える自信がおありですか？」
「貴殿は何者だ？」
‥‥ショノアは絶句していた。軍事情報の理解のみならず、ウィルの最高機密であるはずのドラグーンの情報まで持ち出しそれを敵国の王子に伝えるなど、只者のやる事ではない。
「申し遅れましたが、私はウィル空戦騎士団団長」
ついに彼の者、シャルロット・プラン（eb4219）は名乗りを上げた。王子は驚愕で口を開き、クレアは剣呑な顔になり、取り巻きの者達はがやがやと騒ぎ始めた。
「静まれ！」
ショノアはその場を静め、シャルロットに問う。
「なぜ騎士団長とあろう者が人質に？」
「この船に団長職がいれば、ウィル側も迂闊に手出しできないでしょう」
そう言って彼女は王子にウインク。
「呆れたな‥‥」
●王子の決断
ここで瑠璃が王子に話しかけた。
「王子、ハンの国王陛下はご存命です。私は陛下よりこの指輪をお預かりしました。生存の証として」
預かった指輪を瑠璃が手渡し、王子はじっとそれに見入る。するとクレアが陰険な声で呟いた。
「陛下の亡骸から剥ぎ取った品か？」
「いいえ、ハン国王陛下は確かにご健在です」
言葉を発したのはヴァジェト。
「私はショノア王子殿下へのお言葉をお預かりしていますのでお伝えします。『私が拾い集めた麦のことを、まだ忘れてはおらぬな？』と、陛下はおっしゃられました」
その言葉に王子は、はっとなる。忘れていた大事なことを今、思い出したかのように。そして王子は沈黙した。その沈黙があまりにも長く、瑠璃は痺れを切らして声をかけた。
「王子？」
「‥‥ああ、そうか。確かに陛下はご存命なのだな」
そう言って、王子はその言葉の意味するところを語り始めた。
王子がまだ幼き頃、ハンの国に滞在していた頃の話である。幼いながらも王子は乗馬が得意で、ハンの王城の周りを馬に乗って駆け回っていた。ある時、勢いの過ぎた馬が農夫の列に突っ込み、大慌てになった農夫達は携えていた麦を放り出して逃げ出した。
それを知ったハン国王は自ら現場に出向き、地面に散らばる麦の一粒一粒を拾い集め、王子にこう言った。
この麦粒の一粒一粒は農夫達の労苦の結晶なのだ、一粒たりとも疎かには出来ぬのだと。
「陛下はまたこうも言った。王に仕えるのが民の役目、そして民に仕えるのが王の役目だと」
ショノアの目が遠くなる。
「俺は一国の王に向いていないと、よく父上から言われた。確かにこの性格は王に向いてはおらぬ」
「王子殿下、提案があります」
シャルロットが本題を切り出す。
「これで殿下がウィルを敵とする理由は無くなったはず。今、殿下の為すべきはウィルと大同団結し、真の敵であるカオスを殲滅すること」
「王子！ 油断なさるな！ これは‥‥」
何か言おうとしたクレアを、王子は手で制して言った。
「今まで敵と思っていた者を信じて裏切りに会えば、確かに俺は一生笑いものだ。だが戦うべき時と相手を間違え祖国を危機に陥れれば、その不名誉を一生背負うことになる。だから俺は決めた」
そう前置きして、王子はその場にいる全員に宣告した。
「剣を向けるべき相手はカオス。バスターはこれよりウィル軍と合流し、共にカオスの本拠地を目指す！」
一同が歓声でこれに応える中、クレアが怒りの形相でシャルロットに言葉を浴びせてきた。
「貴殿のお陰で我らが陣営は大量の戦力を失った！ あの時、ロッドに使者を切り殺されていれば、我らにはエの国とラオの国の正規軍という協力な味方を得ていたものを！ ‥‥だが結果的にはそれで良かったのかも知れぬ。そうだそれで良かったのだ」
言葉の最後には怒りが消え穏やかな口調に。シャルロットはクレアに伝える。
「あと今回リグの介入確率はゼロです。昨年居座っていたカオス勢力は一掃しましたが新国王の下建て直しの真っ最中ですから」
「貴重な情報に感謝する」
クレアは一礼し立ち去った。シャルロットはドラグーンの機名を連ねた羊皮紙を見つめ、つぶやく。
「貸しはこれでなしだ、ロッド卿」
●月竜の死の謎
瑠璃には知りたいことがあった。長い間、その真相を知りたかった謎。その答を知りたくて、瑠璃はバスターに乗船中のナーガ達に尋ねてみた。
「『未だ知ることあたわず』、これはシーハリオンの異変について、とある冒険者の質問に答えたレインボードラゴンの御言葉です。貴方方はこれをどう捉えますか？」
ナーガ達は押し黙って考えていたが、やがてその一人が答えた。
「言葉を補って考えるなら、『おまえ達人間は』『未だその答を』『知ることは出来ない』ということだろう。だがその答を知るべき時は、そう遠くない時にやって来るのかも知れない。シーハリオンの麓からウィルに下ったナーガ達が、その答を求めて動き出したことを我々も知っている」
「ご存知だったの？」
「我らには我らなりの情報伝達路があるのだ」
