ウィルの大義2B〜フロートシップ敵地へ

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月09日

リプレイ公開日:2010年01月27日

●オープニング

●国王の死?
 カオスに蹂躙されるハンの国。祖国を国難より救うべく、ハン国王カンハラーム・ヘイットは固き決意を胸に、自らフロートシップに乗りウィルの国を目指した。
 だが、これをみすみす見逃すカオス勢力ではない。国王を乗せた船はウィルとの国境にたどり着く以前に、カオス勢力の猛攻を受けた。
 急ぎ駆けつけた冒険者達の活躍で、船の乗組員は大勢が救出された。しかし脱出したハン国王が搭乗するグライダーは墜落し、墜落現場には国王のものと思しき亡骸と、国王自らが携えてきた国書が残されていた。

「お父様‥‥! そこまで決意されていたのですね」
 ハン国王の息女、ミレム姫の目に大粒の涙が浮かぶ。ウィル国王の王弟ルーベン・セクテ公は、読み上げたばかりの国書を閉じると姫の肩を優しく抱いた。
 国書にはハン国王の遺志が書き綴られていた。国の惨状を憂い民の苦難を嘆き、祖国を救うにはもはや大国ウィルの力に頼るしかないと決した国王は、その国書においてセクテ公とミレム姫の結婚を認めたのである。
 この結婚によってウィルとハンの両国は同盟関係で結ばれた。セクテ公にとってもハン国王の死は悲痛な出来事だったが、ハンの国の行く末に一筋の光明を見出した思いだった。
 これでハンの民を救うことが出来る。
「姫、陛下の元に参りましょう」
 セクテ公はミレム姫を、ハン国王の亡骸のもとへと誘う。ハン国王の遺体は安らかな死に顔で横たわっていた。ところが姫はその顔をまじまじと見つめ、怪訝そうな顔をしている。
「どうかなさいましたか?」
「違うような気がするのです‥‥。似ているけれど‥‥」

●御前会議
 ハンの宮廷からの耳を疑うような知らせがもたらされたのは、急ぎ開かれた御前会議の席上だった。あろうことか、ハン国王の残した真の国書なるものが、ハンの宮廷で発見されたというのだ。即ちウィルに届けられた国書は偽物で、真の国書なるものはハンの国難の全てをウィルの陰謀に帰し、声高にウィルを非難するものだったという。
 情報をもたらしたのは、ウィルの軍事を統括するロッド・グロウリング伯。ウィル国王ジーザムが誰何する。
「それは真か」
「はい。ハン宮廷に潜ませた密偵の情報によれば、カンハラーム陛下亡き後のハン国内で、反ウィル派が王妃ミレニアナ陛下を中心に結束。ウィルがハン領内に侵攻するなら全面戦争も辞さず、国を挙げてウィルの侵略軍を迎え撃つとの宣告が為されたとのこと。既にハンの友好国であるエの国、ラオの国が義勇軍を送ったとの情報も届いております。そしてつい今しがた──」
 届いたばかりの伝書をロッドはジーザムに差し出す。それはハンの宮廷よりジーザムの元へ使者を使わすという知らせ。一読したジーザムの表情が険しくなる。
「とても友好の使者とは思えぬな」
「この使者の携える知らせはセクテ公とミレム姫の婚約破棄、そしてウィルに対する最終通告、これ以外に考えられません。使者が陛下の御前にて新たな国書を読み上げしその時が即ち、開戦を告げるトランペットの鳴る時となるはず」
 ロッドの回答を聞き、ジーザムは宣告する。
「皆の者、覚悟の程はよいか!? 次なる戦いは大戦争となろうぞ!」

●侵攻作戦
 トルク城の作戦室でロッド伯は軍略を練る。
「戦いは迅速さが勝敗を決する。大型フロートシップ・イムペットを筆頭に十五隻の軍船からなる空中艦隊を編成し、搭載したゴーレムと騎士団でウスの都を一気に攻め落とす。そしてウスを軍事拠点と為した後、反ウィル同盟軍の牙城となったハンの王都に矛先を向けるのだ」
「バスターは如何なさいますか?」
 部下の1人が問う。バスターとは反ウィル同盟の雄、エの国が建造した大型フロートシップ。密偵からの情報によれば、エの国で自主開発したドラグーンをも搭載しているという。その船を指揮するのはエの国の第一王子ショノア・ナーカウ。
「ウィルの脅威となる船だ。この戦いで真っ先に沈める。その栄誉ある役目を担うのはウィルの誇るストームドラグーンだ」
 ウィルの生み出した最強のゴーレム兵器と言われるストームドラグーン、その操縦者は青の仮面に素顔を隠した青騎士だ。
「冒険者は如何なさいます? 彼らも戦力のうちに組み込みますか?」
 さらなる部下の質問。ロッド伯は答えた。
「いや、冒険者達には別の仕事をやってもらう。彼らの戦場はハンの山岳地帯だ」

●おとり作戦
 冒険者達の偵察によって明らかになったことだが、ハンの西部に連なる山岳地帯にはカオス勢力に支配された土地がある。この地では大勢の民が奴隷として働かされており、中にはウィルから連れ去られた者達もいるという。
 そしてこの地には謎の黒いフロートシップも飛来し、奴隷にされた大勢の人々をどこか遠くの土地へと運んでいくという。
「その船の向かう先には恐らく、ハンを支配するカオス勢力の本拠地がある。数々の陰謀でウィルを破滅の淵に引きずり込もうと企む、我らが真なる敵はそこにいるはず。来る戦いの最終目的は、そのカオスの本拠地を叩き潰すことにあるのだ」
「しかし、仮にウィルの軍船で山岳地帯を強襲すれば、カオスのフロートシップは警戒して姿を現さないのでは?」
「そうだ。だから囮(おとり)を使う」
「囮とは?」
「ウィルの王都に滞在するナーガの特使達だ」
 ナーガは聖山シーハリオンの麓を故郷とする竜人の種族で、アトランティスの人々からは竜に近い存在として崇められてもいる。冒険者達との交流がきっかけで、ウィルの王都には3人のナーガが人間界を学ぶ特使として滞在しているのだ。
「特使達は間近に迫った大戦争のことを非常に気にかけている。竜の血を受け継ぐナーガは人間を導く模範たらねばならぬ──そう考える特使達は大戦争を回避しようと色々と努力しているようだが。その彼らに俺がハンの山岳地帯の話を聞かせると、我らは何としてでもカオスを成敗して奴隷を解放せねばと勇みたち、すぐにでも現地へ向かうと言ってきた。そこでこのロッドは彼らのための船を手配し、冒険者を同行させる段取りをつけてきたというわけだ」
「つまり‥‥閣下は彼らを囮に使ったわけですか」
「利用できるものは全て利用する。それが俺のやり方だ。まして此度の戦いはウィルの存亡にも繋がろうかという戦い。手段を選んでいる余裕はない」
 そう言った後でロッドはほくそえみ、言い添える。
「これはナーガの特使達が自らの意志で行う行動。ウィルはその手助けをするにすぎぬ。いかな反ウィル同盟の輩とて、聖竜ヒュージドラゴンの旗印を掲げたナーガの特使に剣を向け矢を射るようなことはあるまい」
 ナーガの特使達の為に用意された船は、いずれも旧型のフロートシップばかり。竜人を乗せた船であることの証として、紋章旗の代わりにヒュージドラゴンの巨大な羽を掲げて飛ぶ。逆に言えば、カオスにとってこれほど目につく目印はない。カオス勢力に襲撃される危険は常に付きまとう。
 果たして特使達の船は、無事に目的地に着くことが出来るのか?

●今回の参加者

 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec6861 剛 丹(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●軍議
 フロートシップがウィルとハンとの国境を越える。
 船上ではアリア・アル・アールヴ(eb4304)が、ナーガの特使インドラを相手にして軍議に熱中していた。
「戦いの推移の予測ですが、緒戦のウイル軍勝利そのものは堅いと思われます。軍のレベルや規模がどうというよりも士気の点が大きいですし、暗躍するカオスの輩(やから)としても、ウィル軍をもっとハン領内に引きずり込みたいでしょうから。まあ新型艦を率いて前に出てくる、ショノア王子の勇敢な行動にも助けられていますが」
 アリアの顔に苦笑が浮かぶ。
「もしショノア王子が遊撃の位置に徹して、外交的に牽制だけを送ってきたなら、フロートシップとエのドラグーンによる長距離移動力での逆侵攻を警戒して、ウィル側も相当な戦力を防備に割く必要があったところです。頭を抱えるエの国の重臣達の心境が想像できますね」
 例えばの話、ショノア王子はハンの最前線に向かう代わりに、ウィルの王宮にこんなメッセージを送ることも出来た。

『ウィルとハンが交戦状態になれば、ウィルのいずれかの土地を報復攻撃する』

 そしてあえて攻撃目標を定めず、戦艦バスターとドラグーンでウィル各地の国境地帯を遊撃するか、電撃的な侵攻で王都を狙う素振りを見せたなら、どこに現れるか分からない敵に対してウィル側もより多くの戦力を防御に回さざるを得なかったはずだ。
 ショノア王子は軍略家としての思慮に欠けると、アリアは思った。
「だが正々堂々と戦いを挑む心意気、天晴れであると我は思うぞ」
 と、特使インドラは言う。
「して、今回の作戦については如何に思う?」
「劣悪な環境下に置かれていた虜囚達の体力上の懸念もあります。まずは救出を第一とし、必要なら用意した武器の供給を行い、結果的に反乱になるという路線で良いでしょう。我々の側の人員は少なく、反乱までいけずとも仕方ありません」
 と、アリア。
「それでも最優先すべきは、カオスの本拠地捜索です」
 これだけは皆と確認しておく。船の倉庫にはロッド伯が反乱支援のために用意した武器と、当座の食料が積まれている。
「さて、変装の見た目具合は‥‥」
 アリアは自分と仲間達の変装具合をチェックする。ボロ服を着込み、見た目は食い詰めた流民という装いだ。
「敵方と接触した際の答弁についても、あらかじめ‥‥」
 ドウウウウウン!!
「!!」
 アリアの言葉を中断させたのは強烈な衝撃。船が攻撃を加えられたのだ。

●脱出
 衝撃が何度も船を揺さぶり、ついに目の前で巨大な火球が炸裂。冒険者達は吹き飛ばされて船壁に叩きつけられた。反対側の船壁には大穴が開き、そこから外の景色が丸見えだ。
 敵フロートシップの黒い船影が視界をかすめる。エレメンタルキャノンを搭載した新型艦、ウィルの軍船にも匹敵するタイプだ。
 敵艦を振り切ろうと、冒険者達の船が旋回と上昇下降を繰り返す。だが敵艦は執拗に追ってくる。
 ドウウウウウン!!
 またも船体に衝撃。
「速力・機動力・火力とも、この旧型フロートシップでは歯が立ちません」
 冷静に現状を分析しつつ、アリアはリカバーポーションを飲み干した。負傷して動けなくなったら最後だ。
 船の高度はどんどん低下する。下は木々に覆われた山岳地帯、そしてついに船は不時着した。
「逃げるのじゃ!」
 忍者、剛丹(ec6861)が叫ぶ。ナーガ特使と冒険者達がペットの馬ともども船から逃げ出すや、間一髪の差で敵艦の集中砲撃が加えられた。
 炎上する船を尻目に冒険者達は森の中をひた走る。かなり長いこと走って小休止した。敵が追ってくる気配はない。
「残ったのは我々だけですか」
 リカバーで傷を癒した体をもう一度チェックしたその後で、ジャイアントの神聖騎士ソペリエ・メハイエ(ec5570)が皆を見回していった。
「幸い、地図は手元にあります。これを頼りに目的地へ進みましょう」

●敵の懐へ
 地図とソペリエの土地勘を頼りに、冒険者達は目指す場所へたどり着いた。
 そこは荒涼たる禿山。そこに鉱山の出入口と、地下から古代の遺物を掘り出す採掘場がある。敵兵の出入りする砦もそこにある。岩場の陰から様子を窺うと、苦役を強いられている大勢の虜囚達に入り混じり、監視の兵士達の姿が確認できた。
「ここまで来たからには、やれるだけの事は致しましょう」
 と、ソペリエ。事前に打ち合わせた作戦通りにナーガと冒険者達は行動を開始する。
 最初に動いたのは忍者の丹だ。遮蔽物となる岩の陰を縫うようにして、丹は敵地へ近づく。遮蔽物の無い場所まで来ると、神隠しのマントで体を姿を消し、そうやって敵地の各所を移動しつつ兵士達の配置やその顔形を覚えた。
 ある程度の偵察が済むと、丹は仲間達の所へ戻る。次に丹は人遁の術で敵兵に姿を変え、流民を装った2人の仲間を連れて敵の砦に向かう。
 ナーガはただ一人、その場に待機。
「聖竜のご加護を。無事に帰ってこい」
 との言葉で3人を送り出す。
 敵の砦まで来た丹は、自らを新たに派遣されてきた兵士だと名乗った。
「連れの2人は兵士志願者じゃ。役に立つと思い連れてきた」
 砦の司令は疑いの目を丹に向ける。
「そんな話は本部から届いてねぇぞ。それに志願者なんぞを勝手に連れてきやがって」
「わしにも事情があるんじゃ。そこを何とか頼む」
 袖の下として用意したワインと発泡酒、計20本を丹は司令に差し出した。
 司令の頬が緩む。
「毒は入ってねぇだろうな? 飲んでみせろ」
 丹が毒味をして見せると、司令は酒に気を良くしたか丹を受け入れた。
「ここの仕事は簡単だ。虜囚どもを死ぬまでこき使え。あの2人には適当に雑用でもやらせとけ」

●魔物への恐怖
 敵兵と混じって仕事場を歩き回るうちに、丹は敵兵一人一人の顔形を覚えた。
 アリアとソペリエは荷運びなどの雑用をこなしながら、虜囚達が働く様子を観察した。
 見たところ虜囚達は反抗の気力をすっかり失い、見張りの兵士達は油断しきっている。虜囚達の宿所はどこだと丹が尋ねると、兵士達は何ら警戒することなく、各所に散らばって存在する宿所の場所を教えた。
 夕方になると虜囚達は粗末な夕食を与えられ、日没と共に不潔な宿所に押し込まれる。
 夜になると冒険者達は動き始めた。最初に目をつけた宿所で、出入口に立つ見張り兵をソペリエがコアギュレイトの魔法で呪縛。固まったところを縄で縛り上げる。そしてソペリエはアリアと共に宿所の中に忍び込んだ。
「あなた達を助けに来ました。怪我をしている方、空腹の方はいませんか?」
 虜囚達を気遣うソペリエは、怪我人を見つけてはリカバーの魔法で治療を施し、病気の者には薬用人参を与え、空腹の者にはクリエイトハンドの魔法で作り出した食料を与えた。
「食べ物を‥‥」
「俺にも食べ物を‥‥」
 食料があることを知って、あちこちから手が伸びる。誰もが空腹なのだ。
「待ってください、これでは‥‥」
 この宿所だけでも虜囚の数は100人もいる。ソペリエの魔法の力では、全員に行き渡らせるのは無理だ。
「そこで何をしている?」
 不気味なしわがれ声が突然に響く。
 はっとして声の方を見ると、宿所の闇の中に赤く輝く2対の瞳が浮かんでいた。
「魔物だ!」
「魔物が出たぁ!」
 たちまち虜囚達は騒ぎ立て、宿所の中にパニックが巻き起こる。
 アリアは闇の中に潜む2匹の魔物を見据えた。しわだらけで口の裂けた醜い小人、それに毛むくじゃらの不気味な犬。どちらも小型の魔物だ。冒険者の敵ではない。
 アリアは妖精の剣を魔物犬に叩きつける。
「トゥシェ!」
 ソペリエも聖剣「カオススレイヤー」を小人の頭上に振り下ろした。
「ぐぅえええーっ!!」
「ぎゃああああーっ!!」
 断末魔が闇に響き渡る。2匹の魔物が退治されるのに、さして時間はかからなかった。
「すごい!」
「魔物を倒したぞ!」
 虜囚達が感嘆の声を上げる。これまで手も足も出なかった魔物、魔法か魔法の武器でしか殺せない存在に冒険者が打ち勝ったのを見て、虜囚達は勇気づけられていた。
「魔法の武器はまだまだあります」
 自分で携えてきた数々の武器、そして丹から預かったライトシールドをソペリエは虜囚達に配り始めた。だが、外の様子を窺っていたアリアが警戒を発する。
「不味いことになりました。先ほどの騒ぎを見回りの兵士に感づかれました」
 魔物に怯え、虜囚達が騒ぎ立てたのがいけなかった。2匹の魔物は虜囚を監視する見張り役だったのだ。あちこちから駆けつけた敵兵達が、宿所の周りに群がり始める。

●誘導失敗
「おかしいのじゃ」
 敵兵の詰め所に走りながら、丹は疑問に思う。宿所で騒ぎが起きたのには気付いたが、反乱の決起にしてはタイミングが早すぎる。ともあれ、自分は敵兵の混乱を誘う役目を果たさねばならない。人遁の術で敵兵の兵長クラスに化け、出合った隊長に呼びかける。
「大変です! 虜囚達が反乱を!」
「この騒ぎがそうか!」
「現場へ案内します!」
 だがすぐに隊長は、丹の不審な行動に気付いた。
「ちょっと待て! 騒ぎの聞こえる方向とは違うぞ!」
 隊長はランタンの光で丹の顔を照らし、まじまじと見つめた。
「よく見たらおまえは俺の部下ではないな? 声つきも違う。さては曲者かっ!」
 人遁の術では個人に変装した場合、その人物を知っている者には簡単に見破られる。
 丹は逃げ出した。後から敵兵どもが追いかけてくる。物陰に来ると丹は神隠しのマントを被り息を潜める。敵兵どもは丹の姿を見失い、すぐ目の前を通り過ぎて行った。

●地図奪取
 虜囚が反乱に決起、その知らせは砦の近くに停泊する敵フロートシップにも届いた。
「ゴーレムを出せ!」
 敵司令官の声が響き、船倉から3体の敵ゴーレムが出撃する。加えて船内に待機していた敵兵達も、反乱鎮圧のために外へ飛び出す。
 船内の敵の注意は、外で起きた反乱に向けられていた。敵の誘導には失敗したが、丹にとっては船内に潜入する恰好のチャンスだ。
 丹は隠密行動に長けている。船壁をよじ登り、すぐに丹は船内の一室に辿り着いた。
 部屋にはさまざまな計器や図面が置かれている。目の前のテーブルの上には地図が広げられていた。
「これか!」
 テーブルに歩み寄ろうとした丹だが、いきなり背後から不気味な声が投げかけられた。
「おまえ、そこで何をしている!?」
「この船の者ではないな!?」
 振り返ると、そこに魔物の群れがいた。翼を生やした醜悪な小鬼。足元にはネズミの姿をした魔物まで姿を現している。魔物どもは船内の見張りだった。
 魔物が飛びかかってきた。丹の手に持つ武器はスピア。それを魔物に向かって突き出したが、魔法の武器ではないが故に魔物には効果がない。
 丹は逃げた。魔物はゲラゲラ笑いながら追いかけてくる。
 手ごろな物陰に逃げ込むと、丹は神隠しのマントを被って息を殺す。
「どこだぁ!? どこに消えたぁ!?」
 丹の姿を見失い、魔物どもはバラバラになって船内の各所へ散らばっていった。
 今だ! 丹は再び、先ほどの部屋へ飛び込む。テーブルの上の地図を手にすると、部屋に油を撒いて火を放った。
 燃え出す部屋から丹は逃げ出す。船の上ではまだ魔物どもが騒ぎ立てていたが、丹はそれに構わず船から逃げ出し、闇の中に姿をくらました。

●反乱失敗
 ソペリエは虜囚達の先頭に立ち、剣を振るい続けていた。
「トゥシェ!」
 立ちふさがる敵を幾人も斬り捨てて進み続ける。だがソペリエの見事な剣さばきに比べ、虜囚達の戦いぶりはあまりにもお粗末だ。ソペリエの与えた武器を手にする者もいるが、その多くは生まれてこのかた、剣や弓矢を手にしたことのない者達なのだ。
 前方に大きな影が立ちふさがる。3体の敵ゴーレムだ。
「うわあっ!」
「ゴーレムだぁ!!」
 勢いづいていた虜囚達が恐怖する。
 構わずソペリエは、敵ゴーレムの1体に向かって突き進んだ。
 ゴーレムの拳が、蹴りが、ソペリエを襲う。
 もはやソペリエに魔法の力は残されていない。虜囚達の治療と食事提供で使い果たしていた。自らに付与したレジストデビルの魔法も、ゴーレムが相手では効果がない。打撃をくらったらそれまで。だから間合いを取って必死に避けるしかない。
「あっ!」
 ソペリエは見た。多数の敵兵が反乱の虜囚を取り囲み、遠方から矢を射掛けてくる。
「うあっ!!」
「うあああっ!!」
 虜囚達が叫ぶ。体に何本もの矢をくらっている。
 盾のある者は必死に盾をかざして矢を防ごうとするが、そこへ敵ゴーレムが突っ込んできた。敵ゴーレムは虜囚達をなぎ倒し、放り投げ、踏み潰す。
 断末魔が幾たびも幾たびも上がった。
 一瞬、我を忘れて立ち尽くすソペリエ。そこへ敵ゴーレムが迫り、拳が繰り出された。
 だがいち早く、空から伸びた逞しい腕がソペリエを掴み上げた。仲間の救援に駆けつけたナーガだった。
「どうやら間に合ったな。大丈夫か、怪我はしていないか?」
 ソペリエは黙って首を振る。眼下では敵の殺戮が続いている。

●目的達成
「結局、反乱は失敗に終わりました。救出のタイミングと敵の警戒度をあまりにも見誤りすぎていたと言うべきでしょう」
 敵地から遠く離れた野営地で、アリアは唇を噛み締める。
 冒険者達が意図した反乱と、虜囚達の救出は失敗に終わった。
 決起した虜囚は大勢が殺され、生き残った者達にも過酷な運命が待っている。
「それでも最優先の目的だけは達成したのじゃ」
 敵船から奪った地図を丹が示す。敵フロートシップの航行に使われていた地図は、敵本拠地の在り処を示すもの。それこそが依頼主ロッド伯の求めるものだった。
「で、これからどうします?」
 ソペリエが尋ねる。
「我々のフロートシップは撃墜されてしまいましたが、今頃はウスの都が我らがウィル軍の手に落ちているはず。まずは馬に乗ってウスの都を目指しましょう」
 と、アリア。万が一の時の為に、アリアは前もって友軍との合流ルートを調べておいたのだ。
 こうしてウスの都を目指した冒険者達は、無事にウィル軍と合流を果たし、フロートシップに乗って王都ウィルに帰還した。