ナーガと大冒険2〜エの国の巨大戦艦現る

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月09日

リプレイ公開日:2010年01月28日

●オープニング

●国王の死
 カオスに蹂躙されるハンの国。祖国を国難より救うべく、ハン国王カンハラーム・ヘイットは固き決意を胸に、自らフロートシップに乗りウィルの国を目指した。
 だが、これをみすみす見逃すカオス勢力ではない。国王を乗せた船はウィルとの国境にたどり着く以前に、カオス勢力の猛攻を受けた。
 急ぎ駆けつけた冒険者達の活躍で、船の乗組員は大勢が救出された。しかし脱出したハン国王が搭乗するグライダーは墜落し、墜落現場には国王のものと思しき亡骸と、国王自らが携えてきた国書が残されていた。

「お父様‥‥! そこまで決意されていたのですね」
 ハン国王の息女、ミレム姫の目に大粒の涙が浮かぶ。ウィル国王の王弟ルーベン・セクテ公は、読み上げたばかりの国書を閉じると姫の肩を優しく抱いた。
 国書にはハン国王の遺志が書き綴られていた。国の惨状を憂い民の苦難を嘆き、祖国を救うにはもはや大国ウィルの力に頼るしかないと決した国王は、その国書においてセクテ公とミレム姫の結婚を認めたのである。
 この結婚によってウィルとハンの両国は同盟関係で結ばれた。セクテ公にとってもハン国王の死は悲痛な出来事だったが、ハンの国の行く末に一筋の光明を見出した思いだった。

●御前会議
 ハンの宮廷からの耳を疑うような知らせがもたらされたのは、急ぎ開かれた御前会議の席上だった。あろうことか、ハン国王の残した真の国書なるものが、ハンの宮廷で発見されたというのだ。即ちウィルに届けられた国書は偽物で、真の国書なるものはハンの国難の全てをウィルの陰謀に帰し、声高にウィルを非難するものだったという。
 情報をもたらしたのは、ウィルの軍事を統括するロッド・グロウリング伯。ウィル国王ジーザムが誰何する。
「それは真か」
「はい。ハン宮廷に潜ませた密偵の情報によれば、カンハラーム陛下亡き後のハン国内で、反ウィル派が王妃ミレニアナ陛下を中心に結束。ウィルがハン領内に侵攻するなら全面戦争も辞さず、国を挙げてウィルの侵略軍を迎え撃つとの宣告が為されたとのこと。既にハンの友好国であるエの国、ラオの国が義勇軍を送ったとの情報も届いております。そしてつい今しがた──」
 届いたばかりの伝書をロッドはジーザムに差し出す。それはハンの宮廷よりジーザムの元へ使者を使わすという知らせ。一読したジーザムの表情が険しくなる。
「とても友好の使者とは思えぬな」
「この使者の携える知らせはセクテ公とミレム姫の婚約破棄、そしてウィルに対する最終通告、これ以外に考えられません。使者が陛下の御前にて新たな国書を読み上げしその時が即ち、開戦を告げるトランペットの鳴る時となるはず」
 ロッドの回答を聞き、ジーザムは宣告する。
「皆の者、覚悟の程はよいか!? 次なる戦いは大戦争となろうぞ!」

●大事な話
 不遇の敵国王子、ショーン・ナーカウの冒険者街暮らしはずっと続いていた。
「今日はどの服を着て行こうか?」
 クローゼットの扉を開いてしばし思い悩む。中にはエの国を発った時に来ていた普段着もあるが、一番数が多いのは女物の服。フリフリドレスにゴスロリメイド服にビキニの水着その他よりどりみどりでごっそり。ほとんどがロッド伯からのプレゼントである。
 ロッド伯の嫌がらせと冒険者の悪巧み(?)のおかげで、ショーン王子のウィル貴族女学院入学が適って以来、ロッド伯は嫌がらせで贈りつけてくるのだ。
「ずいぶんたまっちゃったな」
 結局、いつもの普段着に決めて外に出ると、エの国から一緒にやって来た地球人、アイリス・楊が待っていた。
「おはようショーン。今日はドレスじゃないのね」
「だって今は貴族女学院が冬休みだから、登校しないでいいんだし」
 近所に住んでるドラパピ2匹も挨拶してくる。
「ゴゲンキヨー!」「ゴゲンキヨー!」
「ああ、ごきげんよう」
 と、ショーンも手を振る。
「ショーン、話があるの!」
 だしぬけに背後からかけられた少女の声。振り返るとそこには貴族女学院で見知ったセーラ・エインセルの姿。
「セーラ! わざわざ来てくれたの?」
「そうよ。大事な話があるの」
 彼女と共に立っていたナーガの特使3人も、ショーンの前に進み出る。
「エの国の王子であるそなたにとって、非常に重大な話だ」

●バスター襲来
「エの国の大型戦艦がハンの国へ!?」
 話を聞くなりショーンは驚いた。
「どこからそんな情報が!?」
 これに答えたのはナーガの特使。
「ウィルの王都に滞在中も、我らは機会あるごとにウィルの近辺に住むドラゴンへの挨拶周りを続けてきた。つい最近、ハンの国の高山に住むウィングドラゴンを訪ねし折、かのドラゴンが語ったのだ。これまで見たこともない空飛ぶ大きな船が、空を飛んでいるのを見たと。その船はバラの花をあしらった旗、すなわちエの国の紋章旗を掲げていたという。しかもその空飛ぶ船と共に、ゴーレムとドラゴンを掛け合わせたような、つまりウィルにあるドラグーンによく似たものが飛んでいたというのだ」
「兄さんの船だ!」
 ショーンが叫ぶ。
「兄さん?」
「僕の兄さん、エの国の第一王子であるショノア・ナーカウです。僕がまだエの国にいた時、いつも兄さんは言っていました。エの国で建造中の巨大戦艦バスターが完成したら、自分は義勇軍を率いてその船に乗り、セトタ大陸の平和を乱す侵略国家ウィルに正義の一撃を加えてやるんだって」
「巨大戦艦!? それもドラグーン付きで!? エの国ではそんな物まで作ってたの!?」
「実はエの国の最高機密だったんです。僕は詳しいことを何も知らされなかったけど、兄さんは見えないところで動いていて、とうとう行方をくらましてしまいました。まさかとは思っていましたけど、まさか兄さんが独断で大型戦艦バスターを動かして、本当に出撃するなんて」
「エの国がドラグーンを建造したということは、協力したナーガがいるということだな?」
 特使がショーンをじろりとにらむ。ドラグーンの製造には、ナーガだけが使用できる竜語魔法が不可欠なのだ。
「はい」
 特使は怒りを露にした。
「恐れ敬うべき竜の力を人間の戦争の道具に使うなどもってのほか! ましてやその所業に加担するナーガがいるなど言語道断!」
「それで、僕はどうすれば‥‥」
 逡巡するショーンをアイリスがどやしつけ、セーラが訴える。
「決まってるじゃないの!」
「一緒に戦争を止めに行きましょう!」

●出発
「‥‥で、この船に乗るんですか?」
 王子は呆れ顔。冒険者ギルドで用意された船は旧型のフロートシップばかり。
「はっきり言ってボロ船ね」
 と、アイリス。
「都合よく過去の冒険で手に入れたヒュージドラゴンの羽が、王城の倉庫にしまってあったから、それをナーガ特使の紋章旗代わりに船に掲げることにしたの。これならいくら反ウィル同盟の兵士でも、攻撃は仕掛けてこないでしょう?」
 セーラが言う。
「でも、カオスにとっては恰好の標的になりませんか?」
「その時はその時。冒険者がついているから大丈夫よ」
 用意された船は3隻。実は王弟セクテ公とロッド伯からも別件の依頼が特使達に持ち込まれ、3人の特使はそれぞれの船に分譲して乗ることになったのだ。
「大丈夫かなぁ?」
 やっぱり心配そうなショーンをセーラが励ます。
「きっとうまくいくから元気を出して!」

●今回の参加者

 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec6589 ヴァジェト・バヌー(37歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●リプレイ本文

●お膳立て
「まずは急いでショーン王子とミレム姫の対面を図りましょう」
 エの国との戦争を防ぐ為だ。セオドラフ・ラングルス(eb4139)は仲間の冒険者と図り、エの国の第ニ王子とハンの国の王女の対面を提案した。
「ミレム姫もきっと平和を望んでいるはず。何としてでもご協力を願わなければ」
 ショーン王子は快くこの提案を受け入れたが。
「なお、ショーン王子には女装していただきます」
「え!?」
「何しろ相手は一国の王女。面会の際、要らぬ騒ぎにならぬようにとの配慮からです。王子にはセーラ殿と一緒に、貴族女学院の生徒として面会していただきます」
「‥‥分かりました、平和をもたらす為です」
 セオドラフとセーラを引き連れたショーン王子が、対面の場であるトルク城の一室で待っていると、ミレム姫が婚約者のセクテ公と冒険者仲間を伴って現れた。
「初めまして‥‥名はショーナと言います。貴族女学院でウィルの文化を学んでいます」
 おずおずと自己紹介するショーン王子。ショーナは女学院での通り名だ。傍目にはドレスで装った女学生としか見えない。
「失礼だが貴女はナーカウ王家のご縁者であろうか? エの国の大使館に飾ってあった第ニ王子殿下と御顔の雰囲気が似ている」
 セクテ公が最初にそう言い、ミレム姫もそれに続いて言った。
「そういえば‥‥昔、親善舞踏会で一緒に踊ったショーン王子様に似ているような‥‥」
「実は‥‥僕がそのショーンなんです!」
 意を決してショーン王子は叫ぶ。
「しかし君は女では‥‥」
「冒険者に頂いた指輪の力です」
 冒険者から貰った『禁断の指輪』をショーンが示す。
「要らぬ騒ぎにならぬよう、ショーン王子には女になって頂きました」
 隣から冒険者が口添えするが、セクテ公は驚きを隠さない。
「噂には聞いていたが、やはりあの噂は本当だったのか‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 じっと見詰め合う2人。そのまま時は流れていき‥‥。
「あの、あまり2人っきりで見詰め合ってばかりでも」
 セーラの言葉で2人は我に返る。
「ああ、そうだな」
 と、セクテ公。
「今のシーン、すごくキマってました。怖いくらいに」
 と、セーラ。
「と、そちらの話はそのくらいにして」
 セオドラフはセクテ公に言葉を向ける。
「エの国の大型戦艦バスターの件はご存知ですね?」
「情報は届いている。乗っているのはエの国の第一王子ショノア、ウィルに真っ向から戦いを挑むつもりだ」
「そのショノア王子の大義名分は『ウィルからハンとミレム姫を守ること』。しかし実際は、『ハンの王が自国領内を治めることができず、ウィルに助けを求めた』のです。たとえウィルの人間の言葉では信用できずとも、ショーン王子を介して姫の言葉をショノア王子に伝えれば、ショノア王子にとって最も説得力のある言葉となりましょう」
「私の言葉をショーン様に託せばいいのですね?」
 ミレム姫は察し、セクテ公の隣の冒険者も言い添える。
「セクテ公の分も。ミレム姫との結婚に託した思い、そして結婚やハンの国を救う決意も伝えた方がいいと思うの」
「分かった、すぐに書こう」
 2人の直筆の手紙は、程なく用意された。

●出発
 2通の手紙を受け取ったセオドラフは、フロートシップ上の人となる。
 船の操縦は鳳レオン(eb4286)とシファ・ジェンマ(ec4322)の2人が担う。
 船が出発するまでの待ち時間を、シファはショーン王子や仲間達との相談に費やした。
「ショノア王子の性格について教えてくれませんか?」
「兄さんは熱血で直情径行、こうと思い込んだらそのまま突き進んで行くタイプなんです。沈着冷静で思慮深いセオドラフさんとは正反対です」
 と、王子は答える。
「思った通り、思い込みの激しい行動派というわけですね」
 と、セオドラフ。
「バスターと合流できたら、彼らの感情を害さぬよう配慮しつつ交渉しましょう」
「でも、理性に訴えようとしたら多分だめです。説得を成功させるには、熱い思いをぶつけるしかないと思います」
 ショーンの言葉を聞いて、シファはきっぱりと言う。
「戦艦バスターもエの国のドラグーンも戦いに巻き込む訳にはいきません。ショノア王子の説得、必ず成功させましょう」
 冒険者の中にはムーンドラゴンパピーをペットに持つヴァジェト・バヌー(ec6589)がいる。彼女が乗船して来た時、ナーガの特使ヴァルナが真っ先に目を向けたのは、ペットの竜の方だった。
「竜の子よ、乗船を歓迎するぞ。して、そちらが竜の子の付き人か?」
 特使の視線がヴァジェトに向く。
「ジプシーのヴァジェトと申します。よろしくお願いいたします。これまでの状況は冒険者ギルドの報告書でおおかた理解しました。これはお近づきのしるしに」
 ヴァジェトは特使に岩塩を進呈する。これはナーガを崇める山の民の風習なのだ。
「うむ、良き心がけだ。そなたに聖竜のご加護を」
 ナーガの特使はヴァジェトに好印象をもった。
 操縦士のレオンとシファは、船の操船室で最後の打ち合わせに入る。
「では予定通り、国境を越えるまではシファの操船で。国境を越えたら俺と交代だ」
 ウィルの領空内は比較的安全だが、ハンとの国境を越えればそこはカオスが猛威を振るう地だ。だから安全圏での操縦はシファに任せ、自分は危険の多い任務を担当することにレオンは決めたのだ。ゴーレムの起動限界時間のことも考慮に入れてある。
「では、行きます!」
 シファが操縦席に着き、船体に思念を送る。
 船はゆっくりと浮かび上がり、国境を目指して飛び始めた。

●サンワード
 フロートシップが国境を越える。
 甲板ではヴァジェトがサンワードの魔法を使い、探索を行っている。
「ショノア王子の乗った戦艦バスターはどこ?」

 ──北北東の方、かなり遠い。

 答が返ってきた。
「バスター、補足に成功です!」
 皆の顔が輝いた。
 ヴァジェトは2番目の質問に移る。
「この船を狙うフロートシップはどこ?」

 ──分からない。

 それが答。どういうことなのだろう? ヴァジェトは首を傾げる。
「もっと対象を特定できる質問にしてみたら?」
 セーラのアドバイスを受けて、ヴァジェトは少し質問を変えてみた。
「この船の一番近くを飛ぶ、魔物を乗せたフロートシップは?」

 ──西南西の方、遠い。

 その答を聞き、一同に緊張が走る。
「レオンに知らせなければ!」
 シファが操船室に走り、レオンに情報を伝える。
「そうか。なるべく敵艦から遠ざかり、バスターに近づけるコースを取ろう」
 レオンは以前、ハンの国の調査依頼に参加した。だからハンの国にはある程度の土地勘がある。レオンの操縦で、船はゆっくりと進路を変え始めた。

●敵襲
 船はハン領空をひたすら飛び続ける。
「あそこを見てください」
 視力の良さを生かして見張りに立ち続けていたセオドラフが、空の彼方を指差す。見れば、雲間に浮かぶ小さな黒点が一つ。
「方角からして間違いなく敵艦です。ですが、まだかなりの距離があります。向こうも我々の船に気付いているかも知れません」
「この先はかなり揺れると思うが、我慢してくれよ」
 連絡を受けたレオンの声が送話管から皆に届き、船は大きくカーブして速力を増し始める。
「バスターはまだ見つかりませんか?」
 バスターの船影を求めて皆は遠くの空を見やるが、そこには青空と雲しか見えない。
 そうするうちに敵艦はどんどんその大きさを増してきた。最初は小さな点だったそれが、今ではハエ程の大きさに見える。
「駄目だ、敵の船の方が早すぎる。これじゃ時間稼ぎにしかならない」
 レオンは焦った。今では敵艦の輪郭もはっきり見て取れる。エレメンタルキャノンを搭載した軍船タイプだ。
「俺の操船技術の全てを費やし、回避してやる!」
 レオンは闘志を振るい立たせる。今や船は最高速度だが、直線ルートでは追いつかれるのは時間の問題だ。
 レオンは船を大きくカーブさせた。遠心力で体が壁側に引っ張られる。
 船の動きに合わせるかのように、敵艦も大きくカーブを切り、そのまま追いかけてくる。
「もうじき敵艦の射程内に入ります」
 と、セオドラフ。あくまでも沈着冷静だ。
「誰かカウントダウンを取ってくれ!」
 レオンが叫び、セオドラフはカウントダウンの声を送話管から送り返した。
「‥‥3、2、1、0!」
 敵艦のエレメンタルキャノンが火を噴いた。ほとんど同時に船がガクンと急降下する。これは墜落の前触れかと皆は思ったが、それはレオンの操縦による攻撃回避だった。
 船の中央部に向かって放たれた火球は、船の上方で爆発。船体上部が爆発に巻き込まれて吹っ飛んだが、船の推進装置は無事だ
「この際、推進装置以外なら多少壊れても構わん!」
 急降下した船の上空を敵艦が通り過ぎるや、頭上からカオスゴーレムが降下してきた。さらに蠢く死体の魔物までもが、雨のようにバラバラと落下してくるではないか。
「ケベフ、お願い!」
 主人であるヴァジェトの頼みを聞き、ペットのシルフが敵に向かってストームの魔法を放つ。これで魔物の何割かは吹き飛ばされたが、カオスゴーレムは甲板に居座ったままだ。
「アノール!」
 掛け声と共に、レギオンホイップを手にしたシファが魔物の群れに突っ込んだ。ホイップが1体また1体と魔物どもを絡め取り、なぎ倒す。
「危ないっ!」
 ヴァジェトが叫ぶ。カオスゴーレムの巨体がシファの頭上から覆いかぶさった。その巨大な拳が繰り出される。鈍い音と共にシファの体が吹っ飛んだ。
「シファ!」
 残ったヴァジェトにカオスゴーレムが迫る。
 だがその時、ヴァジェトは見た。
 カオスゴーレムの背後から迫る大きな影を。
 空飛ぶ竜のごとく翼を広げ、陽光に輝く鱗に包まれたそれは、カオスゴーレムに体当たり。
「あれは、エの国のドラグーン!?」
 間一髪、ヴァジェトは危機を脱した。
 突き飛ばされたカオスゴーレムは空へ逃れたが、何処からか飛来した火球が命中。カオスゴーレムは片方の翼を失い、下界へ落下して行く。
 火球の放たれた方を見れば、空に巨大な戦艦が浮かんでいた。戦艦バスターだった。逃げる敵艦に向かってバスターは一斉砲撃を開始。敵艦はあっという間に炎に包まれ、落下していった。
「ショノア王子、救援に感謝する」
 レオンは風信器に呼びかける。救援を求める彼の呼びかけに対し、バスターは見事に応えてくれたのだ。
「バスターへの乗艦許可を願いたい」
 風信器からショノア王子の返事が返ってきた。
「バスターは貴殿らを歓迎する」

●誠意と疑念
 甘露を一気に飲み干すと、酷い傷を負ったシファの体もすっかり回復した。
「さあ、ショノア王子に会いに行きましょう」
 戦艦バスターに乗り移った冒険者達を、バスターに乗船する義勇軍の者達が出迎える。その先頭に立つのは白のマントを羽織り、光り輝く鎧に身を固めた武人。
 それこそがショノア王子だ。
「兄さん!」
 ショーンは兄に向かって真っ先に駆け出した。その姿にショノアは驚く。
「ショーン! まさかおまえが乗っていたとは!」
 シファがショノアの前に歩み出た。武器を置き攻撃の意思がない事を示し、ショノアに一礼する。
「私達は話し合いに来ました」
 続いて、シルフとムーンドラゴンパピーを同伴したヴァジェトも。
「私も竜と精霊の友人として話し合いに来ました。竜も精霊も平和を望んでいます」
「そうか」
 ショノアは2人に微笑んだが、すぐにその目を2人の後方に立つセオドラフに向ける。
「貴殿も交渉に来たのだろう?」
「まずはこれをお読み頂きたい」
 セオドラフは前に進み出て2通の手紙を手渡す。それに目を通すや、ショノアの顔に驚きに似た表情が浮かぶ。セオドラフは続けた。
「そもそも皆様はハンの現状をどれほどご存知なのでしょうか? このような船で戦を広げ、それで民を救うことができるとお思いですか?」
 その言葉に、ショノアの背後から返事が返ってきた。
「貴殿こそウィルが隠してきた真実を知っているのか? 聖山シーハリオンでの聖竜殺しのことだ」
 ショノアの後ろから声の主が姿を現し、名乗りを上げた。
「我が名はクレア・シャルンホルスト。ウィルでは吟遊詩人クレアという通り名の方が有名だろう」
 冒険者なら知る者も少なくない。ウィルに数々の混乱を引き起こしてきた張本人。その正体はショノア王子に影響力を行使するエの国の策士だった。
 クレアに続き、数名の者が姿を現した。それは竜の眷属たるヒューマノイド、ナーガ族だった。
「なぜナーガ族がこの船に?」
 問いかけたセオドラフにクレアは答える。
「彼らはエの国のドラグーンを開発した者達だ。今一度聞こう。ウィルの聖竜殺しについては、どう言い訳するつもりだ?」
 クレアは声を大にして主張する。今より去ること4年前の冬、聖山シーハリオンに血まみれの聖竜の羽根が降り注いだ事件、その真実はウィルの開発した新兵器ドラグーンによるルナードラゴン殺害だったのだと。
 さらに戦艦バスターに乗船するナーガ達も、クレアの意見に与する。
「人は力を持ちすぎた。そうなった以上、力には力で対抗せねばならない。だから我々はエの国に協力し、エの国のドラグーンを作り上げたのだ」
 その言葉を聞き、ナーガの特使は激怒した。
「おまえ達は自分達が何をしたか分かっておるのか!? 畏怖すべき竜の力を人間の戦争の道具に利用するとは!」
 その言葉にバスターのナーガ達は言い返す。
「その同じ言葉を、ウィルの国でドラグーンを開発したドラゴンホーラーに向けて言ったらどうだ?」
「そんな言い争ってる場合じゃないんだ! ナーガ同士がいがみ合い、人間同士が争うならば、得をするのはカオスだけじゃないか!」
 叫んだのはショーン。一瞬、誰もが沈黙する。
「話して下さいませんか? 貴方がウィルの国をどう思っているのかを」
 落ち着いた声で、ヴァジェトがショノアに尋ねる。
「カオスに与する悪の軍事大国だと思っている。だが、君達は別だ」
 その答を聞き、クレアがショノアに囁いた。
「彼女達の誠意は認めるにせよ、敵国への警戒を怠ってはなりません」
 だがショーン王子の言葉の正しさを、そして冒険者達の誠意を、ショノア王子も認めざるを得なかった。
「ナーガの特使殿、そしてウィルの冒険者諸君、それにショーン。カオスに襲撃されるという命の危険を冒してまで、このショノアに会いに来たその勇気に免じ、俺はひとまずバスターを引こう。だが戦いを諦めたわけではない。次に会う時には戦争を覚悟しておけ」
 ショノア王子がウィルの冒険者達の前から立ち去ろうとするや、
「ショノア王子、これを」
 ヴァジェトが示したのはブラゴット。甘い酒で、祝宴の席で飲まれることが多い。
「心配いりません、毒は入っていませんから」
 毒味してから手渡すと、ショノアの顔が僅かに綻んだ。
「願わくは、いつか君と共に祝いの席で、この酒を飲みたいものだ」