【レッツ宝探しっ!】月精霊の遺跡へ
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■シリーズシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月21日〜03月29日
リプレイ公開日:2008年03月28日
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●オープニング
――私はここに居ます。
真円を描いた刻は過ぎ。
やがて訪れる明るき刻。
固き猛き御手に護られ。
貴方に会えるその刻を。
ずっと待ち続けています――。
先日海賊に捕まっていた所を冒険者達に助けられてからと言うもの、毎日通う様にギルドに訪れては報告書や諸々の資料を読み漁る様になったティーナ。
その熱心さと言うと、声を掛けても気付かない程で‥‥終日ただ黙々と書類を読み漁る彼女の様子に、ギルドの受付係はもはや気味の悪さすら覚えていた。
‥‥それだけ、今までが騒がし過ぎたのだろう。
「まあ、ああして大人しくしていられるのでしたら、それに越した事はな――」
「みぃっけたでぇぇぇえ!!!」
「ごふっ!?」
突然に上がった大声に、思わず啜ろうとしたハーブティーを吹き戻してしまう受付係。
やがて、軽く悲惨な状態の彼が居住いを正したのを見計らい、ティーナは一冊の古びた書類を広げて見せた。
「ほら、これや! この部分、『月の精霊を祀りし遺跡』書いてあるやろ!?」
「い、いえ、そう申されましても‥‥」
対して受付係は、困った様な申し訳無さそうな表情を浮かべる。と言うのも、彼女が見せている書物は、全て古代魔法語で書かれているからだ。
これを解読するのは中々容易ではない為、一般的に見ても精通している者はそれ程多くない。それは受付係も同様で‥‥。
「なんや? うっちゃんともあろう人が、こんなぬるい文も読めへんの? 勉強不足やで〜」
「‥‥‥‥」
項垂れる受付係。彼女に言われると、やたらに情けなく感じるのは何故だろう‥‥。
「まあええわ。それでな、この書物をざっと見てみた限り、こないだ歌が聞こえてた言う遺跡の奥にはやっぱし月精霊がおると見て間違い無さそうなんや。きっとその『アルテ』言うんが、そうなんやろな。その精霊が『瞳』を探して言うてたんやったら、きっとそれはウチの捜し求める『太陽の瞳』に間違いあらへん! これは会って確かめるしかないで!!」
「い、いえ、ちょっと待って下さい‥‥」
今にでも飛び出して行ってしまいそうなティーナを宥める受付係。と言うのも‥‥。
「精霊が居るのは良いのですけれども‥‥以前の報告書を見た限りですと、深部へと通じる扉は閉ざされていた様子ですよ? それでは、会う事が出来ないのでは‥‥」
「あっさはかやな、うっちゃん!」
「‥‥‥‥」
‥‥もはや何も言うまい。
「前回の調査で、扉の鍵と思われる石盤を手に入れたんやろ? それで深部の扉が開かへんかったとなれば、入口んとこにあって閉ざされとった四つの扉の内のどれかの鍵に決まっとるやん!」
あっ、と声を上げながら手を打つ受付係。成程、まだあの遺跡には調査の余地がある訳だ。
「しかし、その鍵もカオスの魔物が所持していた様子ですし‥‥閉ざされた空間へ向かうとなると、いよいよ何が起こるか分かったものではありませんね」
「せやな。うちも前の事で無茶は出来へん様になってもたし‥‥。そう言う訳で、『ティーナの愉快な仲間達』を召集して貰いたいんやわ」
‥‥要約すれば、遺跡調査の手伝いをしてくれる冒険者を募りたい、と言う事なのだろう。
「‥‥分かりました。では、依頼として受理致します」
受付係の言葉に満足げに頷くと、再び資料を読み漁り始めるティーナ。
そんな彼女を横目に、依頼書をしたためながら――受付係は、眉根を寄せていた。
「それにしても、『アルテ』と言う響き、何やら覚えがあるのですよね‥‥」
●リプレイ本文
●探究心
相談を終えるやすぐさまウィルを発ち、前回調査した遺跡のある村へと向かった冒険者‥‥もとい、ティーナと愉快な仲間達。
だが、その中のエリーシャ・メロウ(eb4333)はとある不安を抱えていた。
「本来あの遺跡は、村にとって不可侵の聖域。最悪立ち入りを断られる事も覚悟しておいて下さい」
事前にそう諭されていたティーナは、道中終始不満面。
だが、村に着くや真っ先に真摯な態度で村長に遺跡の調査を願い出た彼女の姿に、その態度は一変した。
「うう、ウチの為にここまで‥‥! 何だかんだ言うても、エリっちは良え人や〜!」
何やら大袈裟に感動しながら抱き付いてくるティーナに、困惑の表情を浮かべるエリっ‥‥エリーシャ。
まあ、村長の方としても『毒を食わらば皿まで』と言った考えであったらしいが‥‥ともあれこれで正式に遺跡の再調査を許可された一同は、早速村を回って情報収集を始めた。
「あの遺跡‥‥未探索の場所が気になってましたからね。是非協力させてもらいますよ」
「ええ、前回は多くの謎を残したままでしたからね。今回は、どこまでそれを解き明かすことが出来るか‥‥」
遺跡の入口を前にして、考え込む様に言うのはアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)とアハメス・パミ(ea3641)。
そして、その傍らに立つレオン・バーナード(ea8029)に倉城響(ea1466)、そしてレイ・リアンドラ(eb4326)も。
「今回は今までのこじつ‥‥じゃなくて連想ゲームと違って、『瞳』って単語が最初からちゃんと出てて確率高そうだな」
「私は前回の調査には携わりませんでしたが、もし精霊さんがこの奥に居るのだとすれば、期待は出来ますね♪」
「ええ、恐らくフェアリー達の言っていた『アルテ』と言う存在が、そうなのでしょう。それにしても、なんだか遺跡探索にも慣れてきて、冒険者といった感じです」
冒険者達が未開の遺跡に馳せる探究心。その表情は、皆が皆活き活きとしている。
そんな彼らを遠目に見ながら。
「‥‥遺跡‥‥ね。少し‥‥興味深い、かな‥‥」
無表情でぼそぼそと言うのは夜光蝶黒妖(ea0163)(以下夜蝶)。‥‥とてもそうは見えないが、これでも本人は遺跡探索を前に気分を高揚させているらしい。
「前回の調査の時には、銀色の髪を持つエレメンタラーフェアリーがいましたよね。私も吟遊詩人ですから一曲奏でたいですね」
言いながら、リュートの音合わせをするのはケンイチ・ヤマモト(ea0760)。
詩人達にとって、最も深い関わりを持つのが月精霊。それらしき存在が祀られていると思われるこの遺跡の調査において、ケンイチはティーナと並ぶ程に期待を寄せていた。
――そう、彼等の中には未知なる場所へ向かう上での恐怖を感じている者は居ない。
寧ろその誰しもが、好奇心と探究心に目を輝かせていた。
そして、村において粗方の聞き込み調査を終えた一同は、改めて遺跡の中へと足を踏み入れて行くのであった。
●『アルテ』の正体
明くる日の晩。二つ目の扉を抜けた先の探索を終え、次のエリアへと繋がる石盤を見付けた一同は、宿舎として提供された家屋の一室に集まっていた。
「今回の探索は、思った以上に楽に終わりましたね♪」
のんびりとお茶を啜りながら言う響。
だが、それがこの次も続くとは限らない。
明日からの探索にも、気を引き締めて臨まなければ‥‥と、誰しもが決意を新たにした所で。
「ここで一度、情報を整理してみましょうか」
そう切り出すのはアレクセイ。
「‥‥それじゃあ、まずは‥‥この詩の意味とかを‥‥考えてみる‥‥?」
言いながら、夜蝶は夜闇に包まれた村に響き渡っている旋律に耳を澄ます。
今聞えているそれは、以前の様なおどろおどろしいものではなく、大人しく神秘的でありながら、聴いている者をどこか切ない気分にさせる‥‥そんな感じの演奏。
「歌声の歌詞全般と先の月妖精の言葉から、『私』と言うのは『アルテ』ということで恐らく間違いないでしょう。次は月の満ち欠けか、夜明け‥‥情報が足りませんね。となると問題となるのが『固き猛き御手に護られ』のフレーズですね」
レイの推測に、頷きながら耳を傾ける仲間達。その中で、アハメスは顎に手を当てながら。
「『固き猛き御手』‥‥それは『アルテ』に会うことが出来る資格を確認する為のものでしょうか?」
「もしくは、ガーディアンの存在をほのめかすものなのかも知れませんね〜」
「ガーディアンか‥‥。大分前に普通の攻撃が通じない様な奴と戦った事があるけど、もしかするとそう言う類なのか?」
だとすると、対策を考えておいた方が良いな。レオンの言葉に、大きく頷く一同。
「そもそも、『アルテ』とは何者なのでしょうね? ギルドの受付係の方も、この村の村長さんもご存じ無い様でしたし‥‥」
ふとケンイチが呟くと、口を開くのはアレクセイ。
「ジ・アースのとある国では月の女神の事を『アルテミス』と呼んでいるんですが‥‥それと何か関連があるんでしょうか?」
「いえ、その正体が精霊であると考えますと、月精霊の眷属で『アルテ』ならば‥‥」
「『アルテイラ』、ですか?」
アハメスの言葉に、頷くエリーシャ。
「成程、それが一番もっともらしいですね‥‥。エレメンタラーフェアリー達は名前を覚えきれず、『アルテ』になってしまう、と言ったところでしょうか?」
言いながら、アハメスはちらりと横で羽ばたくエレメンタラーフェアリーのネトに目を向け――。
「ネト、良いですか? アルテイラ、です。続けて言ってみて下さい。ア・ル・テ・イ・ラ」
「いら〜?」
‥‥‥。
「ま、まあ、私のサーシャやレイさんのパールさんでも同じ結果でしたし‥‥」
「もしかすると、あのフェアリー達は特殊なのかも知れませんね。それにしても、個人的に羨ましいです。エレメンタラーフェアリーと仲が良いのは」
言いながら、にこやかに微笑むケンイチ。
「それにしても、もし『アルテ』が『アルテイラ』だとすると、月の高位精霊が恐れ、伝えたかった事とは一体‥‥?」
エリーシャが顔を俯けながら言うと、その直後。
「‥‥だぁぁっ! もう訳分からへ〜ん!!」
突然に張り上がる声に、驚く一同。
その声の主たるティーナはと言えば、今までの相談はそっちのけで村長宅にあった古代魔法語の文献の解読に努めていたのだが‥‥とうとうさじを投げてしまったらしく。
「あらあら。大丈夫ですか? これを飲んで一息入れて下さいな」
卓に突っ伏してぷしゅーっと煙を上げる彼女に、響がハーブティーを差し出すと。
「それにしても、意外に博識だったんですね。なんと言うか普段の様子からイメージできませんでしたよ」
「ちょっ、レイやんそれどう言う意味‥‥あちゃーーーっ!?」
直後、ハーブティーの熱さ余り飛び上がるティーナ。
そんな様子を、どこか楽しげに見詰めながら(やはりそうは見えないけれど)。
「ふふ‥‥ティーナは面白い人だね‥‥。俺は‥‥楽しいの、好きだよ‥‥」
呟く夜蝶の顔を、アレクセイが何か言いたげにちらちらと覗き込んでいた。
●精神攻撃?
そして翌日、新たに入手した石盤を手に、再び遺跡内部へと踏込んで行く一同。
隊列の先頭にはアレクセイと夜蝶が立ち、それぞれ左右に罠が無いかを探りながら薄暗い通路を進んで行く。
二人の罠の扱いに関する技術と知識は達人並。前方は彼女達に任せておけば大丈夫だろう。誰しもがそう思いながら、各々側面や背後等に気を付けつつ先を急いで行った。
だがしかし、進めど進めど終わりを見せない通路。
既に一日分歩き続けたと言うのに一向に変わらない風景に、一同の顔にも疲れが浮かんでくる。
「別段入り組んでる訳じゃないんだけど、今までに探索した場所に比べて罠も多いみたいだし‥‥こりゃちょっと応えるな」
やれやれ、とばかりに背筋を伸ばすレオン。すると、その横に並ぶ響も。
「地上では、そろそろ夜でしょうからね。今日はこの辺りで野宿しませんか?」
そう言って、荷物を床に置こうとする。
‥‥が、この時は疲れもあってか、誰しもが気付いていなかった。
彼女が荷物を置こうとした場所の床が、僅かに飛び出ていた事に。
――ガコン。
「? 何でしょう、今の音は‥‥?」
途端に張り詰める空気の中で、響くぽけっとした声。
そして、次の瞬間――。
――ドザザザザ!!
「うわっ、なんだこれっ!?」
「いやぁっ!? 虫っ、虫ぃーーっ!!」
「くっ、皆さんこちらへ! 急いで!!」
頭上から雨の様に降り注ぐのは虫、虫、虫‥‥。
嫌いな者がこの場に居れば発狂し兼ねない様な惨状の中、何とかその場を突破した一同は、身体中に着いた虫達を払いながら、来た道を振り返る。
どうやら毒性を持った虫等は無かったらしく、それが不幸中の幸いとも言えるが‥‥。
「まさか、あの様なトラップがあるとは‥‥」
「うん‥‥侵入者を排除する為にしては‥‥余りにも非効率的‥‥。とすると‥‥一体何の為の‥‥?」
ケンイチと夜蝶が考え込むも、その答えは見付からない。
とは言え、虫まみれの罠は一同の精神に十分過ぎる程の打撃を与えた様子で‥‥その後の足取りは、心なしか重たいものであった。
それでも、何とか通路の最奥に辿り着くことの出来た一同は、石造りの宝箱の中に収められた石盤を手に取り――。
「‥‥やはり、帰りもあの道を通らなければならないのですか‥‥?」
ふとしたエリーシャの呟きに、誰しもが頬を引き攣らせるのであった。